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トポロジカル量子計算 技術解説

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TECHNOLOGY EXPLAINER

トポロジカル量子計算
― 「結び目」のように壊れにくい量子ビットという構想と、いま確認できていること

量子ビットは、周りのわずかな乱れで壊れます。そこで、情報を「小さな乱れでは変わらない形」にしまっておけば、誤りに強い量子ビットができるのではないか、という構想があります。これがトポロジカル量子計算で、その有力候補がマヨラナ準粒子(半導体のナノワイヤと超伝導体を組み合わせた素子の両端に現れると期待される状態)です。この記事は、構想の仕組みを「結び目」のたとえと図でやさしく説明し、材料(InAs、InSb、Al、Pb など)と、主張と論争の経緯を、公式資料・論文・批判的な論文を並べて整理します。結論を断定せず、確認できた事実、解釈に争いのある点、まだ確認できていない点を区別します(確認日 2026年10月16日)。

構成:理論の原論文と総説、実験の査読論文、撤回通知、Nature の編集注記と査読ファイル、批判論文(arXiv と Nature の Matters Arising)とその回答、企業のプレプリント・発表、DARPA の公式発表、ISO・IEEE の公式ページを使用/数値例は本稿で計算/確認日 2026年10月16日

極低温の実験に使う小さな素子を、顕微鏡で観察する前に置く場面のイメージです。特定の装置・企業・実験を示すものではありません。 端の強調表示は研究対象を示す模式表現で、トポロジカルな性質を確認した測定像ではありません。
図1 概念画像(ImageGen生成)。極低温の実験に使う小さな素子を、顕微鏡で観察する前に置く場面のイメージです。特定の装置・企業・実験を示すものではありません。 端の強調表示は研究対象を示す模式表現で、トポロジカルな性質を確認した測定像ではありません。 実際の製品・施設・寸法・測定結果ではありません。拡大模型と実物スケールの場面は区別してください。
3行でわかる
  • 何をするのか:情報を、周りの小さな乱れでは変わらない「大域的な性質」(トポロジー)にしまって、誤りに強い量子ビットを作る構想です。代表は、ナノワイヤの両端に現れると期待されるマヨラナ準粒子の組で、情報を電子の数が偶数か奇数か(パリティ)として保ちます
  • いまの状況:理論の魅力は大きいものの、実験で「トポロジカル量子ビットができた」と第三者に確認された段階には、確認日時点で至っていません。企業は作ったと主張し、論文を出した雑誌の編集部は「その論文の結果は、マヨラナ零モードが存在する証拠にはならない」と注記し、批判する論文も出ています。企業はそれに回答しています
  • いちばん大事な1点:「測れた信号」と「その信号をトポロジカルだと解釈してよいか」は別の問題です。どちらの話をしているのかを区別して読めば、報道の食い違いの多くが整理できます
この記事を読む前に知っておくこと

量子ビットが「球の中心から表面へ向かう矢印」で表せることを知っていると読みやすくなります(北極が0、南極が1、斜めが重ね合わせ。分からなくても、本文で必要なことは説明します)。超伝導体は「電気抵抗がゼロになる材料」だとだけ分かっていれば十分です。

シリーズの中での位置

本シリーズ「量子コンピュータの基礎」「量子ゲートと量子回路」「量子誤り訂正と表面符号」編のあとに読むと分かりやすい記事です。誤り訂正を「たくさんの量子ビットで守る」方法と、「物質の性質で守る」この記事の方法を比べると、考え方の違いが見えます。超伝導体と回路は「超伝導量子ビット」編、半導体の量子ドットは「量子ドット」編、冷凍機は「極低温と制御」編、材料と製造の全体は「量子コンピュータの材料と製造」編で扱います。

この記事の書き方について(中立の方針)

トポロジカル量子計算は、主張と論文・専門家の議論の状況が分かれている題材です。そこで、この記事はどちらかの結論を断定しません。次の3つに分けて書きます。
①確認できた事実:論文・公式資料に書かれていること(例:何を測り、どういう数値が報告されたか、雑誌の編集部が何と書いたか)。
②解釈に争いのある点:同じデータを、別の研究者が別の仕方で解釈している点。両方の主張を、出典つきで並べます。
③未確認の点:本稿の調査範囲で、一次情報から確認できなかったこと。推測では埋めません。
企業の発表は「企業の主張」、計画や目標は「未確定/将来」として扱い、特定の企業・研究者の優劣や人柄を評価しません。批判する側の主張も、批判された側の回答も、出典のある範囲でそのまま伝えます。

この記事の構成
  1. なぜ「トポロジカル」なのか ― 結び目のたとえ
  2. エニオンと編み込み ― 粒子の入れ替えで計算する
  3. マヨラナ準粒子とパリティ ― ナノワイヤの両端に情報をしまう
  4. 材料 ― ナノワイヤと超伝導体、そして界面
  5. 数字で見る ― ギャップ、温度、パリティ寿命(本稿の計算)
  6. 主張と論争の経緯 ― 確認できた事実、争いのある点、未確認の点
  7. 別の道 ― 量子ドットでつくる鎖と、量子コンピュータ上での再現
  8. 確認できなかったことと、まとめ
  9. 評価・標準の読み方
  10. 用語集
  11. 参考資料(一次情報)
  12. 主張と出典の対応表(監査)
本記事の表記ルール

事実=公表資料に記載のある内容(出典リンクあり)。報告された測定結果の存在を指し、その解釈の正しさまでは保証しません
本稿の計算=明示した前提をもとに本記事が算出した値
未確定/将来=計画・目標・審査中・争いが続いている事項など、確定していないこと
このほか、材料への読み取りは「解説」として区別しています。推測は太字で示します。企業の発表は「企業の主張」として扱い、第三者の確認を意味しません。

この記事の数値の読み方

第5章の計算は、出典にある数値を使った本稿の計算で、温度などの前提は例示です。素子の性能(ギャップ、パリティ寿命など)は、企業のプレプリント(査読前)の値を含み、企業の主張です。研究室の最良の値や、1個の素子の結果は、再現性や量産品の性能を意味しません。「何量子ビット」という数の主張は、物理量子ビットか論理量子ビットか、量子ビットとしての動作が確認されたものか、を必ず確認してください(この記事で出てくる数は、すべて物理的な素子の数・設計上の数であり、論理量子ビットではありません)。

1. なぜ「トポロジカル」なのか ― 結び目のたとえ

まず、量子ビットは壊れやすい

量子ビットは、周りのわずかな乱れ(熱、電場や磁場の揺れ、材料の欠陥)で、矢印がぶれてしまいます。これを防ぐために、現在の主流の考え方は、たくさんの量子ビットで1つの論理量子ビットを守る誤り訂正です(本シリーズ「量子誤り訂正と表面符号」編)。ただし、これには、量子ビットが多数必要になります。

そこで、別の発想があります。「誤りが起きたら直す」のではなく、そもそも誤りが情報に触れにくい形に、情報をしまっておく、という発想です。Kitaev は、2次元の量子系にある「エニオン」という励起を使えば、その計算は「物理的な性質から、誤りに強い(fault-tolerant)」と提案しました事実[参考資料1]。これがトポロジカル量子計算の出発点です。

身近な例:ロープの結び目と、ドーナツの穴

ロープに結び目を作ったとします。ロープの一部をつまんで揺らしたり、少し引っ張ったりしても、結び目はなくなりません。結び目を解くには、ロープを大きく動かして、全体を操作しなければなりません。結び目は、ロープの「どこか1か所」ではなく、形全体の性質だからです。

もう1つの例が、ドーナツの穴です。粘土でドーナツを作り、ぐにゃぐにゃに変形させても、ちぎったり貼り付けたりしない限り、穴は1つのままです。穴の数は、連続的な変形で変わらない性質です。このような性質を、数学でトポロジーとよびます。

「トポロジカル」とは ― 局所的な乱れでは変わらない性質 ① 結び目:つまんで揺らしても解けない 1か所をつまんで揺らす 結び目は、形全体の性質 解くには、ロープ全体を操作する必要がある ② 穴の数:変形しても変わらない 穴1つ 穴1つ 穴0 = ≠ 変形しても、穴の数は同じ(ちぎらない限り) 球に変えるには、穴をふさぐ「大きな操作」が要る
図2 概念図(ベクター作図)。「トポロジカル」な性質のたとえです。左:ロープの結び目は、1か所を揺らしても解けない。右:ドーナツの穴の数は、連続的な変形で変わらない。量子の情報がこのように守られる、というのが構想です。どちらも説明のためのたとえで、実際の量子状態の形ではありません。

量子の情報を、結び目のようにしまう

トポロジカル量子計算の構想は、量子ビットの情報を、ある物質の「全体の性質」の中にしまう、というものです。周りの小さな乱れは「ロープの1か所をつまむ」ようなもので、全体の性質(情報)には、ほとんど触れません。この考え方を「トポロジカル保護」とよびます。Nayak らの総説は、この構想の誤りへの強さは、量子状態の非局所的な符号化から生じ、局所的な摂動に対して影響を受けにくいことによる、と説明しています事実[参考資料3]。

たとえの限界

結び目のたとえが当てはまるのは、「情報が一部ではなく全体に宿るので、局所的な乱れでは変わらない」という点までです。実際の物質では、守られる乱れと、守られない乱れがあります。たとえば、ロープそのものが切れたり、他のロープが絡んできたりすれば、結び目は壊れます。マヨラナ準粒子の場合も、後で見るように、外から余計な粒子が入ってくる現象(準粒子の混入、「毒入り」)は、トポロジカル保護では防げない誤りとして扱われています(第5章)。

よくある誤解:「トポロジカル量子ビットは、誤りが起きない」

誤り:「物質の性質で守られるので、誤り訂正はいらない」。正しくは:守られるのは、特定の種類の誤りです。企業自身の将来計画(ロードマップ)も、トポロジカルな量子ビットを並べたうえで、量子誤り検出と誤り訂正を実演する段階を含んでいます(企業の計画。未確定/将来)[参考資料24]。つまり、トポロジカル量子ビットは「誤り訂正に必要な量子ビットの数を、減らせるかもしれない」という期待であり、「誤りが消える」ことではありません。その期待が実現するかは、これから確認される段階です。

2. エニオンと編み込み ― 粒子の入れ替えで計算する

身近な感覚:2本のひもを入れ替える

3本のひもを、時間とともに並べて動かし、左右を入れ替えていくと、ひも同士が編み込まれます。三つ編みの髪を思い浮かべてください。どのひもをどの順番で入れ替えたかで、できあがる編み方が変わります。

粒子の入れ替えも、これに似ています。粒子の位置を、横軸に場所、縦軸に時間をとって描くと、粒子の軌跡が「ひも」になります。粒子を入れ替えると、ひもが交差します。

3次元と2次元の違い

私たちの住む3次元では、2つの同じ種類の粒子を入れ替えて、もう一度入れ替えると、必ず元に戻ります(ひもを空間の中で動かして、交差を解けるため)。電子や光の粒子は、この性質をもちます。ところが、2次元の面に閉じ込められた世界では、ひもの交差が解けずに残ることがあります。入れ替える順序の記録が、そのまま「絡み方」として残るのです。このような性質をもつ粒子のようなもの(準粒子)を、エニオンとよびます(本記事による解説。総説は[参考資料3・4])。

