COMPANY PROFILE / ペロブスカイト太陽電池
Swift Solar
― ペロブスカイト専業の米国スタートアップが、先に「シリコンの工場」を手に入れた
Swift Solarは、MIT・スタンフォード大学・NREL(米国立再生可能エネルギー研究所)出身の研究者が2017年に創業した、 ペロブスカイトとシリコンを重ねるタンデム太陽電池の米国スタートアップです。 2026年3月、同社は経営難に陥っていたスイスの太陽電池メーカーMeyer Burgerから製造資産と知的財産を取得したと発表しました。 「まず実績のあるシリコンのヘテロ接合(HJT)セルを米国で量産し、同じ工場にペロブスカイトを載せてタンデムへ進む」という順番です。 本稿では、非上場で財務を開示していないこの会社について、会社自身の発表と米国政府の公表資料だけで、 何が確定していて何がまだ見えないのかを切り分けます。
- 30秒でわかるSwift Solarと、ペロブスカイト太陽電池での立ち位置
- ロゴと社名の表記について
- ペロブスカイト太陽電池の世界で、この会社はどこにいるか
- 会社の規模(売上は非公表。調達額で見る)
- ペロブスカイトにかけているリソース
- これまでの取り組み
- 今後の計画
- この会社はペロブスカイト太陽電池で何を目指しているか
- ペロブスカイト分野の提携マッピング
- 提供している技術・製品・サービス
- この企業が抱えるリスク
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるSwift Solarと、ペロブスカイト太陽電池での立ち位置
サンカルロスプレスリリースの発信地と米国SBIRの登録住所
専業スタートアップ2026年からシリコンHJTの量産資産も保有
タンデム(2端子)ボトムセルはヘテロ接合(HJT)シリコン
4,400万ドル2024年6月発表。2025年には「6,000万ドル超」と説明
資産と知的財産を取得2026年3月発表。取得額は非公表
ペロブスカイト太陽電池に取り組む企業は、大きく既存の太陽電池大手・専業スタートアップ・素材や電機などの異業種の3種類に分かれます。 Swift Solarは専業スタートアップとして創業しましたが、2026年3月にMeyer Burgerのギガワット規模のHJT製造設備と特許群、製造チームを取得し 事実、 「シリコンの量産から上乗せする」という既存大手の道筋を、スタートアップの側から逆向きにたどろうとしています。 CEOのジョエル・ジーン氏は公式ブログで、計画を「1. 米国にGW級のHJTセル・モジュール工場を建てる」「2. 同じ工場にペロブスカイトのタンデムを加える」の順番で示しました 事実。 つまりこの会社の最初の量産品は、ペロブスカイトではなくシリコンのHJTセルになる計画です。
2. ロゴと社名の表記について
Swift Solarのロゴは同社の商標です。本稿では生成画像による再現を行わず、
公式サイトから取得した画像を img/swift_solar_logo.png として設置しています。
ロゴの文字は白抜きのため、濃い背景の上に表示しています。
表記の注意:法人名は Swift Solar Inc. です(公式サイトの著作権表示、2025年10月以降のプレスリリースの発信者名)。 日本語では「スウィフト・ソーラー」と読まれますが、本稿では英字表記に統一します。 資産を取得した相手の Meyer Burger(マイヤー・バーガー)はスイスの太陽電池メーカーで、Swift Solarとは別の会社です。
公式サイト:https://www.swiftsolar.com/3. ペロブスカイト太陽電池の世界で、この会社はどこにいるか
製品の形でいえば、Swift Solarが主軸に置いているのはシリコンとのタンデム(2端子・モノリシック型)です。 同社は2025年8月の技術ブログで「2端子(2T)のペロブスカイト・シリコンタンデムは、4端子(4T)より優れている」と明言し、 自社が2Tに集中する理由を説明しています 事実。 創業当初はペロブスカイト同士を重ねる軽量・フレキシブルなタンデムを掲げていましたが(2019年の創業紹介ブログ、海軍のSBIR採択内容、NRELとの共同研究報告書の題名)、 2024年以降の公表資料はシリコンとのタンデムに重心が移っています。 NRELとの共同研究の最終報告書(2024年提出)も「研究期間中にSwiftの事業の焦点が移った」と記録しています 事実。
4. 会社の規模(売上は非公表。調達額で見る)
Swift Solarは非上場で、売上・損益・手元資金を公表していません。 米国SECへの財務報告の義務もないため、売上高の推移表は作れません 未確定/将来。 代わりに、会社自身がプレスリリースで公表してきた資金調達の累計額と、 米国政府のデータベースに記録された公的資金の採択額で規模を見ます。
| 時期 | 会社の公表内容 | 金額 | 出所 |
|---|---|---|---|
| 2020年12月 | シリーズ・シード2の調達(800万ドル超、追加150万ドルと合わせ計960万ドルの見込み)。この時点で株式による累計調達は1,600万ドル超 | 960万ドル(見込み) | 公式リリース |
