INSTITUTION PROFILE / 光通信・フォトニクス
ITU-T(SG15)
― 光ファイバーと光伝送網の「国際勧告」をつくる国連の場
ITU-Tは、国連の専門機関である国際電気通信連合(ITU)の電気通信標準化部門です。 光通信を担当するのは第15研究委員会(SG15)で、光ファイバーとケーブルの特性(G.652など)、光伝送網(OTN、G.709)、波長多重の光インターフェース(G.698.2)、光アクセス(PON)の勧告をつくっています。 データセンターの中よりも、光ファイバーそのものと、通信事業者やデータセンター間をつなぐ光伝送網に強い影響を持つ機関です。 本稿では、ITU-Tが光通信・フォトニクスにどこまで影響を持つのかに絞って整理します。
- 30秒でわかるITU-T
- どんな機関か ― 影響力の「型」
- 光通信・フォトニクスで何をしているか
- 影響力の範囲(権限と地域)
- 関わっている国・組織
- 今後の見通し
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるITU-T
ITU-Tの勧告は、各国の国内法に採用されるまでは任意の規格です。 ITU-T自身が「勧告は国内法に採用されるまで強制力を持たない。それでも国際的に適用でき品質が高いため、準拠の度合いは高い」と説明しています 事実。 8機関の中で唯一の政府間の国際機関で、加盟国は194か国にのぼりますが、OIFやIEEE 802.3と同じく守らせる権限そのものは持っていません。 影響力の源は、光ファイバーの特性や光伝送網の仕様が「国際的な共通の定義」として各国の事業者・メーカーに参照されることにあります。
2. どんな機関か ― 影響力の「型」
光通信・フォトニクスの記事に出てくる「機関」は、企業と違って光部品を製品として売りません。 その代わりに、どういう経路で業界に影響を与えるかで4つの型に分けられます。
3. 光通信・フォトニクスで何をしているか
SG15は「光伝送網、アクセス網、ホームネットワーク、電力網の基盤・システム・装置、光ファイバーとケーブル」の標準を担当し、ITU-Tの中で光技術の主管研究委員会に指定されています 事実。 代表的な勧告と、2026年7月の会合(モントリオール)での動きは次のとおりです。
| 分野 | 代表的な勧告(現行版) | 中身 | 2026年7月会合での動き |
|---|---|---|---|
| 光ファイバー・ケーブル | G.652(2024年8月版) | シングルモード光ファイバーとケーブルの特性 | G.650.1の改訂範囲に弱結合マルチコアファイバーの幾何特性を追加。中空コアファイバーの技術報告を新たに開始 |
| 波長多重の光インターフェース | G.698.2(2018年11月版) | 増幅器を使う多チャネルDWDMの、1チャネルごとの光インターフェース | 改訂版G.698.2への800G DWDMの追加を進め、1テラ超(B1T)の追加も改訂作業中 |
| 光伝送網(OTN) | G.709/Y.1331(2020年6月版と追補) | 光伝送網のインターフェース | FlexOのG.709.6に1.6Tb/sの長距離インターフェースを規定。OIFの1600ZR+と同じ光インターフェースを使い、光モジュールを共用できる |
| 光アクセス(PON) | G.9804.3(2021年9月版と追補) | 50G-PONの物理層 | 超高速PON(VHSP)の作業を継続 |
| イーサネットの取り込み | G.8020.3 | ITU-Tの伝送網の勧告の中でイーサネットを扱う | 第3版でIEEE Std 802.3-2022と追補を「参照による取り込み」。IEEE 802.3へリエゾンを送付 |
会合全体では、438件の寄書を受け、新規2件・改訂12件の勧告を含む33件の文書に合意(Consent)しました。 AIの影響をテーマにしたワークショップを3件開き、そのうち1件はIEEE 802との合同でした 事実。
データセンター内の光トランシーバーはIEEE 802.3やOIFの仕様で動きますが、その光を通す光ファイバー自体の特性はG.652などITU-Tの勧告で定義されています。 2026年7月の会合では、マルチコアファイバーの測定方法(G.650.1の改訂)や、中空コアファイバーの技術報告が動き出しました。 光ファイバー、ケーブル被覆材、接続部品を扱う立場からは、新しい種類のファイバーが勧告として定義されるかどうかが、国際的な調達条件に載るかどうかの分かれ目になります(本稿の見方)。
4. 影響力の範囲(権限と地域)
| 観点 | ITU-Tが持っているもの | 持っていないもの |
|---|---|---|
| 権限 | 研究委員会で合意した勧告を承認し、国際標準として発行する権限 | 勧告を守らせる権限(国内法に採用されるまで任意)、研究資金 |
| 地域 | 国際。194か国が加盟する国連の専門機関。本部はジュネーブ | 各国が勧告を国内でどう扱うかを決める権限 |
| 承認の手続き | 大半の勧告は代替承認手続き(AAP)で、4週間の意見募集に加盟国と部門会員が同等に参加。規制に関わるものは伝統的承認手続き(TAP) | 個人単位の投票(IEEE 802.3とは違う) |
| 会員 | 加盟国と、企業・大学・国際機関などの部門会員(ITU全体で1,000超) | 会員でない企業に参加や採用を義務づける権限 |
| 他団体との関係 | IEEE 802と合同ワークショップ、IEEE 802.1・802.3やIEC TC86 SC86Aへリエゾン、OIFの1600ZR+と光インターフェースを共通化 | IEEEやOIFの規格を直接改める権限 |
「194か国」「1,000超」はITU全体の会員数で、SG15に参加している国や企業の数ではありません。 SG15の規模の目安は、2026年7月の会合の出席者377人・40か国です。 また、各勧告を国内法や通信事業者の調達仕様に採用している国の数は、本稿で確認した一次情報には載っていません 未確定/将来。
