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量子コンピュータの基礎 技術解説

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TECHNOLOGY EXPLAINER

量子コンピュータの基礎
― 矢印・重ね合わせ・干渉・量子もつれ・測定を、図でやさしく

量子コンピュータは、「0か1」のスイッチではなく、矢印の向きで情報を持つ部品(量子ビット)を使う計算機です。 ただし「すべての答えを同時に計算する魔法の機械」ではありません。鍵になるのは、答えを出す波の足し算(干渉)をうまく設計することです。 この記事は、量子力学を知らない人にも読めるように、図と小さな数値例だけで、量子ビット・重ね合わせ・干渉・量子もつれ・測定・複製不可能性を順に説明します。 最後に、何が得意で何が苦手か、どう作るか、いまどこまで来たか、性能をどう読むかをまとめます。シリーズ全体の入口になる記事です。

構成:教科書(Nielsen と Chuang)、査読論文(Nature、Science、Physical Review、Quantum ほか)、ISO/IEC・IEEE の公式ページ、企業の公式ページを使用/数値例は本稿で計算/確認日 2026年10月16日

極低温の冷却装置の中に量子ビットのチップが入る、というイメージの場面です。実際の装置・製品・測定結果を示すものではありません。
図1 概念画像(ImageGen生成)。極低温の冷却装置の中に量子ビットのチップが入る、というイメージの場面です。実際の装置・製品・測定結果を示すものではありません。 実際の製品・施設・寸法・測定結果ではありません。拡大模型と実物スケールの場面は区別してください。
この記事の構成
  1. 3行でわかる/読む前に知っておくこと/シリーズの中での位置
  2. 出発点:古典のビット、と量子ビット
  3. 量子ビット:「矢印」のたとえ
  4. 測定:測ると決まり、元には戻らない
  5. 干渉:波の足し算(量子コンピュータの心臓部)
  6. 量子もつれ:2つが「ひとまとまり」になる
  7. 複製不可能性:量子の状態はコピーできない
  8. 量子コンピュータは何をしているのか(よくある誤解を正す)
  9. 古典コンピュータとの比較:何が得意で、何が苦手か
  10. どうやって作るか:量子ビットの方式と、材料の役割
  11. いまどこまで来たか(2026年10月16日確認)
  12. 評価・標準の読み方
  13. 用語集
  14. 参考資料(一次情報)
  15. 主張と出典の対応表(監査)
本記事の表記ルール

事実=公表資料に記載のある内容(出典リンクあり)
本稿の計算=明示した前提をもとに本記事が算出した値
未確定/将来=企業の目標・計画、策定中の標準など、確定していない事項
このほか、素材分野への読み取りは「解説」として区別しています。推測は太字で示します。たとえ話には、必ず「たとえの限界」を書きます。

この記事の数値の読み方

第3〜6章の確率・振幅・状態数の数値は、本稿が計算した説明用の値(乱数の種を固定)で、実在の装置の測定結果ではありません。 企業の性能・計画の主張は、その企業の主張として扱い、優劣は論じません。規格(ISO/IEC・IEEE)は題名・適用範囲・状態の確認にとどめ、本文は確認していません。 この分野は変化が速いため、機器・計画・標準の状態には確認日(2026年10月16日)を付けています。

1. 3行でわかる/読む前に知っておくこと/シリーズの中での位置

  • 量子ビットは「矢印」:古典のビットが「0か1」のどちらかなのに対し、量子ビットは球の中心から出る矢印で表せます。北向きが0、南向きが1、斜めが「重ね合わせ」です。ただし、測ると0か1のどちらかに決まり、元の矢印には戻りません事実[参考資料1]
  • 量子コンピュータの武器は「干渉」:量子の状態は波のように足し算ができます。正しい答えの波が強め合い、間違いの波が弱め合うように計算を組むことで、一部の問題が速く解けます。「全部の答えを同時に計算して選ぶ」のではありません事実[参考資料9・11]
  • 万能の高速機ではない:速くなると示されている問題は限られ、大半の日常の計算(表計算、文書、動画など)には向きません。装置も、まだノイズ(誤り)との戦いの途中です事実[参考資料2・11・22]
この記事を読む前に知っておくこと

前提知識はありません。「ビット(0か1)」と「波(水面の波のように足し算できるもの)」のイメージがあれば十分です。式は最小限にし、使うときは文章で意味を説明し、数値の例で確かめます。難しい話は「もっと詳しく」の折りたたみに入れています。

シリーズの中での位置

この記事は、シリーズ「量子コンピュータ」の最初に読む記事です。次は、矢印を回す操作を扱う「量子ゲートと量子回路」編、続いて「コヒーレンスとフィデリティ」編(装置の性能のものさし)、「量子アルゴリズム」編(なぜ速くなるのか)の順に読むと、つながりが分かりやすくなります。方式ごとの話(超伝導、イオン、中性原子など)や、誤り訂正、暗号、化学への応用は、本シリーズの各編で詳しく扱います。

2. 出発点:古典のビット、と量子ビット

まず、身近なコンピュータの情報の単位から確認します。スマートフォンやパソコンの中では、情報はビットで表されます。1ビットは「0」か「1」のどちらか一方で、たとえば電流が流れていない/流れている、という物理的な状態に対応します。見れば分かり、何度見ても変わらず、何個でもコピーできます。

量子コンピュータが使う量子ビット(qubit:quantum bit)は、同じように「0」と「1」という2つの状態を持ちますが、それだけではありません。0と1の間の無数の状態を取れます。この違いを、次の図で見てみましょう。

ビットと量子ビットの違い 古典コンピュータのビット 量子ビット 0 1 スイッチ「切」 スイッチ「入」 いつも「0」か「1」のどちらか一方 3ビットなら 000〜111 の8通りのうち1つ 状態は「見ればわかる」 |0⟩ |1⟩ x y 矢印はいろいろな向きをとれる 測ると「0」か「1」の一方に決まる ※ 矢印は量子ビットの「状態」を表す絵です。向きが球面のどこでも良い(無数にある)点が、スイッチとの違いです。
図2 概念図(ベクター作図)。左は古典のビット(0か1)、右は量子ビット(球の中の矢印)。矢印のたとえは、本シリーズ全体で共通に使います。絵は説明用で、実在の装置の構造ではありません。
つまずきやすいところ:「量子ビットは『0と1が同時にある』」と聞いたことがある

よく使われる説明ですが、この記事ではこの言い方を使いません。誤解のもとになるからです(詳しくは第8章の「よくある誤解」)。代わりに、「矢印がどこかを向いている」と考えます。矢印が北を向けば「0」、南を向けば「1」、斜めを向いていれば、その斜め具合が「0と1の混ざり具合」を表します。これが「重ね合わせ」と呼ばれる状態です。

3. 量子ビット:「矢印」のたとえ

量子ビット1個の状態は、球の中心から表面に向かう矢印で表せます。この球をブロッホ球といいます。北極を「0」、南極を「1」と決めておきます。教科書[参考資料1]や IBM Quantum Learning[参考資料35]でも使われる標準的な描き方です事実。

量子ビットの状態=球の中心から出る矢印 |0⟩ |1⟩ x y 矢印(状態) 傾き θ 北極=0、南極=1(「0」「1」は矢印の両端の名前) ① 北向き = 0 測ると、かならず 0 が出る ② 南向き = 1 測ると、かならず 1 が出る ③ 斜め =「重ね合わせ」 測ると 0 か 1 のどちらかに決まる。 北に近いほど 0 が出やすい(傾き θ で決まる) ④ 赤道まわりの向き =「位相」 測っても見えない。でも次の「干渉」で 結果を変える大事な情報(第5章)
図3 概念図(ベクター作図)。量子ビットの矢印のたとえ(ブロッホ球)。θ は矢印と北極のなす角です。矢印は1個の量子ビットだけに使える絵で、複数の量子ビットが「もつれる」とこの絵では表せません(第6章)。