| 2024年6月 | シリーズAの完了。Eni NextとFontinalis Partnersが共同で主導 | 2,700万ドル | 公式リリース |
| 2024年6月 | シリーズAを含む累計調達額 | 4,400万ドル | 公式リリース |
| 2024年6月 | 連邦・州政府からの補助金(DOE・国防総省・NSF・カリフォルニア州エネルギー委員会) | 1,600万ドル超 | 公式リリース |
| 2025年6〜11月 | VC・戦略投資家・政府機関からの資金の合計 | 6,000万ドル超 | 公式リリース(3本で同じ表現) |
2024年6月の「累計4,400万ドル」からシリーズAの2,700万ドルを引くと、それ以前の調達は約1,700万ドルになります 本稿の計算。 これは2020年12月に会社が述べた「株式による累計調達1,600万ドル超」とほぼ整合します。 一方、2025年以降の「6,000万ドル超」は政府機関からの資金を含むと明記された数字で、 株式による調達額だけを示したものではありません 事実。 2024年6月以降に新たな株式調達があったかどうかは、会社の公表資料からは確認できません 未確定/将来。
人員については、米国中小企業庁のSBIRデータベースに従業員数38人という登録があります 事実。 ただしこれは会社がSBIR申請時に登録した値で、いつの時点の人数かは表示されていません。 2026年3月にMeyer Burgerの製造チームを迎え入れた後の人数は公表されていません 未確定/将来。
5. ペロブスカイトにかけているリソース
Swift Solarは創業以来ペロブスカイトのタンデムだけを事業にしてきた会社なので、 会社の支出の大半がそのままペロブスカイトへの投入と考えてよい構造です。 ただし2026年3月以降は、シリコンHJTの量産立ち上げというペロブスカイト以外の大きな支出先が加わりました。
| リソースの種類 | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 人(研究開発) | 創業者はペロブスカイト研究者。CTOのTomas Leijtens氏と最高科学責任者のGiles Eperon氏は元NRELの研究員。公式サイトはLeijtens氏を「最初のペロブスカイト・シリコンタンデムと全ペロブスカイトタンデムの共同開発者」、Eperon氏を「最初の全ペロブスカイトタンデムの共同開発者」と紹介している | 事実 |
| 人(製造) | 元Meyer Burger CEOのGunter Erfurt氏(シリコン製造責任者)と元研究開発統括のMarcel König氏(シリコン技術責任者)が合流。製造担当VPは元Bloom Energyの製造担当VP、ハードウェア担当VPは元First Solarの装置開発ディレクター | 事実 |
| 人(人数) | SBIRデータベースの登録値は38人(時点不明)。Meyer Burgerから移った人数は非公表 | 事実/非公表 |
| 金(株式調達) | シリーズAまでで累計4,400万ドル(2024年6月)。その後の株式調達は公表資料では確認できず | 事実 |
| 金(研究開発費・ライン投資) | 研究開発費、試作ラインの投資額、計画中の工場の投資額 | 非公表 |
| 外部からの資産取得 | Meyer Burgerの製造資産と知的財産(GW級のHJT製造設備、世界の特許群、製造チーム)を取得(2026年3月)。取得額と設備の所在地は非公表 | 事実 |
| 公的資金(DOE) | DOE太陽エネルギー技術局の「Advancing U.S. Thin-Film Solar Photovoltaics」でプロジェクトPIPPINに700万ドル(自己負担180万ドル、2024年5月選定)。別に、ペロブスカイトモジュールの逆バイアス対策でDOEの助成(案件番号DE-EE0009517) | 事実 |
| 公的資金(SBIR・STTR) | NSF・海軍・陸軍から計5件、合計292万5,920ドル(2019〜2025年) | 事実 |
| 大学・研究機関 | MIT・スタンフォード大学・NRELの独占的な知的財産に基づくと会社が説明。NRELとは2019年10月〜2024年1月に共同研究(DOEの技術商業化基金)。陸軍のSTTRではカリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)と組む。スタンフォード大学はシリーズAの出資者でもある | 事実 |
米国政府がSwift Solarに付けた研究テーマを並べると、効率ではなく耐久性に偏っていることが分かります 事実。 DOEの逆バイアス案件は「影になったセルが壊れる」問題、陸軍のSTTRは「原料(前駆体)の不純物が寿命を左右する」問題、 PIPPINは「真空蒸着で作ったタンデムの耐久性と再現性」です。 特に陸軍STTRの採択内容には、「封止していない小さなセルと、ガラスで封止したミニモジュールの間で安定性が大きく落ちた」という第1段階の結果が書かれており、 セルで出た寿命がそのままモジュールでは出ないという、この分野の典型的な壁に同社自身も直面していたことが読み取れます 事実。
