主要成果
チャルマース工科大学のウォレンバーグ量子技術センター(WACQT)を中心とする研究チーム(ブルゴーニュ大学およびアアルト大学との共同研究)が、制御誤差に対して堅牢な単一量子ビットゲートを実現する「Time-Rescaling Robust Inverse-Optimal(TRIO)」パルスを開発しました。超伝導トランスモンプロセッサを用いた実証実験において、90ナノ秒のTRIO Xゲートは99.90%のInterleaved Randomized Benchmarking(IRB)フィデリティを記録しました。特筆すべきは、ドライブ振幅に最大20%の変動があり、かつ量子ビットのデチューニングが最大4 MHzシフトするという同時的な誤差条件下においても、99.5%以上のゲートフィデリティを維持した点です。
技術・詳細
TRIOプロトコルは、従来のRobust Inverse-Optimal(RIO)パルス設計が抱えていた課題を解決しています。従来のRIOは2準位系における逆軌道エンジニアリングに依存していたため、波形が鋭い矩形に近い形状になりやすく、帯域制限のあるマイクロ波ハードウェアでの歪みや、トランスモンの高エネルギー準位へのリーク(漏れ)を誘発していました。
TRIOでは、時間再スケーリング関数 g(τ) を導入することで、エネルギー最適化されたブロッホ球上の軌道を、滑らかなハイパーガウスエンベロープ(Ω TR (τ))にマッピングします。これにより、軌道の幾何学的特性を維持したまま、高周波成分を排除することに成功しました。さらに、この滑らかなTRIOパルスに1次のDRAG(Derivative Removal by Adiabatic Gate)補正を統合することで、高準位へのリークやAC Starkシフトを抑制しています。最終的な複素エンベロープは、同相(I)および直交(Q)マイクロ波位相変調によって合成され、軌道全体を通じてラビ周波数とデチューニングが蓄積誤差を継続的に補償する仕組みとなっています。
背景・業界の文脈
量子プロセッサの規模が拡大するにつれ、個々の量子ビットに対する制御パラメータの精密な校正と、その維持にかかる時間的コスト(オーバーヘッド)が大きな課題となっています。本研究で導入されたTRIOパルスは、標準的なDRAGガウスパルスと比較して、高フィデリティで動作可能なパラメータ範囲を1桁分拡大させました。これにより、制御精度のばらつきに対する耐性が向上し、再校正の頻度を減らせる可能性があります。
今後の展望
研究チームは、単一のπ回転だけでなく、X π/2やY -π/2(アダマール型操作)を含むユニバーサルな単一量子ビットゲートセットへとTRIOフレームワークを拡張しました。その結果、Y -π/2で99.69%、X π/2で99.62%の平均フィデリティを実証しています。また、数値シミュレーションでは、1 GHzのフラクソニウム量子ビットのようなより高い非調和性を備えた物理システムにTRIO制御を適用した場合、ゲートエラーを10^-6未満に抑えられることが示唆されています。
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