TECHNOLOGY EXPLAINER
ペロブスカイトの基本
― 「溶かして塗れる半導体」は、なぜ成り立つのか
ペロブスカイト太陽電池の発電層は、ABX3という3種類のイオンの並び方で決まる結晶です。 経済産業省はこれを「国内研究者が開発した日本発の技術」と位置づけています。 本稿では、結晶構造・組成・許容因子を押さえたうえで、なぜ薄い膜で光を吸い切れるのか、なぜ150℃程度でつくれるのかを、素材の言葉で整理します。
- ペロブスカイトとは何か(3行でつかむ)
- ABX3 の結晶構造 ― 八面体の骨組みと、そのすき間
- 3つの席に何が入るか ― MA・FA・Cs、鉛、ヨウ素・臭素
- 本稿の計算:許容因子を実際に計算してみる
- 素材技術者の視点①:許容因子は「入口の目安」にすぎない
- なぜ薄い膜で光を吸い切れるのか
- なぜ塗布でつくれるのか
- 素材技術者の視点②:「つくりやすい」は「壊れやすい」の裏返し
- 効率の現在地 ― 数字は必ず面積とセットで読む
- 強みと弱み/課題
- 用語集/参考資料/出典対応表
事実=公表資料・査読論文に記載のある内容(出典リンクあり)
本稿の計算=明示した前提をもとに本記事が算出した値
未確定/将来=計画・目標であり、実績が確認できていない事項
このほか、構造の整理や材料設計上の読み取りは「解説」として区別しています。
1. ペロブスカイトとは何か(3行でつかむ)
「ペロブスカイト」は本来、特定の物質名ではなく、結晶構造の型の名前です。 太陽電池で使われているのは、そのなかのハロゲン化金属ペロブスカイトと呼ばれる一群です。
- 何でできているか:経済産業省の戦略文書は、ペロブスカイト太陽電池を「3種類のイオン(代表的にはA:有機アンモニウム、B:鉛、X:ヨウ素)がABX3のペロブスカイト結晶構造で配列する材料を発電層に用いた太陽電池の総称」と説明しています事実
- どこから始まったか:2009年、宮坂力氏らのグループが、CH3NH3PbI3 を色素増感型の光電気化学セルに使い、変換効率3.8%を報告しました事実。経済産業省は「国内研究者が開発した日本発の技術」としています事実
- どこまで来たか:第三者機関が測定した単接合ペロブスカイトセルの効率は、面積0.05 cm²の小さなセルで28.0%、面積約1 cm²のセルで26.9%に達しています事実(詳しくは第9章)
ペロブスカイトは、「イオンの結晶」でありながら「よくできた半導体」でもある材料です。 イオン結晶だから溶液から低温でつくれる。半導体として光を強く吸い、欠陥の影響を受けにくい。 そして同じ理由で、熱・水分・光でイオンが動き、壊れやすい。 この記事は、その三つが同じ根っこから出ていることを示します(本記事による解説)。
2. ABX3 の結晶構造 ― 八面体の骨組みと、そのすき間
ペロブスカイト構造は、B(金属)を中心に6個のX(ハロゲン)が囲んだ八面体 BX6 が、頂点を共有してつながった骨組みと、 そのすき間に入る大きな陽イオンAでできています。 Bartel らは、ペロブスカイト構造を「頂点共有した BX6 八面体の網目が、より大きなAサイト陽イオンを囲む」ABX3 化合物と定義しています事実。
室温の MAPbI3 は「立方晶」ではない
1978年、Weber は CH3NH3PbX3(X=Cl、Br、I)が立方晶のペロブスカイト構造をとり、格子定数がCl 5.68 Å、Br 5.92 Å、I 6.27 Åであると報告しました事実。 ただしこれは高温相の話です。Whitfield らの中性子・放射光回折では、MAPbI3 は約330 K 付近で立方晶から正方晶へ、さらに約160 K 付近で斜方晶へ転移し、いずれも一次転移でした事実。
330 K − 273 = 約57℃本稿の計算。 屋外の太陽電池パネルは日射下でこの程度の温度になりえます。 「動作温度の範囲内に構造相転移がある」という点は、MAPbI3 を発電層に使ううえで押さえておくべき性質です(本記事による解説)。 この転移が発電性能や寿命にどう効くかは、組成やデバイス構造によって異なり、本稿では評価していません。
3. 3つの席に何が入るか ― MA・FA・Cs、鉛、ヨウ素・臭素
組成の設計は、3つの席それぞれに何を入れるかの組み合わせです。 下の表は、本記事で使うイオン半径と、各組成について論文が報告している性質をまとめたものです。
| 席 | イオン | イオン半径(Å) | 論文が報告している性質 |
|---|---|---|---|
| A | メチルアンモニウム(MA⁺、CH3NH3⁺) | 2.16 | MA系のバンドギャップは約1.55 eV以上(Eperon ら) |
| A | ホルムアミジニウム(FA⁺、HC(NH2)2⁺) | 2.53 | FA系はハロゲン組成で1.48〜2.23 eVに調整可能(Eperon ら)。FAPbI3 は室温で黄色の六方晶(δH相)のほうが安定(Li ら) |