本シリーズの技術解説『封止とバリア層』で扱う論点が、ここでは米国陸軍の採択要旨という公的な文書に具体的に現れています。 会社の公式サイトは「30年相当の寿命」を掲げていますが、これは学会発表を根拠にした会社の主張で、第三者機関の認証ではありません。
6. これまでの取り組み
| 時期 | できごと | 意味 |
|---|---|---|
| 2017年 | MIT・スタンフォード大学・NRELからのスピンアウトとして創業 | 研究者主導の専業スタートアップとして出発 |
| 2019年 | 創業紹介のブログで「効率的で軽く、曲げられる太陽電池製品」を掲げる。NSFのSBIR第1段階(22万5,000ドル)に採択 | 当初の狙いは軽量・フレキシブル用途 |
| 2019年10月〜2024年1月 | NRELと共同研究(ワイドギャップのペロブスカイト吸収層と、タンデム用の再結合層) | 最終報告書は「事業の焦点が途中で移った」と記録 |
| 2020年 | 海軍のSBIR(真空蒸着による軽量タンデム)。12月にシリーズ・シード2で800万ドル超を調達 | 真空蒸着という製法の選択がこの頃から見える |
| 2021年 | NSFのSBIR第2段階(100万ドル)。DOEから逆バイアス対策の助成を受ける | モジュールとしての信頼性に研究が広がる |
| 2024年5月 | DOEがPIPPIN(ペロブスカイト・シリコンタンデムの試作から量産へ)に700万ドルを選定 | シリコンとのタンデムへの軸足が公的資金で裏づけられた |
| 2024年6月 | シリーズAで2,700万ドルを調達(累計4,400万ドル)。「最初の工場の着工に備える」と発表 | 工場計画が初めて公表された |
| 2024〜2025年 | 陸軍のSTTR(前駆体の不純物管理)第1段階・第2段階 | 寿命を左右する原料の純度に踏み込む |
| 2025年6月 | American Towerと提携。米国の通信鉄塔での導入を評価 | 送電網以外の分散型用途 |
| 2025年8月 | 国防総省の演習「Cyber Fortress」(バージニア州)で、米国製のペロブスカイトタンデムパネルを移動式マイクログリッドに組み込み実証(発表は10月) | 会社は「米国で最初期の実運用例の一つ」と説明 |
| 2025年8月 | 技術ブログで2端子タンデムに集中する理由を公表 | 製品の構造を明確にした |
| 2025年11月 | Eni傘下のPlenitudeと提携。米国の発電所でのパイロット試験と、長期供給契約の検討 | 大規模発電所向けの初の具体的な顧客候補 |
| 2026年3月 | Meyer Burgerの製造資産と知的財産を取得。元CEOのErfurt氏と元研究開発統括のKönig氏らが合流 | ペロブスカイトより先にシリコンHJTを量産する方針へ |
| 2026年9月 | 製品管理部門を新設したと公表。次の節目は「HJT製品の認証取得」 | 量産品の信頼性試験・認証の段階に入った |
7. 今後の計画
セルとモジュールペロブスカイトではない
タンデムを追加CEOが示した3段階の2段目
2025年10月の国防総省との実証のリリースで、会社は「24か月以内に商業生産を立ち上げる」と書きました 事実。 発表日から単純に数えると2027年10月ごろになります 本稿の計算。 同じ2025年11月のPlenitudeとの提携ブログも「今後24か月で米国の製造拠点を稼働させる」としています。 その後2026年7月には財務担当VPが公式ブログで、最初のGW級工場の建設資金を入社1年以内にまとめたいと述べており、 工場の資金はまだ確定していない段階にあることが分かります 事実。
次はいずれも会社の公表資料に記載がありません 未確定/将来。
工場の所在地/生産能力(GW)/投資額/着工・稼働の日付/ Meyer Burgerから取得した設備の台数・所在地・取得額/タンデム製品の発売時期と価格/ Plenitude・American Towerとの契約の金額と数量。 「Swift Solarが○州に○GWの工場」といった数字は報道ベースのものがあり、本稿では採用しません。
8. この会社はペロブスカイト太陽電池で何を目指しているか
ここは会社が直接には述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに書きます。
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| ペロブスカイトの量産より先に売上を立てる手段を確保した | 商業戦略担当VPが公式ブログで「HJTセルを早期の顧客にすぐ提供でき、その売上がタンデムの長期的な商業化を支える」と説明している | 事実 |
| 米国製のセルという需要を入口にしている | CEOが「今すぐ米国製セルを買いたい顧客」に向けてHJT工場を建てると書き、関税・税額控除・サプライチェーンの国内回帰を追い風に挙げている | 推測 |