つまずきやすいところ:「準粒子」とは

固体の中では、たくさんの電子が互いに影響し合っています。その集団の動きの「励起」(エネルギーが少し高い状態)が、1つの粒子であるかのように振る舞うとき、それを準粒子とよびます。池の波が1つのかたまりとして動くのに似ていますが、波と違って、準粒子には「粒子の数え方」があり、1個、2個と数えられます。ここで出てくるエニオンやマヨラナは、新しい素粒子ではなく、物質の中にだけ現れる準粒子です。

「非可換」とは、順序で結果が変わること

エニオンのうち、非可換エニオンとよばれるものは、入れ替える順序によって、システム全体の状態が変わります。靴下と靴にたとえると、「靴下をはいてから靴をはく」と「靴をはいてから靴下をはく」は、結果が違います。この「順序で結果が変わる」性質が、量子ゲートに使えます。

粒子の入れ替えは「編み込み」になる(概念図) ① 3つの粒子の軌跡 時間 A B C AとB、続いてAとCを入れ替える ② 非可換=順序で結果が変わる(たとえ) 靴下をはく → 靴をはく 靴をはく → 靴下をはく ふつうの足元 (結果A) 靴の上に靴下 (結果B) 非可換エニオンでは、入れ替える順序で、 システム全体の量子状態が変わる。 たとえは「順序で結果が変わる」点だけが対応する
図3 概念図(ベクター作図)。左:3つの粒子の位置を時間(上向き)とともに描くと、入れ替えがひもの交差(編み込み)になる。交差では、白く縁取った線が手前を通る。右:「順序で結果が変わる」ことを、靴下と靴にたとえたもの。たとえが当てはまるのは、順序で結果が変わる点だけで、実際の量子状態の変化を示すものではありません。

編み込みと測定で、計算する

Nayak らの総説は、トポロジカル量子計算では、量子情報が複数の準粒子の組の状態(トポロジカルな縮退)に保存され、量子ゲートに必要なユニタリ操作は、準粒子の編み込みと、その後の準粒子の組の測定で行われる、と説明しています事実[参考資料3]。Kitaev も、測定は準粒子を対にして合わせ(融合)、その結果を観測することで行える、と書いています[参考資料1]。

ただし、実際の素子では、粒子を動かして編み込む代わりに、測定を順番に行うことで同じ操作を実現する設計(測定だけによる計算)が提案されています。Microsoft の将来計画(ロードマップ)も、「測定に基づく編み込み」で1量子ビットの操作を行う段階を含んでいます(企業の計画)未確定/将来[参考資料24]。

つまずきやすいところ:なぜナノワイヤで、2次元のエニオンの話をするのか

細い1次元のワイヤの両端に現れるマヨラナ準粒子は、ワイヤを網目状につなぐと、粒子を入れ替えるのと同じ編み込みが実現できる、と考えられています。Das Sarma らの解説は、十分に離れたマヨラナ零モード(MZM)は、量子計算に使えるユニタリ操作を行える非可換な編み込みの性質を示すはずだ、と述べています事実[参考資料4]。「ワイヤのネットワークが、2次元の面の代わりをする」と考えると分かりやすくなります(本記事による解説)。

3. マヨラナ準粒子とパリティ ― ナノワイヤの両端に情報をしまう

マヨラナ準粒子とは

電子には、「反粒子」(電気の符号が逆の相手)があります。マヨラナ粒子は、粒子と反粒子が同じという、特別な粒子です。この記事で扱うマヨラナ準粒子は、素粒子ではなく、物質の中にだけ現れる準粒子で、自分自身が反粒子に当たる性質をもつ励起です(Mourik らの論文の冒頭:マヨラナ粒子は、自分自身の反粒子であり、トポロジカル超伝導体で現れると予言されている[参考資料7])。

2010年に、Lutchyn らと Oreg らは、半導体のナノワイヤ(強いスピン軌道相互作用をもつ)に超伝導体を接触させ、磁場をかけると、トポロジカル超伝導の状態になり、ワイヤの両端にマヨラナ準粒子が現れると提案しました事実[参考資料5・6・15]。この考え方の源は、Kitaev が2001年に示した、1次元の鎖の端に「対になっていないマヨラナ」が現れるというモデルです[参考資料2]。

2つの端に、1つの量子ビット ― 割符のたとえ

ワイヤの両端に1つずつマヨラナ準粒子があるとします。この2つは、2つで1つの普通の電子の状態を作ります。その状態は、「電子が1個入っている」か「入っていない」かの2通りで、これをパリティ(電子の数が偶数か奇数か)とよびます。この2通りを、量子ビットの0と1に使います。

たとえば、割符(わりふ)です。1枚の札を2つに割り、半分ずつを両端に置きます。片方だけを調べても、札の全体の中身は分かりません。割符は、2つを合わせて初めて、元の札かどうかが分かります。マヨラナ準粒子の場合も、片方の端だけを調べても、パリティ(情報)は分かりません。情報は2つの端にまたがっており、局所的な乱れは、片方の端にしか触れられません。これが、保護の源です。

たとえの限界:割符は、割れば2つの別々の物体になります。マヨラナ準粒子の2つは、もともと分けられない1つの量子状態の両端で、取り外せる部品ではありません。また、片方の端に外から電子が入り込むと、パリティが変わってしまいます(これが準粒子の混入=「毒入り」です。第5章)。

半導体と超伝導体を組み合わせ、端の状態を利用しようとする研究構想です。端の着色は説明用で、マヨラナ準粒子や動作するトポロジカル量子ビットを実証した画像ではありません。
図4 概念画像(ImageGen生成)。半導体と超伝導体を組み合わせ、端の状態を利用しようとする研究構想です。端の着色は説明用で、マヨラナ準粒子や動作するトポロジカル量子ビットを実証した画像ではありません。 実際の製品・施設・寸法・測定結果ではありません。拡大模型と実物スケールの場面は区別してください。
元のSVG・数値・出典を確認する
ナノワイヤの両端のマヨラナ準粒子と、パリティの量子ビット(概念図) 超伝導体で覆った半導体の細い線に磁場をかけ、端の状態を量子ドットで読む(寸法・構成は説明用) ① 素子のイメージ(断面) ワイヤに沿った磁場 超伝導体 半導体のナノワイヤ ゲート電極 ゲート電極 ゲート電極 γ1 γ2 量子ドット 量子ドット (読み出し用) (読み出し用) ② 2つの端が作る1つの状態=パリティ(電子の数の偶奇) 偶数(空)=0 奇数(電子が1個)=1 両端のγ1とγ2が作る状態に電子が無い 電子が1個入っている(情報は両端にまたがる) 割符のたとえ:半分ずつを両端に置くので、片方だけを調べてもパリティは分からない γ(ガンマ)はマヨラナ準粒子を表す記号。ここでの図は、実在の素子の構造を正確に描いたものではない

元SVGの説明:概念図(ベクター作図)。上:超伝導体で覆った半導体のナノワイヤに磁場をかけ、両端にマヨラナ準粒子(γ1、γ2)が現れると期待される素子のイメージ。下:2つの端が作る1つの状態が、電子の数の偶奇(パリティ)として量子ビットの0と1になる。構成と寸法は説明用で、実在の素子の構造を正確に描いたものではありません[参考資料2・5・6]。

端の間隔が長いほど、誤りが指数関数的に減る? ― 本稿の計算

Kitaev は、長さ L の1次元の系には、パリティの違う2つの基底状態があり、そのエネルギー差は exp(−L/ℓ0) に比例して小さくなる、と書きました事実[参考資料2](ℓ0 は材料で決まる長さ)。この2つの状態のエネルギー差が小さいほど、2つの状態は区別しにくくなり、パリティの情報は乱れに強くなります。さらに、Kitaev は、このような系は、量子ビットとして使え、本質的に脱コヒーレンスに免疫があると述べています[参考資料2]。

この式の意味を、数字で確かめてみましょう。ワイヤの長さ L が、特徴的な長さ ℓ0 の何倍かで、指数関数 e−L/ℓ0 は、次のように急に小さくなります(式の前の係数は無視した、最も簡単な見積もり)。

L ÷ ℓ0e−L/ℓ0読み方
5約 6.7 × 10−3約150分の1
10約 4.5 × 10−5約2万2千分の1
20約 2.1 × 10−9約5億分の1
35約 6.3 × 10−16約1,600兆分の1

計算:e−x(本稿の計算)。「35」は、企業のプレプリントの値(ワイヤ長 3.5 µm、きれいな系で期待される最小のコヒーレンス長 約 100 nm)の比 3.5 µm ÷ 100 nm = 35 を使った例[参考資料27]。ただし、実際の素子では、乱れ(ディスオーダー)や有限温度の影響で、この簡単な式のとおりにはなりません。

よくある誤解:「ワイヤを長くすれば、いくらでも安全になる」

誤り:「指数関数だから、ワイヤを少し長くするだけで、誤りがほぼ消える」。正しくは:この式が守るのは、「2つの端の状態が量子的にもれて混ざる」誤りだけです。ほかに、外から入り込む準粒子(残留放射線などが超伝導の電子対を壊して生じる準粒子)によるパリティの反転があり、これは、ワイヤの長さではなく、ギャップや材料・環境で決まります。企業のプレプリントも、トポロジカル・ギャップが大きいと熱による励起は抑えられるが、平衡から大きく外れた準粒子は防げない、と書いています(企業の主張)[参考資料27]。

パリティを、どうやって読むのか

パリティは、電子の数の偶奇で、1か所の電荷を測るだけでは分かりにくい量です(QuTech の研究は、極小の鎖の2つのパリティ状態が電荷的に中性で、2つのモードをつなげない測定では区別できないことを確かめています[参考資料36])。そこで、半導体の量子ドットをワイヤにつなぎ、量子ドットの量子キャパシタンス(電子の出入りに対する、ごくわずかな電気容量の応答)が、パリティで少し変わることを使って、読み出します。Microsoft の2025年の Nature の論文は、InAs と Al の素子で、この方法による1回の測定でのパリティの干渉計測を報告しました。量子ドットの容量の変化は最大で約 1 fF、測定の信号対雑音比は 3.6 µs で1、2つの状態の滞在時間は、約2テスラの磁場で1ミリ秒を超えたと書いています事実[参考資料18]。同じ論文は、この測定結果を、トポロジカルな起源とそうでない起源の両方で解釈できると、自ら述べています[参考資料18]。

