COMPANY PROFILE / ペロブスカイト太陽電池
エネコートテクノロジーズ
― 京都大学の材料技術から生まれた、国内唯一の「モジュールを作るスタートアップ」
エネコートテクノロジーズは、京都大学化学研究所・若宮淳志研究室の研究成果を事業化するために2018年に設立されたペロブスカイト太陽電池の専業スタートアップです。 非上場のため売上高は公表されていませんが、累計約87億円を調達し、トヨタ自動車と車載用の共同開発を進め、 NEDOのグリーンイノベーション基金では2021年の開発フェーズと2025年の実証フェーズの両方に採択されています。 会社は自らを「モジュールメーカーを指向するスタートアップとしては国内唯一の存在」と説明しています。 本稿では、この会社が何を武器に、誰から資金を得て、どこで量産の壁を越えようとしているかを、会社のリリースとNEDOに提出した事業戦略ビジョンだけで整理します。
- 30秒でわかるエネコートと、ペロブスカイト太陽電池での立ち位置
- ロゴと社名の表記について
- ペロブスカイト太陽電池の世界で、この会社はどこにいるか
- 会社の規模(売上は非公表。資金で見る)
- ペロブスカイトにかけているリソース
- これまでの取り組み
- 今後の計画
- この会社はペロブスカイト太陽電池で何を目指しているか
- ペロブスカイト分野の提携マッピング
- 提供している技術・製品・サービス
- この企業が抱えるリスク
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるエネコートと、ペロブスカイト太陽電池での立ち位置
テクノロジーズ英文名 EneCoat Technologies Co., Ltd.
ペロブスカイト太陽電池に取り組む企業は、大きく既存の太陽電池大手・専業スタートアップ・素材/化学/電機メーカーの3種類に分かれます。 エネコートはこのうち専業スタートアップです。NEDOに提出した事業戦略ビジョンは、同社を「京都大学の知を事業化することを唯一無二の目的として設立された専業スタートアップ」と書き、 全経営資源がペロブスカイト太陽電池に投入されると明記しています 事実。 ここが積水化学や東芝のような大企業と決定的に違う点で、ペロブスカイトが立ち上がらなければ会社そのものが続かない構造です。 同じビジョンは事業中止の判断基準を「投資家からの資金調達が絶望的になった場合」と書いており、資金が最大の制約であることを会社自身が認めています。
2. ロゴと社名の表記について

エネコートテクノロジーズのロゴは同社の商標です。本稿では生成画像による再現を行わず、
公式サイトから取得した画像を img/enecoat_logo.png として設置しています。
表記の注意:法人名は「株式会社エネコートテクノロジーズ」、英文では EneCoat Technologies Co., Ltd. です。 リリースや報道では「エネコート」「EneCoat」と略されることが多く、本稿でも以下「エネコート」と書きます。 設立者の1人である若宮淳志氏は京都大学の教授で、同社では最高技術顧問の立場です(役員ではありません)。
公式サイト:https://enecoat.com/3. ペロブスカイト太陽電池の世界で、この会社はどこにいるか
製品の形はフィルム型の単接合が中心です。トヨタ自動車との共同開発ではフィルム型をシリコンに重ねる4端子タンデムのセルも試作していますが、 これはセルレベルの研究成果で、製品化の時期は示されていません 事実。 事業戦略ビジョンは、まず鉛(Pb)系の単接合を販売し、並行してタンデム型の研究開発を進める「商品のバージョンアップ戦略」を掲げています。 フィルム型とタンデム型の違いは、本シリーズの技術解説「フレキシブル」「タンデム」で扱っています。
4. 会社の規模(売上は非公表。資金で見る)
エネコートは非上場で、売上高・損益・キャッシュフローを公表していません 未確定/将来。 事業戦略ビジョンも「非公開会社であるため、事業戦略・事業計画については原則として非公開」と書いています。 代わりに、会社が公表している資金調達の額と人員で規模を示します。
| 時期 | できごと | 金額 | 主な引受先 |
|---|---|---|---|
