主要成果
組織特異的なE3リガーゼ・スキャフォールディングタンパク質であるMAGEA11を利用し、がん細胞に限定して標的タンパク質を分解させる世界初のPROTAC(タンパク質分解誘導剤)が設計されました。研究チームは、BET(bromodomain and extra-terminal domain)ファミリータンパク質を標的としたPROTACを合成し、スクリーニングを通じてリード化合物「105B」を特定しました。
105Bの性能評価において、骨肉腫細胞株(U2OS)ではBRD4のDC₅₀ = 0.130 nM、D max = 78%という高い分解能を示し、食道扁平上皮癌細胞株(KYSE180)においてもDC₅₀ = 40 nM、D max = 70%でBETタンパク質を分解しました。一方で、非がん細胞であるHEK293T細胞では分解が認められず、がん特異的な分解能が実証されました。また、105BはBET制御下の遺伝子産物であるRUNX2およびKRT14のレベルを低下させることが確認されています。
技術・詳細
PROTACは、標的タンパク質(POI)に結合するリガンドと、E3リガーゼをリクルートするリガンドをリンカーで結合させた二機能性分子です。POIとE3リガーゼを近接させて三元複合体を形成させることで、POIにユビキチンを転移させ、細胞内のプロテアソームによる分解へと導きます。この手法は、従来の阻害剤のような「占有型」ではなく「イベント駆動型」の薬理作用を持つため、低濃度での有効性や、従来の薬剤では困難だった「undruggable(創薬困難)」なタンパク質へのアプローチが可能です。
本研究で採用されたMAGEA11は、E3リガーゼであるHUWE1と結合してユビキチン化を誘導するスキャフォールディングタンパク質です。メカニズム解析の結果、105Bによる分解は、ユビキチン・プロテアソーム系、およびMAGEA11とHUWE1の両方の発現に依存していることが確認されました。
背景・業界の文脈
従来のPROTACの多くは、cereblonやvon Hippel-Lindau(VHL)といった、ほぼすべての組織に広く発現している(遍在的な)E3リガーゼを利用していました。しかし、遍在的なリガーゼを使用すると、標的タンパク質が正常細胞にも存在する場合、全身的な分解が起こり副作用が生じるリスクがあります。これを回避するため、特定の組織やがん細胞にのみ発現しているE3リガーゼを利用することで、治療窓(therapeutic window)を広げ、選択性を高めるアプローチが求められてきました。
MAGEA11は、健康な細胞では精子および胎盤組織にのみ発現していますが、骨肉腫、去勢抵抗性前立腺癌、食道扁平上皮癌、非小細胞肺癌など、さまざまながんにおいて異常に発現することが知られています。この特性を利用することで、がん細胞に限定したタンパク質分解が理論的に可能となります。
今後の展望
本研究は、組織特異的なE3リガーゼをリクルートしてBETタンパク質のがん限定的な分解を実現した初の事例となりました。BETタンパク質、特にBRD4は腫瘍形成に重要な役割を果たしますが、その阻害や分解に伴う用量制限毒性が課題となっていました。MAGEA11リクルート型PROTACは、この毒性を軽減しつつ治療効果を得るための有望な戦略となります。ただし、今回のリード化合物105Bにおいては、選択的な細胞毒性に影響を与えるまでにはさらなる改善が必要であるとしており、今後、MAGEA11リクルート型分解剤のさらなる開発が進められる必要があります。
元記事: https://doi.org/10.1038/s44386-026-00081-2
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