つまずきやすいところ:「テトロン」とは

Microsoft の素子の基本単位は、「テトロン」とよばれる H の字の形のもので、2本の平行なナノワイヤを、普通の超伝導体の「背骨」でつないだ島です。2本のワイヤが、それぞれ両端にマヨラナ準粒子(計4つ)をもつはずで、全体のパリティを固定すれば、残りの自由度が量子ビットになります。パウリ演算子のうち X と Z を、別々の読み出し回路で測る設計です(企業の主張・設計)事実(設計が記載されていること)[参考資料25・27]。

4. 材料 ― ナノワイヤと超伝導体、そして界面

この方式に必要な材料の条件

マヨラナ準粒子を作る提案(Lutchyn ら、Oreg ら)に必要な要素を、材料の言葉に直すと、次のとおりです事実[参考資料5・6・15]。

  • 半導体:電子のスピンの向きと動く向きを強く結びつける性質(スピン軌道相互作用)が強く、磁場への反応(g因子)が大きく、乱れ(欠陥・不純物)が少ないこと。InAs や InSb が使われます
  • 超伝導体:超伝導のギャップ(電子対をこわすのに必要なエネルギー)が大きく、磁場に耐えること。Al、NbTiN、Pb などが使われます
  • 界面:半導体と超伝導体の境目が、原子のレベルで均一で、半導体の中に「ハードギャップ」(ギャップの内側に余計な状態がない)が誘起されること
  • 磁場:数百ミリテスラ〜約2テスラの磁場をかけること(素子により異なる)

なぜ「ハードギャップ」が必要なのか

Chang らは、半導体に超伝導体を接触させたとき、従来の素子は、ギャップの内側にも電流が流れる状態の連続(ソフトギャップ)があり、これは、トポロジカル保護を無効にしてしまう、と書いています事実[参考資料8]。ギャップの内側に余計な状態がたくさんあれば、「ギャップがあるから守られる」という前提が崩れるからです。Chang らは、InAs と Al のエピタキシャル(結晶の向きがそろった)ナノワイヤで、ハードギャップを得たと報告しました[参考資料8]。Krogstrup らは、InAs/Al を分子線エピタキシーで成長させて、原子スケールで均一な界面が、誘起されるギャップの質を決める鍵だと述べ、この方法は「ソフトギャップの問題を解決するように見える」と書いています[参考資料9]。ソフトギャップの問題そのものは、Takei らの論文が論じています[参考資料10]。

材料の組み合わせと、これまでの報告

組み合わせ構造のポイント主な報告(出典)読み取り
InSb ナノワイヤ + NbTiN 電極ナノワイヤに普通の金属電極と超伝導電極を接触Mourik ら(2012):百 mT 程度の磁場で、ゼロ電圧に固定された状態を観測。マヨラナ仮説を支持すると記述[参考資料7]事実初期の報告。ギャップの質(ソフトギャップ)が課題として残った(解説)
InAs/Al コア・シェル ナノワイヤ分子線エピタキシーで、InAs のワイヤの上に Al を単結晶的に成長Krogstrup ら(2015):原子的に整合した界面[参考資料9]。Chang ら(2015):ハードギャップ[参考資料8]事実界面の均一さが、ギャップの質を決める
InAs 二次元電子ガス + Al(平面)平面の積層から、ゲート電極で細線を定義するShabani ら(2016):二次元のエピタキシャル超伝導体-半導体ヘテロ構造が、トポロジカル超伝導のネットワークの基盤になるという提案(題名)[参考資料11]。Microsoft(2023):高移動度の二次元電子ガスに、ゲートで細線を定義[参考資料17]事実平面のため、配線パターンで素子を複雑につなぎやすい設計意図(解説)
InAs(+InAsSb)井戸 + Pb、GaSb 基板約10 nm の Pb を、InAs と InAs0.8Sb0.2 の井戸の上に成長した、GaSb 基板上の積層Microsoft のプレプリント(2026年6月、査読前)[参考資料27]。数値は図5と第5章企業の主張(査読前)未確定/将来
InSb/Al ナノワイヤ + 量子ドット量子ドットを超伝導体でつなぎ、人工的なKitaev鎖を作るDvir ら(2023)、Bordin ら(2025)[参考資料33・35]事実別の道(第7章)

表の整理は本稿の計算(整理)。優劣や、どの組み合わせが「正しい」かを論じるものではありません。

半導体と超伝導材料の組み合わせ・界面を見分ける模型です。異なる材料系の説明で、どちらが高性能かを測った比較図ではありません。
図5 概念画像(ImageGen生成)。半導体と超伝導材料の組み合わせ・界面を見分ける模型です。異なる材料系の説明で、どちらが高性能かを測った比較図ではありません。 実際の製品・施設・寸法・測定結果ではありません。拡大模型と実物スケールの場面は区別してください。
元のSVG・数値・出典を確認する
超伝導体と半導体の積層(概念図・縮尺は正しくない) マヨラナの素子では、この積層の上に、ゲート電極で細線をつくる (a) Al 系(従来) (b) Pb 系(2026年のプレプリント) Al(超伝導体) 半導体バリア バリア・バッファー 基板 InAs 井戸 Pb(約10 nm) 上部バリア 下部バリア GaSb 基板(格子整合) InAs 約6 nm InAs0.8Sb0.2 約2 nm (b) の主な数値(企業のプレプリントの記載・査読前) 親の超伝導ギャップ:約1.3 meV(Pb、約10 nm) 誘起ギャップ:約570 µeV(ナノワイヤ、磁場ゼロ) ラシュバ・スピン軌道結合:12〜16 meV nm 移動度:35万 cm²/Vs 超(同じ井戸の埋め込み素子) (a) は、従来の Al 系の積層を表す一般的な概念図。 層の厚さ・組成は、示していない 厚さは、(b) の数値のみ記載値で、図の高さは縮尺どおりではない(概念図)

元SVGの説明:概念図(ベクター作図)。超伝導体と半導体の積層の例。(b) の層構成と数値は、Microsoft のプレプリント(2026年6月、査読前)の記載[参考資料27]で、企業の主張です。(a) は、従来の Al 系の積層を表す一般的な概念図で、各層の厚さ・組成は示していません。縮尺は正しくありません。

素材技術者の視点①:「物性」が界面で決まる素子

この方式では、半導体と超伝導体の界面が、そのまま素子の性能(誘起ギャップの質)を決めます。Krogstrup らは、原子スケールの均一性が決定的だと述べています[参考資料9]。Frolov らの展望も、超伝導体-半導体の界面の質が、今後の発展にとってとても重要な要素で、その材料科学がどこまで進めるかを論じています事実[参考資料15]。たとえば、成長直後の InAs の表面は、酸化や欠陥があると性質が変わります。Pauka らの論文は、InAs 系のトポロジカルなヘテロ構造の表面を「修復する」方法を扱っています(題名の記載)[参考資料12]。素材技術者にとっては、成膜の順序、真空を破るか否か(その場で超伝導体を載せるか)、表面処理が、そのまま量子素子の歩留まりになる分野です(本記事による解説)。

素材技術者の視点②:超伝導体を Al から Pb に変えると、何が起こるか

Microsoft のプレプリントによると、超伝導体を Al から Pb に変え、さらに半導体を GaSb 基板の上の InAs/InAsSb 井戸に変えました。Pb の親のギャップは約 1.3 meV と大きく、そのため誘起ギャップも大きくなります。GaSb 基板は、半導体の積層全体を格子整合させて成長でき(欠陥を減らせる)、InP 基板より大きなスピン軌道結合を得やすい、と説明されています(企業の主張)[参考資料27]。一方で、上部バリアの厚さと組成は、大きな誘起ギャップを保ちつつ、g因子とスピン軌道結合を損なわないよう調整した、とも書かれています[参考資料27]。つまり、材料の選択は、1つの性能を上げると別の性能が下がるトレードオフの調整です(本記事による解説)。これらの数値は査読前の企業の主張で、再現は確認されていません。

素材技術者の視点③:材料の品質を、電子輸送の数字で語る

同じプレプリントは、材料の質を、移動度(埋め込み井戸で35万 cm2/Vs 超)、量子寿命(0.37 ± 0.14 ps)、局在長(最低次のサブバンドで 1 µm 超)といった数字で示し、その局在長が、きれいな系で期待される最小のコヒーレンス長(約 100 nm)を十分に上回ると述べています(企業の主張)[参考資料27]。これは、「乱れが十分に小さい」ことを、電気的に定量化して主張する典型的な書き方です。素材の側から見れば、別の研究室が同じ値を再現できるか、データが公開されて検証できるかが、信頼の目安になります(解説。第6章)。

5. 数字で見る ― ギャップ、温度、パリティ寿命(本稿の計算)

ギャップは、温度に比べて十分大きいか

トポロジカル超伝導の「トポロジカル・ギャップ」(情報を守るエネルギーの壁)は、熱の揺れより十分大きい必要があります。熱でこの壁を越える励起の起こりやすさは、おおよそ exp(−Δ/kBT) に比例します(本記事による解説。熱平衡の一般的な見積もり)。本シリーズ「シリコンスピン量子ビット」編と同じように、エネルギーを温度に換算してみましょう(1 µeV は約 11.6 mK に相当)。

ギャップ Δ温度換算 Δ/kB20 mK での Δ/kBTexp(−Δ/kBT)ギャップの出典
20 µeV約 0.23 K約 11.6約 9.1 × 10−6Al 系素子で報告された最大の範囲 20〜60 µeV の下端[参考資料17]
30 µeV約 0.35 K約 17.4約 2.8 × 10−8Al 系素子の上位20%の値(プレプリントの記述)[参考資料27]
60 µeV約 0.70 K約 34.8約 7.6 × 10−16Al 系素子で報告された範囲の上端[参考資料17]
70 µeV約 0.81 K約 40.6約 2.3 × 10−18Pb 系素子の上位20%の値(プレプリントの記述、査読前)[参考資料27]

計算:Δ/kB(kB = 86.17 µeV/K)と exp(−Δ/kBT)(本稿の計算)。温度 20 mK は、冷凍機の運転温度の例示で、各素子の実際の温度ではありません。ギャップの値は、トポロジカル・ギャップ・プロトコル(TGP)が報告する値で、この方法の妥当性には争いがあります(第6章)。

つまずきやすいところ:熱の計算だけでは、なぜ足りないのか

上の表は、「熱で自然に励起される準粒子」の見積もりです。ところが実際には、冷凍機の温度から見積もる熱励起とは別に、残留放射線などで熱平衡から外れた準粒子が生じることがあります。企業のプレプリントは、残留放射線が遮蔽を通り抜けて電子対を壊す例をあげ、ギャップが大きいと熱による励起は抑えられるが、平衡から大きく外れた準粒子は防げないと書いています(企業の主張)[参考資料27]。そのため、実際にパリティが反転する時間(パリティ寿命)を、直接測って示す必要があります(次の節)。

パリティ寿命 ― 長いほどよいが、何を測った数字か

パリティ寿命とは、パリティが反転するまでの典型的な時間です。パリティを量子ビットに使うなら、この寿命が、操作時間(µs 程度)よりずっと長い必要があります。次の図は、報告された値を、対数目盛で並べたものです。

