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LONGi Green Energy Technology|ペロブスカイト太陽電池 企業解説

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COMPANY PROFILE / ペロブスカイト太陽電池

LONGi(隆基緑能)
― 世界最大級のシリコン太陽電池メーカーが、タンデムの「セル効率記録」を積み上げている

LONGiは単結晶シリコンの太陽電池で世界最大級の規模を持つ中国の上場企業です。 ペロブスカイトの話題でこの会社の名前が出るのは、 シリコンの上にペロブスカイトを重ねた「タンデムセル」で、認証効率の世界記録を何度も更新しているからです。 2026年7月には、欧州のJRC-ESTIの認証で35.5%を達成したと発表しました。 一方で、年次報告書にはタンデムの量産ライン・投資額・発売時期が1つも書かれていません。 本稿では、記録の中身(面積・認証機関)と、会社がまだ示していないことを、一次資料だけで切り分けます。

構成:上海証券取引所に開示された2025年年次報告書・2026年半期報告書、LONGi公式サイトのプレスリリース、NLR(旧NREL)の効率データ表とチャンピオンモジュール効率チャートを一次情報として使用/最終更新 2026年9月

この記事でわかること
  1. 30秒でわかるLONGiと、ペロブスカイト太陽電池での立ち位置
  2. ロゴと社名の表記について
  3. ペロブスカイト太陽電池の世界で、この会社はどこにいるか
  4. 会社の規模(シリコン事業は簡潔に)
  5. ペロブスカイトにかけているリソース
  6. これまでの取り組み
  7. 今後の計画
  8. この会社はペロブスカイト太陽電池で何を目指しているか
  9. ペロブスカイト分野の提携マッピング
  10. 提供している技術・製品・サービス
  11. この企業が抱えるリスク
  12. 用語集/出典/主張と出典の対応表

1. 30秒でわかるLONGiと、ペロブスカイト太陽電池での立ち位置

正式名称隆基绿能科技股份有限公司英文名 LONGi Green Energy Technology Co., Ltd.
本社中国・陝西省西安市登記住所は西安市長安区航天中路388号
上場上海証券取引所
601012
A株。創業は2000年
この分野での区分既存の太陽電池大手
(シリコン量産から参入)
ペロブスカイト専業ではない
製品の形シリコンとの
タンデム(2端子)
フィルム型・ガラス型の単接合製品の発表はない
セル効率の到達点35.5%JRC-ESTI認証と会社が発表(2026年7月)。約1cm²級の小面積
大面積セル33%(260.9cm²)NREL認証と会社が発表(2025年6月)
量産・発売の計画公表なし年次報告書にも時期・能力・投資額の記載なし
まず押さえるべき1点

ペロブスカイト太陽電池に取り組む企業は、大きく既存の太陽電池大手・専業スタートアップ・素材や電機の異業種の3種類に分かれます。 LONGiはこのうち既存の太陽電池大手で、しかも同社が狙っているのは ペロブスカイト単体の太陽電池ではなく、自社の得意なシリコンセルの上にペロブスカイトを1層重ねる「タンデム」です 事実。 2025年年次報告書はタンデムを「下一代超高效叠层技术储备(次世代の超高効率タンデム技術の蓄え)」と表現しており、 主力のBC(バックコンタクト)セルの次の世代の技術として位置づけています。 つまりLONGiにとってペロブスカイトはシリコンを置き換えるものではなく、シリコンの効率の天井を破るための上乗せです。 ここが、ペロブスカイトだけで勝負する専業スタートアップとの決定的な違いです。

2. ロゴと社名の表記について

LONGiのロゴは同社の商標です。本稿では生成画像による再現を行わず、 公式サイトのページに埋め込まれているロゴ画像(SVG)を img/longi_logo.svg として設置しています。

表記の注意:中国語の正式名は「隆基绿能科技股份有限公司」、英文は LONGi Green Energy Technology Co., Ltd. です。 上海証券取引所での略称は「隆基绿能」で、年次報告書によれば変更前の略称は「隆基股份」でした。 日本語では「ロンジ」「隆基(りゅうき)」などと書かれますが、本稿では英字の LONGi に統一します。

