INSTITUTION PROFILE / ペロブスカイト太陽電池
Helmholtz-Zentrum Berlin(HZB)
― タンデムの世界記録を繰り返し塗り替えてきたベルリンの研究拠点
HZBはドイツのベルリンにある公的研究機関で、放射光施設BESSY IIの運営と、太陽電池などのエネルギー材料の研究を柱にしています。 ペロブスカイト太陽電池では、ペロブスカイト/シリコンとペロブスカイト/CIGSのタンデムで何度も世界記録を出したことで知られます。 ただしHZBは規制や認定の権限を持つ機関ではなく、記録は外部の試験機関に認定してもらう立場です。 本稿では、HZBがペロブスカイト太陽電池にどこまで影響を持つのかに絞って整理します。
- 30秒でわかるHZB
- どんな機関か ― 影響力の「型」
- ペロブスカイト太陽電池で何をしているか
- 影響力の範囲(権限と地域)
- 関わっている企業・組織
- 今後の見通し
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるHZB
HZBの影響力は「記録を作って見せる」ことで生まれるものです。 ペロブスカイト/シリコンのタンデムでは、2020年に29.15%、2021年に29.8%、2022年に32.5%と記録を更新し、 32.5%はイタリアのESTI(欧州太陽光試験施設)の認定を受けてNRELのチャートに載りました 事実。 ペロブスカイト/CIGSのタンデムでは、2020年の記録を機にNRELのチャートにこの組み合わせの枠ができたとHZBは説明しています 事実。 ただし現在のペロブスカイト/シリコンの記録は企業(LONGiの35.2%)に移っています。HZBは記録づくりと並んで、PVcomBを通じた企業への技術移転も担っています。
2. どんな機関か ― 影響力の「型」
ペロブスカイト太陽電池の記事に出てくる「機関」は、企業と違って自分では太陽電池を量産しません。 その代わりに、どういう経路で業界に影響を与えるかで4つの型に分けられます。
3. ペロブスカイト太陽電池で何をしているか
タンデムの記録の歩み
| 時期 | 組み合わせ | 効率 | 認定・掲載 |
|---|---|---|---|
| 2019年9月 | ペロブスカイト/CIGS | 23.26% | 面積1cm²で認定値として世界記録。仏マルセイユの国際会議EU PVSECで発表 |
| 2020年1月 | ペロブスカイト/シリコン | 29.15% | データ表の測定機関はFhG-ISE |
| 2020年4月(発表) | ペロブスカイト/CIGS | 24.16% | NRELのチャートにペロブスカイト/CIGSの枠が新設された |
| 2021年11月 | ペロブスカイト/シリコン | 29.8% | 周期的なナノ構造で達成(HZBの2022年の発表)。データ表の測定機関はFhG-ISE |
| 2022年12月 | ペロブスカイト/シリコン | 32.5% | ESTIが認定し、NRELのチャートに掲載 |
| 2025年2月(発表) | ペロブスカイト/CIGS | 24.6% | Fraunhofer ISEが認定 |
| 2026年6月(発表) | ペロブスカイト/CIGS | 25.5% | 面積1.081cm²。1cm²超を条件とするグリーンテーブル(Progress in Photovoltaics誌の効率表)に記録として掲載 |
※2026年7月17日改訂のNLR(旧NREL)のチャートでは、ペロブスカイト/シリコンの最高値はLONGiの35.2%、ペロブスカイト/CIGSの最高値はKIERの26.7%です 事実。KIERの記録の面積はデータ表で0.16cm²で、HZBの25.5%とは面積の条件が違います。
研究の拠点
| 拠点・部門 | 中身 | ペロブスカイトとの関係 |
|---|---|---|
| ペロブスカイト・タンデム太陽電池部門 | 高効率のペロブスカイト・タンデムの開発。光学・電気の損失の仕組みを調べる | カウナス大学(Kaunas University)と、正孔を取り出す自己組織化単分子膜(SAM)を共同開発。2019年の発表では特許を2件出願 |
| HySPRINT(ハイスプリント) | シリコンとペロブスカイトを組み合わせた新しい材料と工程の研究所 | 2019年と2020年のペロブスカイト/CIGSの記録セルは、主にここで作製・成膜された。PVcomBと密接に連携 |
| PVcomB(ベルリン太陽光発電コンピテンスセンター) | 研究と産業の橋渡し。産業に近い成膜・工程設備を持ち、企業との共同研究と人材育成で技術を移転 | 32.5%の記録ではPVcomBとHySPRINTのチームが共同で取り組んだ |
| 屋外性能試験 | 1cm²以下のセルから、ミニモジュール、企業の実用サイズのモジュールまで屋外で試験 | 2021年初めから続くペロブスカイトの屋外測定は「世界で最も長い部類」とHZBは説明 |
