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Honda|全固体電池 企業解説

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COMPANY PROFILE / 全固体電池

ホンダ(本田技研工業)
― 栃木に約430億円のパイロットラインを建て、全固体電池を「内製」する自動車メーカー

全固体電池でホンダの名前が挙がるのは、 自動車メーカーでありながら電池を外から買わず、自社で作り方まで開発しているからです。 2024年11月に公開された栃木県さくら市のパイロットラインは延床面積約27,400平方メートル、投資額は約430億円。 同社のIR資料には固体電解質が硫化物系であることまで書かれています。 本稿では自動車事業の規模は最小限にとどめ、全固体電池に何を投じ、誰と組み、何を目指しているかに絞ります。

構成:本田技研工業が米国SECに提出した2026年3月期 Form 20-F(2026年6月18日提出)、2024年11月21日の公式ニュースリリース、IR向けパイロットライン説明見学会資料を一次情報として使用/最終更新 2026年9月

この記事でわかること
  1. 30秒でわかるホンダと、全固体電池での立ち位置
  2. ロゴと社名の表記について
  3. 全固体電池の世界で、この会社はどこにいるか
  4. 会社の規模(自動車事業は簡潔に)
  5. 全固体電池にかけているリソース
  6. これまでの取り組み
  7. 今後の計画
  8. この会社は全固体電池で何を目指しているか
  9. 全固体電池分野の提携マッピング
  10. 採用している技術方式
  11. この企業が抱えるリスク
  12. 用語集/出典/主張と出典の対応表

1. 30秒でわかるホンダと、全固体電池での立ち位置

正式名称本田技研工業株式会社英文名 Honda Motor Co., Ltd.
本社日本・東京都港区虎ノ門20-F記載 No.2-3, Toranomon 2-chome
上場東証 7267
NYSE: HMC
1957年東証上場、1977年からADR
この分野での区分自動車メーカー
(電池を内製)
電池専業でもスタートアップでもない
搭載の目標時期2020年代後半この時期に投入する電動モデルへの搭載
パイロットライン栃木県さくら市
延床 約27,400m²
2025年1月 稼働開始予定と公表
投資額約430億円うちNEDO助成 約200億円(2022〜2026年度)
固体電解質の方式硫化物系IR資料に明記。トヨタは非開示
まず押さえるべき1点

全固体電池に取り組む企業は、大きく自動車メーカー・電池メーカー・スタートアップの3種類に分かれます。 ホンダはこのうち自動車メーカーですが、この分野ではスタートアップに出資して技術を確保するという 欧州勢に多いやり方をとらず、本田技術研究所が自前で材料と製法の両方を開発している点が特徴です 事実。 公式ニュースリリースは「量産化に向けて独自に研究開発を進めている全固体電池」と書いており、 IR資料も「電池および量産化技術の独自開発」を自社の強みとして挙げています。 さらに、金額(約430億円)・場所(栃木県さくら市)・電解質の系統(硫化物系)・工程の中身までを公開しており、 全固体電池について外部から検証できる材料がこのシリーズの自動車メーカーの中で最も多い会社です。

ただし2026年6月18日には、本田技術研究所が米国のスタートアップQuantumScapeと共同研究契約を結んだことが、 QuantumScape側の公式リリースで公表されました 事実。 これは出資ではなく契約で、QuantumScapeの方式(セラミックのセパレータとアノードフリー構成)は ホンダが自前で開発している硫化物系とは別の方式です。 なお、この契約はホンダ自身のニュースリリースや20-Fには掲載されていません(本稿執筆時点)。

2. ロゴと社名の表記について

表記の注意:法人名は「本田技研工業株式会社」で、英文では Honda Motor Co., Ltd.。 全固体電池の開発と栃木のパイロットラインを担当しているのは 株式会社本田技術研究所(Honda R&D Co., Ltd.)という別法人の子会社です。 公式資料では「Honda」と一括で書かれる場面が多いので、本稿では研究所側の話であることが重要な箇所では区別して表記します。

