COMPANY PROFILE / 細胞培養技術
Thermo Fisher Scientific
― 培地とシングルユース機器を売りながら、細胞治療の受託製造も抱える「両にらみ」の最大手
細胞培養の話題でThermo Fisherの名前が出るのは、 抗体医薬などを作るための培地(Gibco)やシングルユースのバイオリアクターを大量に供給しているからです。 同社の2025年12月期 Form 10-Kでは、細胞培養を含む生産向け事業「BioProduction」の売上が32億ドルと開示され、 「(買収・為替の影響を除いた)セグメントの増収はBioProductionがけん引した」と書かれています。 一方で同社は、細胞治療向けの機器・試薬群(CTS)を持ち、米国の大学病院の隣に細胞治療のcGMP製造拠点まで構えています。 本稿では会社全体の説明は最小限にとどめ、細胞培養に何を投じ、誰と組み、何を目指しているかに絞ります。
- 30秒でわかるThermo Fisherと、細胞培養技術での立ち位置
- ロゴと社名の表記について
- 細胞培養技術の世界で、この会社はどこにいるか
- 会社の規模(会社全体は簡潔に)
- 細胞培養にかけているリソース
- これまでの取り組み
- 今後の計画
- この会社は細胞培養技術で何を目指しているか
- 細胞培養分野の提携マッピング
- 提供している技術・製品・サービス
- この企業が抱えるリスク
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるThermo Fisherと、細胞培養技術での立ち位置
ウォルサム168 Third Avenue
受託製造(従)細胞培養の①バイオ医薬品生産と②細胞治療の両方に関与
(Cell Therapy Systems)細胞の分離・活性化から拡大培養・充填まで
精製・ろ過事業2025年9月完了。約40億ドル(現金)
細胞培養に関わる企業は、大きく受託開発製造(CDMO)・装置/消耗品/培地のサプライヤー・細胞治療/再生医療の開発企業の3種類に分かれます。 Thermo Fisherの主たる立場はサプライヤーです。10-Kは、BioProduction事業が「上流の細胞培養、下流の精製、分析、シングルユース製品」を提供すると説明しています 事実。 ただし同社は医薬品の受託製造(pharma services)事業も別セグメントに持ち、細胞治療については大学病院に隣接するcGMP施設で臨床・商業製造を請け負うと公表しています 事実。 つまり道具を売る相手(製薬会社やCDMO)と、製造受託で競合もしうるという、2つの類型にまたがる会社です。 また、「細胞培養」には①抗体などバイオ医薬品の生産に使う動物細胞培養(CHO細胞など)と②細胞そのものが製品になる細胞治療がありますが、 Thermo Fisherは①と②の両方に製品を出しています。
2. ロゴと社名の表記について
Thermo Fisher Scientificのロゴは同社の商標です。本稿では生成画像による再現を行わず、
公式サイトから取得した画像を img/thermo_fisher_logo.svg として設置しています。
表記の注意:法定開示上の社名は Thermo Fisher Scientific Inc. です。 同社は Thermo Scientific、Applied Biosystems、Invitrogen、Fisher Scientific、Patheon、PPD などのブランドを使い分けており、 細胞培養の培地は Gibco の名前で売られています。記事や製品カタログで「Gibco」「Patheon」と出てきても、いずれも同じ会社の製品・サービスです。 本稿では「Thermo Fisher」と略記します。
https://www.thermofisher.com/3. 細胞培養技術の世界で、この会社はどこにいるか
細胞治療を自社の製品として開発・販売しているという記載は、10-Kにもリリースにも見当たりませんでした。 右端の「細胞治療・再生医療の開発企業」には該当せず、その開発企業に道具と製造受託を売る側にいる、と整理できます 事実。
4. 会社の規模(会社全体は簡潔に)
Thermo Fisherは分析機器・診断薬・臨床試験受託まで抱える巨大企業です。会社全体は1つの表にとどめ、 細胞培養に関わる事業の数字を中心に示します 事実。
| 会社全体 | 2023年12月期 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|---|
| 売上高(US$百万) | 42,857 | 42,879 | 44,556 |
| 研究開発費(US$百万) | 1,337 | 1,390 | 1,397 |
| 従業員数 | ― | ― | 約125,000人(米州59,000/アジア太平洋22,000/欧州・中東・アフリカ44,000) |
細胞培養に関わる事業の規模
10-Kは4つのセグメントのうちLife Sciences Solutionsの中にBioProductionという事業を置き、その売上を開示しています。 BioProductionは「バイオ医薬品の生産と工業生産向けのソリューション」で、上流の細胞培養(培地など)、下流の精製、分析、シングルユース製品を扱います。 細胞培養の世界で同社の規模を測るには、この数字がもっとも近い指標です。
| 事業(US$百万) | 2023年 | 2024年 | 2025年 | 2026年1〜6月 |
|---|---|---|---|---|
