TECHNOLOGY EXPLAINER
量子ネットワークと量子中継
― 「もつれ」を遠くへ配る仕組みと、なぜ距離が壁になるのか
光ファイバーの中で光は少しずつ失われ、量子の状態は途中で増幅して再生できません(複製不可能性)。そのため、量子の情報を遠くへ届けるには、「もつれ」という性質を使う別の道具が必要になります。それが量子ネットワークと、その要の部品である量子中継器と量子メモリです。
この記事は、量子力学を知らない人を前提に、①量子ネットワークの3つの種類、②「もつれ」とは何か(誤解しやすい点を含めて)、③もつれを配る方法とテレポーテーション、④距離が壁になる理由(本稿の計算つき)、⑤量子中継器と量子メモリ、⑥これまでに確認できた実験と、まだ構想の段階のもの、の順に説明します。
- 3行でわかる / 読む前に / シリーズの中での位置
- 量子ネットワークとは ― 3つの種類
- 量子もつれを、やさしく
- もつれを配る ― 予告つきの生成
- 量子テレポーテーション ― 状態を「移す」
- なぜ距離が壁になるのか
- 量子中継器 ― もつれの「つなぎ替え」
- 量子メモリ ― 待たせておく部品
- 確認できた実験と、構想の段階のもの
- 評価・標準の読み方
- 用語集
- 参考資料(一次情報)
- 主張と出典の対応表(監査)
事実=公表資料に記載のある内容(出典リンクあり)
本稿の計算=明示した前提をもとに本記事が算出した値
未確定/将来=草案・計画・構想など、確定していない事項
このほか、読み取りは「解説」として区別しています。推測は太字で示します。
実験の数値は、論文の要旨に書かれた値を、条件(距離・材料・何の値か)とあわせて書きます。方式も条件も違うため、数値の大小で優劣はつけられません。距離と損失の計算は、損失0.2 dB/km、メモリは無限に保持できる、つなぎ替えは必ず成功する、という理想化した仮定です。実在の装置の性能ではなく、仕組みを見せるための例です。2026年の論文(第9章)は、確認日の時点で最新の報告で、今後の追試・批評で評価が変わりうるものです。
1. 3行でわかる / 読む前に / シリーズの中での位置
- 量子ネットワークは、「データ」ではなく「もつれ」を配るもの:遠く離れた二つの場所が「もつれた量子ビットの対」を共有できれば、それを使って量子の状態を移したり、鍵を作ったりできます。ネットワークの仕事は、そのもつれを作って届けることです[参考資料35]
- 距離が壁になるのは、光が減り、しかも増幅できないから:ファイバーでは数十 km、衛星経由でも1000 km程度を超えると、もつれを直接届ける速さは事実上0になります[参考資料35]。そこで、区間に分け、量子メモリに預けて、量子中継器がもつれを「つなぎ替え」ていきます
- 2026年10月時点で確認できたのは「部品」と「小規模の実験」:メモリ間のもつれは、ファイバー10 km(トラップイオン)や420 km(原子集団)などで報告されていますが[参考資料24・25]、大陸規模の量子インターネットはまだ構想です。「何ができたか」と「何が計画か」を分けて読みます
前提知識は要りません。「矢印のたとえ」(北=0、南=1、東西は重ね合わせ)と、「光は複製できない」ことは、前の記事「量子鍵配送と量子通信」で説明しました。この記事でも必要な分を短く説明します。
「量子鍵配送と量子通信」の次に読むと分かりやすい記事です。量子コンピュータどうしをつなぐ分散量子計算は、本シリーズ「論理量子ビットと耐故障量子計算」編、メモリの材料は「量子コンピュータの材料と製造」編や、量子ドット、スピントロニクス材料の編と関係します。
2. 量子ネットワークとは ― 3つの種類
「量子ネットワーク」という言葉は、いろいろな意味で使われます。英国 NCSC は、大きく3つに分けています[参考資料1]。
この記事の中心は③です。IRTF(インターネットの研究組織)の量子インターネット研究グループは、RFC 9340 で、量子インターネットは今のインターネットを「強化する」もので、地球上の任意の2点間で量子通信を可能にすることを目指す、と述べています[参考資料35]。「今のインターネットを置き換える」わけではありません。
では、何のために作るのでしょうか。Wehner らは、①遠く離れた相手との安全な通信(QKD など)、②複数の量子コンピュータをつなぐ分散量子計算、③感度の高いセンサーのネットワーク、などを挙げています[参考資料6・36]。RFC 9583 は、これらのアプリケーションの例を整理しています。
普通のネットワークは、データそのものを運びます。量子ネットワークが運ぶのは、「もつれた対」という資源です。RFC 9340 は、「古典のネットワークはユーザーのデータを運ぶが、量子のネットワークは、ユーザーが自分でデータを送るための資源を提供する」と対比しています[参考資料35]。郵便にたとえると、手紙を運ぶのではなく、「二人が同じ暗号表を持てる状態」をつくる役目です(たとえの限界:もつれは持ち運べる物ではなく、離れた2つの量子ビットの間の関係です)。
3. 量子もつれを、やさしく
まず、「もつれ」を、これまでの矢印のたとえで考えます。1つの量子ビットの状態は、1本の矢印でした。「もつれた2つの量子ビット」は、2本の矢印が「1つのまとまり」として振る舞う状態です。片方の矢印だけでは、向きを書くことができません(片方だけを見ると、どちらを向いているか完全に不定)。2本合わせて初めて、「2本はいつも同じ向き」のような関係が書けます。
具体的には、Alice と Bob が、もつれた1対の矢印を1本ずつ持っていて、同じ測り方(たとえば「北か南か」)で測ると、2人の結果は、毎回ランダムでありながら、必ず一致します(そうなる種類のもつれ。RFC 9340 は、こうした2つの量子ビットの最も強くもつれた状態を「ベル対」と呼び、4種類あるとしています[参考資料35])。
誤りです。理由は2つあります。①各自の測定結果は、単独ではただのランダムな0と1で、そこにメッセージは含まれていません。②結果が一致していることは、2人が結果を突き合わせて初めて分かり、その突き合わせには普通の通信(光速以下)が要ります。RFC 9340 も、テレポーテーションで測定結果を古典の通信路で伝える必要があるため、もつれによって光速より速く情報を送ることはできないと述べています[参考資料35]。もつれは、「あらかじめ配っておく資源」であって、「通信そのもの」ではありません。
よく、「左右の手袋を別々の箱に入れて、遠くへ送る。片方を開けて右手用と分かれば、もう片方は左手用だと瞬時に分かる」というたとえが使われます。しかし、これは箱を開ける前から決まっていた場合の話で、「事前に決まっている」ことで説明できてしまうので、もつれの本質を表していません。もつれた対の結果は、測り方を変えても一致の関係が成り立ち、事前の取り決めでは説明できないことが、ベルの不等式の実験で確かめられています。Hensen らは、実験の抜け穴(距離と検出の抜け穴)をふさいだベル検定を、1.3 km離れたダイヤモンド中の電子スピンで行い、局所実在論の仮説を2標準偏差で棄却したと報告しています[参考資料14](Nature の紹介文は、統計的な有意性は限られる、と記しています)。
もっと詳しく:ベル対と、もつれの「資源」としての見方
RFC 9340 によると、2つの量子ビットの最も強くもつれた状態(ベル対)は4種類あり、片方の量子ビットだけに簡単な操作を加えれば、互いに変換できます[参考資料35]。ネットワークが「任意の量子状態」ではなく「ベル対」だけを届ければ足りるのは、ベル対さえ届けば、テレポーテーション(第5章)で任意の状態を送れるからです。ベル対は、状態が既知なので誤りの扱いが楽で、失敗したらやり直したり、複数の対から質の高い対を取り出したり(蒸留)できます[参考資料35]。
4. もつれを配る ― 予告つきの生成
もつれた対は、まずどこかで作られ、その片方(または両方)を、光ファイバーなどで運びます。運ぶのは光子で、RFC 9340 はこれを「飛ぶ量子ビット」と呼びます。光子は速く、損失が小さく、周りの影響を受けにくいので運び手に向いていますが、貯めておくのが苦手です。そこで、光子の状態を、貯められる量子ビット(「物質量子ビット」。メモリ)に移します[参考資料35]。
この過程は、よく失敗します(光が途中で失われるため)。そこで、成功したかどうかを「合図」で知らせる仕組みが使われます。成功を知らせる方式を、「ヘラルド(予告)つき」の生成と言います[参考資料35]。失敗なら捨てて、もう一度やり直します。
