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超伝導量子ビット 技術解説

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TECHNOLOGY EXPLAINER

超伝導量子ビット
― 「電気回路」が量子ビットになる仕組みと、それを支える材料

超伝導量子ビットは、チップの上に描いた超伝導の電気回路を、極低温に冷やして「人工の原子」として使う量子ビットです。ふつうの電気回路は、そのままでは量子ビットになりません。ジョセフソン接合という部品を入れて、はじめて「0と1だけ」を操作できる回路になります。この記事では、①なぜ回路が量子ビットになるのか、②どうやって操作し、読み出すのか、③何が長所で何が短所か、④どんな材料と製造に支えられているかを、図と小さな数値の例で、順番に説明します。後半では、確認日(2026年10月16日)時点の到達点と計画を、達成と計画を分けて整理します。

構成:査読論文(Nature、Phys. Rev. A、Rev. Mod. Phys.、Appl. Phys. Rev. ほか)、arXiv の論文、IBM・富士通/理研・ノーベル財団の公式ページを使用/数値の一部は本稿で計算/確認日 2026年10月16日

超伝導量子ビットのチップは、希釈冷凍機の最下段に取り付けられ、多数の同軸ケーブルでつながれます。実際の装置・企業の機器を示すものではありません。
図1 概念画像(ImageGen生成)。超伝導量子ビットのチップは、希釈冷凍機の最下段に取り付けられ、多数の同軸ケーブルでつながれます。実際の装置・企業の機器を示すものではありません。 実際の製品・施設・寸法・測定結果ではありません。拡大模型と実物スケールの場面は区別してください。
この記事の構成
  1. 3行でわかる/前提/シリーズの中での位置
  2. 復習:量子ビットは「矢印」
  3. なぜ回路が量子ビットになるのか(その1)― 等間隔のはしご
  4. なぜ回路が量子ビットになるのか(その2)― ジョセフソン接合とトランズモン
  5. なぜ極低温まで冷やすのか
  6. 操作と読み出し
  7. 同じ型の「カード」で要点を整理し、他の3方式と並べる
  8. 材料と製造 ― 寿命を決めるもの
  9. 現在地(確認日 2026年10月16日)と計画
  10. 限界と、確認できなかったこと/まとめ
  11. 評価・標準の読み方
  12. 用語集
  13. 参考資料(一次情報)
  14. 主張と出典の対応表(監査)
本記事の表記ルール

事実=公表資料に記載のある内容(出典リンクあり)
本稿の計算=明示した前提をもとに本記事が算出した値
未確定/将来=計画・目標・草案など、確定していない事項
このほか、材料研究への読み取りやたとえ話は「解説」として区別しています。推測は太字で示します。

この記事の数値の読み方

量子コンピュータの数字は、何を、どう測ったかとセットでないと意味が決まりません。この記事では、誤り率・忠実度・寿命に、方式・測定対象・平均か最良か・日付を添えます。企業の発表は「企業の主張」、計画や目標は未確定/将来として、達成した事実と分けて書きます。第4章と第5章の大きさや温度の数値例は、本稿が計算した「感覚をつかむための例」で、実在の装置の性能を示すものではありません。規格(ISO/IEC・IEEE)の本文は有料のため確認しておらず、題名・状態の記載にとどめています。簡単に説明するために、嘘は書いていません。たとえ話には、必ず「たとえの限界」を添えます。

1. 3行でわかる/前提/シリーズの中での位置

  • 超伝導量子ビットは、超伝導体でつくった小さな電気回路(大きさ約1 mm)で、回路の「エネルギーのいちばん低い2つの段」を0と1に使います。チップ上に描くので「人工の原子」とも呼ばれます[参考資料1]事実
  • ふつうの回路は、そのままでは量子ビットになりません。エネルギーの段が等間隔で、「0と1だけ」を狙えないからです。ジョセフソン接合を入れると段の間隔が不揃いになり、狙った2段だけをマイクロ波で動かせるようになります[参考資料1・2]事実
  • 操作はマイクロ波のパルス、読み出しは共振器の応答のずれ。動かすには約20 mK の極低温が要ります。速い一方で、量子ビットの寿命は比較的短く、配線・冷却・製造のばらつきが課題です。寿命は材料(タンタル、アルミニウム、基板、酸化膜)で大きく変わります[参考資料1・3]事実
この記事でいちばん大事な一行

超伝導量子ビットは、「エネルギーの段が不揃いになるように作った電気回路」です。そのために入れる部品がジョセフソン接合で、その性能(寿命)を左右するのが、薄膜・酸化膜・基板という材料です。

この記事を読む前に知っておくこと/シリーズの中での位置

前提:特になし。矢印のたとえは次章で復習します(量子力学の式は使いません)。

シリーズの中での位置:「量子コンピュータの基礎」「量子ゲートと量子回路」の次に読むと分かりやすい記事です。他の3つの方式(イオントラップ、中性原子、光量子コンピュータ)と並べて読むと、違いがよく分かります。寿命と誤り率の測り方は「コヒーレンスとフィデリティ」編、冷凍機と配線は「極低温と制御」編、材料全般は「量子コンピュータの材料と製造」編、誤り訂正は「量子誤り訂正と表面符号」編で、本シリーズでくわしく扱います。

2. 復習:量子ビットは「矢印」

このシリーズでは、量子ビットの状態を球の中心から表面に向かう矢印で表します。北極を向けば「0」、南極を向けば「1」、斜めを向いていれば重ね合わせです。矢印が斜めのとき、測ると必ず0か1のどちらかに決まり、どちらになるかの確率は矢印の傾きで決まります。測った後は、矢印は北極か南極に固定され、元の傾きは戻りません。

量子ビットの状態は「矢印」で表せる(復習) 0(北極) 1(南極) 斜め=重ね合わせ 測ると、0か1のどちらかに決まる 矢印が北極から θ だけ傾いているとき、0になる確率は cos²(θ/2)、 1になる確率は sin²(θ/2)。測ると矢印は北極か南極に決まり、元の傾 きは戻りません。 例:θ = 60° のとき(本稿の計算) P(0) = cos²(30°) = 0.75 P(1) = sin²(30°) = 0.25 合計は1(100%)。100回測れば、およそ75回が0、25回が1になります。 ※ シリーズ共通のたとえです。矢印の向きが量子ビットの状態を表します。コインの表裏が同時にある、という意味ではありません。
図2 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。矢印のたとえの復習です。θ = 60° の例の確率は、本稿が計算した値です(cos²(30°) = 0.75)。コインの表裏が同時にある、という意味ではありません。
よくある誤解:「量子ビットは0と1が同時に入ったコイン」

これは誤りです。矢印が斜めを向いている状態は、「0と1の両方が入っている」のではなく、「0と1のあいだの、ある決まった向き」です。測ると、0か1のどちらか一方になります。量子コンピュータの力は、この矢印の向きを「波」のように重ね、正しい答えが強め合うように設計することから生まれます(本シリーズ「量子アルゴリズム」編)。

3. なぜ回路が量子ビットになるのか(その1)― 等間隔のはしご

① 身近な例:ブランコ

ブランコは、小さく揺らしても大きく揺らしても、1往復にかかる時間がほぼ同じです。そのリズムに合わせて押すと、揺れがどんどん大きくなります。電気回路でも同じことが起きます。コイル(L)とコンデンサ(C)をつなぐと、電気が行ったり来たりして揺れ続けます。これをLC共振器といい、ラジオの同調回路の仲間です。原子や回路のような小さな世界では、この揺れのエネルギーが「とびとびの段」になります。階段のように、1段、2段、3段…としか上がれません。LC共振器の段の間隔はすべて同じ(等間隔のはしご)です[参考資料1]事実。

② 問題:等間隔だと「0と1だけ」を使えない

量子ビットには、0と1の2段だけが必要です。ところが等間隔のはしごでは、0→1 も 1→2 も 2→3 も、すべての段の間が同じ周波数です。同じ周波数のマイクロ波を当てると、0→1 だけでなく 1→2、2→3 も一緒に動いてしまい、「0と1だけ」を狙い撃ちできません[参考資料1]。

③ 解決:段の間隔を不揃いにする

回路にジョセフソン接合(次章)を入れると、回路が「ふつうのコイル」ではなくなり、段の間隔が不揃いになります。0→1 の間隔より 1→2 の間隔が少し小さければ、0→1 の周波数のマイクロ波だけが0と1を動かし、1→2 は動きません。実際の違いは、量子ビットの周波数が 3〜6 GHz のとき 100〜300 MHz 程度(約数%)です[参考資料1]事実。ごくわずかな違いでも、周波数を正確に合わせられるので、狙い撃ちができます。