| A | セシウム(Cs⁺) | 1.88 | CsPbI3 は室温で斜方晶の非ペロブスカイト相(δO相)に落ち着く(Li ら) |
| B | 鉛(Pb²⁺) | 1.19(Shannon)/1.03(ヨウ化物での改訂値) | 標準的な B サイト金属 |
| X | ヨウ化物(I⁻) | 2.20 | MAPbI3 の立方晶格子定数 6.27 Å(Weber) |
| X | 臭化物(Br⁻) | 1.96 | MAPbBr3 の立方晶格子定数 5.92 Å(Weber) |
| X | 塩化物(Cl⁻) | 1.85 | MAPbCl3 の立方晶格子定数 5.68 Å(Weber) |
すべて事実。MA⁺・FA⁺・Pb²⁺(両値)・ハロゲン化物の半径は Travis ら[参考資料6]、Cs⁺ は Bartel ら[参考資料5]、性質は Eperon ら[参考資料8]、Li ら[参考資料7]、Weber[参考資料3]によります。有機分子イオンの「半径」は球とみなした場合の有効値です。
X サイトを I → Br → Cl と小さくすると格子が縮み、光学的なバンドギャップが広がります。 Stoumpos らは、MA・FA と Sn・Pb を組み合わせた4種のヨウ化物が直接遷移型の半導体で、バンドギャップは1.25〜1.75 eV に分布すると報告しています事実。 バンドギャップの設計そのものは、本シリーズ「バンドギャップと組成設計」編で詳しく扱います。
4. 本稿の計算:許容因子を実際に計算してみる
「A がすき間にうまく収まるか」を、イオン半径だけで見積もる古典的な指標がゴールドシュミットの許容因子 tです。
t =(rA + rX)÷[√2 ×(rB + rX)]
t=1 が「ぴったり」で、Travis らは0.8 ≤ t ≤ 1 でペロブスカイトが一般に形成され、t が1を超えると A が大きすぎ、0.8未満では小さすぎて別の構造になりやすいと説明しています事実。 Li らも、0.8〜1.0 が立方晶ペロブスカイトに有利としています事実。
前の表の半径を使って計算します本稿の計算。
- Pb²⁺ に Shannon 半径 1.19 Å を使う場合:分母は √2 ×(1.19+2.20)= 4.794。 MAPbI3 = 4.36 ÷ 4.794 = 0.91、FAPbI3 = 4.73 ÷ 4.794 = 0.99、CsPbI3 = 4.08 ÷ 4.794 = 0.85
- Pb²⁺ に Travis らのヨウ化物での改訂値 1.03 Å を使う場合:分母は √2 ×(1.03+2.20)= 4.568。 MAPbI3 = 0.95、FAPbI3 = 1.04、CsPbI3 = 0.89
前提と限界:有機陽イオンを球とみなした有効半径を使っています。 どの半径表を使うかで t は0.05程度動きます。t は形成しやすさの目安であり、相の安定性を保証する値ではありません。
5. 素材技術者の視点①:許容因子は「入口の目安」にすぎない
図2を見ると、Pb 半径に Shannon の値を使った場合、MA・FA・Cs のすべてが0.8〜1.0 の範囲に入ります本稿の計算。 ところが実際には、Li らが報告しているとおりFAPbI3 は室温で黄色の六方晶(δH相)のほうが安定で、CsPbI3 は斜方晶の非ペロブスカイト相(δO相)に落ち着きます事実。
これは偶然ではありません。Bartel らは、576種の ABX3 化合物で検証した結果、 ゴールドシュミットの t が正しく判別できたのは全体の74%で、ヨウ化物に限ると33%にとどまったと報告しています事実。 Travis らも、t が既知の32種の無機ヨウ化物ペロブスカイトの安定性を正確に予測できないことを示しています事実。
では何が効いたのか。Li らは、大きすぎる FA と小さすぎる Cs を混ぜて「実効的な t」を調整するという方法で、FA0.85Cs0.15PbI3 の黒色相の安定性を高め、高湿度下での安定性も改善しました事実。
これは、合金やセラミックスの固溶体設計そのものです。 単一組成で相が安定しないなら、サイズの違う元素を混ぜて平均を合わせる。 いまの高効率セルの多くが MA・FA・Cs を混ぜた「多成分」組成になっているのは、この考え方の延長にあります(本記事による解説)。 逆にいえば、混ぜた組成は「混ざったままでいる」保証を別に取る必要があります。 光照射でハロゲンが分かれる現象は、本シリーズ「イオン移動と劣化」編で扱います。
6. なぜ薄い膜で光を吸い切れるのか
経済産業省の戦略文書は、シリコン太陽電池とペロブスカイト太陽電池(フィルム型)を比べ、光吸収係数をシリコン「~10⁴/cm」、ペロブスカイト「~10⁵/cm」と整理しています事実。 De Wolf らは MAPbI3 薄膜の吸収スペクトルを測定し、高い吸収係数と特に急峻な吸収端を確認しました。バンドギャップ直下の指数関数的な吸収のすそ(アーバックエネルギー)は15 meVと小さく、秩序のよい微細構造を示すとしています事実。
