INSTITUTION PROFILE / 創薬・DDS
AACR
― がんの新薬候補が「最初に姿を見せる」世界最大級の研究学会
AACR(米国がん学会)は、がんの基礎・橋渡し・臨床の研究者が集まる学会です。 薬を承認する権限も、研究費を配る国の予算もありません。 それでも創薬の世界で注目されるのは、春の年次総会(2026年は4月)が、抗がん剤の候補の化学構造や初期の臨床試験の結果が初めて公開される場になっているからです。 本稿では、AACRが創薬・DDSにどこまで影響を持つのかを、年次総会・学術誌・研究助成の3つの経路から整理します。
- 30秒でわかるAACR
- どんな機関か ― 影響力の「型」
- 創薬・DDSで何をしているか
- 影響力の範囲(権限と地域)
- 関わっている企業・組織
- 今後の見通し
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるAACR
AACRの影響力は「どのデータが、いつ、誰の前で初めて公開されるか」を決める場を持っていることにあります。 2026年の年次総会では約250件の臨床試験が発表され、そのうち完了した第III相試験が11件ありました 事実。 ただし、発表された結果をもとに薬を承認するかどうかを決めるのは各国の規制当局で、 AACR自身は承認にも診療にも直接の権限を持ちません。
2. どんな機関か ― 影響力の「型」
創薬・DDSの記事に出てくる「機関」は、企業と違って自分では薬を売りません。 その代わりに、どういう経路で業界に影響を与えるかで4つの型に分けられます。
3. 創薬・DDSで何をしているか
AACRの創薬への関わり方は、年次総会、学術誌、研究助成と政策提言の3つに分けられます 事実。
| 活動 | 規模 | 中身 | 創薬・DDSとの関係 |
|---|---|---|---|
| 年次総会(2026年) | 4月17〜22日、米国サンディエゴ 登録者2万3,000人超・74の国・地域 | 招待演者760人超。臨床試験の発表は過去最多の約250件で、完了した第III相試験11件、進行中の第III相試験の紹介6件を含む | 臨床試験のプレナリー(全体会)は、精密医療(KRAS阻害)、ADC、細胞療法、免疫療法の4回 |
| New Drugs on the Horizon | 年次総会の中の3セッション・計12演題(各20分) | 臨床試験中か、まもなく臨床試験に入る低分子・高分子の薬の化学構造と生物学を初めて公開する。審査委員は秘密保持契約に署名し、内容は発表日まで非公開 | 企業が開発候補の構造を明かす場。2026年も12件が初公開 |
| 学術誌 | 査読付き10誌 | Cancer Discovery、Cancer Research、Clinical Cancer Research、Molecular Cancer Therapeutics、Blood Cancer Discovery など | 前臨床から臨床までの研究成果の論文発表の場 |
| 研究助成・学術集会・政策提言 | 年30以上の学術集会・研修 | 研究費の直接助成、Stand Up To Cancerの科学パートナーとしての審査・運営、連邦政府のがん研究予算への提言 | 若手研究者の育成と、NIHなどの公的予算を求める活動 |
製薬企業にとって、開発中の薬の化学構造は重要な企業秘密です。 New Drugs on the Horizonは、その構造を発表日まで伏せたまま審査し、当日に初めて公開する仕組みを整えています。 研究者や競合企業はここで初めて新しい薬の設計を知ることになり、 低分子から高分子まで、新しい薬の設計の流れを読む手がかりにもなります。 2026年のADCのプレナリーでは、ADCのトラスツズマブ デルクステカン(Enhertu)とPARP阻害薬オラパリブの併用の第I相試験や、 新しいEGFR標的ADCの第I相試験の結果が発表されました 事実。
4. 影響力の範囲(権限と地域)
| 観点 | AACRが持っているもの | 持っていないもの |
|---|---|---|
| 権限 | 年次総会でどの演題を採択し、どの枠で発表させるかを決める権限。学術誌の査読と掲載の判断 | 薬の承認・安全対策・保険償還を決める権限。企業に試験の実施や結果の公開を義務づける権限 |
| 地域 | 本部は米国だが、会員は143の国・地域、2026年の年次総会の登録者は74の国・地域から | 特定の国の規制や予算に直接影響する権限(米国の連邦予算には提言を通じて働きかける) |
| 対象 | がんの基礎・橋渡し・臨床の研究者、製薬企業、患者支援団体、報道機関(2026年は記者190人超が登録) | がん以外の分野 |
| 規模 | 会員6万5,000人超、査読付き10誌、年30以上の学術集会 | 総収入などの財務の数値は本稿では確認していない |
「登録者2万3,000人超」は年次総会への登録者数で、会員数(6万5,000人超)とは別の数字です。 また、年次総会で発表される臨床試験の多くは第I相・第II相の初期段階で、2026年に発表された約250件のうち 完了した第III相試験は11件でした 事実。 学会での発表は、承認に必要な審査を経たものではなく、その後の承認や診療への採用を保証するものではありません。
5. 関わっている企業・組織
年次総会2026の協賛企業(本シリーズの企業解説の候補にあたるもの)
| 協賛の区分(AACRの表記) | 企業 | 読み方の注意 |
|---|---|---|
| Cure Level | AstraZeneca、GSK | 最上位の区分。金額は公表されていない |
| Progress Level | Daiichi Sankyo, Inc.、Lilly | 女性のがんの研究基金も同じ区分に並ぶ |