RFC 9340 は、基本の3方式を挙げています:「中央に光源」(光源が両ノードの中間にあり、もつれた光子を左右へ送る)、「片方に光源」(一方のノードが光子を送る)、「両端から送って中央で測る」(両端が光子を送り、途中の検出器が一緒に測ることでメモリ同士をもつれさせる)。中央に光源を置く方式は、光子の損失に強いが、他の方式では、ノードが、もつれの生成をより細かく制御できる、とされています[参考資料35]。
5. 量子テレポーテーション ― 状態を「移す」
もつれた対が配られたあとは、量子の状態を相手に「移す」ことができます。これが、1993年に Bennett らが示した量子テレポーテーションです[参考資料12]。SFの瞬間移動とは違い、物質や情報が瞬時に動くわけではありません。
RFC 9340 の説明を、矢印の言葉で言い直すと次のとおりです。①Alice は、送りたい未知の状態と、自分の側のもつれの片割れを、一緒に測ります(ベル測定)。②この測定で、送りたい状態は壊れ、結果として2ビットの古典の情報が得られます。③この2ビットを、普通の通信で Bob に送ります。④Bob は、2ビットが指示する4通りの補正のどれかを自分の側にかけると、送りたかった状態が現れます[参考資料35]。元の状態は壊れているので、複製不可能性には反しません。
移るのは、量子の「状態」だけで、物質ではありません。しかも、③の2ビットが届くまで、Bob の手元の矢印には、送りたい状態は現れません。つまり、光速より速くはなりません。テレポーテーションの価値は、状態そのものを、損失の多い通信路に通さずに送れることにあります(もつれ対は、あらかじめ、失敗したらやり直して作っておく)。RFC 9340 は、「ネットワークに通すのは、ベル対だけでよい」と整理しています[参考資料35]。
地上と衛星の間でも、実験が行われています。Ren らは、地上局から衛星への単一光子のテレポーテーションを報告し[参考資料27]、Yin らは、衛星から地上へもつれた光子を1200 kmにわたり配る実験を報告しています[参考資料26](第9章)。
6. なぜ距離が壁になるのか
光ファイバーの中で、光は少しずつ吸収・散乱で失われます。損失を1 kmあたり0.2 dB(説明用の例)とすると、100 kmで1%、200 kmで1万分の1、300 kmで100万分の1しか届きません(前の記事でも見た計算です)。普通の通信なら、途中に「増幅器」を置いて信号を強めますが、量子の状態は複製できないので、同じことはできません。RFC 9340 は、ファイバーで数十 km、衛星経由で1000 km程度を超えると、もつれを直接作る速さは事実上0になり、複製できないので信号を増幅できないと述べています[参考資料35・2]。
もつれを「直接」届けようとすると、1回の試行で成功する確率は、ほぼ「届く光の割合 η」です。成功まで平均 1/η 回試すことになります。この回数がどう増えるかを計算します。
| 距離 | 損失 | 届く割合 η | 成功までの平均試行回数 1/η | 毎秒10億回試せるなら |
|---|---|---|---|---|
| 100 km | 20 dB | 1e-02 | 1e+02 | 1e-07 秒 |
| 300 km | 60 dB | 1e-06 | 1e+06 | 1 ms |
| 500 km | 100 dB | 1e-10 | 1e+10 | 10 秒 |
| 700 km | 140 dB | 1e-14 | 1e+14 | 1.2 日 |
| 1000 km | 200 dB | 1e-20 | 1e+20 | 約3,200年 |
本稿の計算。損失0.2 dB/km、毎秒10億回の試行、検出器は理想的(効率100%、雑音0)という非常に甘い仮定です。実際の光源と検出器では、ここまで速くも効率的でもありません。「距離が2倍になると困難は2倍ではなく、桁が変わる」ことを示す例で、実在の装置の予測ではありません。
また、もつれを作るたびに、成功の合図が古典の通信で届くのを待つ時間も必要です。光がファイバーの中を進む速さを約20万 km/秒(本稿の仮定)とすると、1000 kmの片道は約5 msです(1000 km ÷ 200,000 km/秒。本稿の計算)。
強い光を送れば、受かる光の量は増えますが、もつれは1対の光子(1個ずつ)の性質です。強い光は、1個ずつの量子の状態ではなく、古典的な信号になってしまい、もつれを運べません。損失を補うために光を増やす、という発想が使えない、というのが量子通信の難しさです(本記事による解説)。
7. 量子中継器 ― もつれの「つなぎ替え」
距離の壁を越える考え方は、1998年に Briegel らが示しました[参考資料8]。道のりを短い区間に分け、各区間でもつれを作って、メモリに預けておき、隣り合う区間のもつれを「つなぎ替え」て、端から端までのもつれにする、というものです。このつなぎ替えをもつれ交換と言い、1993年に Żukowski らが提案しました[参考資料13]。
元のSVG・数値・出典を確認する
元SVGの説明:概念図(ベクター作図)。量子中継器による、もつれのつなぎ替え。緑の点線がもつれ。
RFC 9340 の説明を矢印の言葉にすると、次のようになります。ノード B が、A とのもつれ対の片割れ(X2)と、C とのもつれ対の片割れ(Y1)を、一緒に測ります(ベル測定)。すると、B にあった2つの量子ビットの間のもつれは消えますが、A と C の間に、新しいもつれができます。これは、「X2 を、Y のもつれ対を使って C へテレポートする」のと同じです。測定結果の2ビットは、古典通信で知らせます[参考資料35]。
増幅ではありません。量子中継器が行うのは、区間ごとにできたもつれを「つなぎ替える」ことです。光の量子状態そのものを強めたり、写し取ったりはしません(できません)。RFC 9340 は、こうしてもつれ交換で遠距離のもつれを作るノードを、学術文献では量子中継器と呼ぶ、としています[参考資料35]。
区間に分けると、何が変わるのか ― 本稿の計算
1000 kmを、区間の数 n に分けた場合の、平均の試行回数を計算します。各区間(長さ 1000/n km)のもつれ作りの成功確率を、その区間の光の透過率とします。メモリは無限に保持できるので、成功した区間は待たせておき、全区間が成功した時点で、つなぎ替えを一斉に行うと仮定します(つなぎ替えは必ず成功すると仮定)。
結果は劇的です。区間に分けない場合は、平均 10²⁰ 回の試行が要ります。2区間(500 kmずつ)で約 1.5×10¹⁰ 回、4区間で約 2×10⁵ 回、20区間(50 kmずつ)では約35回です。Duan らが2001年に示した方式(原子集団と線形光学を使う)も、「通信の効率が、距離に対して多項式で減る」ことを示しています[参考資料9]。
本稿の計算(Python。複数の区間が成功するまでの回数の期待値の和で計算)。この計算が無視しているもの:つなぎ替えの失敗、メモリでの劣化(保持時間の限界)、もつれの質(忠実度)が区間ごと・つなぎ替えごとに落ちること、成功の合図を待つ時間。RFC 9340 は、各区間とつなぎ替えのたびに忠実度が下がり、それを補う「蒸留」は資源を大きく増やす、と述べています[参考資料35]。
メモリの保持時間の目安も計算できます。区間50 km(20区間の例)では、成功の合図の往復に約0.5 ms(50 km × 2 ÷ 200,000 km/秒)かかります。平均約35回の試行を待つと、約17 ms(35 × 0.5 ms)です。つまり、メモリは、最低でも数十ミリ秒、もつれを保持する必要がある、という見積もりになります(本稿の計算。理想化した例)。次の章で見るように、実際の実験では、メモリ間のもつれが「作る時間より長く保たれる」ことが、中継器の部品としての重要な目標になっています。
もっと詳しく:量子中継器の「3つの世代」
Muralidharan らは、提案されている量子中継器の方式が、光の損失と操作の誤りを、どう補うかによって3つのカテゴリ(世代)に分けられるとして、時間と物理的な資源のコストを比べました[参考資料11]。大まかには、第1世代は予告つきのもつれ生成と蒸留、後の世代は量子誤り訂正を取り入れて、より遠く・より速くを目指す方式です(この大まかな説明は本記事による解説。各世代の定義は原論文を参照)。RFC 9340 も、量子誤り訂正は、のちの世代のネットワークまで使われない見込みだと述べています[参考資料35]。Sangouard らは、原子集団と線形光学を用いた中継器をレビューしています[参考資料10]。