| タンデムの構造はHJTボトムセルの2端子型に絞り込んだ | 2025年8月の2T優位のブログと、2026年3月の「HJTはタンデムの理想的な土台」とするブログ。TOPConより最大3%(絶対値)効率が高くなると会社は見積もっている | 事実 |
| 最初に狙う顧客は大規模発電所の開発事業者と、宇宙・防衛 | Plenitudeとの発電所パイロット、国防総省との実証。財務担当VPと製品管理責任者のブログが宇宙用途を繰り返し挙げ、HJTの技術ブログはp型HJTの放射線耐性に触れている | 推測 |
| 当初の軽量・フレキシブル路線は後景に退いた | 2019〜2021年のSBIRはフレキシブルな全ペロブスカイトタンデムが主題だったが、2024年以降の公表資料はシリコンとのタンデムが中心。NRELの報告書も焦点の移動を記録している | 推測 |
2024年6月のシリーズAのリリースは「最初の工場の着工に備える」と書いていました 事実。 ところが2年後の2026年7月、財務担当VPは「最初のGW級工場の資金をまとめる」ことを自分の1年目の目標に挙げています 事実。 この間に入ったのが、2026年3月のMeyer Burgerの資産取得です。 本稿はこの流れを、ペロブスカイトだけの工場では量産資金を集めきれず、実績あるHJTを先に作る計画に組み替えることで、 投資家と顧客に「売上が立つ工場」として説明できる形にしたと読みます 未確定/将来。 ただし会社は計画変更の理由をこの言葉では説明しておらず、資金調達の状況も公表していません。これは本稿の解釈にとどまります。
9. ペロブスカイト分野の提携マッピング
10. 提供している技術・製品・サービス
2026年9月時点で、Swift Solarが市販している製品は確認できません 未確定/将来。 以下は、会社が公表している技術の構成と、効率・耐久性の主張です。
| 項目 | 会社の公表内容 |
|---|---|
| セル構造 | ペロブスカイト・シリコンの2端子(モノリシック)タンデム。4端子より反射と電極の寄生吸収による損失が小さく、モジュール効率と年間発電量が相対7%(絶対2%)高いと説明 |
| ボトムセル | ヘテロ接合(HJT)シリコン。アモルファスシリコンのパッシベーション、両面テクスチャ、低い温度係数、工程数の少なさを理由に挙げる |
| ペロブスカイトの製膜 | 真空蒸着(DOEのPIPPINの説明による)。工程内の計測で再現性を高めるとしている |
| モジュールの信頼性 | セル積層内にバイパスダイオードを作り込む特許技術(DOE助成の成果)。影によるセル破壊への対策 |
| 将来の構造 | ペロブスカイト・ペロブスカイト・シリコンの3接合で実用上の上限が39%から44%に上がると説明 |
| 当面の製品 | Meyer Burger由来のHJTセル・モジュール(タンデムではない)。認証取得が次の節目 |
| 効率・耐久性の主張 | セル/モジュール・面積 | 認証の有無 |
|---|---|---|
| 「シリコンの世界記録を超える効率」(公式サイト) | セルかモジュールか、面積とも記載なし | 会社発表。認証機関名の記載なし |
| モジュール効率28%以上を見込む(2025年11月リリース)。同日のブログは「28%以上に達している」と表現 | モジュール。面積の記載なし | 会社発表。リリースは「見込み(expected)」、ブログは「達している」で表現が食い違う |
| 今日の太陽電池パネルより最大30%多く発電(2025年10月リリース)。ブログでは30〜50% | 記載なし | 会社発表 |
| 30年相当の寿命(公式サイト) | 記載なし | 会社発表。2024年の学会発表を根拠として注記 |
| 実寸セルの効率が研究室記録の10%以内(公式サイト) | 実寸セル。数値そのものは非公表 | 会社発表 |
| NRELの研究セル効率表とチャンピオンモジュール効率表(いずれも2026年7月17日改訂版) | ― | Swift Solarの名前は掲載されていない |
会社が示した「28%以上」と「従来パネル20〜24%」から「同じ面積で最大40%多い電力」という主張を検算すると、 28÷20=1.40で、比較相手を20%の低い側に取った場合の値です。 24%と比べれば28÷24≒1.17、つまり約17%増にとどまります 本稿の計算。 効率の数字を読むときの考え方は、本シリーズの技術解説『変換効率と評価指標』で扱っています。
量産のシリコンセルは表面に数マイクロメートルのピラミッド状の凹凸(テクスチャ)を持ち、光を閉じ込めています。 会社の説明どおりHJTは両面にこの凹凸があるため、その上に厚さ約1マイクロメートルのペロブスカイトを載せるとき、 溶液を塗る方法では凹凸の谷に液がたまり、山の頂上が薄くなりがちです。 真空蒸着は凹凸に沿って膜を付けやすいため、テクスチャを残したままタンデムにするには相性がよい、というのが一般的な理解です 推測。
また会社は、HJTのアモルファスシリコン層が上下のセルを電気的に隔て、薄いペロブスカイト層の小さな欠陥に対する許容度を上げると説明しています 事実。 量産の立ち上げ初期は、効率の最高値よりも欠陥があっても不良にならないこと(歩留まり)が収益を決めます。 HJTを選んだ理由の一つがこの「歩留まりのための保険」にある点は、材料・工程の立場から見て筋が通っています。 塗布と蒸着の違いは本シリーズの技術解説『塗布製膜』も参照してください。