ランベルト・ベールの式で、1回の通過で吸収される割合 A = 1 − exp(−α × d)を計算します本稿の計算。
- 前提:α は経済産業省の整理にある桁の値(ペロブスカイト 1×10⁵ cm⁻¹、シリコン 1×10⁴ cm⁻¹)を代表値として使う
- 前提:膜厚 d は、経済産業省の資料で発電層の算出に使われている400 nm(=4×10⁻⁵ cm)とする
- ペロブスカイト:α×d = 10⁵ × 4×10⁻⁵ = 4 → A = 1 − e⁻⁴ = 約98%
- 同じ α×d をシリコン相当の α で得るには d = 4 ÷ 10⁴ = 4 µm(10倍の厚さ)。400 nm では A = 1 − e⁻⁰·⁴ = 約33%
前提と限界:実際の吸収係数は波長によって桁で変わり、シリコンは長波長側でさらに小さくなります。 反射・裏面電極での折り返し・光閉じ込めも無視しています。「桁が1つ違うと、必要な膜厚も桁で変わる」ことを示すための計算です。
薄い膜で足りるのは、キャリアが遠くまで届くから
光を吸えても、生まれた電子と正孔が電極に届く前に再結合すれば電流になりません。 Stranks らは、混合ハロゲン化物(CH3NH3PbI3−xClx)で電子・正孔の拡散長が1 µmを超え、吸収深さより1桁長いこと、一方 MAPbI3 では約100 nmであることを報告しました事実。
その背景として、Yin らは第一原理計算から、MAPbI3 の主要な固有欠陥は浅い準位しかつくらないことを示し、その理由を鉛の孤立電子対(6s)とヨウ素 p 軌道の反結合性の相互作用、そして高いイオン性に求めています事実。 多結晶の塗布膜でも性能が出るのは、この「欠陥に寛容」な性質が一因と考えられています。 ただし欠陥がゼロになるわけではなく、表面や粒界の処理は依然として効率を左右します。本シリーズ「パッシベーション」編で扱います。
7. なぜ塗布でつくれるのか
ペロブスカイトは、ヨウ化鉛(PbI2)とヨウ化メチルアンモニウム(MAI)のようなハロゲン化物塩を溶媒に溶かし、塗って、加熱すると結晶化します。 2012年には、桐蔭横浜大学の宮坂氏らと英国オックスフォード大学の Snaith 氏らが、多孔質アルミナを骨格にした固体型セルで最大10.9%(Lee ら)を、韓国・成均館大学の Park 氏と Grätzel 氏らのグループが、多孔質チタニアを使った固体型セルで9.7%(Kim ら)を報告し、それまでの液体電解質型より安定性が改善しました事実。 経済産業省も「2012年に、固体型ペロブスカイト太陽電池が英国と日本の研究者らによって共同開発され、安定性が向上したことを皮切りに、研究開発が加速」と整理しています事実。
塗布でつくる難しさは、溶媒が抜ける短い時間に、どこで核ができ、どう結晶が育つかを制御することにあります。 Jeon らは、γ-ブチロラクトンと DMSO の混合溶媒で塗布したのちトルエンを滴下することで、MAI–PbI2–DMSO の中間相を経由させ、極めて均一で緻密な膜を得て、認証効率16.2%のセルを報告しました事実。 塗布の手法そのものは、本シリーズ「塗布製膜」編と「ロールツーロールと大面積化」編で詳しく扱います。
8. 素材技術者の視点②:「つくりやすい」は「壊れやすい」の裏返し
経済産業省の比較表は、製造温度をシリコン「1,400℃以上」、ペロブスカイト「150℃」、 製造日数をシリコン「3日以上」、ペロブスカイト「1日程度を目指す」と整理しています事実。
これは装置コストと生産スループットの面で大きな利点です。 一方、素材の側から見ると別の意味を持ちます。 低温・短時間で原料塩から組み上がるということは、結合が比較的弱く、構成イオンが動きやすいということでもあります(本記事による解説)。
- 成膜の利点:溶液から常圧・低温で結晶化できる
- 同じ性質の裏面:熱・水分・光・電界で、イオンが格子の中を動き、組成が変わりうる
- 設計への示唆:「材料を強くする」(組成・添加剤・界面処理)と「材料を外から守る」(封止・バリア)を両方考える必要がある
De Wolf らは、意図的に水分を侵入させると2.4 eV 以下の光子エネルギーでの吸収が強く減少し、組成が変化したことを示しています事実。 つまり、光吸収の良さも、水分に触れると失われるということです。 劣化の仕組みは本シリーズ「イオン移動と劣化」編、守り方は「封止とバリア層」編で扱います。
9. 効率の現在地 ― 数字は必ず面積とセットで読む
ペロブスカイト太陽電池の効率は、どの大きさのデバイスを、誰が測ったかで意味がまったく変わります。 NLR(米国立再生可能エネルギー研究所から改称した National Laboratory of the Rockies)は、独立した認定試験機関が確認した効率だけを Best Research-Cell Efficiency Chart に載せています事実。
