TECHNOLOGY EXPLAINER
量子優位性の読み方
― 「誰が・どの課題で・何と比べて」を見る
「量子コンピュータが、世界最速のスーパーコンピュータで1万年かかる計算を200秒で解いた」。こうした発表を、どう受け止めればよいのでしょうか。この記事では、「量子超越性」「量子優位性」「量子ユーティリティ」という言葉の違いと、ランダム回路サンプリング・ボソンサンプリングという代表的な課題の仕組みを、図と小さな数値例で説明します。そのうえで、古典側が「もっと速い方法があった」と再評価した経緯を、企業の主張と第三者の検証を分けて並べ、主張を読むための6つの問いを示します。
- 3行でわかる/読む前に/シリーズの中での位置
- 3つの言葉 ― 超越性・優位性・ユーティリティ
- 主張を読む6つの問い ― 「誰が・どの課題で・何と比べて」
- ランダム回路サンプリング ― 仕組みと、XEB という物差し
- ボソンサンプリング ― 光子の干渉で作る確率分布
- 古典側の再評価の経緯 ― 年表と、起きる理由
- 結果は確かめられるか ― 検証可能性の3つの段階
- 優位性と「役に立つ」は別 ― 実用性への距離
- 限界と、確認できなかったこと/まとめ
- 評価・標準の読み方
- 用語集
- 参考資料(一次情報)
- 主張と出典の対応表(監査)
事実=公表資料に記載のある内容(出典リンクあり)
本稿の計算=明示した前提をもとに本記事が算出した値
未確定/将来=計画・目標・草案・改訂中・策定中・見通しなど、確定していない事項
このほか、素材技術者向けの読み取りは「解説」として区別しています。推測は太字で示します。企業の発表は「企業の主張」と明記します。
1. 3行でわかる/読む前に/シリーズの中での位置
- 「量子優位性」は、誰が・どの課題で・何と比べて主張しているかを見ないと、意味が決まりません。同じ課題でも、「力ずくの計算」と比べるのか、「既知の最良の古典アルゴリズム」と比べるのかで、答えが変わります事実[参考資料11]
- 代表的な主張(Google のランダム回路サンプリング、中国の光量子の実験など)の多くに、その後、古典側が「もっと速い方法がある」と再評価した論文が出ています。ただし再評価は、同じ条件・同じ課題とは限りません事実[参考資料4・5・12]
- この記事は、結論を出すものではありません。6つの問い(第3章)を使って、新しい発表を自分で読めるようにするのが目的です。企業の発表は「企業の主張」と書きます。
量子ビットの状態は矢印(北極が0、南極が1、斜めが重ね合わせ)、測ると0か1に決まる、というたとえを使います。詳しくは本シリーズ「量子コンピュータの基礎」編で説明しています。この記事は単独でも読めるよう、必要なことを本文中で説明します。
「古典コンピュータ」は、ふつうのコンピュータ(スーパーコンピュータを含む)のことです。「サンプリング」は、確率で決まる結果(0/1の列)を、何度も実行して集めることです。
「量子アルゴリズム」→「NISQとハイブリッド計算」→この記事(量子優位性の読み方)の順がおすすめです。IBM の127量子ビットの実験の中身は「NISQとハイブリッド計算」編、D-Wave の主張の詳細は「量子アニーリング」編、化学・材料への応用は「量子化学・材料シミュレーション」編、産業での実用性は「産業応用の現実」編で扱います。
2. 3つの言葉 ― 超越性・優位性・ユーティリティ
まず、よく似た3つの言葉を整理します。論文ごとに意味が少しずつ違うので、「誰が、どんな意味で使っているか」を確認するのが出発点です。
| 言葉 | 出どころ・意味(論文の記述) | 注意 |
|---|---|---|
| 量子超越性(supremacy) | Preskill が2012年の論文で用いた言葉。古典の世界でできることを超える作業を、制御された量子系が行える日を目指す、という文脈[参考資料1]。Google の2019年の論文は、200秒の計算を「この特定の課題での量子超越性の実験的実現」と位置づけた[参考資料2] | 「何でも古典を超える」という意味ではない。特定の課題での話 |
| 量子(計算)優位性(advantage) | 近年の論文の題名に多い言葉(Zhong ら 2020、Madsen ら 2022、Gao ら 2025)。Madsen らは「最良の古典コンピュータが、最良の既知のアルゴリズムで動かすのを、明確な課題で上回ること」と定義した[参考資料10・11・8] | 「既知の」最良である。後から古典の新手法が出れば、優位は消えうる |
| 量子ユーティリティ(utility) | IBM の Kim らが2023年の論文の題名で用いた言葉(「誤り耐性の前の段階での、量子計算の有用性の証拠」)。論文は、証明された高速化をもつ問題の実装は目指さないと述べる[参考資料13] | 「古典より速い」の主張とは別。企業の主張 |
各言葉の出どころの整理([参考資料1・2・11・13]ほか)。言葉の区別は論文ごとに異なり、一律の定義は確認できませんでした。
最近は、定義そのものを整える動きもあります。IBM などの共同の提案は、量子優位性の「どの装置でも当てはまり、実験で確かめられる」定義を示そうとしています事実[参考資料25](査読前の論文)。IBM の記事は、優位性を「古典だけの手法より、速い・正確・低コストのいずれかを、厳密に検証できる形で示すこと」と説明しています[参考資料26](企業の説明)。
論文が主張しているのは、特定の課題(多くは、役に立つかどうかとは無関係に選ばれた、量子装置に有利な課題)で、当時の既知の古典の方法より速い、ということです。Google 自身の2019年の論文も、「この特定の課題」と限定しています事実[参考資料2]。正しい読み方:優位性の主張は「点」であって、「面」ではありません。実用上の課題に当てはまるかは、別に確かめる必要があります(第8章)。
3. 主張を読む6つの問い ― 「誰が・どの課題で・何と比べて」