| 2024年7月 | シリーズCラウンド(第三者割当増資) | 総額55億円 | リード投資家はWoven Capital(トヨタのグロースステージ・ファンド)。新規にINPEX、三菱HCキャピタル、既存からスパークス・アセット・マネジメントの未来創生3号ファンド、京都大学イノベーションキャピタル。ほかに三菱UFJキャピタル、日揮みらいファンド、京都キャピタルパートナーズ、新明和工業、西松建設、中国電力、伯東、中信ベンチャー・投資ファンド6号 |
| 2025年2月 | シリーズCの最終の追加調達 | ― | あいおいニッセイ同和損害保険、りそなキャピタル8号投資事業組合、SGインキュベート第3号投資事業有限責任組合、JIA2号投資事業有限責任組合 |
| 合計 | シリーズC総額/創業来の累計 | 約63億円/約87億円 | 2025年2月20日のリリース |
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 従業員数 | 116名(会社概要、2026年7月更新) |
| 資本金 | 9千万円 |
| 拠点 | 京都PSCsイノベーションセンター(本店・研究所、久御山町)。2025年5月に新工場を着工(所在地は本稿が確認した資料に記載なし) |
| 社外取締役 | 大口株主3社からそれぞれ社外取締役を迎えていると事業戦略ビジョンに記載。会社概要では、京都大学イノベーションキャピタル、スパークス・アセット・マネジメント、Woven Capitalに現在所属する3名が社外取締役に名を連ねる |
2024年7月のシリーズCのリリースには「太陽光発電の市場規模は5,080億ドルになるとの予測」という記述がありますが、注記によれば出所は調査会社(Precedence Research)のレポートです。 また2025年12月時点の事業戦略ビジョンにも、調査会社(REPORTOCEAN)による日本の太陽光発電市場の成長率が引用されています。 いずれも会社の実績ではなく調査会社の推計なので、本稿では採用しません。
5. ペロブスカイトにかけているリソース
エネコートはペロブスカイト太陽電池の専業なので、会社のすべての支出と人員がこの分野への投入になります。4つの観点で整理します。
| リソースの種類 | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 人 | 従業員116名(2026年7月更新)。組織図には開発本部・生産本部のもとに要素開発部・商品開発部・生産技術部・製造部、ほかに品質保証部・営業部門・管理本部がある。2025年度に営業部と海外事業部を設置。生産技術開発・品質保証・製造部門で2025年度・2026年度に各6名の新規採用を予定、2030年に270人体制を計画 | 事実 |
| 金(調達) | 創業来の累計調達約87億円(2025年2月時点) | 事実 |
| 金(計画) | 2021年開始のGI基金事業では「約64億円で研究開発費・パイロットラインを導入、うち28億円規模の自己負担」。2025年採択の実証事業では「国の支援に加えて153億円規模の自己負担を予定(R2R開発)」と記載。自己負担には手元資金とパートナー企業からの開発負担金を充てる方針 | 事実 |
| 設備 | 2023年度にパイロットラインを構築、2025年にR2R試作装置を導入。2025年5月に新工場を着工(シート・ツー・シートの開発・生産と、R2R量産技術開発の拠点)。新工場に10MWのR2R生産ラインを2027年に導入予定 | 事実 |
| 外部からの出資 | Woven Capital(リード)、INPEX、事業会社・金融機関系のファンドなど(第4章の表) | 事実 |
| 外部への出資・買収 | エネコートから他社への出資・買収の記載は、本稿が確認した資料にない | 確認できず |
| 公的資金(NEDO) | GI基金「次世代型太陽電池の開発」に2021年12月採択(京都大学と)。2025年9月に同基金の実証事業(最終フェーズ)に採択、2026年1月に交付決定(通知された助成事業期間は2025年12月22日〜2027年3月31日)。三菱マテリアルとの共同研究はNEDO助成事業(JPNP21016)の成果 | 事実 |
| 公的資金(宇宙) | JAXA宇宙探査イノベーションハブの研究課題に採択(2022年10月)。宇宙戦略基金の技術開発テーマ「SX-ARK(熱とデバイス)」に採択(2026年3月13日) | 事実 |
