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Sekisui Chemical|ペロブスカイト太陽電池 企業解説

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COMPANY PROFILE / ペロブスカイト太陽電池

積水化学工業
― フィルムと封止の技術で、日本で最初に「量産工場」まで踏み込んだ化学メーカー

積水化学工業は太陽電池メーカーではありません。住宅とプラスチック製品を主な事業とする化学メーカーです。 それでもペロブスカイト太陽電池の話題でこの会社の名前が最も多く出てくるのは、 2024年12月の取締役会で投資総額900億円の100MW製造ラインを決議し、 専業子会社積水ソーラーフィルムを設立して、2026年3月にフィルム型の製品「SOLAFIL」の事業開始を発表したからです。 本稿では会社全体の規模は最小限にとどめ、ペロブスカイトに何を投じ、誰と組み、どこまで来たかを、会社の適時開示・決算説明資料・公式リリースとNEDOの公表資料だけで整理します。

構成:積水化学工業の適時開示(2024年12月26日)、ペロブスカイト太陽電池事業説明会資料(2025年1月7日)、2026年3月期決算短信と決算説明資料、2027年3月期第1四半期決算説明資料、積水ソーラーフィルムがNEDOに提出した事業戦略ビジョン(2025年12月時点)、公式リリース、NEDOの採択発表を一次情報として使用/最終更新 2026年9月

この記事でわかること
  1. 30秒でわかる積水化学と、ペロブスカイト太陽電池での立ち位置
  2. ロゴと社名の表記について
  3. ペロブスカイト太陽電池の世界で、この会社はどこにいるか
  4. 会社の規模(会社全体は簡潔に)
  5. ペロブスカイトにかけているリソース
  6. これまでの取り組み
  7. 今後の計画
  8. この会社はペロブスカイト太陽電池で何を目指しているか
  9. ペロブスカイト分野の提携マッピング
  10. 提供している技術・製品・サービス
  11. この企業が抱えるリスク
  12. 用語集/出典/主張と出典の対応表

1. 30秒でわかる積水化学と、ペロブスカイト太陽電池での立ち位置

正式名称積水化学工業株式会社英文名 SEKISUI CHEMICAL CO., LTD.
本社大阪市北区西天満適時開示に記載の本店所在地
上場東証プライム 4204創業1947年
この分野での区分素材・化学メーカー
(異業種から参入)
シリコン太陽電池の量産実績はない
製品の形フィルム型の単接合ブランド名「SOLAFIL」。タンデムは手がけていない
量産ライン100MW/投資900億円旧シャープ堺工場。2027年4月稼働予定
事業の担い手積水ソーラーフィルム積水化学86%・日本政策投資銀行14%
公表している効率15.0%(会社発表)30cm幅のロール・ツー・ロール品。認証機関の認定値は確認できず
まず押さえるべき1点

ペロブスカイト太陽電池に取り組む企業は、大きく既存の太陽電池大手・専業スタートアップ・素材/化学/電機メーカーの3種類に分かれます。 積水化学はこのうち素材・化学メーカーで、発電層よりも先に「フィルムに塗る」「水分を入れない」技術を持っていたことが参入の土台になっています 事実。 会社の事業説明会資料は、差別化の源泉を封止・成膜・材料・プロセスの4つの自社技術だと説明しています。 ほかの素材・電機メーカーと決定的に違うのは、研究開発や実証ではなく、専用の量産工場への投資を取締役会で決議した点です。 900億円の投資と、国の補助(補助率2分の1)を組み合わせた量産計画は、2026年9月時点で本稿が確認できた国内企業の一次資料の中で最も具体的です。

2. ロゴと社名の表記について

積水化学工業のロゴは同社の商標です。本稿では生成画像による再現を行わず、 公式サイトから取得した画像を img/sekisui_chemical_logo.svg として設置しています。

表記の注意:法人名は「積水化学工業株式会社」、英文では SEKISUI CHEMICAL CO., LTD. です。 ペロブスカイト太陽電池の設計・製造・販売を担うのは子会社の積水ソーラーフィルム株式会社(2025年1月6日設立)で、 リリースの多くは両社の連名です。本稿では親会社を「積水化学」、子会社を「積水ソーラーフィルム」と書き分けます。