| 測定年月 | 効率 | 面積 | 作製 | 測定機関 |
|---|---|---|---|---|
| 2013年5月 | 14.1% | 0.209 cm² | EPFL | Newport |
| 2016年3月 | 22.1% | 0.0946 cm² | KRICT/UNIST | Newport |
| 2019年7月 | 25.2% | 0.0937 cm² | KRICT/MIT | Newport |
| 2023年3月 | 26.0% | 0.0746 cm² | ISCAS | JET |
| 2025年7月 | 27.3% | 0.1065 cm² | Soochow Univ. ほか | NPVM |
| 2026年2月 | 28.0% | 0.051 cm² | Hainan Univ. | NPVM |
すべて事実(NLR の研究セル効率データ表[参考資料16]から、単接合ペロブスカイトセルの主な行を抜粋)。2009年の3.8%[参考資料2]や2012年の9.7%・10.9%[参考資料13・14]は論文報告値で、このデータ表には載っていません。
一方、Green らの「Solar cell efficiency tables(Version 68)」(2026年7月、Joule 掲載)は、面積1 cm²以上を「記録」の対象とする表と、それより小さいデバイスを分けています。 同号によると、面積1.017 cm²のペロブスカイトセルが26.9%、19.48 cm²のミニモジュールが23.9%、756.0 cm²のサブモジュールが22.9%です事実。 28.0%のセルについては「シリコンの最高効率と初めて並んだが、セルは3,000倍以上小さい」「面積が小さすぎて、そのままの記録には分類できない」という趣旨の注記があります事実。
- サブモジュール 756.0 cm² ÷ 小面積セル 0.05 cm² = 約1.5万倍本稿の計算
- 効率の差:28.0 − 22.9 = 5.1ポイント本稿の計算
面積が大きくなると、膜厚や組成のむら、ピンホール、セル間をつなぐ配線部分の損失などが効いてきます(本記事による解説)。 「ペロブスカイトの効率○%」という数字を見たら、まず面積と測定機関を確認するのが実務上の基本です。評価方法は本シリーズ「変換効率と評価指標」編で扱います。
10. 強みと弱み/課題
| 観点 | 強み(一次情報で確認できたこと) | 弱み・課題 |
|---|---|---|
| 光吸収 | 吸収係数~10⁵/cm(経済産業省)、急峻な吸収端(De Wolf ら) | 水分侵入で吸収が低下(De Wolf ら) |
| 電荷輸送 | 混合ハロゲン化物で拡散長1 µm超(Stranks ら) | MAPbI3 単独では約100 nm(Stranks ら) |
| 欠陥 | 主要な固有欠陥は浅い準位(Yin ら) | 表面・粒界の処理は依然として必要 |
| 製造 | 製造温度150℃(経済産業省)、溶液から結晶化 | 核生成・結晶成長の制御が難しい |
| 相安定性 | A サイトの混合で黒色相を安定化できる(Li ら) | FAPbI3・CsPbI3 は単独では室温で非ペロブスカイト相が安定(Li ら)。MAPbI3 は約330 K に相転移(Whitfield ら) |
| 効率 | 小面積セルで28.0%(効率表 Version 68) | 面積が大きくなると効率が下がる |
各項目は事実(出典は括弧内)。「強み・弱み」に振り分けたのは本記事による整理です。
(1) 屋外での長期耐久性は、本稿の範囲では評価していない
経済産業省の戦略文書は、フィルム型について「発電コストの低下に向けては、引き続き、耐久性の向上に係る技術開発が必要」としています事実。 屋外で何年もつかは、材料だけでなく封止や設置条件に左右されます。 本稿では耐久年数の数値を記載していません。本シリーズ「屋外試験と耐久性評価」編で扱います。
(2) 鉛を含む
標準的な組成は B サイトに鉛を使います。経済産業省の資料は「0.5g/㎡程度含有する鉛について適切な処理・回収を行う必要がある」としています事実。 鉛の扱いとヨウ素の供給は本シリーズ「鉛とヨウ素」編、鉛を使わない組成は「スズ系ペロブスカイト」編で扱います。
(3) 導入目標は「目標」である
経済産業省の戦略は2040年に約20GWの導入を目指すとしていますが未確定/将来、これは政策目標であり、実績ではありません。
- ペロブスカイトは「BX6 八面体の骨組み+すき間の A」という結晶構造の型の名前です事実
- 許容因子は計算すると MA・FA・Cs とも0.85〜1.04ですが本稿の計算、ヨウ化物での予測精度は33%にとどまります事実