公式サイト:https://global.honda/jp/tech/All-solid-state_battery_technology/

3. 全固体電池の世界で、この会社はどこにいるか

全固体電池に取り組む企業の3つの類型 同じ「全固体電池をやっている会社」でも、立場と狙いがまったく違う 自動車メーカー 電池メーカー スタートアップ 自社の車に載せるために作る 電池を売るために作る 技術を実証し出資を集める ホンダ/トヨタ/BMW VW/Stellantis/日産 ほか CATL/Samsung SDI LG Energy Solution/SK On QuantumScape Factorial/Solid Power ほか 量産の出口を自分で持つ 複数の顧客に供給できる 量産設備を自前で持たない 失敗しても車は売れる 採用されないと売れない 資金が尽きると終わる ホンダはこの左端にいて、電池を自社で内製している点でトヨタと同じ側にいる 欧州の自動車メーカーはスタートアップへの出資で技術を確保する形が主流で、ホンダはその対極にある
図1 全固体電池に取り組む企業の3類型と、ホンダの位置づけ。区分は本稿によるもので、企業名は本シリーズで扱う23社から例示しています 本稿の計算。ホンダが独自に研究開発していることは公式ニュースリリースの記載に基づきます。

4. 会社の規模(自動車事業は簡潔に)

自動車事業そのものは本稿の主題ではないので、規模だけを押さえます 事実。数値はいずれも2026年3月期のForm 20-Fからの引用です。

指標(百万円)2024年3月期2025年3月期2026年3月期
売上収益20,428,80221,688,76721,796,610
研究開発費(費用計上額)923,6271,099,4821,540,646
営業利益(△は損失)1,381,9771,213,486△414,346
正社員数(各年3月31日)2024年2025年2026年
全社合計194,993194,173195,109
うち四輪事業135,829133,665131,856
うち二輪事業47,98049,54852,013
ここで注意

上の数字は会社全体のものです。全固体電池の事業規模を示す数字ではありません。 2026年3月期の研究開発費1兆5,406億円は前期比40.1%増ですが、会社はその理由を 「EV関連損失の影響」と説明しており、全固体電池の開発費が増えたからではありません 未確定/将来。 全固体電池に直接ひもづく金額として公表されているのは、 後述する研究開発投資 約430億円だけです。 会社の規模と、この技術にかけている規模は別物だと意識してください。

5. 全固体電池にかけているリソース

ホンダの特徴は、自動車メーカーとしては珍しく金額と場所を具体的に公表していることです。 第4章までの「会社の規模」とは切り離して読んでください。

リソースの種類公表されている内容区分
金(投資額)全固体電池の研究開発に約430億円を投資予定。パイロットライン建設と、その他研究開発を含む事実
金(公的助成)NEDOグリーンイノベーション基金の助成事業の成果を一部活用。助成金は約200億円(2022年度〜2026年度の5年間合計)事実
場所(実証ライン)栃木県さくら市下河戸1220-32(本田技術研究所 栃木Sakuraの敷地内)。敷地面積 約12,900m²、延床面積 約27,400m²、C1〜C3の3棟構成事実
人(開発体制)本田技術研究所 先進技術研究所のデバイス・プロセス領域がセル開発、エンジニアリング領域が生産技術開発を担当。セル仕様が固まる前から生産技術部門が参画事実
人(人員数)全固体電池の専任人員数非公表
外部への出資(スタートアップ)全固体電池スタートアップへの出資は、20-F・公式リリース・IR資料のいずれにも記載がない確認できず
スタートアップとの共同研究本田技術研究所がQuantumScapeと共同研究契約(2026年6月18日)。全固体電池の開発と関連する製造プロセスに焦点を当てた複数年の計画で、ホンダが先に実施した技術評価契約の完了を受けたもの。金額・独占性・対象製品は非公表。出典はQuantumScape側の公式リリース(本田技術研究所の小川厚氏のコメントを含む)事実
外部への出資(電池メーカー株式)その他の包括利益を通じて公正価値で測定する資本性金融商品として、CATL株式 3,843億円、GSユアサ株式 259億円を保有(2026年3月31日の公正価値)。ただし全固体電池向けと書かれてはいない事実
合弁(いずれも液系)GSユアサとのJV、米国でのLGエナジーソリューションとのJVL-H Battery。どちらも液体リチウムイオン電池の事業で、全固体電池ではない事実
大学・研究機関との連携大学との共同研究は公式資料に記載がない。公的機関との接点として確認できるのはNEDOの助成事業のみ確認できず
素材技術者の視点:約430億円という金額の読み方

