INSTITUTION PROFILE / 全固体電池
NEDO
― 日本の全固体電池研究に「お金を配る」実行部隊
NEDOは経済産業省が所管する国立研究開発法人で、自分では電池を作りません。 役割は国の研究開発予算を企業や研究機関に配り、進み具合を管理することです。 トヨタ・ホンダ・日産の企業解説に繰り返し名前が出てくるのは、 各社の全固体電池の研究開発の一部がNEDOの事業として進められているからです。 本稿では、NEDOが全固体電池にどこまで影響を持つのかに絞って整理します。
- 30秒でわかるNEDO
- どんな機関か ― 影響力の「型」
- 全固体電池で何をしているか
- 影響力の範囲(権限と地域)
- お金の流れと支援先
- 今後の見通し
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるNEDO
新エネルギー・産業技術総合開発機構英文 New Energy and Industrial Technology Development Organization
NEDOは何を研究するかを決める側ではなく、決まった計画を実行する側です。 全固体電池を含む「次世代蓄電池・次世代モーターの開発」について、NEDOのニュースリリースは 「経済産業省が策定した研究開発・社会実装計画に基づき」公募を行ったと書いています 事実。 つまり方向を決めるのは経済産業省で、NEDOはその計画にそって公募し、採択し、進み具合を管理し、評価する役割です。 それでも影響力が大きいのは、日本の全固体電池の研究費のかなりの部分がNEDOを通って企業に流れるからです。
2. どんな機関か ― 影響力の「型」
全固体電池の記事に出てくる「機関」は、企業と違って自分では電池を作りません。 その代わりに、どういう経路で業界に影響を与えるかで4つの型に分けられます。
3. 全固体電池で何をしているか
NEDOの全固体電池への関わり方は、大きく2つの系統に分かれます 事実。
| 事業 | 期間・予算 | 中身 | 主な担い手 |
|---|---|---|---|
| 先進・革新蓄電池材料評価技術開発(第2期) 通称 SOLiD-EV | 2018〜2022年度 2022年度予算 21.49億円 | 全固体リチウムイオン電池のボトルネック課題を解く要素技術と、新材料・量産プロセス・EV搭載への適合性を評価する技術。日本主導の国際規格化を念頭に置いた安全性・耐久性の試験評価法も開発 | LIBTEC(技術研究組合リチウムイオン電池材料評価研究センター)を中心に、自動車・電池・材料メーカーと大学・公的研究機関 |
| 次世代全固体蓄電池材料の評価・基盤技術開発 通称 SOLiD-Next | 2023〜2027年度 2026年度予算 18.5億円 | (1) 材料を評価する物差しとなる標準電池モデル、(2) 固体どうしの界面・劣化など全固体電池特有の現象の解明、(3) 電極・セルの要素技術 | LIBTECが中心 |
| グリーンイノベーション基金 「次世代蓄電池・次世代モーターの開発」 | 2022年4月に着手 予算総額 1,510億円(上限) | エネルギー密度が現在の2倍以上(700〜800Wh/L以上)の高容量系蓄電池(例として全固体電池)や、その材料の研究開発。蓄電池リサイクル、モーターも対象 | 18テーマを採択。全固体電池に関わる採択先は第5章 |
SOLiD-EVとSOLiD-Nextは業界共通の土台をつくる事業です。 特に「標準電池モデル」は、材料メーカーが新しい固体電解質や正極材を作ったときに 同じ条件で性能を比べるための物差しで、個々の企業の製品開発ではありません。 一方、グリーンイノベーション基金は個々の企業の開発に資金を出す事業で、 ホンダや日産はこの枠で自社の全固体電池を開発しています。 材料を供給する立場から見ると、前者は「評価の土俵」、後者は「採用先の開発資金」にあたります。
4. 影響力の範囲(権限と地域)
| 観点 | NEDOが持っているもの | 持っていないもの |
|---|---|---|
| 権限 | 研究開発資金を公募し、採択し、進捗を管理し、評価する権限。採択先の研究計画を確認し、事業戦略ビジョンの提出を求める | 規制・安全基準・国際規格を決める権限。何を研究するかの大枠を決める権限(経済産業省の計画に基づく) |
| 地域 | 日本の予算による事業。採択先は日本の企業・研究機関が中心 | 海外の企業や他国の政策に直接影響する権限 |
| 期間 | グリーンイノベーション基金は最長10年の継続支援を前提とする仕組み | 量産や販売を義務づける権限 |
| 規模 | 職員1,640名。予算5,052億円+基金11兆3,668億円(全分野の合計) | 全固体電池だけに使える予算の総額は公表されていない |
11兆円を超える基金はNEDOの全分野の合計で、半導体やポスト5Gの基金が大半を占めます (ポスト5G 3兆5,887億円、グリーンイノベーション 2兆7,564億円、特定半導体 2兆1,706億円など) 事実。 全固体電池に関係するのは、そのうちグリーンイノベーション基金の1プロジェクト(上限1,510億円)と、 SOLiD-Nextのような個別事業です。しかも1,510億円には蓄電池リサイクルとモーターも含まれるので、 全固体電池だけに使われる金額はこれより小さく、総額は公表されていません 未確定/将来。
5. お金の流れと支援先
全固体電池に関わるグリーンイノベーション基金の採択テーマ
| 採択先 | テーマ名(NEDOの表記) | このシリーズとの関係 |
|---|---|---|
| 本田技研工業・本田技術研究所 | 次世代全固体電池の開発 | ホンダの企業解説。ホンダはこの助成を約200億円(2022〜2026年度)と自社資料で公表 |
| 日産自動車 | ASSBパイロットラインによる高性能・低LCAバッテリ生産のプロセス確立 | 日産の企業解説。日産の事業戦略ビジョンでは総事業費約153億円、うち国費約114億円 |