| 建材一体型PV(BIPV) | 380m²のPVファサードを実験場として運用。建材一体型PVの相談窓口(BAIP)も設置 | 建物に組み込む用途の実証の場 |
HZBの記録発表は、いずれも層と層の間(界面)の材料を記録の理由に挙げています。 2019年のペロブスカイト/CIGSでは、カルバゾール系の分子にホスホン酸基をつけたSAMが凹凸のあるCIGSの表面を覆ったこと、 2022年の32.5%では界面の改質で電荷の再結合損失を減らしたこと、 2026年の25.5%では酸化ニッケル(NiOx)とSAMの組み合わせや、フッ化リチウムの極薄層(1nm)の上へのC60の蒸着条件を詰めたことです 事実。 材料を供給する立場から見ると、正孔輸送層・電子輸送層・パッシベーション層が差別化の中心になっていることがわかります。 本シリーズの技術解説「タンデム」でも扱っています。
4. 影響力の範囲(権限と地域)
| 観点 | HZBが持っているもの | 持っていないもの |
|---|---|---|
| 権限 | 研究成果と特許。共同研究・受託研究を通じた技術移転の窓口(PVcomB) | 規制・補助金・規格を決める権限。効率を認定する権限(記録はESTIやFraunhofer ISEなど外部が認定) |
| 地域 | 記録と論文は世界の参照先。共同研究はドイツ国内の大学やEUのプロジェクト(SOLMATESなど)が中心 | 他国の市場や政策への直接の権限 |
| 記録への関与 | ペロブスカイト/シリコンとペロブスカイト/CIGSの記録を何度も更新。1cm²超の条件ではペロブスカイト/CIGSの記録を保持(2026年6月の発表) | ペロブスカイト/シリコンの現在の記録(LONGiの35.2%) |
| 規模 | 約1,500人、年間約2億2,000万ユーロ(全分野) | 太陽光発電やペロブスカイトに使う人数・予算の内訳は公表されていない |
HZBは2026年の発表で、NLRのチャートは面積が0.001cm²のセルでも技術ごとの最高値を載せる一方、 グリーンテーブルは1cm²超を条件にすると説明しています 事実。 同じ「ペロブスカイト/CIGSの世界記録」でも、チャートではKIERの26.7%(0.16cm²)、グリーンテーブルではHZBの25.5%(1.081cm²)と、 どの表のどの条件の記録かで答えが変わります。
5. 関わっている企業・組織
本シリーズの企業解説との関係
| 企業 | HZBとの関係(一次情報に記載のあるもの) | このシリーズとの関係 |
|---|---|---|
| Oxford PV | NLRのデータ表で、2018年4月のペロブスカイト/シリコン25.2%の作製者欄に「Oxford PV/Oxford/HZB」と記載(測定機関はFhG-ISE) | Oxford PVの企業解説 |
※HZBの太陽光発電研究のページは、装置メーカーや材料メーカーを含む企業と協力してきたと書いていますが、企業名の一覧は載せていません。
6. 今後の見通し
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| HZBの強みは、ペロブスカイト/シリコンの最高効率競争よりも、CIGSと組み合わせた薄膜タンデムや、1cm²超の実用に近い面積での記録へ移っている | 2025年と2026年の記録発表はいずれもペロブスカイト/CIGS。2026年の発表は1cm²超を条件とする効率表での記録を強調し、2.25cm²のミニモジュールで約19.7%も報告 | 推測 |
| フィルム型・軽量の用途(宇宙を含む)で、ペロブスカイト/CIGSの研究の参照先になる | 2020年の発表は、薄膜どうしのタンデムは厚さ5µm未満でフレキシブルなモジュールにでき、放射線に強く衛星にも向くと説明 | 推測 |
| 屋外での長期データが、耐久性の評価で存在感を増す | 2021年初めから続くペロブスカイトの屋外測定を「世界で最も長い部類」と説明し、企業の実用サイズのモジュールも試験している | 推測 |
7. 用語集
- ヘルムホルツ協会
- ドイツの研究センターの連合。HZBを含む18センターで構成。
- CIGS
- 銅・インジウム・ガリウム・セレンの化合物半導体。薄膜太陽電池に使われ、フレキシブル基板にも成膜できる。
- SAM(自己組織化単分子膜)
- 分子が自発的に並んで1分子分の厚さの膜をつくるもの。ペロブスカイトとの界面で正孔を取り出す層に使う。
- ESTI
- イタリアにある欧州の太陽光試験施設。NLRのチャートでは「JRC-ESTI」と表記され、効率の認定機関の1つ。
- グリーンテーブル
- Progress in Photovoltaics誌が定期的に掲載する太陽電池の効率表の通称。面積1cm²超などの条件がある。
8. 出典
- HZB Facts and Figures(3拠点、ヘルムホルツ協会18センター、約1,500人・うち研究者約600人、年間約2億2,000万ユーロ、外部研究者約2,700人・28か国、67か国出身)。 https://www.helmholtz-berlin.de/zentrum/wofuer-wir-stehen/fakten_en.html
