主要成果
研究チームは、コンポスタブルポリエステル(PBS、PBSA、PCL、PBAT)に酵素を熱的に埋め込むことで、水深2–6mの沿岸域から最大5,503mの深海まで、あらゆる海洋環境において分解が著しく加速することを実証しました。特に水深757mの深海においては、5か月以内にほぼ完全な分解を達成しています。また、水深5,503mという極限的な深海底においても、中程度の生分解が観察されました。沿岸の海水においては、わずか0.1wt%という微量の酵素を埋め込んだフィルムで急速な分解が進むことが確認されています。
技術・詳細
本技術では、広範な加水分解活性を持つCandida antarctica lipase B (CaLB) または Humicola insolens cutinase (HiC) の2種類の酵素を使用しています。これらの酵素は凍結乾燥状態で高い熱安定性を持つため、90°Cから130°Cの温度範囲で行われる二軸押出成形による熱的な埋め込みプロセスを経ても、触媒活性を維持することが可能です。
評価には、一般的なプラスチック廃棄物やマイクロプラスチック汚染物を模した、厚さ100–300μmの薄膜および直径20–300μmのマイクロビーズが用いられました。化学分析によって低分子量の分解生成物の形成が確認され、生物化学的酸素要求量(BOD)の測定により、酵素埋込ポリエステルの無機化が裏付けられています。また、酵素を埋め込んだプラスチックの機械的特性は、酵素を含まないポリエステルと同等であることが示されており、実用的な性能を維持したまま分解性を向上させています。
背景・業界の文脈
現代社会においてプラスチックは不可欠ですが、海洋への蓄積は世界的な環境問題となっています。既存のコンポスタブル(堆肥化可能)プラスチックは、高温・高湿度で微生物活性が高い工業的堆肥化条件下では効率的に分解されます。しかし、海洋環境、特に深海では低温であることや、プラスチックを分解できる生存微生物が不足していることから、分解が著しく制限され、環境中に長期間残留することが課題となっていました。
今後の展望
これまで酵素をポリマーに直接埋め込んで生分解性を高める研究はありましたが、その多くは研究室内の閉鎖系での実証に留まっていました。本研究は、実際の自然海洋環境、とりわけ極限状態である深海において、酵素埋込ポリエステルが効率的に分解されることを初めて示したものです。材料としての性能を損なわずに海洋分解性を高めるこの戦略は、海洋プラスチック汚染を解決するための候補材料の範囲を広げる潜在的なソリューションになると期待されます。
元記事: https://www.nature.com/articles/s41586-026-11192-1
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