「等間隔のはしご」と「段が不揃いなはしご」(概念図) ふつうの電気回路(LC共振器) エネルギーの段が等間隔 ジョセフソン接合を入れた回路 段の間隔が不揃い(トランズモン) 0 1 2 3 … 0→1 も、1→2 も、2→3 も、すべ ての段の間が同じ間隔(同じ周波数 f) 周波数 f のマイクロ波を当て ると、0→1 だけでなく 1→2、 2→3 も動いてしまう。「0と1 だけ」を使えない。 0 1 2 3 … × 0→1 の間隔が、1→2 の間隔より少 し大きい 0→1 の周波数 f01 のマイクロ 波だけを当てれば、0と1の2段 だけが動く。1→2 は周波数が 少しずれているので動かない。 実際の値の例:量子ビットの周波数は 3〜6 GHz、段の間隔の違い(非調和性 α)は 100〜300 MHz 程度。たとえば 5 GHz と 200 MHz なら、 違いは 4% です(本稿の計算)。図は違いを大きく描いています。 ※ Krantz らの総説(参考資料)による。
図3 概念図(ベクター作図)。等間隔のはしごでは1つの周波数が全部の段を動かしてしまい、不揃いなはしごでは0→1だけを狙えます。違いの大きさは強調して描いています(実際は数%)。Krantz らの総説[参考資料1]の説明にもとづく概念図です。
つまずきやすいところ:「エネルギーの段」とは?

原子の中の電子は、好きな高さに居られるのではなく、決まった高さ(エネルギー)の「段」にしか居られません。これをエネルギー準位といいます。超伝導の回路も、うんと冷やして小さな揺れだけを考えると、原子と同じように「とびとびの段」になります。これが、チップ上の回路が「人工の原子」と呼ばれる理由です。たとえの限界:ブランコは目に見える物体の揺れですが、回路では「電気の量(電荷)と磁気の量(磁束)」が揺れています。ブランコは、どんなエネルギーでも持てますが、量子の回路は「とびとびの段」しか持てない点が、ブランコと違います。

4. なぜ回路が量子ビットになるのか(その2)― ジョセフソン接合とトランズモン

① ジョセフソン接合とは

超伝導とは、ある金属を冷やすと電気抵抗がゼロになり、電流が損失なく流れる状態です。ジョセフソン接合は、2つの超伝導体のあいだに、電気を通さない非常に薄い層をはさんだ部品です[参考資料4]事実。薄い層を、超伝導の電子対がトンネル効果(壁をすり抜ける量子の現象)で通り抜けます。解説:この接合は、「抵抗のないコイル」のように働きますが、ふつうのコイルと違い、流れる電流が大きくなるほど性質が変わる(非線形)ところが肝心です。Krantz らの総説は、ジョセフソン接合こそが、振動子を非調和にして、一意にアドレスできる2段を作る鍵だと説明しています[参考資料1]事実。

② トランズモン:現在もっとも使われる形

接合を、大きなコンデンサと並列につないだ回路がトランズモンです。Koch らが2007年に提案しました[参考資料2]事実。コンデンサを大きくすると、近くの電荷のゆらぎ(雑音)に鈍感になります。代わりに、段の不揃いの大きさが少し減りますが、使える程度に残ります。Koch らは、接合のエネルギーとコンデンサのエネルギーの比(EJ/EC)を大きくすると、電荷雑音への感度は指数関数的に下がり、不揃いの損失はゆるやかな冪(べき)でしか減らない、と示しました[参考資料2]事実。実際のトランズモンは EJ/EC が50以上に設計されます[参考資料1]事実。

大きな電極が容量を持ち、その間の小さなジョセフソン接合が非線形性を与えます。拡大図は金属・絶縁膜・金属を見分ける模型で、寸法比は実物どおりではありません。
図4 概念画像(ImageGen生成)。大きな電極が容量を持ち、その間の小さなジョセフソン接合が非線形性を与えます。拡大図は金属・絶縁膜・金属を見分ける模型で、寸法比は実物どおりではありません。 実際の製品・施設・寸法・測定結果ではありません。拡大模型と実物スケールの場面は区別してください。
元のSVG・数値・出典を確認する
ジョセフソン接合とトランズモン(概念図) (a) 接合の断面 超伝導体(Al) 超伝導体(Al) あいだに、ごく薄い絶縁膜(酸化アルミニウ ム)をはさむ。電子対は、この薄い膜をトン ネル効果ですり抜ける。 絶縁膜 (b) 回路図のイメージ コンデンサ 接合 並列につなぐ。これが量子ビット1個です。 (c) チップ上の見た目 量子ビット(約1 mm) 読み出し共振器(蛇行した線) 接合は、ごく小さな部品です。 大きさの感覚(本稿の計算) 量子ビット全体は約1 mm(1,000 μm)。一方、ある研究の接合の重なり面積は約0.03 μm²(Place ら)。これを正方形とみなすと1辺は約 0.17 μm(170 nm)で、量子ビット全体の約 1/6,000 の長さです。この小さな部分が量子ビットの周波数を決めるので、面積や膜厚のわずか なばらつきが、周波数のばらつきになります。 ※ 概念図です。実際のチップの形・寸法は設計ごとに違います。

元SVGの説明:本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。ジョセフソン接合の断面、回路図、チップ上の見た目の概念図。下段の大きさの比(約1/6,000)は、Krantz らの「約1 mm」[参考資料1]と Place らの「約0.03 μm²」[参考資料5]から本稿が計算した例です。

つまずきやすいところ:トランズモンは「原子」なのか?

いいえ。トランズモンは、人が設計して作った回路です。天然の原子と違って、段の高さ(周波数)を設計で決められる反面、作るたびに少しずつ違うのが弱点です(第8章)。また、原子のように小さくはなく、約1 mm と、顕微鏡なしで見える大きさです[参考資料1]。2025年のノーベル物理学賞は、手に持てる大きさの電気回路で、量子的なトンネル効果とエネルギーの段を示した実験(1984〜85年)に贈られました[参考資料4]事実。

5. なぜ極低温まで冷やすのか

超伝導量子ビットは、約20 mK(ケルビン。絶対零度から0.02度)で運用されます[参考資料1]事実。「超伝導にするために冷やす」と思われがちですが、それだけでは説明できません。たとえばタンタルが超伝導になる温度は4.2 K です[参考資料3]事実。それより2桁以上低い温度まで冷やすのは、熱で量子ビットが勝手に動かないようにするためです。

量子ビットの0と1のエネルギーの差は、周波数5 GHz のマイクロ波1個ぶんです(hf)。まわりの熱のエネルギー(kT)が、これより十分小さくないと、熱でランダムに「1」に励起されてしまいます。そこで比 hf/kT を計算します(本稿の計算)。20 mK では hf/kT = 12.0 で、熱で励起された状態にいる確率は約6×10⁻⁶ です。100 mK では hf/kT = 2.4 で約8%、1 K では約44% と、ほとんど半々になります。室温(300 K)では hf/kT = 0.0008、励起状態の確率は約50% で、0と1はまったく区別できません。5 GHz の「熱の光子」の平均個数は、20 mK で約6×10⁻⁶ 個、300 K では約1,250 個です。

なぜ、そこまで冷やすのか(本稿の計算と、冷凍機の例) 5 GHz の量子ビットが、熱で励起された状態にいる確率(熱平衡) 1/100万 1/10万 1/1万 1/1,000 1/100 1/10 1 10 mK 0.1 K 1 K 10 K 100 K 20 mK:約100万分の6 0.1 K:8% 300 K:ほぼ50% 温度(対数目盛) 励起状態の確率(対数目盛) ある希釈冷凍機の各段の温度と冷却能力の例 室温 約300 K 50 K 段 35 K 30 W(45 K) 4 K 段 2.85 K 1.5 W(4.2 K) Still 段 0.88 K 40 mW(1.2 K) 冷却板(CP) 82 mK 200 μW(140 mK) 最下段(MXC) 6 mK(空) 19 μW(20 mK) 計算:p = 1/(1+exp(hf/kT))、f = 5 GHz(熱平衡)。冷凍機の値は Krinner らの論文の表(空の状態で到達した温度)。
図5 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。左:5 GHz の量子ビットの熱励起確率(本稿の計算。p = 1/(1+exp(hf/kT)))。右:ある希釈冷凍機の各段の温度と冷却能力(Krinner らの表、空の状態の値)[参考資料6]。

冷凍機は、室温から約20 mK まで、何段にも分けて冷やします(希釈冷凍機)。ある装置の例では、最下段の冷却能力は20 mK で19 μW(0.019 mW)しかありません[参考資料6]事実。つまり、チップにつなぐ配線から流れ込む熱も、操作の信号の熱も、合わせて数十 μW を超えてはいけません。これが、量子ビットを何千、何万と増やすときの大きな壁になります(本シリーズ「極低温と制御」編)。