- FA と Cs を混ぜて「実効的な t」を合わせるという固溶体設計で、黒色相が安定化しました事実
- 吸収係数が1桁大きいので、400 nm で約98%を吸収できます本稿の計算
- 製造温度は150℃(シリコンは1,400℃以上)事実。その「つくりやすさ」は、イオンの動きやすさと表裏です(本記事による解説)
- 効率は面積とセットで読む。0.05 cm² で28.0%、756 cm² で22.9%です事実
11. 用語集
- ペロブスカイト構造
- ABX3 の組成で、頂点を共有した BX6 八面体の骨組みのすき間に A が入った結晶構造の型。
- ハロゲン化金属ペロブスカイト
- X にヨウ素・臭素・塩素などのハロゲンを使うペロブスカイト。太陽電池の発電層に使われる。
- MA・FA
- メチルアンモニウム(CH3NH3⁺)とホルムアミジニウム(HC(NH2)2⁺)。A サイトに入る有機陽イオン。
- 許容因子(t)
- イオン半径から、ペロブスカイト構造が組めるかを見積もる指標。1に近いほど「ぴったり」。
- δ相(黄色相)
- FAPbI3 や CsPbI3 が室温でとりやすい非ペロブスカイト相。光をあまり吸わない。
- 固溶体
- 複数の成分が同じ結晶の中で混ざり合った状態。A サイトの混合がその例。
- 吸収係数(α)
- 光が物質中を進むときの減衰の強さ。1/α がおおよその吸収深さ。
- アーバックエネルギー
- バンドギャップ直下の吸収のすその広がり。小さいほど結晶の乱れが少ない。
- 拡散長
- 光で生じた電子や正孔が、再結合するまでに移動できる平均的な距離。
- 浅い準位
- バンド端に近いエネルギーにできる欠陥準位。再結合の中心になりにくい。
- 中間相
- 溶媒分子を取り込んだ結晶。塗布製膜で経由させると、均一な膜が得やすくなる。
- 認証効率
- 独立した試験機関が標準条件で測定した効率。自社測定の値とは区別される。
12. 参考資料(一次情報)
- 経済産業省「次世代型太陽電池戦略」令和6年11月(PDF) https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/perovskite_solar_cell/pdf/20241128_1.pdf
- Kojima, Teshima, Shirai, Miyasaka「Organometal Halide Perovskites as Visible-Light Sensitizers for Photovoltaic Cells」J. Am. Chem. Soc. 131, 6050 (2009) https://doi.org/10.1021/ja809598r
- Weber「CH3NH3PbX3, ein Pb(II)-System mit kubischer Perowskitstruktur」Z. Naturforsch. B 33, 1443 (1978) https://doi.org/10.1515/znb-1978-1214
- Whitfield ほか「Structures, Phase Transitions and Tricritical Behavior of the Hybrid Perovskite Methyl Ammonium Lead Iodide」Sci. Rep. 6, 35685 (2016) https://doi.org/10.1038/srep35685
- Bartel ほか「New tolerance factor to predict the stability of perovskite oxides and halides」Sci. Adv. 5, eaav0693 (2019) https://doi.org/10.1126/sciadv.aav0693
- Travis ほか「On the application of the tolerance factor to inorganic and hybrid halide perovskites: a revised system」Chem. Sci. 7, 4548 (2016) https://doi.org/10.1039/C5SC04845A
- Li ほか(NREL)「Stabilizing Perovskite Structures by Tuning Tolerance Factor: Formation of Formamidinium and Cesium Lead Iodide Solid-State Alloys」Chem. Mater. 28, 284 (2016) https://doi.org/10.1021/acs.chemmater.5b04107