(1) 矢印の傾きが、測ったときの出やすさを決める

では、斜めを向いた矢印を「測る」とどうなるでしょう。結果は0か1のどちらかに決まりますが、どちらが出るかは矢印の傾きで決まる確率です。北に近いほど「0」が出やすく、赤道の真上なら半々です。傾き θ(北向きを 0°、南向きを 180° とする角度)のとき、「0」が出る確率は cos²(θ/2) です事実[参考資料1]。

矢印の傾き θ と、測って「0」が出る確率(本稿の計算) 0% 25% 50% 75% 100% 0° 30° 60° 90° 120° 150° 180° 矢印の傾き θ(北向き 0° → 南向き 180°) 確率 実線:「0」が出る確率 cos²(θ/2) 点線:「1」が出る確率 100% : 0% 75% : 25% 50% : 50% 25% : 75% 0% : 100% ※ 表記は「0が出る確率 : 1が出る確率」。θ=60° で 75% : 25%、θ=90°(赤道)で 50% : 50%。
図4 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。傾き θ と測定結果の確率の関係(P(0) = cos²(θ/2))。本稿が計算した曲線で、実在の装置の測定結果ではありません。式は教科書[参考資料1]にある標準的な関係です。
矢印の傾き θ矢印の向き「0」が出る確率「1」が出る確率
0°真北100%0%
60°北寄りの斜め75%25%
90°赤道(真横)50%50%
120°南寄りの斜め25%75%
180°真南0%100%

本稿の計算。cos²(θ/2) を θ = 0°, 60°, 90°, 120°, 180° で計算しました(30° は 93.3% : 6.7%)。数値で確認しておくと、60° のとき cos²(30°) = 0.75 です。

(2) 矢印のもう一つの情報:向き(位相)

矢印は、傾き(北からの角度)のほかに、北極の軸のまわりをどちらに向いているか(地球でいう経度)という情報も持っています。これを位相と呼びます。位相は、そのまま測っても0か1の確率には現れません。けれども、次の第5章で見るように、波を足し合わせる(干渉)ときに結果を変える、とても大事な情報です。

もっと詳しく:式で書くと(読み飛ばしても大丈夫です)

量子ビットの状態は、2つの数 α、β(振幅と呼ぶ複素数)を使って α|0⟩ + β|1⟩ と書けます。「0」が出る確率は |α|²、「1」が出る確率は |β|²で、合計は1です。矢印の傾き θ と向き φ を使うと、α = cos(θ/2)、β = eiφ sin(θ/2) です[参考資料1]。第3章の確率表は、この式で θ = 60° とすると α = cos 30° ≈ 0.866、|α|² = 0.75 となることから得られます(本稿の計算)。|0⟩ のような記号は、「状態が0であること」を表す書き方で、この記事では図の説明に使うだけです。

たとえの限界:矢印の絵は、量子ビット1個のときしか使えない

矢印のたとえは、量子ビットが1個のときの状態を正確に表します。量子ビットが2個以上になって「もつれる」(第6章)と、それぞれに1本ずつ矢印を描くことはできなくなります。また、矢印の絵は「状態の見た目」を表すだけで、「なぜそうなるか」の説明ではありません(本記事による解説)。

4. 測定:測ると決まり、元には戻らない

量子ビットを「測る」ことを測定といいます。測定には、古典のビットにはない、次の3つの性質があります事実[参考資料1]。

  1. 結果は0か1のどちらか一方:斜めを向いた矢印でも、測定の結果として出るのは「0」か「1」のどちらかだけです(「0.3」のような中間の値は出ません)
  2. 測った後、矢印は結果の向きに変わる:「0」が出たら北向き、「1」が出たら南向きになり、元の斜めの矢印には戻りません
  3. 1回では、元の傾きは分からない:1回の測定で得られるのは0か1が1つだけです。傾きを知るには、同じ準備を何度もやり直して、0と1が出た割合を調べます
量子計算の流れと、測定のくり返し ① 準備 矢印を北向き(0)にそろえる ② 操作 矢印を回す(60°傾ける) ③ 測定 0 か 1 に決まる ④ 記録 結果を1回ぶん記録 同じことを 1000 回くり返す(1回の測定では 0 か 1 が1つ出るだけ) 733 回 結果「0」 267 回 結果「1」 理論値 75% 回数 ※ 傾き 60° の矢印を1000回測った計算例(乱数の種0)。理論の確率は 0 が75%・1が25%。くり返すと割合が理論値に近づく。
図5 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。測定は1回で0か1が1つ出るだけなので、同じ回路を何度もくり返して確率を調べます。棒の高さは本稿の模擬計算(1000回、乱数の種0)の結果で、実在の装置の測定ではありません。

たとえば、傾き60°の矢印を1000回準備して測ると、理論上は「0」が約750回、「1」が約250回出ます。本稿の模擬計算(乱数の種0)では、0が733回、1が267回でした本稿の計算。1回ごとの結果はサイコロのようにばらつきますが、回数を増やすと割合が理論値に近づきます。

つまずきやすいところ:測定は「中を覗く」ことではなく「状態を変える」こと

古典のビットは、見ても壊れません。量子ビットは、測るという行為そのものが状態を変えます。たとえるなら、「ガラス玉を見る」のではなく「ガラス玉に触って、手触りで北か南か判定する」ようなものです。触ったあとの玉は、もう元の状態ではありません。たとえの限界:実際の測定は、装置と量子ビットの相互作用で起きる物理現象で、「触る」わけではありません。

もっと詳しく:n個の量子ビットを測っても、取り出せるのはnビットだけ

n個の量子ビットは、後で見るとおり、状態を書くには2n個の数(振幅)が必要になることがあります。ところが、測って取り出せる情報は、0と1のn桁の並びが1つだけです。教科書[参考資料1]は、量子ビット n 個から取り出せる古典の情報は最大 n ビットだ、という結果(Holevo の定理)を扱っています(本記事による解説)。この点は、第8章の「全部の答えを同時に計算するわけではない」ことの理由の1つです。

5. 干渉:波の足し算(量子コンピュータの心臓部)

(1) まず、身近な「波」

水面に2つの波が重なると、山と山が重なる場所では波が高くなり、山と谷が重なる場所では打ち消し合って静かになります。これが干渉です。前者を強め合い、後者を弱め合いと呼びます。

波の足し算 = 干渉:強め合いと弱め合い 強め合い(山と山が重なる) 波A 波B A + B 波を足すと、高さが2倍 弱め合い(山と谷が重なる) 波A 波B A + B 波を足すと、消える ※ 量子コンピュータの「干渉」は、量子の状態を表す波(振幅)の足し算です。正解が強め合い、間違いが弱め合うように設計します。
図6 概念図(ベクター作図)。波の足し算(干渉)の概念図。同じ形の波は重ねると強め合い、山と谷を重ねると打ち消し合います。波の形は説明用に描いたものです。

(2) 量子ビットの「波」:振幅

量子の世界では、測定で0や1が出る「確率」の元になる数が、波のように振る舞います。この数が第3章で出てきた振幅(波の高さ)です。大切なのは次の2点です事実[参考資料1]。

  • 振幅にはプラスとマイナスがあります。確率はマイナスになれませんが、振幅はなれるので、足し算で打ち消し合いが起きます
  • 測定で「0」が出る確率は、「0」に届く波の振幅を足してから2乗した値です(先に2乗してから足すのではありません)

(3) 確かめてみる:同じ操作を2回かけると

ここで、量子ビットに特有の操作を1つ使います。北向き(0)の矢印を赤道まで倒し、半々の状態にする操作で、H(アダマール)ゲートと呼ばれます(詳しくは「量子ゲートと量子回路」編)。この「半々にする操作」を2回続けて行うと、どうなるでしょう。

