主要成果
GoogleのQuantum AIチームは、量子プロセッサ「Willow」において、特殊な量子状態を準備する際のエラー率を約40倍削減する「マジック状態生成(magic state cultivation)」技術を実証しました。これにより、T状態の論理フィデリティ(忠実度)は、この分野で史上最高となる99.99%に達しました。この研究成果は、Science誌に掲載されています。
技術・詳細
汎用的な量子計算を実現するには「マジック状態」と呼ばれる特殊なリソースが必要ですが、これらは一度使用すると再利用できず、高品質な状態を準備するには膨大なリソースを消費します。従来の標準的な解決策である「蒸留(distillation)」では、大量のノイズを含む状態を精製するために大規模な量子ビット「工場」が必要となり、計算能力の最大95%がこの工程に割かれるとの試算もありました。
これに対し、Googleが提案した「マジック状態生成」は、高度なフィルタリングメカニズムに近い手法です。具体的には、ノイズを含む量子状態をチップの狭い領域に注入し、一連の調整された測定操作を通じて欠陥のある試行を検出して破棄することで、高純度で低エラー率の状態を「育成」し、同時に拡張可能な形式でエンコードします。このプロセスの核心は、状態を破壊せずに「目的のマジック状態であるか」というYes/Noの回答のみを得る測定手法にあります。
実証実験では、Willowの全105量子ビットのうち54量子ビットを使用しました。成功率は約8%であり、残りの92%は欠陥検出により破棄されました。また、研究チームは、育成された純粋な量子状態を「距離-3カラーコード」から「距離-5表面コード」へとスムーズに転送する「接ぎ木(grafting)」操作にも成功し、異なるエラー訂正スキーム間での互換性を証明しました。
背景・業界の文脈
実装への過程では、電気設備のドリフトや温度変動によるノイズがベンチマークの妥当性を損なうという課題がありましたが、チームはノイズ抑制制御の追加と、育成プロセス自体を自己校正ツールとして利用する新しいベンチマーク手法を開発することでこれを克服しました。また、量子ハードウェアの規模拡大競争は世界的に激化しており、日本の理化学研究所と大阪大学が開発した144量子ビットの「Rei-II」が2026年3月26日にクラウドサービスを開始したほか、台湾の中央研究院が2026年1月に20量子ビットの超伝導量子コンピュータを公開するなど、開発が加速しています。
今後の展望
本技術のスケールアップに成功すれば、耐故障性量子コンピュータの構築に必要なハードウェア要件を劇的に圧縮でき、実用化へのコスト曲線を大幅に引き下げることが可能です。実際、Craig Gidney氏による2025年5月の論文では、2048ビットのRSA鍵を因数分解するために必要な量子ビット数の見積もりが、2019年時点の2,000万個(ノイズあり)から100万個未満へと下方修正されており、マジック状態生成はこの修正を支える3つの主要因の一つとなっています。今回の実験は、このコスト見積もりの前提条件が実際のハードウェアで初めて検証されたことを意味します。
元記事: https://finance.biggo.com/news/aed77f1b-c048-47a7-af0d-07ca31edfcb7
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