8. 量子メモリ ― 待たせておく部品
量子メモリは、量子の状態を、壊さずにしばらく「待たせておく」部品です。Lvovsky らは、光の量子メモリが、量子計算の同期の道具としても、量子中継器にとっても重要だとして、メモリの方式と性能をレビューしています[参考資料30]。メモリの良し悪しは、一般に、効率(光をどれだけ取り込み、取り出せるか)、忠実度(状態をどれだけ正しく保てるか)、記憶時間、帯域(どれだけ速い光を扱えるか)、多重度(同時にいくつの状態を預けられるか)、波長で見ます(本記事による解説)。
元のSVG・数値・出典を確認する
元SVGの説明:概念図(ベクター作図)。量子メモリの4つの系。材料の優劣を示す図ではない。
量子メモリの材料は、1つに決まっていません。固体中のスピン(ダイヤモンド、炭化ケイ素、希土類を入れた結晶など)について、Awschalom らと Atatüre らがレビューしています[参考資料32・31]。Atatüre らは、「量子ビットの材料には、安定したスピンと光の性質、量子の光回路を作り込む製造のしやすさが要る。どの系もまだ完全ではなく、用途によって求める性質が違うので、複数の系が並行して開発されている」と整理しています[参考資料31]。
| 系(材料) | 代表的な報告(条件・何の値か) | 読み方の注意 |
|---|---|---|
| 冷却した原子の集団 | Yu ら(2020):同じ研究室内の2つの原子集団を、敷設した22 kmのファイバーなどで結んでもつれさせた[参考資料17]。Liu ら(2024):3ノード、最大12.5 km、メモリの寿命が往復の通信時間より長い[参考資料18]。Luo ら(2026):2つの原子集団メモリを420 kmのファイバーでもつれさせた[参考資料25] | Yu らの実験は、2つの原子集団が同じ研究室にあり、ファイバーだけが長い。距離の意味を区別する |
| 希土類ドープ結晶 | Lago-Rivera ら(2021):プラセオジム(Pr)を入れた結晶に、通信波長の光子で予告つきのもつれを保存。予告の速さは最大1.4 kHz、保存は最大25 μs、62の時間モード[参考資料20]。Liu ら(2021):3.5 m離れた2つの固体メモリ、帯域最大1 GHz、忠実度80.4 ± 2.2%[参考資料21]。Zhong ら(2015):ユーロピウム(Eu)を入れたY2SiO5結晶の核スピンで、コヒーレンス時間6時間[参考資料28] | 6時間は、1つのメモリの核スピンのコヒーレンス時間で、もつれの保存時間ではない。25 μsは、もつれを保存した時間 |
| ダイヤモンドの色中心 | Hensen ら(2015):窒素-空孔(NV)の電子スピンを1.3 km離して、ベル検定[参考資料14]。Humphreys ら(2018):2 m離れた NV で、最大39 Hzのもつれ生成、遠隔もつれ状態の崩壊率5 Hz、約100 msごとに平均の忠実度0.5超で確定的に届ける[参考資料15]。Knaut ら(2018→2024):シリコン-空孔(SiV)をナノ光共振器に入れたノードを、40 kmのファイバーと、ボストンの35 kmの敷設ループでつなぎ、核スピンメモリ間のもつれと、秒単位のもつれ保存[参考資料19] | 忠実度0.5超は、「使える限界を少し超えた」程度の値。方式ごとに意味が違う |
| トラップイオン | Krutyanskiy ら(2023):230 m離れたイオンのもつれ[参考資料22]。Main ら(2025):約2 m離れた2つのイオンのモジュールで、テレポートした制御Zゲートの忠実度86%、Grover の探索アルゴリズムの成功率71%[参考資料23]。Liu ら(2026):10 kmのスプールのファイバーで、メモリ間のもつれが、平均のもつれ成立時間を超えて保たれ、10 kmのデバイス非依存QKDと、漸近の場合101 kmでの正の鍵率も報告[参考資料24]。Wang ら(2021):171Yb+イオン1個で、コヒーレンス時間が約5500秒(960秒までの測定からの推定の時定数)[参考資料29] | イオン1個の長いコヒーレンス時間は、ネットワークのもつれ保存とは別の量。2 mはモジュール間で、長距離ではない |
事実。値はいずれも論文の要旨に基づく。方式・条件・何の値か(コヒーレンス時間か、もつれ保存か、成功率か)が違うため、行どうし・数値どうしで優劣はつけられません。
量子メモリの性能は、ほとんど材料の質で決まります。ダイヤモンドの色中心では、結晶中の原子レベルの欠陥の周りの環境(近くの核スピン、結晶のひずみ、表面の電荷)が、スピンの寿命と、光の波長の安定さを左右します。Humphreys らの実験でも、電荷状態の制御と、光の波長のゆらぎ(スペクトル拡散)の抑制が、確定的なもつれ配送の鍵として挙げられています[参考資料15]。希土類ドープ結晶では、ホストの結晶(Y2SiO5 など)と、入れる希土類イオン(Pr、Eu など)の組み合わせで、保存の長さ・帯域・波長が決まります[参考資料20・28]。Atatüre らは、ダイヤモンド・炭化ケイ素・原子層の半導体の3つの材料プラットフォームを比べ、「欠陥を、安定に、狙った場所に、再現よく作る」製造技術が課題だとしています[参考資料31]。
メモリが出す光の波長は、材料で決まる、たとえば NV では 637 nm です。この光は、通信用ファイバーでは損失が大きすぎます。そこで、光子の波長を、ファイバーの損失が小さい通信波長に変換する素子が要ります。Dréau らは、NV の光子を、差周波発生で637 nmから1588 nmへ変換し、変換の全体の効率17%を報告しています[参考資料33](2018年の報告。効率の改善は続いています)。波長変換は、Yu らの原子集団(2020年)、Knaut らの SiV(1,350 nm、2024年)、Luo らの420 kmの実験(通信のS帯、2026年)でも使われています[参考資料17・19・25]。こうした波長変換には、非線形光学の結晶・導波路が使われ、本シリーズ「薄膜ニオブ酸リチウム」編の材料と重なる分野です(本記事による解説)。
420 kmの実験で、Luo らは、2つのメモリから出る光子の相対的な位相を保つために、高い周波数の雑音を抑える常時のロックと、ゆっくりしたドリフトを補正する断続的なロックを組み合わせた、と記しています[参考資料25]。ファイバーの温度・振動による長さの変化が、光の位相を乱すため、ファイバーの被覆・敷設環境・光源の安定さが、ネットワークの性能に直結します(本記事による解説)。
9. 確認できた実験と、構想の段階のもの
量子ネットワークの話は、「実験で確かめられたこと」と「これからの構想」が混ざって語られがちです。ここでは、論文で確認できた実験を年の順に並べ、そのあとで構想を分けて示します。確認日は2026年10月16日です。
(1) 確認できた実験(年の順)
| 年・報告 | 何を示したか | 規模・条件 | 注意 |
|---|---|---|---|
| 2015 Hensen ら[参考資料14] | ダイヤモンドの電子スピンで、抜け穴をふさいだベル検定 | 1.3 km離れた2か所 | もつれの性質の確認。2ノード |
| 2017 Yin ら[参考資料26] | 衛星から、もつれた光子を地上の2局へ配る | 題名:1200 km | 光子の配送。メモリは使っていない |
| 2017 Ren ら[参考資料27] | 地上局から衛星への、単一光子のテレポーテーション | 低軌道の衛星 | 光子の状態の移送 |
| 2018 Humphreys ら[参考資料15] | もつれの生成率が崩壊率を上回る条件で、確定的にもつれを届けた | NV、2 m。生成最大39 Hz | 距離は短い。条件の達成が要点 |
| 2020 Yin ら[参考資料4] | 衛星のもつれで、地上2局間の鍵(信頼中継なし) | 1,120 km、毎秒0.12ビット | 鍵の量は小さい(前の記事) |
| 2020 Yu ら[参考資料17] | 2つの原子集団メモリを、都市規模のファイバーでもつれさせた | 敷設22 km/コイル50 km。両メモリは同じ研究室 | 「距離」はファイバーの長さ |