公式サイト:https://www.sekisui.co.jp/

3. ペロブスカイト太陽電池の世界で、この会社はどこにいるか

ペロブスカイト太陽電池に取り組む企業の3つの類型 同じ「ペロブスカイトをやっている会社」でも、出自と狙いがまったく違う 既存の太陽電池大手 専業スタートアップ 素材・化学・電機 シリコンの量産から上乗せする ペロブスカイトだけで勝負する 異業種の技術で参入する LONGi/JinkoSolar Trina/Hanwha Qcells ほか Oxford PV/Swift Solar EneCoat/Renshine ほか 積水化学/パナソニック 東芝/カネカ ほか 販路と量産設備をすでに持つ 技術の尖りで先行できる フィルム・ガラス・封止の技術 主力のシリコンが本業 量産と資金の壁が高い 太陽電池の販路が細い 積水化学はこの右端にいて、封止と塗工の技術でフィルム型の単接合だけに絞っている 太陽電池の量産実績はないが、堺で100MWの専用ラインを建て、2027年4月の稼働を予定している
図1 ペロブスカイト太陽電池に取り組む企業の3類型と、積水化学の位置づけ。区分は本稿によるもので、企業名は本シリーズで扱う企業から例示しています 本稿の計算。封止・成膜・材料・プロセスを差別化技術とする説明は2025年1月の事業説明会資料、100MWラインと稼働予定日は2024年12月26日の適時開示に基づきます。

製品の形はフィルム型の単接合です。事業説明会資料はペロブスカイト太陽電池を「フィルム型」「ガラス型」「タンデム型」の3つに分けて説明していますが、 積水化学が製品化しているのはこのうちフィルム型だけで、ガラス型やシリコンとのタンデム型を製品化する計画は、本稿が確認した資料には書かれていません 事実。 フィルム型の利点と課題の全体像は、本シリーズの技術解説「フレキシブル」「封止とバリア層」で扱っています。

4. 会社の規模(会社全体は簡潔に)

会社全体は本稿の主題ではないので、規模だけを押さえます 事実。

指標2025年3月期2026年3月期2027年3月期(計画)
売上高(百万円)1,297,7541,309,281―
営業利益(百万円)107,951106,477―
研究開発費(億円)442456470
うちペロブスカイト太陽電池事業の営業損益(億円)―▲43▲54

売上高・営業利益は決算短信、研究開発費とペロブスカイト太陽電池事業(資料上の略称は「PV」)の営業損益は決算説明資料から。研究開発費の「年度」は決算期と同じ期間です。従業員数は会社概要ページの掲載値で連結26,752名。

ここで注意

積水化学はペロブスカイト太陽電池事業の損益を、セグメント「その他」の内訳として数字で開示している点で、大企業の中では珍しい会社です 事実。 2026年3月期は▲43億円の営業損失、2027年3月期は▲54億円を計画し、第1四半期(2026年4〜6月)の実績は▲13億円でした。 事業開始を発表した年度に損失が広がる計画になっているのは、量産ライン立ち上げ前の費用が先行するためと読めますが、会社はその内訳を示していません 未確定/将来。 一方、ペロブスカイト太陽電池の売上高は開示されていません。

5. ペロブスカイトにかけているリソース

積水化学は、人数を除けば金額まで含めて最も多くを公表している会社の1つです。手順書の4つの観点で整理します。

リソースの種類内容区分
人(専任組織)専業子会社積水ソーラーフィルムを2025年1月6日に設立(資本金1億円)。社内は事業企画部・開発部・生産技術部・製造部の4部門。2024年12月末時点で「国内4拠点で開発」と説明事実
人(人数)ペロブスカイト太陽電池の専任人員数非公表
金(ライン投資)第1生産ライン(100MW)の投資総額900億円(補助金込み。建物購入費と製造設備費)。第2ライン構想430億円〜、第3ライン構想(600〜800MW)1,800億円〜(2025年1月の説明会資料)事実
金(自己負担)NEDOに提出した事業戦略ビジョンの資金計画に「国の支援に加えて、600億円規模の自己負担を予定」と記載事実
金(損益)ペロブスカイト太陽電池事業の営業損益 2026年3月期▲43億円、2027年3月期計画▲54億円事実
外部からの出資日本政策投資銀行が積水ソーラーフィルムに14%を出資(株主間契約を2024年12月26日に締結)事実
外部への出資・買収ペロブスカイト分野で積水化学が他社へ出資・買収した記載は、本稿が確認した資料にない。シャープ本社工場(堺市)の建物・電源設備・冷却設備の譲り受けで基本合意(2024年12月26日)事実
公的資金(経済産業省)GXサプライチェーン構築支援事業に採択(2024年12月25日決定)。補助率1/2、補助対象経費総額3,145億円(補助金総額1,572.5億円)、生産能力1GW級、期間2024年11月〜2029年2月末事実
公的資金(NEDO)グリーンイノベーション基金「次世代型太陽電池の開発」に2021年12月採択(超軽量太陽電池R2R製造技術開発)。2024年9月に同基金の「次世代型太陽電池実証事業」に東京電力ホールディングスと採択(幹事)事実
大学・研究機関2021年のNEDO採択テーマの共同実施先は東京大学・立命館大学。2026年3月から千葉大学と営農型の検証事実
本稿の計算:補助の「3,145億円」は第1ラインの話ではない