発表を読むときは、次の6つの問いを順に確かめます。この記事の後半で扱う事例を、これらに当てはめて読みます。
| 問い | 確認すること | 例(この記事の事例から) |
|---|---|---|
| ① 誰が | 主張したのは企業か、研究グループか。その主張を、別の人が検証したか | Google の10²⁵年の見積り(ブログ)は企業の主張。確認できる第三者の再評価は未確認(第4章) |
| ② どの課題で | 課題は、量子装置に有利に作った人工的なものか、役に立つものか | ランダム回路サンプリングは、結果に応用はない(性能の物差し)。Google の分子の例は「まだ古典を超えていない」と自ら述べる(第8章) |
| ③ 何と比べて | 「力ずくの全状態計算」か、「既知の最良の古典アルゴリズム」か。比べた古典の資源(コア数、時間、メモリ) | Google の1万年は、当時の方法での見積り。IBM は別の方法で「数日」と提案(第4章) |
| ④ どんな条件で | 忠実度・誤り率・サンプル数。ほぼノイズの結果でも統計では「成立」することがある | Sycamore の予測忠実度は0.2%(第4章)。XEB の数値例を第4章で見る |
| ⑤ 検証できるか | 古典で直接確かめたか、統計だけか、別の装置で再現できるか | 第7章:3つの段階 |
| ⑥ その後は | 古典側の再評価が出ていないか。日付つきで追う | 第6章の年表と、IBM の優位性トラッカー(第7章) |
6つの問いの整理は本記事の解説です。各例の根拠は、本文の該当箇所の参考資料を参照してください。
4. ランダム回路サンプリング ― 仕組みと、XEB という物差し
ランダム回路サンプリング(RCS)は、「ランダムに作った量子回路を実行して、出てくる0/1の列を集める」課題です。役に立つ答えを出すためではなく、量子装置が、古典で計算しにくい状態を作れているかを試す物差しとして使われます。Boixo らは、この課題を、ノイズのある近未来の装置で量子超越性を確かめる候補として論じました事実[参考資料3]。
(1) XEB:「出やすい列が実際によく出ているか」を1つの数にする
装置が正しく動いているかは、線形クロスエントロピー・ベンチマーク(XEB)で確かめます。Arute らの定義では、装置から得たビット列 x₁、x₂、… について、それぞれの理想の確率 P(xᵢ) を古典コンピュータで計算し、その平均から FXEB = 2ⁿ ⟨P(xᵢ)⟩ − 1 を求めます(n は量子ビット数)事実[参考資料2]。理想の分布どおりに出ていれば約1、完全にでたらめなら0です。
小さな例で確かめます。14量子ビットのランダムな状態を1つ作り(乱数の種7)、理想の分布から100万サンプルを取ると、XEB は 0.989 でした。一様な乱数なら −0.0005(ほぼ0)です。サンプルの20%だけを理想の分布から取り、残りを乱数にすると 0.197、5%なら 0.049 と、理想の割合にほぼ比例します本稿の計算。つまり XEB は「サンプルのどれだけが、理想の分布に従っているか」の目安になります。
ここが大事なところです。Google の53量子ビット・20サイクルの回路では、ゲートや測定の誤りを積み上げた予測忠実度が0.2%でした。回路は 1,113 個の1量子ビットゲートと 430 個の2量子ビットゲートを含みます。論文は、この忠実度は数百万回の測定で分解できると述べています(XEB の不確かさは 1/√サンプル数)事実[参考資料2]。つまり、99.8%はノイズ的でも、残りの0.2%の「信号」を、統計で取り出して確かめたわけです。
- サンプルが10⁵個では、0.2%の信号の符号すら分かりません(測った値 −0.0028、標準誤差0.003)。10⁷個で 0.0019(標準誤差0.0003)となり、ようやく真の値 0.002 に近づきます本稿の計算
- 3σ(標準誤差の3倍)で見分けるには、(3 ÷ 0.002)² ≈ 225万サンプルが必要です本稿の計算。Google が「数百万」と述べたことと整合します
- 理想の分布そのものを使って XEB を計算するのは、古典の大きな計算です。大規模な回路では直接は計算できないため、Arute らは、簡略化した回路や小さな部分で確かめ、外挿しています(第7章)事実[参考資料2]
主張の中身は、「同じ忠実度のサンプルを、古典コンピュータでつくるのに、莫大な時間がかかる」ということです。Arute らは、古典の見積りで、忠実度が下がるほど計算を省ける(0.1%の忠実度で費用が約1,000分の1)ことも考慮しています事実[参考資料2]。逆に言えば、古典側は「低い忠実度のサンプルでよい」ことを利用して、計算を大きく省く手を探せます。これが次の再評価(Pan ら)の入口です。
(2) 主な RCS の主張と、古典側の再評価
| 実験 | 主張(誰が・何を) | 古典側の再評価 | 読み方 |
|---|---|---|---|
| Google Sycamore(2019) | 53量子ビットで約100万サンプルを約200秒。同じ忠実度の古典サンプリングは、100万コアで約1万年(Google の見積り)[参考資料2] | IBM の Pednault らは、Summit スーパーコンピュータと二次記憶で「数日」と提案(2019)[参考資料4]。Pan らは、テンソルネットワークの方法で、忠実度約0.0037の100万サンプルを、GPU 512基で約15時間で作成(2022)[参考資料5] | 古典の見積りが大きく下がった。ただし条件は同じではない(第6章) |
| Google Willow(2024) | 105量子ビットのチップで、RCS を5分以内。スーパーコンピュータでは10²⁵年(10セプティリオン年)かかる(Google のブログの主張)[参考資料7] | 確認できなかった | 見積りの前提(古典の資源・条件)の詳細は、ブログでは確認できなかった |
