主要成果
富士医科大学の<0xE6><0xA0><0x82>山周悟氏らを中心とする日本の研究チームが、単一の遺伝子ノックアウトによって免疫系からの視認性を大幅に低下させた、研究室培養の心筋細胞を開発した。iScience誌に掲載されたこの研究では、CRISPR-Cas9を用いてTAPBP遺伝子を破壊することで、HLAクラスI分子の細胞表面への発現を劇的に減少させた。これにより、実験室レベルのテストにおいて、細胞傷害性T細胞による攻撃を回避しつつ、従来の低免疫原性細胞株で課題となっていたナチュラルキラー(NK)細胞の反応を誘発しないことを示した。
技術・詳細
研究チームは、HLAクラスI分子を細胞表面に提示させるために不可欠な分子シャペロンである「タパシン」をコードするTAPBP遺伝子を標的とした。タパシンは小胞体内でHLAクラスI分子をTAP輸送体に橋渡しし、低親和性ペプチドを高親和性ペプチドに交換して安定化させる重要な役割を担っている。
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)提供のHLAハプロタイプホモ接合体hiPSCラインを用い、TAPBPガイドRNAとCas9を導入。フローサイトメトリーでスクリーニングし、HLAクラスI発現が最も低いクローンを選出した。この編集細胞は、NANOGやOCT4といった多能性マーカーの発現を維持し、正常な核型とコントロールと同等の増殖速度を示した。また、炎症信号であるインターフェロンガンマによる刺激を受けても、HLAクラスIの発現はコントロールより低いレベルで頭打ちとなり、HLAクラスIIの発現は低く抑えられた。
さらに、心筋細胞への分化能についても検証が行われた。WNT変調および乳酸補充培地による代謝選択を用いた分化プロトコルにより、純度95%以上の心筋細胞を生成。免疫染色によるサルコメアの組織化や、定量PCRによる心室・心房アイソフォームの遺伝子発現比、ミトコンドリアの分布パターンにおいて、コントロール群との差は認められなかった。また、機能的薬剤スクリーニングシステムを用いたカルシウム一過性記録では、拍動数、収縮振幅、弛緩キネティクスに違いはなく、βアドレナリン作動薬であるイソプロテロールに対する用量依存的な拍動数増加も確認された。
背景・業界の文脈
心不全は世界中で6,400万人以上に影響を与えており、1990年から2017年の間に患者数はほぼ倍増している。重症例に対する根治的治療は心移植のみだが、ドナー不足が深刻であり、日本では年間約100件の移植しか行われず、待機期間は平均5年以上に及ぶ。hiPSC由来心筋細胞の移植は代替案として期待されているが、免疫拒絶が最大の障壁となっている。
患者自身の細胞を用いる自家移植は、製造リードタイムの長さやGMP準拠の厳格な品質管理が課題となる。一方、他家移植(同種移植)は量産可能だが、HLA遺伝子の極めて高い多型性により、完全なマッチングは困難であり、不一致がある場合は免疫抑制剤の投与が必要となる。また、β2-ミクログロブリンの破壊などでHLAクラスIを完全に除去すると、NK細胞が「自己の欠如(missing-self)」と判断して攻撃するため、これまでは複数の遺伝子を編集する複雑な手法が必要であった。
今後の展望
今回の研究は、HLA遺伝子そのものではなく、抗原提示機構であるTAPBPを標的とした点に新規性がある。単一遺伝子の編集で済むため、多重遺伝子編集に伴うオフターゲットリスクを軽減し、臨床製造における品質管理を簡素化できる可能性がある。これにより、免疫抑制剤への依存度を下げた、汎用性の高い心筋細胞療法の提供が期待される。
元記事: https://bioengineer.org/single-gene-knockout-strips-lab-grown-heart-cells-of-immune-visibility/
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