適時開示にはふたつの金額が並んでいます。第1ライン(100MW)の投資総額900億円と、GXサプライチェーン構築支援事業の補助対象経費3,145億円です。 後者は生産能力「1GW級」に対する枠で、補助対象期間は2029年2月末までです 事実。 説明会資料の第1〜第3ラインの投資額を足すと、900+430+1,800=3,130億円〜になり、3,145億円とほぼ一致します 本稿の計算。 つまり国の補助枠は1GWまで拡張した場合の全体像に対して設定されており、実際に使われる額は第2・第3ラインの投資判断しだいだと読めます。 会社は第2・第3ラインについて「需要動向から投資判断」「第1生産ラインの実績から投資判断」と書いており、決定済みではありません 未確定/将来。

6. これまでの取り組み

時期できごと意味
2021年12月NEDOグリーンイノベーション基金「次世代型太陽電池の開発」に採択。テーマは超軽量太陽電池のロール・ツー・ロール(R2R)製造技術開発(東京大学・立命館大学と)1m幅の製造プロセス確立が以後の開発目標になる
2022年8月JR西日本の「うめきた(大阪)駅」への設置が決定。この時点で「屋外耐久性10年相当」「30cm幅R2Rで発電効率15.0%」と公表会社として初めての一般共用施設への設置
2022年12月東京都と共同研究(森ヶ崎水再生センター)下水道施設での腐食耐久性を検証
2023年3月JERAと火力発電所(横須賀・鹿島)で共同実証沿岸部での耐塩害性の検証
2023年11月東京・内幸町の再開発ビル(サウスタワー)のスパンドレル部に定格1,000kW超を設置する計画を公表会社は「世界初のPSCによるメガソーラー発電機能を実装した高層ビル」となる予定と説明
2024年2月スロバキア共和国と共同検討の覚書欧州市場への展開の検討材料
2024年9月NEDO「次世代型太陽電池実証事業」に東京電力ホールディングスと採択高層ビル壁面での設置・更新方法の実証
2024年12月取締役会で量産化を決議。100MWライン・投資総額900億円、積水ソーラーフィルムの設立、シャープ堺工場の建物等の譲り受け、GXサプライチェーン構築支援事業の採択研究開発から設備投資への転換点
2025年1月積水ソーラーフィルム設立。事業説明会で第2・第3ライン構想と売上計画を提示1GW級までの道筋を数字で示した
2025年10月NTTデータ・日軽エンジニアリングと壁面設置の改良工法開発を開始(2029年3月まで)フィルム特有の「しわ・よれ」の解消が課題
2026年3月「SOLAFIL」の事業開始を発表。現有設備で1m幅の製造技術と金属屋根向け設置仕様を確立。環境省補助事業の採択自治体(さいたま市、滋賀県、西日本高速道路、福岡県、福岡市)と東京都の事業を対象に供給研究開発品から製品への移行
2026年3月千葉大学など5者で水田の営農型太陽光発電の検証を開始(3年間)農地という新しい設置先
2026年4〜6月製品の供給を開始し、実績化2件(滋賀県、福岡市)最初の納入実績
2026年7月海上自衛隊沖縄基地隊の陸屋根に28枚を設置し実証(約9か月)NEDO補助事業として実施
2026年9月鹿児島県志布志市で、より軽く安価な「シート仕様」と「連続設置仕様」の実証を開始(約3年)金属屋根モデルの次の製品仕様

公式サイトの「ペロブスカイト太陽電池に関するお知らせ」には、2022年から2026年9月までに40件を超えるリリースが並んでいます 事実。 その大半は自治体・インフラ企業との設置実証で、会社が用途ごとの設置・施工方法の確立を重視していることがわかります。