| Google(Morvan ら 2024) | 67量子ビット・32サイクルの RCS が、既存のスーパーコンピュータの能力を超える(Google の主張)。ノイズ次第で、結果が古典に「なりすまされる」領域と、複雑な領域の間に相転移がある[参考資料6] | 確認できなかった | 「ノイズが大きいと古典に再現される」領域がある、と著者自身が整理している |
| USTC Zuchongzhi 3.0(2025) | 105量子ビット。83量子ビット・32サイクルの RCS で、100万サンプルを数百秒。Frontier では約6.4×10⁹年と見積もる(研究グループの主張)。2量子ビットゲートの忠実度99.62%[参考資料8] | 確認できなかった | 2量子ビットゲートの忠実度は、論文の要旨の記載(測り方は論文で確認) |
各論文・ブログの記載の整理。見積りの年数は、記載された古典の手法・資源での見積りで、直接の比較はできません。確認日 2026年10月16日。
5. ボソンサンプリング ― 光子の干渉で作る確率分布
ボソンサンプリングは、光子を干渉計(光の通り道の網)に通して、どの出口に光子が出てきたかを数える課題です。Aaronson と Arkhipov は2011年に、もし古典コンピュータが、この装置と同じ確率分布から効率よくサンプルを取れるなら、計算量理論で信じられている階層が崩れてしまう、という理論的な根拠を示しました事実[参考資料9](装置が非常に正確な場合の議論で、ノイズのある場合は仮定つきです)。
元のSVG・数値・出典を確認する
元SVGの説明:概念図(ベクター作図)。ガウス型ボソンサンプリングの流れ。圧縮された光を干渉計に通し、検出器でクリックの並びを読みます。
実験では、実現しやすいガウス型ボソンサンプリング(GBS)が使われます。USTC の Zhong らは2020年に、100モードの干渉計に50個の圧縮光を入れ、最大76個のクリックを観測しました。出力の状態空間の大きさは10³⁰で、古典のスーパーコンピュータの最良の方法より10¹⁴倍速いと見積もっています事実[参考資料10](研究グループの主張)。Xanadu の Madsen らは2022年に、216の圧縮モードで最大219光子を観測し、厳密な古典の方法では1サンプルに9,000年以上かかるが、装置は36マイクロ秒だと報告しました事実[参考資料11](企業の主張)。
古典側の反論も出ました。Oh らは2024年に、光の損失が大きいほど計算を軽くできる古典のテンソルネットワークのアルゴリズムを示し、最大規模の GBS 実験を、比較的小さな計算資源で再現できたと報告しました。論文は、実験が優位性の根拠にしてきた指標で、古典のアルゴリズムが実験より理想の分布に近いという証拠を示した、と述べています事実[参考資料12]。一方で Madsen らも、以前の光量子の実験が、古典の近似(スプーフィング)に弱かったと自ら指摘しています事実[参考資料11]。
光子が途中で失われるほど、出力に残る「量子的な絡み合い」が少なくなり、古典で近似しやすい構造に近づく、という説明です(本記事による解説。Oh らの論文は、損失が大きいときに計算量を大きく減らせる方法として説明しています事実[参考資料12])。装置を大きくしても、損失が大きければ「古典で再現しやすい領域」に入りうる、という点が大切です。
6. 古典側の再評価の経緯 ― 年表と、起きる理由
ここまでの事例を、主張と古典側の再評価の年表にまとめます。さらに、IBM の127量子ビット実験(「NISQとハイブリッド計算」編で扱った実験)と、D-Wave の量子シミュレーションの主張、Google の Quantum Echoes も加えます。
| 主張 | 古典側の再評価(論文) | 再評価の中身・注意 |
|---|---|---|
| IBM 127量子ビット「ユーティリティ」(2023) | Tindall ら:格子の形に合わせたテンソルネットワーク(2024)[参考資料14]。Begušić ら:疎なパウリ力学(2024)[参考資料15]。Kechedzhi ら(Google の研究者):有効な回路の体積から、得られる信号と計算費用の関係を整理(2024)[参考資料16] | Tindall らは、量子プロセッサの結果より正確で精密な古典シミュレーションができると報告。Begušić らは、ノートパソコンの1コアで、報告された量子側の時間より速く、ゼロノイズ外挿の結果とよく合うと報告 |
| D-Wave「ビヨンド・クラシカル」(2025) | King ら:アニーリング装置が、シュレーディンガー方程式の解とよく合うサンプルを速く作り、テンソルネットワークとニューラルネットワークの主な近似手法は、妥当な時間では同じ精度に達しないと主張[参考資料21](企業の主張)。Tindall ら:同じスピングラスを、格子専用のテンソルネットワークと信念伝播で、控えめな計算資源で最先端の精度に達したと報告(Science 2026)[参考資料22]。Mauron と Carleo:時間依存の変分モンテカルロで、128スピンまで同程度の精度と報告(プレプリント)[参考資料23] | 詳細は「量子アニーリング」編。同じ課題でも、比べる古典の手法で結論が変わる |
| Google Quantum Echoes(2025) | Google:2次の OTOC を超伝導プロセッサで測り、同じ精度を古典で得るには約13,000倍の時間がかかると見積もった(企業の主張)。Google は9つの古典シミュレーション手法を実装・費用見積もりし、約10人年の「レッドチーム」で検討したと説明[参考資料17・18]。Bermejo ら(Google 関連の著者を含む):信念伝播つきのテンソルネットワークは、この実験を現実的には再現できないと報告(2026年4月、プレプリント)[参考資料19]。Kshetrimayum ら:テンソルネットワークの観点からの総説(2026年3月、プレプリント)[参考資料20] | この主張に対する第三者の古典側の反証は、確認できなかった。Bermejo らの論文は、Google 関連の著者を含み、検討した1つの手法についての結論 |