報告されたパリティ関連の時間(対数目盛・測ったものは同じではない) 右ほど長い。矢印つきは「この値を超えた」という下限。測定の対象・素子・方式が違うので、優劣の図ではない 1 µs:量子ビットの操作時間の目安 X ループの測定 Al 系テトロン、ワイヤ内のパリティ反転 14.5 µs 2025年 Nature の素子 2つの状態の滞在時間(約2 T) >1 ms QuTech 2026(極小のKitaev鎖) パリティの切り替わりの寿命 >1 ms Z ループの測定(Al 系) Al 系テトロン、外部の準粒子の混入 12.4 ms Z の測定(Pb 系) 2026年プレプリント(査読前) 約20 s 0.1 µs 1 µs 100 µs 10 ms 1 s 100 s 出典:X・Z ループは arXiv:2507.08795、Nature 2025 は論文の要旨、QuTech は Nature 2026 の要旨、Pb 系は arXiv:2606.03884 の要旨
図6 概念図(ベクター作図)。報告された時間を、対数目盛で並べた図[参考資料18・25・27・36]。「X ループ」は量子ビットのもう1つの軸(X)に当たる測定、「Z ループ」はパリティそのものの測定で、測っているものが違います。Pb 系の約20秒は、Z の測定だけの値です。企業のプレプリントの値(査読前)を含み、X ループと Z ループの値は Al 系の同じ設計の素子の結果です。1 µs の破線は、プレプリントが述べる量子ビットの操作時間の目安(µs 級)です[参考資料27]。

数字の意味を整理しましょう。Z のパリティ寿命は、パリティそのものがどれだけ保たれるかを表し、Al 系のテトロンで 12.4 ms、Pb 系のプレプリントで約20 s と報告されています(企業の主張)事実[参考資料25・27]。20 s ÷ 12.4 ms は約 1,600 倍、20 s ÷ 1 µs(操作時間の目安)は約 2 × 107 倍です本稿の計算。

ところが、量子ビットとして働くには、X の測定(ワイヤ内部のパリティ)も必要です。Al 系の同じテトロンの X ループでは、パリティの反転が 14.5 µs と短く、見積もられる測定の割り当て誤りは、X で 16%、Z で 0.5% と報告されています事実[参考資料25]。X と Z の寿命の比は 12.4 ms ÷ 14.5 µs = 約 855 です本稿の計算。2026年のプレプリントが示すのは Z の測定で、X の測定は、そのプレプリントの本文では確認できませんでした(本稿の読み取り)。つまり、「パリティ寿命が1000倍になった」ことは、「量子ビットとして使える時間が1000倍になった」ことと同じではありません。

よくある誤解:「パリティ寿命20秒=量子ビットのコヒーレンス20秒」

誤り:「20秒も保てるから、量子ビットとして20秒使える」。正しくは:パリティ(Z)が長く保たれることは、量子ビットの情報が壊れる原因の一部が小さくなった、ということです。量子ビットは、Z と X の両方の情報を使うので、X の寿命や、実際に量子ビットとして操作した結果(忠実度)を確認して初めて、量子ビットの性能が言えます。企業は、操作・測定の誤りへの影響を今後検討すると述べています(プレプリントの結びの記述)[参考資料27]。

6. 主張と論争の経緯 ― 確認できた事実、争いのある点、未確認の点

この章では、トポロジカル量子計算の実験をめぐる経緯を、公式資料・論文・批判的な論文・回答を並べて整理します。どちらかの結論を断定せず、「確認できた事実」「解釈に争いのある点」「未確認の点」を分けます。確認日は 2026年10月16日です。

経緯の年表

経緯の年表(概念図・主な出来事のみ) 色は出来事の種類。ここに載せていない論文・出来事も多数ある 2001年 2003年 2010年 2012年 2015年 2018→2021年 2023年 2023年 2025年2月 2025年2〜3月 2025年7月 2026年2月 2026年6月 2026年10月 Kitaev:1次元の鎖の端に、対にならないマヨラナ(理論) Kitaev:エニオンによる、誤りに強い量子計算の提案(理論) Lutchyn ら、Oreg ら:半導体ナノワイヤと超伝導体の組み合わせを提案 Mourik ら:InSb ナノワイヤで、ゼロ電圧の状態を報告 Krogstrup ら、Chang ら:原子的に均一な界面と、ハードギャップ 量子化コンダクタンスの報告(Nature、2018)を、著者らが撤回(2021) Microsoft:素子が TGP を通過したと報告(PRB) Dvir ら:量子ドットで、極小の Kitaev 鎖(別の道) Microsoft:Nature 論文と Majorana 1 を発表。DARPA が US2QC に選定 Legg:2023年の PRB 論文と2025年の Nature 論文への批判(arXiv) Microsoft:テトロンの X・Z のパリティ測定(プレプリント) QuTech ら:極小 Kitaev 鎖で、パリティの1回読み出し(Nature) Microsoft:Majorana 2 と InAs–Pb のプレプリント。Nature に批判と回答(6月24日) X・Z の論文が PRA に受理(10月1日)。DARPA の QBI 発表(10月7日) 理論 実験・材料の報告 撤回・批判 企業の発表・計画 公的機関の発表
図7 概念図(ベクター作図)。理論の提案から、2026年10月までの主な出来事の年表です[参考資料1・2・5〜9・13・14・17・18・20〜23・25〜27・31・32・34・36]。色は出来事の種類で、「撤回・批判」は、批判する側の主張や、撤回通知が存在することを示し、その主張の正しさを判定するものではありません。全体を網羅したものではありません。

① 確認できた事実

  • 理論の提案:Kitaev(2001・2003)、Lutchyn ら・Oreg ら(2010)の提案は、査読論文として存在します事実[参考資料1・2・5・6]。
  • 2012年の観測:Mourik らは、InSb ナノワイヤで、百 mT 程度の磁場で、ゼロ電圧に固定された状態を観測し、マヨラナ仮説を支持すると記しました事実[参考資料7]。
  • 2018年の論文の撤回:Zhang らは2018年に、2e2/h の量子化されたコンダクタンスのプラトーを報告しました[参考資料13]。2021年3月の撤回通知(著者による)は、他の研究者から、公開された生データと図の食い違いが指摘され、著者らが再解析した結果、図の一部で電荷ジャンプの補正が論文に明記されていなかったこと、図の軸のラベルの誤りがあったこと、較正をやり直すとプラトーの値が(2e2/h を上回る向きに)8%ずれ、2シグマの誤差の範囲外の点があることを確認し、「量子化されたマヨラナ・コンダクタンスの観測を主張できない」と記しています事実[参考資料14]。
  • 2023年の論文(Microsoft):素子が「トポロジカル・ギャップ・プロトコル(TGP)」を通過したと報告しました。論文は、結果が「トポロジカル超伝導とマヨラナ零モードの観測と矛盾しない」と書き、報告された最大のトポロジカル・ギャップは 20〜60 µeV で、この結果は「マヨラナ零モードの融合と編み込みの実験の前提」だと述べています事実[参考資料17]。つまり、融合と編み込みは、この論文の時点では今後の実験でした。
  • 2025年2月の論文(Microsoft、Nature):InAs と Al の素子で、1回の測定でのパリティの干渉計測を報告しました。論文は、測定を、トポロジカルな起源とそうでない起源の両方で解釈できると述べ、素子は「将来の融合則の検証と両立する」と書いています事実[参考資料18]。
  • Nature 編集部の注記:査読ファイルの冒頭に、編集部は、2回目の査読のあと、技術的な正しさを確かめるため、査読者2名に追加の意見を求めて、掲載に進んだと書いています。そのうえで、この論文の結果は、報告された素子にマヨラナ零モードが存在する証拠にはならないこと、論文は、将来のマヨラナ零モードによる融合実験を可能にしうる素子構造を紹介するために掲載されたことを、特に注記しています事実[参考資料19]。
  • 企業の発表:Microsoft は2025年2月19日の発表で、Majorana 1 を「トポロジカル・コア」という新しい構造による「世界初の量子チップ」とよび、チップに8つのトポロジカル量子ビットを置いたと述べ、Nature 論文を、マヨラナ粒子を作り、マイクロ波で測定したことの「査読による確認」としました(企業の主張)[参考資料28]。同じ論文の編集部注記(上)とは、記述の強さが異なります。
  • DARPA の評価:DARPA は2025年2月6日に、Microsoft と PsiQuantum を、US2QC プログラムの最終段階(検証と共同設計)に選んだと発表しました。DARPA の評価チームが、2023年初めから両社と作業し、50人以上の専門家が技術的な方法・試作計画・長期計画を調べたとあります。Microsoft の方式は「小型の超伝導トポロジカル量子ビットの構造」と書かれています[参考資料31]。2026年10月7日の発表では、Microsoft と PsiQuantum は、すでに最終段階(Stage C)にいる、と書かれています[参考資料32]。これは、設計が実際に作れて、設計どおりに動くかを検証する段階であり、トポロジカル量子ビットの実在を認定したものではありません(本記事による解説。DARPA は、QBI は企業どうしの競争ではなく、勝者と敗者を決めるものではないと述べています[参考資料32])。
  • 2025年7月のプレプリント(X・Z のパリティ):2本のナノワイヤと4つのマヨラナ零モード(トポロジカルな相に調整したとき)をもつテトロンで、X と Z のパリティ測定の時間尺度は、τX = 14.5 µs と τZ = 12.4 ms、測定の割り当て誤りは、X で 16%、Z で 0.5% と見積もられました。この論文は、2026年10月1日に Physical Review A に受理されています(出版版は未確認)事実[参考資料25・26]。
  • 2026年6月のプレプリント(Microsoft):超伝導体を Pb に変えた InAs–Pb テトロンで、Z のパリティの切り替わり時間が約20秒と報告されました(査読前)。論文は、Pb 系で、TGP が報告する上位20%のギャップが約70 µeV(Al 系では約30 µeV)としています(企業の主張)事実[参考資料27]。Microsoft はこれを「Majorana 2」として発表し、2029年までに実用的な量子コンピュータを目指すと述べました(企業の目標)未確定/将来[参考資料29]。

② 解釈に争いのある点(両方の主張を並べる)

