背景
KRAS癌遺伝子は、膵臓癌、肺癌、結腸直腸癌など、多くのヒト癌において最も頻繁に変異する癌遺伝子の一つであり、その変異はがんの増殖、生存、転移に深く関与しています。しかし、KRAS遺伝子は長年にわたり、その複雑な構造と機能により「ドラッグ不可能(undruggable)」な標的とされてきました。近年、核酸医薬、特にsiRNA(短鎖干渉RNA)を用いたアプローチが、KRAS遺伝子発現を直接抑制することで、この困難な標的を克服する可能性を秘めているとして注目されています。局所進行膵臓癌(LAPC)のような予後不良な疾患に対しては、革新的な治療戦略が強く求められています。
主要内容
Silexion Therapeuticsは、変異型KRAS癌遺伝子を特異的にサイレンシングするように設計された次世代siRNA治療薬であるSIL204について、GMP(適正製造規範)臨床バッチ製造の開始を発表しました。この製造は、局所進行膵臓癌(LAPC)患者を対象とした計画中の第2/3相臨床試験に必要な臨床供給を確保するためのものです。同時に、同社はイスラエルのテルアビブ・ソラスキー医療センターのヘルシンキ倫理委員会から、この第2/3相試験の実施承認を取得しました。SIL204は、その投与戦略において革新的なアプローチを採用しています。すなわち、原発性腫瘍に直接作用する腫瘍内投与と、転移性疾患に対応する全身投与を組み合わせたデュアルルート投与戦略を利用します。これにより、局所的および全身的な疾患負担の両方に対処することを目指します。
SIL204の原薬(API)は、2025年に特定のグローバルオリゴヌクレオチドCDMO(受託開発製造機関)によって製造されました。これにより、高品質な原薬が確保され、迅速かつシームレスな製剤製造への移行が可能となりました。このCDMOとの連携は、核酸医薬品製造の専門的な性質と、高度な技術要件を満たすパートナーの重要性を強調しています。
影響と展望
SIL204のGMP臨床供給製造の開始と第2/3相臨床試験の承認は、この有望なsiRNA治療薬を患者に届けるための重要なマイルストーンとなります。KRAS癌遺伝子という、これまで治療困難とされてきた標的に対するsiRNA治療薬のアプローチは、癌治療における大きな進歩をもたらす可能性があります。腫瘍内投与と全身投与を組み合わせたデュアルルート投与戦略は、原発性腫瘍と転移性疾患の両方に効果的に作用することで、治療効果の最大化を目指すという点で、既存のアプローチとは異なる明確な利点を提供します。今後の焦点は、第2/3相試験の成功、LAPC患者における良好な安全性および有効性プロファイルの証明、そして最終的な規制当局の承認経路に集まるでしょう。この薬剤が承認されれば、膵臓癌のような予後不良ながん種の治療に新たな希望をもたらすことになります。

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