コイン投げなら、2回投げても半々のままです。ところが量子ビットは、北向きに戻ります。理由は干渉です。次の図の「経路」をたどってみてください。

同じ操作を2回:コイン投げなら半々のまま、量子なら干渉で「0」に戻る 古典の確率的なビット(コイン投げを2回) 0 最初 投げる 0:50% 1:50% もう一度投げる 0:50% 1:50% → 半々のまま (確率は足し算のみ) 量子ビット(重ね合わせを作る操作 H を2回):矢印の上の数は「振幅」(波の高さ。マイナスがある) |0⟩ |0⟩ |1⟩ |0⟩ |1⟩ +0.71 +0.71 +0.71 +0.71 +0.71 −0.71 最初(北向き) 1回目の H 後:どちらも 0.71(50% ずつ) 2回目の H 後(最後) 0.71×0.71 +0.71×0.71 =1 強め合い 0.71×0.71 −0.71×0.71 =0 弱め合い → 1 は出ない
図7 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。量子ビットでは、同じ操作(H)を2回かけると、2つの経路の波が |0⟩ で強め合い、|1⟩ で弱め合います。0.71 は 1/√2 の近似値で、振幅の計算は本稿の計算です(本稿が数値で確認)。
最終の状態届く経路(2本)の振幅足した振幅測定で出る確率(足した振幅の2乗)
「0」0.71×0.71 と 0.71×0.71(どちらもプラス)0.5 + 0.5 = 1100%(強め合い)
「1」0.71×0.71 と 0.71×(−0.71)(片方がマイナス)0.5 − 0.5 = 00%(弱め合い)

本稿の計算。0.71 は 1/√2 ≒ 0.7071 の近似値。行列計算で H を2回かけて、結果が (1, 0)、つまり北向きに戻ることを数値で確認しました。H の定義は教科書[参考資料1]によります。

つまずきやすいところ:「ランダムな0と1」と「重ね合わせ」は別物

半々の状態は、見かけは「コインを投げた結果」と同じで、1回測ると0か1がランダムに出ます。違いは、測らずにもう一度操作したときに現れます。コイン(確率だけ)は足し算しかできませんが、量子ビット(振幅)は引き算(打ち消し)ができます。この「打ち消し」が、量子コンピュータが古典の確率的なコンピュータと違う力を持つ理由です(本記事による解説。理論的な背景は参考資料9・11)。

素材技術者の視点①:干渉は「環境の乱れ」にとても弱い

干渉は、波の足し算の位相(タイミング)がそろっていることが条件です。波のタイミングが少しでもずれると、打ち消し合いが不完全になり、「1」が出ないはずの場面で「1」が出てしまいます。量子ビットの位相は、周囲の磁場のゆらぎ、電荷のゆらぎ、材料中の欠陥などで乱されます。これが「デコヒーレンス」で、「コヒーレンスとフィデリティ」編で詳しく扱います。素材から見ると、量子ビットの性能は、材料の純度と界面の完成度で決まる、ということです(第10章で具体例。本記事による解説)。

6. 量子もつれ:2つが「ひとまとまり」になる

(1) 2個の量子ビットを、1つのまとまりとして扱う

量子ビットを2個使うとき、ふつうは「Aの矢印」と「Bの矢印」を別々に描けます。ところが、2個の量子ビットに特別な操作(CNOTゲート。「量子ゲートと量子回路」編で扱います)をすると、どちらか一方だけでは状態を書けない状態になることがあります。これが量子もつれ(エンタングルメント)です。

代表的な例は、「00」と「11」の2つの組み合わせが同じ高さの波として重なった状態(ベル状態)です。この状態の2つの量子ビットを両方測ると、結果は「00」か「11」のどちらかで、「01」や「10」は出ません。どちらが出るかは、毎回ランダムです事実[参考資料1]。

量子もつれ:2つの量子ビットが「ひとまとまり」になる もつれたペア(2つで1つの状態) 量子ビット A 量子ビット B A だけ見ても、B だけ見ても それぞれの矢印は決まっていない (2つを合わせた状態としてだけ書ける) 例:(|00⟩ + |11⟩)/√2 A と B を同時に測ると(12回の例) 11 11 00 11 00 00 11 00 11 00 11 11 出るのは「00」か「11」だけ。 「01」「10」は出ない 1000回では 00:507回、11:493回(本稿の模擬計算) よくある誤解:「Aを測ると、離れたBに瞬時に情報が伝わる」 A だけを見ると、結果は 0 か 1 のランダム(約50%ずつ)で、相手が何をしたかは分かりません。 2人が結果を持ち寄って比べて、はじめて「いつも一致している」ことがわかります。通信で情報を送ることはできません。
図8 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。量子もつれのイメージ。2つの量子ビットを測ると結果が必ずそろいますが、片方だけを見ると0か1のランダムです。12回の例と1000回の集計は本稿の模擬計算(乱数の種1)です。

(2) 「手袋のたとえ」と、その限界

身近なたとえとして、右手と左手の手袋を別々の箱に入れ、離れた場所へ送る場面を考えます。片方の箱を開けて「右手」と分かれば、もう一方は「左手」だと分かります。これは古典の相関です。箱を開ける前から、中身は決まっていました。

量子もつれの相関は、これでは説明できないことが実験で確かめられています。「測る前から結果が決まっている」という考え方(局所隠れ変数理論)が正しければ成り立つはずの不等式(ベルの不等式)が、実験で破られることが示されてきました。Hensen らは、電子のスピンを1.3 km 離して、検出の抜け穴を同時にふさいだ形でベルの不等式の破れを報告しています事実[参考資料7]。2022年のノーベル物理学賞は、Aspect、Clauser、Zeilinger に、「もつれた光子を使った実験、ベルの不等式の破れの確立、量子情報科学の開拓」により授与されました事実[参考資料8]。

たとえの限界:手袋は「箱を開ける前から中身が決まっている」点が、量子もつれと違います。また、手袋のたとえでは、測り方を変えたとき(たとえば北南ではなく東西で測る)の相関を説明できません(本記事による解説)。

よくある誤解:「量子もつれを使えば、情報が瞬時に伝わる」は誤り

Aを測った結果は、それだけを見るとランダムな0か1です。Bの側の人は、Aの側の人が「何を測ったか」「測ったかどうか」さえ、Bだけを見て知ることはできません。2人が結果を持ち寄って比べてはじめて「いつも一致している」と分かります。比べるには、普通の通信(光速を超えない)が必要です。したがって、量子もつれだけで情報を送ることはできません(本記事による解説。量子もつれを使った通信の仕組みは、本シリーズ『量子ネットワークと量子中継』編で扱います)。

(3) もつれのおかげで、状態の数が爆発的に増える

量子ビットが1個なら、状態を書くのに必要な数(振幅)は2個です。2個なら4個、3個なら8個。量子ビットが1つ増えるたびに、必要な数は2倍になります。量子ビットがもつれていると、n 個の状態を書くのに 2n 個の数が必要になるのが一般的です事実[参考資料1・4](もつれていない場合は 2n 個で済みます)。

量子ビットが1つ増えると、状態を書くのに必要な数は2倍(本稿の計算) 量子ビット数 n 必要な「振幅」の数 2ⁿ そのまま書き出すのに必要な記憶量(1個16バイトとして) n = 10 1,024 16 KiB n = 20 約105万 16 MiB n = 30 約10.7億 16 GiB n = 40 約1.1兆 16 TiB n = 50 約1.1千兆 16 PiB n = 300 では 2³⁰⁰ ≈ 2×10⁹⁰ 個。どんな記憶装置にも書き出せない大きさです。 ※ 「書き出せない」ことと「古典で計算できない」ことは同じではありません。工夫(近似など)で計算できる問題もあります(第9章)。
図9 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。n 量子ビットの状態を、古典コンピュータにそのまま書き出すときの数(2ⁿ 個の複素数)と記憶量。倍精度の複素数を16バイトとした本稿の計算で、特定の機器の仕様ではありません。棒の長さは増え方の目安です(実際の比は桁違いに大きい)。