よくある誤解:「冷やすのは、超伝導になるためだけ」

これは半分しか正しくありません。超伝導にするだけなら、タンタルで4.2 K、数 K の冷却で足ります[参考資料3]。それより桁違いに冷やすのは、量子ビットの0と1の差(5 GHz のマイクロ波1個ぶん)よりも、熱のエネルギーを十分小さくするためです。もう1つ、配線や増幅器から入る熱雑音も問題で、ある研究では、駆動線に合計約60 dB の減衰器を入れて、最下段に届く熱雑音の光子数を10⁻³ 程度に抑える設計にしています[参考資料6]事実。

素材技術者の視点①:冷凍機の中は「熱を運ばない材料」の勝負

上のようにチップの冷却能力は極めて小さいので、室温から極低温の段へ信号を運ぶケーブルは、電気は通し、熱は通さない材料でなければなりません。Krinner らの測定では、受動的な熱の流入が小さいケーブルとして、ステンレス鋼やニオブチタン(NbTi)の同軸ケーブルが選ばれています[参考資料6]事実。一般に、電気をよく通す金属は熱もよく通すので(解説)、ここには「電気と熱の矛盾する要求」を材料でどう解くか、という課題があります。

6. 操作と読み出し

① 1量子ビットの操作:矢印を回す

量子ビットに、その周波数に合わせたマイクロ波のパルスを当てると、矢印が回ります。パルスの長さと強さで、回る角度が決まります。たとえば半分の強さ(π/2 パルス)なら北極から赤道まで、フルの強さ(π パルス)なら北極から南極まで回ります(図)。Z軸まわりの回転は、あとに続くパルスの位相をずらすだけで実現できます(仮想Zゲート)。パルスの形を整えて不要な段への漏れを抑える工夫(DRAG)もあります[参考資料1]事実。

② 2量子ビットの操作:一時的に「つなぐ」

量子ビットが2つ以上あるときは、2つのあいだに結合をつくって、一時的に相互作用させます。Krantz らの総説には、周波数を動かして2つの状態を近づける CPHASE ゲート(Barends らの例:43 ns、忠実度0.9944)や、一方の量子ビットを他方の周波数で駆動するクロス共鳴ゲート(約200 ns で位相をπずらす例)が紹介されています[参考資料1]事実。IBM の現行のプロセッサ(Heron)は、固定周波数の量子ビットと、つなぐ・切る調整ができる結合器(tunable coupler)の組み合わせです[参考資料7]事実。

③ 読み出し:共振器の「音程」を聞く

量子ビットのそばに、読み出し共振器という別の共振器を置きます。量子ビットと共振器は弱く結びついていて、量子ビットが0か1かで、共振器の共鳴周波数(音程)が少しずれます(分散読み出し)。そこで共振器にマイクロ波を送り、戻ってきた信号の強さや位相を見れば、0か1かが分かります[参考資料8・1]事実。量子ビットと共振器をマイクロ波の光子のレベルで強く結びつける実験は、2004年に Wallraff らが報告しました(回路量子電磁力学)[参考資料9]事実。戻ってくる信号はごく微弱なので、量子力学が許す最小の雑音だけを足して信号を増やす「量子限界増幅器」が使われます[参考資料7]事実。

操作と読み出し(概念図) (a) マイクロ波パルスで矢印を回す 矢印は北極(0) 0 のまま パルスなし 半分の強さ(π/2 パルス) 赤道=0と1が半々で測れる パルスの形 フルの強さ(π パルス) 1 になる パルスの形 (b) 共振器の「音程」で読む 0 1 プローブ 量子ビットが0か1かで、共振器の共鳴の位置が少し ずれる。その中間の周波数で信号を送り、戻ってく る強さ(や位相)を見れば、0か1かが分かる。 2量子ビットゲートと読み出しの流れ 2量子ビットゲートは、2つの量子ビットのあいだに結合をつくり、一時的に相互作用させます。例:43 ns で忠実度 0.9944 の CPHASE ゲー ト(Barends らの報告を Krantz らが紹介)、約200 ns で位相をπずらすクロス共鳴ゲート。読み出しは、①共振器にマイクロ波を送る、② 戻ってきた微弱な信号を増幅する、③強さや位相から0か1かを判定する、の順です。
図6 概念図(ベクター作図)。パルスの強さで矢印を回す様子と、共振器の共鳴が0と1でずれる様子の概念図。数値例は Krantz らの総説[参考資料1]によります。
つまずきやすいところ:量子ビットの「寿命」T1 と T2

量子ビットの質を表す基本の時間が2つあります。T1は、矢印が南極(1)から北極(0)へ、エネルギーを失って倒れ込むまでの時間の目安です。T2は、矢印の「向き(位相)」がそろわなくなるまでの時間の目安です。たとえば T1 = 100 μs なら、1に置いた量子ビットが100 μs後に1のままでいる確率は約37%(e⁻¹)、200 μs後には約14% です(本稿の計算。指数関数の減衰を仮定した例)。測り方や定義(T2* と T2 エコー など)は、本シリーズ「コヒーレンスとフィデリティ」編で説明します。

7. 同じ型の「カード」で要点を整理し、他の3方式と並べる

ここまでを、シリーズで共通の5つの問い(何で作る・0と1は・どう操作・どう読む・長所と短所)に答える「カード」にまとめます。他の3つの記事も、同じ型のカードを使います。

超伝導量子ビットの「カード」(5つの問い+材料) ① 何で作る? 超伝導体(Al、Ta、Nb など)の回路。チップ上に描いた大きさ約1 mm の「人工の原子」。ジョセフソン 接合(Al/AlOx/Al)を含む。 ② 0と1は? 回路のエネルギーの、いちばん低い2つの段。段の間隔が不揃い(非調和)なので、この2段だけを狙える。 ③ どう操作? 約5 GHz のマイクロ波パルス。矢印を回す。2量子ビットは、結合器やクロス共鳴で一時的につなぐ(数 十〜数百 ns の例)。 ④ どう読む? 共振器のマイクロ波の応答のずれを測る(分散読み出し)。量子限界増幅器で微弱な信号を増やす。 ⑤ 長所と短所 長所:ゲートが速い(数十〜数百 ns)、半導体のような微細加工で作れる。短所:約20 mK の冷却が必 要、寿命は比較的短い(平均で数十 μs〜、最良のデバイスで約1.7 ms)、配線が多い、作るたびに周波 数がばらつく。 + 材料 基板(サファイア/高抵抗Si)、超伝導膜(Ta、Nb、Al)、酸化膜、接合。損失は表面・界面・基板・接 合の酸化膜で起きる(第8章)。 ※ 数値は本記事の各章(出典つき)にもとづきます。
図7 概念図(ベクター作図)。5つの問いに答えるカード。数値の出典は各章の参考資料によります(Krantz ら[参考資料1]、Bland ら[参考資料3]、Willow の論文[参考資料10]ほか)。