約430億円は、量産工場の建設費としては小さく、研究費としては大きい、という中間的な規模です 本稿の計算。 ホンダ自身がこの設備を「検証可能な最小ロットの設備構成」と説明しており、 量産ラインと同じ工程を、能力だけ絞って一通りそろえた、という位置づけです。 ここで重要なのは工程がつながっていることで、 秤量・混練から塗工、ロールプレス、積層、ラミ封止、化成、モジュール組立までを1本の線でつないだ設備は、 工程ごとの試験機をラボに並べるのとは意味が違います。

全固体電池でいちばん壊れやすいのは工程と工程のあいだです。 プレスした電極を次工程へ運ぶあいだの吸湿、搬送時の割れ、積層時の位置ずれ。 これらは単工程の試作では現れず、つないで初めて出ます。 ホンダが低露点環境(露点−60℃管理)のブースをどこまで小さくできるかを わざわざ課題に挙げているのも、硫化物系の固体電解質が水分と反応して硫化水素を出すためで、 この環境コストが量産コストを直接左右します 事実。

6. これまでの取り組み

時期できごと意味
2003年〜燃料電池スタックの製造技術を自社で確立(薄膜塗工、電極貼付けなどのプロセス開発と量産)全固体電池の塗工・貼合技術の土台になっている、と会社が説明
2006〜2014年太陽電池の事業。半導体デバイスのプロセス確立と量産、クリーン環境の制御ノウハウを蓄積同じく社内資源として会社が明示している
2022年度全固体電池の研究開発投資が開始(投資計画の図では2022年度が起点)。NEDOグリーンイノベーション基金の助成対象に約200億円の助成はこの年度からの5年間合計
2024年春栃木県さくら市にパイロットラインの建屋が竣工(3棟構成)建物が先にでき、設備搬入が続いた
2024年11月21日パイロットラインを初公開。投資額 約430億円、延床 約27,400m²、ロールプレス方式の採用を公表自動車メーカーとしては異例の情報公開量
2025年1月パイロットラインの稼働開始予定と公表稼働後の実績値は本稿執筆時点で未公表
時期は非公表本田技術研究所がQuantumScapeとの技術評価契約を完了。実機を使った詳細な技術検証と、標準的な技術試験での競合比較を含むQuantumScape側のリリースによる。開始・完了の日付は公表されていない
2026年5月14日四輪事業の再構築を発表。EV投資を3年間で0.8兆円規模に抑制する一方、全固体電池の研究開発は「引き続き進めている」と明記EV投資を絞る局面でも、全固体電池は継続対象に残った
2026年6月18日本田技術研究所がQuantumScapeと共同研究契約(QuantumScapeが発表)。本田技術研究所の小川厚氏は「評価の中でQSの技術は説得力のある独自の優位性を示した」「自動車を含む幅広い用途で価値を加える可能性がある」とコメント全固体電池で社外の相手が初めて社名つきで公表された。ホンダ側の発表は確認できず

7. 今後の計画

搭載の目標時期2020年代後半この時期に投入する電動モデルへの搭載を目指す
2020年代後半の性能目標航続2倍
(500km→1000km)
液体リチウムイオン電池との比較
同・コストとサイズコスト25%低減
サイズ50%低減
航続距離を同等とする場合。原理コストベース
〜2040年代の目標航続2.5倍以上
コスト40%低減
サイズ60%低減・重量45%低減も併記

会社は電池開発ロードマップの中で、全固体電池を「革新電池技術」の枠に置き、 液系リチウムイオン電池の枠(コストダウン目標▲20%、2020年代後半)とは別に ▲25%(原理コストベース)という目標を示しています 事実。 また、適用先は四輪に限らず二輪や航空機にも広げる可能性を検討しており、 それによるスケールメリットでさらにコストを下げる、という説明をしています。

確認できなかったこと

次はいずれも公式資料に記載がありません 未確定/将来。

全固体電池の量産工場の場所/量産時の生産能力(GWh)/搭載する車種名/ 販売価格帯/セル単位のエネルギー密度の絶対値/パイロットラインが実際に稼働したあとの実績。 性能目標はすべて「液体リチウムイオン電池との比較」という相対値で示されており、Wh/kgやWh/Lの絶対値は出ていません。 報道ベースの数値は本稿では採用しません。