たとえば、50量子ビットの状態を、振幅1個を16バイト(倍精度の複素数)として古典コンピュータのメモリにそのまま書き出すと、約16 PiB(250 × 16 バイト)になります本稿の計算。Feynman は1982年に、「量子の系を古典の計算機でそのまま追いかけると、規模とともに計算量が急に増えてしまう。ならば、量子の部品で量子の系を模擬したらどうか」という考えを示しました事実[参考資料4]。これが量子コンピュータの発想の出発点の1つです。

つまずきやすいところ:「状態の数が2n」と「2n個の答えが得られる」は違う

2n個の振幅を持てることと、2n個の計算結果を取り出せることは、別のことです。第4章で見たとおり、測定で取り出せるのは、n桁の0と1の並びが1つだけです。「大きな表を持っているが、1回に1か所しか覗けず、覗くと表が壊れる」状態と考えてください。だからこそ、干渉で、見たい答えが出やすいように表の中身を整える必要があります(第8章)。

7. 複製不可能性:量子の状態はコピーできない

古典の情報は、読んで、同じものを書けば、何個でもコピーできます。量子の状態は違います。未知の量子状態を、そっくり同じ状態のコピーに写し取る装置は作れないことが、1982年に Wootters と Zurek、そして Dieks によって示されました(複製不可能性定理)事実[参考資料5・6]。

古典の情報はコピーできるが、未知の量子状態はコピーできない 古典:読んで、同じものを書く ファイル 「0110」 コピー 「0110」 「0110」 読み出しても元は変わらない → 何部でも同じものができる だから誤りの訂正も「同じものを3つ持つ」でできる 量子:読む(測る)と状態が変わる 測る 0 か 1 が出て 元の矢印は失われる 未知の矢印を完全に写し取る装置は 作れないことが証明されている だから誤り訂正は別の方法を使う ※ 例外:「0か1」と分かっている状態は、コピー(CNOT)ができます。できないのは、重ね合わせなど「何か分からない」状態です。
図10 概念図(ベクター作図)。古典の情報と量子状態のコピーの違い。未知の量子状態は複製できない(複製不可能性定理)ことは、1982年に Wootters と Zurek、Dieks が示しました[参考資料5・6]。

直感的な理由は、第4章の測定です。コピーするには、まず元の状態を「読む」必要があります。ところが、読む(測る)と状態が変わってしまい、斜めの矢印の「傾き」の情報は、0か1に潰れてしまいます(本記事による解説)。

この性質が、なぜ大事なのか

  • 誤り訂正のやり方が違ってくる:古典の通信は「同じものを3つ持って多数決」で誤りを直せます。量子ではこれができません。代わりに、たくさんの物理量子ビットに情報を分散して(もつれを使って)、1つの「論理量子ビット」を冗長に守る、という別の方法を使います(本シリーズ『量子誤り訂正と表面符号』編)
  • 盗聴に強い通信ができる:量子鍵配送(QKD)では、通信路上の量子状態を盗聴者が完全にコピーできないことが、安全性の根拠の1つとして説明されます事実[参考資料33](本シリーズ『量子鍵配送と量子通信』編)
つまずきやすいところ:「0か1と分かっている状態」はコピーできる

複製できないのは、「何か分からない」状態(斜めの矢印など)です。「北か南かのどちらか」と分かっている状態は、CNOTゲートで別の量子ビットに写し取れます。ただし、この「コピー」を斜めの矢印にかけると、コピーではなく「もつれ」ができてしまいます(「量子ゲートと量子回路」編)。

8. 量子コンピュータは何をしているのか(よくある誤解を正す)

ここまでの部品(矢印、測定、干渉、もつれ)を組み合わせると、量子計算の全体像は、次の3ステップで説明できます。

量子計算=「正解の波が強め合うように、波を設計する」こと ① 準備 すべての候補に同じ高さの波 ② 干渉の設計 操作(ゲート)で波を足し引き ③ 測定 波の大きいものが出やすい 8つの候補(棒=波の高さ) 正解(赤)の波を反転→引き算で強調 正解が高く、他は低い→正解が出やすい ここで言う「波の高さ」は、その候補が測定で出る確率の元になる数(振幅)です。 これは理解のための概念図で、実際の量子アルゴリズムの回路・振幅を描いたものではありません(Grover 探索の仕組みは本シリーズ『量子アルゴリズム』編で扱います)。
図11 概念図(ベクター作図)。量子計算の3段階の概念図。棒の高さは説明用で、特定のアルゴリズムの実際の値ではありません。「干渉で正解を強める」という設計の考え方を示しています。
  1. 準備:量子ビットを初期状態(北向き)にそろえ、操作でたくさんの候補に同じ高さの波を割り当てる
  2. 干渉の設計:問題に応じた操作(量子ゲート)を並べ、波を足したり引いたりして、正しい答えの波が強め合い、間違った答えの波が弱め合うようにする
  3. 測定:最後に測る。波が大きい候補が出やすいので、正解が高い確率で得られる。1回で足りなければくり返し、多数決をとる

量子アルゴリズムの設計とは、突き詰めると、「正解が強め合うように、波を設計する」ことです事実[参考資料11]。具体的なアルゴリズムは「量子アルゴリズム」編で扱います。

よくある誤解①:「量子コンピュータは、すべての答えを同時に計算して、最良のものを選ぶ」は誤り

この説明は広く見られますが、正確ではありません。理由は2つです。(1)状態の中に多くの候補が「入っている」としても、測定で取り出せるのは1つだけで、しかも確率で決まります(第4・6章)。(2)何も工夫しなければ、測定で出るのは、ランダムな1つの候補です。正解を高確率で取り出すには、干渉で正解を強める設計が必要です。

実際、「正解かどうか確かめる関数だけが与えられた、構造のない探索」では、量子でも総当たりの回数の2乗根程度までしか減らせないことが、Bennett らにより示されています事実[参考資料9]。「全部を同時に計算して選ぶ」ことができるなら、こうした制限は現れません。

よくある誤解②:「量子ビットの数が多いほど、高性能」は誤り

量子ビットの数は、性能の一部にすぎません。ノイズで誤りが多ければ、多数の量子ビットがあっても、長い計算は途中で壊れます。また、物理量子ビット(実際の部品)と、誤り訂正で守られた論理量子ビット(計算に使える質の高い量子ビット)は、まったく別の数え方です。「何量子ビット」と聞いたら、物理か論理か、誤り率はいくらか、どれだけの操作を連続できるかをセットで確認してください(第12章)。

9. 古典コンピュータとの比較:何が得意で、何が苦手か

項目古典コンピュータ量子コンピュータ
情報の単位ビット(0か1)量子ビット(矢印の向き)。測ると0か1
状態の書き方n ビットは n 個の0/1の並びn 量子ビットは、一般に 2n 個の振幅(もつれがあるとき)
基本操作論理ゲート(AND、NOT など)量子ゲート(矢印を回す。元に戻せる)
計算の進め方決まった手順で結果を出す干渉で、正解の確率を高める
結果の読み出し何度でも読める測ると状態が壊れる。くり返し測って確率を調べる
コピー自由にできる未知の状態はできない(複製不可能性)
誤りへの強さ非常に強い(誤り率が極めて低い)弱い。ノイズで状態が崩れる。誤り訂正が必須
得意なことほぼすべての日常の計算一部の問題(素因数分解、量子系のシミュレーションなど)

