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Samsung Biologics|細胞培養技術 企業解説

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COMPANY PROFILE / 細胞培養技術

Samsung Biologics
― 世界最大級のタンク容量で抗体を培養する、韓国の「受託専業」CDMO

Samsung Biologicsは、韓国・仁川(松島)に5つの工場を持つバイオ医薬品のCDMO(受託開発製造)です。 2025年の売上の95.6%が抗体医薬品で、事業のほぼすべてが「動物細胞を大きなタンクで培養して抗体を作る」受託製造です。 2025年11月にはバイオシミラー事業(Samsung Bioepis)を持株会社ごと分離して「受託専業(pure-play CDMO)」になり、 2026年3月にはGSKから米国メリーランド州Rockvilleの工場を取得して、初めて韓国の外に生産拠点を持ちました。 本稿では、この会社が細胞培養に何を投じ、誰と組み、どこへ向かおうとしているかを、 韓国の法定開示(DART)と会社の公式IR資料・プレスリリースだけを使って整理します。

構成:2025年12月期 事業報告書(DART提出、2026年3月12日提出・同年5月15日訂正)、英文Business Report 2025、決算資料(2025年Q4・2026年Q2)、公式プレスリリース(2025年12月〜2026年8月)を一次情報として使用/最終更新 2026年9月

この記事でわかること
  1. 30秒でわかるSamsung Biologicsと、細胞培養技術での立ち位置
  2. ロゴと社名の表記について
  3. 細胞培養技術の世界で、この会社はどこにいるか
  4. 会社の規模
  5. 細胞培養にかけているリソース
  6. これまでの取り組み
  7. 今後の計画
  8. この会社は細胞培養技術で何を目指しているか
  9. 細胞培養分野の提携マッピング
  10. 提供している技術・製品・サービス
  11. この企業が抱えるリスク
  12. 用語集/出典/主張と出典の対応表

1. 30秒でわかるSamsung Biologicsと、細胞培養技術での立ち位置

正式名称Samsung Biologics
Co., Ltd.
韓国語名 삼성바이오로직스。2011年4月設立
本社韓国・仁川広域市
延寿区(松島)
300, Songdobio-daero
上場韓国取引所(KOSPI)
207940
2016年11月上場
この分野での区分CDMO
(受託専業)
2025年11月にバイオシミラー事業を分離
売上(2025年)4兆5,570億ウォン連結。前年比約30%増
売上に占める抗体95.6%残りは技術移転・分析などのサービス
培養タンクの総容量845,000L松島785,000L+米国Rockville 60,000L
累計受注額US$216億2026年6月末時点(会社公表)
まず押さえるべき1点

細胞培養に関わる企業は、大きく受託開発製造(CDMO)・装置や消耗品や培地のサプライヤー・細胞治療や再生医療の開発企業の3種類に分かれます。 Samsung Biologicsは純粋なCDMOで、装置や培地は売っていませんし、自社の薬も持っていません 事実。 「細胞培養」の2つの意味――①抗体などを作るための動物細胞培養、②細胞そのものが製品になる細胞治療――のうち、 現在の事業は①だけです。②の細胞・遺伝子治療については、会社は「第3バイオキャンパスで取り組む」「現在はファンドを通じた戦略的投資を並行している」と説明しており、 受託製造の実績はまだ開示されていません 未確定/将来。

2. ロゴと社名の表記について

Samsung Biologicsのロゴは同社の商標です。本稿では生成画像による再現を行わず、 公式サイトが自社のロゴとして掲げている画像(SVG)を img/samsung_biologics_logo.svg として設置しています。

表記の注意:日本語では「サムスンバイオロジクス」と書かれることが多いですが、本稿では英字表記に統一します。 バイオシミラーを開発・販売するSamsung Bioepisは、かつてSamsung Biologicsの100%子会社でしたが、 2025年11月の会社分割で新設のSamsung Epis Holdingsの傘下に移り、現在はSamsung Biologicsの子会社ではありません。 本稿の売上・利益は、分割後の継続事業(CDMO)ベースで再表示された数字です。

