INSTITUTION PROFILE / ペロブスカイト太陽電池
International Electrotechnical Commission
― ペロブスカイト太陽電池の「試験のものさし」を国際的に決める場
IEC(国際電気標準会議)は、電気・電子技術の国際規格をつくる非営利の会員制団体です。 太陽電池の規格は技術委員会TC 82が担当し、モジュールの型式認証の試験(IEC 61215)や、セル・モジュールの測定方法(IEC 60904)を定めています。 ところがペロブスカイト太陽電池向けの試験・測定の規格は、2026年9月時点でまだ審議中です。 本稿では、IECがペロブスカイト太陽電池にどこまで影響を持つのかに絞って整理します。
- 30秒でわかるIEC
- どんな機関か ― 影響力の「型」
- ペロブスカイト太陽電池で何をしているか
- 影響力の範囲(権限と地域)
- 関わっている国・組織
- 今後の見通し
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるIEC
IECは「どう試験し、どう測るか」を国際的に決める場で、資金も規制権限も持ちません。 太陽電池モジュールの型式認証の規格IEC 61215には、結晶シリコン・CdTe・アモルファスシリコン・CIGSの個別要求がありますが、ペロブスカイトを含むモジュールの個別要求(IEC 61215-1-6)は2026年4月に審議が始まった段階で、発行予定は2028年6月です 事実。 日本の経済産業省も米国DOEも、ペロブスカイト太陽電池の評価方法をこのIECの場に持ち込もうとしています。
2. どんな機関か ― 影響力の「型」
ペロブスカイト太陽電池の記事に出てくる「機関」は、企業と違って自分では太陽電池を作りません。 その代わりに、どういう経路で業界に影響を与えるかで4つの型に分けられます。
3. ペロブスカイト太陽電池で何をしているか
TC 82の作業計画(90件)のうち、題名にペロブスカイトや準安定デバイスを含むものは次の3件です。いずれも発行前で、発行時期はIECの予定日です 事実。
| 規格・文書 | 担当 | 状態(2026年9月時点) | 中身 |
|---|---|---|---|
| IEC 61215-1-6 第1版 | WG 2(モジュール) | 2026年4月に委員会原案(CD)段階へ。CD回付は2026年11月、発行予定は2028年6月 | 地上用モジュールの設計適格性と型式認証のうち、金属ハライドペロブスカイトを含むモジュールの試験の個別要求 |
| IEC TS 60904-1-4 第1版 | WG 2(モジュール) | 2026年8月に技術仕様書原案(DTS)を受付。DTS回付は2026年11月、発行予定は2027年2月 | 準安定な太陽電池(測定中に特性が変わるもの)の電流-電圧測定の指針 |
| IEC TS 63202-9 第1版 | WG 8(セル) | 2026年1月にCD段階へ。CD回付は2026年7月、発行予定は2028年7月 | 研究段階のペロブスカイトセルの測定仕様 |
発行済みの文書では、IEC TR 63228:2019(2019年7月8日発行、35ページ)が、有機・色素増感・ペロブスカイトの太陽電池の測定手順をまとめた技術報告書です。 シリコンを前提に作られたIEC 60904の測定規格では、性能が時間とともに変わるなどの理由で正確に測れないことがある、と課題を整理しています 事実。 また、IECの市場戦略評議会(MSB)は2025年1月28日に、ペロブスカイトを中心に新興の太陽電池材料を扱うトレンドレポート「Emerging PV」を無料で公開しました。
IEC 61215-1:2021は、屋外で長期間使うモジュールの設計適格性の要求を定めた規格ですが、試験結果はモジュール寿命の定量的な予測とはみなされないと明記しています 事実。 米国DOEの2023年のタンデム公募も、IEC 61215の試験項目(MQT 10・11・13・21)に加えて、ISOS-L-2という光照射下の試験を組み合わせて条件にしました。 封止材やバリアフィルムを供給する立場では、既存のIEC 61215の試験に通ることと、IEC TR 63228が課題に挙げる「時間とともに性能が変わる」性質への対策の両方を示す必要がある、というのが現状です。
4. 影響力の範囲(権限と地域)
| 観点 | IECが持っているもの | 持っていないもの |
|---|---|---|
| 権限 | 国内委員会の投票を経て、国際規格・技術仕様書・技術報告書を発行する権限 | 規格を守らせる権限、製品を認可・禁止する権限、研究資金 |
| 地域 | 国際。92の国内委員会、約170か国が関わる。TC 82には日本・中国・米国・ドイツ・韓国・インドなど48か国が参加国として加わる | 加盟していない国への拘束力。規格を国内基準にするかどうかは各国の判断 |
| 貿易との関係 | WTOのTBT協定のもとで、加盟国は国際規格を国内規格・強制規格・試験認証の基礎に使うと約束している | 各国の強制規格そのものを決める権限 |
| ペロブスカイトの範囲 | ペロブスカイトを含むモジュールの試験、準安定デバイスの測定、研究段階のセルの測定を審議中 | 2026年9月時点で、ペロブスカイト専用の発行済みの国際規格はない(本稿で確認した範囲) |
第3章の発行時期は、IECのダッシュボードに載った予定日です。規格は原案(CD)、投票用原案、最終原案と段階を踏み、各段階で国内委員会の意見や投票を受けるため、予定より遅れることがあります 未確定/将来。
5. 関わっている国・組織
IECの規格に関わる各国の動き(一次資料の記載)
| 国・組織 | 記載内容 | 本シリーズとの関係 |
|---|---|---|
| 日本(JISC・経済産業省) | IECの日本の国内委員会はJISCで、連絡先は経済産業省内。官民協議会の資料(2026年5月)は、GI基金で開発した性能評価法を新規の国際規格として提案し、2026年度内の発行に向けて活動中としている | 経済産業省・NEDOの機関解説 |
| 米国(DOE) | 2023年のタンデム公募で、IEC 61215の試験項目の合格を2026年末までの目標に含めた。選定先にFirst Solar・Swift Solar・Tandem PV | DOEの機関解説、各社の企業解説(作成中) |
| TC 82の運営 | 幹事国は米国。日本・中国・米国・ドイツ・韓国などが参加国 | ― |
6. 今後の見通し
