主要成果
左心低形成症候群(HLHS)患者から作製したiPSC由来心筋細胞(iPSC-CMs)が、周期的な伸展(ストレッチ)刺激に対して異常な反応を示すことが判明しました。具体的には、コントロール群で見られるカルシウム一過性応答の改善や、カルシウムハンドリングおよびサルコメア関連遺伝子の発現上昇といった適応反応が、HLHS患者由来の細胞では鈍化していました。さらに、HLHS細胞では伸展刺激によって炎症シグナル経路が強く活性化されるという、コントロール群には見られない特異的な反応が確認されました。
技術・詳細
本研究では、2名の健常ドナーおよび4名のHLHS患者から得たiPSCを心筋細胞(iPSC-CMs)へと分化させ、配向させた組織としてエンジニアリングしました。これらの組織を「静的な培養状態」と、「1 Hzで48時間、20%の単軸周期伸展を加えた状態」の2条件で比較評価しています。
- 構造と機能の評価:静的培養において、HLHS細胞はコントロールと比較してサルコメア組織化およびカルシウム一過性応答の形態にわずかな欠陥を示しました。
- 伸展刺激への応答:1 Hzのペーシング周波数におけるカルシウム一過性応答を評価したところ、コントロール群では立ち上がり時間が短縮しましたが、HLHS群では4ライン中1ラインでしかこの反応が見られませんでした。
- トランスクリプトーム解析:バルクRNAシーケンシングの結果、HLHSの全4ラインにおいて、伸展刺激に対するカルシウムハンドリングおよびサルコメア関連遺伝子のアップレギュレーションが不全であることが明らかになりました。
背景・業界の文脈
HLHSは、左心系の構造的な低形成を特徴とする深刻な先天性心疾患です。外科的な緩和手術により右心室を単一の心室として全身循環を維持させる処置が行われますが、術後の患者は心不全のリスクが非常に高い状態にあります。これは、単一の心室に過度な血行動態的負荷(ヘモダイナミックロード)がかかるためと考えられています。しかし、HLHSの病因は十分に解明されておらず、患者固有の遺伝的要因と心室内の動的な機械的環境の両方を再現できるモデルシステムの構築が急務となっていました。
今後の展望
本研究の結果は、機械的刺激に対する適応不全(defective mechanoadaptation)が、単心室不全を引き起こす潜在的な要因であることを示唆しています。これにより、HLHS患者における新たな候補バイオマーカーの特定や、治療介入に向けた新たなアプローチの機会が開かれることが期待されます。
元記事: https://www.biorxiv.org/content/10.64898/2026.10.11.758388v1
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