4つの方式を同じ型で読み比べる

項目超伝導イオントラップ中性原子光量子
量子ビットの実体超伝導体の回路(トランズモンなど)。チップ上に描いた、大きさ約1 mm の「人工原子」[参考資料1]高周波の電場で真空中に浮かせた1個の原子イオン(例:Ba⁺、Yb⁺)[参考資料11・12]光ピンセット(細く絞ったレーザー光)で真空中に捕まえた1個の中性原子(例:Rb、Cs、Yb)[参考資料13・14・15]光子(光の粒)。導波路(光の通り道)や光ファイバーを進む[参考資料16・17]
0と1の区別回路のエネルギーの、いちばん低い2つの段[参考資料1]原子内部の2つの状態(例:Ba⁺ の超微細準位の2つ)[参考資料12]原子内部の2つの状態(例:Rb の超微細準位の2つ)[参考資料13]光子が通る道(例:2本の導波路のどちらか)。時間の早い・遅いでも表せる[参考資料16・18]
操作の方法マイクロ波パルス。2量子ビットゲートは、結合器やクロス共鳴で作る[参考資料1・7]レーザー光(またはマイクロ波・電気信号)。2量子ビットゲートは、イオン全体の共通の揺れを仲立ちにする[参考資料11・19・20]レーザー光。2量子ビットゲートは、原子を高く励起したリュードベリ状態にして、近くの原子に影響を与える[参考資料21・13]光回路での干渉と、光子の検出(測定)。光子どうしは素通りするので、測定で相互作用を作る[参考資料18・22]
読み出しの方法共振器のマイクロ波の応答のずれを測る(分散読み出し)[参考資料8・9]光を当てて、蛍光が出るか(明るい/暗い)を見る[参考資料11]蛍光を撮像し、原子ごとの明るい/暗いを見る[参考資料23]光検出器で、どの道に光子が来たかを数える(超伝導ナノワイヤ検出器を約2 K で使う例)[参考資料16]
動作の環境希釈冷凍機で約20 mK[参考資料1]超高真空。トラップは室温のものも、冷やしたものもある[参考資料24・25]超高真空の容器にレーザーと光学部品。原子は約10 μK、装置は室温[参考資料13・23]光回路の多くは室温で動く。検出器は冷やす構成が多い[参考資料17・16]
2量子ビットゲートの時間の例43 ns(Barends らの例)や約200 ns(クロス共鳴の例)[参考資料1]約70 μs(Helios の例)。3.8 μs〜520 μs の範囲を調べた例もある[参考資料12・24]ゲートのパルスは数百 ns の規模(Evered らの較正値の例:275 ns)。再配置や撮像には、これより長い時間がかかる[参考資料13・26]本稿では代表値を確認できなかった
2量子ビットの操作の質の例(定義が違う)IBM 公式ページの表示値 EPLG 3.7×10⁻³(測定条件は確認できなかった)[参考資料7・27]平均不忠実度 7.9×10⁻⁴(Helios、98量子ビット機の全ゾーンの平均)[参考資料12]忠実度 99.5%(最大60原子を並列、Evered ら)[参考資料13]「融合」の忠実度 99.22%(検出に成功した場合のみ。損失は含まない)[参考資料16]
強み速い。半導体の微細加工が使える[参考資料1]同じ種類のイオンはすべて同一。操作の精度が高い[参考資料11・12]同じ原子を大量に並べられる(6,100個)。配置を変えられる[参考資料23・28]光ファイバーでつなぎやすい。光回路を半導体工場で作る構想[参考資料16・17]
弱み量子ビットの寿命が比較的短い。配線と冷却、作りのばらつき[参考資料10・3・6・29]ゲートが遅い。大規模化には電極・レーザー・配線が増える[参考資料12・11]原子が逃げる(損失)。サイクルが遅い[参考資料30・26]光子の損失が最大の課題。光子どうしが相互作用しにくい[参考資料17・18]

整理は解説、各セルの数値・事実は出典(参考資料)によります(確認日 2026年10月16日)。数字は定義も条件も違う別々の量なので、方式どうしの優劣をつけないでください。

4つの方式を、同じ5つの問いで並べる(概念図) 超伝導 イオントラップ 中性原子 光量子 ① 何で作る? チップ上の超伝導回路(人 工原子) 電場で浮かせた1個のイオン 光ピンセットで捕まえた1個 の原子 導波路や光ファイバーを進 む1個の光子 ② 0と1は? 回路のエネルギーの最も低 い2段 原子内部の2つの状態(超微 細準位など) 原子内部の2つの状態(超微 細準位など) 光子の通り道(2本の導波路) や時間の早い遅い ③ どう操作? マイクロ波パルス レーザー光(またはマイク ロ波・電気信号) レーザー光(2原子はリュー ドベリ状態で相互作用) 光の干渉と、光子の検出( 測定) ④ どう読む? 共振器の音程のずれをマイ クロ波で測る 蛍光が出るか(光る/暗い) を見る 蛍光を撮像し、光る/暗い を見る 光検出器で光子が来たかを 数える ⑤ 環境は? 約20 mK(希釈冷凍機) 超高真空の中。室温の装置 も、冷やした装置もある 超高真空の中。装置は室温 回路の多くは室温。検出器 は冷やすことが多い ※ 各セルの内容は本記事の各章(出典つき)の要約です。物理的な実体と操作の違いを並べるための概念図で、性能の優劣を示すものではありません。
図8 概念図(ベクター作図)。4つの方式の「量子ビットの正体」を同じ5つの問いで並べた概念図。この記事で扱った超伝導を枠で強調しています。性能の優劣を示すものではありません。他の3方式は、本シリーズの各編でくわしく扱います。
つまずきやすいところ:どれが一番いいの?

答えは「まだ決まっていない」です。速さ(超伝導)、精度と全結合(イオン)、数の多さと配置の自由(中性原子)、通信との相性(光)と、得意なことが違います。どの方式も、「量子ビットを増やしても質を保つ」という同じ難問に、別の道から挑んでいます。この記事の表の数字は、定義も条件も違うので、並べて比べないでください。

8. 材料と製造 ― 寿命を決めるもの

① 寿命は、材料の「理想値」よりずっと短い

Place らは、高純度のサファイアの誘電損失(マイクロ波のエネルギーが熱に変わる割合)が10⁻⁹ より小さいことから、理想的には T1 が30 ms を超えうるのに、実際の2次元トランズモンの寿命はそれよりずっと短いと指摘しています[参考資料5]事実。このずれは、表面や界面にある欠陥、混入した不純物が原因と考えられています。アルミニウムやニオブの回路は、まわりの非晶質(アモルファス)の酸化膜にある2準位欠陥(TLS)による損失で、根本的に制限される、というのが Müller らの総説の整理です[参考資料31]事実。TLS は、エネルギーが2つの値しか取れない、微小な欠陥のことで、量子ビットのエネルギーを吸い取ります。

基板表面、金属と基板の界面、金属の縁を分けて示しています。着色は損失が問題になり得る場所の説明で、欠陥の実測分布ではありません。
図9 概念画像(ImageGen生成)。基板表面、金属と基板の界面、金属の縁を分けて示しています。着色は損失が問題になり得る場所の説明で、欠陥の実測分布ではありません。 実際の製品・施設・寸法・測定結果ではありません。拡大模型と実物スケールの場面は区別してください。
元のSVG・数値・出典を確認する
チップの断面と、損失が生まれる場所(概念図) 番号は、損失(エネルギーが失われる場所)の候補です。 真空(またはチップを覆う周囲) 基板(サファイア、または高抵抗シリコン) Ta 膜 Ta 膜 接合 Al/AlOx/Al 1 2 3 4 層の厚さは実寸ではありません。確認できた値:Ta の自然酸化膜は約2 nm(Place ら)。 1 基板の中 基板そのものの誘電損失。高抵抗Siに替えて、基板 の損失を下げた例がある(Bland ら)。 2 基板と金属の界面 界面に残る汚れや欠陥。Ta/Si では、界面に酸化 層が見えなかったと報告(Bland ら)。 3 金属の表面の酸化膜 Nb の表面酸化物は複雑で損失の原因という仮説。 Ta の酸化膜(約2 nm)は損失を減らすという仮説 (Place ら)。 4 接合の酸化膜 接合が決める損失は、基板の損失が下がって初めて 見えてきた(Bland ら)。 ※ 損失の主な担い手は、アモルファス(非晶質)の層にある2準位欠陥(TLS)と考えられている(Müller ら)。

元SVGの説明:概念図(ベクター作図)。チップ断面と損失の候補の場所の概念図(実寸ではありません)。Ta の自然酸化膜が約2 nm であること、基板・界面・接合の損失の整理は Place ら[参考資料5]、Bland ら[参考資料3]によります。

② ニオブからタンタルへ、サファイアからシリコンへ

Place らは、トランズモンのコンデンサと共振器の超伝導体を、広く使われてきたニオブからタンタルに替えて、寿命と、パルスで位相の乱れを打ち消した後の位相の保持時間の両方が0.3 ms を超えるデバイスを得ました。17個のデバイスで寿命の向上を確認しています[参考資料5]事実。作り方は、サファイア基板を約500℃に熱しながらタンタルをスパッタ(金属を飛ばして成膜)し、フォトリソグラフィとウェットエッチングで形を作り、接合は電子線リソグラフィと蒸着でアルミニウムとその酸化膜から作ります。タンタルの表面の自然酸化膜(Ta₂O₅)は約2 nm です[参考資料5]事実。著者らは、ニオブ表面の複雑な酸化物が追加の損失を生み、タンタルの酸化物は損失を減らす、と仮説を立てています(仮説)。Wang らは、同じ設計・同じ接合のプロセスで、タンタル、ニオブ、アルミニウムの膜を比べ、タンタルが最良、次にアルミニウム、最後にニオブだったと報告しています(最良の T1 は503 μs)[参考資料32]事実。さらに Bland らは、基板をサファイアから高抵抗シリコンに替えると基板そのものの損失が大きく下がり、T1 が最大1.68 ms(品質係数 Q の最大は2.5×10⁷)に達すると報告しました。タンタル膜は600〜650℃で成膜し、超伝導転移温度は4.2 K、タンタルとシリコンの界面に酸化層は見えなかった、としています。損失が下がったことで、接合によるデコヒーレンスが見えるようになり、低汚染の接合の蒸着で、位相の保持時間(ハーン・エコー法)が T1 を超えるデバイスも得ています[参考資料3]事実。

