INSTITUTION PROFILE / ペロブスカイト太陽電池
Fraunhofer ISE
― タンデムの「測る」と「作る」を両方持つドイツの研究所
Fraunhofer ISE(フラウンホーファー太陽エネルギーシステム研究所)は、ドイツ南西部のフライブルクにある応用研究所です。 ペロブスカイト太陽電池の記録発表で「Fraunhofer ISEのCalLabが認定」という一文をよく見かけるのは、 ここが認定を受けた太陽電池の校正試験所を持っているからです。 同時に、ペロブスカイト/シリコンのタンデムを量産に近い形で試作する研究ラインも持っています。 本稿では、Fraunhofer ISEがペロブスカイト太陽電池にどこまで影響を持つのかに絞って整理します。
- 30秒でわかるFraunhofer ISE
- どんな機関か ― 影響力の「型」
- ペロブスカイト太陽電池で何をしているか
- 影響力の範囲(権限と地域)
- 関わっている企業・組織
- 今後の見通し
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるFraunhofer ISE
NLRの効率チャートは、掲載する記録を確認する機関の例としてFraunhofer ISEを名指ししています 事実。 チャートのデータ表でセル種別にペロブスカイトを含む58件を数えると、測定機関が「FhG-ISE」の記録は11件で、 Newport(17件)に次いで2番目に多い数です 本稿の計算。 つまりFraunhofer ISEは、ペロブスカイトとタンデムの記録を世界に向けて「確かめる」側の主要な1つです。 そのうえで自らもタンデムを研究しているため、「測る」と「作る」の両方に顔を出すのが特徴です。
2. どんな機関か ― 影響力の「型」
ペロブスカイト太陽電池の記事に出てくる「機関」は、企業と違って自分では太陽電池を量産しません。 その代わりに、どういう経路で業界に影響を与えるかで4つの型に分けられます。
3. ペロブスカイト太陽電池で何をしているか
Fraunhofer ISEの関わり方は、認定測定(CalLab)と研究開発の2つの系統に分かれます 事実。
| 活動 | 中身 | ペロブスカイトとの関係 | 届く範囲 |
|---|---|---|---|
| CalLab PV Cells (セルの校正試験所) | 1986年から太陽電池の校正を行う。2008年からドイツの認定機関DAkkSによるISO/IEC 17025の認定校正試験所。認定の範囲はウエハー型の標準的なシリコンセル(20×20mm〜210×210mm) | ペロブスカイト、タンデム(多接合)も同じ装置で測定する。不確かさを見積もれない試料は、不確かさなしの測定報告として出す | 世界(DAkkSはILACの相互承認に署名) |
| CalLab PV Modules (モジュールの校正試験所) | PVモジュールの認定校正試験所として世界に5つしかない1つで、ドイツでは唯一。不確かさは単面モジュールで±1.1%。年に7,000枚を超えるモジュールを測る | LED光源の太陽光シミュレーターで、ペロブスカイト/シリコンのタンデムモジュールを測る | 世界 |
| タンデムの測定法の開発 (Katanaプロジェクト) | ドイツ連邦経済・気候保護省(当時)の資金で、ペロブスカイト系タンデムモジュールの測り方を開発。Wavelabs製のシミュレーター(LED 18,400個、28の波長チャネル)をCalLab PV Modulesに導入 | 「客観的な競争のために、精密で再現性のある測定を早く提供することが重要」と説明 | ドイツの事業。測定法は国際的な比較の土台 |
| 規格づくりへの参加 | IECの太陽光発電の専門委員会(TC82)の作業部会WG2とWG7で規格づくりを支援 | 多接合セルの校正を大面積へ広げる作業を進めている | 国際(IECの加盟国) |
| Pero-Si-SCALE (タンデムの量産技術の試作ライン) | 産業用ウエハーの大きさM12で、ペロブスカイト/シリコンのセルとモジュールを作り、評価する研究ライン。2024年末の完成を予定して構築 | 蒸着と塗布を組み合わせた「ハイブリッド法」で効率33%超を達成したと年報に記載 | ドイツと欧州の太陽電池産業の支援を目的に明記 |
| ペロブスカイト薄膜太陽電池の研究 | 溶液からの低温成膜・印刷でセルとモジュールを作る。フレキシブル基板への展開、ペロブスカイト/ペロブスカイトのタンデム、長期安定性も対象 | フィルム型(フレキシブル)や、建物などに組み込む統合型PVの用途を想定 | 国際的に研究し、産業界・学術界の窓口になっている |
CalLab PV Cellsの認定の範囲は標準的なシリコンセルで、ペロブスカイトやタンデムは同じ装置と手順で測るものの、 不確かさを見積もれない場合は不確かさを付けない測定報告になると明記されています 事実。 年報も、ペロブスカイトには材料特有の準安定性(測定中に特性が変わりうる性質)があり、タンデムには特別な解析法が必要だと書いています。 記録の数字を材料評価に使うときは、証明書か報告書か、面積と測定条件は何かまで確かめるのが安全です。 本シリーズの技術解説「変換効率と評価指標」「タンデム」も参考になります。
4. 影響力の範囲(権限と地域)
| 観点 | Fraunhofer ISEが持っているもの | 持っていないもの |
|---|---|---|
| 権限 | DAkkSの認定に基づく校正証明書を出す能力。IECの作業部会で規格案づくりに参加する立場 | 規格を決める権限(決定はIEC)。規制・補助金を決める権限。NLRのチャートに何を載せるかを決める権限 |
| 地域 | 測定は世界の企業・研究機関が利用(中国のLONGi、韓国のKIER、英独のOxford PVなど)。研究ラインはドイツと欧州の産業の支援を掲げる | 他国の市場や認証制度への直接の権限 |