| 大学・研究機関 | 京都大学(GI基金の委託先。若宮教授は最高技術顧問)、青山学院大学(発電シミュレーションの共同研究)、東京科学大学・JAXA(超小型衛星での宇宙実証)。産総研主導の国際標準化等検討委員会に参加、JETと安全性試験の標準化に向けたサンプル評価を開始 | 事実 |
最終フェーズの事業戦略ビジョンは、国の支援とは別に153億円規模の自己負担を予定しています。 これは創業来の累計調達額(約87億円)の約1.8倍です 本稿の計算。 会社は自己負担に「手元資金とパートナー企業からの開発負担金」を充てると書いており、 今後も増資やパートナーからの資金が続くことが前提の計画だと読めます 未確定/将来。 自己負担153億円がいつまでに必要な額かは、ビジョンの図から正確には読み取れないため、年あたりの額は計算しません。
6. これまでの取り組み
| 時期 | できごと | 意味 |
|---|---|---|
| 2018年1月 | 京都大学発スタートアップとして設立 | 若宮研究室の成果を事業化するための会社 |
| 2021年12月 | NEDOグリーンイノベーション基金に採択(テーマ「設置自由度の高いペロブスカイト太陽電池の社会実装」、京都大学と) | スタートアップとして大企業と並んで採択 |
| 2022年10月 | JAXA宇宙探査イノベーションハブの研究課題「超軽量薄型ペロブスカイト太陽電池の研究開発」に採択 | 宇宙用途の研究が始まる |
| 2023年6月 | トヨタ自動車と車載用ペロブスカイト太陽電池の共同開発を開始。この時点で「モジュール変換効率19.4%」(2023年4月時点、会社発表)と記載 | 自動車メーカーとの初の共同開発 |
| 2023年10月 | 日揮ホールディングス・苫小牧埠頭と物流施設での実証を決定。三井不動産レジデンシャル・京都大学と住宅用の共同研究を開始 | 屋外用途の実証が本格化 |
| 2023年12月 | 神奈川県・日揮と普及に関する連携協定 | 自治体との連携 |
| 2024年3月 | KDDIが同社のペロブスカイト太陽電池で商用基地局を運用する実証を開始(KDDIは2025年に地球環境大賞 総務大臣賞を受賞) | 通信インフラでの実証 |
| 2024年7月 | シリーズCで55億円を調達。リードはトヨタ系のWoven Capital | 累計調達が80億円を超える |
| 2025年1月 | トヨタとの共同開発で、4端子タンデムセルの変換効率30.4%を達成と発表。フィルム型のシースルー型で変換効率22.4%、赤外線透過率81% | いずれもセルレベル・限定面積の会社発表 |
| 2025年2月 | シリーズCの最終の追加調達(シリーズC総額約63億円、累計約87億円)。九州旅客鉄道・日揮と駅ホーム屋根での実証を開始 | シリーズCの完了 |
| 2025年3月 | 三菱マテリアルと電子輸送層の塗布型インクを開発(従来型インクより約1.5倍の発電効率と説明) | 材料メーカーとの共同開発 |
| 2025年5月 | 新工場を着工(2026年竣工予定と事業戦略ビジョンに記載) | 自前の生産拠点づくり |
| 2025年9月 | GI基金の実証事業(最終フェーズ)に採択。創業来初めてとなるR2R工法の本格導入を予定と発表 | 屋外定置型用途へ本格参入する方針 |
| 2025年10月 | JR九州・日揮と博多駅第2ホーム屋根上で発電実証を開始 | 会社は駅ホーム屋根での実証を国内初と説明 |
| 2026年1月 | NEDOでGI基金の交付決定通知の手交式 | 最終フェーズの資金が確定 |
| 2026年3月 | 宇宙戦略基金「SX-ARK(熱とデバイス)」に採択 | 宇宙用ペロブスカイトの実用化開発 |
| 2026年6月 | 超小型衛星「OrigamiSat-2」に搭載したフィルム型が、宇宙空間での発電(IV特性の計測)に成功(東京科学大学・JAXAと) | 宇宙での初の実証データ |
| 2026年8月 | 三菱ガス化学が代表事業者の新潟市の実証事業に技術協力 | ポリカーボネート一体型の自立電源IoT |
7. 今後の計画
| 最終フェーズの研究開発目標(事業戦略ビジョン) | 目標値 | ビジョン記載の現状 |
|---|---|---|
| R2R(10MW相当ライン)の塗工速度 | 30mm/s | 3.3mm/s |
| R2Rの良品率 | 90% | 50% |
| 30cm角フィルムモジュールの変換効率 | 16%(da)、挑戦目標18% | R2R生産は未検討 |