公式サイト:https://www.longi.com/en/

3. ペロブスカイト太陽電池の世界で、この会社はどこにいるか

ペロブスカイト太陽電池に取り組む企業の3つの類型 同じ「ペロブスカイトをやっている会社」でも、出自と狙いがまったく違う 既存の太陽電池大手 専業スタートアップ 素材・化学・電機 シリコンの量産から上乗せする ペロブスカイトだけで勝負する 異業種の技術で参入する LONGi/JinkoSolar Trina/Hanwha Qcells ほか Oxford PV/Swift Solar EneCoat/Renshine ほか 積水化学/パナソニック 東芝/カネカ ほか 販路と量産設備をすでに持つ 技術の尖りで先行できる フィルム・ガラス・封止の技術 主力のシリコンが本業 量産と資金の壁が高い 太陽電池の販路が細い LONGiは左端の「既存大手」。自社のシリコンセルにペロブスカイトを重ねるタンデムに集中している 小面積セルの認証効率では世界記録を重ねているが、量産ラインや発売時期は2026年9月時点で公表していない
図1 ペロブスカイト太陽電池に取り組む企業の3類型と、LONGiの位置づけ。区分は本稿によるもので、企業名は本シリーズで扱う企業から例示しています 本稿の計算。LONGiがタンデムを次世代の技術の蓄えと位置づけていることは2025年年次報告書、量産計画の記載がないことは同報告書と2026年半期報告書に基づきます。

製品の形でいえば、LONGiが公表している成果はすべてシリコンセルとペロブスカイトを1枚に積み上げた2端子(モノリシック)タンデムです 事実。 フィルム型やガラス型のペロブスカイト単接合モジュールを製品化するという発表はありません。 タンデムの仕組みは、本シリーズの技術解説『タンデム』で詳しく扱っています。

4. 会社の規模(シリコン事業は簡潔に)

太陽電池事業そのものは本稿の主題ではないので、規模だけを押さえます 事実。金額は人民元(CNY)です。

指標(百万CNY)2023年12月期2024年12月期2025年12月期
営業収入129,49882,58270,347
親会社株主に帰属する純利益10,780−8,592−6,420
研究開発費(損益計算書)―1,8151,547
研究開発投入(中試費用等を含む会社定義)――4,299(売上比6.11%)

2024年の純利益は2025年年次報告書で会計方針変更後に再表示された値。百万CNY未満は四捨五入 本稿の計算。

項目数値時点
従業員(母公司+主要子会社)32,775人2025年12月末
研究開発人員3,096人(全体の9.45%)2025年12月末。うち博士71人・修士517人
2026年上期の営業収入27,045百万CNY(前年同期比−17.58%)2026年6月期
2026年上期の純損失(親会社帰属)3,684百万CNY2026年6月期
ここで注意

上の数字は会社全体のもので、その大半はシリコンのウェーハ・セル・モジュールです。 ペロブスカイトの事業規模を示す数字ではありません。 LONGiはペロブスカイト(タンデム)に関する売上・研究開発費・専任人員数・設備投資額をいずれも開示していません 未確定/将来。 また2024年・2025年と2期続けて最終赤字で、2026年上期も赤字です。 研究開発に回せる余力がこの赤字の中でどう配分されているかは、外部からは分かりません。

5. ペロブスカイトにかけているリソース

金額と人数は非公表ですが、誰が・どこと組んで取り組んでいるかはプレスリリースから具体的に読み取れます。

リソースの種類内容区分
人(専任組織)中央研究院(Central R&D Institute)のタンデムセルチームが担当。2024年6月のリリースで、同社副総裁が「中央研究院の研究チームは5,000人超、タンデムチームの平均年齢は28歳」と説明。タンデムチームの人数そのものは非公表事実(人数は非公表)
人(責任者)創業者の李振国氏が中央研究院の院長とCTOを兼ねる(2025年6月のリリース)。タンデム関連リリースには中央研究院の徐希翔氏・何博氏の名前が出る事実
金(研究開発費)全社の研究開発投入は2025年に42.99億CNY。うちタンデム・ペロブスカイト分は非公表非公表
金(ライン投資)タンデムの量産ライン・中試(パイロット)ラインの投資額や能力の開示はない確認できず
外部への出資・買収・合弁ペロブスカイト企業への出資・買収・合弁の開示は、年次報告書・半期報告書・リリースに見当たらない(2025年の買収は蓄電事業)確認できず
大学・研究機関蘇州大学(自己組織化単分子膜の新材料、フレキシブルタンデム)、中国科学院長春応用化学研究所(ジラジカル型SAM、2025年Science)、西安交通大学ほか(フレキシブルタンデム、2025年Nature)と共同で論文を発表事実
公的資金ペロブスカイト・タンデムを対象とする政府プロジェクトへの採択や補助金額の開示は見当たらない確認できず
素材技術者の視点:「5,000人」と「3,096人」は同じものを数えていない