各論文の記載の整理。優位性が「消えた」「残った」を断定するものではありません。確認日 2026年10月16日。
(1) 同じ課題で、古典の見積りが下がった例
Sycamore の例で、古典の見積りの変化を並べます。2019年に Google は約1万年と見積もり、同じ月に IBM は Summit と二次記憶を使えば「数日」と提案し、2022年に Pan らが低い忠実度のサンプルを15時間で作りました。1万年は約8.8×10⁷時間なので、見積りは数桁下がりました本稿の計算。
古典の新しい手法が出ても、量子装置の実験が、当時としては、古典の既知の方法の限界を押し広げたことは変わりません。また、古典側の手法が速くなるほど、次の量子の実験は、より大きく・より正確でなければ優位を示せなくなります。主張と再評価の応酬は、量子側と古典側の「競争」として進んでいます(本記事による解説)。
(2) 再評価はなぜ起きるのか
- ノイズがあると、状態が単純になる:実機のサンプルは理想の状態より「もつれ」が少なく、近似で表しやすくなります。Kechedzhi らは、実効的な回路の体積から、得られる信号と古典の計算費用の関係を整理しました事実[参考資料16]
- 必要な精度が低い:「忠実度0.2%でよい」「観測する量が1つの期待値だけ」のように、求められる精度や出力が小さいほど、古典は省略できる部分が増えます事実[参考資料2・5]
- 古典の手法も進歩する:テンソルネットワークや疎なパウリ力学など、課題の構造を使う方法が新しく作られ、スーパーコンピュータの性能向上も重なります事実[参考資料14・15・5]
7. 結果は確かめられるか ― 検証可能性の3つの段階
優位性の主張では、「量子装置の出力が正しい」ことを、どう確かめるかが重要です。ところが、古典で計算しにくい課題だからこそ、古典で直接確かめにくいという矛盾があります。Arute らも、この点を率直に書いています。20サイクルの回路で100万サンプルを作るのに、量子装置は200秒、同じ忠実度の古典サンプリングは100万コアで1万年、忠実度の検証には数百万年かかるとしています。直接検証できる最大の回路は、53量子ビットでも簡略化したゲート配置のものでした事実[参考資料2]。
- 段階①:Kim ら(IBM)は、まず古典で厳密に検証できる回路で正しさを確かめ、次に古典の力ずくでは扱えない回路へ進みました事実[参考資料13]
- 段階③:Google は Quantum Echoes で、電流・磁化などの期待値は「別の量子コンピュータでも同じ値が出る検証可能な結果」であり、乱数のビット列とは違う、と説明しています[参考資料18](企業の主張。分子への応用の部分は、査読前の別の論文で、同じブログが「まだ古典を超えていない」と述べています)。
- 古典の大型計算で検証して、価値のある結果にする例:Quantinuum のチームは、56量子ビットのトラップドイオン装置 H2-1 を、インターネット経由で使い、乱数の「認証」を行いました。古典のスーパーコンピュータ(合計 1.1×10¹⁸ 演算/秒)で検証し、制限された攻撃者と追加の仮定のもとで71,313ビットのエントロピーを認証したと報告しています事実[参考資料24](企業と共同研究者の報告)。ランダム回路の「古典での計算の難しさ」を、課題として使う発想です。
優位性の主張を、公開の場で追う試みもあります。IBM は、Flatiron Institute、BlueQubit、Algorithmiq などと、候補を集めて古典の最良の方法と比べる「量子優位性トラッカー」を始めました(2026年2月の記事の数か月前)。IBM の記事は、2026年2月時点で、コミュニティはまだ優位性に達していない(検証と、量子の明確な分離が必要)と述べ、BlueQubit の「ピークド回路」の例で、量子側の優位が新しい古典の手法で逆転した経緯を紹介しています[参考資料26](企業の説明)。
8. 優位性と「役に立つ」は別 ― 実用性への距離
ランダム回路サンプリングやボソンサンプリングは、結果が直接の応用につながる課題ではありません(性能の物差しとしての課題です)。Google の Quantum Echoes は、物理量(OTOC)の測定で、分子の構造を調べる核磁気共鳴(NMR)のデータと組み合わせる応用を、別の論文(査読前)で示しましたが、同じブログは「この最初の実証は、まだ古典を超えていない」と述べています[参考資料18]。つまり、優位性が示された課題と、役に立つ応用の課題は、まだ重なっていません。
米国の DARPA は、量子ベンチマーキング・イニシアチブ(QBI)で、「実用規模(utility-scale)」を「計算の価値がコストを上回る」ことと定義し、2033年までに産業的に有用な量子コンピュータが作れるかを第三者の立場で検証しています。2026年10月8日時点で、ステージ A に2社、B に7社、C に6社が参加しています事実[参考資料27]。DARPA は、少なくとも1社が2033年までに産業的に有用な量子コンピュータを作る可能性が「五分五分を超える」と見積もっていますが未確定/将来、これは見積り・目標であって、達成ではありません。
優位性の主張を支える装置の性能は、材料と製造に支えられています。たとえば Zuchongzhi 3.0 の論文は、1量子ビットゲート 99.90%、2量子ビットゲート 99.62%、読み出し 99.18% の忠実度を報告しています事実[参考資料8](論文の要旨の記載。方式の違う装置の値と並べて優劣をつけないでください)。第1章の式で考えると、2量子ビットゲートの誤り 0.38% は、約182ゲートで成功確率50%に相当します本稿の計算(「NISQとハイブリッド計算」編)。