争点批判する側の主張(出典)Microsoft の説明(出典)本稿の整理
TGP(トポロジカル・ギャップ・プロトコル)は信頼できる判定法かLegg(2025年2月、arXiv):TGP は「ギャップ」「トポロジカル」の一貫した定義を欠き、磁場の範囲、電圧の範囲、データの解像度、カッター電圧の組の数に結果が左右される。2023年の論文の主張は、素子の本来の性質ではなく、説明のない測定の選択と一貫しない定義に基づく、と述べる[参考資料20]2023年の論文は、TGP を、局所と非局所の3端子の伝導度測定の連続からなる厳しい検査とし、通過は、大規模な乱れのシミュレーションから、トポロジカル相を検出した可能性が高いことを示す、と述べる[参考資料16・17]。この批判への正式な回答は、本稿の調査では確認できなかったTGP の妥当性は、争いが続いている未確定/将来
2025年のパリティ測定の素子には、超伝導ギャップがあるのかLegg(Nature Matters Arising、2026年6月24日):元の論文では示されなかった輸送のデータを解析すると、パリティ読み出しが行われた領域は、かなり乱れており、ギャップがないように見える。ギャップがなければ、元の論文の解釈の前提に反し、観測された信号は、トリビアルな(トポロジカルでない)機構によるのかもしれない、と述べる[参考資料22]。Legg は2025年3月にも、この Nature 論文への批判を arXiv で公開している[参考資料21]Microsoft Quantum(同日、回答):パリティ読み出しは、量子キャパシタンスの h/2e 周期のランダム電信信号で、解析はギャップの存在を仮定していない。ギャップがない系では、安定な h/2e 周期の二峰性の信号は現れず、この測定は、トポロジカルな起源を強く示し、トポロジカルでない説明を強く制約する、と述べる。訂正した TGP の地図を公開した[参考資料23]同じ測定データの解釈が分かれている。独立な第三者の判定は未確認
「トポロジカル量子ビットができた」といえるかNature 編集部の注記:論文の結果は、マヨラナ零モードが存在する証拠にならない[参考資料19]。報道(APS Physics 誌)は、論文自体はトポロジカル量子ビットの実現を主張していないこと、発表の主張が論文を超えるとする研究者の見方を伝えている[参考資料39]Microsoft の発表:Majorana 1 を世界初のトポロジカル・コアのチップとし、8つの量子ビットを載せたとする[参考資料28]。Matters Arising への回答でも、測定はトポロジカルな起源を強く示すと述べる[参考資料23]企業の主張と編集部の注記は、一致していない。量子ビットとしての動作を示す結果は、確認できなかった
2026年の Pb 系の結果報道によれば、批判する研究者は、このプレプリントは根本的な問題を解決しないとし、Z の測定だけで X の測定がないことを指摘(二次情報)[参考資料40・41]プレプリントは、Pb 系で、パリティ寿命が Al 系より3桁以上長くなり、TGP のギャップも大きくなったと報告(企業の主張、査読前)[参考資料27]。報道は、独立した研究者が、新しい測定法を評価した例も伝えている(二次情報)[参考資料40]査読前で、第三者の確認は未

表の整理は本稿の計算(整理)。出典のうち、参考資料39〜41 は報道(一次情報への案内として使用)で、一次資料は参考資料17〜23・27 です。争点の「どちらが正しいか」は、本稿は判定しません。

つまずきやすいところ:「トリビアルな状態」とは何か

「トリビアル」は「ありふれた」という意味で、ここではトポロジカルではない、ふつうの状態を指します。たとえば、ワイヤの端や量子ドットに偶然できた、ゼロ付近のエネルギーの状態(アンドレーエフ束縛状態)は、ゼロバイアスのピークなど、マヨラナ準粒子と似た信号を出すことがあります。Frolov らの展望は、これまでの実験で積み上がった証拠と、残る不確かさ、さらに必要な証拠を論じています事実[参考資料15]。Liu らの論文は、量子ドット-ナノワイヤ-超伝導体の素子で、トリビアルなゼロバイアスのピークとトポロジカルなものを比べています(題名)[参考資料45]。だから、1つの信号だけで「マヨラナだ」とは言えず、複数の独立な検査を重ねることが求められます(図8)。

よくある誤解:「ゼロバイアスのピークが見えた=マヨラナの証拠」

誤り:「ゼロ電圧にピークがあるのだから、マヨラナ準粒子だ」。正しくは:ゼロバイアスのピークは、マヨラナ準粒子で現れると予想される信号の1つですが、ありふれた状態でも似た信号が出ることが知られています[参考資料15・45]。2012年のDas らの報告(Al-InAs ナノワイヤのゼロバイアスのピークとその分裂)[参考資料46]のあと、研究は、ピークだけでなく、ギャップの閉じて開き直る様子、両端での同時の観測、パリティの測定、など、複数の検査を重ねる方向に進みました(本記事による解説)。

トポロジカル量子ビットの主張を、段階に分けてみる(本稿の整理) 下から上へ。上の段階ほど、量子コンピュータに近い。色は、本稿が出典から分類した状況(確認日 2026年10月16日) 9 誤り訂正を行う論理量子ビット トポロジカル量子ビットでは、確認できなかった 8 編み込み・融合(フュージョン)の実演 著者らの論文も「今後の実験」と記載 7 量子ビットとしての操作と性能評価 コヒーレントな操作、ベンチマーク。確認できなかった 6 X と Z の両方のパリティ測定 Al 系で報告。X は 14.5 µs(企業の値)。PRA に受理 5 パリティの1回測定(干渉計) Nature 2025、QuTech 2026。起源の解釈に争い 4 トポロジカル・ギャップ・プロトコルの通過 Microsoft 2023。方法の妥当性に争い(Legg) 3 量子化されたコンダクタンス(2e²/h) 2018年の報告は、2021年に撤回 2 ゼロバイアスの状態(ピーク)の観測 多数の報告。ありふれた状態でも似た信号が出る 1 半導体と超伝導体のハードギャップ Chang 2015、Krogstrup 2015(InAs と Al) 測定結果が確認された 報告あり・解釈に争い 報告あり・審査中/受理 撤回された 未確認 「確認された」は、測定結果の報告が査読論文にあること。解釈の正しさの判定ではない 段階の並べ方と色分けは、本稿の整理(解説)で、研究者・企業の評価ではない
図8 概念図(ベクター作図)。「トポロジカル量子ビットができた」という主張を、必要な検査の段階に分け、各段階の状況を、出典から本稿が色で分類したものです[参考資料8・9・14・17〜19・25・36]。段階の並べ方と色分けは、本稿の整理(解説)であり、特定の研究者・企業の評価を表すものではありません。確認日は 2026年10月16日です。

③ 未確認の点

  • 編み込み・融合の実演:著者ら自身の論文が、これを「今後の実験」と書いています[参考資料17・18]。本稿の調査では、トポロジカル量子ビットで編み込み・融合を実演した査読論文は確認できませんでした。
  • 量子ビットとしての性能:コヒーレントな操作や、ベンチマークによる忠実度の測定は、確認できませんでした。Microsoft の計画(ロードマップ)は、これを将来の段階に置いています(企業の計画。未確定/将来)[参考資料24]。
  • 第三者による再現:Microsoft 以外の研究室が、Microsoft の素子の結果を独立に再現した論文は、本稿の調査では確認できませんでした。
  • DARPA の独立評価の結果:公開されていることを確認できませんでした。Microsoft は、2026年9月に、トポロジカルな系を DARPA に引き渡して独立の試験を受けると述べています(企業の主張)[参考資料30]。
素材技術者の視点④:データの公開が、検証を可能にした

2018年の撤回は、他の研究者が、公開された生データと図を比べて食い違いを見つけたことが発端でした[参考資料14]。2026年の Matters Arising で Legg が分析したのは、元の論文に載っていなかった輸送のデータで、Microsoft が公開したデータのリポジトリ(Zenodo)にあったものです[参考資料22]。Microsoft の回答も、訂正した TGP の地図を同じ形で公開しています[参考資料23]。素材・素子の分野では、測定データと解析コードの公開が、主張の信頼性を、第三者が確かめられるようにしています(本記事による解説)。逆に言えば、どこまでのデータが公開されているかが、報道を読むときの目安になります。

7. 別の道 ― 量子ドットでつくる鎖と、量子コンピュータ上での再現

極低温の実験用の素子(チップキャリア)を、試験の前に確認している作業台のイメージです。特定の装置・企業・実験を示すものではありません。
図9 概念画像(ImageGen生成)。極低温の実験用の素子(チップキャリア)を、試験の前に確認している作業台のイメージです。特定の装置・企業・実験を示すものではありません。 実際の製品・施設・寸法・測定結果ではありません。拡大模型と実物スケールの場面は区別してください。

トポロジカル量子計算の道は、Microsoft の方式だけではありません。ここでは、別の道を3つ見ます。

道何をするか報告(出典)保護と制約
量子ドットでつくる Kitaev 鎖半導体の量子ドットを、超伝導体でつないだ鎖にして、Kitaev のモデルを人工的に作るDvir ら(2023):2つの量子ドットで極小の鎖。「poor man's Majorana」の対が現れると予測される調整点で、輸送の特性が、理論の予測(対の相関、電荷ゼロ、局所的な摂動への安定性)を満たすと報告[参考資料33]。Bordin ら(2025):3つに増やすと、ゼロエネルギーの状態が安定になる。ただし超伝導の位相の制御はない[参考資料35]。ten Haaf ら(2024):二次元電子ガスで2サイトの鎖[参考資料34]。van Loo ら(2026、Nature):極小の鎖で、パリティを量子キャパシタンスで1回測定し、寿命は1 msを超えた[参考資料36]事実各ドットを個別に調整できる(制御しやすい)。一方、論文は、極小の鎖は、長い鎖に比べて、限られた保護しか与えない、と明記している[参考資料36]
分数量子ホール状態強磁場・極低温の二次元電子系で、非可換エニオンの候補(ν=5/2 状態)を使うNayak らの総説(2008):自然界で見つかっていると考えられる、そのようなトポロジカルな状態は、分数量子ホール状態、特に ν=5/2 だけ、と記述[参考資料3]事実本稿では、現在の実験の状況は確認していない
量子コンピュータの上で、状態をつくる量子ビットとゲートで、非可換トポロジカル秩序の波動関数を準備し、エニオンを動かすGoogle(Andersen ら、2023):超伝導プロセッサで、Ising エニオンをつくって編み込み、融合則を検証し、統計性を実現したと報告。著者らは、トポロジカル保護には、今後の誤り訂正の導入が必要と記す[参考資料37]。Quantinuum(Iqbal ら、2024):27量子ビットのトラップイオンで D4 トポロジカル秩序をつくり、サイトあたり忠実度 98.4% 超、エニオンの干渉で、非可換な編み込みを検出[参考資料38]事実物質の性質で守られた量子ビットではなく、ゲートで準備した状態(本記事による解説)。誤りの保護は、物質ではなく、回路の側の課題

表の整理は本稿の計算(整理)。優劣を論じるものではありません。

保護と制御のトレードオフ(本記事による解説)

量子ドットでつくる鎖は、各ドットを個別に調整できるので、制御しやすい反面、短い鎖では、保護が限られます。長い連続のナノワイヤは、保護が大きいと期待される反面、乱れのない長い素子を作ることと、信号の解釈が難しくなります。どちらにも利点と課題があり、本稿は、どちらが優れているかを判断しません。