11. この企業が抱えるリスク
| リスク | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 財務が見えない | 非上場で売上・損益・手元資金を公表していない。外部から資金の持続性を検証できない | 未確定/将来 |
| 工場資金が未確定 | 2024年に「最初の工場の着工に備える」と発表したが、2026年7月時点でも財務担当VPが「最初のGW級工場の資金をまとめる」ことを目標に挙げている | 事実 |
| 効率・寿命が第三者認証されていない | NRELの効率表に掲載がなく、公式サイトとリリースの効率・寿命はいずれも会社発表 | 事実 |
| 引き継いだ技術の出自 | 公式サイトはKönig氏を「中核チームを(Meyer Burgerの)破産手続きの中からSwiftへ連れてきた」と紹介している。経営が行き詰まった会社の設備と技術を、米国で再び量産にのせる必要がある | 事実 |
| 主流と違うシリコン技術を選んだ | 会社自身が「現在のシリコンセル製造の大半はTOPCon」と書いたうえでHJTを選んでいる。装置・部材の調達先が主流より限られる可能性 | 推測 |
| 顧客との関係は評価段階 | Plenitudeは「パイロット試験と長期供給の検討」、American Towerは「導入の評価」。購入契約の公表はない | 事実 |
| スケジュールの後ろ倒し | 「24か月以内の商業生産」(2025年10月)の中身がHJTかタンデムかは明示されていない。タンデムの量産開始時期は示されていない | 未確定/将来 |
12. 用語集
- ペロブスカイト太陽電池
- ペロブスカイト型の結晶構造を持つ金属ハライド材料を光吸収層に使う太陽電池。薄く作れ、光の吸収が強い。
- タンデム
- 吸収する光の波長が違う2種類のセルを重ね、太陽光をより広く使う構造。単独のシリコンの限界を超えられる。
- 2端子(2T)/4端子(4T)
- 2Tは上下のセルを直列に一体化した構造。4Tは上下を別々の回路として取り出す構造。
- HJT(ヘテロ接合)
- 結晶シリコンの両面を薄いアモルファスシリコンで覆ったセル。電圧が高く、温度による出力低下が小さい。
- TOPCon
- 裏面に極薄の酸化膜と多結晶シリコン層を持つセル。現在の量産シリコンセルの主流。
- 真空蒸着
- 真空中で材料を加熱して蒸発させ、基板に薄膜として積む方法。溶液を塗る方法と対になる製膜法。
- バイパスダイオード
- 影になったセルを迂回して電流を流す部品。影になったセルが逆向きの電圧で壊れるのを防ぐ。
- SBIR/STTR
- 米国政府の中小企業向け研究開発助成制度。第1段階で可能性を、第2段階で試作を支援する。STTRは研究機関との共同が条件。
13. 出典
- Swift Solar Inc. 公式サイト トップページ。会社の説明、効率・寿命・実寸セルに関する主張、社名表記(著作権表示)、ロゴ画像の取得元。 https://www.swiftsolar.com/
- Swift Solar Inc. 公式サイト About ページ。事業内容(HJTボトムセルからペロブスカイトトップセルまで)、経営陣の経歴(Erfurt氏・König氏・製造担当VP・ハードウェア担当VP・共同創業者)。 https://www.swiftsolar.com/about
- Swift Solar プレスリリース「Swift Solar Announces $27 Million Series A Funding Round」(2024年6月12日)。シリーズA 2,700万ドル、共同主導のEni NextとFontinalis Partners、参加投資家(スタンフォード大学ほか)、累計4,400万ドル、最初の工場の着工準備、連邦・州政府からの補助金1,600万ドル超、2017年創業とスピンアウト元。 https://www.prnewswire.com/news-releases/swift-solar-announces-27-million-series-a-funding-round-302170435.html
- Swift Solar プレスリリース「Swift Solar Secures Over $8M in Series Seed 2 Funding」(2020年12月15日)。シード2の調達額、株式による累計調達1,600万ドル超、NSF・DOE・海軍研究局からの支援。 https://www.prnewswire.com/news-releases/swift-solar-secures-over-8m-in-series-seed-2-funding-with-climate-tech-and-deep-tech-investors-301192925.html