- Eperon ほか「Formamidinium lead trihalide: a broadly tunable perovskite for efficient planar heterojunction solar cells」Energy Environ. Sci. 7, 982 (2014) https://doi.org/10.1039/C3EE43822H
- Stoumpos, Malliakas, Kanatzidis「Semiconducting Tin and Lead Iodide Perovskites with Organic Cations: Phase Transitions, High Mobilities, and Near-Infrared Photoluminescent Properties」Inorg. Chem. 52, 9019 (2013) https://doi.org/10.1021/ic401215x
- De Wolf ほか「Organometallic Halide Perovskites: Sharp Optical Absorption Edge and Its Relation to Photovoltaic Performance」J. Phys. Chem. Lett. 5, 1035 (2014) https://doi.org/10.1021/jz500279b
- Stranks ほか「Electron-Hole Diffusion Lengths Exceeding 1 Micrometer in an Organometal Trihalide Perovskite Absorber」Science 342, 341 (2013) https://doi.org/10.1126/science.1243982
- Yin, Shi, Yan「Unusual defect physics in CH3NH3PbI3 perovskite solar cell absorber」Appl. Phys. Lett. 104, 063903 (2014) https://doi.org/10.1063/1.4864778
- Kim ほか「Lead Iodide Perovskite Sensitized All-Solid-State Submicron Thin Film Mesoscopic Solar Cell with Efficiency Exceeding 9%」Sci. Rep. 2, 591 (2012) https://doi.org/10.1038/srep00591
- Lee, Teuscher, Miyasaka, Murakami, Snaith「Efficient Hybrid Solar Cells Based on Meso-Superstructured Organometal Halide Perovskites」Science 338, 643 (2012) https://doi.org/10.1126/science.1228604
- Jeon ほか「Solvent engineering for high-performance inorganic–organic hybrid perovskite solar cells」Nat. Mater. 13, 897 (2014) https://doi.org/10.1038/nmat4014
- NLR(National Laboratory of the Rockies、旧NREL)「Best Research-Cell Efficiency Chart」および研究セル効率データ表 https://www.nlr.gov/pv/cell-efficiency
- Green ほか「Solar cell efficiency tables: Version 68」Joule 10, 102494 (2026) https://doi.org/10.1016/j.joule.2026.102494
13. 主張と出典の対応表(監査)
| 本文の主張 | 根拠 | 区分 |
|---|---|---|
| ペロブスカイト太陽電池は「3種類のイオン(代表的にはA:有機アンモニウム、B:鉛、X:ヨウ素)がABX3のペロブスカイト結晶構造で配列する材料を発電層に用いた太陽電池の総称であり、国内研究者が開発した日本発の技術」。「2012年に、固体型ペロブスカイト太陽電池が英国と日本の研究者らによって共同開発され、安定性が向上したことを皮切りに、研究開発が加速」。光吸収係数がシリコン「~104/cm」、ペロブスカイト「~105/cm」。製造温度がシリコン「1,400℃以上」、ペロブスカイト「150℃」。製造日数がシリコン「3日以上」、ペロブスカイト「1日程度を目指す」。発電層の算出に膜厚400 nmが使われていること。フィルム型について「耐久性の向上に係る技術開発が必要」。「0.5g/㎡程度含有する鉛について適切な処理・回収を行う必要がある」 | 経済産業省「次世代型太陽電池戦略」(2024年11月)11・12・17・52・54ページ 出典1 https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/perovskite_solar_cell/pdf/20241128_1.pdf | 事実 |
