ALD法によるイリジウム電極|PEMWEの低担持量化とアイオノマーフリー化の性能

arXiv アメリカ
概要
原子層堆積法(ALD)を用いて、極めて低担持量かつアイオノマーフリーなイリジウム(Ir)アノードを開発した。熱ALDを用いた電極はIr担持量を0.21 mg/cm²まで削減しつつ、商用触媒塗布膜(CCM)アノードと同等の性能を達成し、600時間の断続運転に相当する耐久性試験をクリアした。これにより、PEM水電解(PEMWE)のスケールアップにおける最大のボトルネックである貴金属Irの供給不足という課題を解決する道が開かれる。
詳細

主要成果

本研究では、カスタムメイドの微多孔質基板と原子層堆積法(ALD)を組み合わせることで、アイオノマー(高分子電解質)を使用しない低担持量のイリジウム(Ir)アノードを実現した。特に熱ALDプロセスを用いた電極では、Ir担持量を0.21 mg/cm²に抑えながら、商用の触媒塗布膜(CCM)アノードに匹敵するセルレベルの性能を達成した。また、この性能は600時間の断続運転に相当する加速耐久性試験においても維持されている。さらに、低担持量のALD製カソードを併用することで、白金族金属(PGM)の総担持量を0.24 mg/cm²まで低減することに成功した。

技術・詳細

触媒の堆積にはIr(EtCp)(CHD)前駆体が使用され、2種類のALDプロセスが検討された。熱ALDではO₃を対反応剤として用い、主に金属的なIr/IrOₓを生成させた。一方、プラズマ強化ALD(PE-ALD)を用いた場合は、触媒分布を最適化することでIr担持量をさらに0.04 mg/cm²まで削減したが、生成されるIrO₂の活性は低くなる傾向が確認された。

本手法の最大の特徴は、触媒の直接堆積によりアイオノマーを含むインクが不要な点にある。これにより、従来の酸性フッ素系アイオノマー(Nafion™など)に縛られず、多様な膜材料との適合性が確保される。実際に、アニオン交換膜を用いたCO₂電解実験においても、本アノードの適合性が実証された。

背景・業界の文脈

PEM水電解(PEMWE)は、再生可能エネルギーの変動的な電力供給に適しており、水素をエネルギーキャリアや化学工業の原料として供給する有望な技術である。しかし、アノード触媒として不可欠なIrは希少で高価であり、供給の不安定さが技術普及の大きな障壁となっている。業界のロードマップでは、一般的な1 mg/cm²以上のIr担持量を、0.2 mg/cm²以下、あるいは電力あたり0.4 g/kW以下まで削減することが目標に掲げられている。

従来のウェット堆積法(スプレーコーティングやスロットダイコーティングなど)では、触媒粒子とポリマー電解質バインダーを混ぜたインクを使用する。しかし、担持量をサブmg/cm²領域まで下げると、粒子のサイズに起因して分布の不均一性が生じ、多孔性輸送層(PTL)との電気的接触が悪化して過電圧が増大するという限界があった。

今後の展望

ALDによる直接堆積法は、触媒合成、インク調製、堆積という3つの工程を1つのステップに統合し、製造プロセスの複雑さを軽減する。また、アイオノマーフリーの多孔性輸送電極(PTE)を実現することで、PEMWEだけでなく、CO₂から炭化水素を直接生成する高付加価値化学品の電解など、幅広い膜ベース電解技術への応用が期待される。

元記事: https://arxiv.org/html/2610.15798v1

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