主要成果
二相構造を持つ高エントロピー合金 AlCoCrFeNi(CuTiZr) において、相の空間的配置のみが酸化速度に劇的な影響を与えることが判明しました。化学組成、相の種類、および相分率がほぼ同一である条件で比較したところ、850 °Cのサイクル酸化試験において、鋳造まま(as-cast)の試料と高温アニール処理を施した試料の間で、酸化速度定数に約3.8倍の差(27.0 × 10⁻¹³ g² cm⁻⁴ s⁻¹ 対 102.0 × 10⁻¹³ g² cm⁻⁴ s⁻¹)が生じました。これは、材料の化学的性質を変えずに、形態的な制御だけで耐酸化性を大幅に調整できる可能性を示唆しています。
技術・詳細
本研究では、Cr-Co-Feに富むFCC相とNi-Al-Tiに富むB2相(およびBCCドメイン)からなる合金を対象としています。鋳造ままの試料はデンドライト構造を持ちますが、1100 °Cで50時間のアニール処理と水冷を行うことで、相の同一性や分率を維持したまま、より空間的に均一な分布へと形態を変化させています。
温度帯によって酸化挙動は異なります。850 °Cでは拡散制限領域となり、相配列による速度差が顕著に現れました。一方、1050 °Cでは剥離が支配的な領域となり、質量減少が主となります。この高温域では、鋳造ままの試料で100–200 μm、アニール試料で500–600 μmの深さまでサブサーフェスボイド(空隙)が形成されており、これはアルミニウムやチタンの外方拡散に伴うカーケンダル効果によるものと考えられています。
酸化膜の構造は、外層酸化物、内層酸化物、および金属FCC遷移層の3層構造となっており、主にスピネル構造とCr2O3で構成されていました。特筆すべきはチタンの挙動で、850 °CではTiO2として外層に濃縮し密着性を高めますが、1050 °Cでは酸化フロントの進行速度が速いため、外方へ移動する前に内層で酸化されるという「キネティックゲート」のような挙動を示しました。
背景・業界の文脈
AlCoCrFeNi系の高エントロピー合金は、5種類以上の主要元素をほぼ等量で含有し、B2相の強度とFCC相の延性を兼ね備えています。また、従来の構造用合金よりも高濃度のアルミニウムやクロムを許容できるため、保護酸化皮膜を形成しやすい利点があります。しかし、800 °Cを超える高温域では、緻密で密着性の高い皮膜の維持が困難になります。特にクロミア(Cr2O3)皮膜は1000 °C付近で揮発性のCrO3に変化し、皮膜が薄くなるため、さらなる耐酸化性の向上が課題となっていました。
今後の展望
本研究は、相の形態(モルフォロジー)を独立した制御パラメータとして定義した点に意義があります。化学組成の変更に頼らず、熱処理による相配列の最適化のみで酸化速度を制御できることが示されたため、今後の高耐熱材料設計において、微細構造の空間配置を最適化する新たなアプローチが期待されます。
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