COMPANY PROFILE / 全固体電池
上汽集団(SAIC Motor)
― 中国最大級の国有自動車メーカーが、出資先スタートアップと組んで全固体電池に向かう
全固体電池の話題で上汽集団の名前が出るのは、 中国の自動車メーカーとしていち早く「固体電池を量産した」と公表しているからです。 ただし2025年の年次報告書で同社が量産したと書いているのは半固体(semi-solid)電池であり、 全固体(all-solid)電池はパイロットラインが完成した段階です。 本稿ではこの2つを厳密に区別したうえで、自動車事業の規模は最小限にとどめ、 全固体電池に何を投じ、誰と組み、何を目指しているかに絞ります。
- 30秒でわかる上汽集団と、全固体電池での立ち位置
- ロゴと社名の表記について
- 全固体電池の世界で、この会社はどこにいるか
- 会社の規模(自動車事業は簡潔に)
- 全固体電池にかけているリソース
- これまでの取り組み
- 今後の計画
- この会社は全固体電池で何を目指しているか
- 全固体電池分野の提携マッピング
- 採用している技術方式
- この企業が抱えるリスク
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかる上汽集団と、全固体電池での立ち位置
有限公司英文名 SAIC Motor Corporation Limited
600104(A株)支配株主は上海汽車工業(集団)。実質支配者は上海市国資委
(中国・国有系)電池専業でもスタートアップでもない
完成2025年年報の記載。量産ラインではない
(新型MG4に搭載)第2世代。全固体電池ではない
(QingTao Energy)持分法適用の関連会社として出資
全固体電池に取り組む企業は、大きく自動車メーカー・電池メーカー・スタートアップの3種類に分かれます。 上汽集団はこのうち自動車メーカーで、しかも上海市が実質的に支配する国有系です 事実。 トヨタのように電池を自前で開発するのではなく、 清陶能源(QingTao Energy)というスタートアップに出資し、その技術を車に載せる形を取っています。 つまり上汽にとって全固体電池は自社の発明品というより、出資先と一緒に産業化する対象です。
そしてもう1点、本稿を読むうえで最も重要な注意があります。 上汽が「業界に先駆けて量産した」と年報に書いているのは 半固体(semi-solid)電池であって、全固体(all-solid)電池ではありません 事実。 中国語では「半固態」と「全固態」の1文字違いで、日本語の報道では両方が「固体電池」と訳されることがあります。 本稿では両者を必ず書き分けます。
2. ロゴと社名の表記について

表記の注意:法人名は中国語で「上海汽車集団股份有限公司」、 英文では SAIC Motor Corporation Limited です。 日本語では上汽集団または上海汽車と書かれますが、 上海汽車工業(集団)有限公司(SAIC Group、支配株主)とは別法人なので注意が必要です。 本稿では上場会社のほうを「上汽集団」と呼びます。
公式サイト:https://www.saicmotor.com/english/index.shtml3. 全固体電池の世界で、この会社はどこにいるか
4. 会社の規模(自動車事業は簡潔に)
自動車事業そのものは本稿の主題ではないので、規模だけを押さえます 事実。金額は人民元(CNY)のままで、為替換算はしていません。
| 指標(単位:元) | 2023年12月期 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|---|
| 総営業収入 | 744,705,132,922 | 627,589,946,568 | 656,243,812,081 |
| 上場会社株主帰属純利益 | 14,106,165,143 | 1,666,376,761 | 10,105,800,270 |
| 同(非経常損益控除後) | 10,044,669,855 | -5,409,062,450 | 7,422,891,748 |
※2025年の帰属純利益が前年比506.5%増となっているのは、2024年に上汽GM等が資産減損を計上した反動が大きいと年報が説明しています。
| 2025年12月期のその他の規模 | 数値 |
|---|---|
| 在籍従業員数(親会社+主要子会社) | 179,797人 |
| 研究開発人員数 | 30,329人(全従業員の17.6%) |
| 研究開発投入合計 | 21,706,037,747元(売上比3.36%) |
| うち費用計上分 | 18,104,061,920元 |
| うち資産計上分 | 3,601,975,827元(資産化率16.59%) |
| 販売台数 | 450.7万台(前年比+12.3%) |
