主要成果
Insilico Medicineは、生成AIプラットフォーム「Pharma.AI」を活用し、自己免疫疾患を標的としたVAV1分子接着剤分解薬「ISM9546」をプリクリニカル候補化合物(PCC)として選定した。ISM9546は経口投与が可能であり、細胞ベースのアッセイにおいてサブナノモル(sub-nanomolar)という極めて高いVAV1分解活性を実証している。
動物モデルを用いた有効性試験では、急性大腸炎モデルにおいて投与開始から数日で疾患活動性指数(DAI)の有意な減少が確認され、その効果は研究期間を通じて持続した。また、参照用VAV1分解薬と比較して優れた疾患制御能を示し、累積DAIスコアを大幅に低減させた。組織病理学的解析では、炎症細胞の浸潤と腸管組織の損傷が大幅に抑制され、病理スコアは約60%改善した。
技術・詳細
本剤の設計には、同社の生成化学プラットフォーム「Chemistry42」が用いられた。このプラットフォームは40以上の生成モデルと複数の予測モジュールを統合しており、分子生成から特性予測、マルチパラメータ最適化までをエンドツーエンドで実行できる。研究チームは、標的-リガンド複合体の構造と主要な相互作用パターンに基づきファーマコフォアを定義し、de novoフラグメント成長に焦点を当てた設計を行った。
特に、有効性と安全性の両立を最適化するため、中枢神経系(CNS)への曝露を最小限に抑える「末梢制限的(peripherally restricted)」なプロファイルを持たせている。in vitroのMDCKII-MDR1アッセイおよびin vivoの組織分布研究により、脳への曝露が低いことが確認された。また、ラットおよび非ヒト霊長類を用いた14日間の毒性評価では、良好な耐容性と広い安全域が示され、プロテオミクス解析においてもオフターゲットタンパク質の枯渇は見られず、クリーンな分解プロファイルが確認された。
背景・業界の文脈
VAV1(Vav guanine nucleotide exchange factor 1)は、免疫細胞の活性化、増殖、細胞骨格のダイナミクス、および下流のサイトカイン分泌を制御する重要なシグナル伝達経路を担っている。しかし、従来の低分子化合物が結合するための典型的な結合ポケットを欠いているため、長らく「創薬困難(undruggable)」な標的とされてきた。この課題に対し、タンパク質同士を接着させて分解を誘導する「分子接着剤(molecular glue)」という新モダリティが解決策として浮上している。
今後の展望
Insilico Medicineは、2021年以降に35件のPCCを選定し、2026年の最初の10ヶ月間だけで11件のPCCを選定するという、社内記録となるパイプライン出力効率を達成している。同社はPROTACs、ペプチド、mRNA治療などの新モダリティの開発を推進しており、生成AIを用いることで複雑な作用機序を持つ困難な標的を体系的に攻略し、低コストで迅速に治療オプションを提供することを目指している。
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