7. 今後の計画

2026年度現有設備で
限定的に供給
1m幅の製造技術は確立済みと説明
100MWライン2027年4月1日
稼働予定
適時開示の「設備稼働開始日」
2030年GW級の
製造ライン構築
会社は「目指す」と表現
売上計画2028年度 250億円〜
2030年度 1,500〜2,000億円
2025年1月の説明会資料。後者は1GW級が前提
NEDO実証事業の目標(事業戦略ビジョン、2025年12月時点)目標値2025年12月時点の進捗(会社の記載)
量産体制年間30MW以上1m幅R2R装置を導入中、歩留まり改善中
変換効率(R2R生産の30cm幅モジュール)18%14.8%を達成
変換効率(m幅)15%記載なし
耐久性(製品モジュール)20年相当の性能確認耐熱・湿熱の加速試験で20年相当を確認
バリアフィルム水蒸気透過率 1×10−2 g/m²/日以下をR2R生産記載なし
パネルコスト/発電コスト120円/W/14円/kWh記載なし
量産時のシステム単価194円/W(架台20円/W、工事費45円/W、O&M 2,400円/kW/年)現状の設置費用は算出済み(金額の記載なし)
確認できなかったこと

次はいずれも、本稿が確認した一次資料に記載がありません 未確定/将来。

ペロブスカイト太陽電池の売上高の実績/製品の販売価格/2026年度の生産量/第2・第3ラインの投資決定(構想段階)/ 認証機関(産総研、JETなど)による変換効率の認定値/海外で量産・販売する具体的な計画。 説明会資料には「2040年の国内市場予想は3兆6,000億円」という数字もありますが、これは政府の導入目標(2040年度に20GW)に会社が1kWあたりのシステム費用を掛けた試算で、市場の実績ではないため、本稿では会社の規模の根拠には使いません。

8. この会社はペロブスカイト太陽電池で何を目指しているか

ここは会社が直接には述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに書きます。

読み取れること根拠となる一次情報区分
国内で最初にGW級の供給体制を持つ会社になること適時開示に「政府が目指す2030年までの早期のGW級の供給体制構築を、当社が中心となり実現したく」と明記。補助対象の生産能力も1GW級事実
まず公共部門の軽い屋根で実績を作り、民間の工場・倉庫へ広げる適時開示と説明会資料が「当初は耐荷重性の低い屋根、公共部門(災害時避難所となる体育館等)を中心に」と記載。最初の供給先も自治体事実
研究開発と知財は親会社に残し、製造と販売を子会社に分ける説明会資料のビジネスモデル図で、積水化学(PVプロジェクト)が基礎技術開発を担い、積水ソーラーフィルムへ「ライセンス貸与」と記載。事業戦略ビジョンは2026年度以降、効率・耐久性・バリアフィルムの開発を子会社から積水化学に委託すると記載推測
当面はフィルム型単接合だけに集中するガラス型・タンデム型の製品化計画は、確認した資料に記載がない推測
勝負どころを効率ではなく設置コストと寿命に置いている事業戦略ビジョンのKPIが、変換効率と並んで架台費・工事費・O&M費・パワコンまで数値化している。リリースの大半が設置方法の実証推測
第2・第3ラインは需要を見てから判断する説明会資料が「需要動向から投資判断」「第1生産ラインの実績から投資判断」と記載。2026年4月の決算説明資料の工程表は第1ラインまでしか描いていない推測
推測の根拠を1つだけ詳しく

効率の数字の出し方に、この会社の考え方が出ています。 リリースは2022年から2024年まで一貫して「30cm幅のR2Rで発電効率15.0%」と書いてきましたが、 2025年12月時点の事業戦略ビジョンでは同じ30cm幅の進捗を14.8%とし、目標を18%に置いています 事実。 測った試料や条件が同じかどうかは書かれていないので、下がったと読むことはできません。 ただ、数字を追いかけて更新するより、1m幅での製造、歩留まり、施工費の目標を細かく並べている点を見ると、 積水化学は「最高効率の会社」ではなく「決まった品質を、屋根に安く貼れる会社」を目指していると本稿は読みます 未確定/将来。 2026年9月に始めた「シート仕様」の実証が、より軽く安価にすることを目的に掲げているのも、この読みと整合します。

9. ペロブスカイト分野の提携マッピング

積水化学を中心としたペロブスカイト太陽電池の提携関係 会社の適時開示・公式リリースとNEDOの公表資料に記載のある関係のみ 出資・子会社 公的資金 共同実証・共同研究 資産の譲り受け(点線) 積水化学 素材・化学 積水ソーラーフィルム 子会社(86%)設計・製造・販売 日本政策投資銀行 子会社に14%を出資 シャープ 堺の工場建物等を譲り受け NEDO(GI基金) 2021年採択・2024年実証採択 経済産業省 GX補助(補助率1/2) 東京電力HD NEDO実証の共同実施者 東京大学・立命館大学 2021年採択テーマの共同実施 設置実証の相手先 JERA・JR西日本・東京都ほか
図2 積水化学を中心としたペロブスカイト太陽電池の提携関係。出典:2024年12月26日の適時開示、公式リリース、NEDOの採択発表と実施予定先一覧。日本政策投資銀行の出資先は積水化学ではなく子会社の積水ソーラーフィルムなので、線は子会社の枠につないでいます。シャープとの関係は工場の建物・設備の譲り受け(基本合意)で、技術提携ではありません。「設置実証の相手先」にはこのほか、NTTデータ・日軽エンジニアリング(壁面工法)、千葉大学ほか4者(営農型)、鹿児島銀行・南国殖産(新仕様)、防衛省(海上自衛隊施設)などがあり、図では1つの枠にまとめています。スロバキア共和国との覚書(2024年2月)は共同検討であり、図には含めていません。