整理は本記事の解説です(根拠:参考資料1・2・5・9・11)。古典コンピュータの誤り率の記述は一般的な説明で、特定の数値の出典はありません。

量子コンピュータは「万能の高速機」ではない(概念図) 問題の種類 量子での見通し 注意点 素因数分解(Shor) 理論上は大きく速い 必要な規模は現在の装置の桁違いに上 量子系のシミュレーション(化学・材料) 有望(問題による) 古典の最良手法との比較が決め手 総当たり探索(Grover) 「2乗」の高速化(理論) 誤り訂正の負担で得にならないことも 一般の難問(NP完全問題など) 大きな高速化は示されていない 総当たりの2乗根まで(黒箱の場合) 大量データの入出力・表計算・文書・動画 量子にする利点は一般にない 1回の測定で出せるのは1ビット程度 ※ 緑=理論上の高速化が示されている/黄=限定的/赤=向かない。いずれも「将来、十分大きな誤り訂正つきの装置があれば」の理論上の話です。 ※ 根拠:Bennett ら(1997)、Shor(1997)、Montanaro(2016)、Babbush ら(2021)、Lee ら(2023)[参考資料9〜13]。実機での確認状況は第11章。
図12 概念図(ベクター作図)。量子コンピュータが得意と考えられる問題と、向かない問題の整理(概念図)。理論上の見通しで、実機で確認された高速化ではありません。

図の「緑」の問題でも、「速くなる」のは理論上、十分に大きな誤り訂正つきの装置を使ったときの話です。Montanaro の総説は、量子アルゴリズムを、高速化の大きさ(指数的、2乗など)ごとに整理しています事実[参考資料11]。また Babbush らは、2乗程度の高速化は、誤り訂正の負担(装置が必要とする余分な操作)が大きいため、初期の誤り訂正つき装置では得にならない可能性が高いと見積もっています事実[参考資料12]。量子化学の基底状態エネルギーについては、指数的な高速化が化学全般で見込めるという証拠は、まだ見つかっていないとする評価もあります事実[参考資料13]。

つまずきやすいところ:量子コンピュータは、パソコンの「次の世代」ではない

量子コンピュータは、古典コンピュータの置き換えではなく、特定の問題を速く解くための別種の機械として整理されるのが一般的です。多くの構想では、古典コンピュータ(準備と後処理)と組み合わせて使います(本記事による解説。本シリーズ『NISQとハイブリッド計算』編)。表計算やWebを量子コンピュータで動かす意味は、一般にありません。

10. どうやって作るか:量子ビットの方式と、材料の役割

(1) 量子ビットに必要な条件(DiVincenzo の5つの条件)

量子コンピュータを作るには、どんな条件が必要でしょうか。IBM の DiVincenzo は、2000年の論文で、次の5つの要件を整理しました。さらに量子情報を離れた場所へ運ぶための2つの要件を加えています事実[参考資料3]。以下は5つの要件を、この記事のやさしい言葉に言い換えたものです(言い換えは本記事による解説)。

要件(DiVincenzo)やさしい言い換えこれまでの章との関係
① 十分に特徴のはっきりした量子ビットが、拡張可能に並ぶ同じ質の量子ビットを、たくさん並べられる第9章。数を増やすことと質を保つことの両立が課題
② 初期状態にそろえられる計算の前に、全部を「北向き(0)」にそろえられる第4章の「準備」
③ コヒーレンス時間が、操作にかかる時間よりずっと長い矢印がぶれる前に、たくさんの操作ができる第5章の干渉。「コヒーレンスとフィデリティ」編
④ 万能な量子ゲートの組がある矢印を、必要な向きに必要なだけ回せる「量子ゲートと量子回路」編
⑤ 量子ビットごとに測定できる1個ずつ、0か1を読み出せる第4章の測定

5つの要件の内容は DiVincenzo(2000)[参考資料3]によります事実。右列の対応づけは本記事の解説です。

(2) 「量子ビットを何で作るか」は、まだ1つに決まっていない

矢印の「向き」を担える物理的なものなら、何でも量子ビットになりえます。現在、主に次のような方式が研究・開発されています。方式ごとの長所・短所と数値は、本シリーズの各編で扱います。

①超伝導回路、②電極上のイオン、③光で捕まえた中性原子、④光子を使う部品を並べています。粒子は拡大した模式表現で、肉眼での見え方ではありません。
図13 概念画像(ImageGen生成)。①超伝導回路、②電極上のイオン、③光で捕まえた中性原子、④光子を使う部品を並べています。粒子は拡大した模式表現で、肉眼での見え方ではありません。 実際の製品・施設・寸法・測定結果ではありません。拡大模型と実物スケールの場面は区別してください。
元のSVG・数値・出典を確認する
量子ビットを作る主な方式(概念図) 超伝導回路 Al / Nb / Ta 極低温で電気抵抗がゼロになる金属の 小さな回路。2つのエネルギー状態を使う イオントラップ 真空中に電磁場で浮かせた イオン(電気を帯びた原子)の内部状態 中性原子 レーザーの光で1個ずつ捕まえて 並べた原子の内部状態 光(光子) 光の粒の経路や偏光の 向きを0と1に割り当てる シリコンのスピン 半導体の中の電子などの 小さな磁石(スピン)の向き トポロジカル 研究段階の方式。 本シリーズの別編で扱う ※ 各方式の特徴・数値は本シリーズの各編で扱います。方式の違う装置の数値を並べて優劣をつけてはいけません(第12章)。

元SVGの説明:概念図(ベクター作図)。量子ビットを作る主な方式の例。DiVincenzo の整理[参考資料3]と、各方式の総説[参考資料15〜20]にもとづく概念図で、実在の装置の構造ではありません。

  • 超伝導回路:極低温で電気抵抗がゼロになる金属で作った小さな電気回路を使います。レビュー論文では、回路の2つのエネルギー状態を量子ビットにすること、希釈冷凍機の中の約10 mK(ミリケルビン。絶対零度に近い温度)の環境で動かすことが説明されています事実[参考資料15]。2025年のノーベル物理学賞は、Clarke、Devoret、Martinis に、「電気回路における巨視的な量子力学的トンネル効果とエネルギー量子化の発見」により授与されました事実[参考資料30](超伝導回路を量子ビットに使う研究との関係は本記事による解説)
  • イオントラップ:真空中に電磁場で保持したイオンの内部状態を使います[参考資料16]
  • 中性原子:レーザー光で1個ずつ保持して並べた原子を使います[参考資料17]
  • 光(光子):光の粒の経路や偏光などを使います[参考資料18]
  • シリコンなどの半導体のスピン:半導体の中の電子などのスピンを使います[参考資料19]
  • トポロジカル:研究段階の方式です[参考資料20]
注意:どの方式が最終的に主流になるかは、確定していません

方式ごとに、操作の速さ、誤り率、並べやすさ、必要な環境(温度や真空)が大きく違い、長所と短所が入れ替わります。ある方式の数値を別の方式の数値と並べて優劣をつけることは、条件が違うので避けてください。企業の発表は、各社の方式での成果を、その企業の主張として述べたものです(本記事による解説)。

量子ビットのチップを作り、検査する現場のイメージです。量子ビットの性能は材料と界面の完成度に左右されます(素材技術者の視点②③)。実際の施設・製品を示すものではありません。
図14 概念画像(ImageGen生成)。量子ビットのチップを作り、検査する現場のイメージです。量子ビットの性能は材料と界面の完成度に左右されます(素材技術者の視点②③)。実際の施設・製品を示すものではありません。 実際の製品・施設・寸法・測定結果ではありません。拡大模型と実物スケールの場面は区別してください。

(3) 素材技術者の視点:量子ビットは、材料の完成度で決まる

素材技術者の視点②:「量子ビットの寿命」を縮めるのは、材料の表面・界面・汚れ

超伝導の量子ビットは、金属の薄膜と、基板、そして極薄の絶縁膜(ジョセフソン接合)でできています。この量子ビットの寿命(エネルギーを失うまでの時間)を縮める原因として、材料の表面・界面・汚れが挙げられています。Place らは、ニオブの代わりにタンタルを使うことで、2次元トランズモン量子ビットの寿命とコヒーレンス時間(動的デカップリング使用)が0.3 ms を超えたと報告しました。論文は、17個のデバイスで寿命が伸びたことを示しています事実[参考資料31]。