| うち新エネルギー車 | 164.3万台 |
上の数字は会社全体のものです。 全固体電池の事業規模を示す数字ではありません。 上汽集団は全固体電池に関する売上・投資額・専任人員数をいずれも公表していません 未確定/将来。 研究開発投入217億元のうち全固体電池がいくらかも開示されていません。 研究開発人員30,329人という数字も、全固体電池の開発者数ではなく全社の合計です。
5. 全固体電池にかけているリソース
金額と人数は非公表ですが、出資という形でいくら投じているかだけは年報の注記から金額で読み取れます。 これは全固体電池の企業解説のなかでは珍しいケースです。
| リソースの種類 | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 外部への出資(金額あり) | 清陶(昆山)能源発展集団を持分法適用の関連会社として保有。2025年末の帳簿価額 2,799,551,243元(約28.0億元) | 事実 |
| 外部への出資(金額あり) | 清陶動力科技(上海)(旧称:上海汽車清陶能源科技)も持分法適用の関連会社。2025年末の帳簿価額 386,827,674元(約3.87億元) | 事実 |
| 設備 | 全固体電池のパイロット生産ラインが正式に完成。低温航続・電池安全性などの中核指標は業界先行と年報が主張 | 事実 |
| グループ内の体制 | 部品セグメントの中で「固体電池」を知能電動の中核技術と位置づけ、リソースを統合して産業化を加速すると記載 | 事実 |
| 投資額(全固体電池向け) | 全固体電池に絞った設備投資額・研究開発費 | 非公表 |
| 専任人員 | 全固体電池の開発人員数。研究開発人員30,329人という全社の数字しかない | 非公表 |
| 大学・研究機関との連携 | 年報には「産学研連携メカニズムを深める」という一般的な人材育成の記述があるのみ。全固体電池に関する具体的な大学名・研究機関名の記載はない | 確認できず |
| 全固体電池の生産能力 | パイロットライン完成とだけ書かれ、容量(GWh)も所在地も書かれていない | 確認できず |
持分法適用会社の帳簿価額約28.0億元は、上汽が清陶(昆山)能源発展集団に出資した持分の期末評価額であって、 全固体電池の研究開発に使われた金額ではありません 事実。 注記には同年に▲99,385,000元の減少(持分法による損益の取り込み等)も記載されており、 出資先が利益を出している状態ではないことがうかがえます 未確定/将来。
それでも、この金額が読めるという点は重要です。 トヨタもホンダも「全固体電池にいくら使ったか」を一切開示していません。 上汽の場合は出資という会計処理を通ってしまうため、 結果として外部から規模感が見える珍しい例になっています。 ただし清陶能源は上汽以外からも資金を集めており、 この28億元が清陶の全固体電池開発費のすべてではありません。
6. これまでの取り組み
| 時期 | できごと | 意味 |
|---|---|---|
| ― | 清陶能源と「車用OS・知能運転・ネットワークセキュリティ・動力電池」の分野で協業。公式サイトの「創新生態」に華為・寧徳時代(CATL)等と並べて社名が挙がる | 電池の協業先として公式に位置づけられている |
| 2024年5月24日 | 公式サイトで「七大技術底座」の進化を発表。2026年に全固体電池を量産、2027年に搭載車を量産して顧客に引き渡すと明記 | 全固体電池の時期を会社が数字で示した最初の公表 |
| 2024年10月 | 「光年固態電池」を搭載した智己L6の引き渡しを開始(エネルギー密度300Wh/kg超、航続1,000km超) | 会社は「固態電池」とだけ書き「全固態」とは書いていない。本稿は全固体電池として扱わない |
| 2025年 | 第2世代半固体電池を新型MG4に業界初で統合・量産搭載(2025年年報) | 量産に至ったのは半固体。全固体ではない |
| 2025年 | 全固体電池のパイロット生産ラインが正式に完成(2025年年報) | 研究室から試作ラインへ。量産ラインではない |
| 2026年4月21日 | 2025年年次報告書を公表。中核競争力の説明で「全固体電池」を先端技術のアップグレード対象として明記 | 法定開示のなかで全固体電池に触れた |
7. 今後の計画
売上7,000億元超全固体電池だけの数字ではない
重点6領域の筆頭にハイブリッド・基幹原材料・知能シャシー等と並ぶ
2025年年報の「技術革新」の項では、競争力を築く領域として 全固体電池・ハイブリッド動力技術・基幹原材料システム・フルスタックソフトウェア・知能シャシー・水素燃料電池の6つが挙げられ、 全固体電池が筆頭に置かれています 事実。 また2026年の事業計画でも、部品セグメントで「固体電池」の量産・応用を加速すると書かれています。
