主要成果
田中貴金属工業と名古屋大学・鳥本研究室の共同研究により、鉛(Pb)やカドミウム(Cd)を使用しない、近赤外領域の光に応答する貴金属量子ドット材料が開発された。この新材料は銀・硫黄・テルル(Ag-S-Te)を主成分とする化合物半導体量子ドットであり、簡易的な光センサの受光層として実装した性能評価において、波長1200~1700 nmの短波長赤外(SWIR)光に対し、最高18.4%の外部量子効率(EQE)を記録した。
技術・詳細
本材料の最大の特徴は、環境規制であるEUのRoHS指令の対象物質である鉛を含まない点にある。また、製造面では真空プロセスを必要とせず、印刷プロセスによる製造が可能である。これにより、従来の主流材料であるインジウム・ガリウム・ヒ素(InGaAs)を用いたセンサと比較して、製造コストを約10分の1にまで抑えられるとされている。
また、田中貴金属工業は共同研究を通じて、量子ドット材料の組成制御、粒子径制御、および表面改質技術を確立しており、顧客のニーズに合わせた光学特性のカスタマイズへの対応も可能としている。さらに、同社が保有する貴金属リサイクル技術を適用し、製造時の端材や使用済みサンプルから貴金属を回収・精製することで、初期評価コストや量産時のランニングコストを低減させる体制を整えている。
背景・業界の文脈
現在、3Dセンシング、自動車用LiDAR、スマートフォンの顔認証、生体センシング、産業用検査カメラなどの分野で赤外光を用いたセンシング技術の需要が拡大している。これまで主流だったInGaAsは、製造工程の複雑さに起因する高コストに加え、原料となるインジウム(In)の産出量が限られており、安定供給が課題となっていた。
代替案として硫化鉛(PbS)を用いた量子ドット材料が注目されていたが、前述の通り鉛を含むため、RoHS規制により民生用電子機器への採用が制限されていた。今回開発されたAg-S-Te材料がターゲットとする1200~1700 nmの波長帯は、悪天候や太陽光によるノイズの影響を受けにくいため、屋外環境においても高精度なセンシングを実現できる特性を持つ。
今後の展望
本材料は、自動車用LiDARやスマートフォンの顔認証などの3Dセンシング、産業用検査カメラ、生体センシングといった幅広い分野での実用化が期待される。今後のスケジュールとして、2026年11月1日~6日の国際学会「オキナワ コロイズ」、および12月16日~18日の「ナノテック 第26回 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議」にて紹介される予定であり、2027年1月よりサンプル提供が開始される計画となっている。
元記事: https://response.jp/article/2026/10/28/418316.html
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