| 2040年に約20GWの導入を目指すこと | 経済産業省「次世代型太陽電池戦略」32ページ。政策目標であり実績ではない 出典1 https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/perovskite_solar_cell/pdf/20241128_1.pdf | 未確定/将来 |
| CH3NH3PbI3 を用いた光電気化学セルで変換効率3.8%が得られたこと(2009年、Kojima・Miyasaka ら) | J. Am. Chem. Soc. 論文(要旨) 出典2 https://doi.org/10.1021/ja809598r | 事実 |
| CH3NH3PbX3(X=Cl、Br、I)が立方晶ペロブスカイト構造をとり、格子定数が Cl 5.68 Å、Br 5.92 Å、I 6.27 Å であること | Z. Naturforsch. B 論文(要旨) 出典3 https://doi.org/10.1515/znb-1978-1214 | 事実 |
| MAPbI3 が約330 K 付近で立方晶から正方晶へ、約160 K 付近で斜方晶へ転移し、いずれも一次転移であること | Sci. Rep. 論文(要旨) 出典4 https://doi.org/10.1038/srep35685 | 事実 |
| ペロブスカイト構造の定義(頂点共有した BX6 八面体の網目が A を囲む)。許容因子の式。t による判別精度が全体74%、塩化物51%、臭化物56%、ヨウ化物33%であること。検証に576種の ABX3 化合物を用いたこと。Cs⁺ の半径 1.88 Å | Sci. Adv. 論文(本文) 出典5 https://doi.org/10.1126/sciadv.aav0693 | 事実 |
| 0.8 ≤ t ≤ 1 でペロブスカイトが一般に形成され、t>1 では A が大きすぎ、t<0.8 では小さすぎること。MA⁺ 2.16 Å、FA⁺ 2.53 Å、Pb²⁺ の Shannon 半径 1.19 Å とヨウ化物での改訂値 1.03 Å、I⁻ 2.20 Å、Br⁻ 1.96 Å、Cl⁻ 1.85 Å。t が既知の32種の無機ヨウ化物ペロブスカイトの安定性を正確に予測できないこと | Chem. Sci. 論文(本文・表1) 出典6 https://doi.org/10.1039/C5SC04845A | 事実 |
| 0.8〜1.0 が立方晶ペロブスカイトに有利であること。FAPbI3 は t が大きく室温で六方晶 δH相(黄色相)がより安定、CsPbI3 は t が小さく室温で斜方晶 δO相に安定化すること。FA と Cs の合金化で実効的な t を調整し α相の安定性が高まること。FA0.85Cs0.15PbI3 膜が高湿度環境で安定性を改善したこと | Chem. Mater. 論文(要旨) 出典7 https://doi.org/10.1021/acs.chemmater.5b04107 | 事実 |
| MA 系のバンドギャップが約1.55 eV 以上であること。FA 系のバンドギャップが1.48〜2.23 eV の範囲で調整可能であること | Energy Environ. Sci. 論文(要旨) 出典8 https://doi.org/10.1039/C3EE43822H | 事実 |
| MA・FA と Sn・Pb のヨウ化物4種が直接遷移型半導体で、バンドギャップが1.25〜1.75 eV に分布すること | Inorg. Chem. 論文(要旨) 出典9 https://doi.org/10.1021/ic401215x | 事実 |
| MAPbI3 薄膜が高い吸収係数と急峻な吸収端を示し、アーバックエネルギーが15 meV であること。水分侵入後に2.4 eV 以下の吸収が強く減少し組成変化を示したこと | J. Phys. Chem. Lett. 論文(要旨) 出典10 https://doi.org/10.1021/jz500279b | 事実 |
| 混合ハロゲン化物(CH3NH3PbI3−xClx)で拡散長が1 µm を超え吸収深さより1桁大きいこと。MAPbI3 では約100 nm であること | Science 論文(要旨) 出典11 https://doi.org/10.1126/science.1243982 | 事実 |
