🌐 This site is also available in English Visit English Site →
🌐 English

IEEE 802.3|光通信・フォトニクス 機関解説

技術・機関・企業解説の一覧へ戻る

INSTITUTION PROFILE / 光通信・フォトニクス

IEEE 802.3
― イーサネットの規格を「個人の投票」で決める作業部会

IEEE 802.3は、米国に本部を置く技術者団体IEEEの標準化部門(IEEE SA)の中で、イーサネットの規格IEEE Std 802.3をつくる作業部会です。 イーサネットの場合、スイッチと光トランシーバーがやり取りする信号の速度や、光ファイバー上の物理層の仕様は、この作業部会の規格として決まります。 国の機関ではなく、規格に法的な拘束力もありませんが、規格はISO/IECの国際規格にも採用されます。 本稿では、IEEE 802.3が光通信・フォトニクスにどこまで影響を持つのかに絞って整理します。

構成:IEEE 802.3作業部会の公式ページ(プロジェクト一覧、投票資格、投票記録)、IEEE SAの規格ページ、IEEE 802 LMSCのページ、ISO/IEC JTC 1/SC 6へのリエゾン文書、ITU-T SG15の会合要約を一次情報として使用/最終更新 2026年9月

この記事でわかること
  1. 30秒でわかるIEEE 802.3
  2. どんな機関か ― 影響力の「型」
  3. 光通信・フォトニクスで何をしているか
  4. 影響力の範囲(権限と地域)
  5. 関わっている組織
  6. 今後の見通し
  7. 用語集/出典/主張と出典の対応表

1. 30秒でわかるIEEE 802.3

正式名称IEEE 802.3 Ethernet Working GroupIEEE 802 LAN/MAN標準委員会(LMSC)の作業部会
国・地域米国に本部を置くIEEEの組織IEEEの本部はニュージャージー州ピスカタウェイ
機関の種類技術者団体の標準化部門の作業部会IEEEは公益慈善団体(public charity)。政府機関ではない
上位の組織IEEE SA / IEEE Computer Society規格の最終承認はIEEE SAの標準化委員会
人数規模投票記録に265人2026年9月10日時点の名簿を本稿で数えた値。会員は個人単位
規格の入手発行済みの規格は無料IEEEのGETプログラムでPDFを無償公開。草案は有償
光通信・フォトニクスへの関与の形イーサネット規格(光の物理層を含む)の策定1.6TのP802.3dj、マルチモードファイバーのP802.3ds、400G/レーンの検討
影響が及ぶ範囲規格を採用する世界の企業任意規格。IEEE 802.3-2022はISO/IECでの採用手続きに提出
まず押さえるべき1点

IEEE 802.3の投票権は企業ではなく個人に与えられます。作業部会の投票資格のページは「会員資格は個人単位で、企業単位ではない」と明記しており、 直近4回の全体会合のうち2回で、会議時間の75%以上に出席することが条件です 事実。 草案は作業部会の投票とIEEE SAの投票の2段階を通り、IEEE SAの標準化委員会が承認して規格になります。 つまり「どこかの国や企業の規格」ではなく、各社の技術者が個人として参加して決める規格です。この点が、会社単位で投票するOIFや、加盟国と企業などの部門会員が承認に関わるITU-Tとの違いです。

2. どんな機関か ― 影響力の「型」

光通信・フォトニクスの記事に出てくる「機関」は、企業と違って光部品を製品として売りません。 その代わりに、どういう経路で業界に影響を与えるかで4つの型に分けられます。