公式サイト:https://samsungbiologics.com/

3. 細胞培養技術の世界で、この会社はどこにいるか

細胞培養技術に関わる企業の3つの類型 同じ「細胞を培養する会社」でも、何を売っているかがまったく違う 受託開発製造(CDMO) 装置・消耗品・培地 細胞治療・再生医療 他社の薬を受託して培養・製造 培養に使う道具と材料を売る 細胞そのものを製品にする Lonza/Samsung Biologics AGC Biologics/WuXi ほか Thermo Fisher/Cytiva/Sartorius Merck/味の素/Corning ほか 住友ファーマ/タカラバイオ Allogene/ReproCELL ほか 設備と実績で受注を集める どの薬が成功しても売れる 承認されれば独自の製品になる 設備が埋まらないと赤字 顧客の投資が冷えると落ちる 承認と製造コストの壁が高い Samsung Biologicsは左端のCDMO。2025年の売上の95.6%が抗体医薬品で、動物細胞の大型培養に特化 細胞・遺伝子治療は第3バイオキャンパスで取り組む計画の段階で、現時点は出資を通じた技術の見極めにとどまる
図1 細胞培養技術に関わる企業の3類型と、Samsung Biologicsの位置づけ。区分は本稿によるもので、企業名は本シリーズで扱う20社から例示しています 本稿の計算。Samsung BiologicsがCDMOであり、2025年の売上の95.6%が抗体医薬品であることは、DARTに提出された2025年12月期事業報告書の「売上実績」に基づきます。

同社の説明では、事業はCMO(受託製造)とCDO(受託開発:細胞株・工程・製剤・分析法の開発)の2つで、 2025年6月からはオルガノイド(培養した小さな臓器様組織)を使って薬の候補を評価する研究受託(CRO)も始めています 事実。 つまり「CRO→CDO→CMO」を一気通貫で受けることを掲げていますが、売上の中心は圧倒的にCMOです。

4. 会社の規模

売上のほぼすべてが細胞培養(抗体の受託製造)に関わる会社なので、会社全体の規模がそのまま「細胞培養の事業規模」に近い数字です 事実。金額は韓国ウォン(億ウォン=1億ウォン単位)です。

指標(連結・億ウォン)2023年2024年2025年2026年上期
売上29,38834,97145,57025,780
営業利益12,05513,21420,69211,670
うち抗体医薬品の売上26,554(90.4%)33,804(96.7%)43,583(95.6%)非公表
研究開発費1,3581,4161,674―

2023・2024年は2025年11月の会社分割(Samsung Bioepis系の分離)を反映した継続事業ベースの数字。2026年上期は決算資料の概数(兆・10億ウォン単位)を億ウォンに換算した表示です。

地域別売上(2025年)金額(億ウォン)比率
欧州23,67752.0%
米国17,33938.0%
韓国国内3,7198.2%
その他8351.8%

従業員は5,455人(2025年12月31日、本社ベース)で、公式サイトのファクトシートは「5,800人超」と表示しています。 2026年3月のRockville取得で500人超が加わりました 事実。

ここで注意

事業報告書には、バイオ医薬品市場やCDMO市場の規模・成長率(出所はEvaluate Pharma、Frost & Sullivan)や、オルガノイド市場の推計が載っていますが、 出所が調査会社の推計であるため本稿では採用しません。 また事業報告書は「生産能力で世界最大」と記載していますが、これは会社自身の主張であり、本稿では他社の開示と突き合わせた検証はしていません 未確定/将来。

5. 細胞培養にかけているリソース

「人・金・外部への出資や買収・大学や研究機関との連携」の4点について、一次情報で確認できたかどうかを示します。

リソースの種類確認できた内容確認状況
人(研究開発組織)研究専任609人(博士109人・修士266人)。内訳はMSAT(製造技術支援)297人、CDO開発センター194人、バイオ研究所118人。担当は「顧客製品の生産技術支援」と「細胞株・工程の研究開発」確認できた
人(拠点)松島の第1・第2バイオキャンパス(第1〜第5工場)とADC工場、米国Rockville(2工場)。営業拠点はニュージャージー・ボストン・東京・アムステルダム確認できた
金(設備投資)2025年の生産設備などへの投資8,934億ウォン。第5工場(180,000L)の建設に2.01兆ウォンを投じて2025年4月に完成。第3バイオキャンパスには2034年までに約7兆ウォンの投資計画確認できた
金(研究開発費)2025年1,674億ウォン(売上比3.7%)。うち人件費935億ウォン。細胞・遺伝子治療に限った研究開発費は非公表
外部への出資・買収GSKからRockvilleの工場を保有するHuman Genome Sciencesを100%取得(2026年3月完了)。サムスングループ3社のLife Science Fundで遺伝子編集(Arbor Biotechnologies)などに出資。スイスのPolyPeptide(ペプチドCDMO)に買収を提案中(細胞培養ではない)確認できた
大学・研究機関との連携細胞培養分野の大学・研究機関との共同研究は、事業報告書に記載なし。CEPI(感染症流行対策イノベーション連合)との戦略的提携、Eli Lillyとのオープンイノベーションでの協業は公表されているが、細胞培養技術に特化したものではない確認できず
素材技術者の視点:培養の「材料費」は誰が払っているか