| BioProduction | 2,923 | 2,652 | 3,200 | 1,834(前年同期1,416) |
| Life Sciences Solutions セグメント合計 | 9,977 | 9,631 | 10,374 | 5,450(前年同期4,840) |
| (参考)pharma services 事業 | 6,806 | 6,685 | 7,142 | ― |
出典:2025年12月期 Form 10-K の「Revenues by business」、2026年6月期 Form 10-Q。pharma servicesは低分子医薬の受託も含むため、細胞培養だけの数字ではありません。
2025年のBioProductionは前年から5億4,800万ドル増え(10-Kの記載)、伸び率は約20.7%です 本稿の計算。 BioProductionがLife Sciences Solutionsに占める割合は約30.8%、会社全体の売上に対しては約7.2%です 本稿の計算(3,200÷10,374、3,200÷44,556)。 10-Kは伸びの理由を「製薬・バイオ顧客の需要増と、2025年に買収したろ過・分離事業の寄与」と説明しています 事実。 2026年1〜6月も前年同期比で約29.5%増えていますが 本稿の計算、 ここにも買収したろ過事業の売上が含まれるため、培養そのものの伸びとは分けて読む必要があります。
BioProductionには下流の精製・ろ過や工業用途も含まれ、「細胞培養(培地・バイオリアクター)」だけの売上ではありません。 また、細胞治療向け(CTS製品群)の売上は開示されていません 未確定/将来。 2024年にBioProductionが前年比で減った理由も、本稿が読んだ2025年12月期10-Kには事業別の説明がなく、本稿では推定しません。 なお、「世界の細胞培養市場で何%のシェア」といった数字は調査会社の推計であり、本稿では採用しません。
5. 細胞培養にかけているリソース
手順どおり、人・金・外部への出資/買収・大学との連携の4点を、一次情報で確認できたかどうかで整理します。
| リソース | 一次情報で確認できた内容 | 確認状況 |
|---|---|---|
| 人(専任組織) | BioProductionを率いる上級副社長(Senior Vice President and President, BioProduction)が置かれている。リリースには「cell culture and cell therapy business」「cell culture business」「single-use technologies business」などの事業単位の責任者が登場する | 組織は確認できた |
| 人(人員数) | BioProductionや細胞治療事業の人員数。個別拠点では、テネシー州レバノン(ナッシュビル近郊)の工場が約300人(2022年時点、完成時に1,400人の新規雇用を計画)、マサチューセッツ州チェルムズフォードの工場が最大250人と公表 | 事業全体は非公表 |
| 金(研究開発費・設備投資) | Life Sciences Solutionsセグメントの研究開発費 5億5,300万ドル、設備投資 1億5,200万ドル(2025年)。2021年に発表した6億5,000万ドル超の生産能力増強計画(11拠点)。個別には、レバノン工場1億500万ドル、チェルムズフォード工場1億6,000万ドル | セグメント単位で確認できた。BioProduction単独は非公表 |
| 外部への出資・買収 | Solventumの精製・ろ過事業(2025年9月、約40億ドル)、Novasepのウイルスベクター製造事業(2021年1月、約7億2,500万ユーロ)、Propel Labsの細胞ソーティング技術(2021年2月) | 確認できた |
| 大学・研究機関との連携 | カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)と細胞治療の戦略提携(2021年5月)。UCSFキャンパスに隣接するcGMP製造施設を2023年3月に開所 | 確認できた |
| スタートアップへの出資 | 細胞培養・細胞治療のスタートアップへの出資(CVC投資)の記載は、本稿が読んだ10-Kとリリースには見当たらない。協業(ArsenalBio)やインキュベーター内の拠点設置(BioLabs)はある | 記載なし(存在しないとは断定しない) |
金額の面で最も大きいのは買収です。Solventumの精製・ろ過事業について、10-Kは支払現金を39億4,400万ドルと記載し、 リリースは「2025年通年で約7億5,000万ドルの売上を見込む」と書いています 事実。 これはBioProductionの2025年売上(32億ドル)の4分の1近い規模の事業を丸ごと加えたことを意味します 本稿の計算。
2025年4月に発売した5Lの卓上型シングルユースバイオリアクター「DynaDrive」について、同社は 1Lから5,000Lまで、反応槽の設計・ソフトウェア・フィルムを全スケールで共通にしたと説明しています。 フィルムには同社のAegisフィルムをベースにしたバイオ由来原料のフィルムを使うとしています 事実。
シングルユースの培養バッグは、培養液に直接触れる多層ポリマーフィルムです。 フィルムからの溶出物(extractables/leachables)は細胞の増殖や製品の品質に影響しうるため、 スケールを上げるたびに接液材料が変わると、再評価の手間が生じます。 小さな開発用から大型の生産用まで同じフィルムを使うという設計は、材料側から見ると 「スケールアップ時の材料リスクを最初から潰しておく」工夫と読めます 未確定/将来。フィルムの層構成や溶出データそのものは、リリースでは開示されていません。