8. この会社は全固体電池で何を目指しているか

ここは会社が直接には述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに書きます。

読み取れること根拠となる一次情報区分
目的は電池の外販ではなく自社の電動モデルへの搭載公式リリースは一貫して「投入する電動モデルへの搭載を目指す」と書いており、外販の記載はない推測
ホンダが本当に勝負しているのは材料ではなく作り方(生産技術)パイロットライン資料の大半が工程・設備・生産効率の説明で占められ、生産効率を液系比で2倍・3倍・8倍と工程別に提示している推測
全固体電池はコバルト・ニッケルからの脱却とセットで構想されている「取り組む理由」に地政学的リスクからの脱却を挙げ、正極のCo・Ni使用量を0または最小化すると明記事実
四輪だけでは量が足りないと考えている二輪・航空機など多様なモビリティへの適用でスケールメリットを狙うと明記推測
2020年代後半は限定的な搭載からになる可能性が高い量産工場・生産能力・車種がいずれも未公表のまま、時期だけが示されている推測
自前の硫化物系とは別の方式も社外で研究し、選択肢を持っておこうとしている本田技術研究所が共同研究契約を結んだQuantumScapeの方式はセラミックのセパレータとアノードフリー構成で、ホンダが公表している硫化物系とは異なる。契約は出資を伴わず、評価を経て結ばれた推測
EV投資を絞る局面でも、全固体電池は削らない対象に置かれている2026年5月の事業再構築説明でEV投資を3年間0.8兆円規模に抑える一方、全固体電池の研究開発は継続と明記事実
推測の根拠を1つだけ詳しく

IR資料には、液系リチウムイオン電池の製法と比べた生産効率の倍率が工程別に書かれています 事実。 独自の連続混練法で秤量・混練を連続化して2倍、 正極塗工と絶縁層塗工を独自の間欠塗工でまとめて3倍、 プレスから電極形成までをロールtoロールで連続化して8倍。 会社がわざわざ「集約化・連続化・高速化」という3語をコンセプトとして掲げていることと合わせると、 ホンダが解こうとしている問題は「よく動くセルを作ること」ではなく「同じセルを安く速く作ること」だと読めます。 材料の新規性を売り文句にしていない点が、スタートアップの発表と決定的に違うところです 未確定/将来。

9. 全固体電池分野の提携マッピング

ホンダを中心とした全固体電池まわりの関係 20-F・公式リリース・IR資料に記載のある関係のみ(QuantumScapeは同社の公式リリースによる) ホンダ 自動車 本田技術研究所 全固体電池を内製で開発 NEDO(公的助成) 助成 約200億円(2022〜2026年度) QuantumScape 共同研究契約(2026年6月) 出資ではなく契約 GSユアサとのJV 液系リチウムイオン電池 L-H Battery LGESとの米国JV・液系 株式保有(全固体電池向けとの記載なし) CATL 3,843億円/GSユアサ 259億円 全固体電池そのもの(内製) 液系電池の合弁(実線) 出資・公的助成(点線) 社外との共同研究
図2 ホンダを中心とした全固体電池まわりの関係。出典:2026年3月期 Form 20-F、2024年11月21日の公式ニュースリリース、IR向けパイロットライン説明見学会資料、2026年5月14日の事業説明。全固体電池そのものについて社外の相手として確認できるのは、2026年6月に本田技術研究所が共同研究契約を結んだQuantumScapeだけです。線を本田技術研究所から引いているのは、契約の当事者が本田技研工業ではなく子会社の本田技術研究所であるためです。この契約はQuantumScape側の公式リリースで公表されたもので、ホンダ自身の公式資料には掲載されていません。オレンジの2件は液系リチウムイオン電池の合弁で、全固体電池ではない点に注意してください。株式保有の金額は2026年3月31日時点の公正価値で、持分比率は開示されていません。