素材から見ると、ここから分かるのは、優位性の主張が、ほぼノイズの結果を統計で取り出す仕組みの上に成り立っていることです(第4章)。誤り率を決める材料(欠陥、界面、基板の損失)が1桁改善すれば、「ほぼノイズ」の度合いが大きく変わります。装置の材料と製造の進歩は、優位性を主張できる課題の広さに直結します(本記事による解説。「超伝導量子ビット」編・「量子コンピュータの材料と製造」編で扱います)。
D-Wave の主張は、磁性材料の量子シミュレーション(スピングラスの時間発展)を課題にしています事実[参考資料21]。素材技術者が確かめるべきことは3つです。①課題が実際の材料か:模型(人工的な格子とスピンの相互作用)で、特定の物質の物性そのものではありません。②何と比べたか:テンソルネットワークなど複数の古典手法と比べ、その後、別の古典手法が同程度の精度を出したと報告されています(第6章)。③材料研究の意思決定に使える精度か:模型で一致しても、実験で測る物性値と結びつくとは限りません。
「優位性」の話を、材料研究に役立つかどうかの判断に直接使わないでください。化学・材料への応用は、「量子化学・材料シミュレーション」編で、古典の最良の方法との比較条件とともに整理します。
9. 限界と、確認できなかったこと/まとめ
(1) 確認できなかったこと
- Google Willow の RCS の主張(10²⁵年)は、ブログの記載で確認したにとどまり、見積りの前提(古典の資源・条件)の詳細は確認できませんでした。
- Willow と Zuchongzhi 3.0 の主張に対する古典側の再評価の論文は、確認できませんでした(探し方の限界があり、存在しないことの証明ではありません)。
- Quantum Echoes に対する第三者の古典側の反証は確認できませんでした。2026年のプレプリント2件(Bermejo ら、Kshetrimayum ら)は、査読前です。
- ISO/IEC 4879:2024(量子コンピューティングの用語)の本文は有料で、「量子優位性」などの用語が定義されているかは確認できませんでした。IEEE P7131 などは策定中のワーキンググループ活動として確認したにとどまります。
- 各論文の見積り(年数・倍率)は、記載された古典の手法・資源での値で、同じ条件の比較ではありません。
- 量子優位性は「点」の主張です。誰が・どの課題で・何と比べてを確かめます(6つの問い)事実
- RCS の XEB は、ほぼノイズの結果から、0.2%ほどの信号を統計で取り出す物差しです(Sycamore の予測忠実度は0.2%)。数百万サンプルが必要です事実本稿の計算
- 代表的な主張の多くに、古典側の再評価が続きました(Sycamore の見積りは約1万年から数日・15時間へ、GBS・IBM・D-Wave も)。ただし条件は同じではありません事実
- 検証は、古典で直接/統計だけ/別の装置でも再現の3段階で考えます。企業の発表と第三者の検証を分けます事実
- 優位性と「役に立つ」は別です。DARPA の QBI は「価値がコストを上回る」ことを基準に、第三者として検証を進めています事実
10. 評価・標準の読み方
量子優位性の「ものさし」は、装置の質を測る物差し(XEB、量子ボリューム)と、主張を確かめる枠組み(古典との比較、第三者の検証)に分かれます。前者は「装置が理想にどれだけ近いか」を測り、後者は「古典の最良の方法に勝っているか」を確かめます。どちらも、「何を測り、何を測っていないか」を意識して読みます。確認日は2026年10月16日です。
| 評価項目 | 代表的なベンチマーク・評価手法(名称・出典) | 標準・指針(ISO/IEC・IEEE・DARPA など) | 読み方の注意 |
|---|---|---|---|
| 装置が理想に近いか(RCS) | 線形クロスエントロピー・ベンチマーク XEB(Boixo ら 2018、Arute ら 2019)[参考資料3・2]。ノイズの相転移(Morvan ら 2024)[参考資料6]事実 | 確認できなかった(XEB を定める国際規格は確認していない) | XEB は理想の分布の古典計算が必要。大規模では簡略化した回路で外挿する(第4・7章) |
| 装置全体の質 | 量子ボリューム(Cross ら 2019)[参考資料28]事実 | 確認できなかった | 1つの数字で、優位性を主張できる課題を決めるわけではない |
| 優位性の定義 | 操作的な定義の提案「量子優位性の枠組み」(Lanes ら 2025、査読前)[参考資料25]。Madsen らの定義[参考資料11]事実未確定/将来 | ISO/IEC 4879:2024(用語。2024年5月発行)[参考資料29]。本文は有料で、優位性の定義の有無は未確認事実 | 定義は論文ごとに違う。「公式の定義」は確認できなかった |
| 主張の追跡 | 量子優位性トラッカー(IBM、Flatiron、BlueQubit、Algorithmiq。2026年2月の記事の数か月前に開始)[参考資料26]事実 | 確認できなかった | 主催側が企業を含む。第三者の検証とあわせて読む |
| 実用規模への道 | DARPA QBI:実用規模=計算の価値がコストを上回る。第三者の検証と評価(ステージ A・B・C)[参考資料27]事実未確定/将来 | 米国政府機関のプログラム。国際規格ではない | 2033年は DARPA の目標・見積り。達成ではない |
| ベンチマークの標準化 | — | ISO/IEC JTC 3/JSC 3A:WG 2「量子コンピューティングのベンチマーク」[参考資料30]。IEEE P7131(性能指標とベンチマークの標準案、ワーキンググループ活動中)[参考資料31]事実未確定/将来 | 作業中の案件。公開済みの標準としては確認できなかった。要求事項は未確認 |