8. 確認できなかったことと、まとめ

確認できなかったこと

  • Legg の2025年2月の批判(2023年の PRB 論文について)への、Microsoft の正式な回答:本稿の調査では確認できませんでした。
  • 2026年6月24日の Matters Arising の全文:Nature のページで確認できたのは、批判(Legg)の要旨と、回答(Microsoft Quantum)の冒頭部分です。全文は購読が必要なため、確認していません。
  • 2025年3月の米国物理学会の講演で示されたとされる追加のデータ:報道(APS Physics 誌)は、講演で示される予定と書いていますが、その内容は、本稿では確認できませんでした[参考資料39]。
  • 2026年6月のプレプリントの査読の状況と、Majorana 2 の量子ビットの総数:確認できませんでした(Microsoft のブログは、4量子ビットの配列の図を示していますが、チップの総数の記載は確認できませんでした)[参考資料29]。
  • Microsoft 以外の研究室による、素子の独立な再現:確認できませんでした。
  • DARPA の評価の結果:公開された結果を確認できませんでした。
  • 分数量子ホール状態(ν=5/2)の現在の実験の状況:2008年の総説の記述にとどめ、現状は確認していません。
  • トポロジカル量子計算に固有の標準・規格:確認できませんでした(第9章)。
この記事のまとめ
  • 構想:情報を、結び目のように「局所的な乱れでは変わらない性質」にしまう。ナノワイヤの両端のマヨラナ準粒子が、2つで1つのパリティ(電子の数の偶奇)を担う、という設計です。事実(理論の提案)
  • 材料:半導体(InAs、InSb)と超伝導体(Al、Pb など)の界面が、原子レベルで均一で、ハードギャップが得られること、乱れが少ないことが鍵です。Pb 系の数値(親のギャップ約1.3 meV など)は、企業のプレプリントの主張です事実/未確定/将来
  • 数字:パリティ(Z)の寿命は、Al 系で 12.4 ms、Pb 系で約20 s と報告されましたが、X の測定は 14.5 µs と短く、パリティ寿命は、量子ビットの寿命と同じではありません。20 s ÷ 12.4 ms は約1,600倍事実/本稿の計算
  • 状況:「トポロジカル量子ビットができた」という企業の主張と、Nature 編集部の注記(その論文の結果は、マヨラナ零モードの存在の証拠にならない)、批判論文と回答が並んでいます。編み込み・融合の実演、量子ビットとしての性能評価は、確認できていません。独立の再現も、確認できていません事実/未確定/将来
  • 読み方:「測れた信号」と「トポロジカルだという解釈」を分け、企業の発表・査読論文・編集部の注記・批判を並べて、どの段階の話かを確認する。計画(2029年など)は、達成された事実ではありません

9. 評価・標準の読み方

トポロジカル量子計算の進み具合は、トポロジカル相を示す電気的な検査、パリティ測定の質、パリティの寿命、量子ビットとしての操作と性能、編み込みと融合の実演という段階的な「ものさし」で測ります(図8)。通常の量子ビットで使う「ゲートの忠実度」や「コヒーレンス時間」は、トポロジカル量子ビットでは、まだ測られていません。また、独立な第三者の評価と、論文の査読・批判・撤回が、実質的な「ものさし」の役割を果たしています。標準の側では、用語の標準は整いつつありますが、トポロジカル量子計算に固有の評価規格は、確認できませんでした(確認日 2026年10月16日)。

評価項目代表的なベンチマーク・評価手法(名称・出典)標準・指針(ISO/IEC・IEEE など)読み方の注意
トポロジカル相の判定トポロジカル・ギャップ・プロトコル(Pikulin ら、2021;Aghaee ら、2023)[16・17]事実確認できなかった方法の妥当性に争いがある(Legg、2025・2026)[20・22]未確定/将来
ゼロバイアスのピーク、量子化コンダクタンスMourik ら(2012)[7]。量子化コンダクタンス(Zhang ら、2018)は撤回[13・14]事実確認できなかったありふれた状態でも似た信号が出る。1つの信号で結論しない[15・45]
パリティ測定の質干渉計測の信号対雑音比、割り当て誤り(Nature 2025:約1%、テトロン:X で16%、Z で0.5%)[18・25]事実確認できなかった測定は「トポロジカルな起源とそうでない起源の両方で解釈できる」と論文自身が述べる[18]
パリティ寿命、準粒子の混入パリティの切り替わり時間 τ(X:14.5 µs、Z:12.4 ms;Pb 系:約20 s、査読前)[25・27]事実確認できなかったZ の寿命は、量子ビットの寿命と同じではない。X の寿命と、操作後の忠実度を要する(第5章)
量子ビットとしての性能確認できなかった。Microsoft は、測定に基づく量子ビットの評価手順を、将来の段階として計画[24]未確定/将来確認できなかった通常の量子ビットのランダム化ベンチマーキングなどとは、手順が異なる(企業のロードマップの記述)
設計の第三者検証DARPA の US2QC/QBI:Microsoft は最終段階(Stage C)[31・32]事実標準ではなく、政府の評価プログラム設計が作れて設計どおり動くかの検証であり、トポロジカル量子ビットの実在の認定ではない(本記事による解説)
用語の統一—(評価ではなく用語の標準)ISO/IEC 4879:2024 "Information technology — Quantum computing — Vocabulary"(2024年5月発行)[42]事実。IEEE P7130(草案、Active PAR)[44]未確定/将来。ISO/IEC JTC 3 は、半導体などを担当範囲から除外[43]規格の本文は未確認。定義の中身は書いていない
論文の信頼性撤回通知[14]、Nature の Matters Arising(批判と回答)[22・23]、測定データと解析コードの公開(Zenodo)事実—データが公開されているほど、第三者が検証できる(第6章)

表の整理は本稿の計算(整理)。番号は参考資料の番号。ISO・IEEE の番号・題名・状態は公式ページで確認(確認日 2026年10月16日)。規格の本文は有料のため、題名・適用範囲にとどめています。

読み方の注意(素材技術者向け)

  • 「何量子ビット」は、何の数なのか:「8量子ビットを載せた」という主張は、設計上の数か、量子ビットとして動作を確認した数かを区別してください。この記事で扱った数は、いずれも物理的な素子の数・設計上の数で、論理量子ビットではありません
  • 測定の事実と、解釈を分ける:「パリティが測れた」ことと、「それがトポロジカルな起源である」ことは別の主張です。論文自身が、両方の解釈を述べている例があります
  • 企業の発表と、査読論文、編集部の注記は別:プレスリリースの強さが、論文より強いことがあります。査読ファイルや編集部の注記も確認してください。プレプリントは査読前です
  • 計画と達成は別:2029年までに実用的な量子コンピュータ、といった目標は、未確定/将来です。DARPA の段階の進行は、設計の検証の進行で、量子ビットの実在の認定ではありません

10. 用語集

トポロジー
連続的に変形しても変わらない性質。ドーナツの穴の数など。
トポロジカル保護
情報を全体の性質にしまい、局所的な乱れで変わらないようにする考え方。
準粒子
多数の電子の集団の励起が、1つの粒子のように振る舞うもの。
エニオン
二次元でだけ可能な準粒子。入れ替えの履歴が状態に残る。
非可換エニオン
入れ替える順序で、全体の量子状態が変わるエニオン。
編み込み(ブレイディング)
粒子を入れ替えて、軌跡をひもの編み込みのようにすること。
融合(フュージョン)
準粒子を対にして合わせ、その結果を観測すること。
マヨラナ準粒子(MZM)
自分自身が反粒子に当たる準粒子。マヨラナ零モードともいう。
パリティ
電子の数が偶数か奇数か。マヨラナ2つが作る状態の違い。
スピン軌道相互作用
電子のスピンの向きと動く向きの結びつき。InAs や InSb で強い。
近接効果
超伝導体に接した半導体に、超伝導の性質が染み出すこと。
誘起ギャップ
近接効果で半導体に生じる、超伝導のエネルギーの壁。
ハードギャップ/ソフトギャップ
ギャップの内側に余計な状態がない/ある状態。ハードが望ましい。
トポロジカル・ギャップ
トポロジカルな相で、情報を守るエネルギーの壁。
ゼロバイアスのピーク
電圧ゼロで伝導度が高くなる現象。マヨラナで期待されるが、他の原因でも出る。
アンドレーエフ束縛状態
超伝導体の近くに局在する状態。マヨラナに似た信号を出しうる。
トポロジカル・ギャップ・プロトコル(TGP)
伝導度の測定の連続で、トポロジカル相を判定する手順。妥当性に争いがある。
量子キャパシタンス
量子ドットの電子の出入りに対する、わずかな電気容量の応答。パリティの読み出しに使う。
準粒子の混入(毒入り)
外から準粒子が入り、パリティが反転すること。
テトロン
2本のナノワイヤを H の字につなぎ、4つのマヨラナをもつ量子ビットの基本単位。
Kitaev 鎖
スピンのない電子の鎖が、p波の超伝導で結ばれたモデル。量子ドットで人工的に作れる。
poor man's Majorana
極小の Kitaev 鎖に現れる、保護が限られるマヨラナ類似の状態。
エピタキシャル成長
下の結晶に結晶の向きをそろえて、層を成長させること。
Matters Arising
Nature が、掲載した論文への批判と、その回答を載せる形式。
QBI/US2QC
DARPA の、実用規模の量子コンピュータの実現可能性を検証するプログラム。

11. 参考資料(一次情報)

