主要成果
乳牛における高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)clade 2.3.4.4b H5N1ウイルスに対するmRNA-LNPワクチンの有効性が実証されました。乳腺内へのウイルス接種によるチャレンジ試験において、ワクチン接種済みの牛は、対照群と比較して乳中のピークウイルスRNA量が約1,000倍低く抑えられました。また、臨床的な乳腺炎の発生および乳腺線維化の頻度が低下したことが確認されています。
技術・詳細
本研究では、米国で流行している牛由来のH5N1ウイルス(A/dairy cattle/Texas/24-008749-002/2024)を代表とするウイルスのヘマグルチニン(HA)をコードしたmRNA-LNPワクチンを開発しました。実験では、2歳から8歳のホルスタイン種乳牛8頭をワクチン群と対照群に分け、以下の手順で検証が行われました。
- 投与方法:500μgのH5 mRNA-LNPを筋肉内に投与し、3週間後に同量を追加投与(ブースト)しました。
- 免疫応答:ワクチン接種により、血清中ではHA反応性抗体および中和抗体が誘導され、さらに乳中でもHA反応性抗体が検出されました。
- チャレンジ試験:初回接種から49日後、乳腺内へのウイルス接種を行い、ウイルス複製量と病状を評価しました。
結果として、本ワクチンは乳牛において良好な耐容性を示し、明らかな副作用は見られませんでした。
背景・業界の文脈
HPAI clade 2.3.4.4b H5N1ウイルスは、北米の野生鳥類や哺乳類、商業養鶏場で広範なアウトブレイクを引き起こしています。特に2024年には米国の19州にわたる乳牛への感染が拡大し、酪農業界に甚大な経済的損失を与えています。牛における本ウイルスの特徴は、呼吸器系よりも乳腺組織が主要な複製部位となる点にあり、乳中のウイルス排出を通じて個体間に伝播すると考えられています。乳腺感染は深刻な乳腺炎を引き起こし、飼料摂取量の減少やルーメン運動の低下、そして劇的な産乳量の減少を招きます。
今後の展望
乳腺が感染の主戦場となるため、乳腺組織を保護できるワクチンの開発は極めて重要です。本研究で開発されたmRNA-LNPワクチンは、血清だけでなく乳中にも抗体を誘導できることが示されました。これにより、感染した動物における産乳量低下を制限し、さらには哺乳類への適応やヒトからヒトへの伝播リスクという公衆衛生上の懸念を軽減し、人間へのスピルオーバー(種を越えた伝播)イベントを抑制することが期待されます。
元記事: https://doi.org/10.1038/s41587-026-03343-6
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