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NICT|光通信・フォトニクス 機関解説

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INSTITUTION PROFILE / 光通信・フォトニクス

NICT(情報通信研究機構)
― 光ネットワークを自ら研究し、企業の開発に資金も出す日本の公的機関

NICTは総務省が主に所管する国立研究開発法人で、情報通信分野を専門とする日本で唯一の公的研究機関です。 光通信との関わりは2つあります。1つは自らの研究で、マルチコア光ファイバーの長距離伝送や高速な光変調器で成果を出しています。 もう1つは資金の配分で、2023年3月にNICTに造成された情報通信研究開発基金から、Beyond 5G(6G)基金事業として企業の光ネットワーク開発に資金を出しています。 本稿では、NICTが光通信・フォトニクスにどこまで影響を持つのかに絞って整理します。

構成:NICTの令和7年度事業報告書、NICTの公式サイト(概要、沿革)、革新的情報通信技術(Beyond 5G(6G))基金事業のポータルサイト(基金の説明、採択プロジェクト一覧)を一次情報として使用/最終更新 2026年9月

この記事でわかること
  1. 30秒でわかるNICT
  2. どんな機関か ― 影響力の「型」
  3. 光通信・フォトニクスで何をしているか
  4. 影響力の範囲(権限と地域)
  5. お金の流れと支援先
  6. 今後の見通し
  7. 用語集/出典/主張と出典の対応表

1. 30秒でわかるNICT

正式名称国立研究開発法人
情報通信研究機構
英文 National Institute of Information and Communications Technology
国日本本部は東京都小金井市。海外拠点はバンコク・ワシントンDC・パリ
機関の種類国立研究開発法人業務の多くで主務大臣は総務大臣。政府の省庁ではない
設立2004年4月通信総合研究所と通信・放送機構の統合で発足
人数規模常勤職員 571人2026年3月31日現在
予算(令和7年度決算)運営費交付金 957億円ほかに基金への補助金389億円を受け入れ
光通信・フォトニクスへの関与の形自らの研究+企業への資金配分オール光ネットワーク関連の採択16件、交付決定額の合計341億円(本稿の計算)
影響が及ぶ範囲日本の予算の範囲採択先は日本企業が中心。規制・規格を決める権限はない
まず押さえるべき1点

NICTの資金配分は、総務省が決めた方針の範囲で公募・採択するしくみです。 事業報告書は、公募型研究開発プログラムを「総務省が策定する基金運用方針等に基づき」実施すると書いています 事実。 基金の戦略的プログラムは、国の答申が示した重点3技術の1つとしてオール光ネットワーク関連技術を挙げ、原則として4年以内に技術成熟度(TRL)をおおむね6、5年以内に7へ引き上げることを想定しています。 つまり方向を決めるのは総務省で、NICTはその方針にそって企業の開発に資金を出し、同時に自分でも光ネットワークの研究を進める、という二重の役割です。

2. どんな機関か ― 影響力の「型」

光通信・フォトニクスの記事に出てくる「機関」は、企業と違って光部品を製品として売りません。 その代わりに、どういう経路で業界に影響を与えるかで4つの型に分けられます。

光通信・フォトニクスを動かす「機関」の4つの型 機関は光部品を製品として売らない。どの経路で業界に影響を与えるかで4つに分かれる 資金を出す 政策・規制を決める 標準を決める 場をつくる 研究開発に予算を配る 戦略・補助金・法律 仕様・規格・勧告 学会・展示会・業界団体 NICT/AIM Photonics 総務省/米国防総省 OIF/IEEE 802.3/ITU-T OFC/IOWN GF/OCP 何を研究させるか 何を国内で作らせるか どうつなぎ、どう測るか 誰が誰に会うか 届く範囲=自国の予算 届く範囲=自国の領域 届く範囲=採用した企業 届く範囲=参加者 NICTは「資金を出す」型。Beyond 5G基金で光ネットワークの企業開発に資金を出し、自らも研究する 総務省所管の国立研究開発法人。規制や規格を決める権限はなく、資金の影響は日本の予算の範囲に届く
図1 光通信・フォトニクスに関わる機関の4つの型と、NICTの位置。区分は本稿によるもので、機関名は本シリーズで扱う8機関と、その資金の出し手である政府機関から例示しています 本稿の計算。NICTは資金配分と自らの研究開発の両方を行う研究拠点です。4つの型ではBeyond 5G基金による資金配分が最も近いため「資金」の型を強調し、自らの研究は図の下の説明に含めています。

3. 光通信・フォトニクスで何をしているか

自らの研究(令和7年度の主な成果)

研究成果
標準外径の結合型19コア光ファイバーの伝送毎秒1.02ペタビットを1,808km伝送し、伝送容量と距離の積で毎秒1.86エクサビット・kmの世界記録。さらに毎秒568テラビットの5,166km伝送で毎秒2.93エクサビット・kmと記録を更新
薄膜ニオブ酸リチウム(LN)変調器帯域が測定限界の110GHz以上、1dB帯域も100GHzの平坦な特性。208GBaud-PAM4などの信号で誤り訂正の限界以下を達成し、OFC2025のポストデッドライン論文に採択
宇宙・大気中の光通信小型衛星向けの超小型高速光端末で、地上7.4kmの水平伝搬で2Tbps伝送。キューブサット用10Gbps光端末を製造・引き渡し

