主要成果
研究チームは、トラップされた138Ba+イオンと、ダイヤモンドナノフォトニックキャビティ内のシリコン空孔(SiV-)センターという、異なるプラットフォームを組み合わせたハイブリッド量子アーキテクチャを構築した。このシステムにより、平均レート1.03(1) kHz、フィデリティ87.9(7)%という極めて高速なイオン–SiV-ベルペアの生成を実現した。この速度は、これまで報告されていた最速のトラップイオン間光リンク(250ベルペア/秒)の4倍に達しており、量子計算のサイクルタイムに匹敵する速度での量子ネットワーキングを可能にした。
技術・詳細
本システムでは、単一光子ヘラルディング(検出によるもつれ確定)方式を採用している。具体的なプロセスは以下の通りである。
- イオンから放出された光子が、波長変換およびエンコーディング変換を経て、SiV-キャビティシステムで反射される。
- この反射された単一光子が検出されることで、イオンとSiV-センターの間にもつれ状態が生成されたことが確定(ヘラルド)される。
- SiV-センターはダイヤモンドナノフォトニックキャビティに実装されており、光子との相互作用効率が極めて高い。また、核スピン制御ゲートのフィデリティが99.9%に達する電子・核スピンレジスタとしての機能を持つ。
従来の2光子スキームでは、成功確率が光子収集効率の2乗に比例するためレートが制限されていたが、本手法のような反射型量子メモリを用いた単一光子ヘラルディングでは、成功確率が収集効率に線形に比例するため、大幅な高速化が可能となった。
背景・業界の文脈
大規模な量子計算を実現するには、小規模な量子プロセッサを相互接続する「モジュール型量子コンピューティング」が不可欠である。フォールトトレラント(耐故障性)な動作を維持するためには、モジュール間で継続的に論理演算を行う必要があり、推定では10〜100 kHzのもつれ生成レートが求められている。しかし、光子を介した接続は確率的なプロセスであり、光子損失がレートを制限する大きな要因となっていた。特に、収集効率を高めるためにキャビティを量子ビットに近づけると、誘電体表面の影響でゲートフィデリティやコヒーレンスが低下するというトレードオフが存在していた。
今後の展望
本研究で導入されたハイブリッド構成は、原子量子ビット(イオン)の高速な光子放出能力と、固体量子メモリ(SiV-)の極めて高い光子相互作用効率を同時に享受できる。これにより、通信と計算のリソース競合を避けつつ、高速なネットワーク構築への道が開かれた。SiV-メモリは単一チップ上に大量に作製することが可能であるため、今後のスケーラビリティ向上が期待される。
元記事: https://arxiv.org/html/2610.10705v2
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