2024年6月のリリースは中央研究院の研究チームを「5,000人超」と書き、 2025年年次報告書は研究開発人員を3,096人としています 事実。 時点が違ううえ、前者は広報上の説明、後者は法定開示の集計で、定義が一致していません。 どちらもタンデム専任の人数ではないので、「LONGiはペロブスカイトに何千人を投じている」とは言えません。 一次資料から確実に言えるのは、タンデムは中央研究院の一チームが担い、 若いチーム(平均28歳)が短い周期で記録を更新している、というところまでです。

6. これまでの取り組み

LONGiのペロブスカイトの歴史は、ほぼ「認証効率の記録更新の歴史」です。 セル(小面積)と大面積セル・モジュールを分けて整理します。面積が約1cm²のものは研究用の小さなセルで、製品の効率ではありません。

時期できごと面積・認証
2023年5月・6月SNEC 2023で31.8%、Intersolar Europe 2023で33.5%を発表会社発表(2023年11月のリリースでの振り返り)
2023年11月33.9%を発表。単接合の理論限界(33.7%)を初めて超えたと説明約1cm²/NREL。NLRの効率データ表に登録
2024年6月34.6%を発表(SNEC 2024)約1cm²/JRC-ESTI。NLRの効率データ表に登録
2024年6月商用M6サイズのウェーハ級タンデムで30.1%。2023年10月に量産技術の研究を始め、大面積膜の大気中製膜と超低温メタライズを克服したと説明M6ウェーハ級/Fraunhofer ISE(会社発表)
2024年9月33.9%の技術(LiF超薄層とジアンモニウム分子による二層パッシベーション)をNatureに発表論文
2025年4月34.85%を発表約1cm²/NREL。NLRの効率データ表に登録
2025年6月大面積(260.9cm²)の2端子タンデムセルで33%。効率表(第66版)に収録と説明260.9cm²/NREL(会社発表)
2025年6月・7月ジラジカル型SAM(Science、長春応用化学研究所ほか)、非対称SAM「HTL201」(Nature、蘇州大学)を発表論文
2025年11月厚さ約60µmのフレキシブル・タンデムをNatureに発表。小面積33.4%、ウェーハ全面サイズ29.8%小面積はNREL、全面サイズはFraunhofer ISE(会社発表)
2025年通期年次報告書に「NREL認証の原型デバイス(1cm²)で35.1%、大面積(261.1cm²)で34.11%」と記載法定開示(会社の記載)
2026年3月蘇州大学と共同の「高効率・安定なフレキシブル・ペロブスカイト/シリコンタンデム技術」が中国の「2025年十大科学進展」に選出会社発表
2026年5月35.2%が効率表(第68版)に収録(2026年7月のリリースでの説明)約1cm²/JRC-ESTI。NLRの効率データ表に登録
2026年7月35.5%を発表。あわせて大面積で34.3%(261cm²)・32.2%(274cm²)、タンデムモジュールで31.4%・29.4%と説明35.5%はJRC-ESTI(会社発表)。NLRの表には本稿確認時点で未掲載
記録の数字を読むときの注意

第三者の表で確認できたのは次の範囲です 事実。 NLR(旧NREL)のセル効率データ表には、LONGiのペロブスカイト/シリコン・タンデムとして 33.9%(NREL測定)、34.6%(JRC-ESTI)、34.85%(NREL)、35.0%(JRC-ESTI)、35.2%(JRC-ESTI)が、いずれも面積約1cm²で登録されています。 またNLRのチャンピオンモジュール効率チャートでは、ペロブスカイト/シリコンのモジュール記録31.6%の保持者としてLONGiの名前が載っています。