| 記録への関与 | NLRのチャートで確認機関の例に挙がり、ペロブスカイト関連の記録を11件測定 | 記録の唯一の判定者ではない。NLR、JRC-ESTI、JETなども確認している |
| 規模 | 1,366人、2025年の収入1億2,830万ユーロ(速報値、全分野) | ペロブスカイトとタンデムだけに使う予算額は公表されていない |
1億2,830万ユーロは太陽光・電力・熱・水素など全分野の合計です。 年報によると、2024年に公的なエネルギー研究資金が30%削減された影響が時間差で表れ、2025年は計画に反して人員を減らしました 事実。 収入は2024年の1億5,780万ユーロから2025年は1億2,830万ユーロ(速報値)に減っています。 このうちペロブスカイトとタンデムに使われた額は公表されていません 未確定/将来。
5. 関わっている企業・組織
本シリーズの企業解説との関係
| 企業 | Fraunhofer ISEとの関係(一次情報に記載のあるもの) | このシリーズとの関係 |
|---|---|---|
| Oxford PV | Oxford PVのタンデムセルを使い、Fraunhofer ISEが1.68m²・421Wで効率25%のモジュールを製作(2024年1月)。60セルのモジュール26.9%はFraunhofer CalLabが測定・認定(Oxford PVの2024年6月の発表)。2026年6月にはセルを瓦状に重ねる「マトリクス・シングル」接続で効率25.6%のモジュールを共同で製作 | Oxford PVの企業解説 |
| LONGi | M6サイズのウエハーを使ったペロブスカイト/シリコンのタンデムセル30.1%を、Fraunhofer ISEが認定(LONGiの2024年6月の発表) | LONGiの企業解説 |
6. 今後の見通し
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| タンデムのモジュールが量産に近づくほど、大面積のタンデムを測れる試験所としての存在感が増す | CalLab PV Modulesは世界に5つの認定モジュール校正試験所の1つで、タンデムモジュール用のシミュレーターを持つ。年報は多接合セルの校正を大面積へ広げる作業を記載 | 推測 |
| 研究開発は欧州の量産ラインへの技術移転に重心が移る | Pero-Si-SCALEはドイツと欧州の産業の支援を目的に掲げ、M12の研究ラインを構築。Oxford PVとの共同開発は実用サイズのモジュールで続いている | 推測 |
| 公的資金の削減が続けば、タンデム研究の規模は財団や企業の資金に左右されやすくなる | 年報は2024年の公的エネルギー研究資金30%削減と人員減を記載する一方、Werner Siemens財団がタンデム太陽電池の研究に2032年まで1,400万ユーロを支援すると記載 | 推測 |
7. 用語集
- CalLab
- Fraunhofer ISEの校正試験所。セル用(PV Cells)とモジュール用(PV Modules)がある。
- DAkkS
- ドイツの国家認定機関。ILACの相互承認に署名しており、認定を受けた試験所の証明書は国際的に通用しやすい。
- ISO/IEC 17025
- 試験所・校正機関の能力を認定する国際規格。
- ハイブリッド法
- 真空蒸着と溶液からの成膜を組み合わせてペロブスカイト層を作る方法。ピラミッド状の凹凸があるシリコンの上にも成膜できる。
- M12・M6
- シリコンウエハーの大きさの規格名。M12は一辺210mm。
8. 出典
- Fraunhofer ISE About Fraunhofer ISE(約1,300人、世界最大級の太陽エネルギー研究所)。 https://www.ise.fraunhofer.de/en/about-us.html
- Fraunhofer ISE Data and Facts(2025年12月31日時点の職員1,366人)。 https://www.ise.fraunhofer.de/en/about-us/data-and-facts.html
- Fraunhofer ISE Annual Report 2025/26(収入の推移、2024年の公的資金30%削減と人員減、Werner Siemens財団の支援、IEC TC82のWG2・WG7、CalLab、ハイブリッド法で33%超、Pero-Si-SCALE)。 https://www.ise.fraunhofer.de/content/dam/ise/en/documents/annual_reports/fraunhofer-ise-annual-report-2025-2026.pdf
- Fraunhofer ISE In Memory of Prof. Adolf Goetzberger(1981年7月1日の設立)。 https://www.ise.fraunhofer.de/en/in-memory-of-prof-goetzberger.html
- Fraunhofer ISE CalLab PV Cells(1986年からの校正、2008年からのDAkkS認定と範囲、ペロブスカイト・タンデムの測定、ILACの相互承認)。 https://www.ise.fraunhofer.de/en/rd-infrastructure/accredited-labs/callab/callab-pv-cells.html
- Fraunhofer ISE CalLab PV Modules(世界に5つの認定モジュール校正試験所の1つ、±1.1%、年7,000枚超)。 https://www.ise.fraunhofer.de/en/rd-infrastructure/accredited-labs/callab/callab-pv-modules.html