| 2021 Pompili ら[参考資料16] | NVの3ノードのネットワークで、もつれ配送ともつれ交換 | 3ノード。距離は本稿では未確認 | 3ノードは、小規模の網の最初の例 |
| 2021 Lago-Rivera ら/Liu ら[参考資料20・21] | 固体メモリ(希土類ドープ結晶)で、予告つきのもつれ | 別の研究室/3.5 m | 保存は最大25 μs/忠実度80.4% |
| 2023 Krutyanskiy ら[参考資料22] | トラップイオンのもつれ | 230 m | 題名のみ確認(本文は未確認) |
| 2024 Liu ら/Knaut ら[参考資料18・19] | 原子集団の3ノード都市網/SiVの核スピンメモリ間のもつれ | 最大12.5 km/40 kmのスプールと35 kmの敷設ループ | 前者は予告つき、メモリ寿命が往復通信時間より長い |
| 2025 Main ら[参考資料23] | 2つのイオンのモジュール間で、テレポートした制御Zゲートと分散量子アルゴリズム | 約2 m。ゲートの忠実度86%、Grover成功率71% | 分散量子計算の最初の実証の1つ。距離は短い |
| 2026 Liu ら[参考資料24] | メモリ間のもつれが、平均の成立時間を超えて保たれた。デバイス非依存QKDも | 10 kmのスプールのファイバー。QKDは10 km(有限)、101 km(漸近) | スプール=同じ場所に巻いたファイバー。中継器の部品 |
| 2026 Luo ら[参考資料25] | 2つの原子集団メモリを、420 kmのファイバーでもつれさせた。直接配送の限界を、もつれの生成確率が上回ると報告 | 420 km(PRL、2026年8月11日公開) | 要旨のみ確認。中継器の連なりの実証ではない |
事実。内容は論文の題名・要旨に基づく。方式・距離の意味・条件が違うため、行どうしで優劣はつけられません。2026年の2報は確認日時点の最新で、評価は今後変わりうる。
2026年のこの報告は、2つの原子集団メモリを、420 kmのファイバーでもつれさせたもので、要旨は、メモリ間のもつれの生成確率が、中継器なしの直接配送のチャネル容量を上回った、と述べています[参考資料25]。これは、量子中継器の基本の区間(素子)に関する大きな前進ですが、複数の区間をつなぎ替えて延ばす、中継器の連なりの実証ではありません(要旨に、そのような記述は確認できなかった)。「部品が1つできた」ことと、「ネットワークが動いている」ことは別です。
(2) 構想の段階 ― 量子インターネットへの6つの段階
Wehner らは、量子インターネットへの道のりを、機能の増え方で6つの段階に分けました[参考資料6]。この整理は、実験の進み具合を測り、研究者の共通の言葉を作るためのものです。
| 段階 | その段階でできること(Wehner らの記述を本稿が言い換え) |
|---|---|
| ① 信頼できる中継の網 | 端から端への量子ビットの送信はできない。隣どうしの区間で QKD を行い、信頼できる中継所を介して鍵を共有する |
| ② 送信と測定のネットワーク | 端から端の量子の機能を初めて提供する。途中の中継所を信頼せずに、端から端の QKD ができる |
| ③ もつれ配送のネットワーク | 端から端のもつれを、確定的または予告つきで作れる。端のノードにメモリは要らない |
| ④ 量子メモリのネットワーク | 端のノードが、局所のメモリと、万能な局所の制御を持つ。量子状態の一時保存が要る、より複雑なプロトコルが可能になる |
| ⑤ 少数ビットの耐故障ネットワーク | 局所の操作を耐故障にできる(少数の論理量子ビット) |
| ⑥ 量子コンピュータのネットワーク | 量子コンピュータどうしが、自由に量子通信をやり取りする最終段階 |
未確定/将来=将来の段階の整理(構想)。Wehner らは、ネットワークがある段階に達したと言えるのは、その機能がすべてのノードで使えるときだけ、としています[参考資料6]。本稿は、個々の実験がどの段階に達したかの判定をしていません。
RFC 9340 は、この構想を、ネットワークの設計の原則として整理しています。「ベル対だけを配ればよい」「複製できないので、中継はもつれ交換で行う」「忠実度はアプリケーションごとにしきい値を決める」といった考え方です[参考資料35]。RFC 9583 は、アプリケーションの例と分類をまとめています[参考資料36]。どちらも、インターネット標準ではなく、情報提供の文書です。
①大陸規模の量子中継器ネットワークの実証は、確認できなかった(確認日2026年10月16日)。②複数段のもつれ交換をメモリで保持して行い、中継器なしの限界を超える鍵・もつれを端から端で届けたという報告は、本稿が確認した範囲の要旨からは見つけられなかった。③各実験が、Wehner らのどの段階に達したかの判定。④2026年の2報の本文(要旨のみ確認)。
10. 評価・標準の読み方
量子ネットワークの進み具合は、①もつれを作る速さ、②もつれの質(忠実度)、③メモリがもつれを保てる時間と、もつれを作るのにかかる時間の比べ合い、④距離と、中継器なしの上限との比較、⑤ノードの数・ネットワークの段階、で測られます。忠実度は、作ったもつれ状態が、狙った状態にどれだけ近いかを0〜1で表す量で、RFC 9340 は、0.5より小さいと使えず、アプリケーションごとにしきい値を決めて、それ以上なら動く、と説明しています[参考資料35]。確認日は2026年10月16日です。
| 評価項目 | 代表的なベンチマーク・評価手法(名称・出典) | 標準・指針(IETF・ISO/IEC・ITU-T など) | 読み方の注意 |
|---|---|---|---|
| もつれ生成の速さ | 生成率(Hz)と、予告つきか。例:最大39 Hz(Humphreys ら)、予告の速さ最大1.4 kHz(Lago-Rivera ら)[参考資料15・20]事実 | 確認できなかった(生成率の共通の合格基準を定めた標準は確認できなかった) | 生成率は、メモリの崩壊率と比べて意味を持つ(Humphreys らの条件) |
| もつれの質 | 忠実度(0〜1)。例:80.4 ± 2.2%(Liu ら、2021)[参考資料21]事実 | RFC 9340:忠実度の定義と、アプリケーションごとのしきい値の考え方(情報提供)[参考資料35]事実 | どのしきい値が必要かは、用途で違う。「高い忠実度」の一言で比べない |
| メモリの保持 | コヒーレンス時間、もつれの保存時間、「もつれの成立時間より長く保てるか」。例:Liu ら(2026)[参考資料24]、Zhong ら(2015、6時間)[参考資料28]事実 | 確認できなかった | コヒーレンス時間と、もつれの保存時間と、成立時間は、別の量 |
| 距離の限界との比較 | 中継器なしの上限(Pirandola ら、2017)[参考資料3]。Luo ら(2026):メモリ間のもつれ生成確率が、直接配送のチャネル容量を上回ると報告[参考資料25]事実 | 確認できなかった | 「上限を超えた」は、何と比べたか(鍵率かもつれ生成確率か)を確認する |
| ネットワークの発達段階 | 6つの段階と、各段階の確認の試験の提案(Wehner ら、2018)[参考資料6]未確定/将来 | 標準ではなく、研究者の整理 | 段階の判定は、機能が全ノードで使えることが条件 |
| アーキテクチャ・用語 | — | IETF(IRTF)RFC 9340(2023年3月)、RFC 9583(2024年6月)。いずれも情報提供で、インターネット標準ではない[参考資料35・36]事実 | 「標準」という名前でも、拘束力はない |
| 国際標準の動き | — | IEC/ISO JTC 3(量子技術):適用範囲に量子通信を含み、作業部会に WG 16「Quantum Communication」と WG 13「量子乱数発生器」がある(確認日2026年10月16日)[参考資料37]事実。この記事の確認範囲で、もつれ配送ネットワークそのものを定めた国際標準は確認できなかった | 作業部会があることは、標準が出来ていることを意味しない |
| QKDネットワークの標準(参考) | — | ITU-T Y.3800系、X.1710系の勧告群。例:Y.3810(QKDネットワークの相互接続の枠組み、2024年9月)、X.1711(QKDネットワークでの QKD プロトコルの枠組み、2026年3月)。いずれも有効[参考資料38]事実 | これらは QKD 用で、もつれ配送ネットワークそのものを対象とした勧告は確認できなかった |