一方、35.5%と大面積セルの数値(33%、34.11%、34.3%、32.2%)は、本稿では会社の発表・開示でしか確認できていません 未確定/将来。 同じ「大面積」でも、年次報告書は261.1cm²で34.11%、2026年7月のリリースは261cm²で34.3%と書いており、測定の時点が違う可能性があります。 モジュール効率もリリースの31.4%とNLRチャートの31.6%が一致しておらず、本稿ではどちらかに寄せず両方を示します。

7. 今後の計画

タンデムの位置づけ次世代の「技術の蓄え」2025年年次報告書の表現
研究開発の三層構造量産1世代・開発1世代・蓄え1世代リリースで繰り返し説明している方針
フレキシブル・タンデムの用途宇宙・車載など2025年11月のリリースが挙げる応用先
量産開始の時期公表なし年次報告書・半期報告書・リリースのいずれにもなし

2025年年次報告書は、タンデムの成果を「実験室から産業化応用へ向かう基礎を固めた」と書いています 事実。 言い換えると、会社自身が「まだ産業化の手前」と認めているということです。 2026年半期報告書でも、タンデムについて書かれているのは35.5%の記録だけで、量産の工程表は出てきません。

確認できなかったこと

次はいずれも年次報告書・半期報告書・公式リリースに記載がありません 未確定/将来。

タンデムの量産開始時期/量産ラインの場所と能力/パイロットラインの有無と規模/タンデム向けの設備投資額・研究開発費/ 製品の型番・価格/屋外での長期信頼性データ。 「LONGiが○年にタンデムを量産」といった数字は報道や調査会社のものが多く、本稿では採用しません。

8. この会社はペロブスカイト太陽電池で何を目指しているか

ここは会社が直接には述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに書きます。

読み取れること根拠となる一次情報区分
ペロブスカイトは自社のシリコンセルの価値を上げる手段であり、単独の事業ではない公表成果がすべてシリコンとの2端子タンデム。2024年6月のリリースは「既存のシリコンセル工程と統合でき、現行技術の更新になる」と説明推測
当面の主力はBCセルで、タンデムはその次年次報告書はBCの量産・特許を詳しく書き、タンデムは「次世代の技術の蓄え」と一文で扱う。研究開発の三層構造(量産・開発・蓄え)の方針推測
記録で技術の先行を示し、量産時期は慎重に伏せている本稿が確認した2023年11月以降のタンデム関連リリース9本のうち、量産の時期・場所・能力を述べたものは1本もない推測
大面積化・量産工程の研究はすでに始めている2024年6月のリリースが「2023年10月に量産技術の研究を開始」「大気中での大面積膜形成と超低温メタライズを克服」と明記。大面積260.9cm²の認証値も公表事実
フレキシブル・タンデムは宇宙・車載などの高付加価値用途から入る2025年11月のリリースが宇宙用・車載用を応用先に挙げ、比出力1.77W/gを強調している推測
推測の根拠を1つだけ詳しく

2024年6月のM6ウェーハ級30.1%のリリースで、中央研究院の何博氏は 「2023年10月にタンデムの量産技術の研究を始め、半年で大気中での大面積ペロブスカイト膜の作製と超低温のメタライズ(電極形成)という2つの課題を克服した」と述べています 事実。 この2つは、研究室のグローブボックスや蒸着で作る小面積セルでは問題にならず、工場で作るときに初めて壁になる課題です。 記録用のセル(約1cm²)と並行して、量産を想定した課題に手を付けていることをLONGi自身が示しているわけです。 それでも量産の時期・場所・能力を出していないのは、 大面積での歩留まりと屋外での耐久性にまだ確信が持てていないからだと本稿は読みます 未確定/将来。 ただし会社はその理由を説明しておらず、これは本稿の解釈にとどまります。