- Fraunhofer ISE プレスリリース「Accurately Determine Efficiency of Perovskite-Silicon Tandem PV Modules」(2023年5月22日。Katanaプロジェクト、Wavelabs製シミュレーター)。 https://www.ise.fraunhofer.de/en/press-media/press-releases/2023/accurately-determine-efficiency-of-perovskite-silicon-tandem-pv-modules.html
- Fraunhofer ISE ニュース「Technology Platform for the Scale-Up of Perovskite-Silicon Tandem Photovoltaics Gets the Go-Ahead」(2023年6月5日。Pero-Si-SCALE、M12、2024年末完成予定)。 https://www.ise.fraunhofer.de/en/press-media/news/2023/technology-platform-scale-up-perovskite-silicon-tandem-photovoltaics-gets-go-ahead.html
- Fraunhofer ISE ニュース「Scalable Perovskite Silicon Solar Cell with 31.6 Percent Efficiency Developed」(2024年9月25日。KAUSTとの交流、CalLabによる認定)。 https://www.ise.fraunhofer.de/en/press-media/news/2024/scalable-perovskite-silicon-solar-cell-with-31-point-6-percent-efficiency-developed.html
- Fraunhofer ISE プレスリリース「Oxford PV and Fraunhofer ISE Develop Full-sized Tandem PV Module with Record Efficiency of 25 Percent」(2024年1月31日)。 https://www.ise.fraunhofer.de/en/press-media/press-releases/2024/oxford-pv-and-fraunhofer-ise-develop-full-sized-tandem-pv-module-with-record-efficiency-of-25-percent.html
- Fraunhofer ISE プレスリリース「Perovskite-silicon solar cells meet matrix shingled interconnection」(2026年6月18日。Oxford PVのセルで効率25.6%のモジュール)。 https://www.ise.fraunhofer.de/en/press-media/press-releases/2026/perovskite-silicon-solar-cells-meet-matrix-shingled-interconnection.html
- Fraunhofer ISE 研究テーマ「Perovskite Thin-Film Photovoltaics」(低温の溶液成膜・印刷、フレキシブル基板、ペロブスカイト/ペロブスカイトのタンデム)。 https://www.ise.fraunhofer.de/en/business-areas/photovoltaics-materials-cells-and-modules/perovskite-thin-film-photovoltaics.html
- NLR Best Research-Cell Efficiency Chart(記録を確認する独立試験機関の例としてFraunhofer-ISEを記載)。 https://www.nlr.gov/pv/cell-efficiency
- NLR 研究用セル効率のデータ表(記録ごとの測定機関。2026年7月改訂時点)。 https://www.nlr.gov/docs/libraries/pv/cell-efficiency-data-table.xlsx
- LONGi ニュースリリース(2024年6月19日。M6サイズのタンデムセル30.1%、Fraunhofer ISEが認定)。 https://www.longi.com/en/news/is-m6-wafer-silicon-perovskite-tandem-cells-new-efficiency-record/
- Oxford PV プレスリリース「Oxford PV debuts residential solar module with record-setting 26.9% efficiency」(2024年6月19日。Fraunhofer CalLabが測定・認定)。 https://www.oxfordpv.com/press-releases/oxford-pv-solar-sustainability-initiative
9. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年9月25日/Troy Technical
本稿の数値はFraunhofer ISEの公式サイト・年報・プレスリリース、NLRの効率チャートのデータ表、関係企業の公式発表に基づきます。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈です。