企業への資金配分(Beyond 5G基金の戦略的プログラム、オール光ネットワーク関連技術の抜粋)

プロジェクト期間代表研究者(◎)と実施者交付決定額(掲載分の合計)
1T超級光トランスポート用DSP回路実装技術令和5〜9年度◎NTTイノベーティブデバイス、NTT、1FINITY、日本電気約50.0億円
小型低電力波長変換・フォーマット変換技術令和6〜8年度◎NTTイノベーティブデバイス、NTT、1FINITY、日本電気約61.0億円
帯域拡張光ノード技術令和6〜9年度◎1FINITY、NTT、NTTイノベーティブデバイス、古河電工約40.1億円
オール光ネットワークのサービス機能向上・遠隔制御対応光トランシーバ構成技術令和5〜8年度◎NTT、三菱電機、住友電工、1FINITY、日本電気約29.3億円
1.6Tbps級光トランシーバの統合プラットフォーム技術令和7〜10年度◎NTTイノベーティブデバイス、古河電工、1FINITY約11.9億円
大容量海底光ケーブル向けマルチコアファイバ技術令和7〜10年度◎住友電工約6.7億円
データセンター向け多チャネル光配線集積技術令和7〜9年度◎ザインエレクトロニクス約6.2億円

※「オール光ネットワーク関連技術」の事業戦略支援型は全16件で、掲載された交付決定額(年度の区切りごとの額)を本稿が合計すると約341.5億円です 本稿の計算。表はそのうち7件の抜粋です。ほかに共通基盤技術確立型として「オール光ネットワーク共通基盤技術の研究開発」(NTT、KDDI、1FINITY、日本電気、楽天モバイル)がありますが、金額は一覧に載っていません。1FINITYは、一覧の注記で令和7年6月までは富士通と表記されています。

素材技術者の視点:材料メーカーも採択先に入っている

令和8年度からの新しい採択には、プラスチック光ファイバーの大容量化・高密度化の研究開発が2件あり、代表研究者は東レと東ソーです 事実。 基金の採択先の多くは通信装置・光部品のメーカーですが、光ファイバーの材料そのものも支援の対象に入っています。 材料を供給する立場から見ると、装置メーカーのプロジェクトは「採用先の開発資金」、材料メーカーのプロジェクトは「自社技術の開発資金」にあたります。

4. 影響力の範囲(権限と地域)

観点NICTが持っているもの持っていないもの
権限基金事業の公募・採択・交付決定・評価。自らの研究開発。ITUや3GPPなどで議長・エディターなどの役割を担う規制や技術基準を決める権限。基金の方針を決める権限(総務省の基金運用方針に基づく)
地域日本の予算による事業。日EU・日独・日米(米国NSFと連携)の共同研究、2026年7月には日英共同研究の公募も開始海外の企業や他国の政策に直接影響する権限
規模常勤職員571人、運営費交付金957億円(令和7年度決算)光通信だけに使う予算の総額は公表されていない
期間オール光ネットワーク関連の採択は令和5〜12年度にわたる量産や販売を義務づける権限
数字の読み方の注意

「341.5億円」は、ポータルサイトの一覧に載った交付決定額を本稿が足し合わせた値で、年度の区切りごとに決まった額を合計しています 本稿の計算。 最後の年度までの交付額がまだ決まっていないプロジェクトもあるため、最終的な総額はこれと異なる可能性があります 未確定/将来。 また、事業報告書の行政コストで「革新的ネットワーク分野」は115.6億円ですが、この分野には無線や宇宙通信も含まれます。

5. お金の流れと支援先

光ネットワークの研究資金はどう流れるか(日本) 総務省が基金の方針を決め、NICTが公募・採択を担い、自らも研究を進める 総務省 基金運用方針を策定 NICT 公募・採択・交付決定・評価 Beyond 5G基金 戦略的プログラム オール光ネットワーク関連 16件・計341億円 NICT自身の研究(フォトニックネットワーク) 革新的ネットワーク分野の「フォトニックネットワーク技術」 代表研究者(抜粋) NTTイノベーティブデバイス/NTT/1FINITY 日本電気/住友電工/ザインエレクトロニクス APRESIA Systems/東レ/東ソー 令和7年度の成果 19コアファイバーで伝送容量距離積の世界記録 薄膜LN変調器(110GHz以上の帯域) 衛星向け光端末で2Tbpsの大気伝搬
図2 光ネットワークの研究資金の流れ。出典:NICTの令和7年度事業報告書、Beyond 5G(6G)基金事業のポータルサイト(基金の説明、戦略的プログラムの採択一覧)。341億円は交付決定額を本稿が合計した値です 本稿の計算。