量子ビットの寿命 T1 の報告値(条件は同じではない) 0 0.5 ms 1 ms 1.5 ms Google 105量子ビット機(2024) 全体の平均 T1 68 μs Ta/サファイア(Place ら、2021) 最良デバイス(時間平均) 0.3 ms 超 Ta/サファイア、乾式エッチング(Wang ら、2022) 最良のT1 503 μs Ta/高抵抗Si(Bland ら、2025) 最大の T1 1.68 ms プロセッサ全体の平均 個別デバイスの最良値 個別デバイスの最大値 ※ 平均と最良、大きな装置と個別のデバイスでは意味が違います。同じ条件の比較ではなく、材料の改良で個別デバイスの寿命が延びてきた流れを見るための図です。
図10 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。T1 の報告値の比較。プロセッサ全体の平均(Acharya らの Willow 論文)と、個別デバイスの最良値(Place ら、Wang ら、Bland ら)は意味が違うため、同じ条件の比較ではありません[参考資料10・5・32・3]。
素材技術者の視点②:損失は「どこで」起きるかで、直し方が変わる

Bland らの報告では、タンタルを使ったサファイア基板のデバイスの損失は、表面と基板(バルク)の誘電体の両方から、同程度に来ていて、どちらも減らさないと大きな改善にならない、と整理されています[参考資料3]事実。基板をシリコンに替えたことで基板の損失が下がり、そのシリコン基板では、アモルファスの酸化シリコン層の寄与は表面損失全体の10%未満と評価されています[参考資料3]事実。つまり、「どの層が損失を生んでいるか」を、共振器の測定などで切り分けることが、材料開発の出発点になります。成膜条件(背圧や温度で、β相のタンタルやタンタルシリサイドが少量できる)、洗浄、酸化膜の制御が、そのまま量子ビットの寿命に響きます。

③ 製造のばらつき:接合のわずかな差が、周波数の差になる

量子ビットの周波数は接合の性質で決まります。IBM の研究では、固定周波数トランズモンを多数そろえるには、相対的な周波数を精密に合わせる必要があり、これが規模拡大の難所になっていました。Zhang らは、レーザー光で接合を局所的に加熱して(レーザーアニール)周波数を後から合わせる方法を示しました。数百個の量子ビットの統計で、調整の精度は18.5 MHz、調整による寿命への影響は測定できず、65量子ビットのプロセッサで2量子ビットゲート忠実度の中央値は98.7% でした。著者らは、接合の抵抗を周波数に換算した精度(4.7 MHz)は、1,000量子ビット規模を超える歩留まりのある拡大に十分としています(arXiv 版の要旨)[参考資料29]事実。また、Google の研究では、TLS の周波数が時間とともに変わるため、過去の寿命のデータから TLS の周波数の動きを予測して、量子ビットの周波数をそこから避けて設定する工夫をしています[参考資料10]事実。

素材技術者の視点③:「0.17 μm の接合」を、ウェハー全面で同じに作る

第4章の計算のとおり、接合の1辺は約0.17 μm(重なり面積0.03 μm² を正方形に換算)です[参考資料5]本稿の計算。この小さな領域の、酸化膜の厚さ(原子の数層)、面積、清浄さが、量子ビットの周波数と寿命に直結します。半導体のゲート酸化膜に近い難しさですが、量子ビットには「周波数を決められた幅に収める」という、別の厳しい要求がかかります。推測:材料・プロセスの再現性(ウェハー内・ウェハー間・ロット間)を、周波数のばらつき(MHz)という実際の物差しで測れる点は、素材技術者にとって、プロセス管理の指標を見つけやすい分野です。

量子ビットのチップは、シリコンウェハー上に、成膜・露光・エッチング・蒸着を重ねて作られます。実際の工場・企業の装置を示すものではありません。
図11 概念画像(ImageGen生成)。量子ビットのチップは、シリコンウェハー上に、成膜・露光・エッチング・蒸着を重ねて作られます。実際の工場・企業の装置を示すものではありません。 実際の製品・施設・寸法・測定結果ではありません。拡大模型と実物スケールの場面は区別してください。

9. 現在地(確認日 2026年10月16日)と計画

① Google の誤り訂正の実験(企業の研究チームによる査読論文)

Google Quantum AI は、105量子ビットのプロセッサで、表面符号という誤り訂正の符号を使い、符号の大きさ(距離)を2つ上げるたびに、論理誤り率が約2.14倍小さくなる(Λ = 2.14 ± 0.02)ことを示しました。距離7の符号(101量子ビットを使う)の論理誤り率は、誤り訂正の1サイクルあたり0.143% ± 0.003% で、サイクルの時間は1.1 μs です。この論理量子ビットのメモリは、最良の物理量子ビットの寿命を2.4倍上回りました(損益分岐点を超えた)。このプロセッサの量子ビットの平均 T1 は68 μs と報告されています[参考資料10]事実。読み方:この実験は、論理量子ビットの情報を保持する(メモリ)実験です。論理演算を実行して役に立つ計算をした、という意味ではありません。また、これは企業の研究チームの実験で、査読を経た論文(Nature)ですが、他の研究室による同じ実験の再現は、本稿では確認していません(確認できなかった)。

② IBM(企業の公式ページの記載)

IBM の公式ページ(確認日 2026年10月16日)によると、現在提供されているプロセッサは、Heron r1(133量子ビット)、Heron r2・r3(156量子ビット、いずれも調整可能な結合器つき)、Nighthawk(120量子ビット、正方格子で1つの量子ビットが4つの量子ビットと結合)です。ページには、Heron と Nighthawk の「質(EPLG)」が 3.7×10⁻³ と表示され、Nighthawk r2 は速度が25倍になった、と書かれています(企業の表示値で、測定条件の詳細は本稿では確認できませんでした)[参考資料7]事実。

③ 国内の動き:富士通と理化学研究所

富士通と理化学研究所は、2025年4月22日に256量子ビットの超伝導量子コンピュータを発表しました(2023年の64量子ビット機の4倍)[参考資料33]事実。同じ発表で、1,000量子ビット機を2026年に富士通の新しい建物に設置する予定、と述べています[参考資料33]未確定/将来。確認日までに、1,000量子ビット機の完成を示す公式発表は、本稿では確認できませんでした。

④ 計画(未確定/将来):IBM のロードマップ

IBM の公式ロードマップは、冒頭で「現在の意図を表すもので、変更・撤回されうる目標」と断っています[参考資料34]未確定/将来。2026年:Nighthawk で7,500ゲートの回路を、最大3つの120量子ビットのモジュールで実行/誤り訂正の復号器の試作と、論理処理ユニットと量子メモリを備えた Kookaburra の単一モジュールの実証。2028年:最大1,080量子ビットで15,000ゲート。2029年:Starling(「200 qubits」、1億ゲート)。2033年以降:Blue Jay(「2000 qubits」、10億ゲート)。ページの記載は「qubits」だけで、物理量子ビットか論理量子ビットかは、このページの文章からは区別できません(確認できなかった)。

よくある誤解:「量子ビット数が多いほど高性能」

これは誤りです。IBM の現行機は120〜156量子ビットですが、公式ページが示す「質」の指標は別に用意されています[参考資料7]。Google の実験が示したのは、量子ビット数そのものではなく、物理的な誤りがしきい値より小さければ、量子ビットを増やすほど(符号を大きくするほど)論理誤り率が指数的に下がることです[参考資料10]事実。量子ビットは、数と質(誤り率)、接続の形、速度の全体で見ます。また「何量子ビット」という数字は、物理量子ビットか、誤りを訂正した論理量子ビットかで意味がまったく違います。論理量子ビット1個には、多くの物理量子ビットが使われます(Google の距離7の符号では101量子ビット)。

10. 限界と、確認できなかったこと/まとめ

(1) 規格の本文

ISO/IEC 4879:2024 の本文は有料のため確認していません。IEEE P7130・P7131 は、IEEE の公式ページを取得できず、標準化情報サイト StandICT.eu の記載で案件の存在を確認したにとどまります。

(2) 企業の表示値

IBM の EPLG や処理速度の数値、Fujitsu/RIKEN の計画は、公式ページ・プレスリリースの記載で、測定条件の詳細や第三者の検証は確認していません。

(3) 他の研究室での再現

Google の誤り訂正の結果、Bland らの寿命の結果について、他の研究室による再現は、本稿では確認していません。

(4) 扱っていない方式

フラクソニウム、猫状態(ボソニック)の量子ビットなど、トランズモン以外の超伝導量子ビットは扱っていません。

(5) 計画の達成度

Fujitsu/RIKEN の1,000量子ビット機と IBM のロードマップの各年の目標が確認日までに達成されたかは、公式の達成報告を確認できた範囲でしか書いていません。