6. これまでの取り組み
| 時期 | できごと | 意味 |
|---|---|---|
| 2020年〜 | ArsenalBio(固形がん向けCAR-T開発企業)との協業を開始。遺伝子編集を伴う臨床規模の製造工程の開発を支援 | 細胞治療の「製造工程づくり」に顧客と入り込む形の始まり |
| 2021年1月 | Novasepのウイルスベクター製造事業(ベルギーのHenogen S.A.)を約7億2,500万ユーロで買収。セネフとゴスリーの2拠点、約400人 | 遺伝子治療・細胞治療に使うウイルスベクターの受託製造を欧州に拡大 |
| 2021年2月 | Propel Labsから細胞ソーティング技術(Bigfoot Spectral Cell Sorter)と約40人を取得 | 研究用の細胞分離装置の強化 |
| 2021年3月 | バイオプロセス向けの生産能力増強に6億ドル超の設備投資を発表(2022年まで、11拠点、1,500人超の新規雇用)。同年9月には「6億5,000万ドル超」に拡大 | シングルユース製品・培地・精製樹脂の生産能力を「倍以上」にする計画 |
| 2021年5月 | UCSFと細胞治療の戦略提携。UCSFのミッションベイ・キャンパスの賃借スペースに約44,000平方フィートの細胞治療cGMP製造・協業センターを建設・運営すると発表 | 大学病院のすぐ隣に製造拠点を置くモデル |
| 2022年8月 | ニューヨーク州グランドアイランドの粉末培地工場を拡張(動物由来成分不含の製造スペースを45,000平方フィート超追加) | Gibco培地の供給に冗長性をもたせる |
| 2022年8月 | 同社最大のシングルユース製品工場をテネシー州レバノンで開所(1億500万ドル、40万平方フィート) | 培養バッグ・流路部材の大量生産拠点 |
| 2022年9月 | マサチューセッツ州チェルムズフォードに精製用樹脂の工場を開所(1億6,000万ドル) | 下流(精製)側の供給能力 |
| 2023年3月 | UCSF隣接の細胞治療cGMP施設を開所。同社の細胞・遺伝子治療を支える受託拠点は15か所超と説明 | 細胞治療の臨床・商業製造を受託する体制が稼働 |
| 2025年4月 | 米国に4年間で追加20億ドル(設備投資15億ドル+研究開発5億ドル)を投じると発表。同月、カリフォルニア州カールスバッドに細胞治療向けの協業センター(ATxCC、6,000平方フィート)を開所 | 20億ドルは会社全体の数字で、細胞培養向けの内訳は非公表 |
| 2025年9月 | Solventumの精製・ろ過事業の買収を完了(約40億ドル)。BioProductionの一部に | 上流の培養から下流のろ過までを自社製品で揃える |
| 2025年9月 | 韓国のウイルスベクターCDMO、Dr. Parkが新工場の装置として同社を選定(1,000Lシングルユースバイオリアクターなど)と発表 | CDMOへの装置供給の事例 |
| 2025年11〜12月 | フィラデルフィアに2か所目のATxCCを開所(インキュベーターBioLabs内)。アジアでは仁川・シンガポールのバイオプロセス設計センターを拡張し、インドのハイデラバードに新設 | 顧客の開発段階に入り込む拠点網 |
| 2026年4〜5月 | マサチューセッツ州プレインビルに米国の旗艦バイオプロセス設計センターを開所。細胞治療向けに自動充填装置「CTS Compleo」、撹拌型シングルユースバイオリアクター「CTS DynaXS」を発表 | 細胞治療の製造を「手作業から装置へ」置き換える製品群を拡充 |
| 2026年9月 | CHO-K1細胞向けの培地・フィードのパネル製品を発売 | 抗体医薬の生産向け培地の品ぞろえ強化 |
7. 今後の計画
約1.25億ドル売上・コスト両面のシナジーによる調整後営業利益(会社の見込み)
10-Kは、会社の成長戦略を「インパクトの大きいイノベーション」「顧客の信頼されるパートナーであること」「営業力」の3本柱で説明しています 事実。 細胞培養に関しては、2025〜2026年のリリースが顧客と一緒に工程を開発する拠点(バイオプロセス設計センター、ATxCC)と、 細胞治療の製造を自動化・閉鎖化する装置の発表に集中しているのが特徴です。
次はいずれも、本稿が読んだ10-K・10-Q・リリースに記載がありません 未確定/将来。
BioProductionや細胞治療事業の売上目標/細胞培養向けの設備投資の総額と時期(20億ドルの内訳)/ 培地・シングルユース製品の生産能力(リットル数・個数)/細胞治療受託製造の受注件数や顧客名の全体像。 「バイオプロセス市場が年○%成長」といった数字は調査会社の推計であることが多く、本稿では採用しません。
8. この会社は細胞培養技術で何を目指しているか
ここは会社が直接には述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに書きます。
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| 培養から精製・分析までを1社で揃える「ワークフロー全体の供給者」を目指している | プレインビルの設計センターのリリースが「培地、細胞株開発、シングルユース、クロマトグラフィー、ろ過、精製、分析」までの一貫ワークフローを示すと説明。Solventumのろ過事業買収も「上流から下流まで」と説明 | 推測 |