事業報告書によると、2025年の原材料購入は樹脂(Resin)など7,464億ウォン、フィルターなど4,034億ウォン、計1兆1,498億ウォンです 事実。売上の約4分の1に相当する金額ですが 本稿の計算、 会社は「原材料・副資材の費用は顧客から全額と手数料を払い戻してもらう構造」「原材料は顧客が確認・指定した取引先から買う」と説明しています。 つまり培地・精製樹脂・フィルターといった細胞培養の消耗品は、CDMOではなく実質的に顧客の薬の仕様で決まるということです。 材料メーカーから見ると、CDMOに売り込むより先に、顧客の製薬会社の工程に採用されることが勝負になります。

6. これまでの取り組み

時期できごと意味
2011年4月Samsung Biologics設立。翌月に第1工場を着工サムスングループのバイオ医薬品受託製造への参入
2013年第1工場完成。BMS、Rocheと受託製造の契約大手製薬会社からの受注開始
2016年11月KOSPIに上場―
2018年第3工場(180,000L)がcGMP生産開始。細胞株・工程開発を受けるCDO事業に参入大型化と開発受託の2本立てへ
2020年8月自社の細胞株プラットフォーム「S-CHOice」を発表抗体を作るCHO細胞を自前で持つ
2022年4月Samsung Bioepisを100%子会社化バイオシミラー事業を傘下に(2025年に分離)
2023年6月第4工場(240,000L)がcGMP準備完了当時の単一工場として同社最大
2024年6月・9月高密度培養プラットフォーム「S-Tensify」、細胞株プラットフォーム「S-AfuCHO」を発表タンクの大きさだけでなく「濃く育てる」技術へ
2025年4月第5工場(180,000L)が完成し生産に着手。建設費2.01兆ウォン、着工からcGMP準備完了まで24か月第2バイオキャンパスの最初の工場
2025年6月オルガノイドを使う薬効評価サービス「Samsung Organoids」を開始研究受託(CRO)に進出
2025年11月会社分割でSamsung Bioepis系を分離し、受託専業に。第3バイオキャンパスの用地購入契約(2,486億ウォン)顧客との利益相反の懸念を解消したと説明
2025年12月GSKからRockvilleの工場(60,000L)を保有する会社を取得することで合意(資産取得額US$2.8億)米国初の生産拠点
2026年3月Rockville工場の取得を完了(第1四半期決算ではUS$3.53億と記載)。総容量845,000LにGSK向けの既存品を継続しつつ他社向けに転換
2026年第1四半期マスターセルバンク製造、ベクター構築のサービスを追加細胞株づくりの上流を拡充
2026年7〜8月PolyPeptideへの買収提案(総額約CHF 14.6億)、3兆ウォンの株主割当増資を発表ペプチドへの多角化と、第2バイオキャンパスの拡張資金

7. 今後の計画

2026年の売上見通し前年比 +15〜20%2026年7月に「上限の達成を見込む」と表明
2032年の総容量1,385,000L第6〜8工場を順次稼働させる案を「検討中」
第3バイオキャンパス2034年までに
約7兆ウォン
細胞・遺伝子治療を含む多モダリティ拠点
2027年までADC製剤ライン
プレフィルドシリンジ
事業報告書に記載の計画

細胞培養に関わる計画として、次が公表されています 事実。

  • 第5工場:工程性能適格性確認(PPQ)を進めて立ち上げ中で、2026年下期の売上を押し上げると説明。
  • Rockville:買収後も商用製造を継続しており、2026年第3四半期から売上計上が始まる。設備容量の拡張と技術更新の追加投資を計画。
  • 第3バイオキャンパス:「細胞・遺伝子治療(CGT)を含む幅広いモダリティの拠点をつくる」と2025年事業報告書のCEOメッセージに記載。
  • 資金調達:3兆ウォンの株主割当増資のうち約2.71兆ウォンをPolyPeptide買収に、約2,900億ウォンを第2バイオキャンパスの拡張に充てる。既存株主の申込は2026年11月9〜10日、新株の上場は11月30日の予定。
確認できなかったこと