5. 関わっている国・組織
SG15の会合要約には、中間会合を中国聯通(China Unicom)が成都で主催することなどが書かれていますが、本シリーズの企業解説の対象企業との関係は、本稿で確認した一次情報からは読み取れません。 そのため、企業名は挙げていません。
6. 今後の見通し
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| 通信事業者の光伝送網でも1.6Tと1テラ超(B1T)の国際標準がそろい、データセンター間と事業者網で光モジュールの共用が進む | G.709.6に1.6Tb/sの長距離インターフェースを規定し、OIFの1600ZR+と光インターフェースを共通化。G.698.2に800G DWDMとB1Tを追加する改訂が進行中 | 推測 |
| マルチコアファイバーと中空コアファイバーが勧告の対象に入っていく | G.650.1の改訂範囲に弱結合マルチコアファイバーを追加、中空コアファイバーの技術報告を開始、IEC TC86 SC86Aへリエゾン | 推測 |
| AIデータセンター向けの光網が、SG15の新しい検討テーマになる | 2026年7月にAIをテーマにしたワークショップを3件開催し、ION-2030の枠組みで技術報告TR.ION-aiDC(名称にAIデータセンターを示すaiDCを含む)を進めている | 推測 |
7. 用語集
- 勧告(Recommendation)
- ITU-Tの国際標準の正式名。各国の国内法に採用されるまで任意。
- SG15
- ITU-Tの第15研究委員会。光伝送網・アクセス網・光ファイバーとケーブルを担当。
- OTN/FlexO
- OTNは通信事業者の光伝送網の枠組み。FlexOは高速インターフェースを柔軟に束ねる方式で、G.709.xの勧告群で定義。
- AAP
- 代替承認手続き。合意後に4週間の意見募集を行い、意見がなければ承認とする迅速な手続き。
- 部門会員(Sector Member)
- ITUの活動に参加する企業・大学・団体。加盟国と並んで勧告づくりに加わる。
8. 出典
- ITU About ITU(国連の専門機関、194の加盟国と1,000超の企業・大学・国際機関、本部ジュネーブ、1865年設立)。 https://www.itu.int/en/about/Pages/default.aspx
- ITU-T ITU-T in brief(研究委員会と勧告、TSBの役割)。 https://www.itu.int/en/ITU-T/about/Pages/default.aspx
- ITU-T ITU-T Recommendations(勧告は国内法に採用されるまで強制力を持たない、準拠の度合いは高い)。 https://www.itu.int/en/ITU-T/publications/pages/recs.aspx
- ITU-T Standards approval(AAPとTAP、4週間のLast Call、加盟国と部門会員の同等の機会)。 https://www.itu.int/en/ITU-T/about/Pages/approval.aspx
- ITU-T SG15 Mandate and lead roles(所掌、光技術の主管研究委員会)。 https://www.itu.int/en/ITU-T/studygroups/2025-2028/15/Pages/mandate.aspx
- ITU-T SG15 Executive Summary(2026年7月、モントリオール)。出席者・寄書・合意件数、G.650.1・G.698.2・G.709.6・G.8020.3の動き、IEEE 802・IEC TC86 SC86Aへのリエゾン。 https://www.itu.int/en/ITU-T/studygroups/2025-2028/15/Pages/exec_sum_2026-07.aspx
- ITU-T SG15のトップページ(IEEE 802との第10回合同ワークショップ、OFC 2026・ECOC 2026でのセッションと展示)。 https://www.itu.int/en/ITU-T/studygroups/2025-2028/15/Pages/default.aspx
- ITU-T Recommendation G.652(現行版 2024年8月)。 https://www.itu.int/rec/T-REC-G.652/en
- ITU-T Recommendation G.709/Y.1331(現行版 2020年6月と追補・正誤表)。 https://www.itu.int/rec/T-REC-G.709/en
- ITU-T Recommendation G.698.2(現行版 2018年11月)。 https://www.itu.int/rec/T-REC-G.698.2/en
- ITU-T Recommendation G.9804.3(50G-PONの物理層、現行版 2021年9月と追補)。 https://www.itu.int/rec/T-REC-G.9804.3/en
- OIF Liaisons(ITU-SG15へのリエゾン)。 https://www.oiforum.com/technical-work/liaisons/
9. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年9月26日/Troy Technical
本稿の記述はITUとITU-Tの公式サイト(SG15の会合要約、勧告のページを含む)とOIFの公式サイトに基づきます。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈です。