| 細胞治療では「平置き培養・手作業」から「撹拌槽・自動化」への移行を自社製品で取りにいく | CTS DynaXSのリリースが「静置培養からスケーラブルで自動化対応の基盤への移行」を顧客の課題として挙げ、CTS Compleoのリリースが手作業の充填をボトルネックと説明 | 推測 |
| 顧客の開発初期に入り込み、製造工程に自社製品を組み込ませることを重視している | ATxCCでは市販前の技術にもアクセスできると説明。ArsenalBioには2020年から工程開発を支援し、同社の臨床製造にCTS製品が使われている | 推測 |
| 細胞治療は「製品を売る」だけでなく「受託製造も請け負う」両面で取り組む | UCSF隣接施設で臨床・商業のcGMP製造を受託すると公表。受託拠点は15か所超と説明 | 事実 |
| 自社で細胞治療薬を開発・販売する計画はないと見られる | 10-K・リリースに自社の細胞治療製品の開発に関する記載がない。顧客(開発企業)を支える立場の記述に一貫している | 推測 |
2025年4月に開所したカールスバッドのATxCCのリリースには、細胞治療の開発企業が 「より広い市場で入手可能になる前の技術にもアクセスできる」と書かれています 事実。 細胞治療は、臨床試験で使った製造工程を承認後に変えると、同等性の証明をやり直す負担が大きい分野です。 つまり、開発初期に採用された装置・試薬は、そのまま商業生産まで使われ続けやすい。 ArsenalBioの事例(2020年に協業開始→臨床製造にCTS製品を採用)は、この流れを会社自身が公表したものです。 ここから、Thermo Fisherが拠点網に投資する狙いは「開発段階での採用=将来の継続的な消耗品売上」の確保にある、と本稿は読みます 未確定/将来。
9. 細胞培養分野の提携マッピング
図から分かるのは、大学・細胞治療開発企業とは「一緒に工程をつくる」関係、 CDMOとは「装置を売る」関係、そして規模の拡大は買収で、という役割分担です。 特にUCSFとの関係は、Thermo Fisherが大学のために施設を建て、自ら運営し、UCSF以外の顧客からも製造を受託するという形で、 単なる共同研究とは性格が異なります 事実。
10. 提供している技術・製品・サービス
| 領域 | 主な製品・サービス(公式リリース・10-Kの記載) | ①バイオ医薬品/②細胞治療 |
|---|---|---|
| 培地 | Gibco ブランドの培地・フィード。2026年9月にCHO-K1細胞向けの化学的組成既知・動物由来成分不含の培地とフィードのパネルを発売(液体・粉末) | ① |
| バイオリアクター | シングルユースバイオリアクター(HyPerforma、DynaDrive)。DynaDriveは1Lから5,000Lまで同じ設計・フィルムでそろえる | ①(ウイルスベクター製造にも) |
| シングルユース部材 | 培養バッグ(BioProcess Containers)、流路部材。レバノン工場で製造 | ①② |
| 精製・ろ過 | POROS 精製用樹脂、旧Solventum事業のバイオプロセス用ろ過製品 | ① |
| 細胞治療の装置・試薬(CTS) | CTS Xenon(電気穿孔)、CTS Rotea(向流遠心による細胞処理)、CTS DynaXS(撹拌型シングルユースバイオリアクター、2026年5月)、CTS Compleo(自動・機能的閉鎖系の充填装置、2026年4月) | ② |
| 受託開発製造 | pharma services事業による低分子・大分子医薬の開発・製造受託。細胞治療はUCSF隣接施設などで臨床・商業製造を受託。ウイルスベクターはベルギー拠点などで受託 | ①② |
| 工程開発の支援拠点 | バイオプロセス設計センター(プレインビル、仁川、シンガポール、ハイデラバード)、ATxCC(カールスバッド、フィラデルフィア) | ①② |
2026年9月に発売したCHO-K1向け培地について、同社は「14日間のフェドバッチ培養で、比較対象の市販培地より最大73%高い力価、最大202%高い最大生細胞密度を示した組み合わせがあった」と公表しています 事実。 ただしこれは同社自身の試験で、比較対象の製品名は示されていません。
グランドアイランド工場の拡張リリースは、動物由来成分不含(AOF)の粉末培地(Dry Powder Media)と、 同社のAdvanced Granulation Technology(AGT)形式の製造能力を増やしたと説明しています 事実。 培地は数十種類のアミノ酸・ビタミン・無機塩・糖を混ぜた粉体で、細かい粉のままだと溶解時にダマや粉立ち、成分の偏析が起きやすくなります。 造粒して粒径をそろえるのは、粉体工学でいう流動性と溶解性の改善策であり、 数千リットル規模の培養で「毎回同じ組成の液を、短時間で作る」ための材料側の工夫です。 AGTの具体的な粒径や工程条件はリリースでは開示されていません 未確定/将来。 本シリーズの技術解説「培地」でも、粉末培地と液体培地の使い分けを説明しています。
11. この企業が抱えるリスク
| リスク | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| 顧客の設備投資・研究費に左右される | 10-Kは、製薬・バイオ企業、大学、政府機関などの設備投資方針や政府の資金政策が需要に大きく影響すると明記している | 事実 |
| BioProductionの売上が年によって上下する | 2023年29.2億ドル→2024年26.5億ドル→2025年32.0億ドルと、1年で1割近く減った年がある | 事実 |