| パネルコスト/システム単価 | 64円/W/140円/W | パワコン・架台・工事費をそれぞれ20%削減する計画 |
| 湿熱耐久(85℃・85%RH) | 2,700時間で保持率90%以上 | 2,000時間 |
| 耐熱(120℃保管) | 1,000時間で保持率90%以上 | 500時間 |
| 難燃性 | 限界酸素指数30以上の基材で16%、IEC 61730のMST22〜24をクリア | UL94をクリア |
| 発電コスト | 14円/kWh(挑戦目標11円/kWh) | ― |
次はいずれも、本稿が確認した一次資料に記載がありません 未確定/将来。
売上高・損益/製品の販売価格/新工場の建設費と所在地/10MWラインの稼働月/ トヨタとの共同開発の車種・搭載時期・供給契約/ライセンス供与先の社名(ビジョンは「材料メーカーへ数種類をライセンス供与」とだけ記載)/ 株式上場の時期(ビジョンは「IPOを見越して」体制を整備と記載するのみ)。 「2035年までに協力先と年10GW以上の獲得を目指す」という記述もビジョンにありますが、エネコート単独の生産目標ではない点に注意が必要です。
8. この会社はペロブスカイト太陽電池で何を目指しているか
ここは会社が直接には述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに書きます。
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| 自社生産とライセンスの二本立てで広げる | 事業戦略ビジョンが「建屋・クリーンルームなどを保有し、生産を得意とする企業へライセンス供与」と「新工場へのR2Rライン導入」を並べて書いている | 事実 |
| ハードルの低い用途から先に売る | ビジョンが「稼働年数等のハードルが低いアイテムから早期に切り出して事業化を行い、早期マネタイズを達成する」と記載。屋内IoT、基地局、宇宙などの案件が先行している | 事実 |
| 大量生産はパートナー企業の力を借りる前提 | ビジョンが自社の弱みを「生産技術」と明記し、パートナー企業の量産ノウハウで補うと書いている。R2Rの現状値(3.3mm/s、良品率50%)と目標(30mm/s、90%)の差も大きい | 推測 |
| トヨタとの関係は技術・資金の両面で最重要 | 車載用の共同開発(2023年〜)に加え、トヨタ系ファンドのWoven CapitalがシリーズCのリード投資家で、その出身者が社外取締役にいる | 推測 |
| 宇宙は高付加価値の出口として育てている | JAXAハブ(2022年)、宇宙戦略基金(2026年)、OrigamiSat-2での発電成功(2026年)と、公的資金で宇宙用途を積み上げている | 推測 |
| 将来は株式上場で資金を得る | ビジョンが「IPOを見越して監査役3名+内部監査室体制を整備済み」と記載 | 推測 |
エネコートの強みと弱みは、事業戦略ビジョンの同じページにはっきり並んでいます。 強みとして挙げるのはミニセル24.5%・ミニモジュール20.6%(いずれも会社がJET認証と記載)という小面積での高い効率で、 弱みとして挙げるのは「生産技術」です 事実。 同じ資料の大面積品の効率は1,078cm²で13.7%で、面積が約19倍になると効率が約7ポイント下がっています 本稿の計算。 研究室発の会社が最初にぶつかるのが、まさにこの「小さく作れば高いが、大きく速く作ると下がる」壁です。 エネコートが自前の工場を建てつつライセンス供与も掲げているのは、材料とレシピでは勝てても、装置と歩留まりの勝負を1社で抱え込むのは危険だと判断しているからだと本稿は読みます 未確定/将来。
9. ペロブスカイト分野の提携マッピング
10. 提供している技術・製品・サービス
| 項目 | 会社の公表内容 |
|---|---|
| 製品・用途 | フィルム型ペロブスカイト太陽電池。会社は用途として時計・ウェアラブル、災害用テント、屋上発電、ソーラーカー、ZEH/ZEB、宇宙開発・ソーラープレーンを挙げる。低照度(屋内)向けのIoT用途と、高照度(屋外)向けの軽量薄膜の2つを事業の柱と説明 |
| 変換効率(小面積) | ミニセル24.5%(0.1cm²)、ミニモジュール20.6%(56cm²、da)。いずれも事業戦略ビジョンで会社が「JET認証」と記載。JET側の公表資料は本稿では確認していない |
