主要成果
産業技術総合研究所(AIST)は、量子コンピューティングの成熟を待つのではなく、能動的な実装によるリスク回避を掲げ、量子-HPCプラットフォーム「ABCI-Q」を構築した。この施設は、2023年7月27日に設立された量子イノベーションハブの一部であるG-QuAT内に配置されている。ABCI-Qの最大の特徴は、フォールトトレラント(耐故障性)システムの構築と、既存のHPC環境への量子プロセッサ統合を同時に推進し、実世界でのアプリケーションをテストするためのフルスタックセンターを目指している点にある。
技術・詳細
ABCI-Qは、単なるハードウェアの共置ではなく、統一されたソフトウェアスタックによる統合を実現している。具体的には、以下のリソースが連携している。
- 古典計算資源(System H): InfiniBandファブリック上に約2,020基のNVIDIA H100 GPUを搭載した505計算ノードクラスター。
- 量子ハードウェア: QuEra社のGeminiシステム、およびOptQC社の129クモード光量子コンピュータ。
ソフトウェア層では、CovalentやPrefectによるワークフローオーケストレーション、コンテナエンジン、さらにQiskit、CUDA-Q、Bloqade、QURIといった量子フレームワークに加え、PyTorchやJAXなどの機械学習ツールをレイヤー化している。ユーザーはOpen OnDemandによるブラウザベースのJupyter notebooksや、SSH、REST APIを通じてリソースにアクセスする。
特筆すべきは、AIエージェントがシステムと対話し、ジョブの作成・実行・修正を自律的に行う未来を見据えた設計である。これに伴い、APIサーフェスやスケジューラの再設計が行われ、CPU、GPU、QPU(量子処理装置)を統一的に扱う運用が検討されている。実際に、LLM(大規模言語モデル)を用いて自然言語のプロンプトを実行可能なタスクに変換し、ローカルスケジューラやクラウドAPIにディスパッチするデモンストレーションが実施されている。
背景・業界の文脈
量子コンピュータは単独で動作するのではなく、古典計算やAIシステムと組み合わさったワークフローの一部として機能することが想定されている。AISTは、QuEra社およびQuEra Quantum Allianceと連携し、中性原子ハードウェアやソフトウェアエコシステムの知見を取り入れている。一方、G-QuAT側はHPC/AIインフラや産業ユースケース、ハードウェア部品サプライヤーのネットワークを提供し、ミドルウェアやベンチマークの開発を加速させる。また、QuEraのGeminiシステムは室温動作が可能なため、極低温設備を必要とせず、SDネットワーク経由でABCI-Qの他設備と接続されている。
今後の展望
AISTは、2030年代にフォールトトレラントシステムが実用的になると予測している。AIエージェントによる運用は、単なるサイドプロジェクトではなく、ABCI-Qの長期的なビジョンの核として位置づけられている。2026年5月時点で、同センターには300人以上の研究者、スタッフ、学生が所属しており、事業創出、R&Dインフラ、人材育成の3本柱を通じて、国内企業の国際市場参入を支援するインキュベーション機能も担う計画である。
元記事: https://quantumzeitgeist.com/abci-q-quantum-hpc-testbed-aist/
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