| 買収事業の統合 | Solventumのろ過事業は2025年末時点の内部統制評価から除外されている(買収直後のため)。シナジー約1.25億ドルは会社の見込みにすぎない | 事実 |
| 関税・中国 | 10-Kは、米国と他国の関税、中国の「現地サプライヤー優先」の規制をリスクとして挙げている。2025年は中国での売上が減少したと記載 | 事実 |
| 特定の供給元への依存 | 品質保証や規制上の理由で、一部の材料・部品を単一または限られた供給元から調達していると記載 | 事実 |
| 顧客と競合する構造 | 培地や装置の顧客にはCDMOが含まれる一方、自社のpharma services事業もCDMOとして受注を競う。CDMO顧客が調達先を他社に切り替える動機になりうる | 推測 |
| 細胞治療事業の規模が見えない | CTS製品や細胞治療受託の売上が非公表で、投資の成果を外部から検証できない | 未確定/将来 |
12. 用語集
- CHO細胞
- チャイニーズハムスター卵巣由来の細胞株。抗体医薬の生産に最も広く使われる。CHO-K1はその系統の1つ。
- 培地・フィード
- 細胞に栄養を与える液体(または粉末を溶かしたもの)。フィードは培養途中に追加する濃縮栄養液。本シリーズの技術解説「培地」で詳しく説明しています。
- フェドバッチ培養
- 培養の途中でフィードを追加しながら、一定期間後にまとめて回収する培養方式。
- シングルユースバイオリアクター
- 使い捨てのプラスチック製培養バッグを使う培養槽。洗浄・滅菌の手間が省ける。本シリーズの技術解説「シングルユースシステム」も参照。
- CDMO
- 医薬品の開発と製造を他社から受託する企業。本シリーズの技術解説「CDMO」で詳しく説明しています。
- cGMP
- 医薬品の製造管理・品質管理の基準(current Good Manufacturing Practice)。
- CAR-T細胞療法
- 患者のT細胞に遺伝子を導入し、がん細胞を攻撃するよう改変して体に戻す治療法。
- ウイルスベクター
- 遺伝子を細胞に運ぶために改変したウイルス。遺伝子治療や一部の細胞治療の製造に使う。
- 動物由来成分不含(AOF)
- 血清など動物由来の原料を使わない培地。ロット差や感染因子のリスクを減らす。
- Form 10-K/10-Q
- 米国上場企業がSECに提出する年次報告書/四半期報告書。

13. 出典
- Thermo Fisher Scientific Form 10-K for the fiscal year ended December 31, 2025(米国SEC提出、2026年2月26日)。事業・セグメントの説明、売上高、事業別売上(BioProduction等)、研究開発費、セグメント別設備投資、従業員数、Solventumろ過事業の買収価格、リスク要因、構造改革費用。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/97745/000009774526000018/tmo-20251231.htm
- Thermo Fisher Scientific Form 10-Q for the quarterly period ended June 27, 2026(米国SEC提出、2026年7月31日)。2026年1〜6月の事業別売上、BioProductionの増収理由。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/97745/000009774526000144/tmo-20260627.htm
- Thermo Fisher Scientific プレスリリース「Thermo Fisher Scientific Launches Gibco CHO-K1 Catalog Panel Media and Feed to Accelerate Biologics Development」(2026年9月23日)。 https://newsroom.thermofisher.com/newsroom/press-releases/press-release-details/2026/Thermo-Fisher-Scientific-Launches-Gibco-CHO-K1-Catalog-Panel-Media-and-Feed-to-Accelerate-Biologics-Development/default.aspx
- Thermo Fisher Scientific プレスリリース「Thermo Fisher Scientific Unveils an Integrated Platform to Advance Scalable Cell Therapy Manufacturing」(2026年5月4日)。CTS DynaXS。 https://newsroom.thermofisher.com/newsroom/press-releases/press-release-details/2026/Thermo-Fisher-Scientific-Unveils-an-Integrated-Platform-to-Advance-Scalable-Cell-Therapy-Manufacturing/default.aspx