次はいずれも参照した一次情報に記載がありません 未確定/将来。

細胞・遺伝子治療の受託製造を始める時期と設備規模/第3バイオキャンパスのうち細胞・遺伝子治療に充てる投資額/ 第6〜8工場の着工の決定(会社は「検討中」とするのみ)/事業報告書で「アジア・米国・欧州の製薬会社」と匿名になっている大型契約の相手先の社名。 報道で語られる社名や金額は本稿では採用しません。

8. この会社は細胞培養技術で何を目指しているか

ここは会社が直接には述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに書きます。

読み取れること根拠となる一次情報区分
当面の軸は抗体の超大型培養の規模を積み増すこと第5工場の完成、Rockville取得、2032年に1,385,000Lとする検討、増資の一部を第2バイオキャンパス拡張に充当推測
細胞・遺伝子治療は自社で作る前に、出資で技術を見極める段階事業報告書が「CGT分野では技術力確保と市場先取りのためLife Science Fundを通じた戦略的投資を並行」と記載し、受託実績の開示はない推測
培養技術は「タンクを大きくする」だけでなく「同じタンクで多く作る」方向にも進めている高密度培養の「S-Tensify」、細胞株の「S-CHOice」「S-AfuCHO」など、細胞株と培養工程のプラットフォームを相次いで発表推測
オルガノイド事業は顧客を早い段階で囲い込むための入口事業報告書が「候補物質の発掘段階から協業し、長期的なパートナーシップと早期のLock-in効果を確保するため」と記載事実
当面の多角化は細胞培養の外(ADC・ペプチド)が先行するADC工場は2025年にGMP準備完了、PolyPeptide買収は2026年末完了見込み。CGTの設備計画は第3バイオキャンパス(2034年まで)の中推測
推測の根拠を1つだけ詳しく

事業報告書の生産実績を見ると、2025年の生産能力は1,034バッチ、実績は733バッチで、稼働率は70.9%です(2024年は75.2%) 事実。 2025年4月に完成した第5工場がまだ立ち上げ中で、分母が先に増えたためと読めます。 それでも会社は第6〜8工場の検討と2032年の1,385,000Lという数字を示し、増資資金の一部を第2バイオキャンパスの拡張に充てるとしています。 稼働率が下がる局面でも先に容量を積むという行動は、同社が「規模そのもの」を競争力の源泉と見ていることを示していると本稿は読みます 未確定/将来。細胞・遺伝子治療のような小ロット・多品種の事業は、この「大規模・標準化」の強みとは性格が異なるため、 別キャンパス(第3バイオキャンパス)で扱う計画になっているのも、その裏返しと考えられます。

9. 細胞培養分野の提携マッピング

Samsung Biologicsを中心とした細胞培養分野の関係 事業報告書・公式リリースに社名の記載がある関係のみ。報道ベースの関係は含まない 受託製造の顧客 原材料・副資材の購入先 買収・出資 Samsung Biologics Pfizer 抗体の受託製造契約(2023年2件) Novartis 受託製造契約(2023年7月) Eli Lilly 受託製造契約(2020・2022年) Global Life Sciences Solutions 樹脂などの原材料(2025年購入先) Thermo Fisher/Sigma-Aldrich 樹脂などの原材料(2025年購入先) Merck/Sartorius(韓国法人) フィルターなどの副資材 GSK Rockville工場を取得(2026年3月) Life Science Fund 遺伝子編集などの企業に出資 PolyPeptide 買収を提案中(ペプチド、細胞培養外)
図2 Samsung Biologicsを中心とした細胞培養分野の関係。出典:2025年12月期事業報告書(DART)、公式プレスリリース。受託製造の顧客は、事業報告書の契約一覧に社名が記載された多数の契約から3社を例示したもので、ほかにRoche、GSK、AstraZeneca、MSD、UCBなどとの契約も記載されています。原材料の購入先は事業報告書の「主要原材料の購入状況」に記載された社名で、会社は「原材料は顧客が確認・指定した取引先から購入する」と説明しています。Global Life Sciences Solutionsは事業報告書の記載どおりの社名(シンガポール法人)で表記しています。