10. 提供している技術・製品・サービス

項目会社の公表内容
製品フィルム型ペロブスカイト太陽電池「SOLAFIL」(Solar Filmの略)。最初の製品は金属屋根に設置する仕様
製造方式ロール・ツー・ロール(R2R)。30cm幅から1m幅へ移行し、現有設備で1m幅の製造技術を確立したと説明
重さ・厚さ1.0〜1.5kg/㎡、厚さ1〜3mm、曲率半径15cmまで曲げられる(説明会資料の比較表。シリコン型は10〜15kg/㎡、10〜22mm)
変換効率30cm幅R2R品で15.0%(2022〜2024年のリリース)、同14.8%(2025年12月時点の事業戦略ビジョン)。いずれも会社発表で、認証機関の名前は書かれていない
耐久性屋外耐久性10年相当を確認(リリース)。耐熱・湿熱の加速試験で20年相当を確認(事業戦略ビジョン)。いずれも会社発表
差別化技術封止材層とバリア材(独自の材料組成を権利化)、発電4層の精密反応性塗工(ナノレベル)、50〜100μmの微細加工。劣化原因を「発電有機成分の層内移動」と特定し、独自素材で解決したと説明
設置・施工金属屋根用のほか、防水材との組み合わせ(陸屋根)、壁面用のアルミ押出形材の固定金物、軽量・安価な「シート仕様」、「連続設置仕様」を実証中
素材技術者の視点:この会社の本当の武器は「バリア」

フィルム型ペロブスカイトの寿命を決めるのは、多くの場合、発電層そのものよりも外から入ってくる水分です。 ガラスで挟めば水はほぼ通りませんが、フィルムは水を通します。 積水化学が事業戦略ビジョンで掲げた目標は、バリアフィルムの水蒸気透過率1×10−2 g/㎡/日以下をR2Rで生産することで、 会社はこれを「屋外耐久20年相当に必要な値」と説明しています 事実。 これは一般的な包装用バリアフィルムよりはるかに厳しい水準で、無機膜をフィルムに欠陥なく積む技術と、端部から入る水を止める封止材の両方が要ります。

説明会資料は、会社全体のコア技術として「フィルム加工技術」「封止、成膜、プロセス技術等」を挙げています。 発電層の塗工は大学や他社も追いつけますが、バリアと封止を自社で作り込めることが、化学メーカーがこの分野で持つ最大の強みだと本稿は見ます 未確定/将来。 封止の考え方は本シリーズの技術解説「封止とバリア層」で詳しく扱っています。

11. この企業が抱えるリスク

リスク内容区分
損失が先行するペロブスカイト太陽電池事業の営業損失は2026年3月期▲43億円、2027年3月期計画▲54億円。100MWラインが稼働する前に損失が広がる計画事実
寿命がシリコンより短い説明会資料の比較表で、耐久性はペロブスカイト10年に対しシリコン20〜30年。20年相当の確認は加速試験での会社発表事実
量産の立ち上げ会社自身が課題として「生産歩留まりの改善」「設置・施工方法の開発」を挙げている。1m幅の量産は2027年4月稼働予定のラインで初めて本格化する事実
認証・規格事業戦略ビジョンがリスクとして「品質規格認証(IEC等)の不合格」を挙げている事実
鉛の規制同じく「原料の鉛規制が強化されるリスク」を挙げ、鉛レスでの製品化検討を対処方針としている事実
安価な海外品同じく「海外、競合会社から同じ性能の安価な製品が流入するリスク」を挙げている事実
事業中止の可能性を自ら明記事業戦略ビジョンは「品質未達等の事態に陥った場合には事業中止も検討」「発電コスト目標未達」の場合の事業縮小・中止判断を明記している事実
補助金への依存第1ラインの投資総額900億円は補助金込みで、補助率は1/2。第2・第3ラインも国の支援を前提にした構想と読める推測
公共需要への依存最初の供給先はすべて自治体・公的事業の補助案件。民間の需要がどの時点で立ち上がるかは示されていない推測