| MAPbI3 の主要な固有欠陥が浅い準位のみをつくり、その理由が鉛の孤立電子対 s 軌道とヨウ素 p 軌道の反結合性相互作用および高いイオン性にあること | Appl. Phys. Lett. 論文(要旨) 出典12 https://doi.org/10.1063/1.4864778 | 事実 |
| 固体型メソスコピックセルで変換効率9.7%が得られ、液体電解質型より安定性が改善したこと。著者に成均館大学の Park 氏と Grätzel 氏が含まれること | Sci. Rep. 論文(要旨) 出典13 https://doi.org/10.1038/srep00591 | 事実 |
| 多孔質アルミナを用いた固体型セルで最大10.9%が得られたこと。著者に桐蔭横浜大学の宮坂力氏とオックスフォード大学の Snaith 氏が含まれること | Science 論文(書誌・要約) 出典14 https://doi.org/10.1126/science.1228604 | 事実 |
| γ-ブチロラクトンと DMSO の混合溶媒で塗布後にトルエンを滴下し、MAI–PbI2–DMSO 中間相を経由して均一・緻密な膜を得たこと。認証効率16.2% | Nat. Mater. 論文(要旨) 出典15 https://doi.org/10.1038/nmat4014 | 事実 |
| NLR が独立した認定試験機関の確認した効率のみを載せていること。単接合ペロブスカイトセルの各行(2013年5月 14.1%・0.209 cm²・EPFL・Newport、2016年3月 22.1%、2019年7月 25.2%、2023年3月 26.0%、2025年7月 27.3%、2026年2月 28.0%・0.051 cm²・Hainan U・NPVM)。NREL から NLR への名称変更 | NLR「Best Research-Cell Efficiency Chart」ページと研究セル効率データ表 出典16 https://www.nlr.gov/pv/cell-efficiency | 事実 |
| 0.05 cm² のペロブスカイトセルで28.0%、シリコンの最高効率と並んだがセルは3,000倍以上小さく、面積が小さすぎて記録には分類されないこと。政府の研究計画では1 cm²以上の面積が一般的であること。1.017 cm² セル26.9%、19.48 cm² ミニモジュール23.9%、756.0 cm² サブモジュール22.9% | Joule 掲載「Solar cell efficiency tables: Version 68」 出典17 https://doi.org/10.1016/j.joule.2026.102494 | 事実 |
| 330 K を約57℃とした換算。許容因子(Shannon 半径で MA 0.91・FA 0.99・Cs 0.85、改訂半径で MA 0.95・FA 1.04・Cs 0.89)。膜厚400 nm での1回通過吸収率(α=10⁵ cm⁻¹ で約98%、10⁴ cm⁻¹ で約33%)と、同じ吸収に必要な厚さ4 µm。面積比 756.0 ÷ 0.05 = 約1.5万倍、効率差5.1ポイント | 本稿の計算。有機陽イオンを球とみなした有効半径、吸収係数を桁の代表値とみなすこと、反射・光閉じ込めを無視することは本稿が置いた前提である。図2・図3・図6の数値部分を含む | 本稿の計算 |
| 「つくりやすさとイオンの動きやすさは表裏」という読み取り。許容因子を固溶体設計の視点で捉えた整理。大面積での効率低下の要因の列挙。強み・弱みの振り分け。動作温度域に相転移があることの位置づけ | 公表内容にもとづく本記事の整理・解説。各機関・論文が表明した見解ではない | 解説 |
| 屋外での耐久年数、相転移が寿命に与える影響 | 本稿の調査範囲では、組成・構造を問わず一般化できる一次情報を確認できなかったため数値を記載していない(本記事による注記) | 解説 |
| 図1〜図4・図6が説明のための作図であり、実際の結晶像・製造工程・測定データそのものではないこと。ヒーロー画像と図5が AI 生成イメージであること | 本記事による注記 | 解説 |
最終更新:2026年9月25日/出典は一次情報(政府の戦略文書、NLR の効率データ、査読論文)に限定しています。 構造の整理や材料設計上の読み取りを含むため、それらは「解説」として出典付きの事実と区別しています。 屋外での耐久年数、相転移が寿命に与える影響については、一般化できる一次情報を確認できなかったため記載していません。 論文の内容は、要旨または公開されている本文で確認できた範囲に限っています。 図はすべて説明用の概念図です。図1〜図4・図6はベクター作図、ヒーロー画像と図5はAI生成イメージであり、いずれも実際の結晶像・顕微鏡像・製品の実物を示すものではありません。