次はいずれも一次情報で確認できませんでした 未確定/将来。
全固体電池の生産拠点/生産能力(GWh)/搭載する車種/販売価格帯/ 全固体電池向けの設備投資額/専任人員数。
また、報道では上汽の全固体電池に「光啓電池」という製品名が使われることがありますが、 この名称は2025年年報にも公式サイトの技術紹介ページにも見当たりませんでした。 本稿では製品名を使わず「全固体電池」とだけ書きます。 名称が存在しないと断定するものではなく、あくまで一次情報で確認できなかったという意味です。
8. この会社は全固体電池で何を目指しているか
ここは会社が直接には述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに書きます。
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| 全固体電池は自社開発ではなく出資先との産業化で取りに行く | 年報に自社研究所の記載はなく、清陶2社への持分法出資と「リソースを統合して産業化を加速する」という記述がある | 推測 |
| 半固体を先に量産して、全固体への橋を架けている | 第2世代半固体電池をMG4で量産したことと、全固体のパイロットライン完成が同じ年に並記されている | 推測 |
| 全固体電池は部品事業としても売る可能性がある | 全固体電池が「部品・コンポーネントセグメント」の技術として説明されており、車両セグメントの説明ではない | 推測 |
| 全固体電池は6つの重点技術の1つであって唯一の柱ではない | 技術革新の項で、ハイブリッド・水素燃料電池などと並べて列挙されている | 事実 |
| 2026年量産という目標は年報では再確認されていない | 2024年5月の公式発表にある目標が、2026年4月の年報では時期の形で繰り返されていない | 推測 |
2025年年報で全固体電池が出てくるのは、いずれも 「部品・コンポーネント(parts and components)」セグメントの文脈です 事実。 「部品セグメントの事業シナジーを強化し、固体電池・知能シャシー・知能キャビンといった新技術の量産と応用を加速する」 と2026年の事業計画に書かれており、車両セグメントの計画には出てきません。
自動車メーカーが電池を自社車両の部材としてだけ考えているなら、 ふつうは車両側の計画に書きます。部品セグメントに置かれているということは、 グループの部品会社が作って外にも売りうる製品として扱っている可能性があります 未確定/将来。 ただし年報に外販の明示はなく、これは本稿の読みです。
9. 全固体電池分野の提携マッピング
10. 採用している技術方式
上汽集団は全固体電池の電解質の方式を公式サイトで明示している数少ない自動車メーカーです 事実。 以下は2024年5月24日の公式発表に基づきます。
| 項目 | 公表されている内容 |
|---|---|
| 電解質の方式 | ポリマー・無機複合電解質(聚合物-无机复合电解质)。硫化物系や酸化物系という言い方はしていない |
| 重量エネルギー密度 | 400Wh/kg 超 |
| 体積エネルギー密度 | 820Wh/L 超 |
| セル容量 | 75Ah 超 |
| 安全性 | 釘刺し試験および200℃の熱箱試験で発火・爆発なし |
| 低温性能 | 低温での容量維持率 90% 超 |
| コスト | 材料と工程の簡素化・革新により、セルからパックまでで最大40%の低減が可能 |
| 年報での表現 | パイロットラインの中核技術指標として低温航続と電池安全性が業界をリードすると記載 |
全固体電池の固体電解質は、ざっくり硫化物系・酸化物系・ハロゲン化物系・ポリマー系に分かれます。 硫化物系はイオンが速く動くが水分に弱く、酸化物系は安定だが硬くて電極と密着しにくい、 ポリマー系は柔らかくて加工しやすいがイオン伝導度が低い、という一長一短があります。
上汽・清陶が言う「ポリマー・無機複合」は、 柔らかいポリマーを骨組みにして、イオンを通す無機粒子を混ぜ込む方向です 未確定/将来。 ねらいは、硬い無機電解質だけでは避けられない電極との界面剥離を、 ポリマーの柔軟性で吸収することにあると読めます。 これは「材料としての究極性能」より作りやすさ・歩留まりを優先する設計思想です。
ただし上汽はどのポリマーを使い、どの無機材料を何%混ぜているかを公表していません 未確定/将来。 また、この方式で「全固体」と呼べる状態(液体を一切含まない)に到達しているかどうかも、 一次情報からは判断できません。半固体電池の延長線上にある技術なので、 どこからが全固体かという線引き自体が会社の定義に依存します。
11. この企業が抱えるリスク