表の整理は本稿の計算(整理)。番号・題名・状態は ISO・IEEE SA・DARPA の公式ページで確認(確認日 2026年10月16日)。規格の本文は有料のため、適用範囲の記載にとどめ、要求事項は書いていません。
読み方の注意(素材技術者向け)
- 「何量子ビット」「何年」だけでは判断できません:優位性の数字は、課題・忠実度・古典の資源・サンプル数の条件つきです。条件の違う数字(10,000年、数日、15時間)を並べて優劣をつけないでください[参考資料2・4・5]
- 企業の発表と第三者の検証は別です:Google の10²⁵年や13,000倍、IBM のユーティリティ、D-Wave の「ビヨンド・クラシカル」、Xanadu の9,000年は、いずれも主張した側の見積りです[参考資料7・18・13・21・11]。
- 計画と達成を区別してください:DARPA の2033年や各社のロードマップは目標・見積りです。標準(IEEE P7131 など)の多くは策定中で、公開されても法令や契約で引用されて初めて拘束力を持つのが一般的です(本記事による解説)[参考資料27・31]。
11. 用語集
- 量子超越性(supremacy)
- 古典コンピュータにはできない課題を量子装置が行うこと。論文ごとに意味が異なる。
- 量子優位性(advantage)
- 明確な課題で、既知の最良の古典の方法を量子装置が上回ること。
- 量子ユーティリティ
- IBM の言葉。誤り耐性の前の段階で、力ずくの古典計算を超える規模の有用な結果が出せること。
- サンプリング
- 確率で決まる結果(0/1の列)を、何度も実行して集めること。
- ランダム回路サンプリング(RCS)
- ランダムに作った量子回路を実行し、出る0/1の列を集める課題。
- XEB(線形クロスエントロピー・ベンチマーク)
- 出た列の理想の確率の平均から作る数。F = 2ⁿ⟨P(x)⟩ − 1。
- 忠実度(フィデリティ)
- 操作や状態が理想にどれだけ近いかを表す数字。
- ボソンサンプリング
- 光子を干渉計に通し、どの出口に出たかを数える課題。
- ガウス型ボソンサンプリング(GBS)
- 圧縮された光を使うボソンサンプリング。実験で使いやすい。
- 圧縮光
- 光の揺らぎの一方を小さくした光。GBS の光源に使う。
- 干渉計
- 光の通り道を重ね合わせて、波を足し合わせる装置。
- 光子損失
- 光子が途中で失われること。大きいと古典で近似しやすくなる場合がある。
- スプーフィング
- 量子装置を使わずに、古典の簡単な方法で、検証を通るサンプルを作ること。
- テンソルネットワーク
- 大きな量子状態を、小さな部品のつながりで近似して表す古典の方法。
- スーパーコンピュータ
- 大規模な並列計算機。優位性の比較相手として、Summit や Frontier などが使われる。
- 力ずくの計算(ブルートフォース)
- 状態のすべての成分を保存・更新する、素朴な古典シミュレーション。
- 認証乱数
- 量子装置の出力を古典で検証して、乱数であることを保証する方法。
- 実用規模(utility-scale)
- DARPA の定義で、計算の価値がコストを上回る規模。
- 量子ボリューム
- 装置全体の質を1つの数字で表すベンチマーク。
- ベンチマーク
- 性能を比べるための共通の課題・物差し。
12. 参考資料(一次情報)
- Preskill J. "Quantum computing and the entanglement frontier", arXiv:1203.5813 (2012) — arxiv.org/abs/1203.5813
- Arute F. ほか "Quantum supremacy using a programmable superconducting processor", Nature 574, 505–510 (2019), DOI 10.1038/s41586-019-1666-5(オープンアクセス) — nature.com/articles/s41586-019-1666-5
- Boixo S. ほか "Characterizing quantum supremacy in near-term devices", Nat. Phys. 14, 595–600 (2018), DOI 10.1038/s41567-018-0124-x — doi.org/10.1038/s41567-018-0124-x
- Pednault E. ほか "Leveraging secondary storage to simulate deep 54-qubit Sycamore circuits", arXiv:1910.09534 (2019) — arxiv.org/abs/1910.09534
- Pan F., Chen K., Zhang P. "Solving the sampling problem of the Sycamore quantum circuits", Phys. Rev. Lett. 129, 090502 (2022), DOI 10.1103/PhysRevLett.129.090502 — doi.org/10.1103/PhysRevLett.129.090502
- Morvan A. ほか "Phase transitions in random circuit sampling", Nature 634, 328–333 (2024), DOI 10.1038/s41586-024-07998-6 — nature.com/articles/s41586-024-07998-6
- Google Quantum AI "Meet Willow, our state-of-the-art quantum chip" (Google blog, 9 December 2024) — blog.google/technology/research/google-willow-quantum-chip/