12. 用語集

ペロブスカイト太陽電池
ペロブスカイトと呼ばれる結晶構造の化合物を発電層に使う太陽電池。塗って作れ、薄く軽くできる。
フィルム型
発電層を樹脂フィルムの上に作る方式。軽く曲げられるが、水分を防ぐ封止が難しい。
単接合
発電層が1層だけの太陽電池。シリコンと重ねるタンデム型と区別するための言い方。
ロール・ツー・ロール(R2R)
巻いたフィルムを送り出しながら塗工・加工し、再び巻き取る連続製造方式。
水蒸気透過率
1日に1㎡のフィルムを通り抜ける水蒸気の量。小さいほど水を通さない。
スパンドレル
高層ビルの外壁で、上下の階の窓の間にある不透明な部分。
GI基金
グリーンイノベーション基金。経済産業省がNEDOに造成した2兆円規模の基金で、脱炭素技術の開発から社会実装までを支援する。
適時開示
上場会社が投資判断に影響する事実を、証券取引所の規則に基づいて直ちに公表すること。
概念図:ロールから送り出されるフィルム状の太陽電池が、軽い金属屋根に貼られていく様子
図3 積水化学のフィルム型ペロブスカイト太陽電池の概念図(AI生成による概念図。実際の設備や製品を写したものではありません)。

13. 出典

  1. 積水化学工業 適時開示「ペロブスカイト太陽電池の量産化に関するお知らせ」(2024年12月26日)。100MWライン、投資総額900億円、積水ソーラーフィルムの概要と出資比率、シャープとの基本合意、日本政策投資銀行との株主間契約、GXサプライチェーン構築支援事業の採択内容、日程。 https://www.sekisui.co.jp/news/2024/__icsFiles/afieldfile/2024/12/26/241226.pdf
  2. 積水化学工業 ペロブスカイト太陽電池事業説明会資料(2025年1月7日)。開発状況、差別化技術、製品の比較表、第2・第3ライン構想と投資額、売上計画、ビジネスモデル。 https://www.sekisui.co.jp/ir/event/other/__icsFiles/afieldfile/2025/01/07/20250107PVK.pdf
  3. 積水化学工業・積水ソーラーフィルム リリース「フィルム型ペロブスカイト太陽電池『SOLAFIL』事業開始のお知らせ」(2026年3月27日)。 https://www.sekisui.co.jp/news/2026/1450530_42699.html
  4. 積水化学工業 2026年3月期 決算説明会プレゼンテーション資料(2026年4月28日)。事業開始の説明、ペロブスカイト太陽電池事業の営業損益(2026年3月期実績・2027年3月期計画)、研究開発費の推移。 https://www.sekisui.co.jp/ir/pdf/event/20260428kg.pdf
  5. 積水化学工業 2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)(2026年4月28日)。売上高・営業利益、ペロブスカイト太陽電池の事業化に関する記述。 https://www.sekisui.co.jp/ir/pdf/summary/20260428kc.pdf
  6. 積水化学工業 2027年3月期 第1四半期 決算説明資料(2026年7月31日)。製品供給の開始、実績化2件、第1四半期のペロブスカイト太陽電池事業の営業損益。 https://www.sekisui.co.jp/ir/pdf/event/20260731kg.pdf
  7. 積水ソーラーフィルム(NEDO公開) 事業戦略ビジョン「軽量フレキシブルペロブスカイト太陽電池の量産技術確立とフィールド実証」(2025年12月時点)。研究開発目標と進捗、資金計画、組織体制、リスク要因と対処方針。 https://green-innovation.nedo.go.jp/resources/pdf/next-generation-solar-cells/item-1-3/vision-sekisuisolafil-perovskite-002.pdf