- Swift Solar プレスリリース「Swift Solar partners with American Tower Corporation to evaluate advanced perovskite solar technology for critical infrastructure」(2025年6月16日)。American Towerとの提携、40件超の特許、6,000万ドル超の資金。 https://www.prnewswire.com/news-releases/swift-solar-partners-with-american-tower-corporation-to-evaluate-advanced-perovskite-solar-technology-for-critical-infrastructure-302481979.html
- Swift Solar Inc プレスリリース「Swift Solar and DoD Showcase First US Perovskite Solar Deployment for Defense」(2025年10月24日)。2025年8月のCyber Fortress演習での実証、REIの移動式マイクログリッド、最大30%多い発電、24か月以内の商業生産立ち上げ。 https://www.prnewswire.com/news-releases/swift-solar-and-dod-showcase-first-us-perovskite-solar-deployment-for-defense-302594253.html
- Swift Solar Inc. プレスリリース「Swift Solar Announces Cooperation with Plenitude for Next-Generation Solar Technology」(2025年11月24日)。Plenitudeとのパイロット試験と長期供給の検討、Eni Nextが戦略投資家であること、モジュール効率28%以上の見込み。 https://www.prnewswire.com/news-releases/swift-solar-announces-cooperation-with-plenitude-for-next-generation-solar-technology-302623705.html
- Swift Solar Inc. 公式ブログ「Silicon Today, Tandems Tomorrow」(Joel Jean、2026年3月12日)。Meyer Burgerの製造資産と知的財産の取得、GW級HJT設備・特許群・製造チーム、3段階の計画。 https://www.swiftsolar.com/news/silicon-today-tandems-tomorrow
- Swift Solar Inc. 公式ブログ「HJT: The Ideal Foundation for Tandem Solar」(2026年3月31日)。HJTをボトムセルに選ぶ6つの理由、TOPConより最大3%(絶対値)の効率向上見積もり、欠陥許容度、現在の製造の大半がTOPConであること。 https://www.swiftsolar.com/news/hjt-the-ideal-foundation-for-tandem-solar
- Swift Solar Inc. 公式ブログ「2T is the True T(andem)」(2025年8月26日)。2端子と4端子の比較、2Tに集中する理由、3接合での上限39%→44%。 https://www.swiftsolar.com/news/2t-is-the-true-t-andem
- Swift Solar Inc. 公式ブログ「Swift Solar tackles reverse bias stability of perovskite solar cells, with DOE funding」(2022年12月7日)。逆バイアス対策のDOE助成(DE-EE0009517)、NRELとEnergy Materials Corporationとの共同、セル積層内にバイパスダイオードを作り込む特許技術。 http://swiftsolar.com/news/swift-solar-tackles-reverse-bias-stability-of-perovskite-solar-cells-with-doe-funding
- 米国エネルギー省(DOE) Advancing U.S. Thin-Film Solar Photovoltaics Funding Program(2024年5月16日選定発表)。Swift Solarのプロジェクト「PIPPIN」、DOE負担700万ドル、自己負担180万ドル、真空蒸着によるタンデムの説明。 https://www.energy.gov/cmei/systems/advancing-us-thin-film-solar-photovoltaics-funding-program
- 米国中小企業庁 SBIR.gov Company Portfolio「SWIFT SOLAR INC」。登録住所、従業員数38人、SBIR・STTRの採択5件と金額(合計292万5,920ドル)、陸軍STTRの採択要旨。 https://www.sbir.gov/portfolio/1405915