| リスク | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 目標時期が更新されていない | 「2026年量産・2027年搭載車引き渡し」は2024年5月の公表で、2026年4月の年報では時期が再確認されていない | 事実 |
| 量産ラインが未完成 | 年報の記載は「パイロット生産ラインが完成」まで。量産ラインの建設・容量・所在地の記載はない | 事実 |
| 技術を出資先に依存 | 全固体電池の技術的中核は清陶能源側にあり、上汽は持分法適用の株主にすぎない。清陶の量産立ち上げがそのまま上汽の制約になる | 推測 |
| 出資先の収益性 | 清陶(昆山)能源発展集団の持分法投資は2025年に▲99,385,000元の減少が計上されている | 事実 |
| 外部からの検証ができない | 投資額・人員・生産能力・搭載車種がいずれも非公表で、進捗を外部から確かめる手段がない | 未確定/将来 |
| 半固体との混同 | 会社自身が「固態電池」という語を半固体にも使っているため、外部から進捗を誤読されやすい | 推測 |
| 本業側の環境変化 | 年報は自らのリスクとして、海外の貿易環境・地政学の不安定さ、新エネ車の購置税優遇の縮小、上流原材料とメモリチップの価格上昇を挙げている | 事実 |
12. 用語集
- 全固体電池(全固態電池)
- 電解質を液体ではなく固体にした電池。中国語では「全固態」。
- 半固体電池(半固態電池)
- 電解質の一部に液体やゲルが残る電池。全固体電池とは別物で、混同してはいけない。
- ポリマー・無機複合電解質
- 柔らかい高分子に、イオンを通す無機粒子を混ぜた固体電解質。上汽が採る方式。
- 持分法適用の関連会社
- 議決権の一部を持ち重要な影響力はあるが支配はしていない会社。損益を持分割合だけ取り込む。
- パイロットライン(中試線)
- 量産の前段階で試作と工程検証を行う小規模ライン。量産ラインではない。
- 清陶能源
- 中国の固体電池スタートアップ。上汽集団が出資している。
- NEV(新エネルギー車)
- 中国の制度上の区分で、電気自動車・プラグインハイブリッド・燃料電池車を含む。
- 上海市国資委
- 上海市の国有資産監督管理委員会。上汽集団の実質支配者。
AI生成の概念図13. 出典
- 上汽集団 SAIC Motor Corporation Limited Annual Report 2025(2026年4月21日、公式サイト掲載のPDF)。総営業収入・純利益・研究開発投入・研究開発人員・従業員数・販売台数、半固体電池の量産、全固体電池のパイロットライン完成、清陶2社への持分法投資の帳簿価額、2026年の事業計画、リスク。 https://www.saicmotor.com/english/images/investor_relations/annual_report/2026/4/21/0DFE68E4BCB74B01ACFAE92C344763FF.pdf
- 上汽集団 公式サイト新聞「上汽"七大技术底座"跃迁升级」(2024年5月24日)。全固体電池の方式(ポリマー・無機複合電解質)、400Wh/kg超・820Wh/L超・75Ah超、安全性試験、低温容量維持率、コスト低減幅、2026年量産・2027年搭載車引き渡しの目標、光年固態電池を搭載した智己L6。 https://www.saicmotor.com/chinese/xwzx/xwk/2024/59726.shtml
- 上汽集団 公式サイト「科技创新」。技術底座における固体電池の位置づけ、創新生態の協業先(清陶能源・寧徳時代ほか)、光年固態電池の諸元。 https://www.saicmotor.com/chinese/xwzx/kjcx/index.shtml
- 上汽集団 公式サイト Investor Relations ― Financial Data(2026年1〜6月)。2026年上期の総営業収入2,986.52億元、帰属純利益51.52億元。 https://www.saicmotor.com/english/investor_relations/financial_data/index.shtml
- 上汽集団 公式サイト英語版トップ(社名・本社所在地の確認用)。 https://www.saicmotor.com/english/index.shtml
14. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年9月23日/Troy Technical
本稿の数値はすべて上汽集団の年次報告書および公式サイトの発表に基づきます。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません。金額は人民元(CNY)のままで、為替換算は行っていません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。