INSTITUTION PROFILE / 創薬・DDS
ASCO
― 抗がん剤の第III相試験の結果が「世界に同時に」公開される臨床腫瘍学会
ASCO(米国臨床腫瘍学会)は、がんの患者を診る医師や医療者が中心の学会です。 薬を承認する権限はありませんが、毎年6月前後にシカゴで開く年次総会は、 抗がん剤の後期臨床試験の結果が初めて公開される場として、製薬企業の開発発表の日程を左右します。 さらにASCOは、承認された薬や検査をどう使うかを示す診療ガイドラインも作っています。 本稿では、ASCOが創薬・DDSにどこまで影響を持つのかを、年次総会・学術誌・診療ガイドラインの3つの経路から整理します。
- 30秒でわかるASCO
- どんな機関か ― 影響力の「型」
- 創薬・DDSで何をしているか
- 影響力の範囲(権限と地域)
- 関わっている企業・組織
- 今後の見通し
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるASCO
ASCOに提出された抄録は、ASCOが公開するまで秘密扱い(エンバーゴ)で、 研究の依頼者(企業)を含む関係者は、公開前にその情報を明かすことも、証券取引に使うことも禁じられています 事実。 つまり、抗がん剤を開発する企業にとってASCOは、重要な試験結果をいつ・どの形で世界に出すかを決める節目です。 ただし、承認するかどうかを決めるのは各国の規制当局で、ASCO自身は承認に直接の権限を持ちません。
2. どんな機関か ― 影響力の「型」
創薬・DDSの記事に出てくる「機関」は、企業と違って自分では薬を売りません。 その代わりに、どういう経路で業界に影響を与えるかで4つの型に分けられます。
3. 創薬・DDSで何をしているか
ASCOの創薬への関わり方は、年次総会、学術誌、診療ガイドラインの3つに分けられます 事実。
| 活動 | 規模 | 中身 | 創薬・DDSとの関係 |
|---|---|---|---|
| 年次総会(2026年) | 5月29日〜6月2日、シカゴとオンライン 抄録7,000件超 | 通常の抄録は5月21日に公開。Late-Breaking抄録(LBA)は発表当日の朝7時(米中部時間)に公開 | プレナリーのLBA5件(LBA1〜5)はいずれも第III相試験で、アパルタミド、アベマシクリブ、セルペルカチニブ、イボネスシマブ、RAS(ON)阻害薬ダラキソンラシブの結果 |
| Late-Breaking抄録の制度 | 2026年は、枠の申請期限1月27日、データの提出期限3月9日 | 締切時点で予備データがない無作為化第II相・第III相試験などが対象。まず結果欄のない抄録で枠を確保し、あとからデータを出す | 企業は試験の解析日程を、この締切に合わせて組むことができる |
| 学術誌 | Journal of Clinical Oncology(JCO)とJCO系の各誌 | JCO Precision Oncology、JCO Global Oncology、JCO Oncology Practice など | 第III相試験の本論文の掲載先の一つ。学会発表と論文の同時掲載は、著者が雑誌と調整する |
| 診療ガイドライン | 病気別・治療手段別の推奨 | 患者支援団体を含む多職種の専門家委員会が作成。GRADEで根拠を評価し、企業との利益相反に上限を設ける。ASCO主導の作成費用はASCOが負担 | 承認された薬や検査をどう使うかを医師に示す。2022年にはがん領域のバイオシミラーの使用に関する報告書も公表 |
ASCOはLBAの対象を、診療を変えうる(practice-changing)重要な結果に絞っています。 ただし、学会での発表は規制当局の審査を経たものではなく、承認申請は企業が別に行います。 流れとしては、(1) 年次総会で結果を初公開し、(2) 論文として査読を受け、(3) 規制当局が承認を判断し、 (4) 承認された使い方をASCOなどの診療ガイドラインが取り込む、という順番になります 本稿の計算。 個々のLBAがその後どの国でいつ承認されたかは、本稿では追跡していません 未確定/将来。
4. 影響力の範囲(権限と地域)
| 観点 | ASCOが持っているもの | 持っていないもの |
|---|---|---|
| 権限 | 年次総会の演題の採否、LBAの認定、公開の日時(エンバーゴ)を決める権限。診療ガイドラインの推奨を決める権限 | 薬の承認・安全対策・保険償還を決める権限。ガイドラインを医師に強制する権限 |
| 地域 | 本拠は米国。会員の約3分の1は米国外で、2025年の年次総会は166の国から参加。資源の違いを考慮した「Global Guidelines」も作成 | 各国の診療ガイドラインや保険制度を直接変える権限 |
| 対象 | 腫瘍内科医など医療者、臨床試験を行う企業・研究グループ、報道機関(認定記者向けの事前説明会) | がん以外の分野 |
| 規模 | 会員5万人超、理事20人、常設委員会 約30 | 職員数と財務の数値は本稿では確認していない |
「参加者4万4,000人超・166の国」は2025年の年次総会の数字で、ASCOの年次総会の頁に掲載されています。 2026年の参加者数は、本稿で確認した公式ページには載っていませんでした 未確定/将来。 また、会員が住む国の数は、概要の頁では150以上、会員の頁では170以上と書かれていて一致しません 事実。
5. 関わっている企業・組織
2026年年次総会の協賛者(本シリーズの企業解説の候補にあたるもの)
| 協賛の区分(ASCOの表記) | 企業 | 読み方の注意 |
|---|---|---|
| Sponsorship Donors(Platinum) | Daiichi Sankyo、Novartis(ほかにGenentech、Johnson & Johnson) | 最上位の区分。金額は公表されていない |
| Sponsorship Donors(Gold・Silver) | Bristol Myers Squibb(Gold)、Gilead and Kite・Lilly(Silver) | Silverには他にHELSINN |
