主要成果
東京大学のQiuYuan Huang氏と岩田忠久氏らを中心とする研究チーム(JAMSTEC、群馬大学が協力)は、熱処理プロセスにおいて微量の天然分解酵素を直接混入させた、深海での生分解を加速させる酵素埋込型ポリエステルフィルムおよびマイクロビーズを開発した。本研究はNEDOのムーンショット計画の資金援助を受けて実施された。
有人潜水調査船「しんかい6500」を用いて水深757mから5,503mの4地点で3〜18ヶ月間の実証実験を行った結果、水深757mにおいてHiC(Humicola insolens cutinase)を配合したPBS(ポリブチレンサクシネート)、PBSA(ポリブチレンサクシネートアジペート)、PCL(ポリカプロラクトン)のフィルムは、5ヶ月以内にほぼ完全に分解された。一方、酵素を含まない対照群の重量減少率は最大で3.4%に留まった。深海における分解速度は、ポリマーや酵素の種類により、酵素なしの場合と比較して12倍から80倍に加速した。
技術・詳細
本技術の核心は、乾燥状態では酵素が休眠状態で保持され、環境中に流出して表面が摩耗または断片化し、水が浸透したタイミングで酵素が活性化して内部からポリマー鎖を切断し始める「スイッチ機能」にある。使用された酵素は、葉のワックス層を分解するクチナーゼ(HiC)や、脂肪を分解するリパーゼ(CaLB:Candida antarctica lipase B)であり、これらはポリエステルのエステル結合を切断する触媒として機能する。配合量は0.1 wt%(プラスチック1kgあたり酵素1g)という極めて低濃度で十分な分解性能が確認された。
また、沿岸部(水深2〜6m)での試験では、1ヶ月以内に分解が進み、対照群より5〜50倍高速な分解が確認された。さらに、分解された断片が微生物によって二酸化炭素、水、バイオマスへと変換される「無機化」が進むことが示され、マイクロプラスチックとして残留するリスクを低減させている。
背景・業界の文脈
従来のコンポスト用酵素プラスチックは湿った堆肥環境での分解を目的としていたが、本研究はそれを低温・高圧で分解微生物が極めて少ない深海環境へと拡張した点に新規性がある。分解対象は脂肪族ポリエステルに限定されており、より剛性の高い芳香族ポリマーであるPBAT(ポリブチレンアジペートテレフタレート)については、分解速度は向上したものの、PBSなどのように完全に消失するまでには至らなかった。
今後の展望と限界
水深5,503mの最深部においては、酵素活性は維持されていたものの、分解は中程度に留まり、完全な分解には至らなかった。これは極低温・超高圧環境下では酵素の補助があっても分解に限界があることを示している。また、本技術はエステル結合を持たないポリエチレン、PET、ポリプロピレン、ポリスチレンなどの汎用プラスチックには適用できない。
研究室レベルでは強度や柔軟性は維持されており、熱処理も可能であることが確認されているが、工場規模での製造、製品寿命、コストについては未検証である。また、著者らは、分解速度が向上したとしても、プラスチックを海洋に放出することが許容されるわけではないと指摘している。
元記事: https://www.intelligentliving.co/enzyme-bioplastic-deep-sea-limits/
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