表の整理は本稿の計算(整理)。番号・状態は IETF・ISO・ITU-T の公式ページで確認(確認日 2026年10月16日)。
読み方の注意(素材技術者向け)
- 「N km のもつれ」の N が、何の距離かを確認する:ファイバーの長さか、ノードどうしが実際に離れた距離か。Yu ら(2020)のように、2つのメモリが同じ研究室にあり、ファイバーだけが長い実験と、別々の建物にある実験は、違う意味を持ちます[参考資料17・18]。
- 「メモリの時間」は3種類ある:1つのメモリのコヒーレンス時間(Zhong ら:6時間)、もつれを保存できた時間(Lago-Rivera ら:25 μs)、もつれの成立にかかる時間との比べ合い(Liu ら、2026)。中継器として意味があるのは、最後の比べ合いです(本記事による解説)。
- 最新の報告は、評価が定まっていない:2026年の報告(Luo ら、Liu ら)は、確認日の時点で新しく、追試や批評はこれからです。要旨の主張として読み、確認できた範囲を超えて書かないようにします。
- RFC は標準ではない:RFC 9340・9583 は、量子インターネット研究グループの合意をまとめた情報提供の文書で、インターネット標準の候補ではありません[参考資料35・36]。設計の考え方を知るのに役立ちますが、「これに従えば適合」という基準ではありません。
11. 用語集
- 量子ネットワーク
- 量子の状態やもつれを、離れたノードの間でやりとりするネットワーク。
- 量子インターネット
- 任意の2点間で量子通信を可能にする、将来の構想。今のインターネットを強化するもの。
- もつれ
- 2つ以上の量子ビットが1つのまとまりとして振る舞い、片方だけでは状態を書けないこと。
- ベル対
- 2つの量子ビットの、最も強くもつれた状態。4種類ある。
- ベルの不等式
- 「事前の取り決め」で説明できる相関の上限を示す不等式。破れが確認されると、単純な事前の取り決めは否定される。
- 飛ぶ量子ビット
- もつれを運ぶ光子。
- 物質量子ビット(メモリ)
- 原子・イオン・結晶中のスピンなど、状態を貯めておける量子ビット。
- ヘラルド(予告)
- もつれ生成が成功したことを知らせる合図。
- 古典の通信路
- 普通の通信路。テレポーテーションや、成功の合図に使う。
- 量子テレポーテーション
- もつれと2ビットの古典情報で、量子の状態を相手側に移す手順。
- ベル測定
- 2つの量子ビットを一緒に測り、4つのベル対のどれかを見分ける測定。
- もつれ交換
- 隣り合う2つのもつれ対を、ベル測定でつなぎ替えて、両端のもつれにする操作。
- 量子中継器
- もつれ交換などで、遠距離のもつれを作るノード。信号の増幅器ではない。
- 量子メモリ
- 量子の状態を壊さずにしばらく保つ部品。
- 忠実度
- 作った量子状態が、狙った状態にどれだけ近いかを0〜1で表す量。
- コヒーレンス時間
- 量子の状態が崩れずに保たれる時間。
- 蒸留(もつれの精製)
- 質の低い複数のもつれ対から、質の高い1対を取り出す操作。資源を多く使う。
- DLCZ 方式
- 原子集団と線形光学を使う、量子中継器の方式(Duan・Lukin・Cirac・Zoller、2001年)。
- 量子周波数変換
- 光子の状態を保ったまま、波長だけを変える技術。通信波長へ変えてファイバー損失を減らす。
- 複製不可能性
- 未知の量子状態を、壊さずに複製できないという原理。増幅ができない理由。
- 分散量子計算
- 複数の量子計算モジュールをネットワークでつなぎ、1つの計算にする方式。
- 信頼中継
- 中継所で鍵を受け渡す方式。中継所を信頼する前提。
- QKD(量子鍵配送)
- 光の量子的な性質で、離れた二者が共通の秘密の鍵を作る方法。
12. 参考資料(一次情報)
- NCSC (UK National Cyber Security Centre) "Quantum networking technologies"(ホワイトペーパー、版1.0、2025年8月5日公開) — ncsc.gov.uk/whitepaper/quantum-security-technologies
- Wootters W. K., Zurek W. H. "A single quantum cannot be cloned", Nature 299, 802–803 (1982), DOI 10.1038/299802a0 — doi.org/10.1038/299802a0
- Pirandola S., Laurenza R., Ottaviani C., Banchi L. "Fundamental limits of repeaterless quantum communications", Nat. Commun. 8, 15043 (2017), DOI 10.1038/ncomms15043 — nature.com/articles/ncomms15043
- Yin J. et al. "Entanglement-based secure quantum cryptography over 1,120 kilometres", Nature 582, 501–505 (2020), DOI 10.1038/s41586-020-2401-y — nature.com/articles/s41586-020-2401-y
- Chen Y.-A. et al. "An integrated space-to-ground quantum communication network over 4,600 kilometres", Nature 589, 214–219 (2021), DOI 10.1038/s41586-020-03093-8 — nature.com/articles/s41586-020-03093-8
- Wehner S., Elkouss D., Hanson R. "Quantum internet: A vision for the road ahead", Science 362, eaam9288 (2018), DOI 10.1126/science.aam9288(QuTech のサイトで公開されている受理原稿を読んだ) — doi.org/10.1126/science.aam9288
- Kimble H. J. "The quantum internet", Nature 453, 1023–1030 (2008), DOI 10.1038/nature07127 — doi.org/10.1038/nature07127
- Briegel H.-J., Dür W., Cirac J. I., Zoller P. "Quantum Repeaters: The Role of Imperfect Local Operations in Quantum Communication", Phys. Rev. Lett. 81, 5932–5935 (1998), DOI 10.1103/PhysRevLett.81.5932 — doi.org/10.1103/PhysRevLett.81.5932
- Duan L.-M., Lukin M. D., Cirac J. I., Zoller P. "Long-distance quantum communication with atomic ensembles and linear optics", Nature 414, 413–418 (2001), DOI 10.1038/35106500 — nature.com/articles/35106500
- Sangouard N., Simon C., de Riedmatten H., Gisin N. "Quantum repeaters based on atomic ensembles and linear optics", Rev. Mod. Phys. 83, 33–80 (2011), DOI 10.1103/RevModPhys.83.33 — doi.org/10.1103/RevModPhys.83.33