| 変換効率(大面積) | 13.7%(1,078cm²、da)。認証の記載なし(会社発表) |
| タンデム | トヨタとの共同開発で、フィルム型シースルーセル22.4%(赤外線透過率81%)と結晶シリコンの4端子タンデムで30.4%。セルレベル・限定面積の会社発表 |
| 重さ・曲げ | 重量600g/㎡、曲率半径15cm(事業戦略ビジョン) |
| 耐久性 | フィルムモジュールで85℃・85%RH・2,000時間をクリア(会社発表) |
| 製造 | シート・ツー・シート(S2S)のパイロットラインを保有し、R2Rへ移行中。不活性ガス雰囲気での自動塗布装置を保有。インク・製造プロセス・装置の3つにノウハウがあり、量産の独自製法は秘匿すると説明 |
事業戦略ビジョンで材料側から最も興味深いのは、耐熱性を上げる方法として「C60フリー、各種電荷輸送層や裏面電極の金属酸化物への変更によってイオンマイグレーションを抑制」と書いている点です 事実。 ペロブスカイト太陽電池では、電子を運ぶ層にフラーレン(C60)がよく使われますが、C60は熱に弱く、 発電層の中を動き回るヨウ素などのイオンが電極まで届いて劣化を起こすことが知られています。 電荷輸送層や電極を無機の金属酸化物に置き換えれば、イオンの移動を止める「壁」を作れるという考え方です。 目標に「120℃保管で1,000時間」「1SUN照射下で110℃・150時間」と車載を意識した高温条件を並べていることからも、 トヨタとの共同開発で求められる耐熱性が材料設計を引っ張っていると読めます 未確定/将来。 水分への対策では、デバイスの直上にバリア層を作り、その上にバリアフィルムを重ねる「複合的バリア技術」を掲げています。 封止の考え方は本シリーズの技術解説「封止とバリア層」で扱っています。
11. この企業が抱えるリスク
| リスク | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 資金が尽きれば事業が止まる | 事業戦略ビジョンが「資金繰りに行き詰った場合は解散または倒産手続きに移行し必然的に事業中止に至る」「実用化までの期間は資金の大部分を投資家からのエクイティ調達に依存」と明記 | 事実 |
| 量産の技術 | 会社自身が弱みを「生産技術」とし、R2Rの塗工速度(3.3mm/s→30mm/s)と良品率(50%→90%)に大きな差がある | 事実 |
| 財務が外から見えない | 非上場で売上・損益・現金残高を公表していない。資金の消費速度を外部から確かめられない | 未確定/将来 |
| 特定材料の忌避 | ビジョンがリスクとして「特定材料の忌避」を挙げ、代替材料の開発で対処するとしている(鉛を念頭に置いた記述と読める) | 事実 |
| 販売価格の低下と競争 | ビジョンが「販売価格低下」「製品陳腐化」をリスクに挙げる。国内では積水化学が100MWラインを建設中で、先に量産規模を持つ競合がいる | 推測 |
| 特定の大口パートナーへの依存 | 技術(トヨタとの共同開発)と資金(Woven Capital)の両面でトヨタグループとの関係が大きい。共同開発の成果の帰属や車載採用の条件は公表されていない | 推測 |
12. 用語集
- 専業スタートアップ
- ペロブスカイト太陽電池だけを事業とする新興企業。成否が会社の存続に直結する。
- JET
- 一般財団法人電気安全環境研究所。太陽電池の性能や安全性の試験・認証を行う国内の第三者機関。
- da(指定照射面積)
- designated illumination area。光を当てる面積を決めて測った効率。周辺の非発電部を含めるかどうかで数値が変わる。
- 4端子タンデム
- ペロブスカイトとシリコンのセルを重ね、それぞれ別の端子から電気を取り出す方式。電流を合わせる必要がない。
- R2R/S2S
- ロール・ツー・ロールは巻いたフィルムを連続で加工する方式、シート・ツー・シートは1枚ずつ加工する方式。
- C60(フラーレン)
- 炭素60個からなる球状の分子。ペロブスカイト太陽電池の電子輸送層によく使われるが熱に弱い。
- イオンマイグレーション
- 電圧や熱によって、発電層の中のイオンが移動する現象。劣化の主な原因の1つ。
- シリーズC
- スタートアップの資金調達の段階の呼び名。一般に事業化・量産に向けた段階の調達を指す。
13. 出典