この記事のまとめ
  • 超伝導量子ビットは、エネルギーの段が不揃いになるように作った電気回路です。ジョセフソン接合を入れることで、0と1の2段だけを狙えます事実
  • 約20 mK まで冷やすのは、熱で勝手に動かないためです。5 GHz なら20 mK で hf/kT = 12、室温では励起状態の確率が約50% になります本稿の計算
  • 操作はマイクロ波パルス、読み出しは共振器の音程のずれ。2量子ビットゲートは数十〜数百 ns の例がある事実
  • 寿命は材料で決まります。ニオブからタンタルへ、サファイアから高抵抗シリコンへと、個別デバイスの T1 は0.3 ms 超から1.68 ms まで延びました。プロセッサ全体の平均とは別の数字です事実
  • 量子ビット数だけでは性能は分かりません。誤り率、論理か物理か、速度、計画と達成の区別を見てください事実

11. 評価・標準の読み方

超伝導量子ビットの性能は、寿命(T1・T2)、ゲートの誤り率、装置全体の質、誤り訂正でどこまで誤りを抑えられたかの4つで見ます。寿命は「量子ビットがどれだけ長く状態を保てるか」、誤り率は「1回の操作でどれだけ間違えるか」を表します。ただし、どれも「何を、どう測ったか」で数字が変わります。標準は、いまのところ「用語」が先行していて、性能の測り方の標準は案件の段階です(確認日 2026年10月16日)。

評価項目代表的なベンチマーク・評価手法(名称・出典)標準・指針(NIST・ISO/IEC・IEEE・ETSI・ITU-T・IETF など)読み方の注意
量子ビットの寿命T1(エネルギー緩和)と T2(位相の保持)を、測定条件つきで報告する。Krantz らの総説が定義と測り方を整理[参考資料1]事実。平均か最良か、1個か多数かを添える(本稿の図)確認できなかったT1 の最良値とプロセッサ全体の平均は別物。T2 の種類(T2*、エコー)も確認する
誤り訂正の進み具合論理誤り率(1サイクルあたり)と、符号距離を2上げたときの抑制率 Λ。Google の論文:Λ = 2.14 ± 0.02、距離7で0.143%/サイクル[参考資料10]事実確認できなかった何回のサイクルを測ったか、復号の方法(実時間か、後処理か)、メモリか演算かを確認する
計画と達成IBM のロードマップ(各年の目標)。公式ページが「現在の意図で、変更・撤回されうる」と断っている[参考資料34]未確定/将来確認できなかった目標は達成した事実ではない。物理か論理かの区別を確認する
物理系が量子コンピュータの材料として足りているかDiVincenzo の7項目(5つの要件+通信の2つ)。①量子ビットを多数そろえられる、②初期化できる、③ゲートより十分長いデコヒーレンス時間、④万能のゲート、⑤量子ビットごとの測定、⑥⑦通信に関する2つ[参考資料35]事実確認できなかった(標準ではなく、論文の整理)チェックリストであり、点数ではない。4方式とも、満たし方と弱点が違う
ゲートの精度(1量子ビット・2量子ビット)ランダム化ベンチマーキング(RB)。ランダムなゲート列を繰り返し、成功の減り方から平均の誤りを推定する(Knill ら、2008/Magesan ら、2011)[参考資料36・37]事実IEEE P7131(量子コンピュータの性能指標・ベンチマーク)は案件段階[参考資料38]未確定/将来「忠実度99.9%」は、何の操作を、どう測ったかとセットで読む。RB は測定のしかたで数字が変わる
装置全体の質量子ボリューム(Cross ら、2019)、EPLG(McKay ら、2023)、CLOPS(Wack ら、2021)、能力を測る手法(Proctor ら、2022)[参考資料39・27・40・41]事実確認できなかった(IEEE P7131 は案件段階)[参考資料38]未確定/将来指標ごとに測るものが違う。1つの数字で装置の優劣を決めない(ベンチマーク全般の整理:Acuaviva ら、2026[参考資料42])
用語・定義—(評価ではなく用語の標準)ISO/IEC 4879:2024 "Information technology — Quantum computing — Vocabulary"(第1版、2024年5月、発行済み)[参考資料43]事実。IEEE P7130(量子技術の用語。案件段階)[参考資料44]未確定/将来規格の本文は有料のため未確認。要求事項や定義の中身は書いていない

表の整理は本稿の計算(整理)。規格の本文は有料のため、題名・状態にとどめています(確認日 2026年10月16日)。

読み方の注意(素材技術者向け)

  • 「何量子ビット」だけでは性能は分かりません。数・質・接続・速度の全体で見て、物理か論理かを必ず確認してください[参考資料10・7]
  • 企業の発表と第三者の検証は別です。IBM の表示値は企業の表示、Google の結果は企業チームによる査読論文です。どちらも、他の研究室による再現は本稿で確認していません
  • 標準は、推奨か要求か、法的拘束力があるかを確認してください。ISO/IEC 4879 は用語の規格で、性能を保証するものではありません[参考資料43]。ISO/IEC の規格は、一般に、法令や契約で引用されて初めて拘束力を持つ位置づけです(本記事による解説)
  • 計画と達成を混ぜないでください。ロードマップの数字は未確定/将来です[参考資料34]

12. 用語集

量子ビット(qubit)
量子コンピュータの情報の単位。0と1のあいだの向きを持てる。シリーズ共通のたとえでは「矢印」。
重ね合わせ
矢印が斜めを向いている状態。測ると0か1のどちらかに決まる。
超伝導
ある金属を冷やすと、電気抵抗がゼロになる現象。
ジョセフソン接合
2つの超伝導体のあいだに薄い絶縁膜をはさんだ部品。非線形のコイルのように働く。
トンネル効果
粒子が、通れないはずの壁をすり抜ける量子の現象。
LC共振器
コイル(L)とコンデンサ(C)をつないだ回路。等間隔のエネルギーの段を持つ。
非調和性(α)
エネルギーの段の間隔が不揃いになっていること。0→1と1→2の周波数の差。
トランズモン
ジョセフソン接合と大きなコンデンサを並列にした、現在最も使われる超伝導量子ビット。
人工原子
原子ではなく、設計して作った回路が、原子のようにとびとびのエネルギーを持つこと。
マイクロ波
周波数が数GHzの電磁波。量子ビットの操作と読み出しに使う。
希釈冷凍機
ヘリウム3と4の混合を使い、約10〜20 mK まで冷やす装置。
エネルギー準位
量子の系が持てる、とびとびのエネルギーの段。
共振器(読み出し)
量子ビットの状態を読むために、そばに置く別の共振回路。
分散読み出し
量子ビットが0か1かで共振器の共鳴周波数がずれることを使う読み出し。
T1
エネルギーを失って1が0に倒れ込む時間の目安。
T2
矢印の向き(位相)がそろわなくなる時間の目安。
忠実度(フィデリティ)
操作や状態が理想にどれだけ近いかの割合。1に近いほど良い。
ランダム化ベンチマーキング(RB)
ランダムなゲート列を繰り返し、成功の減り方から平均の誤りを推定する方法。
TLS(2準位欠陥)
エネルギーが2つの値しか取れない微小な欠陥。非晶質の層にあり、量子ビットのエネルギーを吸う。
クロス共鳴ゲート
一方の量子ビットを、他方の周波数で駆動して作る2量子ビットゲート。
表面符号
量子ビットを格子状に並べる誤り訂正の符号。論理量子ビットを多数の物理量子ビットで守る。
Λ(ラムダ)
符号の距離を2上げたときに、論理誤り率が何分の1になるかの倍率。
EPLG
多数の量子ビットを通した、層あたりの平均の誤り。IBM などが使う指標。

13. 参考資料(一次情報)