  8. NEDO 「グリーンイノベーション基金事業で、次世代型太陽電池の開発に着手」(2021年12月28日)と別紙1 実施予定先一覧。積水化学(幹事)・東京大学・立命館大学の採択テーマ。 https://www.nedo.go.jp/content/100940817.pdf
  9. NEDO 「グリーンイノベーション基金事業で新たに『次世代型太陽電池実証事業』に着手しました」(2024年9月20日)。 https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101779.html
  10. NEDO 「次世代型単接合太陽電池実証事業」実施予定先一覧(2026年8月6日公表の別紙1)。既採択テーマとして積水化学工業(幹事)・東京電力ホールディングス(2024年9月採択)を記載。 https://www.nedo.go.jp/content/800059482.pdf
  11. 積水化学工業 リリース「『うめきた(大阪)駅』にフィルム型ペロブスカイト太陽電池を設置」(2022年8月3日)。屋外耐久性10年相当、30cm幅R2Rで発電効率15.0%。 https://www.sekisui.co.jp/news/2022/1377721_39136.html
  12. 積水化学工業 リリース「フィルム型ペロブスカイト太陽電池の共同研究を東京都と開始」(2022年12月2日)。 https://www.sekisui.co.jp/news/2022/1382290_40074.html
  13. 積水化学工業 リリース「JERAとペロブスカイト太陽電池の共同実証実験開始」(2023年3月27日)。 https://www.sekisui.co.jp/news/2023/1385520_40075.html
  14. 積水化学工業 リリース「世界初 フィルム型ペロブスカイト太陽電池による高層ビルでのメガソーラー発電の計画について」(2023年11月15日)。 https://www.sekisui.co.jp/news/2023/1395109_40075.html
  15. 積水化学工業 リリース「スロバキア共和国とペロブスカイト太陽電池の共同検討実施に関する覚書を締結」(2024年2月13日)。 https://www.sekisui.co.jp/news/2024/1399372_41090.html
  16. 積水化学工業ほか3社 リリース「フィルム型ペロブスカイト太陽電池の壁面設置に向けた改良工法開発を開始」(2025年10月20日)。 https://www.sekisui.co.jp/news/2025/1441896_41954.html
  17. 積水化学工業・積水ソーラーフィルム リリース「国内初、フィルム型ペロブスカイト太陽電池を用いた営農型太陽光発電設備の水田での取り組みを開始」(2026年3月24日)。 https://www.sekisui.co.jp/news/2026/1450384_42699.html
  18. 積水化学工業・積水ソーラーフィルム リリース「フィルム型ペロブスカイト太陽電池の防衛省施設での実証実験の開始」(2026年9月7日)。 https://www.sekisui.co.jp/news/2026/1460574_42699.html
  19. 積水化学工業ほか3社 リリース「フィルム型ペロブスカイト太陽電池の新仕様実証実験開始について」(2026年9月14日)。 https://www.sekisui.co.jp/news/2026/1460941_42699.html
  20. 積水化学工業 会社案内(会社概要。創業年、資本金、従業員数、2026年3月期の売上高・営業利益)。 https://www.sekisui.co.jp/company/outline/
  21. 積水化学工業 「ペロブスカイト太陽電池に関するお知らせ」(リリース一覧)。 https://www.sekisui.co.jp/news/PSC/