  1. Kitaev A. Yu. "Fault-tolerant quantum computation by anyons", Annals of Physics 303, 2–30 (2003), DOI 10.1016/S0003-4916(02)00018-0(arXiv:quant-ph/9707021) — doi.org/10.1016/S0003-4916(02)00018-0
  2. Kitaev A. "Unpaired Majorana fermions in quantum wires", Physics-Uspekhi 44, 131–136 (2001), DOI 10.1070/1063-7869/44/10S/S29 — doi.org/10.1070/1063-7869/44/10S/S29
  3. Nayak C., Simon S. H., Stern A., Freedman M., Das Sarma S. "Non-Abelian anyons and topological quantum computation", Rev. Mod. Phys. 80, 1083–1159 (2008), DOI 10.1103/RevModPhys.80.1083 — doi.org/10.1103/RevModPhys.80.1083
  4. Das Sarma S., Freedman M., Nayak C. "Majorana zero modes and topological quantum computation", npj Quantum Information 1, 15001 (2015), DOI 10.1038/npjqi.2015.1 — doi.org/10.1038/npjqi.2015.1
  5. Lutchyn R. M., Sau J. D., Das Sarma S. "Majorana Fermions and a Topological Phase Transition in Semiconductor-Superconductor Heterostructures", Phys. Rev. Lett. 105, 077001 (2010), DOI 10.1103/PhysRevLett.105.077001 — doi.org/10.1103/PhysRevLett.105.077001
  6. Oreg Y., Refael G., von Oppen F. "Helical Liquids and Majorana Bound States in Quantum Wires", Phys. Rev. Lett. 105, 177002 (2010), DOI 10.1103/PhysRevLett.105.177002 — doi.org/10.1103/PhysRevLett.105.177002
  7. Mourik V. ほか "Signatures of Majorana Fermions in Hybrid Superconductor-Semiconductor Nanowire Devices", Science 336, 1003–1007 (2012), DOI 10.1126/science.1222360 — doi.org/10.1126/science.1222360
  8. Chang W. ほか "Hard gap in epitaxial semiconductor–superconductor nanowires", Nature Nanotechnology 10, 232–236 (2015), DOI 10.1038/nnano.2014.306 — doi.org/10.1038/nnano.2014.306
  9. Krogstrup P. ほか "Epitaxy of semiconductor–superconductor nanowires", Nature Materials 14, 400–406 (2015), DOI 10.1038/nmat4176 — doi.org/10.1038/nmat4176
  10. Takei S., Fregoso B. M., Hui H.-Y., Lobos A. M., Das Sarma S. "Soft Superconducting Gap in Semiconductor Majorana Nanowires", Phys. Rev. Lett. 110, 186803 (2013), DOI 10.1103/PhysRevLett.110.186803 — doi.org/10.1103/PhysRevLett.110.186803
  11. Shabani J. ほか "Two-dimensional epitaxial superconductor-semiconductor heterostructures: A platform for topological superconducting networks", Phys. Rev. B 93, 155402 (2016), DOI 10.1103/PhysRevB.93.155402 — doi.org/10.1103/PhysRevB.93.155402
  12. Pauka S. J. ほか "Repairing the surface of InAs-based topological heterostructures", J. Appl. Phys. 128, 114301 (2020), DOI 10.1063/5.0014361 — doi.org/10.1063/5.0014361
  13. Zhang H. ほか "Quantized Majorana conductance", Nature 556, 74–79 (2018)(撤回済み), DOI 10.1038/nature26142 — doi.org/10.1038/nature26142
  14. Zhang H. ほか "Retraction Note: Quantized Majorana conductance", Nature 591, E30 (2021)(2021年3月8日), DOI 10.1038/s41586-021-03373-x — doi.org/10.1038/s41586-021-03373-x
  15. Frolov S. M., Manfra M. J., Sau J. D. "Topological superconductivity in hybrid devices", Nature Physics 16, 718–724 (2020), DOI 10.1038/s41567-020-0925-6 — doi.org/10.1038/s41567-020-0925-6
  16. Pikulin D. I. ほか "Protocol to identify a topological superconducting phase in a three-terminal device", arXiv:2103.12217(2021) — arxiv.org/abs/2103.12217
  17. Aghaee M. ほか(Microsoft Azure Quantum) "InAs-Al hybrid devices passing the topological gap protocol", Phys. Rev. B 107, 245423 (2023), DOI 10.1103/PhysRevB.107.245423 — doi.org/10.1103/PhysRevB.107.245423
  18. Microsoft Azure Quantum "Interferometric single-shot parity measurement in InAs–Al hybrid devices", Nature 638, 651–655 (2025)(2025年2月19日), DOI 10.1038/s41586-024-08445-2 — doi.org/10.1038/s41586-024-08445-2
  19. Nature 上記論文の査読ファイル(Peer Review File。冒頭に編集部の注記) — media.springernature.com/…/41586_2024_8445_MOESM2_ESM.pdf
  20. Legg H. F. "Comment on 'InAs-Al hybrid devices passing the topological gap protocol', Microsoft Quantum, Phys. Rev. B 107, 245423 (2023)", arXiv:2502.19560(2025年2月) — arxiv.org/abs/2502.19560
  21. Legg H. F. "Comment on 'Interferometric single-shot parity measurement in InAs-Al hybrid devices', Microsoft Quantum, Nature 638, 651-655 (2025)", arXiv:2503.08944(2025年3月) — arxiv.org/abs/2503.08944
  22. Legg H. F. "On the robustness of topological gap detection via transport", Nature 654, E22–E26 (2026)(Matters Arising、2026年6月24日), DOI 10.1038/s41586-026-10567-8 — doi.org/10.1038/s41586-026-10567-8
  23. Microsoft Quantum "Reply to: On the robustness of topological gap detection via transport", Nature 654, E27–E28 (2026)(Matters Arising への回答、2026年6月24日), DOI 10.1038/s41586-026-10568-7 — doi.org/10.1038/s41586-026-10568-7
  24. Aasen D. ほか(Microsoft Quantum) "Roadmap to fault tolerant quantum computation using topological qubit arrays", arXiv:2502.12252(2025年2月、企業の計画) — arxiv.org/abs/2502.12252
  25. Aghaee M. ほか(Microsoft Quantum) "Distinct Lifetimes for X and Z Loop Measurements in a Majorana Tetron Device", arXiv:2507.08795(2025年7月) — arxiv.org/abs/2507.08795
  26. Physical Review A "Distinct lifetimes for X and Z loop measurements in a Majorana tetron device"(受理論文、2026年10月1日受理), DOI 10.1103/cx4w-lxx1 — journals.aps.org/pra/accepted/10.1103/cx4w-lxx1
  27. Microsoft Quantum "20 Second Parity Lifetime in an InAs–Pb Tetron Device", arXiv:2606.03884(2026年6月、プレプリント、査読前) — arxiv.org/abs/2606.03884
  28. Microsoft "Microsoft's Majorana 1 chip carves new path for quantum computing"(2025年2月19日、企業の発表) — news.microsoft.com/source/features/innovation/microsofts-majorana-1-chip-carves-new-path-for-quantum-computing/
  29. Microsoft Quantum "Majorana 2" のブログ(2026年6月、企業の発表) — quantum.microsoft.com/en-us/insights/blogs/majorana-2-scalable-quantum-processor
  30. Microsoft Quantum メリーランドの量子研究センターのブログ(2026年9月22日、企業の発表) — quantum.microsoft.com/en-us/insights/blogs/microsoft-quantum-research-center-maryland
  31. DARPA "DARPA selects two discrete utility-scale quantum computing approaches for evaluation"(2025年2月6日) — darpa.mil/news/2025/quantum-computing-approaches
  32. DARPA "Four more teams enter Quantum Benchmarking Initiative's final stage"(2026年10月7日) — darpa.mil/news/2026/four-more-teams-enter-quantum-benchmarking-initiative-final-stage
  33. Dvir T. ほか "Realization of a minimal Kitaev chain in coupled quantum dots", Nature 614, 445–450 (2023), DOI 10.1038/s41586-022-05585-1 — doi.org/10.1038/s41586-022-05585-1
  34. ten Haaf S. L. D. ほか "A two-site Kitaev chain in a two-dimensional electron gas", Nature 630, 329–334 (2024), DOI 10.1038/s41586-024-07434-9 — doi.org/10.1038/s41586-024-07434-9
  35. Bordin A. ほか "Enhanced Majorana stability in a three-site Kitaev chain", Nature Nanotechnology 20, 726–731 (2025), DOI 10.1038/s41565-025-01894-4 — doi.org/10.1038/s41565-025-01894-4
  36. van Loo N. ほか "Single-shot parity readout of a minimal Kitaev chain", Nature 650, 334–339 (2026)(2026年2月11日), DOI 10.1038/s41586-025-09927-7 — doi.org/10.1038/s41586-025-09927-7
  37. Google Quantum AI and Collaborators(Andersen T. I. ほか) "Non-Abelian braiding of graph vertices in a superconducting processor", Nature 618, 264–269 (2023), DOI 10.1038/s41586-023-05954-4 — doi.org/10.1038/s41586-023-05954-4
  38. Iqbal M. ほか "Non-Abelian topological order and anyons on a trapped-ion processor", Nature 626, 505–511 (2024), DOI 10.1038/s41586-023-06934-4 — doi.org/10.1038/s41586-023-06934-4
  39. Ball P. "Experts Weigh in on Microsoft's Topological Qubit Claim", Physics 18, 57(2025年3月10日、APS による解説記事。報道) — physics.aps.org/articles/v18/57
  40. Science News "Microsoft's quantum chip got an upgrade. Critics are still skeptical"(2026年6月。報道) — sciencenews.org/article/microsoft-quantum-chip-upgrade-majorana
  41. Scientific American "Top quantum computer expert claims Microsoft's 'topological qubit' doesn't hold up"(2026年6月24日。報道) — scientificamerican.com/article/top-quantum-computer-expert-claims-microsofts-topological-qubit-doesnt-hold-up/
  42. ISO/IEC "ISO/IEC 4879:2024 Information technology — Quantum computing — Vocabulary"(ISO のページ) — committee.iso.org/standard/80432.html
  43. ISO/IEC "IEC/ISO JTC 3 Quantum technologies"(委員会のページ) — committee.iso.org/committee/10138914.html
  44. IEEE SA "IEEE Draft Standard for Quantum Technologies Definitions"(P7130、Active PAR) — standards.ieee.org/ieee/7130/10680/
  45. Liu C.-X., Sau J. D., Stanescu T. D., Das Sarma S. "Andreev bound states versus Majorana bound states in quantum dot-nanowire-superconductor hybrid structures: Trivial versus topological zero-bias conductance peaks", Phys. Rev. B 96, 075161 (2017), DOI 10.1103/PhysRevB.96.075161 — doi.org/10.1103/PhysRevB.96.075161
  46. Das A. ほか "Zero-bias peaks and splitting in an Al–InAs nanowire topological superconductor as a signature of Majorana fermions", Nature Physics 8, 887–895 (2012), DOI 10.1038/nphys2479 — doi.org/10.1038/nphys2479

12. 主張と出典の対応表(監査)