10. 提供している技術・製品・サービス

区分内容(事業報告書・公式サイトの記載)細胞培養の種類
受託製造(CMO)抗体などの原薬を、第1工場30,000L・第2工場155,000L・第3工場180,000L・第4工場240,000L・第5工場180,000L、Rockville 60,000Lで製造。製剤(DP)の受託も行う①バイオ医薬品
細胞株の開発(CDO)自社細胞株「S-CHOice」、「S-AfuCHO」。高生産性の細胞株をつくるサービス。2026年からマスターセルバンク製造も提供①バイオ医薬品
工程の開発(CDO)細胞培養時の生産量(タイター)を上げるための工程条件と培地の組み合わせの研究、精製収率の改善。高密度培養の「S-Tensify」①バイオ医薬品
その他のモダリティADC工場(2025年GMP準備完了)、mRNA(2022年から設備稼働)細胞培養外(ADCは抗体側で培養が関わる)
研究受託(CRO)「Samsung Organoids」:オルガノイドで薬の候補の効き目を評価するサービス細胞を「道具」として培養
細胞・遺伝子治療第3バイオキャンパスで取り組む計画。現時点の受託製造サービスとしては公式サイトの一覧に掲載なし②細胞治療(計画段階)
素材技術者の視点:「工場の等価性」という売り文句

同社は2025年10月に、製造の枠組み「ExellenS」を発表し、標準化した設計と運用を今後のすべての工場に適用すると説明しています 事実。 動物細胞の培養では、同じ細胞・同じ培地でも、タンクの形状・撹拌・通気・温度制御がわずかに違うだけで、抗体の糖鎖や不純物の量が変わります。 工場ごとに設備と手順をそろえておけば、ある工場で承認を取った工程を別の工場へ移すときの比較試験が軽くなるため、 顧客にとって「予備の工場」を確保しやすくなります。 事業報告書が、FDAが単一拠点生産品に代替計画を求めていることや「複数拠点での生産(Dual Sourcing)」の需要増を業界の特性として挙げているのは、 この標準化戦略と対になった説明です。

11. この企業が抱えるリスク

リスク内容区分
稼働率の低下2025年の稼働率は70.9%で前年の75.2%から低下。容量拡大が受注に先行すると収益を圧迫しうる事実
地域の偏り2025年の売上の90.0%が欧州と米国(52.0%+38.0%)。各国の医薬品政策・関税の影響を受けやすい本稿の計算
抗体への集中売上の95.6%が抗体医薬品。細胞・遺伝子治療の受託実績はまだ開示されていない事実
技術の国外移転の規制事業報告書は、国家核心技術・国家先端戦略技術の技術文書を海外企業に渡す際に事前申告や承認が必要になる法律を、事業に影響する規制として挙げている。海外拠点との技術移転の手続きが重くなりうる事実
係争中の行政訴訟Samsung Bioepis株の会計処理をめぐる証券先物委員会・金融委員会の処分(課徴金80億ウォンなど)の取消訴訟が、2025年末時点でソウル高裁に係属中事実
大型買収と増資PolyPeptide買収は応募比率3分の2以上や規制当局の承認が条件。3兆ウォンの増資は既存株主の持分を薄める事実
新モダリティへの対応の遅れ細胞・遺伝子治療の設備計画は2034年までの第3バイオキャンパスの中にあり、既に商用実績を持つ他社との差が縮まらない可能性推測

12. 用語集

CDMO/CMO/CDO
CDMOは開発と製造の両方の受託、CMOは製造のみ、CDOは開発(細胞株・工程など)のみの受託。本シリーズの技術解説「CDMO」で詳しく説明しています。
CHO細胞
チャイニーズハムスター卵巣由来の細胞。抗体医薬品の生産に最も広く使われる動物細胞。
細胞株
目的の抗体を安定して多く作るように選び出した細胞の系統。工程の出発点になる。
マスターセルバンク
製造に使う細胞株を、均一な状態で大量に凍結保存したもの。製品の品質の土台となる。
バイオリアクター
細胞を培養するタンク。本シリーズの技術解説「バイオリアクター」を参照。
高密度培養
培地を入れ替えながら細胞をより高い濃度まで増やし、同じタンクで多くの抗体を得る培養方法。
PPQ
工程性能適格性確認。定めた製造工程が品質基準を満たす製品を安定して作れることを、実製造で示す手続き。
オルガノイド
幹細胞などを立体的に培養してつくる、臓器に似た小さな組織。薬の効き目の評価などに使う。
ADC
抗体薬物複合体。抗体に薬物を結合させた医薬品。抗体部分は動物細胞培養で作る。
DART
韓国金融監督院の電子公示システム。上場企業の事業報告書などの法定開示が掲載される。
概念図:同じ設計の大型培養タンクが並ぶ複数の工場を、標準化された一つの運用でつなぐ受託製造ネットワーク
図3 Samsung Biologicsの細胞培養事業の概念図(AI生成による概念図。実際の設備や製品を写したものではありません)。