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  2. Koch J. ほか "Charge-insensitive qubit design derived from the Cooper pair box", Phys. Rev. A 76, 042319 (2007), DOI 10.1103/PhysRevA.76.042319 — doi.org/10.1103/PhysRevA.76.042319
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  7. IBM "IBM Quantum — Technology"(公式ページ。確認日 2026年10月16日) — www.ibm.com/quantum/technology
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  9. Wallraff A. ほか "Strong coupling of a single photon to a superconducting qubit using circuit quantum electrodynamics", Nature 431, 162–167 (2004), DOI 10.1038/nature02851 — doi.org/10.1038/nature02851
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  16. Alexander K. ほか (PsiQuantum) "A manufacturable platform for photonic quantum computing", Nature 641, 876–883 (2025), DOI 10.1038/s41586-025-08820-7(本稿は arXiv:2404.17570 版の本文も確認) — doi.org/10.1038/s41586-025-08820-7
  17. Aghaee Rad J. ほか (Xanadu) "Scaling and networking a modular photonic quantum computer", Nature 638, 912–919 (2025), DOI 10.1038/s41586-024-08406-9 — doi.org/10.1038/s41586-024-08406-9
  18. Kok P. ほか "Linear optical quantum computing with photonic qubits", Rev. Mod. Phys. 79, 135–174 (2007), DOI 10.1103/RevModPhys.79.135 — doi.org/10.1103/RevModPhys.79.135
  19. Sørensen A., Mølmer K. "Quantum computation with ions in thermal motion", Phys. Rev. Lett. 82, 1971–1974 (1999), DOI 10.1103/PhysRevLett.82.1971 — doi.org/10.1103/PhysRevLett.82.1971
  20. Löschnauer C. M. ほか (Oxford Ionics) "Scalable, high-fidelity all-electronic control of trapped-ion qubits", PRX Quantum 6, 040313 (2025), DOI 10.1103/h4wk-v31j — doi.org/10.1103/h4wk-v31j
  21. Saffman M., Walker T. G., Mølmer K. "Quantum information with Rydberg atoms", Rev. Mod. Phys. 82, 2313–2363 (2010), DOI 10.1103/RevModPhys.82.2313 — doi.org/10.1103/RevModPhys.82.2313
  22. Bartolucci S. ほか (PsiQuantum) "Fusion-based quantum computation", Nat. Commun. 14, 912 (2023), DOI 10.1038/s41467-023-36493-1 — doi.org/10.1038/s41467-023-36493-1
  23. Manetsch H. J. ほか "A tweezer array with 6,100 highly coherent atomic qubits", Nature 647, 60–67 (2025), DOI 10.1038/s41586-025-09641-4(本稿は arXiv:2403.12021 版の要旨を確認) — doi.org/10.1038/s41586-025-09641-4
  24. Ballance C. J. ほか "High-fidelity quantum logic gates using trapped-ion hyperfine qubits", Phys. Rev. Lett. 117, 060504 (2016), DOI 10.1103/PhysRevLett.117.060504 — doi.org/10.1103/PhysRevLett.117.060504
  25. Mehta K. K. ほか "Integrated optical multi-ion quantum logic", Nature 586, 533–537 (2020), DOI 10.1038/s41586-020-2823-6 — doi.org/10.1038/s41586-020-2823-6
  26. Bluvstein D. ほか "A fault-tolerant neutral-atom architecture for universal quantum computation", Nature 649, 39–46 (2025), DOI 10.1038/s41586-025-09848-5(本稿は arXiv:2506.20661 版の要旨を確認) — doi.org/10.1038/s41586-025-09848-5
  27. McKay D. C. ほか "Benchmarking quantum processor performance at scale", arXiv:2311.05933(2023年11月、プレプリント) — arxiv.org/abs/2311.05933
  28. Bluvstein D. ほか "A quantum processor based on coherent transport of entangled atom arrays", Nature 604, 451–456 (2022), DOI 10.1038/s41586-022-04592-6 — doi.org/10.1038/s41586-022-04592-6
  29. Zhang E. J. ほか "High-fidelity superconducting quantum processors via laser-annealing of transmon qubits", arXiv:2012.08475(Sci. Adv. 8, eabi6690 (2022) として掲載。本稿は arXiv 版の要旨を確認) — arxiv.org/abs/2012.08475
  30. Chiu N.-C. ほか "Continuous operation of a coherent 3,000-qubit system", Nature 646, 1075–1080 (2025), DOI 10.1038/s41586-025-09596-6 — doi.org/10.1038/s41586-025-09596-6
  31. Müller C. ほか "Towards understanding two-level-systems in amorphous solids: insights from quantum circuits", Rep. Prog. Phys. 82, 124501 (2019), DOI 10.1088/1361-6633/ab3a7e — doi.org/10.1088/1361-6633/ab3a7e
  32. Wang C. ほか "Towards practical quantum computers: transmon qubit with a lifetime approaching 0.5 milliseconds", npj Quantum Inf. 8, 3 (2022), DOI 10.1038/s41534-021-00510-2 — doi.org/10.1038/s41534-021-00510-2
  33. Fujitsu Limited, RIKEN "Fujitsu and RIKEN develop world-leading 256-qubit superconducting quantum computer"(共同プレスリリース、2025年4月22日) — www.fujitsu.com/global/about/resources/news/press-releases/2025/0422-01.html
  34. IBM "IBM Quantum Roadmap"(IBM Technology Atlas。公式ページ。確認日 2026年10月16日) — www.ibm.com/roadmaps/quantum/
  35. DiVincenzo D. P. "The physical implementation of quantum computation", Fortschr. Phys. 48, 771–783 (2000), arXiv:quant-ph/0002077 — arxiv.org/abs/quant-ph/0002077
  36. Knill E. ほか "Randomized benchmarking of quantum gates", Phys. Rev. A 77, 012307 (2008), DOI 10.1103/PhysRevA.77.012307 — doi.org/10.1103/PhysRevA.77.012307
  37. Magesan E., Gambetta J. M., Emerson J. "Scalable and robust randomized benchmarking of quantum processes", Phys. Rev. Lett. 106, 180504 (2011), DOI 10.1103/PhysRevLett.106.180504 — doi.org/10.1103/PhysRevLett.106.180504
  38. StandICT.eu "P7131 - Standard for Quantum Computing Performance Metrics & Performance Benchmarking"(IEEE の案件。StandICT.eu の標準リポジトリの記載。IEEE の公式ページは取得できなかった) — standict.eu/standards-repository/p7131-standard-quantum-computing-performance-metrics-performance-benchmarking
  39. Cross A. W. ほか "Validating quantum computers using randomized model circuits", Phys. Rev. A 100, 032328 (2019), DOI 10.1103/PhysRevA.100.032328 — doi.org/10.1103/PhysRevA.100.032328
  40. Wack A. ほか "Quality, speed, and scale: three key attributes to measure the performance of near-term quantum computers", arXiv:2110.14108(2021年10月、プレプリント) — arxiv.org/abs/2110.14108
  41. Proctor T. ほか "Measuring the capabilities of quantum computers", Nat. Phys. 18, 75–79 (2022), DOI 10.1038/s41567-021-01409-7 — doi.org/10.1038/s41567-021-01409-7
  42. Acuaviva A. ほか "Benchmarking quantum computers: towards a standard performance evaluation approach", Quantum Sci. Technol. 11, 025004 (2026), DOI 10.1088/2058-9565/ae4269 — doi.org/10.1088/2058-9565/ae4269
  43. ISO/IEC "ISO/IEC 4879:2024 Information technology — Quantum computing — Vocabulary"(ISO のページ。第1版、2024年5月、発行済み) — www.iso.org/standard/80432.html
  44. StandICT.eu "P7130 - Standard for Quantum Technologies Definitions"(IEEE の案件。標準化情報サイト StandICT.eu の標準リポジトリの記載。IEEE の公式ページは取得できなかった) — standict.eu/standards-repository/p7130-standard-quantum-technologies-definitions

14. 主張と出典の対応表(監査)