本シリーズの企業解説との関係

企業(本シリーズの対象候補)基金での立場(採択一覧の表記)
NTTDSP、光トランシーバ構成、光ノード、共通基盤技術など多数のプロジェクトに参加。NTTイノベーティブデバイスが代表研究者のものも多い
富士通令和7年6月までは富士通、7月からは1FINITYの表記。帯域拡張光ノードなどで代表研究者
住友電工海底ケーブル向けマルチコアファイバで代表研究者。光トランシーバ構成技術の実施者
古河電工帯域拡張光ノード、1.6Tbps級光トランシーバの実施者
三菱電機光トランシーバ構成技術の実施者

※NICTの一覧には採択先ごとの実際の支出額は載っていません。表の区分は本稿が一覧から読み取ったものです 本稿の計算。

6. 今後の見通し

読み取れること根拠となる一次情報区分
オール光ネットワーク関連の採択は、2027〜2030年度ごろに研究開発期間の区切りを迎え、社会実装・海外展開の段階に移る各プロジェクトの研究開発期間(令和5〜12年度)と、4年以内にTRL6、5年以内にTRL7という想定推測
支援の対象が、通信網からデータセンターと海底ケーブル、光ファイバー材料へ広がる令和7年度以降の採択に、データセンター向け光配線、海底ケーブル、プラスチック光ファイバーが加わった推測
海外との共同研究を通じて、日本の成果を国際標準へつなげる動きが強まる日EU・日独・日米の共同研究の開始、2026年7月の日英共同研究の公募、事業報告書の「国際標準化を迅速かつ有利に推進する」との記載推測

7. 用語集

国立研究開発法人
国の研究開発を担う法人。省庁そのものではなく、主務大臣の監督のもとで業務を行う。
Beyond 5G(6G)基金事業
2023年3月にNICTに造成された情報通信研究開発基金による研究開発支援。複数年度にわたる安定的な支援を目的とする。
オール光ネットワーク
電気への変換を減らし、光のまま信号を扱うネットワーク。基金の重点3技術の1つ。
TRL
技術成熟度。数字が大きいほど実用に近い。
伝送容量距離積
1本のファイバーで送れる容量と距離を掛けた値。長距離大容量伝送の性能の指標。

8. 出典

  1. NICT 令和7年度事業報告書(常勤職員数、予算と決算、主務大臣、本部と海外拠点、沿革、研究成果、Beyond 5G基金による研究開発支援、国際共同研究、標準化活動、行政コスト)。 https://www.nict.go.jp/lde9n20000000ex5-att/u0gnsi00000007ij.pdf
  2. NICT NICTについて(情報通信分野を専門とする日本で唯一の公的研究機関)。 https://www.nict.go.jp/about/index.html
  3. NICT 沿革(2004年4月の発足、2015年4月の名称変更)。 https://www.nict.go.jp/about/history.html
  4. NICT 革新的情報通信技術(Beyond 5G(6G))基金事業について(2023年3月の基金造成、事業の趣旨)。 https://b5g-rd.nict.go.jp/aboutfund/
  5. NICT 社会実装・海外展開志向型戦略的プログラム(重点3技術、TRLの目安、採択プロジェクト一覧と交付決定額、共通基盤技術確立型)。 https://b5g-rd.nict.go.jp/f-program01/strategic.html
  6. NICT Beyond 5G(6G)基金事業ポータルのトップページ(2026年7月の日英国際共同研究の公募)。 https://b5g-rd.nict.go.jp/

9. 主張と出典の対応表

本文の主張区分出典
常勤職員571人、運営費交付金957億円・基金補助金389億円、主務大臣、本部と海外拠点、研究成果、基金運用方針に基づく公募、国際共同研究、標準化活動、行政コスト事実出典1 https://www.nict.go.jp/lde9n20000000ex5-att/u0gnsi00000007ij.pdf
情報通信分野を専門とする日本で唯一の公的研究機関事実出典2 https://www.nict.go.jp/about/index.html
2004年4月の発足と前身事実出典3 https://www.nict.go.jp/about/history.html
2023年3月の基金造成事実出典4 https://b5g-rd.nict.go.jp/aboutfund/
重点3技術、TRLの目安、各プロジェクトの期間・実施者・交付決定額、1FINITYの表記の注記事実出典5 https://b5g-rd.nict.go.jp/f-program01/strategic.html
オール光ネットワーク関連16件の交付決定額の合計 約341.5億円本稿の計算出典5 https://b5g-rd.nict.go.jp/f-program01/strategic.html
2026年7月の日英共同研究の公募事実出典6 https://b5g-rd.nict.go.jp/
機関の4つの型の区分、本シリーズ企業の区分け本稿の計算本稿による整理
光通信だけの予算総額、プロジェクトの最終的な交付総額未確定/将来出典1・5に記載なし。本稿では推計しない
第6章の見通し3項目推測出典1・5・6の内容からの本稿の解釈

最終更新:2026年9月26日/Troy Technical
本稿の数値はNICTの令和7年度事業報告書、NICTの公式サイト、Beyond 5G(6G)基金事業のポータルサイトに基づきます。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈です。