- Thermo Fisher Scientific プレスリリース「Thermo Fisher Scientific Introduces the Gibco CTS Compleo Fill and Finish System to Help Streamline Cell Therapy Manufacturing」(2026年4月2日)。 https://newsroom.thermofisher.com/newsroom/press-releases/press-release-details/2026/Thermo-Fisher-Scientific-Introduces-the-Gibco-CTS-Compleo-Fill-and-Finish-System-to-Help-Streamline-Cell-Therapy-Manufacturing/default.aspx
- Thermo Fisher Scientific プレスリリース「Thermo Fisher Scientific Opens U.S. Flagship Bioprocess Design Center to Accelerate the Delivery of Life-changing Therapies」(2026年4月28日)。 https://newsroom.thermofisher.com/newsroom/press-releases/press-release-details/2026/Thermo-Fisher-Scientific-Opens-U-S--Flagship-Bioprocess-Design-Center-to-Accelerate-the-Delivery-of-Life-changing-Therapies/default.aspx
- Thermo Fisher Scientific プレスリリース「Thermo Fisher Scientific Deepens Investment in Asia’s Biopharma Ecosystem with Expansion of Bioprocess Design Centers」(2025年12月2日)。 https://newsroom.thermofisher.com/newsroom/press-releases/press-release-details/2025/Thermo-Fisher-Scientific-Deepens-Investment-in-Asias-Biopharma-Ecosystem-with-Expansion-of-Bioprocess-Design-Centers/default.aspx
- Thermo Fisher Scientific プレスリリース「Thermo Fisher Scientific Opens East Coast Collaboration Center at BioLabs for Advanced Therapeutics to Help Accelerate Cell and Gene Therapy Development」(2025年11月18日)。 https://newsroom.thermofisher.com/newsroom/press-releases/press-release-details/2025/Thermo-Fisher-Scientific-Opens-East-Coast-Collaboration-Center-at-BioLabs-for-Advanced-Therapeutics-to-Help-Accelerate-Cell-and-Gene-Therapy-Development/default.aspx
- Thermo Fisher Scientific プレスリリース「Thermo Fisher Scientific Opens Advanced Therapies Collaboration Center in Greater San Diego to Help Accelerate Cell Therapy Development」(2025年4月17日)。 https://newsroom.thermofisher.com/newsroom/press-releases/press-release-details/2025/Thermo-Fisher-Scientific-Opens-Advanced-Therapies-Collaboration-Center-in-Greater-San-Diego-to-Help-Accelerate-Cell-Therapy-Development/default.aspx
- Thermo Fisher Scientific プレスリリース「Dr. Park CDMO Selects Thermo Fisher Scientific to Equip New Viral Vector Manufacturing Facility」(2025年9月24日)。 https://newsroom.thermofisher.com/newsroom/press-releases/press-release-details/2025/Dr--Park-CDMO-Selects-Thermo-Fisher-Scientific-to-Equip-New-Viral-Vector-Manufacturing-Facility/default.aspx
