主要成果
米国エネルギー省のSLAC国立加速器研究所が主導する研究チームは、材料における第三の磁性相である「アルター磁性」の決定的な実験的証拠を提示した。研究チームは、長年反強磁性物質と考えられていたマンガンテルル(MnTe)を調査し、この材料がアルター磁性体であることを証明した。この成果は、従来の磁性の二分法では説明できない現象を実証したものであり、学術誌『Science』に掲載された。
技術・詳細
磁性は電子のスピン(内部角運動量)の向きによって定義される。強磁性はすべてのスピンが同じ方向を向き、観測可能な磁場を生成する。一方、反強磁性はスピンが交互に並んで互いに打ち消し合うため、正味の磁気効果は現れない。アルター磁性は、この両者の性質を併せ持つ。具体的には、反強磁性のようにスピンが交互に並びながらも、正味の磁化を持たず、同時に強磁性のようにスピン電流を利用できるという、従来は相互に排他的と考えられていた特性を同時に示す。
今回の研究の鍵となったのは「カイラリティ(手性)」の検出である。アルター磁性体では、スピンが交互に並ぶ際、あるスピンを囲む結晶格子構造が、もう一方のスピンを囲む格子構造に対して回転しているという幾何学的なねじれが存在する。この対称性の破れが、鏡像と重ね合わせることができない「右手」と「左手」のような構造(カイラリティ)を生み出す。研究チームはフランスの欧州シンクロトロン放射光施設(ESRF)にて、高度に制御された円偏光X線ビームを用いてMnTeを分析した。カイラルな物質は左円偏光と右円偏光のX線を異なる方法で散乱させるため、この散乱信号を検出することで、アルター磁性の存在を物理的に証明することに成功した。
背景・業界の文脈
物理学の世界では、外部影響のない材料における磁性は、強磁性と反強磁性の2種類のみであると数十年にわたり認識されてきた。反強磁性の発見は1933年に遡るが、近年、この2つのカテゴリーに当てはまらない材料が観察されるようになった。2022年には、これらの特異な材料を区別するために「アルター磁性」という用語が提案された。しかし、反強磁性とアルター磁性の量子レベルでの微細な違いを区別する決定的な実験的証拠が不足しており、パズルの最後のピースであるカイラリティの証明が待たれていた。
今後の展望
アルター磁性という新しい磁性相の特定は、材料特性を自在に操作することを可能にし、次世代の電子デバイス開発に大きな影響を与える。具体的には、量子技術、次世代メモリデバイス、およびデータセンター向けの高度なハードウェア設計への応用が期待されている。
毎週の技術動向レポートを無料でお届け
各分野の分析レポートを読む価値があるかどうか一目で判断できるインフォグラフィックをメールで受け取れます。
📢 メールマガジンに無料登録(週刊・技術動向レポート)
ご登録いただくと、Troy-Technical から週刊で技術動向レポート(メールマガジン)をお届けします。
- 取得したメールアドレス・選択分野は配信目的にのみ使用します。
- 第三者へ提供することはありません。
- 配信はいつでも解除できます(各メール下部のリンクから)。
詳しくはプライバシーポリシーをご覧ください。
登録は1分・いつでも解除できます