| GSユアサ | 先進固体電池開発 | 本シリーズでは扱っていない |
| パナソニック エナジー | 次世代蓄電池の開発 | パナソニックの企業解説。テーマ名に「全固体」は入っていない |
| 出光興産 | 硫化物系固体電解質の量産技術開発 | トヨタの固体電解質の提携先(トヨタの企業解説) |
| 住友金属鉱山 | 次世代蓄電池用高性能正極材料の開発と実証 | トヨタの正極材の提携先(トヨタの企業解説) |
| アルバック | 次世代蓄電池向けリチウム金属負極生産技術開発 | 本シリーズでは扱っていない |
| 大阪ソーダ | 全固体電池用超高イオン伝導性ポリマーの開発 | 本シリーズでは扱っていない |
※NEDOのプロジェクトページには採択先ごとの配分額が載っていません。ホンダと日産の金額は、各社が公表・提出した資料に基づきます。トヨタ自動車は、このプロジェクトの採択先一覧に名前がありません(提携先の出光興産と住友金属鉱山は採択されています)事実。
6. 今後の見通し
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| NEDOの影響力は2027〜2028年ごろの量産判断の前後で一区切りを迎える | SOLiD-Nextは2027年度まで。ホンダのNEDO助成は2022〜2026年度で、日産の事業戦略ビジョンは搭載をFY28としている | 推測 |
| 量産段階の支援は、研究開発型のNEDO事業から経済産業省の設備投資支援へ移っていく | NEDOの事業は研究開発・実証が対象で、量産を義務づける権限はない。量産設備の支援は経済産業省の所管事項 | 推測 |
| 標準電池モデルが業界で使われれば、材料メーカーの評価の土俵として長く残る | SOLiD-Nextは「物差し」をつくることを目的に掲げ、前身のSOLiD-EVは国際規格化を念頭に置いた試験評価法を開発していた | 推測 |
7. 用語集
- 国立研究開発法人
- 国の研究開発を担う法人。省庁そのものではなく、主務大臣の監督のもとで業務を行う。
- グリーンイノベーション基金
- 経済産業省がNEDOに造成した総額2兆円(当初)の基金。企業の研究開発から社会実装までを最長10年支援する。
- LIBTEC
- 技術研究組合リチウムイオン電池材料評価研究センター。電池・材料メーカーなどが参加し、材料評価技術を共同で開発する組織。
- 標準電池モデル
- 新しい材料の性能を同じ条件で比べるための基準となる電池の仕様。
- 事業戦略ビジョン
- グリーンイノベーション基金の採択企業が、経営者のコミットメントとして事業戦略や研究開発計画を示す資料。NEDOのサイトで公開される。
AI生成の概念図8. 出典
- NEDO 機構概要(名称・本部所在地・設立・沿革・主務大臣・根拠法・職員数・予算・基金事業予算の内訳。2026年4月15日更新)。 https://www.nedo.go.jp/introducing/kihon.html
- NEDO 事業紹介「次世代全固体蓄電池材料の評価・基盤技術開発」(事業期間・2026年度予算・研究開発内容・プロジェクトコードP23005)。 https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100257.html
- NEDO 事業紹介「先進・革新蓄電池材料評価技術開発(第2期)」(事業期間・2022年度予算・PL・国際規格化を念頭に置いた試験評価法)。 https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100146.html
- NEDO ニュースリリース「グリーンイノベーション基金事業、『次世代蓄電池・次世代モーターの開発』に着手」(2022年4月19日)。予算総額1,510億円、18テーマ採択、経済産業省の研究開発・社会実装計画に基づく公募、経済産業省による総額2兆円の基金造成と10年間の継続支援。 https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101535.html
- NEDO グリーンイノベーション基金 特設サイト「次世代蓄電池・次世代モーターの開発」(予算上限、プロジェクトの特徴、研究開発項目ごとの実施者一覧)。 https://green-innovation.nedo.go.jp/project/next-generation-storage-batteries-motors/scheme/
- 本田技研工業 IR資料「Honda 全固体電池 パイロットライン説明見学会」(NEDO助成金 約200億円、2022〜2026年度)。 https://global.honda/jp/investors/library/road_show/main/00/teaserItems3/01/linkList/03/link/FYE202503_Honda_Demonstration_Production_Line_for_All-Solid-State_Batteries_j.pdf
- 日産自動車(NEDO公開) グリーンイノベーション基金 事業戦略ビジョン(2026年5月時点)。総事業費約153億円、うち国費約114億円、FY28の市場投入。 https://green-innovation.nedo.go.jp/resources/pdf/next-generation-storage-batteries-motors/item-001-1/vision-nissan-004.pdf
9. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年9月23日/Troy Technical
本稿の数値はNEDOの公式サイトとニュースリリース、および採択企業が公表・提出した資料に基づきます。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈です。