| Promise Level | Pfizer、Novartis、Merck & Co.、Sanofi、Gilead and Kite Oncology など | 患者団体・研究財団も多数含まれる |
※協賛は学会の運営を支えるもので、演題の採否とは別の手続きです。協賛の有無が発表内容の評価を意味するものではありません。
6. 今後の見通し
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| AACRの年次総会は、基礎研究の場から後期臨床試験の発表の場としての比重も増している | 2026年は臨床試験の発表が過去最多の約250件で、完了した第III相試験11件を含む | 推測 |
| ADCや細胞療法など新しいモダリティの初期データが最初に出る場として、企業の開発状況を読む材料になり続ける | 2026年の臨床試験プレナリー4回のうち、ADC、細胞療法・複合免疫療法がそれぞれ1回を占めた | 推測 |
| 新薬の構造の初公開は、今後も年次総会の日程に合わせて行われる | 2027年の年次総会は4月2〜7日にオーランドで開催予定。New Drugs on the Horizonの応募締切は2026年10月15日 | 推測 |
7. 用語集
- 抄録(アブストラクト)
- 学会で発表する研究の要約。学会の委員会が審査して、口頭発表やポスター発表に振り分ける。
- プレナリー
- 全参加者向けの全体会。注目度の高い研究が選ばれて発表される。
- 第III相試験
- 多数の患者で既存の治療などと比べ、有効性と安全性を確かめる臨床試験の段階。承認申請の主な根拠になる。
- エンバーゴ
- 決められた日時まで内容の公開を禁じる取り決め。New Drugs on the Horizonでは発表日まで構造が伏せられる。
- ADC(抗体薬物複合体)
- 抗体に薬(搭載薬)を結合し、標的の細胞に薬を届けるモダリティ。
8. 出典
- AACR About the AACR(1907年5月7日の設立、会員6万5,000人超・143の国・地域、査読付き10誌、Stand Up To Cancerの科学パートナー、年30以上の学術集会、連邦予算への提言)。 https://www.aacr.org/about-the-aacr/
- AACR AACR Fast Facts(本部フィラデルフィア、ボストンとワシントンD.C.の事務所、会員数、学術誌の一覧)。 https://www.aacr.org/about-the-aacr/newsroom/media-resources/aacr-fast-facts/
- AACR AACR Annual Meeting 2026(2026年4月17〜22日、サンディエゴ・コンベンションセンター)。 https://www.aacr.org/meeting/aacr-annual-meeting-2026/
- AACR年次総会ニュース Thank you for an incredible AACR Annual Meeting 2026!(2026年5月7日。登録者2万3,000人超・74の国・地域、臨床試験約250件、完了した第III相試験11件、招待演者760人超、記者190人超、2027年の日程)。 https://www.aacrmeetingnews.org/aacr-ceo-margaret-foti-phd-md-hc-thank-you-for-an-incredible-aacr-annual-meeting-2026/
- AACR Spotlight on Clinical Trials(2026年の臨床試験プレナリー4回の主題)。 https://www.aacr.org/meeting/aacr-annual-meeting-2026/spotlight-on-clinical-trials/
- AACR年次総会ニュース Second Clinical Trials Plenary highlighted results of next-generation antibody-drug conjugates(2026年4月21日。トラスツズマブ デルクステカンとオラパリブの併用、EGFR標的ADCの第I相試験)。 https://www.aacrmeetingnews.org/second-clinical-trials-plenary-highlighted-results-of-next-generation-antibody-drug-conjugates/
- AACR AACR New Drugs on the Horizon at the Annual Meeting(3セッション・12演題、化学構造と生物学の初公開、秘密保持契約、2026年の12件、2027年の応募締切)。 https://www.aacr.org/professionals/membership/scientific-working-groups/chemistry-in-cancer-research-working-group/new-drugs-on-the-horizon/
- AACR AACR Annual Meeting 2026: Supporters(協賛の区分と協賛者の一覧)。 https://www.aacr.org/meeting/aacr-annual-meeting-2026/supporters/
9. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年9月26日/Troy Technical
本稿の数値はAACRの公式サイトと年次総会ニュースに基づきます。学会で発表された臨床試験の結果は、承認や診療での使用を意味するものではありません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈です。本稿は医療上の助言ではありません。