- Muralidharan S., Li L., Kim J., Lütkenhaus N., Lukin M. D., Jiang L. "Optimal architectures for long distance quantum communication", Sci. Rep. 6, 20463 (2016), DOI 10.1038/srep20463 — nature.com/articles/srep20463
- Bennett C. H., Brassard G., Crépeau C., Jozsa R., Peres A., Wootters W. K. "Teleporting an unknown quantum state via dual classical and Einstein-Podolsky-Rosen channels", Phys. Rev. Lett. 70, 1895–1899 (1993), DOI 10.1103/PhysRevLett.70.1895 — doi.org/10.1103/PhysRevLett.70.1895
- Żukowski M., Zeilinger A., Horne M. A., Ekert A. K. "Event-ready-detectors" Bell experiment via entanglement swapping", Phys. Rev. Lett. 71, 4287–4290 (1993), DOI 10.1103/PhysRevLett.71.4287 — doi.org/10.1103/PhysRevLett.71.4287
- Hensen B. et al. "Loophole-free Bell inequality violation using electron spins separated by 1.3 kilometres", Nature 526, 682–686 (2015), DOI 10.1038/nature15759 — nature.com/articles/nature15759
- Humphreys P. C. et al. "Deterministic delivery of remote entanglement on a quantum network", Nature 558, 268–273 (2018), DOI 10.1038/s41586-018-0200-5 — nature.com/articles/s41586-018-0200-5
- Pompili M. et al. "Realization of a multinode quantum network of remote solid-state qubits", Science 372, 259–264 (2021), DOI 10.1126/science.abg1919 — doi.org/10.1126/science.abg1919
- Yu Y. et al. "Entanglement of two quantum memories via fibres over dozens of kilometres", Nature 578, 240–245 (2020), DOI 10.1038/s41586-020-1976-7 — nature.com/articles/s41586-020-1976-7
- Liu J.-L. et al. "Creation of memory–memory entanglement in a metropolitan quantum network", Nature 629, 579–585 (2024), DOI 10.1038/s41586-024-07308-0 — nature.com/articles/s41586-024-07308-0
- Knaut C. M. et al. "Entanglement of nanophotonic quantum memory nodes in a telecom network", Nature 629, 573–578 (2024), DOI 10.1038/s41586-024-07252-z — nature.com/articles/s41586-024-07252-z
- Lago-Rivera D. et al. "Telecom-heralded entanglement between multimode solid-state quantum memories", Nature 594, 37–40 (2021), DOI 10.1038/s41586-021-03481-8 — nature.com/articles/s41586-021-03481-8
- Liu X. et al. "Heralded entanglement distribution between two absorptive quantum memories", Nature 594, 41–45 (2021), DOI 10.1038/s41586-021-03505-3 — nature.com/articles/s41586-021-03505-3
- Krutyanskiy V. et al. "Entanglement of Trapped-Ion Qubits Separated by 230 Meters", Phys. Rev. Lett. 130, 050803 (2023), DOI 10.1103/PhysRevLett.130.050803 — doi.org/10.1103/PhysRevLett.130.050803
- Main D. et al. "Distributed quantum computing across an optical network link", Nature 638, 383–388 (2025), DOI 10.1038/s41586-024-08404-x — nature.com/articles/s41586-024-08404-x
- Liu W.-Z. et al. "Long-lived remote ion–ion entanglement for scalable quantum repeaters", Nature 652, 51 (2026; published online 2 February 2026), DOI 10.1038/s41586-026-10177-4 — nature.com/articles/s41586-026-10177-4
- Luo X.-Y. et al. "Entangling Quantum Memories through a 420 km Long Fiber", Phys. Rev. Lett. 137, 070801 (published 11 August 2026), DOI 10.1103/ccd6-rf1s — journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/ccd6-rf1s
- Yin J. et al. "Satellite-based entanglement distribution over 1200 kilometers", Science 356, 1140–1144 (2017), DOI 10.1126/science.aan3211 — doi.org/10.1126/science.aan3211
- Ren J.-G. et al. "Ground-to-satellite quantum teleportation", Nature 549, 70–73 (2017), DOI 10.1038/nature23675 — nature.com/articles/nature23675
- Zhong M. et al. "Optically addressable nuclear spins in a solid with a six-hour coherence time", Nature 517, 177–180 (2015), DOI 10.1038/nature14025 — nature.com/articles/nature14025
- Wang P. et al. "Single ion qubit with estimated coherence time exceeding one hour", Nat. Commun. 12, 233 (2021), DOI 10.1038/s41467-020-20330-w — doi.org/10.1038/s41467-020-20330-w