- NREL(OSTI.GOV掲載) 最終技術報告書「Flexible Perovskite-Perovskite PV for Mobile Power Applications」。Swift Solarとの共同研究(2019年10月〜2024年1月)、研究の途中でSwiftの事業の焦点が移ったこと。 https://www.osti.gov/biblio/2481051
- Swift Solar Inc. 公式ブログ「Meet the Team: Sebastian Neelamkavil, VP of Finance」(2026年7月10日)。Meyer Burgerとの3つの契約、最初のGW級工場の資金調達という目標、宇宙用途。 https://www.swiftsolar.com/news/meet-the-team-sebastian-neelamkavil-vp-of-finance
- Swift Solar Inc. 公式ブログ「Meet the Team: Geoff Dunican, VP of Commercial Strategy」(2026年5月13日)。HJTセルの売上でタンデムの商業化を支えるという説明。 https://www.swiftsolar.com/news/meet-the-team-geoff-dunican-vp-of-commercial-strategy
- Swift Solar Inc. 公式ブログ「Meet the Team: Nasim Sahraei」(2026年9月16日)。製品管理部門の新設、HJT製品の認証取得が次の節目であること。 https://www.swiftsolar.com/news/meet-the-team-nasim-sahraei-pm-department-lead
- Swift Solar Inc. 公式ブログ「Partnering with Eni Plenitude to Unlock US Utility-Scale Perovskite Solar Deployment」(2025年11月24日)。Eni Nextが2023年から戦略投資家であること、モジュール効率28%以上という表現、今後24か月で米国の製造拠点を稼働させる計画。 https://www.swiftsolar.com/news/partnering-with-eni-plenitude-to-unlock-us-utility-scale-perovskite-solar-deployment
- Swift Solar Inc. 公式ブログ「Swift Solar and the DoD: Powering US Leadership in Next-Generation Solar」(2025年10月27日)。Cyber Fortress演習の内容、30〜50%の出力向上という主張。 https://www.swiftsolar.com/news/swift-solar-and-the-dod-powering-us-leadership-in-next-generation-solar
- Swift Solar Inc. 公式ブログ「Introducing Swift Solar」(2019年4月11日)。創業時の事業目標(効率的で軽く、曲げられる太陽電池製品)。 http://swiftsolar.com/news/introducing-swift-solar
- NREL(現 National Laboratory of the Rockies) Best Research-Cell Efficiency Chart(2026年7月17日改訂)。Swift Solarの記録が掲載されていないことの確認。 https://www.nlr.gov/docs/libraries/pv/best-research-cell-efficiencies.pdf
- NREL(現 National Laboratory of the Rockies) Champion Module Efficiencies(2026年7月17日改訂)。Swift Solarの記録が掲載されていないことの確認。 https://www.nlr.gov/docs/libraries/pv/champion-module-chart.pdf
14. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年9月25日/Troy Technical
本稿の数値はすべてSwift Solarの公式プレスリリース・公式ブログ・公式サイトと、米国エネルギー省・米国中小企業庁・NRELの公表資料に基づきます。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません。効率・寿命の数値は、認証機関の確認がないものを「会社発表」と明記しています。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。