10. 採用している技術方式

ホンダは、この分野の自動車メーカーとしては珍しく固体電解質の系統を明示しています 事実。

項目公表されている内容
固体電解質硫化物系。「固体電解質(硫化物系)の使いこなし技術を確立し、正負極選択自由度を獲得する」とIR資料に明記
正極全固体電池では単粒子活物質を採用。一次粒子の粒界がないため割れ耐性が高い、と説明。液系での標準はNCM(多結晶)
負極(将来)2030年代後半の「将来革新電池」ではリチウム金属負極を想定。全固体電池はそこへの足がかりと位置づけ
緻密化の方式ロールプレス方式。固体電解質層を緻密化しつつ連続加工できる。枚葉式ではなくロールtoロール
液系との工程差液系の注液工程が、全固体電池では一体化+プレス工程に置き換わる。それ以外(秤量・混練・塗工・乾燥・スリット・積層・タブ接合・ラミ封止・化成・検査)は液系の工程がベース
製造環境露点−60℃DPで管理する低露点ブースを使用。そのブースを小さくして電力コストを下げることを課題に挙げている
生産効率の目標液系の製法との比較で、秤量・混練2倍、塗工3倍、プレス〜電極形成8倍
素材技術者の視点:単粒子とロールプレスは1つの選択の裏表

正極に単粒子活物質を選ぶことと、緻密化にロールプレスを選ぶことは、別々の判断ではなく1つの判断の裏表です 未確定/将来。 液系電池で一般的な多結晶NCMは、小さな一次粒子が集まった二次粒子で、 内部に粒界が多く、強い圧力をかけると粒界で割れます。 割れた面には固体電解質が回り込めないので、全固体電池では割れがそのまま容量低下と抵抗上昇につながります。 ホンダが「割れ耐性が高い」と説明する単粒子活物質は、粒界がないぶん高い荷重をかけても壊れにくい材料です。

つまり、強く速く押せる材料を選んだからこそ、 高荷重を連続してかけられるロールプレスという選択肢が成立します。 逆に多結晶材料のままだと、荷重を下げるか枚葉式で時間をかけて押すしかなく、生産効率8倍という目標は出てきません。 この2つがセットになっている点が、ホンダの技術選択のいちばん分かりやすい特徴です 本稿の計算。

11. この企業が抱えるリスク

リスク内容区分
四輪事業そのものの立て直し中2026年3月期は営業損失4,143億円。今後3年間を四輪事業の再構築期間と位置づけており、全固体電池は逆風下での投資になる事実
EV投資の抑制3年間のEV投資を0.8兆円規模に抑え、ICE・ハイブリッドに4.4兆円を振り向ける方針。全固体電池を載せるEV側の投入計画が縮む可能性がある推測
搭載先が示されていない「2020年代後半の電動モデル」としか公表されておらず、車種も台数も量産工場も未定。検証の手がかりがない未確定/将来
硫化物系に固有の製造リスク硫化物系は水分に弱く、露点−60℃の環境が必要。この環境コストが量産コストを直接押し上げる。会社自身も最小化を課題に挙げている推測
材料を外部から調達できるかが未開示固体電解質や単粒子正極材を誰から買うのかが公式資料に一切出てこない。供給者が育たなければ量産が成立しない未確定/将来
助成金の期間が2026年度で終わるNEDO助成の約200億円は2022〜2026年度の合計。以降は自己資金の比率が上がる推測
代替ルートの厚みが見えないスタートアップへの出資は公表されていない。社外の相手は2026年6月のQuantumScapeとの共同研究契約が唯一で、これも研究段階の契約にとどまる。QuantumScape自身の10-Qは、商用化を意図した契約をフォルクスワーゲン系のPowerCoとの1件だけとしている推測

12. 用語集

全固体電池
電解質を液体ではなく固体にした電池。発火リスクが低く、高電圧・高温に強いとされる。
硫化物系固体電解質
硫黄を含む固体電解質。イオンが動きやすく柔らかいが、水分と反応して硫化水素を出すため乾燥環境が要る。
ロールプレス
2本のロールのあいだに材料を通して連続的に押し固める加工。枚葉式より速い。
単粒子活物質
一次粒子がそのまま1個の粒になっている正極材。内部に粒界がなく、加圧で割れにくい。
露点(DP)
空気中の水分が結露し始める温度。−60℃DPは極めて乾いた環境を指す。
化成
組み立てた電池に初回の充放電を行い、電極の表面に安定な被膜を作る工程。
NEDO
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構。国の研究開発を助成する機関。
Form 20-F
米国上場の外国企業が米国SECに提出する年次報告書。監査済みで法的責任を伴う。
概念図:固体の粉を連続してロールで押し固め、切らずにつなげて電池にしていく製造ラインの考え方AI生成の概念図
図3 ホンダの全固体電池への取り組み方の概念図(AI生成による概念図。実際の設備や製品を写したものではありません)。

