量子メモリチップ|UIUCが商用プラットフォームで20光子を1マイクロ秒以上保存

Tech Times アメリカ
概要
イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(UIUC)の研究チームが、商用フォトニクス製造プラットフォームで動作するオンチップ量子メモリを実証しました。このデバイスは最大20個の光子を同時に保存し、1.2マイクロ秒という保存時間を達成しながら、96.6%以上の忠実度(フィデリティ)を維持しています。これにより、量子ネットワークの同期に不可欠なバッファ機能が、既存の商用製造ラインでの量産可能な形で実現されました。
詳細

主要成果

UIUCのエリザベス・ゴールドシュミット教授が率いる研究チームは、商用フォトニクスファウンドリがウェハー規模で製造可能なプラットフォームを用いて、オンチップ量子メモリを開発しました。このチップは、最大20個の独立した光子を同時に保存し、保存時間は最大1.2マイクロ秒に達します。また、保存された光の量子特性を維持する忠実度の下限値は96.6%と測定されました。

技術的詳細

本デバイスは、光ファイバー通信などの古典的なフォトニクス製造ですでに使用されている「エルビウム添加薄膜ニオブ酸リチウム(TFLN)」を採用しています。導波路の長さは約0.6mmで、エルビウム原子がドープされています。

光子の保存には、エルビウム原子の量子特性を利用した「原子周波数コム(AFC)」と「スペクトルホールバーニング」という手法が用いられています。具体的には、精密に調整されたレーザーを用いてエルビウム集団にコム状の吸収パターンを形成し、光子が吸収されることで量子状態を一時的に保存します。このコムの歯の間隔を狭めることで、エコーの発生を遅らせ、保存時間を延長させることが可能です。

動作環境は、30ミリケルビンの極低温および1.5テスラの磁場下です。この環境は、スペクトルホールの安定化と熱ノイズの抑制に不可欠であり、特に磁場はAFCの持続的な構造を維持するために必要となります。

性能検証では、50ナノ秒間隔のタイムビン量子ビットを使用し、保存・回収後の干渉によるフリンジ可視性が96.6 ± 1.9%であったことから、量子コヒーレンスの生存が確認されました。また、2.2GHzの受容帯域幅にわたり、最大20の時間モード(20個の別個の光子)を同時に保存できるマルチプレクシング能力を備えています。内部回収効率は300ナノ秒遅延で2.9%、1マイクロ秒時点で0.7%となりました。

背景と業界の文脈

量子ネットワークでは、光子として情報が伝送されますが、処理速度の異なる操作を同期させるための「一時停止(バッファ)」機能が必要です。チップ上の距離を光が通過する時間は極めて短いため、単純な光遅延線で1マイクロ秒を確保しようとすると、約150メートルの導波路が必要となり、信号の減衰により現実的ではありません。UIUCのチームは、幾何学的な長さではなく材料化学的に量子状態を転送・保存することで、この物理的限界を回避しました。

1マイクロ秒という閾値は、大規模データセンターやキャンパス規模の量子ネットワークにおける設備ラック間の往復光伝搬時間に相当します。これは、IonQ社が2026年10月9日に発表した量子インターコネクトの突破口(毎秒1,032回のもつれイベントを達成)において、古典的な確認信号の往復待ち時間に同期させるために必要とされる機能と一致しています。

今後の展望

本研究の最大の意義は、高度に専門的な研究室環境でしか不可能だった操作を、量子光学の専門知識を持たない商用製造業者が量産可能なプラットフォームに落とし込んだ点にあります。今後の課題は、保存時間の延長に伴い低下するコムのフィネスを改善し、回収効率を高めるというエンジニアリング上の最適化にあります。

元記事: https://www.techtimes.com/articles/329035/20261014/illinois-quantum-memory-chip-stores-20-photons-past-microsecond-commercial-telecom-platform.htm

毎週の技術動向レポートを無料でお届け

各分野の分析レポートを読む価値があるかどうか一目で判断できるインフォグラフィックをメールで受け取れます。

📢 メールマガジンに無料登録(週刊・技術動向レポート)

ご登録いただくと、Troy-Technical から週刊で技術動向レポート(メールマガジン)をお届けします。

  • 取得したメールアドレス・選択分野は配信目的にのみ使用します。
  • 第三者へ提供することはありません。
  • 配信はいつでも解除できます(各メール下部のリンクから)。

詳しくはプライバシーポリシーをご覧ください。

登録は1分・いつでも解除できます

この記事は Troy-Technical が公開しています。素材メーカーで技術開発に携わってきた技術者が、個人で運営しているサイトです。
運営者について / お問い合わせ info@troy-technical.jp
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次