- Gao D. ほか "Establishing a new benchmark in quantum computational advantage with 105-qubit Zuchongzhi 3.0 processor", Phys. Rev. Lett. 134, 090601 (2025), arXiv:2412.11924 — arxiv.org/abs/2412.11924
- Aaronson S., Arkhipov A. "The computational complexity of linear optics", Theory of Computing 9, 143–252 (2013), arXiv:1011.3245 — arxiv.org/abs/1011.3245
- Zhong H.-S. ほか "Quantum computational advantage using photons", Science 370, 1460–1463 (2020), DOI 10.1126/science.abe8770 — doi.org/10.1126/science.abe8770
- Madsen L. S. ほか "Quantum computational advantage with a programmable photonic processor", Nature 606, 75–81 (2022), DOI 10.1038/s41586-022-04725-x — nature.com/articles/s41586-022-04725-x
- Oh C. ほか "Classical algorithm for simulating experimental Gaussian boson sampling", Nat. Phys. 20, 1461–1468 (2024), DOI 10.1038/s41567-024-02535-8 — doi.org/10.1038/s41567-024-02535-8
- Kim Y. ほか "Evidence for the utility of quantum computing before fault tolerance", Nature 618, 500–505 (2023), DOI 10.1038/s41586-023-06096-3 — doi.org/10.1038/s41586-023-06096-3
- Tindall J. ほか "Efficient tensor network simulation of IBM's Eagle kicked Ising experiment", PRX Quantum 5, 010308 (2024), DOI 10.1103/PRXQuantum.5.010308 — doi.org/10.1103/PRXQuantum.5.010308
- Begušić T., Gray J., Chan G. K.-L. "Fast and converged classical simulations of evidence for the utility of quantum computing before fault tolerance", Sci. Adv. 10, eadk4321 (2024), DOI 10.1126/sciadv.adk4321 — doi.org/10.1126/sciadv.adk4321
- Kechedzhi K. ほか "Effective quantum volume, fidelity and computational cost of noisy quantum processing experiments", Future Gener. Comput. Syst. 153, 431–441 (2024), DOI 10.1016/j.future.2023.12.002 — doi.org/10.1016/j.future.2023.12.002
- Google Quantum AI "Observation of constructive interference at the edge of quantum ergodicity", Nature 646, 825–830 (2025), DOI 10.1038/s41586-025-09526-6 — nature.com/articles/s41586-025-09526-6
- Google Quantum AI "A verifiable quantum advantage" (Google Research blog, 22 October 2025) — research.google/blog/a-verifiable-quantum-advantage/
- Bermejo P. ほか "Tensor networks with belief propagation cannot feasibly simulate Google's Quantum Echoes experiment", arXiv:2604.15427 (April 2026, preprint) — arxiv.org/abs/2604.15427
- Kshetrimayum A. ほか "Quantum advantage: a tensor network perspective", arXiv:2603.18825 (March 2026, preprint) — arxiv.org/abs/2603.18825
- King A. D. ほか "Beyond-classical computation in quantum simulation", Science 388, 199–204 (2025), DOI 10.1126/science.ado6285 — doi.org/10.1126/science.ado6285