13. 出典

  1. Samsung Biologics 事業報告書(2025年12月期、DART提出。2026年3月12日提出、同年5月15日訂正)。事業の概要、売上の内訳(抗体95.6%、地域別)、生産能力・稼働率、主要原材料の購入先、生産設備と投資額、契約一覧、Human Genome Sciences取得契約、第3バイオキャンパス用地、研究開発組織と人員、研究開発費、新規事業、規制、係争。 https://dart.fss.or.kr/dsaf001/main.do?rcpNo=20260515001658
  2. Samsung Biologics Business Report 2025(英文、公式IRサイト掲載)。CEOメッセージ(2026年の方針、第3バイオキャンパス約7兆ウォン、CGT)、沿革、事業所、従業員数、3期分の業績、Life Science Fundの出資先、行政訴訟の経過。 https://samsungbiologics.com/common/fileDownload.do?_fdFileName_=cd21696118cd4a7daa6973c02d40f795.pdf&_colunmName_=attCnt0&_downloadIdx_=391&_fdFileOriName_=%5BSamsung%20Biologics%5D%202025%20Business%20Report.pdf&_fdSubPath_=investors
  3. Samsung Biologics 2025 Q4 Earnings Release(2026年1月21日)。2026年の売上成長見通し(+15〜20%)、累計受注、会社分割の完了。 https://samsungbiologics.com/common/fileDownload.do?_fdFileName_=61a7b9d576694f6c8a10151dfb7067f8.pdf&_colunmName_=attCnt0&_downloadIdx_=382&_fdFileOriName_=%5BSamsung-Biologics%5D-2025-Q4-Earnings-Release.pdf&_fdSubPath_=investors
  4. Samsung Biologics プレスリリース「Samsung Biologics Reports Second Quarter 2026 Financial Results」(2026年7月23日)。2026年上期の売上・営業利益、累計受注US$216億、第5工場のPPQ、Rockvilleの統合、Life Science Fund、見通しの上限達成。 https://samsungbiologics.com/media/company-news/samsung-biologics-reports-second-quarter-2026-financial-results
  5. Samsung Biologics 2026 Q2 Earnings Release(2026年7月23日)。Rockvilleの売上計上開始時期(2026年第3四半期)、第5工場のPPQによる下期の押し上げ。 https://samsungbiologics.com/common/fileDownload.do?_fdFileName_=34419027a9d04f32a9347b11a5cba763.pdf&_colunmName_=attCnt0&_downloadIdx_=401&_fdFileOriName_=%5BSamsung%20Biologics%5D%202026%20Q2%20Earnings%20Release.pdf&_fdSubPath_=investors
  6. Samsung Biologics プレスリリース「Samsung Biologics reports first quarter 2026 financial results」(2026年4月22日)。Rockville取得額US$3.53億、CEPI・Eli Lillyとの提携、マスターセルバンク製造とベクター構築サービス。 https://samsungbiologics.com/media/company-news/samsung-biologics-reports-first-quarter-2026-financial-results
  7. Samsung Biologics プレスリリース「Samsung Biologics expands U.S. manufacturing capabilities with strategic acquisition of Human Genome Sciences from GSK」(2025年12月22日)。60,000L、資産取得額US$2.8億、500人超の雇用継続、第3バイオキャンパス。 https://samsungbiologics.com/media/company-news/samsung-biologics-expands-u-s--manufacturing-capabilities-with-strategic-acquisition-from-gsk
  8. Samsung Biologics プレスリリース「Samsung Biologics completes acquisition of GSK’s manufacturing facility in Rockville, Maryland」(2026年3月31日)。取得完了、総容量845,000L、GSKへの供給継続と追加投資計画。 https://samsungbiologics.com/media/company-news/samsung-biologics-completes-acquisition-of-gsks-manufacturing-facility-in-rockville-maryland
  9. Samsung Biologics プレスリリース「Samsung Biologics announces all-cash offer to acquire PolyPeptide」(2026年7月20日)。買収提案の条件と完了見込み。 https://samsungbiologics.com/media/company-news/samsung-biologics-announces-all-cash-offer-to-acquire-polypeptide
  10. Samsung Biologics プレスリリース「Samsung Biologics Announces KRW 3 Trillion Rights Offering to Fund Its Next-Phase Expansion」(2026年8月28日)。増資の使途、第6〜8工場の検討と2032年の1,385,000L、日程。 https://samsungbiologics.com/media/company-news/samsung-biologics-3-trillion-won-rights-offering
  11. Samsung Biologics 公式サイト「Milestones」。S-Tensify・S-AfuCHO・Samsung Organoids・ExellenSの発表時期、第4・第5工場の容量と建設期間。 https://samsungbiologics.com/about/milestones
  12. Samsung Biologics 公式サイト「Fact Sheet」「Locations」。従業員5,800人超、工場別容量、営業拠点(ニュージャージー・ボストン・東京・アムステルダム)。 https://samsungbiologics.com/about/fact-sheet
  13. Samsung Biologics 公式サイト「Locations」(拠点一覧の確認用)。 https://samsungbiologics.com/about/locations
  14. Samsung Biologics 公式サイト(ロゴ画像の取得元)。 https://samsungbiologics.com/