本文の主張根拠区分
2次元のエニオンを使う量子計算は、物理的な性質から誤りに強いという提案。測定は準粒子を対にして融合し結果を観測するKitaev(2003)の要旨
出典1 https://doi.org/10.1016/S0003-4916(02)00018-0
事実
1次元の系で、長さ L のとき、パリティの違う2つの基底状態のエネルギー差が exp(−L/ℓ0) に比例する。量子ビットとして使え、本質的に脱コヒーレンスに免疫があるKitaev(2001)の要旨
出典2 https://doi.org/10.1070/1063-7869/44/10S/S29
事実
量子情報は複数の準粒子の状態に保存され、ゲートは編み込みと測定で行われる。誤りへの強さは非局所的な符号化から生じる。ν=5/2 状態が当時唯一見つかったと考えられるトポロジカル状態Nayak ら(2008)の要旨
出典3 https://doi.org/10.1103/RevModPhys.80.1083
事実
十分に離れたマヨラナ零モードは、ユニタリ操作に使える非可換な編み込みの性質を示すはずであるDas Sarma ら(2015)の要旨
出典4 https://doi.org/10.1038/npjqi.2015.1
事実
半導体ナノワイヤ、超伝導体、磁場の組み合わせでトポロジカル超伝導とマヨラナ準粒子が現れるという提案(2010)Lutchyn ら、Oreg ら
出典5 https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.105.077001
出典6 https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.105.177002
事実
InSb ナノワイヤで、約100 mT の磁場でゼロ電圧に固定された状態を観測し、マヨラナ仮説を支持すると記述。マヨラナ粒子は自分自身の反粒子Mourik ら(2012)の要旨
出典7 https://doi.org/10.1126/science.1222360
事実
従来の素子にはギャップの内側に状態の連続があり、トポロジカル保護を無効にする。InAs/Al で、ハードギャップを得たChang ら(2015)の要旨
出典8 https://doi.org/10.1038/nnano.2014.306
事実
InAs/Al を分子線エピタキシーで成長し、原子スケールで均一な界面がギャップの質を決める。ソフトギャップの問題を解決するように見えるKrogstrup ら(2015)の要旨
出典9 https://doi.org/10.1038/nmat4176
事実
ソフトギャップの問題を論じた論文。2次元のエピタキシャル超伝導体-半導体ヘテロ構造の提案(題名)。InAs 系ヘテロ構造の表面の修復(題名)各論文の題名
出典10 https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.110.186803
出典11 https://doi.org/10.1103/PhysRevB.93.155402
出典12 https://doi.org/10.1063/5.0014361
事実
2018年の Nature 論文(量子化されたマヨラナ・コンダクタンス)と、2021年3月の著者による撤回。他の研究者の指摘、電荷ジャンプの補正の未記載、軸のラベルの誤り、較正のやり直しでプラトーが8%ずれたこと論文と撤回通知
出典13 https://doi.org/10.1038/nature26142
出典14 https://doi.org/10.1038/s41586-021-03373-x
事実
超伝導体-半導体の界面の質の重要性。これまでの証拠と残る不確かさの整理Frolov ら(2020)の要旨
出典15 https://doi.org/10.1038/s41567-020-0925-6
事実
トポロジカル・ギャップ・プロトコル(局所・非局所の3端子の伝導度測定から、トポロジカル相の存在と範囲を判定)の提案Pikulin ら(2021)の要旨
出典16 https://arxiv.org/abs/2103.12217
事実
素子が TGP を通過し、結果はトポロジカル超伝導の観測と矛盾しない。報告された最大のトポロジカル・ギャップは 20〜60 µeV。融合と編み込みの実験の前提Microsoft(2023)の要旨
出典17 https://doi.org/10.1103/PhysRevB.107.245423
事実
2025年2月の Nature 論文:1回のパリティの干渉計測、容量の変化約1 fF、信号対雑音比1(3.6 µs)、滞在時間1 ms 超(約2 T)、割り当て誤り1%、トポロジカルな起源と非トポロジカルな起源の両方で解釈できる、将来の融合則の検証と両立する素子論文の要旨
出典18 https://doi.org/10.1038/s41586-024-08445-2
事実
Nature 編集部が、査読者2名に追加の意見を求めて掲載し、結果はマヨラナ零モードの存在の証拠にならず、素子構造の紹介として掲載したと注記査読ファイル(Peer Review File)の冒頭
出典19 https://media.springernature.com/original/springer-static/esm/art%3A10.1038%2Fs41586-024-08445-2/MediaObjects/41586_2024_8445_MOESM2_ESM.pdf
事実
Legg の批判:TGP は一貫した定義を欠き、データの選択に結果が左右される(2023年論文)。2025年の素子のパリティ読み出し領域はギャップがないように見えるLegg(arXiv、Nature Matters Arising)
出典20 https://arxiv.org/abs/2502.19560
出典21 https://arxiv.org/abs/2503.08944
出典22 https://doi.org/10.1038/s41586-026-10567-8
事実(批判が公表されていること)
Microsoft Quantum の回答:解析はギャップを仮定せず、ギャップがない系では安定な h/2e 周期の二峰性の信号は現れない。測定はトポロジカルな起源を強く示す。訂正した TGP の地図を公開Nature Matters Arising への回答(2026年6月24日)
出典23 https://doi.org/10.1038/s41586-026-10568-7
事実(回答が公表されていること)
Microsoft の将来計画:4世代の素子(測定に基づく編み込み、8量子ビット、誤り検出・訂正、格子手術)ロードマップの要旨(企業の計画)
出典24 https://arxiv.org/abs/2502.12252
未確定/将来
テトロンの X・Z のパリティ測定:τX 14.5 µs、τZ 12.4 ms、割り当て誤り X 16%・Z 0.5%。PRA に受理(2026年10月1日、出版版は未確認)プレプリントと受理論文のページ
出典25 https://arxiv.org/abs/2507.08795
出典26 https://journals.aps.org/pra/accepted/10.1103/cx4w-lxx1
事実
2026年6月のプレプリント:InAs–Pb テトロン、Z のパリティ約20 s、Pb(約10 nm、親ギャップ約1.3 meV)、InAs 6 nm+InAs0.8Sb0.2 2 nm の井戸、GaSb 基板、誘起ギャップ約570 µeV、ラシュバ12〜16 meV nm、移動度35万 cm²/Vs 超、TGP の上位20%のギャップ約70 µeV(Al 系約30 µeV)、ワイヤ長3.5 µm・幅35 nm、局在長1 µm 超プレプリント(企業の主張、査読前)
出典27 https://arxiv.org/abs/2606.03884
事実(プレプリントに記載があること)
Majorana 1 の発表(トポロジカル・コア、8つのトポロジカル量子ビット、100万個の設計目標、Nature 論文を査読による確認とする)Microsoft の発表(企業の主張)
出典28 https://news.microsoft.com/source/features/innovation/microsofts-majorana-1-chip-carves-new-path-for-quantum-computing/
事実(発表されたこと)
Majorana 2(Pb、InAs/InAsSb、Al 系で1〜12 ms、Pb 系で20 s 超、2029年の目標)。DARPA への系の引き渡しと独立の試験(2026年9月)Microsoft のブログ(企業の主張・目標)
出典29 https://quantum.microsoft.com/en-us/insights/blogs/majorana-2-scalable-quantum-processor
出典30 https://quantum.microsoft.com/en-us/insights/blogs/microsoft-quantum-research-center-maryland
未確定/将来
DARPA が、Microsoft と PsiQuantum を US2QC の最終段階に選定(2025年2月6日)。2026年10月7日の発表で、両社は Stage C に既にいる。QBI は競争ではないDARPA の発表
出典31 https://www.darpa.mil/news/2025/quantum-computing-approaches
出典32 https://www.darpa.mil/news/2026/four-more-teams-enter-quantum-benchmarking-initiative-final-stage
事実
量子ドットでつくる Kitaev 鎖の報告(極小の鎖、2サイト、3サイト、パリティの1回読み出し、寿命1 ms 超、極小の鎖は保護が限られる)各論文の要旨
出典33 https://doi.org/10.1038/s41586-022-05585-1
出典34 https://doi.org/10.1038/s41586-024-07434-9
出典35 https://doi.org/10.1038/s41565-025-01894-4
出典36 https://doi.org/10.1038/s41586-025-09927-7
事実
量子プロセッサ上で非可換エニオン・トポロジカル秩序をつくる実験(Google:Ising エニオンの編み込み、Quantinuum:D4 秩序、27量子ビット、サイトあたり忠実度98.4%超)各論文の要旨
出典37 https://doi.org/10.1038/s41586-023-05954-4
出典38 https://doi.org/10.1038/s41586-023-06934-4
事実
報道:APS Physics 誌(2025年3月10日)、Science News(2026年6月)、Scientific American(2026年6月24日)が伝えた、専門家の評価と懐疑の両方報道(一次情報への案内として使用。内容は二次情報)
出典39 https://physics.aps.org/articles/v18/57
出典40 https://www.sciencenews.org/article/microsoft-quantum-chip-upgrade-majorana
出典41 https://www.scientificamerican.com/article/top-quantum-computer-expert-claims-microsofts-topological-qubit-doesnt-hold-up/
事実(報道されたこと)
ISO/IEC 4879:2024(量子コンピューティングの用語、2024年5月)。ISO/IEC JTC 3 の担当範囲(半導体などを除外)。IEEE P7130 が草案(Active PAR)であることISO と IEEE SA のページ(確認日 2026年10月16日)
出典42 https://committee.iso.org/standard/80432.html
出典43 https://committee.iso.org/committee/10138914.html
出典44 https://standards.ieee.org/ieee/7130/10680/
事実/未確定/将来
ゼロバイアスのピークが、トリビアルな状態でも現れうること。Al-InAs ナノワイヤのゼロバイアスのピークの報告(2012)各論文の題名・要旨
出典45 https://doi.org/10.1103/PhysRevB.96.075161
出典46 https://doi.org/10.1038/nphys2479
事実
e−L/ℓ0 の表(5、10、20、35)、ギャップの温度換算と exp(−Δ/kBT) の表(20 mK は例示)、20 s ÷ 12.4 ms ≒ 1,600、20 s ÷ 1 µs ≒ 2 × 107、12.4 ms ÷ 14.5 µs ≒ 855本稿の計算(出典の数値を使用。温度・係数は例示・簡略化)本稿の計算
2025年3月の米国物理学会の講演の追加データ、Legg の2025年2月の批判への Microsoft の正式回答、Matters Arising の全文、2026年6月のプレプリントの査読状況、Majorana 2 の量子ビット総数、独立な再現、DARPA の評価結果、ν=5/2 の現状、トポロジカル量子計算固有の規格本稿の調査範囲でアクセスできた一次情報では確認できなかったため記載していない解説
「結び目・ドーナツの穴・割符・靴下と靴のたとえ」「準粒子の説明」「ハードギャップの必要性の説明」「トリビアルな状態の説明」「保護と制御のトレードオフ」「材料への読み取り(界面、超伝導体の選択、データ公開)」「図8の段階分けと色分け」公表内容にもとづく本記事の整理・解説。各研究者・企業が表明した見解ではない解説
図2・3・4・5・6・7・8が説明のための作図・本稿の計算を含む作図であること。図1・図9がImageGen生成の概念画像であること。図5の層の高さが縮尺どおりでないこと本記事による注記解説

最終更新:2026年10月16日/出典は一次情報(理論の原論文、実験の査読論文、撤回通知、Nature の編集注記と査読ファイル、批判論文と回答、DARPA・ISO・IEEE の公式ページ)を中心とし、企業の発表・プレプリントは「企業の主張」として、報道は一次情報への案内として区別しています。 この記事は、特定の企業・研究者の主張の正しさを判定せず、確認できた事実、解釈に争いのある点、未確認の点を分けて示すものです。 Legg の2025年2月の批判への Microsoft の正式回答、Matters Arising の全文、2026年6月のプレプリントの査読状況、独立な再現、DARPA の評価結果、トポロジカル量子計算に固有の規格については、確認できなかったため記載していません。 図はすべて説明用の概念図または本稿の計算を含む作図で、図1と図9はImageGen生成の概念画像です。

図版更新:2026年10月17日。本文・出典整理表のベクター作図という表記は、保存した元SVGの由来を示します。現在の主図の形式と読み方は各図下の説明を参照してください。ImageGen画像は実測や実在製品の写真ではなく、元SVG・数値・出典は展開して確認できます。