9. ペロブスカイト分野の提携マッピング

LONGiを中心としたペロブスカイト(タンデム)の協力関係 LONGiのリリースと年次報告書に記載のある関係のみ。報道ベースの関係は含まない 共同研究・共著論文(実線・濃紺) 効率の認証のみ(点線)。提携ではない LONGi 中央研究院 蘇州大学 非対称SAM(2025年Nature) フレキシブル・タンデム 中国科学院 長春応用化学研究所 ジラジカル型SAM (2025年Science) 西安交通大学 ほか フレキシブル・タンデム (2025年11月Nature) 認証機関 NREL(現NLR)/JRC-ESTI Fraunhofer ISE
図2 LONGiを中心としたペロブスカイト(タンデム)の協力関係。出典:LONGiのプレスリリース(2024年6月、2025年7月、2025年11月、2026年3月ほか)、2025年年次報告書。実線は共同研究・共著論文の相手、点線は効率を測定・認証した機関です。認証機関は測定を請け負う第三者であり、提携先ではありません。材料・装置メーカーとの提携、他社との合弁、出資先は一次資料で確認できなかったため、図に含めていません。

10. 提供している技術・製品・サービス

LONGiは2026年9月時点で、ペロブスカイトを使った製品を販売していません 未確定/将来。 公表されているのは研究段階の技術です。リリースと論文紹介から、中身を分解します。

項目一次資料の記述
構造2端子(モノリシック)のペロブスカイト/シリコン・タンデム。下側は両面テクスチャのヘテロ接合(HJT)シリコンセル(2025年7月のNature論文の紹介)
上側セルの表面ナノスケールで点在させたフッ化リチウム(LiF)超薄層とジアンモニウム分子を重ねる二層パッシベーションで、電子輸送層との界面の再結合を抑える(33.9%の技術)
上側セルの下面凹凸のあるシリコン表面を均一に覆う非対称カルバゾール系SAM「HTL201」を正孔輸送層に使い、電圧約2Vを得た(34.6%の技術)
材料の安定性ドナー・アクセプター型のジラジカルSAMで効率と安定性を両立(2025年Science)
フレキシブル化厚さ約60µmの超薄シリコンを使い、「密」と「疎」の二重バッファ層で曲げによる界面剥離を抑える。比出力1.77W/g
量産を意識した工程大気中での大面積ペロブスカイト膜の作製、超低温メタライズ(2024年6月の説明)
素材技術者の視点:勝負どころは「ピラミッドの上に均一に塗る」こと

量産のシリコンセルは、光を閉じ込めるために表面に数µmのピラミッド状の凹凸(テクスチャ)が付いています。 その上にペロブスカイトを重ねると、凹凸の山と谷で膜の厚さが変わり、 特に一番下の正孔輸送層が薄すぎる所ができると、そこから電流が漏れます。 LONGiが自己組織化単分子膜(SAM)の分子設計を繰り返し論文にしているのは、 1分子層の厚さで、凹凸の表面を隙間なく覆うことが効率の決め手になっているからです 事実(非対称SAMは「テクスチャ上の被覆性と均一性を改善」と説明されています)。

もう1つの「超低温メタライズ」も材料側の制約から来ています。 シリコンセルの電極は通常数百℃で焼き付けますが、ペロブスカイトは有機成分を含むため高温に耐えません。 タンデムではペロブスカイトを載せた後に、低温で電極を作る必要があり、 銀ペーストの抵抗や密着をどう確保するかが工程上の難所になります。 封止やバリア層の話は、本シリーズの技術解説『封止とバリア層』も参照してください。

11. この企業が抱えるリスク

リスク内容区分
本業の赤字2024年・2025年と2期連続で最終赤字(2025年は64.2億CNYの純損失)。2026年上期も36.8億CNYの純損失。研究開発費(損益計算書)は2025年に前年比14.79%減事実
量産計画が未公表タンデムの量産時期・能力・投資額がいずれも開示されておらず、進捗を外部から検証できない未確定/将来
記録は小面積セル中心第三者の表で確認できるセル記録は約1cm²。大面積セルの値は会社発表で、時点により数値が異なる事実
耐久性データが見えない効率の発表に比べ、屋外での長期信頼性の数値は一次資料に出てこない未確定/将来
自社のBCとの社内競合BCセルの量産と特許を最重点に置いており、タンデムへの設備投資の優先順位が上がるかは不明推測
記録競争の相対化効率の記録は他社・研究機関も更新しており、記録そのものは長く保持できない推測