14. 主張と出典の対応表

本文の主張区分出典
正式名称、設立(2011年4月)、KOSPI上場(2016年11月)、本社所在地事実出典2 https://samsungbiologics.com/common/fileDownload.do?_fdFileName_=cd21696118cd4a7daa6973c02d40f795.pdf&_colunmName_=attCnt0&_downloadIdx_=391&_fdFileOriName_=%5BSamsung%20Biologics%5D%202025%20Business%20Report.pdf&_fdSubPath_=investors
2023〜2025年の売上・営業利益(継続事業ベース)、抗体医薬品の比率、地域別売上事実出典1 https://dart.fss.or.kr/dsaf001/main.do?rcpNo=20260515001658
2026年上期の売上・営業利益、累計受注US$216億事実出典4 https://samsungbiologics.com/media/company-news/samsung-biologics-reports-second-quarter-2026-financial-results
研究開発費(2023〜2025年)と研究専任609人の内訳事実出典1 https://dart.fss.or.kr/dsaf001/main.do?rcpNo=20260515001658
従業員5,455人(2025年末・本社ベース)事実出典2 https://samsungbiologics.com/common/fileDownload.do?_fdFileName_=cd21696118cd4a7daa6973c02d40f795.pdf&_colunmName_=attCnt0&_downloadIdx_=391&_fdFileOriName_=%5BSamsung%20Biologics%5D%202025%20Business%20Report.pdf&_fdSubPath_=investors
従業員5,800人超(公式サイト表示)、工場別容量事実出典12 https://samsungbiologics.com/about/fact-sheet
営業拠点(ニュージャージー・ボストン・東京・アムステルダム)事実出典13 https://samsungbiologics.com/about/locations
生産能力1,034バッチ・実績733バッチ・稼働率70.9%(2024年75.2%)事実出典1 https://dart.fss.or.kr/dsaf001/main.do?rcpNo=20260515001658
2025年の設備投資8,934億ウォン、第5工場の建設費2.01兆ウォン事実出典1 https://dart.fss.or.kr/dsaf001/main.do?rcpNo=20260515001658
主要原材料の購入額と購入先、費用の払い戻し構造事実出典1 https://dart.fss.or.kr/dsaf001/main.do?rcpNo=20260515001658
原材料購入額が売上の約4分の1、欧米で売上の90.0%本稿の計算出典1の数値から本稿が算出
Pfizer・Novartis・Eli Lillyなどとの受託製造契約事実出典1 https://dart.fss.or.kr/dsaf001/main.do?rcpNo=20260515001658
会社分割によるSamsung Bioepis系の分離(2025年11月)と受託専業化事実出典1 https://dart.fss.or.kr/dsaf001/main.do?rcpNo=20260515001658
Rockville取得の合意(US$2.8億、60,000L、500人超)事実出典7 https://samsungbiologics.com/media/company-news/samsung-biologics-expands-u-s--manufacturing-capabilities-with-strategic-acquisition-from-gsk
Rockville取得の完了(2026年3月31日)と総容量845,000L事実出典8 https://samsungbiologics.com/media/company-news/samsung-biologics-completes-acquisition-of-gsks-manufacturing-facility-in-rockville-maryland
Rockville取得額US$3.53億、CEPI・Eli Lillyとの提携、マスターセルバンク製造の追加事実出典6 https://samsungbiologics.com/media/company-news/samsung-biologics-reports-first-quarter-2026-financial-results
Life Science Fundの出資先(Arbor Biotechnologiesなど)とCGT分野での位置づけ事実出典2 https://samsungbiologics.com/common/fileDownload.do?_fdFileName_=cd21696118cd4a7daa6973c02d40f795.pdf&_colunmName_=attCnt0&_downloadIdx_=391&_fdFileOriName_=%5BSamsung%20Biologics%5D%202025%20Business%20Report.pdf&_fdSubPath_=investors