| Annual Meeting Track Donors | Merck & Co.(Conqueror)、AstraZeneca・BioNTech・Daiichi Sankyo・Lilly・Novartis(Visionary) | 分野別の枠への寄付 |
※協賛は学会の運営を支えるもので、演題の採否とは別の手続きです。ASCOのガイドライン作成では、委員が企業と持てる金銭的関係に上限が設けられています。
6. 今後の見通し
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| 抗がん剤を開発する企業は、重要な第III相試験の解析と公表の日程をASCOの締切とエンバーゴに合わせて組み続ける | 2027年の年次総会は6月4〜8日(シカゴ)。抄録の締切は2027年1月26日、LBAの締切は3月8日。抄録は公開まで秘密扱いで証券取引への利用も禁止 | 推測 |
| 新しい作用の仕組みの薬の第III相データが、今後もプレナリーLBAの中心になる | 2026年のプレナリーLBA5件はすべて第III相試験で、RAS(ON)阻害薬などを含む | 推測 |
| ASCOの診療ガイドラインの影響は、資源の限られた国にもGlobal Guidelinesを通じて広がる | ASCOは資源の違いを考慮したGlobal Guidelinesを作成している | 推測 |
7. 用語集
- LBA(Late-Breaking抄録)
- 通常の抄録の締切に間に合わない重要な結果を、枠だけ先に確保して後からデータを出す仕組み。発表当日の朝に公開される。
- エンバーゴ
- 決められた日時まで内容の公開を禁じる取り決め。ASCOでは公開前の証券取引への利用も禁じている。
- プレナリー
- 全参加者向けの全体会。年次総会で最も注目度の高い演題が選ばれる。
- GRADE
- 研究の根拠の確かさと推奨の強さを評価する国際的な枠組み。ASCOのガイドライン作成で使われる。
- 無作為化試験
- 患者をくじ引きのように治療群に割り付けて比べる臨床試験。偏りの少ない比較ができる。
8. 出典
- ASCO About ASCO(1964年の設立)。 https://www.asco.org/about-asco
- ASCO ASCO Overview(会員5万人超、約3分の1が米国外で150以上の国、理事20人、常設委員会約30、Conquer Cancer、501(c)(3))。 https://www.asco.org/about-asco/asco-overview
- ASCO Membership(会員5万人超、約3分の1が米国外で170以上の国)。 https://www.asco.org/get-involved/membership
- ASCO ASCO Annual Meeting(2025年の参加者4万4,000人超・166の国、2027年の会期、2026年の協賛者の区分)。 https://www.asco.org/annual-meeting
- ASCO ニュースリリース「New Research Highlights Role of Lifestyle Factors, New Treatment Strategies in Cancer Care」(2026年4月30日。会期、抄録7,000件超、抄録とLBAの公開日時、プレナリーLBA1〜5)。 https://www.asco.org/about-asco/press-center/news-releases/new-research-highlights-lifestyle-treatment-strategies-2026-annual-meeting
- ASCO Late-Breaking Data Submission Guidelines(2026年の対象・締切・手順)。 https://www.asco.org/annual-meeting/abstracts-presentations/submission-details/late-breaking-data-submission-guidelines
- ASCO Abstract Policies - Frequently Asked Questions(秘密保持とエンバーゴ、証券取引への利用の禁止、企業の報道発表、同時掲載の調整)。 https://www.asco.org/annual-meeting/abstracts-presentations/abstract-policies-embargoes-exceptions/faqs
- ASCO Dates to Know(2027年の抄録とLBAの締切、2027年6月4〜8日の会期)。 https://www.asco.org/annual-meeting/dates-know
- ASCO Journal Articles(JCOとJCO系各誌の最新論文の一覧)。 https://www.asco.org/journals
- ASCO Guidelines(病気別・治療手段別の推奨、承認された医療製品の使い方、多職種の専門家委員会)。 https://www.asco.org/practice-patients/guidelines
- ASCO Guideline Methodology(GRADE、利益相反の上限、作成費用のASCO負担、Global Guidelines、2022年のバイオシミラー報告書)。 https://www.asco.org/practice-patients/guidelines/guideline-methodology
9. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年9月26日/Troy Technical
本稿の数値はASCOの公式サイトとニュースリリースに基づきます。学会で発表された臨床試験の結果は、承認や診療での使用を意味するものではありません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈です。本稿は医療上の助言ではありません。