- Lvovsky A. I., Sanders B. C., Tittel W. "Optical quantum memory", Nat. Photon. 3, 706–714 (2009), DOI 10.1038/nphoton.2009.231 — nature.com/articles/nphoton.2009.231
- Atatüre M., Englund D., Vamivakas N., Lee S.-Y., Wrachtrup J. "Material platforms for spin-based photonic quantum technologies", Nat. Rev. Mater. 3, 38–51 (2018), DOI 10.1038/s41578-018-0008-9 — nature.com/articles/s41578-018-0008-9
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- Dréau A. et al. "Quantum Frequency Conversion of Single Photons from a Nitrogen-Vacancy Center in Diamond to Telecommunication Wavelengths", Phys. Rev. Applied 9, 064031 (2018), DOI 10.1103/PhysRevApplied.9.064031 — journals.aps.org/prapplied/abstract/10.1103/PhysRevApplied.9.064031
- Lauk N. et al. "Perspectives on quantum transduction", Quantum Sci. Technol. 5, 020501 (2020), DOI 10.1088/2058-9565/ab788a — doi.org/10.1088/2058-9565/ab788a
- Kozlowski W., Wehner S., Van Meter R. et al. (IRTF QIRG) RFC 9340 "Architectural Principles for a Quantum Internet"(情報提供の RFC、2023年3月) — rfc-editor.org/rfc/rfc9340.html
- Wang C., Rahman A., Li R. et al. (IRTF QIRG) RFC 9583 "Application Scenarios for the Quantum Internet"(情報提供の RFC、2024年6月) — rfc-editor.org/rfc/rfc9583.html
- IEC/ISO JTC 3 iso.org の委員会ページ "Quantum technologies"(適用範囲、WG 13 量子乱数発生器・WG 16 量子通信を含む作業部会の一覧。2026年10月16日確認) — iso.org/committee/10138914.html
- ITU-T QKD ネットワークに関する勧告 Y.3800〜Y.3820、X.1710〜X.1715(例:Y.3810 "Quantum key distribution network interworking - Framework"、2024年9月、有効。X.1711 "Framework of quantum key distribution (QKD) protocols in QKD networks"、2026年3月)(ITU-T のページ。2026年10月16日確認) — itu.int/rec/T-REC-Y.3810/en
13. 主張と出典の対応表(監査)
| 本文の主張 | 根拠 | 区分 |
|---|---|---|
| 量子ネットワークの3分類(古典機能の置き換え/古典網への量子機能の追加/もつれを配る量子ネットワーク)と、量子メモリ・中継器の必要性 | 英国 NCSC のホワイトペーパー(2025年8月5日) 出典1 https://www.ncsc.gov.uk/whitepaper/quantum-security-technologies | 事実 |
| 量子インターネットは今のインターネットを強化するもの。古典のデータ面はデータを運び、量子のデータ面はユーザーが送るための資源(ベル対)を提供すること。ベル対は4種類。フライングキュービットと物質量子ビット。予告つきの生成の3方式。テレポーテーションの手順(2ビットの古典情報、光速を超えない)。もつれ交換と量子中継器。忠実度の定義と0.5の目安。蒸留の資源。複製不可能性で増幅できないこと。ファイバーで数十 km、衛星で1000 km程度を超えると直接の生成率は事実上0 | RFC 9340(IRTF QIRG、情報提供、2023年3月) 出典35 https://www.rfc-editor.org/rfc/rfc9340.html | 事実 |
| 量子インターネットのアプリケーションの例と分類 | RFC 9583(IRTF QIRG、情報提供、2024年6月) 出典36 https://www.rfc-editor.org/rfc/rfc9583.html | 事実 |
| 量子インターネットへの6つの段階(信頼できる中継の網/送信と測定/もつれ配送/量子メモリ/少数ビットの耐故障/量子コンピュータの網)と、「全ノードで機能が使えるとき段階に達する」との基準 | Wehner ら(2018)の受理原稿 出典6 https://doi.org/10.1126/science.aam9288 | 事実未確定/将来 |
| 量子インターネットの構想(Kimble、2008)、量子中継器の提案(Briegel ら、1998)、もつれ交換(Żukowski ら、1993)、テレポーテーション(Bennett ら、1993)、複製不可能性(Wootters と Zurek、1982)の題名・書誌 | 各論文の書誌(Crossref で確認) 出典7 https://doi.org/10.1038/nature07127 出典8 https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.81.5932 出典13 https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.71.4287 出典12 https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.70.1895 出典2 https://doi.org/10.1038/299802a0 | 事実 |
| DLCZ 方式が、原子集団と線形光学を使い、通信の効率が距離に対して多項式で減るとされること | Duan ら(2001)の要旨 出典9 https://www.nature.com/articles/35106500 | 事実 |
| 量子中継器の方式が、損失と操作誤りの補い方で3つのカテゴリ(世代)に分けられ、時間と資源のコストが比較されたこと。原子集団と線形光学による中継器のレビュー | Muralidharan ら(2016)の要旨、Sangouard ら(2011)の書誌 出典11 https://www.nature.com/articles/srep20463 出典10 https://doi.org/10.1103/RevModPhys.83.33 | 事実 |
| 抜け穴をふさいだベル検定(1.3 km、ダイヤモンドの電子スピン)。Nature の紹介文が、局所実在論の棄却が2標準偏差にとどまると記すこと | Hensen ら(2015)の要旨・紹介文 出典14 https://www.nature.com/articles/nature15759 | 事実 |
| NV の2 mで、生成最大39 Hz、崩壊率5 Hz、約100 msごと、平均忠実度0.5超。電荷状態の制御とスペクトル拡散の抑制 | Humphreys ら(2018)の要旨 出典15 https://www.nature.com/articles/s41586-018-0200-5 | 事実 |