12. 用語集

タンデム太陽電池
光の吸収する波長帯が違う2種類の電池を重ねたもの。LONGiはシリコンの上にペロブスカイトを重ねる。
2端子(モノリシック)
上下のセルを1枚に積み上げ、電極を上下1組だけにした構造。4端子に比べ配線は簡単だが、上下の電流を揃える必要がある。
SQ限界
単接合の太陽電池の理論効率の上限(約33.7%)。タンデムはこれを超えられる。
SAM
自己組織化単分子膜。分子1層だけで基板を覆う膜で、ペロブスカイトの正孔輸送層に使われる。
BC(バックコンタクト)
電極をすべてセルの裏面に置いたシリコンセル。LONGiの主力技術。
HJT
ヘテロ接合。結晶シリコンと非晶質シリコンを組み合わせたセル構造。低温工程で作るのでタンデムの下側セルに使われやすい。
認証効率
NREL(現NLR)、JRC-ESTI、Fraunhofer ISEなどの第三者機関が測定した効率。会社の自社測定とは区別される。
JRC-ESTI
欧州委員会共同研究センターの太陽電池測定施設(European Solar Test Installation)。
概念図:凹凸のあるシリコンセルの上に、薄いペロブスカイト層が均一に重ねられたタンデムセル
図3 LONGiが取り組むペロブスカイト/シリコン・タンデムの概念図(AI生成による概念図。実際の設備や製品を写したものではありません)。