S-CHOice・S-Tensify・S-AfuCHO・Samsung Organoids・ExellenSの発表時期事実出典11 https://samsungbiologics.com/about/milestones
オルガノイド事業の目的(早期のLock-in効果)事実出典1 https://dart.fss.or.kr/dsaf001/main.do?rcpNo=20260515001658
2026年の売上成長見通し(+15〜20%)と上限達成の見込み未確定/将来出典3・4。会社の見通しであり実績ではない https://samsungbiologics.com/common/fileDownload.do?_fdFileName_=61a7b9d576694f6c8a10151dfb7067f8.pdf&_colunmName_=attCnt0&_downloadIdx_=382&_fdFileOriName_=%5BSamsung-Biologics%5D-2025-Q4-Earnings-Release.pdf&_fdSubPath_=investors
Rockvilleの売上計上開始(2026年第3四半期)、第5工場のPPQ未確定/将来出典5。会社の見通し https://samsungbiologics.com/common/fileDownload.do?_fdFileName_=34419027a9d04f32a9347b11a5cba763.pdf&_colunmName_=attCnt0&_downloadIdx_=401&_fdFileOriName_=%5BSamsung%20Biologics%5D%202026%20Q2%20Earnings%20Release.pdf&_fdSubPath_=investors
第3バイオキャンパス(2034年までに約7兆ウォン、CGTを含む)未確定/将来出典2。会社の計画 https://samsungbiologics.com/common/fileDownload.do?_fdFileName_=cd21696118cd4a7daa6973c02d40f795.pdf&_colunmName_=attCnt0&_downloadIdx_=391&_fdFileOriName_=%5BSamsung%20Biologics%5D%202025%20Business%20Report.pdf&_fdSubPath_=investors
PolyPeptide買収提案(約CHF 14.6億)と条件未確定/将来出典9。完了前の計画 https://samsungbiologics.com/media/company-news/samsung-biologics-announces-all-cash-offer-to-acquire-polypeptide
3兆ウォンの増資、第6〜8工場の検討と2032年の1,385,000L未確定/将来出典10。会社の計画・検討段階 https://samsungbiologics.com/media/company-news/samsung-biologics-3-trillion-won-rights-offering
技術の国外移転に関する規制、Samsung Bioepis株の会計処理をめぐる行政訴訟事実出典1・2 https://dart.fss.or.kr/dsaf001/main.do?rcpNo=20260515001658
市場規模・成長率の予測(調査会社が出所)、「生産能力で世界最大」という自社の主張未確定/将来出典1に記載があるが、前者は調査会社の推計のため採用せず、後者は本稿では検証していない
細胞・遺伝子治療の開始時期・設備規模・投資額、匿名契約の相手先未確定/将来いずれも非公表。本稿では推計もしない
細胞培養分野の大学・研究機関との共同研究未確定/将来出典1・2に記載なし。本稿では存在しないとも断定しない https://dart.fss.or.kr/dsaf001/main.do?rcpNo=20260515001658
3類型の区分(CDMO/装置・消耗品・培地/細胞治療・再生医療)本稿の計算本稿による整理。企業名は本シリーズの20社から例示
当面の軸は抗体の超大型培養の規模拡大という読み推測容量拡大の計画と増資の使途からの本稿の解釈
細胞・遺伝子治療は出資で技術を見極める段階という読み推測事業報告書の記述と受託実績の不在からの本稿の解釈
「同じタンクで多く作る」方向にも進めているという読み推測細胞株・培養プラットフォームの発表からの本稿の解釈
多角化は細胞培養の外(ADC・ペプチド)が先行するという読み推測ADC工場とPolyPeptide買収の時期、CGT計画の時期からの本稿の解釈
稼働率が下がる局面でも容量を先に積むのは規模を競争力と見ているためという読み推測稼働率と容量拡大計画の対比からの本稿の解釈
新モダリティへの対応が遅れるリスク推測CGT計画の時期からの本稿の解釈
工場の標準化が別工場への工程移管を軽くするという説明未確定/将来ExellenSの発表内容に基づく本稿の解説

最終更新:2026年9月24日/Troy Technical
本稿の数値はすべてSamsung Biologicsが韓国の電子公示システム(DART)に提出した事業報告書と、同社の公式IR資料・プレスリリースに基づきます。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。