- エネコートテクノロジーズ 会社概要(2026年7月更新。設立日、資本金、従業員数、本店・研究所、役員)。 https://enecoat.com/company/index.html
- エネコートテクノロジーズ アクセス(拠点)。 https://enecoat.com/access/index.html
- エネコートテクノロジーズ(NEDO公開) 事業戦略ビジョン「設置自由度の高いペロブスカイト太陽電池の社会実装に向けた量産技術開発と実証」(事業開始時点)。強み・弱み、効率と耐久性の値、研究開発目標と現状、資金計画、R2Rライン計画、組織、新工場、リスク要因。 https://green-innovation.nedo.go.jp/resources/pdf/next-generation-solar-cells/item-1-3/vision-enecoat-001.pdf
- エネコートテクノロジーズ(NEDO公開) 事業戦略ビジョン(2021年採択テーマ、2025年12月時点)。パイロットライン、R2R試作装置、資金計画(約64億円・自己負担28億円規模)、営業部・海外事業部の設置。 https://green-innovation.nedo.go.jp/resources/pdf/next-generation-solar-cells/item-1-2/vision-enecoat-004.pdf
- エネコートテクノロジーズ リリース「車載用ペロブスカイト太陽電池の共同開発をトヨタと開始」(2023年6月27日)。 https://enecoat.com/wordpress/wp-content/uploads/2023/06/%E3%82%A8%E3%83%8D%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%86%E3%82%AF%E3%83%8E%E3%83%AD%E3%82%B8%E3%83%BC%E3%82%BA_20230627%E3%83%97%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B9.pdf
- エネコートテクノロジーズ リリース「エネコートテクノロジーズ、総額55億円のシリーズCラウンド資金調達を実施」(2024年7月18日)。 https://enecoat.com/wordpress/wp-content/uploads/2024/07/%E3%82%A8%E3%83%8D%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%86%E3%82%AF%E3%83%8E%E3%83%AD%E3%82%B8%E3%83%BC%E3%82%BA_20240718%E3%83%97%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B91.pdf
- エネコートテクノロジーズ リリース「ペロブスカイト/シリコンの4端子タンデム型太陽電池で変換効率30%超を達成」(2025年1月17日)。 https://enecoat.com/wordpress/wp-content/uploads/2025/01/%E3%82%A8%E3%83%8D%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%86%E3%82%AF%E3%83%8E%E3%83%AD%E3%82%B8%E3%83%BC%E3%82%BA_20250117%E3%83%97%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B9.pdf
- エネコートテクノロジーズ リリース「エネコートテクノロジーズ、シリーズCラウンドで追加調達を実施」(2025年2月20日)。 https://enecoat.com/wordpress/wp-content/uploads/2025/02/%E3%83%97%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%80%80%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BAC%E3%83%A9%E3%82%A6%E3%83%B3%E3%83%89%E8%BF%BD%E5%8A%A0%E8%B3%87%E9%87%91%E8%AA%BF%E9%81%94%E3%82%92%E5%AE%9F%E6%96%BD250220_final.pdf