| NV の3ノードの網で、もつれ配送ともつれ交換 | Pompili ら(2021)の要旨(Crossref) 出典16 https://doi.org/10.1126/science.abg1919 | 事実 |
| 原子集団の2メモリを、敷設22 km・コイル50 kmのファイバーでもつれさせた(2メモリは同じ研究室) | Yu ら(2020)の要旨 出典17 https://www.nature.com/articles/s41586-020-1976-7 | 事実 |
| 3ノード・最大12.5 km、メモリ寿命が往復通信時間より長い | Liu ら(2024)の要旨 出典18 https://www.nature.com/articles/s41586-024-07308-0 | 事実 |
| SiV の核スピンメモリ間のもつれ(40 kmのスプール、ボストンの35 kmループ、1,350 nm、秒単位の保存) | Knaut ら(2024)の要旨 出典19 https://www.nature.com/articles/s41586-024-07252-z | 事実 |
| Pr ドープ結晶の予告つきのもつれ(最大1.4 kHz、最大25 μs、62モード)。別の固体メモリの3.5 m・忠実度80.4±2.2%・帯域1 GHz | Lago-Rivera ら、Liu ら(2021)の要旨 出典20 https://www.nature.com/articles/s41586-021-03481-8 出典21 https://www.nature.com/articles/s41586-021-03505-3 | 事実 |
| トラップイオンのもつれ(230 m)。分散量子計算(約2 m、CZ 86%、Grover 71%) | Krutyanskiy ら(2023)の題名(Crossref)、Main ら(2025)の要旨 出典22 https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.130.050803 出典23 https://www.nature.com/articles/s41586-024-08404-x | 事実 |
| 10 kmのスプールで、メモリ間のもつれが平均成立時間を超えて保たれたこと。デバイス非依存QKDが10 km(有限)・101 km(漸近) | Liu ら(2026)の要旨(Nature 652、51) 出典24 https://www.nature.com/articles/s41586-026-10177-4 | 事実未確定/将来 |
| 420 kmで2つの原子集団メモリをもつれさせ、直接配送のチャネル容量を上回るとの報告。S帯への変換と位相のロック | Luo ら(2026)の要旨(PRL 137、070801、2026年8月11日) 出典25 https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/ccd6-rf1s | 事実未確定/将来 |
| 衛星からのもつれ光子の配送(題名1200 km)、地上局から衛星へのテレポーテーション、衛星のもつれによる鍵(1,120 km、0.12ビット/秒)、衛星と地上の統合ネットワーク | Yin ら(2017)、Ren ら(2017)、Yin ら(2020)、Chen ら(2021) 出典26 https://doi.org/10.1126/science.aan3211 出典27 https://www.nature.com/articles/nature23675 出典4 https://www.nature.com/articles/s41586-020-2401-y 出典5 https://www.nature.com/articles/s41586-020-03093-8 | 事実 |
| 中継器なしの鍵の上限(損失が大きいとき約1.44η) | Pirandola ら(2017) 出典3 https://www.nature.com/articles/ncomms15043 | 事実 |
| Eu ドープ Y2SiO5 の核スピンで6時間のコヒーレンス時間。171Yb+ 1個で約5500秒 | Zhong ら(2015)、Wang ら(2021)の要旨 出典28 https://www.nature.com/articles/nature14025 出典29 https://doi.org/10.1038/s41467-020-20330-w | 事実 |
| 光の量子メモリのレビュー、固体スピンの量子技術と材料プラットフォーム(ダイヤモンド・炭化ケイ素・原子層半導体)のレビュー | Lvovsky ら、Awschalom ら、Atatüre ら(要旨) 出典30 https://www.nature.com/articles/nphoton.2009.231 出典32 https://www.nature.com/articles/s41566-018-0232-2 出典31 https://www.nature.com/articles/s41578-018-0008-9 | 事実 |
| NV の637 nm の光を差周波発生で1588 nm に変換、全体の効率17% | Dréau ら(2018)の要旨 出典33 https://journals.aps.org/prapplied/abstract/10.1103/PhysRevApplied.9.064031 | 事実 |
| 量子トランスダクション(マイクロ波と光の変換)のレビューが存在すること | Lauk ら(2020)の題名・書誌 出典34 https://doi.org/10.1088/2058-9565/ab788a | 事実 |
| IEC/ISO JTC 3 の適用範囲(量子通信を含む)と、WG 13・WG 16 を含む作業部会の一覧 | ISO の委員会ページ(確認日 2026年10月16日) 出典37 https://www.iso.org/committee/10138914.html | 事実 |
| ITU-T の QKD ネットワーク勧告群(Y.3810 は2024年9月、X.1711 は2026年3月、有効) | ITU-T の勧告ページ 出典38 https://www.itu.int/rec/T-REC-Y.3810/en | 事実 |
| 図6の試行回数の表と図(1/η、期待値の和)、距離と時間の表、区間に分けた場合の平均試行回数(1000 kmを1〜40区間)、メモリの保持時間の見積もり(約17 ms)、片道の通信時間(約5 ms) | 本稿の計算(Python。損失0.2 dB/km、メモリは無限に保持、つなぎ替えは必ず成功、検出器は理想的、光速は約20万 km/秒の仮定。実在の装置の値ではない) | 本稿の計算 |
| 「もつれ」の矢印のたとえ、手袋のたとえを使わない理由、メモリの評価の観点(効率・忠実度・時間・帯域・多重度・波長)、各材料についての素材の視点、波長変換素子と薄膜ニオブ酸リチウムの関係、位相の安定と環境の関係、各実験の読み方の注意 | 公表内容にもとづく本記事の整理・解説。各機関・著者が表明した見解ではない | 解説 |
| 大陸規模の量子中継器ネットワーク、複数段のもつれ交換を伴い中継器なしの限界を超えた端から端の実証、各実験が到達した段階の判定、量子通信の国際標準の中身 | 本稿が確認した範囲では確認できなかったため記載していない | 解説 |
| 図2〜8と図10が実データの観察ではなく説明のための作図であること。図1と図9がImageGen生成の概念画像であること | 本記事による注記 | 解説 |
最終更新:2026年10月16日/出典は一次情報(査読論文、IRTF の RFC、ISO・ITU-T の公式ページ、英国 NCSC の文書)に限定しています。2026年の2報(Liu ら、Luo ら)は要旨のみ確認しました。数値例は本稿の計算で、理想化した仮定による仕組みの説明です。大陸規模の量子中継器ネットワークの実証、複数段のもつれ交換を伴う端から端の実証、各実験が到達した段階の判定、量子通信の国際標準の中身は、確認できなかったため記載していません。図はすべて説明用の概念図または本稿の計算を含む作図で、図1と図9はImageGen生成の概念画像です。