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| ペロブスカイトの型式認証の個別要求がそろうのは2028年ごろで、それまでは既存のIEC 61215と研究者向けのISOS試験の組み合わせで評価する状態が続く | IEC 61215-1-6の発行予定は2028年6月。DOEの公募はIEC 61215の試験項目とISOS-L-2を組み合わせた | 推測 |
| 官民協議会の資料にある「2026年度内の発行」は、発行予定が2027年2月のIEC TS 60904-1-4を指している可能性がある | 官民協議会の資料は2026年度内の発行を目指すとし、TC 82の作業計画でTS 60904-1-4の発行予定は2027年2月(日本の2026年度内) | 推測 |
| IEC 61215-1-6の題名は「ペロブスカイトを含む」モジュールで、単接合だけでなくタンデムにも適用される書き方になっている | TC 82作業計画の題名(metal halide perovskite-containing PV modules)。中身は審議中 | 推測 |
7. 用語集
- TC 82
- IECの技術委員会で、太陽光発電システム全体(セルから電力系統との接点まで)の規格を担当する。
- IEC 61215
- 地上用太陽電池モジュールの設計適格性と型式認証の規格。第1部の本体と、材料別の個別要求(1-1〜1-4)からなる。
- IEC 60904
- 太陽電池デバイスの測定方法の規格群。電流-電圧特性や分光感度の測り方を定める。
- 準安定(メタステーブル)
- 光や電圧をかけている間に特性がゆっくり変わる性質。ペロブスカイトでは測定値が条件によってぶれる原因になる。
- CD/DTS
- CDは委員会原案、DTSは技術仕様書の投票用原案。規格は段階ごとに国内委員会の意見・投票を受ける。
8. 出典
- IEC Who we are(1906年設立、電気・電子技術の国際規格の作成・発行)。 https://www.iec.ch/who-we-are
- IEC About us(約170か国、専門家約3万人)。 https://www.iec.ch/about-us
- IEC National Committees(正会員64・準会員28・計92、1国1委員会、個人・企業は会員になれない)。 https://www.iec.ch/national-committees
- IEC Members > Japan(日本の国内委員会はJapanese Industrial Standards Committee、連絡先は経済産業省内)。 https://www.iec.ch/dyn/www/f?p=103:16:::::FSP_ORG_ID:1004
- IEC IEC and global trade(WTOのTBT協定と国際規格)。 https://www.iec.ch/what-we-do/iec-and-global-trade
- IEC TC 82 Dashboard > Scope(TC 82の担当範囲、幹事国)。 https://www.iec.ch/dyn/www/f?p=103:7:0::::FSP_ORG_ID,FSP_LANG_ID:1276,25
- IEC TC 82 Dashboard > Structure(作業部会、加盟国の一覧、参加国48・オブザーバー9、幹事国:米国)。 https://www.iec.ch/dyn/www/f?p=103:29:0::::FSP_ORG_ID,FSP_LANG_ID:1276,25
- IEC TC 82 Dashboard > Projects / Publications(作業計画90件。IEC 61215-1-6、IEC TS 60904-1-4、IEC TS 63202-9、IEC 61215-1-1〜1-4の段階・担当WG・発行予定日。2026年9月閲覧)。 https://www.iec.ch/dyn/www/f?p=103:23:0::::FSP_ORG_ID,FSP_LANG_ID:1276,25
- IEC Webstore IEC 61215-1:2021(地上用モジュールの設計適格性。試験結果は寿命の定量的な予測とはみなされない)。 https://webstore.iec.ch/en/publication/61345
- IEC Webstore IEC TR 63228:2019(有機・色素増感・ペロブスカイトの測定手順、2019年7月8日発行、35ページ)。 https://webstore.iec.ch/en/publication/64040
- IEC Webstore IEC Trend Report Emerging PV:2025(2025年1月28日、MSBの作業部会が作成、無料公開、ペロブスカイトが中心)。 https://webstore.iec.ch/en/publication/105015
- 次世代型太陽電池の導入拡大及び産業競争力強化に向けた官民協議会 事務局 「次世代型太陽電池に関わる動向について」(2026年5月20日)。性能評価法の国際規格提案と2026年度内の発行に向けた活動。 https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/perovskite_solar_cell/pdf/010_01_00.pdf
- U.S. Department of Energy Thin-Film PV FOA 3058 説明会資料(2023年9月)。IEC 61215のMQT 10・11・13・21とISOS-L-2を含む2026年末までの性能目標。 https://www.energy.gov/sites/default/files/2023-09/SETO%20Thin-Film%20PV%20FOA%203058%20-%20Webinar.pdf
- U.S. Department of Energy Advancing U.S. Thin-Film Solar Photovoltaics Funding Program(ペロブスカイト・タンデムの選定先)。 https://www.energy.gov/cmei/systems/advancing-us-thin-film-solar-photovoltaics-funding-program
9. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年9月25日/Troy Technical
本稿の内容はIECの公式サイト(2026年9月閲覧)と、経済産業省・DOEの公表資料に基づきます。発行予定日はIECの予定で、確定ではありません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈です。