13. 出典

  1. 本田技研工業 Form 20-F for the fiscal year ended March 31, 2026(米国SEC提出、2026年6月18日)。売上収益・研究開発費・営業損益・従業員数・上場市場・本社所在地・CATLおよびGSユアサ株式の公正価値・長期的に全固体電池を含む次世代電池の研究開発を進めるという記述。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/715153/000119312526274991/d116494d20f.htm
  2. 本田技研工業 ニュースリリース「栃木県さくら市にある全固体電池のパイロットラインを初公開」(2024年11月21日)。所在地・敷地面積・延床面積・投資額約430億円・NEDO助成・2024年春竣工・2025年1月稼働開始予定・ロールプレス方式・2020年代後半の搭載目標。 https://global.honda/jp/news/2024/c241121.html
  3. 本田技研工業 IR資料「Honda 全固体電池 パイロットライン説明見学会」(2025年3月期)。硫化物系固体電解質・単粒子活物質・3棟のレイアウト・NEDO助成金約200億円・性能目標(航続2倍/コスト25%低減など)・生産効率2倍3倍8倍・露点−60℃DP・開発体制。 https://global.honda/jp/investors/library/road_show/main/00/teaserItems3/01/linkList/03/link/FYE202503_Honda_Demonstration_Production_Line_for_All-Solid-State_Batteries_j.pdf
  4. 本田技研工業 ニュースリリース「2026 ビジネスアップデート 説明概要」(2026年5月14日)。四輪事業再構築・EV投資0.8兆円規模・L-H Battery・全固体電池の研究開発を引き続き進めるという記述。 https://global.honda/jp/news/2026/c260514b.html
  5. QuantumScape Corporation プレスリリース「QuantumScape Announces Agreement with Honda on Solid-State Battery Technology」(2026年6月18日)。本田技術研究所との共同研究契約、複数年の共同プログラム、技術評価契約の完了、本田技術研究所 Research Center of Excellence の小川厚氏のコメント。ホンダ自身のニュースリリースには本稿執筆時点で同内容の掲載はない。 https://www.quantumscape.com/quantumscape-announces-agreement-with-honda-on-solid-state-battery-technology/
  6. 本田技研工業 テクノロジー「全固体電池とは」(公式サイト)。量産を見据えた開発方針・ロールプレスに着目した理由・開発責任者の所属。 https://global.honda/jp/tech/All-solid-state_battery_technology/