さらに Bland らは、タンタル膜の基板を高抵抗シリコンに替えると基板の損失が大きく減り、最良の量子ビットで寿命(T1)が最大1.68 ms に達したと報告しています(45個の量子ビットの平均の品質因子は 9.7×106)。従来のタンタル・サファイア基板の素子では、損失は「二準位系(TLS)」と呼ばれる微小な欠陥に支配され、表面と基板の寄与が同程度だったとされています事実[参考資料38]。TLS の総説には Müller らがあります[参考資料34]。これらは研究室での結果で、量産された装置の性能ではありません。素材から見ると、「どの金属か」「どの基板か」「界面をどう作るか」が、そのまま量子ビットの性能になる、ということです(本記事による解説。材料の課題を整理した総説に de Leon らがあります[参考資料21])。

素材技術者の視点③:同位体をそろえた「静かな結晶」が、量子ビットの寿命を延ばす

シリコンのスピン量子ビットでは、結晶の原子核の磁気が、量子ビットを乱す原因の1つです。天然のシリコンには、核スピンを持つ 29Si が含まれます。Muhonen らは、核スピンのない 28Si を濃縮した基板に作ったナノ構造で、31P の核スピンの量子ビットが、CPMG 系列で30秒を超えるコヒーレンス時間を示し、制御の忠実度が99.99% を超えたと報告しました事実[参考資料39]。素材の同位体まで制御することが、量子ビットの寿命に直結する例です(同位体制御の総説に Itoh と Watanabe がある[参考資料32]。本記事による解説)。

素材技術者の視点④:量子ビットを「支える」材料と技術は、本シリーズの既存の編でも扱っています

量子コンピュータの装置は、量子ビット自体のほかに、極低温の配線、冷凍機、読み出しの増幅器、レーザー、光ファイバー、検出器など、多くの材料・プロセスに支えられています。本シリーズでは、関連する要素技術を、次の編で扱っています:量子ドット、原子層堆積(薄い絶縁膜を原子層ずつ作る)、ナノ計測、スピントロニクス材料、薄膜ニオブ酸リチウム、窒化シリコン導波路、シリコンフォトニクス、光検出器、半導体レーザー、光ファイバー。「量子コンピュータの材料と製造」編では、それらを量子コンピュータの視点で整理します。

11. いまどこまで来たか(2026年10月16日確認)

この分野は変化が速いので、ここでは一次情報で確認できたことを、確認日つきで整理します。企業の主張は、その企業の主張として書きます。

項目確認できたこと区分
「いま」の段階の整理Preskill は2018年に、ノイズのある中規模の装置(NISQ)の時代を提唱しました。50〜100量子ビットの装置は、古典コンピュータの能力を超える課題を実行できるかもしれないが、ゲートのノイズが信頼してできる回路の大きさを制限する、と述べています[参考資料2]事実
「量子優位性」の主張Google の研究チームは2019年、53量子ビットの超伝導プロセッサ Sycamore が、ある乱数的な回路のサンプリングを約200秒で行い、同じ課題を最先端のスーパーコンピュータで行うと約1万年かかる、と見積もって報告しました(企業の主張)[参考資料14]。これに対し、Pan らは、古典のテンソルネットワーク法で、同じ回路の標本を512個の GPU で約15時間で生成した(目標とする忠実度は約0.0037)と報告しています[参考資料36]。両者を並べて読み、条件(何を、どの精度で)の違いを確認する必要があります。詳しくは本シリーズ『量子優位性の読み方』編事実
誤り訂正の進展Google Quantum AI は、距離7の表面符号(101量子ビット)で、符号距離を2増やすごとに論理誤り率が Λ = 2.14 ± 0.02 倍に抑えられ、誤り訂正1周期あたりの論理誤り率が0.143% ± 0.003% だったと報告しました。この論理メモリの寿命は、最良の物理量子ビットの寿命の2.4 ± 0.3倍でした(企業の報告)[参考資料22]。論文は、現在の論理誤り率と実用的な計算の要求との間には、まだ桁違いの隔たりがあると述べています事実
企業の計画IBM は、誤り耐性のある量子コンピュータ「Starling」を2029年に計画し、200個の論理量子ビットで1億回の量子ゲートを実行する、としています(IBM の公式ページ。確認日 2026年10月16日)[参考資料23]未確定/将来
実用的な課題での優位本稿の調査範囲では、実用的な課題で、古典コンピュータの最良の手法に対して優位に立ったことを、第三者の検証も含めて確認できたとは言えません。確認できなかったため、記載しません解説

確認日は2026年10月16日。装置の数値は、各報告の条件での値で、方式の違う装置どうしを並べて優劣をつけるものではありません。ロードマップは企業の目標で、達成済みの事実とは別です。

この記事のまとめ(現状)

いまの量子コンピュータは、「小さな装置で、誤りを抑える原理を確かめている」段階です。誤り訂正で論理量子ビットの質が上がる兆しは報告されています(上の表)。一方で、「実用的な課題で、古典コンピュータを上回る」ことは、確認できていません。企業の計画(2029年など)は目標であり、保証ではありません。

12. 評価・標準の読み方

量子コンピュータの性能は、1つの数字では測れません。「量子ビットの数」は規模の目安にすぎず、誤り率(操作の正確さ)、コヒーレンス時間(矢印がぶれずにいる時間)、接続性(どの量子ビットどうしを直接操作できるか)、測定の正確さをセットで見る必要があります。これらを測る手法(ランダム化ベンチマーキング、量子ボリュームなど)と、用語や指標を決める標準の状況を、確認できた範囲で表にします(確認日 2026年10月16日)。

評価項目代表的なベンチマーク・評価手法(名称・出典)標準・指針(ISO/IEC・IEEE など)読み方の注意
量子ビットの規模確認できなかった(数だけを測る標準的な評価手法は確認していない。物理量子ビットと論理量子ビットで数え方が異なる)用語:ISO/IEC 4879:2024 "Information technology — Quantum computing — Vocabulary"(第1版、2024年5月、IEC/ISO JTC 3)[26]事実/IEEE P7130 "Standard for Quantum Technologies Definitions"(IEEE のページでは策定中の Active PAR。PAR 承認は2021年9月23日)[28]未確定/将来数だけで比べない。物理か論理か、誤り率とセットで見る。規格の本文は未確認で、定義の中身は書いていない
操作の正確さ(ゲート誤り率)ランダム化ベンチマーキング(Magesan ら、2011)[24]事実確認できなかった(IEEE P7131 は量子コンピューティングの性能指標とベンチマークを扱う作業部会が活動中で、発行済みの標準は確認できなかった)[37]未確定/将来何の操作か、何量子ビットの値か、平均か最良かを確認する(「コヒーレンスとフィデリティ」編)
回路全体の性能量子ボリューム(Cross ら、2019)[25]、アプリケーション指向のベンチマーク(Lubinski ら、2023)[27]事実確認できなかった(同上)1つの指標が、あらゆる用途の優劣を表すわけではない。指標ごとに、測っているものが違う
ベンチマーク全体の整理Lorenz ら(2025)の総説は、量子ビット・ゲート、プロセッサ全体、ソフトウェア、応用の各レベルのベンチマークを整理し、標準化の必要性を述べている[29]事実確認できなかった総説の推奨は、標準そのものではない
誤り訂正の成績論理誤り率と、符号距離を増やしたときの抑制率 Λ(Google Quantum AI、2024)[22]事実確認できなかった何回の誤り訂正周期を、どの符号距離で測ったかを確認する。企業の報告であることに注意
計画(ロードマップ)—(評価ではなく計画)確認できなかった(標準はない)。企業の目標:IBM Starling(2029年、200論理量子ビット)[23]未確定/将来計画と達成は別。目標年は、変わることがある

表の整理は本稿の計算(整理)。ISO の番号・題名・発行年月は ISO の委員会ページで確認、IEEE の状態は IEEE SA のプロジェクトページで確認(確認日 2026年10月16日)。規格の本文は有料または未確認のため、題名・適用範囲の記載にとどめています。

読み方の注意(素材技術者向け)

