主要成果
BlueQubit、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)、およびXPRIZE Foundationの共同研究チームは、IBMの商用超伝導量子ハードウェアを用いて、ランダム回路サンプリング(RCS)による量子計算優位性を実証した。研究チームは、正方格子型のNighthawk r2アーキテクチャを採用した120量子ビットプロセッサ「ibm_phoenix」を使用し、61個の有効量子ビットで計算を実行した。その結果、10の6乗個のサンプルをわずか19秒のQPU(量子処理装置)時間で収集することに成功した。この出力をオークリッジ国立研究所のスーパーコンピュータ「Frontier」で再現しようとした場合、推定1.2 × 10^27回の浮動小数点演算(FLOPs)が必要となり、エクサスケール計算機を用いても約110年を要すると算出されている。
技術・詳細
本実験では、ネイティブの制御Z(CZ)ゲートを用い、4色のブリックワーク・スケジュール(マッチングA、B、C、Dのサイクル)を102個の有効カプラーに展開した。1サイクルあたりの平均CZ操作数は25.5回である。フィデリティ(忠実度)の検証には、ランダム化コンパイルを用いたミラーベンチマーキングと、3および4つのバランスパッチに分けたマルチパーティション・クロスエントロピーベンチマーキング(XEB)という2つの独立した手法を採用し、深度4から40サイクルの範囲で検証を行った。
特に、テンソルネットワークの縮約コストがシステムサイズ全体で飽和するアンカー深度36サイクル(計918個のCZゲート、幅w = 64)において、実験的なフィデリティはF XEB ≈ 2.3 × 10^-3に達した。また、本実験は特別なハードウェア校正を行わず、標準的なQiskit Runtimeのクラウドキューを通じて実行された点に特徴がある。
背景・業界の文脈
本研究では、IBMのプロセッサ世代間におけるアーキテクチャの改善が明確に示された。正方格子Nighthawk r2の1サイクルあたりのフィデリティは0.872に達し、第1世代のNighthawk r1(ibm_miami)の0.836を上回った。この差は、深いサイクル深度において1桁以上のフィデリティ向上として現れている。また、古典的なシミュレーションによる「なりすまし」を防ぐため、境界カプラーを削除してデカップリングされたサブ回路を模倣する「セバリング攻撃(severing attacks)」の検証も行われた。深度36サイクルにおいて、すべての攻撃モードのスコアは2.2 × 10^-4未満であり、実験ターゲットスコアを少なくとも1桁下回ったことから、本ベンチマークが古典計算では困難な領域で動作していることが確認された。
今後の展望
今回の古典計算時間の推定値は、メモリ制限のない正確な単一振幅縮約を前提としたアルゴリズム的なベースラインである。しかし、過去にGoogle Quantum AIのSycamoreや中国科学技術大学(USTC)のZuchongzhiプロセッサで観測されたように、バッチ処理によるテンソルスライシングや行列積状態(MPS)近似、GPU加速によるマルチ振幅の再利用といった古典的な計算手法が発展すれば、計算時間は短縮される可能性がある。なお、本研究の技術詳細と検証データはarXivで公開されており、オープンソースの回路や実行スクリプト、10の6乗個のサンプルデータセットはGitHubで提供されている。
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