本文の主張根拠区分
超伝導量子ビットの大きさが約1 mm、周波数が3〜6 GHz、段の間隔の違い(非調和性)が100〜300 MHz、EJ/EC ≥ 50、約5 GHz の量子ビットを約20 mK で運用、CPHASE ゲート 43 ns・忠実度0.9944、クロス共鳴 約200 nsKrantz らの総説の本文
出典1 https://doi.org/10.1063/1.5089550
事実
トランズモンの提案、EJ/EC を大きくすると電荷雑音への感度が指数的に下がり、不揃いの損失はべき乗でしか減らないことKoch ら(2007)の要旨
出典2 https://doi.org/10.1103/PhysRevA.76.042319
事実
分散読み出しの説明、量子ビットと共振器の強結合の実験(2004年)Blais らの総説、Wallraff ら(2004)、Krantz らの総説
出典8 https://doi.org/10.1103/RevModPhys.93.025005
出典9 https://doi.org/10.1038/nature02851
事実
2025年ノーベル物理学賞の受賞者・授賞理由、超伝導体と薄い絶縁層の接合(ジョセフソン接合)、1984〜85年の実験ノーベル財団のプレスリリース
出典4 https://www.nobelprize.org/prizes/physics/2025/press-release/
事実
ある希釈冷凍機の各段の温度と冷却能力(35 K/2.85 K/0.88 K/82 mK/6 mK、20 mK で19 μW)、駆動線の合計約60 dB の減衰、NbTi・ステンレス鋼の同軸ケーブルKrinner らの論文(表1と本文)
出典6 https://doi.org/10.1140/epjqt/s40507-019-0072-0
事実
タンタルの超伝導転移温度4.2 K、タンタル/高抵抗Si の T1 最大1.68 ms・Q 最大2.5×10⁷、600〜650℃の成膜、界面に酸化層なし、T2E が T1 を超えるデバイス、表面と基板の損失が同程度、酸化シリコンの寄与は表面損失の10%未満Bland らの論文(arXiv 版の本文)
出典3 https://doi.org/10.1038/s41586-025-09687-4
事実
高純度サファイアの誤差損失が10⁻⁹ 未満で T1 > 30 ms が期待されること、Nb→Ta で寿命・位相保持が0.3 ms 超(17個)、タンタルを約500℃でスパッタ、接合の重なり面積約0.03 μm²、Ta₂O₅ 約2 nm、仮説(Nb 酸化物の複雑さ)Place ら(2021)の本文
出典5 https://doi.org/10.1038/s41467-021-22030-5
事実
Ta・Nb・Al の比較(Ta が最良、Al、Nb の順)、最良の T1 が503 μsWang らの論文の要旨
出典32 https://doi.org/10.1038/s41534-021-00510-2
事実
アルミニウム・ニオブの回路が非晶質酸化膜の2準位欠陥による損失で制限されることMüller らの総説の要旨
出典31 https://doi.org/10.1088/1361-6633/ab3a7e
事実
レーザーアニールによる周波数調整(精度18.5 MHz、寿命への影響なし、65量子ビットで2量子ビットゲート忠実度の中央値98.7%、4.7 MHz)Zhang らの論文の要旨(arXiv 版)
出典29 https://arxiv.org/abs/2012.08475
事実
Google の105量子ビット機:Λ = 2.14 ± 0.02、距離7で0.143%/サイクル、サイクル1.1 μs、損益分岐点超え(2.4倍)、平均 T1 68 μs、TLS 周波数の予測Acharya らの論文(arXiv 版の本文)
出典10 https://doi.org/10.1038/s41586-024-08449-y
事実
IBM の現行プロセッサ(Heron 133/156量子ビット、Nighthawk 120量子ビット、EPLG 3.7×10⁻³、Nighthawk r2 は速度25倍)、調整可能な結合器、量子限界増幅器IBM の公式ページ(確認日 2026年10月16日)
出典7 https://www.ibm.com/quantum/technology
事実
IBM のロードマップ(2026年・2028年・2029年・2033年以降の目標。「現在の意図」と断り書き)IBM の公式ロードマップ(確認日 2026年10月16日)
出典34 https://www.ibm.com/roadmaps/quantum/
未確定/将来
富士通・理研の256量子ビット機(2025年4月22日)、1,000量子ビット機を2026年に設置予定(計画)共同プレスリリース
出典33 https://www.fujitsu.com/global/about/resources/news/press-releases/2025/0422-01.html
未確定/将来
DiVincenzo の「5つ(+通信の2つ)の要件」の枠組みDiVincenzo(2000)の要旨と本文
出典35 https://arxiv.org/abs/quant-ph/0002077
事実
ランダム化ベンチマーキングの原論文(Knill ら、Magesan ら)の存在と題名論文の書誌(Crossref/出版社ページで確認)
出典36 https://doi.org/10.1103/PhysRevA.77.012307
出典37 https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.106.180504
事実
量子ボリューム、EPLG、CLOPS、能力を測る手法、ベンチマークの総説の題名・要旨各論文の要旨
出典39 https://doi.org/10.1103/PhysRevA.100.032328
出典27 https://arxiv.org/abs/2311.05933
出典40 https://arxiv.org/abs/2110.14108
出典41 https://doi.org/10.1038/s41567-021-01409-7
出典42 https://doi.org/10.1088/2058-9565/ae4269
事実
ISO/IEC 4879:2024 の番号・題名・発行年月(第1版、2024年5月、発行済み)ISO のページ
出典43 https://www.iso.org/standard/80432.html
事実
IEEE P7130・P7131 が IEEE の案件として存在すること(状態は案件段階として扱い、確定した規格とは書いていない)StandICT.eu の標準リポジトリの記載(IEEE の公式ページは取得できなかった)
出典44 https://standict.eu/standards-repository/p7130-standard-quantum-technologies-definitions
出典38 https://standict.eu/standards-repository/p7131-standard-quantum-computing-performance-metrics-performance-benchmarking
未確定/将来
他方式の事実:Helios(約70 μs、平均不忠実度7.9×10⁻⁴)、Ballance らの3.8〜520 μs、Evered らの99.5%・約10 μK・275 ns、Manetsch らの6,100原子、Alexander らの融合忠実度99.22%・約2 K、Aghaee Rad らの室温動作と損失の課題各論文の要旨・本文
出典12 https://doi.org/10.1038/s41586-026-10676-4
出典24 https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.117.060504
出典13 https://doi.org/10.1038/s41586-023-06481-y
出典23 https://doi.org/10.1038/s41586-025-09641-4
出典16 https://doi.org/10.1038/s41586-025-08820-7
出典17 https://doi.org/10.1038/s41586-024-08406-9
事実
他方式の事実:Bruzewicz らの総説(イオンの特徴)、Sørensen と Mølmer(イオンのゲート)、Löschnauer ら(電気信号による制御)、Mehta ら(冷却したトラップ)、Saffman らの総説(リュードベリ原子)、Radnaev ら・Ma ら(原子の種類)、Chiu ら(原子の損失)、Bluvstein ら(原子の再配置・再利用)、Kok らの総説と Bartolucci ら(光量子)各論文の要旨・総説
出典11 https://doi.org/10.1063/1.5088164
出典19 https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.82.1971
出典20 https://doi.org/10.1103/h4wk-v31j
出典25 https://doi.org/10.1038/s41586-020-2823-6
出典21 https://doi.org/10.1103/RevModPhys.82.2313
出典15 https://doi.org/10.1103/66s8-jj18
出典14 https://doi.org/10.1038/s41586-023-06438-1
出典30 https://doi.org/10.1038/s41586-025-09596-6
出典28 https://doi.org/10.1038/s41586-022-04592-6
出典26 https://doi.org/10.1038/s41586-025-09848-5
出典18 https://doi.org/10.1103/RevModPhys.79.135
出典22 https://doi.org/10.1038/s41467-023-36493-1
事実
5 GHz の量子ビットの熱励起確率(20 mK で約6×10⁻⁶、100 mK で約8%、1 K で約44%、300 K で約50%)、熱光子の平均個数(約6×10⁻⁶ 個、約1,250個)、接合の1辺約0.17 μm、量子ビットの約1/6,000、T1 = 100 μs の減衰(37%、14%)、T1 の比較図、周波数差4%本稿の計算(Python。h・k_B は SI の定義値。入力値は上記の出典の数値)本稿の計算
「回路は、等間隔の段のままでは0と1だけを狙えない」「ジョセフソン接合が段を不揃いにする」「冷やすのは熱励起を避けるため」「損失の場所の整理」「素材技術者の視点」などの説明・たとえ、および『3行でわかる』『よくある誤解』ボックス公表内容にもとづく本記事の整理・解説(本稿の説明)。各機関が表明した見解ではない解説
図1・図11 がImageGen生成の概念画像であること。それ以外の図が実データの観察ではなく説明のための作図であること本記事による注記(本稿)解説
確認できなかった点:ISO/IEC・IEEE の規格の本文、IEEE の公式ページ、他の研究室による Google・Bland らの再現、IBM の数値の測定条件、1,000量子ビット機の完成、ロードマップの「qubits」が物理か論理か本稿の調査範囲でアクセスできた一次情報では確認できなかったため、記載していない(本稿)解説

最終更新:2026年10月16日/出典は一次情報(査読論文、arXiv の論文、IBM・富士通/理研・ノーベル財団・ISO の公式ページ)に限定しています。規格の本文は有料のため確認できていません。温度・大きさの数値例は本稿の計算で、実在の装置の性能ではありません。他の研究室による再現、IEEE の公式ページ、1,000量子ビット機の完成、IBM の数値の測定条件については、確認できなかったため記載していません。図はすべて説明用の概念図または本稿の計算を含む作図で、図1と図11 は ImageGen生成の概念画像です。

図版更新:2026年10月17日。本文・出典整理表のベクター作図という表記は、保存した元SVGの由来を示します。現在の主図の形式と読み方は各図下の説明を参照してください。ImageGen画像は実測や実在製品の写真ではなく、元SVG・数値・出典は展開して確認できます。