14. 主張と出典の対応表

本文の主張区分出典
正式名称、上場市場、創業年、資本金、従業員数26,752名事実出典20 https://www.sekisui.co.jp/company/outline/
売上高・営業利益(2025年3月期・2026年3月期)事実出典5 https://www.sekisui.co.jp/ir/pdf/summary/20260428kc.pdf
研究開発費(442億円・456億円・計画470億円)、ペロブスカイト太陽電池事業の営業損益▲43億円・計画▲54億円事実出典4 https://www.sekisui.co.jp/ir/pdf/event/20260428kg.pdf
第1四半期の営業損益▲13億円、製品供給の開始と実績化2件(滋賀県、福岡市)事実出典6 https://www.sekisui.co.jp/ir/pdf/event/20260731kg.pdf
100MWライン、投資総額900億円(補助金込み)、2027年4月1日稼働予定、2030年GW級を目指す方針事実出典1 https://www.sekisui.co.jp/news/2024/__icsFiles/afieldfile/2024/12/26/241226.pdf
積水ソーラーフィルムの設立日・資本金・出資比率(86%・14%)、シャープとの基本合意、日本政策投資銀行との株主間契約事実出典1 https://www.sekisui.co.jp/news/2024/__icsFiles/afieldfile/2024/12/26/241226.pdf
GXサプライチェーン構築支援事業の補助率1/2、補助対象経費3,145億円、補助金総額1,572.5億円、1GW級、期間事実出典1 https://www.sekisui.co.jp/news/2024/__icsFiles/afieldfile/2024/12/26/241226.pdf
第2ライン構想430億円〜、第3ライン構想1,800億円〜、売上計画(2028年度250億円〜、2030年度1,500〜2,000億円)事実出典2 https://www.sekisui.co.jp/ir/event/other/__icsFiles/afieldfile/2025/01/07/20250107PVK.pdf
差別化技術(封止・成膜・材料・プロセス)、製品比較表の重さ・厚さ・曲率半径・耐久性、国内4拠点での開発、課題(歩留まり・施工)事実出典2 https://www.sekisui.co.jp/ir/event/other/__icsFiles/afieldfile/2025/01/07/20250107PVK.pdf
第1〜第3ラインの投資額の合計が3,130億円〜で、補助対象経費3,145億円とほぼ一致すること本稿の計算出典1・2の金額を本稿が足し合わせたもの
SOLAFILの事業開始、1m幅の製造技術と金属屋根向け設置仕様の確立、供給対象の自治体・事業者、2026年度は限定的な生産量事実出典3 https://www.sekisui.co.jp/news/2026/1450530_42699.html
事業戦略ビジョンの目標値(30MW/年、18%、15%、20年相当、水蒸気透過率、120円/W、14円/kWh、194円/W)と進捗(14.8%、加速試験で20年相当)事実出典7 https://green-innovation.nedo.go.jp/resources/pdf/next-generation-solar-cells/item-1-3/vision-sekisuisolafil-perovskite-002.pdf
600億円規模の自己負担、積水ソーラーフィルムの4部門体制、2026年度以降の開発委託、リスク要因(IEC認証、鉛規制、安価な海外品、事業中止の検討)事実出典7 https://green-innovation.nedo.go.jp/resources/pdf/next-generation-solar-cells/item-1-3/vision-sekisuisolafil-perovskite-002.pdf
2021年12月のNEDO GI基金採択と、東京大学・立命館大学が共同実施先であること事実出典8 https://www.nedo.go.jp/content/100940817.pdf
2024年9月のNEDO「次世代型太陽電池実証事業」の開始と、積水化学・東京電力HDの採択事実出典9・10 https://www.nedo.go.jp/content/800059482.pdf
30cm幅R2Rで発電効率15.0%、屋外耐久性10年相当(会社発表)、うめきた駅への設置事実出典11 https://www.sekisui.co.jp/news/2022/1377721_39136.html
東京都との共同研究、JERAとの共同実証事実出典12・13 https://www.sekisui.co.jp/news/2023/1385520_40075.html
内幸町サウスタワーへの定格1,000kW超の設置計画事実出典14 https://www.sekisui.co.jp/news/2023/1395109_40075.html
スロバキア共和国との覚書事実出典15 https://www.sekisui.co.jp/news/2024/1399372_41090.html
NTTデータ・日軽エンジニアリングとの壁面工法の開発事実出典16 https://www.sekisui.co.jp/news/2025/1441896_41954.html
千葉大学ほか4者との営農型の検証事実出典17 https://www.sekisui.co.jp/news/2026/1450384_42699.html
海上自衛隊沖縄基地隊での実証(28枚、約9か月、NEDO補助事業)事実出典18 https://www.sekisui.co.jp/news/2026/1460574_42699.html
鹿児島県志布志市での「シート仕様」「連続設置仕様」の実証事実出典19 https://www.sekisui.co.jp/news/2026/1460941_42699.html
2022年から40件を超えるリリースがあること事実出典21 https://www.sekisui.co.jp/news/PSC/
ペロブスカイト太陽電池の3類型の区分本稿の計算本稿による整理。企業名は本シリーズで扱う企業から例示
ペロブスカイト太陽電池の売上高・販売価格・生産量・専任人員数・第2/第3ラインの投資決定・海外量産計画未確定/将来出典1〜7に記載なし。本稿では推計しない
認証機関による変換効率の認定値未確定/将来本稿が確認した一次資料に記載なし。15.0%・14.8%は会社発表として扱う
2040年の国内市場3兆6,000億円という数字未確定/将来出典2の会社試算。政府目標に費用を掛けた数字で、本稿では規模の根拠に使わない https://www.sekisui.co.jp/ir/event/other/__icsFiles/afieldfile/2025/01/07/20250107PVK.pdf
研究開発と知財を親会社に残し、製造・販売を子会社に分けているという読み推測出典2のビジネスモデル図と出典7の委託関係からの本稿の解釈
当面はフィルム型単接合だけに集中するという読み推測ガラス型・タンデム型の計画が見当たらないことからの本稿の解釈
効率より設置コストと寿命で勝負しているという読み推測出典7のKPIの立て方と実証リリースの内容からの本稿の解釈
第2・第3ラインは需要を見てから判断するという読み推測出典2の記述と出典4の工程表からの本稿の解釈
バリアと封止を自社で作り込めることが最大の強みという見方推測出典7のバリアフィルム目標からの本稿の解説
補助金への依存、公共需要への依存というリスク推測出典1・3の内容からの本稿の解釈

最終更新:2026年9月25日/Troy Technical
本稿の数値はすべて積水化学工業の適時開示・決算資料・公式リリース、積水ソーラーフィルムがNEDOに提出した事業戦略ビジョン、NEDOの公表資料に基づきます。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。