14. 主張と出典の対応表

本文の主張区分出典
正式名称、本社所在地、上場市場(東証7267・NYSE HMC)事実出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/715153/000119312526274991/d116494d20f.htm
売上収益・研究開発費・営業損益(2024〜2026年3月期)、正社員数事実出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/715153/000119312526274991/d116494d20f.htm
2026年3月期の研究開発費増加の理由がEV関連損失であること事実出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/715153/000119312526274991/d116494d20f.htm
CATL株式3,843億円、GSユアサ株式259億円(2026年3月31日の公正価値)事実出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/715153/000119312526274991/d116494d20f.htm
パイロットラインの所在地・敷地面積・延床面積・投資額約430億円事実出典2 https://global.honda/jp/news/2024/c241121.html
2024年春の建屋竣工、2025年1月の稼働開始予定事実出典2 https://global.honda/jp/news/2024/c241121.html
「独自に研究開発を進めている」という自社の位置づけ事実出典2 https://global.honda/jp/news/2024/c241121.html
NEDOグリーンイノベーション基金の助成金 約200億円(2022〜2026年度合計)事実出典3 https://global.honda/jp/investors/library/road_show/main/00/teaserItems3/01/linkList/03/link/FYE202503_Honda_Demonstration_Production_Line_for_All-Solid-State_Batteries_j.pdf
固体電解質が硫化物系であること、正極が単粒子活物質であること事実出典3 https://global.honda/jp/investors/library/road_show/main/00/teaserItems3/01/linkList/03/link/FYE202503_Honda_Demonstration_Production_Line_for_All-Solid-State_Batteries_j.pdf
性能目標(2020年代後半:航続2倍・サイズ50%低減・重量35%低減・コスト25%低減/〜2040年代:2.5倍以上・60%・45%・40%)事実出典3 https://global.honda/jp/investors/library/road_show/main/00/teaserItems3/01/linkList/03/link/FYE202503_Honda_Demonstration_Production_Line_for_All-Solid-State_Batteries_j.pdf
生産効率の目標(秤量・混練2倍、塗工3倍、プレス〜電極形成8倍)と露点−60℃DP管理事実出典3 https://global.honda/jp/investors/library/road_show/main/00/teaserItems3/01/linkList/03/link/FYE202503_Honda_Demonstration_Production_Line_for_All-Solid-State_Batteries_j.pdf
正極のCo・Ni使用量を0または最小化する方針、地政学的リスクからの脱却という目的事実出典3 https://global.honda/jp/investors/library/road_show/main/00/teaserItems3/01/linkList/03/link/FYE202503_Honda_Demonstration_Production_Line_for_All-Solid-State_Batteries_j.pdf
開発体制(先進技術研究所のデバイス・プロセス領域とエンジニアリング領域の分担)事実出典3 https://global.honda/jp/investors/library/road_show/main/00/teaserItems3/01/linkList/03/link/FYE202503_Honda_Demonstration_Production_Line_for_All-Solid-State_Batteries_j.pdf
EV投資を3年間0.8兆円規模に抑える方針と、全固体電池の研究開発を継続するという記述事実出典4 https://global.honda/jp/news/2026/c260514b.html
L-H Battery(LGエナジーソリューションとの米国合弁)の存在事実出典4 https://global.honda/jp/news/2026/c260514b.html
量産を見据えた開発方針、ロールプレスに着目した理由事実出典6 https://global.honda/jp/tech/All-solid-state_battery_technology/
全固体電池の3類型の区分(自動車/電池/スタートアップ)本稿の計算本稿による整理。企業名は本シリーズの23社から例示
全固体電池の専任人員数未確定/将来非公表。本稿では推計もしない
本田技術研究所がQuantumScapeと共同研究契約を結んだこと(2026年6月18日)、複数年の計画、技術評価契約の完了、小川厚氏のコメント事実出典5 https://www.quantumscape.com/quantumscape-announces-agreement-with-honda-on-solid-state-battery-technology/
QuantumScapeとの契約がホンダ自身のニュースリリースに掲載されていないこと事実本稿が本田技研工業のニュースリリース一覧(global.honda、日英、2026年9月1日掲載分まで)で確認
QuantumScapeとの契約の金額・独占性・対象製品・期間、技術評価契約の日付未確定/将来出典5に記載なし。本稿では推定しない
自前の硫化物系とは別の方式も社外で研究し、選択肢を持とうとしているという読み推測QuantumScapeの方式(出典5)とホンダの公表方式(出典3)の違いからの本稿の解釈
全固体電池スタートアップへの出資、大学との共同研究未確定/将来出典1〜6に記載なし。本稿では存在しないとも断定しない https://global.honda/jp/investors/library/road_show/main/00/teaserItems3/01/linkList/03/link/FYE202503_Honda_Demonstration_Production_Line_for_All-Solid-State_Batteries_j.pdf
量産工場の場所・生産能力・搭載車種・価格帯・エネルギー密度の絶対値未確定/将来出典1〜6に記載なし。報道ベースの数値は採用しない https://global.honda/jp/news/2024/c241121.html
パイロットライン稼働後の実績(歩留まり・実測性能など)未確定/将来本稿執筆時点で公表を確認できず。今後の開示を待つほかないという見通し
外販ではなく自社搭載が目的という読み推測公式リリースの記述からの本稿の解釈
勝負しているのは材料ではなく生産技術という読み推測IR資料の構成と生産効率目標からの本稿の解釈
四輪だけでは量が足りないと考えているという読み推測二輪・航空機への適用検討の記述からの本稿の解釈
2020年代後半は限定的な搭載から始まるという読み推測量産工場・車種が未公表であることからの本稿の解釈
単粒子活物質とロールプレスが1つの選択の裏表であるという読み推測多結晶材料の加圧割れに関する一般的性質からの本稿の解説
硫化物系の製造リスク、助成終了後の自己負担増、代替ルートの厚みが見えないこと推測方式選択と助成期間からの本稿の解釈

最終更新:2026年9月23日/Troy Technical
本稿の数値はすべて本田技研工業が米国証券取引委員会(SEC)に提出した法定開示書類、同社の公式ニュースリリース、同社が投資家向けに公開した説明資料に基づきます。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。