光通信・フォトニクスを動かす「機関」の4つの型 機関は光部品を製品として売らない。どの経路で業界に影響を与えるかで4つに分かれる 資金を出す 政策・規制を決める 標準を決める 場をつくる 研究開発に予算を配る 戦略・補助金・法律 仕様・規格・勧告 学会・展示会・業界団体 NICT/AIM Photonics 総務省/米国防総省 OIF/IEEE 802.3/ITU-T OFC/IOWN GF/OCP 何を研究させるか 何を国内で作らせるか どうつなぎ、どう測るか 誰が誰に会うか 届く範囲=自国の予算 届く範囲=自国の領域 届く範囲=採用した企業 届く範囲=参加者 IEEE 802.3は「標準を決める」型。光ファイバーの物理層を含むイーサネットの規格をつくる 規格に法的な拘束力はないが、ISO/IECの国際規格にも採用される。投票権は企業でなく個人が持つ
図1 光通信・フォトニクスに関わる機関の4つの型と、IEEE 802.3の位置。区分は本稿によるもので、機関名は本シリーズで扱う8機関と、その資金の出し手である政府機関から例示しています 本稿の計算。IEEE 802.3は米国に本部を置くIEEEの中の作業部会で、国の機関ではありませんが、イーサネット規格の本体をつくる場なので「標準」の型に置いています。

3. 光通信・フォトニクスで何をしているか

IEEE 802.3の作業は、プロジェクトごとに「タスクフォース」や「スタディグループ」が担います。 データセンターの光インターコネクトに関わる主なものは次のとおりです 事実。

プロジェクト状態中身
IEEE 802.3df-20242024年2月15日に承認、同年3月15日に発行400Gb/sと800Gb/sのイーサネット。800Gb/sのMAC(データのやり取りの規則)と、400G・800Gの物理層を追加
IEEE P802.3dj2022年12月3日にプロジェクト承認。2026年9月時点で審議中1.6Tb/sのMACと、200G・400G・800G・1.6Tb/sの物理層と管理パラメータ
IEEE P802.3ds審議中1レーンあたり200Gb/sの信号で、マルチモードファイバー上に200Gb/s以上を送る物理層
400 Gb/s/Lane Signaling スタディグループ2026年3月13日に設置。7月17日にプロジェクト案(PAR)をIEEE 802 LMSCが承認1レーン400Gb/sの信号による電気インターフェースと、最大500mのシングルモードファイバーの光インターフェース
IEEE Std 802.3-2022現行の統合版イーサネット規格の本体。ISO/IECでの採用手続き(PSDO協定)に提出された
素材技術者の視点:「1レーンあたりの速度」が上がるたびに部品の条件が変わる

800G(802.3df)から1.6T(P802.3dj)、さらに1レーン400Gb/sの検討へと、IEEE 802.3は1本の信号線・1本の光路が運ぶ速度を段階的に上げています。 1レーンの速度が上がると、同じ総容量を少ない本数で運べる一方で、光トランシーバーの変調器・受光器や基板の電気配線には、より高い周波数での損失の小ささが求められます。 400Gb/s/レーンの検討範囲が「最大500mのシングルモードファイバー」と明記されている点は、データセンター内の比較的短い光リンクが次の主戦場であることを示しています 事実。

4. 影響力の範囲(権限と地域)

観点IEEE 802.3が持っているもの持っていないもの
権限規格案をつくり、作業部会の投票にかける権限。承認された規格はIEEE SAの標準化委員会が承認し、IEEEが発行する規格を守らせる権限、製品を認証する権限、研究資金
地域国際。IEEE SAは160か国を超える国々の専門家と協働すると説明。IEEE 802.3-2022はISO/IEC JTC 1/SC 6での採用手続きに提出各国の法律や技術基準に組み込むかどうかを決める権限(各国の判断)
参加資格会員は個人単位。作業部会投票は会員、IEEE SA投票はIEEE SA会員(または1回ごとの手数料を払った人)が投票企業や国に票を配る仕組み
規格の入手発行済みのIEEE 802規格は無料でダウンロードできる(IEEEのGETプログラム)審議中の草案の無償公開(草案は購入が必要)
他団体との関係OIFがIEEE 802.3にリエゾンを置き、ITU-T SG15とは合同ワークショップを開催OIFのIAやITU-Tの勧告を置き換える権限
数字の読み方の注意

「265人」は、作業部会が公開する投票記録の名簿に載っている人数を本稿が数えた値で、作業部会が公表した会員数ではありません 本稿の計算。 会合への出席者や意見を出す人は、この人数より多い可能性があります。 また、P802.3djの完成時期は、本稿で確認した一次情報(IEEE SAの規格ページ)には載っていません 未確定/将来。