- エネコートテクノロジーズ リリース「NEDOグリーンイノベーション基金最終フェーズに採択」(2025年9月10日、PR TIMES掲載)。 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000155707.html
- エネコートテクノロジーズ お知らせ「NEDO『グリーンイノベーション基金事業』の手交式が開催されました」(2026年2月16日)。 https://enecoat.com/news/20260216/
- エネコートテクノロジーズ リリース「宇宙戦略基金 技術開発テーマ『SX中核領域発展研究 SX-ARK(熱とデバイス)』の研究課題に採択」(2026年4月1日)。 https://enecoat.com/wordpress/wp-content/uploads/2026/04/%E3%83%97%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B9%E6%A1%88_%E5%AE%87%E5%AE%99%E6%88%A6%E7%95%A5%E5%9F%BA%E9%87%91_EneCoat_%E4%BF%AE%E6%AD%A3.pdf
- エネコートテクノロジーズ お知らせ「フィルム型ペロブスカイト太陽電池の宇宙実証に成功しました」(2026年7月2日)。 https://enecoat.com/news/%e3%83%95%e3%82%a3%e3%83%ab%e3%83%a0%e5%9e%8b%e3%83%9a%e3%83%ad%e3%83%96%e3%82%b9%e3%82%ab%e3%82%a4%e3%83%88%e5%a4%aa%e9%99%bd%e9%9b%bb%e6%b1%a0%e3%81%ae%e5%ae%87%e5%ae%99%e5%ae%9f%e8%a8%bc%e3%81%ab/
- エネコートテクノロジーズ お知らせ「JAXA宇宙探査イノベーションハブの研究課題に採択されました」(2022年10月21日)。 https://enecoat.com/news/jaxa%e5%ae%87%e5%ae%99%e6%8e%a2%e6%9f%bb%e3%82%a4%e3%83%8e%e3%83%99%e3%83%bc%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%b3%e3%83%8f%e3%83%96%e3%81%ae%e7%a0%94%e7%a9%b6%e8%aa%b2%e9%a1%8c%e3%81%ab%e6%8e%a1%e6%8a%9e/
- エネコートテクノロジーズ お知らせ「三菱マテリアル株式会社と電子輸送層の塗布タイプ成膜用インクを開発」(2025年3月24日)。 https://enecoat.com/news/20250324/
- エネコートテクノロジーズ お知らせ「KDDI様が国内初、弊社ペロブスカイト太陽電池を活用した基地局実証を開始しました」(2024年3月13日)。 https://enecoat.com/news/kddi%e6%a7%98%e3%81%8c%e5%9b%bd%e5%86%85%e5%88%9d%e3%80%81%e5%bc%8a%e7%a4%be%e3%83%9a%e3%83%ad%e3%83%96%e3%82%b9%e3%82%ab%e3%82%a4%e3%83%88%e5%a4%aa%e9%99%bd%e9%9b%bb%e6%b1%a0%e3%82%92%e6%b4%bb/
- エネコートテクノロジーズ お知らせ「KDDI株式会社様の弊社のペロブスカイト太陽電池を活用した基地局実証が『地球環境大賞 総務大臣賞』を受賞しました」(2025年3月6日)。 https://enecoat.com/news/20250306/
- エネコートテクノロジーズ お知らせ「日揮ホールディングス株式会社、苫小牧埠頭株式会社と実証実験の開始を決定いたしました」(2023年10月23日)。 https://enecoat.com/news/%e6%97%a5%e6%8f%ae%e3%83%9b%e3%83%bc%e3%83%ab%e3%83%87%e3%82%a3%e3%83%b3%e3%82%b0%e3%82%b9%e6%a0%aa%e5%bc%8f%e4%bc%9a%e7%a4%be%e3%80%81%e8%8b%ab%e5%b0%8f%e7%89%a7%e5%9f%a0%e9%a0%ad%e6%a0%aa%e5%bc%8f/