13. 出典

  1. 隆基绿能科技股份有限公司 「隆基绿能科技股份有限公司2025年年度报告」(2025年年次報告書)(中国語)(上海証券取引所開示、2026年4月29日)。会社基本情報、営業収入・純利益・研究開発費・研究開発投入、従業員数・研究開発人員、タンデムの効率(NREL認証1cm²で35.1%、261.1cm²で34.11%)と「次世代技術の蓄え」という位置づけ。 http://static.cninfo.com.cn/finalpage/2026-04-29/1225251647.PDF
  2. 隆基绿能科技股份有限公司 「隆基绿能科技股份有限公司2026年半年度报告」(2026年半期報告書)(中国語)(上海証券取引所開示、2026年8月31日)。2026年上期の営業収入・純損失・研究開発費、ESTI認証35.5%の記載。 http://static.cninfo.com.cn/finalpage/2026-08-31/1225535067.PDF
  3. LONGi プレスリリース「35.5%! LONGi Once Again Breaks World Record for Crystalline Silicon-Perovskite Tandem Solar Cell Efficiency」(2026年7月14日)。35.5%(ESTI)、35.2%の効率表第68版収録、大面積34.3%・32.2%、タンデムモジュール31.4%・29.4%、研究開発の三層構造。 https://www.longi.com/en/news/crystalline-silicon-perovskite-tandem-solar-cell-new-world-efficiency-2026/
  4. LONGi プレスリリース「34.85%! LONGi Breaks World Record for Crystalline Silicon-Perovskite Tandem Solar Cell Efficiency Again」(2025年4月。HIBC 27.81%発表の翌週)。34.85%(NREL)と過去の記録の推移。 https://www.longi.com/en/news/silicon-perovskite-tandem-solar-cells-new-world-efficiency/
  5. LONGi プレスリリース「LONGi Announces Two New Global Solar Cell Efficiency Records」(2025年6月12日)。大面積260.9cm²で33%(NREL)、効率表第66版収録、李振国氏が中央研究院長・CTO。 https://www.longi.com/en/news/new-world-record-in-snec-2025/
  6. LONGi プレスリリース「LONGi's Tandem Solar Cell Breakthroughs Consecutively Published Online In Nature and Science」(2025年7月)。二層パッシベーション(2024年Nature)、非対称SAM HTL201(2025年Nature、蘇州大学)、ジラジカルSAM(2025年Science、長春応用化学研究所ほか)。 https://www.longi.com/en/news/nature-and-science-research-of-tandem-solar-cell/
  7. LONGi プレスリリース「Nature Consecutively Publishes LONGi's Breakthroughs in HIBC and Flexible Silicon-Based Tandem Solar Cells」(2025年11月)。フレキシブル・タンデム(小面積33.4% NREL、全面サイズ29.8% Fraunhofer ISE)、共同研究先、宇宙・車載への応用、HIBC 27.81%の発表日(2025年4月11日)。 https://www.longi.com/en/news/breakthroughs-in-hibc-and-flexible-silicon-based-tandem-solar-cells-nature/
  8. LONGi プレスリリース「LONGi Takes the Lead in Breakthrough in Flexible Tandem Technology Selected Among China's Top 10 Scientific Advances」(2026年3月)。十大科学進展への選出、厚さ約60µm、二重バッファ層、比出力1.77W/g。 https://www.longi.com/en/news/top-ten-scientific-advances/
  9. LONGi プレスリリース「LONGi sets a new world record of 33.9% for the efficiency of crystalline silicon-perovskite tandem solar cells」(2023年11月3日)。33.9%(NREL)、2023年5月31.8%・6月33.5%。 https://www.longi.com/en/news/new-world-record-for-the-efficiency-of-crystalline-silicon-perovskite-tandem-solar-cells/
  10. LONGi プレスリリース「34.6%! Record-breaker LONGi Once Again Sets a New World Efficiency for Silicon-perovskite Tandem Solar Cells」(2024年6月14日)。34.6%(ESTI)、既存シリコン工程との統合。 https://www.longi.com/en/news/2024-snec-silicon-perovskite-tandem-solar-cells-new-world-efficiency/
  11. LONGi プレスリリース「LONGi announces the new world record efficiency of 30.1% for the commercial M6 size wafer-level silicon-perovskite tandem solar cells」(2024年6月19日)。M6ウェーハ級30.1%(Fraunhofer ISE)、量産技術研究の開始時期、中央研究院の人員とタンデムチームの平均年齢。 https://www.longi.com/en/news/is-m6-wafer-silicon-perovskite-tandem-cells-new-efficiency-record/
  12. NLR(米国立研究所、旧NREL) Cell efficiency data table(セル効率データ表)。LONGiのペロブスカイト/シリコン・タンデム33.9%・34.6%・34.85%・35.0%・35.2%の登録、面積と測定機関。 https://www.nlr.gov/docs/libraries/pv/cell-efficiency-data-table.xlsx
  13. NLR(米国立研究所、旧NREL) Champion Module Efficiencies chart(チャンピオンモジュール効率チャート)。ペロブスカイト/シリコン・モジュールの記録31.6%の保持者としてのLONGi。 https://www.nlr.gov/docs/libraries/pv/champion-module-chart.pdf
  14. LONGi 公式サイト(社名表記とロゴ画像の取得元)。 https://www.longi.com/en/

