主要成果
東京都医学総合研究所の再生医学プロジェクトは、細胞融合によって染色体数を2倍に増やした「4倍体iPS細胞」を樹立し、これを心筋細胞へ分化させることで、心機能を向上させる技術を開発した。本研究成果は、2026年8月17日に英国の科学誌「Communications Biology」にオンライン公開された。
技術・詳細
通常、ヒトのiPS細胞は2倍体(diploid)であり、そこから分化した心筋細胞も多くは2倍体のままである。しかし、生体内の心筋細胞や肝細胞では、成熟に伴い染色体セットが増加する「多倍体化(polyploidization)」という現象が起こる。実際、成人の心筋細胞の約80%は、23本の染色体を4コピーずつ持つ4倍体(tetraploid)であることが知られている。
研究チームは、分化後の心筋細胞を直接4倍体化させるのではなく、まずiPS細胞の段階で4倍体化させるアプローチを採用した。具体的には、細胞融合効果を持つセンダイウイルス粒子を用いて2倍体iPS細胞を融合させ、4倍体iPS細胞を樹立した。この4倍体iPS細胞は、従来の2倍体よりもサイズがわずかに大きく、4セットの染色体を安定して保持しながら、iPS細胞としての多能性も維持していた。
この4倍体iPS細胞を心筋細胞に分化させたところ、2倍体由来の細胞と比較して細胞サイズが大きくなり、生体内の成熟過程に近い挙動を示した。また、RNA-seqによる遺伝子発現解析の結果、4倍体由来の心筋細胞では、細胞周期に関連する遺伝子の発現が2倍体由来の細胞に比べて有意に低下していた。これは、胎児期の2倍体段階で活発に増殖していた心筋細胞が、成熟に伴い分裂を停止するという生体内の特性を再現していることを示唆している。
背景・業界の文脈
iPS細胞由来の心筋細胞は、臨床応用に向けた移植試験などが進められているが、大きな課題として「未熟性」が挙げられていた。従来の技術で作成された心筋細胞は、胚や胎児のような未熟な状態に留まっており、成人の心筋細胞が持つ機能レベルに達していなかった。本研究は、成熟の鍵となる「染色体倍加」に着目し、人為的に4倍体細胞を構築することで、より成熟した心筋細胞の機能を実現した点に意義がある。
今後の展望
4倍体iPS細胞から得られた成熟に近い心筋細胞は、多様な医療応用への貢献が見込まれている。具体的には、心不全に対する細胞移植治療の高度化、新規候補薬の有効性および安全性を評価する試験、さらには疾患メカニズムを解明するための疾患モデルの構築などが期待される。
元記事: https://www.miragenews.com/ips-cell-fusion-boosts-cardiac-function-by-1765729/
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