INSTITUTION PROFILE / 光通信・フォトニクス
IEEE 802.3
― イーサネットの規格を「個人の投票」で決める作業部会
IEEE 802.3は、米国に本部を置く技術者団体IEEEの標準化部門(IEEE SA)の中で、イーサネットの規格IEEE Std 802.3をつくる作業部会です。 イーサネットの場合、スイッチと光トランシーバーがやり取りする信号の速度や、光ファイバー上の物理層の仕様は、この作業部会の規格として決まります。 国の機関ではなく、規格に法的な拘束力もありませんが、規格はISO/IECの国際規格にも採用されます。 本稿では、IEEE 802.3が光通信・フォトニクスにどこまで影響を持つのかに絞って整理します。
- 30秒でわかるIEEE 802.3
- どんな機関か ― 影響力の「型」
- 光通信・フォトニクスで何をしているか
- 影響力の範囲(権限と地域)
- 関わっている組織
- 今後の見通し
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるIEEE 802.3
IEEE 802.3の投票権は企業ではなく個人に与えられます。作業部会の投票資格のページは「会員資格は個人単位で、企業単位ではない」と明記しており、 直近4回の全体会合のうち2回で、会議時間の75%以上に出席することが条件です 事実。 草案は作業部会の投票とIEEE SAの投票の2段階を通り、IEEE SAの標準化委員会が承認して規格になります。 つまり「どこかの国や企業の規格」ではなく、各社の技術者が個人として参加して決める規格です。この点が、会社単位で投票するOIFや、加盟国と企業などの部門会員が承認に関わるITU-Tとの違いです。
2. どんな機関か ― 影響力の「型」
光通信・フォトニクスの記事に出てくる「機関」は、企業と違って光部品を製品として売りません。 その代わりに、どういう経路で業界に影響を与えるかで4つの型に分けられます。
3. 光通信・フォトニクスで何をしているか
IEEE 802.3の作業は、プロジェクトごとに「タスクフォース」や「スタディグループ」が担います。 データセンターの光インターコネクトに関わる主なものは次のとおりです 事実。
| プロジェクト | 状態 | 中身 |
|---|---|---|
| IEEE 802.3df-2024 | 2024年2月15日に承認、同年3月15日に発行 | 400Gb/sと800Gb/sのイーサネット。800Gb/sのMAC(データのやり取りの規則)と、400G・800Gの物理層を追加 |
| IEEE P802.3dj | 2022年12月3日にプロジェクト承認。2026年9月時点で審議中 | 1.6Tb/sのMACと、200G・400G・800G・1.6Tb/sの物理層と管理パラメータ |
| IEEE P802.3ds | 審議中 | 1レーンあたり200Gb/sの信号で、マルチモードファイバー上に200Gb/s以上を送る物理層 |
| 400 Gb/s/Lane Signaling スタディグループ | 2026年3月13日に設置。7月17日にプロジェクト案(PAR)をIEEE 802 LMSCが承認 | 1レーン400Gb/sの信号による電気インターフェースと、最大500mのシングルモードファイバーの光インターフェース |
| IEEE Std 802.3-2022 | 現行の統合版 | イーサネット規格の本体。ISO/IECでの採用手続き(PSDO協定)に提出された |
800G(802.3df)から1.6T(P802.3dj)、さらに1レーン400Gb/sの検討へと、IEEE 802.3は1本の信号線・1本の光路が運ぶ速度を段階的に上げています。 1レーンの速度が上がると、同じ総容量を少ない本数で運べる一方で、光トランシーバーの変調器・受光器や基板の電気配線には、より高い周波数での損失の小ささが求められます。 400Gb/s/レーンの検討範囲が「最大500mのシングルモードファイバー」と明記されている点は、データセンター内の比較的短い光リンクが次の主戦場であることを示しています 事実。
4. 影響力の範囲(権限と地域)
| 観点 | IEEE 802.3が持っているもの | 持っていないもの |
|---|---|---|
| 権限 | 規格案をつくり、作業部会の投票にかける権限。承認された規格はIEEE SAの標準化委員会が承認し、IEEEが発行する | 規格を守らせる権限、製品を認証する権限、研究資金 |
| 地域 | 国際。IEEE SAは160か国を超える国々の専門家と協働すると説明。IEEE 802.3-2022はISO/IEC JTC 1/SC 6での採用手続きに提出 | 各国の法律や技術基準に組み込むかどうかを決める権限(各国の判断) |
| 参加資格 | 会員は個人単位。作業部会投票は会員、IEEE SA投票はIEEE SA会員(または1回ごとの手数料を払った人)が投票 | 企業や国に票を配る仕組み |
| 規格の入手 | 発行済みのIEEE 802規格は無料でダウンロードできる(IEEEのGETプログラム) | 審議中の草案の無償公開(草案は購入が必要) |
| 他団体との関係 | OIFがIEEE 802.3にリエゾンを置き、ITU-T SG15とは合同ワークショップを開催 | OIFのIAやITU-Tの勧告を置き換える権限 |
「265人」は、作業部会が公開する投票記録の名簿に載っている人数を本稿が数えた値で、作業部会が公表した会員数ではありません 本稿の計算。 会合への出席者や意見を出す人は、この人数より多い可能性があります。 また、P802.3djの完成時期は、本稿で確認した一次情報(IEEE SAの規格ページ)には載っていません 未確定/将来。
5. 関わっている組織
IEEE 802.3は個人単位の組織で、本稿で確認した公開ページには参加者の所属企業の一覧がありません。 そのため、本シリーズの企業解説の対象企業との関係は挙げていません。 ISO/IEC JTC 1/SC 6での採用手続きでは、中国の国内委員会がIEEE 802.3-2022にセキュリティの仕組みが含まれていないとの意見を出し、作業部会が回答しています 事実。 国際規格化の場では、国ごとの立場の違いが意見として表に出ることがわかります。