- HZB History of the Helmholtz-Zentrum Berlin(2009年1月1日の統合、HMIとBESSYの設立年)。 https://www.helmholtz-berlin.de/zentrum/historie-hzb/index_en.html
- HZB Photovoltaics(研究の範囲、屋外性能試験、380m²のPVファサード、BAIP、PVcomB・HySPRINT、企業との協力)。 https://www.helmholtz-berlin.de/forschung/unsere-forschung/photovoltaik/index_en.html
- HZB Department Perovskite Tandem Solar Cells(部門の目的、カウナス大学とのSAMの共同開発、29.15%と24.16%の認定値)。 https://www.helmholtz-berlin.de/forschung/oe/se/perovskite-tandemsolarcells/index_en.html
- HZB HySPRINT Photovoltaics Lab(シリコンとペロブスカイトのハイブリッド材料、PVcomBとの連携)。 https://www.helmholtz-berlin.de/forschung/quellen/corelabs/hysprint_en.html
- HZB Corelab PVcomB(研究と産業の橋渡し、共同研究と人材育成による技術移転)。 https://www.helmholtz-berlin.de/forschung/quellen/corelabs/pvcomb_en.html
- HZB ニュース「World record for tandem perovskite-CIGS solar cell」(2019年9月9日。23.26%、EU PVSEC、SAM、特許2件)。 https://www.helmholtz-berlin.de/pubbin/news_seite?nid=20769&sprache=en
- HZB ニュース「Tandem solar cell world record: New branch in the NREL chart」(2020年4月14日。24.16%、チャートの新しい枠、厚さ5µm未満、宇宙用途)。 https://www.helmholtz-berlin.de/pubbin/news_seite?nid=21263&sprache=en
- HZB ニュース「World record back at HZB: Tandem solar cell achieves 32.5 percent efficiency」(2022年12月19日。ESTIの認定、NRELのチャート、29.8%、PVcomBとHySPRINT)。 https://www.helmholtz-berlin.de/pubbin/news_seite?nid=24348&sprache=en
- HZB ニュース「HZB Sets New World Record for CIGS Perovskite Tandem Solar Cells」(2025年2月4日。24.6%、Fraunhofer ISEの認定、フンボルト大学・ベルリン工科大学)。 https://www.helmholtz-berlin.de/pubbin/news_seite?nid=28846&sprache=en
- HZB ニュース「CIGS-perovskite tandem cell achieves record efficiency of 25.5 %」(2026年6月30日。1.081cm²、グリーンテーブル、SOLMATES、HTWベルリン、ミニモジュール約19.7%)。 https://www.helmholtz-berlin.de/pubbin/news_seite?nid=34446&sprache=en
- NLR 研究用セル効率のデータ表(HZBの記録の測定機関と時期、Oxford PV/Oxford/HZBの記載、KIERの記録の面積)。 https://www.nlr.gov/docs/libraries/pv/cell-efficiency-data-table.xlsx
- NLR Best Research-Cell Efficiencies(チャートPDF、2026年7月17日改訂)。 https://www.nlr.gov/docs/libraries/pv/cell-pv-eff.pdf
9. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年9月25日/Troy Technical
本稿の数値はHZBの公式サイトとニュースリリース、NLRの効率チャートとデータ表に基づきます。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈です。