  • 「何量子ビット」だけでは性能は分かりません:誤り率、コヒーレンス時間、接続性、測定の正確さとセットで見てください。物理量子ビットと論理量子ビットは別の数え方です
  • 企業の発表と、第三者の検証は別です:本記事の第11章の表のとおり、同じ課題について、企業の見積りと、古典側の再評価が並んでいることがあります。両方を読み、条件の違いを確認してください
  • 標準は、推奨か要求かを確認してください:ISO/IEC 4879 は用語集で、性能の合否を決める規格ではありません。IEEE P7130・P7131 は策定中の項目です。「規格に準拠」という表現は、どの規格のどの項かを確認してください
  • 計画と達成は別です:ロードマップ(目標の年・規模)は、未確定の将来の話です

13. 用語集

ビット
古典コンピュータの情報の単位。「0」か「1」のどちらか。
量子ビット(qubit)
量子コンピュータの情報の単位。球の中の矢印で表せ、測ると0か1になる。
ブロッホ球
量子ビット1個の状態を矢印で表すための球。北極が0、南極が1。
重ね合わせ
矢印が北でも南でもなく、斜めを向いている状態。測ると傾きに応じた確率で0か1になる。
振幅
確率の元になる数(波の高さ)。プラスとマイナスがあり、足し算で打ち消し合える。確率は振幅の2乗。
位相
矢印の北極まわりの向き。直接は測れないが、干渉で結果を変える。
干渉
波の足し算。強め合い(高くなる)と弱め合い(消える)がある。量子アルゴリズムの核心。
測定
量子ビットを読み出すこと。0か1に決まり、元の状態は戻らない。
量子もつれ
2つ以上の量子ビットが1つのまとまりになり、片方だけでは状態を書けないこと。情報が瞬時に伝わるわけではない。
ベルの不等式
「測る前から結果が決まっている」考え方が正しければ成り立つ不等式。実験で破られることが確認されている。
複製不可能性
未知の量子状態を、そっくりコピーすることはできないという定理。
量子ゲート
量子ビットの矢印を回す操作。元に戻せる。(「量子ゲートと量子回路」編)
H(アダマール)ゲート
北向きの矢印を赤道まで倒し、重ね合わせを作る操作。
CNOT
2つの量子ビットにかける操作。もつれを作るときなどに使う。
デコヒーレンス
周りの環境の影響で、量子の状態が崩れていくこと(矢印がぶれてしまう)。
物理量子ビット
実際の部品としての量子ビット。誤りを含む。
論理量子ビット
多数の物理量子ビットで誤りから守った、計算に使える質の高い量子ビット。
量子誤り訂正
冗長に(たくさんの物理量子ビットで)1つの論理量子ビットを守る仕組み。コピーはできないので別の方法を使う。
NISQ
Noisy Intermediate-Scale Quantum。ノイズのある中規模の量子装置の時代を指す言葉(Preskill、2018)。
量子優位性
ある課題で、量子コンピュータが古典コンピュータより速いと主張すること。誰が、どの課題で、何と比べるかが大事。
希釈冷凍機
絶対零度に近い極低温(約10 mK など)を作る装置。超伝導の量子ビットで使う。
ジョセフソン接合
2枚の超伝導体の間に極薄の絶縁膜を挟んだ構造。超伝導量子ビットの要。
ランダム化ベンチマーキング
ランダムな操作列で、1回あたりの操作の誤り率を調べる方法。
量子ボリューム
ランダムな回路をどれだけ正しく実行できるかで、装置全体の性能を1つの数で表す指標(IBM が提案)。

14. 参考資料(一次情報)

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  25. Cross A. W. ほか "Validating quantum computers using randomized model circuits", Phys. Rev. A 100, 032328 (2019), DOI 10.1103/PhysRevA.100.032328 — doi.org/10.1103/PhysRevA.100.032328
  26. ISO/IEC "ISO/IEC 4879:2024 Information technology — Quantum computing — Vocabulary"(第1版、2024年5月、IEC/ISO JTC 3。ISO の委員会ページで確認) — iso.org/standard/80432.html
  27. Lubinski T. ほか "Application-Oriented Performance Benchmarks for Quantum Computing", IEEE Trans. Quantum Eng. 4, 1–32 (2023), DOI 10.1109/TQE.2023.3253761 — doi.org/10.1109/TQE.2023.3253761
  28. IEEE SA "IEEE P7130 Draft Standard for Quantum Technologies Definitions"(プロジェクトページ。Active PAR、PAR 承認 2021年9月23日。確認日 2026年10月16日) — standards.ieee.org/ieee/7130/10680/
  29. Lorenz J. M. ほか "Systematic benchmarking of quantum computers: status and recommendations", arXiv:2503.04905 (2025) — arxiv.org/abs/2503.04905
  30. NobelPrize.org "Nobel Prize in Physics 2025"(Clarke、Devoret、Martinis) — nobelprize.org/prizes/physics/2025/summary/
  31. Place A. P. M. ほか "New material platform for superconducting transmon qubits with coherence times exceeding 0.3 milliseconds", Nat. Commun. 12, 1779 (2021), DOI 10.1038/s41467-021-22030-5 — doi.org/10.1038/s41467-021-22030-5
  32. Itoh K. M., Watanabe H. "Isotope engineering of silicon and diamond for quantum computing and sensing applications", MRS Commun. 4, 143–157 (2014), DOI 10.1557/mrc.2014.32 — doi.org/10.1557/mrc.2014.32
  33. Gisin N. ほか "Quantum cryptography", Rev. Mod. Phys. 74, 145–195 (2002), DOI 10.1103/RevModPhys.74.145 — doi.org/10.1103/RevModPhys.74.145
  34. Müller C., Cole J. H., Lisenfeld J. "Towards understanding two-level-systems in amorphous solids: insights from quantum circuits", Rep. Prog. Phys. 82, 124501 (2019), DOI 10.1088/1361-6633/ab3a7e — doi.org/10.1088/1361-6633/ab3a7e
  35. IBM Quantum Learning "Basics of quantum information"(入門コース。矢印・ブロッホ球の説明の参考として確認) — quantum.cloud.ibm.com/learning/en/courses/basics-of-quantum-information
  36. Pan F., Chen K., Zhang P. "Solving the Sampling Problem of the Sycamore Quantum Circuits", Phys. Rev. Lett. 129, 090502 (2022), DOI 10.1103/PhysRevLett.129.090502 — doi.org/10.1103/PhysRevLett.129.090502
  37. IEEE SA "Quantum Benchmarking Working Group P7131"(量子コンピューティングの性能指標の標準化の作業部会のページ。確認日 2026年10月16日) — sagroups.ieee.org/7131
  38. Bland M. P. ほか "Millisecond lifetimes and coherence times in 2D transmon qubits", Nature 647, 343–348 (2025), DOI 10.1038/s41586-025-09687-4 — doi.org/10.1038/s41586-025-09687-4
  39. Muhonen J. T. ほか "Storing quantum information for 30 seconds in a nanoelectronic device", Nat. Nanotechnol. 9, 986–991 (2014), DOI 10.1038/nnano.2014.211 — doi.org/10.1038/nnano.2014.211

15. 主張と出典の対応表(監査)