6. 今後の見通し
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| P802.3djの完成で、1.6Tイーサネットの光トランシーバーに規格上の裏付けがそろう | P802.3djは1.6Tb/sのMACと物理層を定める審議中のプロジェクト。OIFはその付属書178Bを管理する仕様を作業中 | 推測 |
| 次の世代は1レーン400Gb/sで、データセンター内の最大500mの光リンクが中心になる | 400Gb/s/レーンのスタディグループのプロジェクト案が2026年7月にIEEE 802 LMSCで承認 | 推測 |
| OIF・ITU-Tとの分担と連絡は続く | OIFのリエゾン、ITU-T SG15との合同ワークショップ(第10回)とリエゾンの送付 | 推測 |
7. 用語集
- 作業部会(WG)
- IEEE 802の中で、分野ごとに規格をつくる単位。802.3はイーサネット、802.11は無線LAN。
- PAR
- Project Authorization Request。規格プロジェクトの範囲と目的を定めた承認文書。
- MAC/物理層(PHY)
- MACはデータの送り方の規則、物理層は電気信号や光信号として伝える部分の仕様。
- SMF/MMF
- シングルモードファイバーとマルチモードファイバー。MMFは短距離向けで、光源や受光器の条件が異なる。
- PSDO協定
- IEEEとISOの間の協定。IEEEの規格をISO/IECの国際規格として採用する手続きに使われる。
8. 出典
- IEEE 802.3 IEEE 802.3 Ethernet Working Group(プロジェクト一覧、発行済み802規格の無料ダウンロード、規格と草案の購入、2026年8月6日更新)。 https://www.ieee802.org/3/
- IEEE 802.3 Requirements for voting on IEEE 802.3 drafts(2段階の投票、会員は個人単位、出席要件)。 https://www.ieee802.org/3/rules/member.html
- IEEE 802.3 IEEE 802.3 member ballot return records(2026年9月10日時点の投票記録の名簿)。 https://www.ieee802.org/3/ballots/ballot_returns.pdf
- IEEE SA IEEE P802.3dj(Active PAR、PAR承認日、範囲、上位の委員会。同ページの作業部会の他の活動欄にP802.3dsの範囲と802.3ck・802.3dfの無償公開の記載)。 https://standards.ieee.org/ieee/802.3dj/11115/
- IEEE SA IEEE 802.3df-2024(承認日・発行日・範囲)。 https://standards.ieee.org/ieee/802.3df/11107/
- IEEE 802.3 IEEE 802.3 400 Gb/s/Lane Signaling Study Group(設置日、範囲、PAR・CSDの承認日)。 https://www.ieee802.org/3/400GPL/index.html
- IEEE 802 LMSC IEEE 802 LAN/MAN Standards Committee(作業部会の一覧と役割)。 https://www.ieee802.org/
- IEEE SA About IEEE Standards Association(160か国超の専門家、IEEEが公益慈善団体であること)。 https://standards.ieee.org/about/
- IEEE SA Contact(本部の所在地:IEEE Operations Center、ニュージャージー州ピスカタウェイ)。 https://standards.ieee.org/about/contact/
- IEEE 802.3 ISO/IEC JTC 1/SC 6へのリエゾン文書(2024年5月16日合意)。IEEE 802.3-2022のPSDO協定に基づく採用手続きと中国国内委員会の意見への回答。 https://www.ieee802.org/3/minutes/may24/outgoing/IEEE_802d3_to_ISO-IEC_JTC-1_SC-6_Redacted.pdf
- ITU-T SG15 Executive Summary(2026年7月、モントリオール)。IEEE 802.1・802.3への「参照による取り込み」に関するリエゾン、IEEE 802との合同ワークショップ。 https://www.itu.int/en/ITU-T/studygroups/2025-2028/15/Pages/exec_sum_2026-07.aspx
- OIF Current OIF Work(CMIS-APSUがIEEE 802.3djの付属書178Bに対応すること)。 https://www.oiforum.com/technical-work/current-work/
- OIF Liaisons(IEEE 802.3へのリエゾン)。 https://www.oiforum.com/technical-work/liaisons/
9. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年9月26日/Troy Technical
本稿の記述はIEEE 802.3・IEEE SA・IEEE 802 LMSCの公式ページと公開文書、およびITU-TとOIFの公式サイトに基づきます。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈です。