主要成果
量子アプリケーションソフトウェア開発のKipu Quantumは、QuEra Computingの256量子ビット中性原子量子プロセッサ「Aquila」を用い、創薬や化学物質の安全性評価に不可欠な分子毒性分類において、アナログ量子特徴抽出による性能向上を達成しました。UCI Molecular Toxicityデータセットを用いた検証において、量子特徴量を導入したモデルは、従来の古典的な分子記述子を用いたモデルを大幅に上回る精度を記録しました。具体的には、Balanced Accuracyが0.55から0.70に上昇し、F1スコアは約0.30から0.60へと倍増しました。また、SVM(サポートベクターマシン)分類器を用いた場合に、最高となる約0.81のAUCスコアを達成しています。
技術・詳細
本研究では、Kipu Quantum Hubプラットフォームを通じて、200量子ビットの中性原子配列を14×15のグリッド状(原子間距離は数マイクロメートル)に配置して運用しました。特筆すべきは、従来のデジタル量子機械学習(QML)で必要とされる深いゲートベースの回路を避け、リドベリ状態の連続的なアナログ量子ダイナミクスを利用した点です。これにより、現在のハードウェアで課題となっているノイズによるオーバーヘッドを回避しています。
具体的なプロセスは以下の通りです:
- 各候補分子に対し、4マイクロ秒未満の滑らかな駆動パルスを印加し、配列全体で集団的な量子相互作用を発生させる。
- 1サンプルあたり500回の独立した読み出しショットを行い、分子ごとに約1,000個の量子特徴量を生成する。
- 抽出された量子特徴量を、XGBoost、CatBoost、Random Forest、SVM、およびGoogle Researchのゼロショット表形式基盤モデル(TabFM)を含む複数の古典的機械学習モデルで評価する。
背景・業界の文脈
分子毒性の分類のようなタスクでは、データセットが不均衡(非毒性クラスが圧倒的に多い)であることが多く、古典的なモデルでは単に多数派のクラスを予測することで見かけ上の正解率(raw accuracy)を高めてしまう傾向があります。しかし、本手法で生成された高次元の量子特徴量は、こうした不均衡データにおいても高い識別能を持つことが示されました。
今後の展望
本成果は、中性原子量子プロセッサを用いたアナログ的なアプローチが、化学分野における複雑なデータ分類において実用的な性能向上をもたらす可能性を示しています。ゲートベースの制約を乗り越え、量子ハードウェアの特性を直接的に活用した特徴抽出手法は、今後の創薬プロセスにおける効率化に寄与すると期待されます。
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