- Thermo Fisher Scientific プレスリリース「Thermo Fisher Scientific Completes Acquisition of Solventum’s Purification and Filtration Business」(2025年9月2日)。 https://newsroom.thermofisher.com/newsroom/press-releases/press-release-details/2025/Thermo-Fisher-Scientific-Completes-Acquisition-of-Solventums-Purification-and-Filtration-Business/default.aspx
- Thermo Fisher Scientific プレスリリース「Thermo Fisher Scientific Invests to Enhance U.S. Innovation and Support Customers’ Manufacturing」(2025年4月24日)。 https://newsroom.thermofisher.com/newsroom/press-releases/press-release-details/2025/Thermo-Fisher-Scientific-Invests-to-Enhance-U-S--Innovation-and-Support-Customers-Manufacturing/default.aspx
- Thermo Fisher Scientific プレスリリース「Thermo Fisher Scientific Introduces the 5L DynaDrive Single-Use Bioreactor…」(2025年4月14日)。 https://newsroom.thermofisher.com/newsroom/press-releases/press-release-details/2025/Thermo-Fisher-Scientific-Introduces-the-5L-DynaDrive-Single-Use-Bioreactor-to-Simplify-and-Accelerate-Process-Development-and-Help-Bring-Therapies-to-Market-Faster/default.aspx
- Thermo Fisher Scientific プレスリリース「Thermo Fisher Scientific Opens Cell Therapy Facility at University of California, San Francisco…」(2023年3月27日)。 https://newsroom.thermofisher.com/newsroom/press-releases/press-release-details/2023/Thermo-Fisher-Scientific-Opens-Cell-Therapy-Facility-at-University-of-California-San-Francisco-to-Accelerate-Development-of-Breakthrough-Therapies/default.aspx
- Thermo Fisher Scientific プレスリリース「Thermo Fisher Scientific and University of California San Francisco to Open Cell Therapy cGMP Manufacturing and Collaboration Center」(2021年5月19日)。 https://newsroom.thermofisher.com/newsroom/press-releases/press-release-details/2021/Thermo-Fisher-Scientific-and-University-of-California-San-Francisco-to-Open-Cell-Therapy-cGMP-Manufacturing-and-Collaboration-Center-05-19-2021/default.aspx
- Thermo Fisher Scientific プレスリリース「Thermo Fisher Scientific and Arsenal Biosciences Collaborate to Support Clinical Manufacturing of Autologous T-Cell Therapies」(2023年3月29日)。 https://newsroom.thermofisher.com/newsroom/press-releases/press-release-details/2023/Thermo-Fisher-Scientific-and-Arsenal-Biosciences-Collaborate-to-Support-Clinical-Manufacturing-of-Autologous-T-Cell-Therapies/default.aspx
- Thermo Fisher Scientific プレスリリース「Thermo Fisher Scientific Acquires Viral Vector Manufacturing Business from Novasep」(2021年1月15日)。 https://newsroom.thermofisher.com/newsroom/press-releases/press-release-details/2021/Thermo-Fisher-Scientific-Acquires-Viral-Vector-Manufacturing-Business-from-Novasep-01-15-2021/default.aspx