- エネコートテクノロジーズ お知らせ「三井不動産レジデンシャル株式会社、京都大学と住宅用ペロブスカイト太陽電池の共同研究を開始」(2023年10月17日)。 https://enecoat.com/news/%e4%b8%89%e4%ba%95%e4%b8%8d%e5%8b%95%e7%94%a3%e3%83%ac%e3%82%b8%e3%83%87%e3%83%b3%e3%82%b7%e3%83%a3%e3%83%ab%e6%a0%aa%e5%bc%8f%e4%bc%9a%e7%a4%be%e3%81%a8%e4%ba%ac%e9%83%bd%e5%a4%a7%e5%ad%a6%e3%81%a8/
- エネコートテクノロジーズ お知らせ「神奈川県、日揮株式会社と『脱炭素化促進のためのペロブスカイト太陽電池の普及に関する連携協定』を締結」(2023年12月21日)。 https://enecoat.com/news/%e7%a5%9e%e5%a5%88%e5%b7%9d%e7%9c%8c%e3%80%81%e6%97%a5%e6%8f%ae%e6%a0%aa%e5%bc%8f%e4%bc%9a%e7%a4%be%e3%81%a8%e3%80%8c%e8%84%b1%e7%82%ad%e7%b4%a0%e5%8c%96%e4%bf%83%e9%80%b2%e3%81%ae%e3%81%9f%e3%82%81/
- エネコートテクノロジーズ お知らせ「国内初!駅ホーム屋根へのフィルム型ペロブスカイト太陽電池実証実験を開始しました」(2025年2月28日)。 https://enecoat.com/news/%e5%9b%bd%e5%86%85%e5%88%9d%ef%bc%81%e9%a7%85%e3%83%9b%e3%83%bc%e3%83%a0%e5%b1%8b%e6%a0%b9%e3%81%b8%e3%81%ae%e3%83%95%e3%82%a3%e3%83%ab%e3%83%a0%e5%9e%8b%e3%83%9a%e3%83%ad%e3%83%96%e3%82%b9%e3%82%ab/
- エネコートテクノロジーズ お知らせ「博多駅ホーム屋根での発電実証実験を開始しました」(2025年10月21日)。 https://enecoat.com/news/20251021/
- エネコートテクノロジーズ お知らせ「三菱ガス化学による新潟市のペロブスカイト太陽電池実証事業に技術協力します」(2026年8月26日)。 https://enecoat.com/news/%e4%b8%89%e8%8f%b1%e3%82%ac%e3%82%b9%e5%8c%96%e5%ad%a6%e3%81%ab%e3%82%88%e3%82%8b%e6%96%b0%e6%bd%9f%e5%b8%82%e3%81%ae%e3%83%9a%e3%83%ad%e3%83%96%e3%82%b9%e3%82%ab%e3%82%a4%e3%83%88%e5%a4%aa%e9%99%bd/
- NEDO 「グリーンイノベーション基金事業で、次世代型太陽電池の開発に着手」(2021年12月28日)の別紙1 実施予定先一覧。エネコート(幹事)と京都大学の採択テーマ。 https://www.nedo.go.jp/content/100940817.pdf
- NEDO 「次世代型太陽電池実証事業」で3件を新規採択(2025年9月10日)の別紙1 実施予定先一覧。 https://www.nedo.go.jp/content/800032096.pdf
- エネコートテクノロジーズ 産業分野(用途一覧)。 https://enecoat.com/application/index.html
14. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年9月25日/Troy Technical
本稿の数値はすべてエネコートテクノロジーズの公式リリース・会社概要、同社がNEDOに提出した事業戦略ビジョン、NEDOの公表資料に基づきます。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。