5. 関わっている組織

IEEE 802.3はどこに位置し、誰とつながっているか 左はIEEEの中の階層、右は外部の団体とのやり取り IEEE / IEEE SA(米国) 標準化委員会が規格を最終承認 IEEE 802 LMSC LAN・MANの標準委員会 IEEE 802.3 作業部会 投票権は個人単位 P802.3dj(1.6T・審議中) P802.3ds(MMF 200G/レーン) 400G/レーンのスタディグループ OIF(業界団体) IEEE 802.3にリエゾン(連絡役)を置く CMIS-APSUで802.3djの付属書178Bを管理 ITU-T SG15(国連の専門機関) 2026年7月に第10回の合同ワークショップ 「参照による取り込み」でリエゾンを送付 ISO/IEC JTC 1/SC 6 IEEE 802.3-2022をPSDO協定のもとで 国際規格として採用する手続き
図2 IEEE 802.3の位置と外部の団体との関係。出典:IEEE 802.3とIEEE 802 LMSCの公式ページ、IEEE SAの規格ページ、OIFの現行プロジェクトとリエゾンのページ、ITU-T SG15の会合要約(2026年7月)、IEEE 802.3からISO/IEC JTC 1/SC 6へのリエゾン文書(2024年5月) 事実。

IEEE 802.3は個人単位の組織で、本稿で確認した公開ページには参加者の所属企業の一覧がありません。 そのため、本シリーズの企業解説の対象企業との関係は挙げていません。 ISO/IEC JTC 1/SC 6での採用手続きでは、中国の国内委員会がIEEE 802.3-2022にセキュリティの仕組みが含まれていないとの意見を出し、作業部会が回答しています 事実。 国際規格化の場では、国ごとの立場の違いが意見として表に出ることがわかります。

6. 今後の見通し

読み取れること根拠となる一次情報区分
P802.3djの完成で、1.6Tイーサネットの光トランシーバーに規格上の裏付けがそろうP802.3djは1.6Tb/sのMACと物理層を定める審議中のプロジェクト。OIFはその付属書178Bを管理する仕様を作業中推測
次の世代は1レーン400Gb/sで、データセンター内の最大500mの光リンクが中心になる400Gb/s/レーンのスタディグループのプロジェクト案が2026年7月にIEEE 802 LMSCで承認推測
OIF・ITU-Tとの分担と連絡は続くOIFのリエゾン、ITU-T SG15との合同ワークショップ(第10回)とリエゾンの送付推測

7. 用語集

作業部会(WG)
IEEE 802の中で、分野ごとに規格をつくる単位。802.3はイーサネット、802.11は無線LAN。
PAR
Project Authorization Request。規格プロジェクトの範囲と目的を定めた承認文書。
MAC/物理層(PHY)
MACはデータの送り方の規則、物理層は電気信号や光信号として伝える部分の仕様。
SMF/MMF
シングルモードファイバーとマルチモードファイバー。MMFは短距離向けで、光源や受光器の条件が異なる。
PSDO協定
IEEEとISOの間の協定。IEEEの規格をISO/IECの国際規格として採用する手続きに使われる。

