主要成果
オックスフォード大学の物理学者チームは、異なる2つの原子元素であるストロンチウム(88 Sr+)とカルシウム(43 Ca+)を用いたトラップイオン・モジュール間で、マルチパーティ量子もつれ状態を生成するヘテロジニアス量子ネットワークを実証しました。本研究では、マクロな距離を隔てた最大4量子ビットのGHZ(Greenberger-Horne-Zeilinger)状態を生成し、その分散されたもつれ状態をカルシウムのメモリ量子ビットに10秒以上(τ = 14 ± 4 s)保存することに成功しました。これは、もつれ状態の平均生成時間(約100 ms)の2桁上回る数値であり、もつれの寿命を生成時間より100倍以上延長させたことになります。
技術・詳細
従来のトラップイオン量子ネットワークでは、光学的結合と量子ストレージの両方に単一の原子種を使用するため、トレードオフが生じていました。具体的には、ネットワーク構築に必要なレーザーパルスや光子放出が、近接するメモリ量子ビットにデコヒーレンスや共鳴光散乱を引き起こすという課題がありました。
オックスフォード大学のチームは、各ノードのマイクロファブリケーション表面電極ポールトラップに、光ネットワークインターフェースとなるストロンチウムイオン(88 Sr+)1個と、超微細構造基底状態メモリ量子ビットとなるカルシウムイオン(43 Ca+)1個を共トラップさせることでこの問題を解決しました。具体的なプロセスは以下の通りです。
- ストロンチウムイオンから自発的に放出される422 nmの光子が、中央のヘラルディングステーションで干渉し、遠隔地間の物質間もつれを生成する。
- その後、局所的な402 nmのラマンレーザーパルスを用いて、幾何学的位相ゲートおよびエラー検出付きiSWAP操作を行い、もつれ状態をカルシウムメモリ量子ビットへ転送する。
背景・業界の文脈
量子状態の保存期間を延ばすためには、外部ノイズへの耐性が不可欠です。本研究で採用されたカルシウム(43 Ca+)の基底超微細構造は、0.5 mTにおいて一次の磁場不感性を備えています。この磁場感度はストロンチウムよりも約2桁低いため、外部からの干渉を受けにくく、長時間の量子状態保持が可能となりました。
今後の展望
もつれ状態の生成時間に対して保存時間を大幅に延長できたことは、分散型量子コンピューティングや量子センシングネットワークを実現する上での主要なハードルを乗り越えたことを意味します。これにより、複数の量子ノードを効率的に連携させ、より大規模で安定した量子ネットワークの構築に向けた道が開かれました。
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