14. 主張と出典の対応表

本文の主張区分出典
正式名称、登記住所、上場市場と証券コード、旧略称「隆基股份」事実出典1 http://static.cninfo.com.cn/finalpage/2026-04-29/1225251647.PDF
営業収入・純利益(2023〜2025年)、研究開発費、研究開発投入42.99億CNY(6.11%)事実出典1 http://static.cninfo.com.cn/finalpage/2026-04-29/1225251647.PDF
従業員32,775人、研究開発人員3,096人(9.45%)事実出典1 http://static.cninfo.com.cn/finalpage/2026-04-29/1225251647.PDF
2026年上期の営業収入270.45億CNY・純損失36.84億CNY事実出典2 http://static.cninfo.com.cn/finalpage/2026-08-31/1225535067.PDF
タンデムを「次世代の超高効率タンデム技術の蓄え」と位置づけ、NREL認証1cm²で35.1%・261.1cm²で34.11%と記載事実出典1 http://static.cninfo.com.cn/finalpage/2026-04-29/1225251647.PDF
35.5%(ESTI認証と会社が発表)、35.2%の効率表第68版収録、大面積34.3%・32.2%、モジュール31.4%・29.4%事実出典3・2 https://www.longi.com/en/news/crystalline-silicon-perovskite-tandem-solar-cell-new-world-efficiency-2026/
34.85%(NREL)の発表事実出典4 https://www.longi.com/en/news/silicon-perovskite-tandem-solar-cells-new-world-efficiency/
大面積260.9cm²で33%(NREL)、李振国氏が中央研究院長・CTO事実出典5 https://www.longi.com/en/news/new-world-record-in-snec-2025/
二層パッシベーション、非対称SAM HTL201(蘇州大学)、ジラジカルSAM(長春応用化学研究所ほか)事実出典6 https://www.longi.com/en/news/nature-and-science-research-of-tandem-solar-cell/
フレキシブル・タンデム(33.4% NREL、29.8% Fraunhofer ISE)、西安交通大学ほかとの共同研究、宇宙・車載への応用事実出典7 https://www.longi.com/en/news/breakthroughs-in-hibc-and-flexible-silicon-based-tandem-solar-cells-nature/
十大科学進展への選出、厚さ約60µm、二重バッファ層、比出力1.77W/g事実出典8 https://www.longi.com/en/news/top-ten-scientific-advances/
33.9%(NREL)、2023年5月31.8%・6月33.5%事実出典9 https://www.longi.com/en/news/new-world-record-for-the-efficiency-of-crystalline-silicon-perovskite-tandem-solar-cells/
34.6%(ESTI)、既存シリコン工程と統合できるという説明事実出典10 https://www.longi.com/en/news/2024-snec-silicon-perovskite-tandem-solar-cells-new-world-efficiency/
M6ウェーハ級30.1%、2023年10月の量産技術研究開始、大気中製膜と超低温メタライズ、中央研究院5,000人超・平均28歳事実出典11 https://www.longi.com/en/news/is-m6-wafer-silicon-perovskite-tandem-cells-new-efficiency-record/
NLRの効率データ表にLONGiの33.9%・34.6%・34.85%・35.0%・35.2%(約1cm²)が登録されていること事実出典12 https://www.nlr.gov/docs/libraries/pv/cell-efficiency-data-table.xlsx
NLRのチャンピオンモジュール効率チャートでペロブスカイト/シリコン31.6%の保持者がLONGiであること事実出典13 https://www.nlr.gov/docs/libraries/pv/champion-module-chart.pdf
ペロブスカイト太陽電池の3類型の区分(既存大手/専業/異業種)本稿の計算本稿による整理。企業名は本シリーズで扱う企業から例示
百万CNY単位への換算(四捨五入)本稿の計算出典1・2の元単位(元・万元)を本稿が換算したもの
35.5%と大面積セル値の第三者表での確認未確定/将来本稿の確認時点でNLRの表に未掲載。会社発表として扱う https://www.nlr.gov/docs/libraries/pv/cell-efficiency-data-table.xlsx
タンデムの量産時期・ライン・投資額・専任人員・製品・長期信頼性データ未確定/将来出典1〜11に記載なし。報道・調査会社の数値は採用しない http://static.cninfo.com.cn/finalpage/2026-04-29/1225251647.PDF
ペロブスカイト企業への出資・合弁、公的資金の採択未確定/将来出典1・2に記載なし。本稿では存在しないとも断定しない http://static.cninfo.com.cn/finalpage/2026-08-31/1225535067.PDF
ペロブスカイトは自社シリコンセルの価値を上げる手段という読み推測公表成果がすべて2端子タンデムであることと出典10の説明からの本稿の解釈
当面の主力はBCで、タンデムはその次という読み推測出典1の記述の配分と三層構造の方針からの本稿の解釈
記録で先行を示し、量産時期は伏せているという読み推測リリースの構成(記録のみで量産計画なし)からの本稿の解釈
フレキシブル・タンデムは宇宙・車載から入るという読み推測出典7の応用先の記述からの本稿の解釈
量産時期を出さない理由が大面積の歩留まりと耐久性にあるという読み推測出典11の工程課題の記述からの本稿の解釈。会社は理由を説明していない
BCとの社内競合、記録競争の相対化というリスク推測出典1の記述の配分と、NLRの表での記録の推移からの本稿の解釈

最終更新:2026年9月25日/Troy Technical
本稿の数値は、LONGiが上海証券取引所に開示した法定開示書類、同社の公式プレスリリース、NLR(旧NREL)の公開資料に基づきます。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。