主要成果
RIKENを中心とする国際研究チームは、シリコン(28Si/SiGe)量子ドットアレイにおいて、5つの量子ビットを同時に、かつ極めて高い精度で制御する技術を開発しました。特筆すべきは、単一の共有マイクロ波伝送線を用いて、全5量子ビットの同時単一量子ビットゲートフィデリティを99.9%以上に維持した点です。これは、実用的な量子誤り訂正(QEC)を実現するためのフォールトトレラント(耐故障性)閾値とされる99.9%を突破したことを意味します。
技術的詳細とクロストークの解消
シリコンスピン量子ビットの制御において、最大の課題は「並列駆動クロストーク」でした。複数の量子ビットを同時に駆動させると、ゲートフィデリティが99.9%以上から99.5%まで低下することが確認されていました。研究チームはこの原因が、オフレゾナンスのマイクロ波駆動によって誘発される「AC-Starkシフト(隣接するマイクロ波パルスによって量子ビットの周波数が予測通りに変動する現象)」であることを突き止めました。
この位相シフト(Δφ ij)は線形に加算される性質を持つため、チームは個々の量子ビットペア間での位相蓄積を測定する「N(N-1)ペアワイズ校正プロトコル」を導入しました。これにより、計算量を2^N-N-1ではなくN(N-1)に抑えつつ、クロストークを効果的に補正することが可能となりました。また、単一量子ビット駆動中の隣接量子ドット間の残留交換相互作用(J off)が16.6 kHz未満に抑えられていることも、デカップルCZシーケンス測定によって確認されています。
背景と業界の文脈
量子誤り訂正を実装するには、多くの量子ビットに対して同時に操作を行う必要があります。しかし、シリコンスピン量子ビットは、駆動中の量子ビット(T 2,R ≈ 100 μs)に比べ、待機状態の量子ビット(T 2 * ≈ 10 μs)のデフェージング(量子状態の崩壊)が著しく速いという特性があります。そのため、順番に操作を行うのではなく、同時に操作することが不可欠です。今回の成果は、単一の制御線で最大3量子ビットを99.99%の精度で、5量子ビットを99.9%以上の精度で同時操作できることを証明し、物理的な配線密度の低減と熱負荷の軽減を同時に実現しました。
今後の展望
今後は、表面マイクロマグネットをBEOL(後工程)ナノマグネットに置き換えることで、局所磁場勾配を2倍に高められる可能性があります。これにより、より低いマイクロ波電力で、2〜3 MHzという高速なゲート操作が可能になります。このアプローチは、商用シリコン製造プロセスにおいて、1つの共有制御線あたり約10量子ビットを制御する「10量子ビット並列制御モジュール」の構築に向けた道筋を示すものです。
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