8. 出典

  1. IEEE 802.3 IEEE 802.3 Ethernet Working Group(プロジェクト一覧、発行済み802規格の無料ダウンロード、規格と草案の購入、2026年8月6日更新)。 https://www.ieee802.org/3/
  2. IEEE 802.3 Requirements for voting on IEEE 802.3 drafts(2段階の投票、会員は個人単位、出席要件)。 https://www.ieee802.org/3/rules/member.html
  3. IEEE 802.3 IEEE 802.3 member ballot return records(2026年9月10日時点の投票記録の名簿)。 https://www.ieee802.org/3/ballots/ballot_returns.pdf
  4. IEEE SA IEEE P802.3dj(Active PAR、PAR承認日、範囲、上位の委員会。同ページの作業部会の他の活動欄にP802.3dsの範囲と802.3ck・802.3dfの無償公開の記載)。 https://standards.ieee.org/ieee/802.3dj/11115/
  5. IEEE SA IEEE 802.3df-2024(承認日・発行日・範囲)。 https://standards.ieee.org/ieee/802.3df/11107/
  6. IEEE 802.3 IEEE 802.3 400 Gb/s/Lane Signaling Study Group(設置日、範囲、PAR・CSDの承認日)。 https://www.ieee802.org/3/400GPL/index.html
  7. IEEE 802 LMSC IEEE 802 LAN/MAN Standards Committee(作業部会の一覧と役割)。 https://www.ieee802.org/
  8. IEEE SA About IEEE Standards Association(160か国超の専門家、IEEEが公益慈善団体であること)。 https://standards.ieee.org/about/
  9. IEEE SA Contact(本部の所在地:IEEE Operations Center、ニュージャージー州ピスカタウェイ)。 https://standards.ieee.org/about/contact/
  10. IEEE 802.3 ISO/IEC JTC 1/SC 6へのリエゾン文書(2024年5月16日合意)。IEEE 802.3-2022のPSDO協定に基づく採用手続きと中国国内委員会の意見への回答。 https://www.ieee802.org/3/minutes/may24/outgoing/IEEE_802d3_to_ISO-IEC_JTC-1_SC-6_Redacted.pdf
  11. ITU-T SG15 Executive Summary(2026年7月、モントリオール)。IEEE 802.1・802.3への「参照による取り込み」に関するリエゾン、IEEE 802との合同ワークショップ。 https://www.itu.int/en/ITU-T/studygroups/2025-2028/15/Pages/exec_sum_2026-07.aspx
  12. OIF Current OIF Work(CMIS-APSUがIEEE 802.3djの付属書178Bに対応すること)。 https://www.oiforum.com/technical-work/current-work/
  13. OIF Liaisons(IEEE 802.3へのリエゾン)。 https://www.oiforum.com/technical-work/liaisons/

9. 主張と出典の対応表

本文の主張区分出典
プロジェクト一覧、発行済み802規格の無料ダウンロード、草案は購入事実出典1 https://www.ieee802.org/3/
会員は個人単位、出席要件、2段階の投票事実出典2 https://www.ieee802.org/3/rules/member.html
投票記録の名簿に265人(本稿が数えた値)本稿の計算出典3 https://www.ieee802.org/3/ballots/ballot_returns.pdf
P802.3djのPAR承認日・審議中・範囲、P802.3dsの範囲、上位がIEEE Computer Society事実出典4 https://standards.ieee.org/ieee/802.3dj/11115/
802.3df-2024の承認日・発行日・範囲事実出典5 https://standards.ieee.org/ieee/802.3df/11107/
400Gb/s/レーンの検討の設置日・範囲・PAR承認日事実出典6 https://www.ieee802.org/3/400GPL/index.html
IEEE 802 LMSCの作業部会の構成事実出典7 https://www.ieee802.org/
160か国超、IEEEは公益慈善団体事実出典8 https://standards.ieee.org/about/
IEEEの本部所在地事実出典9 https://standards.ieee.org/about/contact/
IEEE 802.3-2022のISO/IECでの採用手続き、中国国内委員会の意見事実出典10 https://www.ieee802.org/3/minutes/may24/outgoing/IEEE_802d3_to_ISO-IEC_JTC-1_SC-6_Redacted.pdf
ITU-T SG15との合同ワークショップとリエゾン事実出典11 https://www.itu.int/en/ITU-T/studygroups/2025-2028/15/Pages/exec_sum_2026-07.aspx
OIFのCMIS-APSUと802.3djの関係事実出典12 https://www.oiforum.com/technical-work/current-work/
OIFのIEEE 802.3へのリエゾン事実出典13 https://www.oiforum.com/technical-work/liaisons/
機関の4つの型の区分本稿の計算本稿による整理
P802.3djの完成時期、公表された会員数未確定/将来出典1〜6に記載なし。本稿では推計しない
第6章の見通し3項目推測出典4・6・11〜13の内容からの本稿の解釈

最終更新:2026年9月26日/Troy Technical
本稿の記述はIEEE 802.3・IEEE SA・IEEE 802 LMSCの公式ページと公開文書、およびITU-TとOIFの公式サイトに基づきます。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈です。