本文の主張根拠区分
量子ビットの状態をブロッホ球の矢印で表すこと、傾き θ のとき「0」が出る確率が cos²(θ/2) であること、測定で0か1に決まり状態が変わること、H ゲートなど教科書(Nielsen と Chuang)、IBM Quantum Learning
出典1 https://www.cambridge.org/highereducation/books/quantum-computation-and-quantum-information/01E10196D0A682A6AEFFEA52D53BE9AE
出典35 https://quantum.cloud.ibm.com/learning/en/courses/basics-of-quantum-information
事実
NISQ という段階の整理(50〜100量子ビットの装置の可能性と、ゲートのノイズによる制限)Preskill(2018)の要旨
出典2 https://doi.org/10.22331/q-2018-08-06-79
事実
DiVincenzo の5つの要件(と、通信のための2つの要件)DiVincenzo(2000)の要旨
出典3 https://arxiv.org/abs/quant-ph/0002077
事実
古典計算機で量子系を追う難しさと、量子の部品で量子系を模擬するという Feynman の考えFeynman(1982)の題名・書誌
出典4 https://doi.org/10.1007/BF02650179
事実
未知の量子状態は複製できないこと(1982年)Wootters と Zurek、Dieks の論文の題名・書誌
出典5 https://doi.org/10.1038/299802a0
出典6 https://doi.org/10.1016/0375-9601(82)90084-6
事実
電子スピンを1.3 km 離したベルの不等式の破れの報告。2022年のノーベル物理学賞の授賞理由Hensen ら(2015)の題名・書誌、NobelPrize.org
出典7 https://doi.org/10.1038/nature15759
出典8 https://www.nobelprize.org/prizes/physics/2022/summary/
事実
構造のない探索では、量子でも総当たりの2乗根程度までしか減らせない(オラクルに対して)。NP 全体を量子多項式時間で解けるかという問いBennett ら(1997)の要旨
出典9 https://doi.org/10.1137/S0097539796300933
事実
素因数分解が量子コンピュータで多項式時間で解けるという Shor の結果。量子アルゴリズムを高速化の大きさで整理した総説Shor(1997)の題名、Montanaro(2016)の総説
出典10 https://doi.org/10.1137/S0097539795293172
出典11 https://doi.org/10.1038/npjqi.2015.23
事実
2乗程度の高速化は、初期の誤り訂正つき装置では得にならない可能性が高いという見積り。量子化学の基底状態で、指数的高速化の証拠はまだ見つかっていないという評価Babbush ら(2021)、Lee ら(2023)の要旨
出典12 https://doi.org/10.1103/PRXQuantum.2.010103
出典13 https://doi.org/10.1038/s41467-023-37587-6
事実
Sycamore(53量子ビット)が約200秒、古典のスーパーコンピュータで約1万年との見積り(企業の主張)。古典のテンソルネットワーク法で同じ回路の標本を512 GPU・約15時間で生成した報告Arute ら(2019)、Pan ら(2022)
出典14 https://doi.org/10.1038/s41586-019-1666-5
出典36 https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.129.090502
事実
超伝導回路・イオン・中性原子・光・シリコンスピン・トポロジカルの各方式の概要。超伝導回路を約10 mK の環境で動かすこと各方式の総説
出典15 https://doi.org/10.1063/1.5089550
出典16 https://doi.org/10.1063/1.5088164
出典17 https://doi.org/10.22331/q-2020-09-21-327
出典18 https://doi.org/10.1063/1.5115814
出典19 https://doi.org/10.1103/RevModPhys.95.025003
出典20 https://doi.org/10.1103/RevModPhys.80.1083
事実
2025年のノーベル物理学賞の授賞理由(電気回路における巨視的な量子力学的トンネル効果とエネルギー量子化)NobelPrize.org
出典30 https://www.nobelprize.org/prizes/physics/2025/summary/
事実
タンタルへの置換で寿命・コヒーレンス時間が0.3 ms 超(17デバイス)。高抵抗シリコン基板で寿命が最大1.68 ms、単一量子ビットゲート忠実度99.994%。損失は二準位系(TLS)が支配Place ら(2021)、Bland ら(2025)の要旨
出典31 https://doi.org/10.1038/s41467-021-22030-5
出典38 https://doi.org/10.1038/s41586-025-09687-4
事実
28Si 基板で 31P 核スピンが30秒超(CPMG)、制御忠実度99.99%超。同位体制御の総説。TLS の総説。材料課題の総説Muhonen ら(2014)の要旨、総説の題名・書誌
出典39 https://doi.org/10.1038/nnano.2014.211
出典32 https://doi.org/10.1557/mrc.2014.32
出典34 https://doi.org/10.1088/1361-6633/ab3a7e
出典21 https://doi.org/10.1126/science.abb2823
事実
量子鍵配送で、盗聴者が量子状態を完全にコピーできないことが安全性の根拠の1つとして説明されることGisin ら(2002)の総説
出典33 https://doi.org/10.1103/RevModPhys.74.145
事実
距離7の表面符号(101量子ビット)で Λ = 2.14 ± 0.02、誤り訂正1周期あたり0.143% ± 0.003%、最良の物理量子ビットの寿命の2.4倍。実用的な計算の要求との間に桁違いの隔たりがあること(企業の報告)Google Quantum AI(2024・2025年刊行)の論文
出典22 https://doi.org/10.1038/s41586-024-08449-y
事実
IBM Quantum Starling を2029年に計画し、200論理量子ビットで1億回のゲートを実行する、とされていること(企業の目標。確認日 2026年10月16日)IBM の公式ページ
出典23 https://www.ibm.com/quantum/technology
未確定/将来
ランダム化ベンチマーキング、量子ボリューム、アプリケーション指向ベンチマークの提案。ベンチマーク全体の総説Magesan ら(2011)、Cross ら(2019)、Lubinski ら(2023)、Lorenz ら(2025)
出典24 https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.106.180504
出典25 https://doi.org/10.1103/PhysRevA.100.032328
出典27 https://doi.org/10.1109/TQE.2023.3253761
出典29 https://arxiv.org/abs/2503.04905
事実
ISO/IEC 4879:2024「Information technology — Quantum computing — Vocabulary」(第1版、2024年5月、IEC/ISO JTC 3)の番号・題名・発行年月ISO の委員会ページ
出典26 https://www.iso.org/standard/80432.html
事実
IEEE P7130(Quantum Technologies Definitions)が策定中(Active PAR、2021年9月23日承認)で、確認日時点で発行済みの標準は確認できなかったこと。IEEE P7131 の作業部会が活動していることIEEE SA のページ
出典28 https://standards.ieee.org/ieee/7130/10680/
出典37 https://sagroups.ieee.org/7131
未確定/将来
確率表(cos²(θ/2))、1000回の模擬測定(733回・267回)、H を2回かけた振幅の計算(0.5+0.5、0.5−0.5)、12回の模擬測定、状態数と記憶量の表(2n、16 KiB〜16 PiB)本稿の計算(Python・NumPy。乱数の種を固定。倍精度の複素数を16バイトとした)。実在の装置の結果ではない本稿の計算
実用的な課題で、古典コンピュータの最良の手法に対する優位が、第三者の検証も含めて確認されたか。ISO/IEC 4879 の定義の本文、IEEE P7131 の発行状態、各方式の数値の比較本稿の調査範囲でアクセスできた一次情報では確認できなかったため記載していない解説
「干渉は環境の乱れに弱い」「測定は状態を変えること」「手袋・ガラス玉などのたとえと、その限界」「方式の優劣は条件が違うので比べない」「量子コンピュータは置き換えではない」という読み取り・説明公表内容にもとづく本記事の整理・解説。各機関が表明した見解ではない解説
図1〜図14が実データの観察ではなく説明のための作図であること。図1と図14がImageGen生成の概念画像であること本記事による注記解説

最終更新:2026年10月16日/出典は一次情報(教科書、査読論文、ISO・IEEE・NobelPrize.org・企業の公式ページ)に限定しています。企業の発表は企業の主張として扱い、第三者の検証がある場合は並べて示しました。 数値例(確率・振幅・状態数・模擬測定)は本稿が作った説明用の計算で、実在の装置の結果ではありません。ロードマップは企業の目標で、確定した事実ではありません。 規格の本文、IEEE P7131 の発行状態、実用的な課題での第三者の検証済みの優位性については、確認できなかったため記載していません。 図はすべて説明用の概念図または本稿の計算を含む作図で、図1と図14はImageGen生成の概念画像です。

図版更新:2026年10月17日。本文・出典整理表のベクター作図という表記は、保存した元SVGの由来を示します。現在の主図の形式と読み方は各図下の説明を参照してください。ImageGen画像は実測や実在製品の写真ではなく、元SVG・数値・出典は展開して確認できます。