- Thermo Fisher Scientific プレスリリース「Thermo Fisher Scientific Acquires Leading Cell Sorting Technology from Propel Labs」(2021年2月17日)。 https://newsroom.thermofisher.com/newsroom/press-releases/press-release-details/2021/Thermo-Fisher-Scientific-Acquires-Leading-Cell-Sorting-Technology-from-Propel-Labs-02-17-2021/default.aspx
- Thermo Fisher Scientific プレスリリース「Thermo Fisher Scientific Investments Support Rapidly Increasing Bioprocessing Production」(2021年3月10日)。 https://newsroom.thermofisher.com/newsroom/press-releases/press-release-details/2021/Thermo-Fisher-Scientific-Investments-Support-Rapidly-Increasing-Bioprocessing-Production-03-10-2021/default.aspx
- Thermo Fisher Scientific プレスリリース「Thermo Fisher Scientific to Further Expand Global Network of Single Use Technology Manufacturing Sites」(2021年9月8日)。 https://newsroom.thermofisher.com/newsroom/press-releases/press-release-details/2021/Thermo-Fisher-Scientific-to-Further-Expand-Global-Network-of-Single-Use-Technology-Manufacturing-Sites-09-08-2021/default.aspx
- Thermo Fisher Scientific プレスリリース「Thermo Fisher Scientific’s Largest Single-Use Technology Manufacturing Site Opens in Greater Nashville」(2022年8月22日)。 https://newsroom.thermofisher.com/newsroom/press-releases/press-release-details/2022/Thermo-Fisher-Scientifics-Largest-Single-Use-Technology-Manufacturing-Site-Opens-in-Greater-Nashville/default.aspx
- Thermo Fisher Scientific プレスリリース「Thermo Fisher Scientific Invests $160 Million to Expand Bioproduction Capacity in Greater Boston」(2022年9月20日)。 https://newsroom.thermofisher.com/newsroom/press-releases/press-release-details/2022/-Thermo-Fisher-Scientific-Invests-160-Million-to-Expand-Bioproduction-Capacity-in-Greater-Boston/default.aspx
- Thermo Fisher Scientific プレスリリース「Thermo Fisher Scientific Expands Cell Culture Media Manufacturing Site in Grand Island New York」(2022年8月4日)。 https://newsroom.thermofisher.com/newsroom/press-releases/press-release-details/2022/Thermo-Fisher-Scientific-Expands-Cell-Culture-Media-Manufacturing-Site-in-Grand-Island-New-York/default.aspx
- Thermo Fisher Scientific 公式サイト(ロゴ画像の取得元)。 https://www.thermofisher.com/
14. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年9月24日/Troy Technical
本稿の数値はすべてThermo Fisher Scientificが米国証券取引委員会(SEC)に提出した法定開示書類と、同社公式ニュースルームのプレスリリースに基づきます。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。