- Tindall J. ほか "Dynamics of disordered quantum systems with two- and three-dimensional tensor networks", Science 392, 868–872 (2026), arXiv:2503.05693 — arxiv.org/abs/2503.05693
- Mauron L., Carleo G. "Challenging the quantum advantage frontier with large-scale classical simulations of annealing dynamics", arXiv:2503.08247 (2025, preprint) — arxiv.org/abs/2503.08247
- Liu M. ほか "Certified randomness using a trapped-ion quantum processor", Nature 640, 343–348 (2025), DOI 10.1038/s41586-025-08737-1 — nature.com/articles/s41586-025-08737-1
- Lanes O. ほか "A framework for quantum advantage", arXiv:2506.20658 (2025, preprint) — arxiv.org/abs/2506.20658
- Gambetta J., Davis R. (IBM) "Quantum advantage tracker" (IBM Quantum blog, 23 February 2026) — ibm.com/quantum/blog/quantum-advantage-tracker
- DARPA "Quantum Benchmarking Initiative (QBI)" (program page; list current as of 8 October 2026) — darpa.mil/research/programs/quantum-benchmarking-initiative
- Cross A. W. ほか "Validating quantum computers using randomized model circuits", Phys. Rev. A 100, 032328 (2019), DOI 10.1103/PhysRevA.100.032328 — doi.org/10.1103/PhysRevA.100.032328
- ISO/IEC "ISO/IEC 4879:2024 Information technology — Quantum computing — Vocabulary" (ISO のページ) — iso.org/standard/80432.html
- IEC/ISO JTC 3/JSC 3A "Quantum computing" (committee page: scope and working groups, including WG 2 benchmarking) — iso.org/committee/12010875.html
- IEEE SA "Quantum Benchmarking Working Group P7131" (working group site) — sagroups.ieee.org/7131/
13. 主張と出典の対応表(監査)
| 本文の主張 | 根拠 | 区分 |
|---|---|---|
| Preskill が2012年の論文で「量子超越性」の語を用い、古典の世界でできることを超える作業を制御された量子系が行える日を目指す文脈であること | 出典1 https://arxiv.org/abs/1203.5813 | 事実 |
| Google の53量子ビットの実験:約200秒で100万サンプル、古典は100万コアで約1万年、検証に数百万年(Google の見積り)。予測忠実度0.2%、1,113個の1量子ビットゲートと430個の2量子ビットゲート、XEB の定義と不確かさ 1/√サンプル数、0.1%の忠実度で費用が約1,000分の1、直接検証できる最大の回路は簡略化したもの | 出典2 https://www.nature.com/articles/s41586-019-1666-5 | 事実 |
| RCS をノイズのある近未来の装置で量子超越性を確かめる課題として論じたこと | 出典3 https://doi.org/10.1038/s41567-018-0124-x | 事実 |
| IBM の Pednault らが Summit と二次記憶で「数日」と提案したこと(2019) | 出典4 https://arxiv.org/abs/1910.09534 | 事実 |
| Pan らが忠実度約0.0037の100万サンプルを GPU 512基・約15時間で作成したこと。理想的な ExaFLOPS 機なら数十秒と見積もること | 出典5 https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.129.090502 | 事実 |
| Morvan らの67量子ビット・32サイクルの RCS と、ノイズによる相転移、古典に「なりすまされる」領域 | 出典6 https://www.nature.com/articles/s41586-024-07998-6 | 事実 |
| Google Willow の RCS:5分以内、10セプティリオン年(10²⁵年)の見積り、105量子ビット(Google のブログ) | 出典7 https://blog.google/technology/research/google-willow-quantum-chip/ | 事実 |
| Zuchongzhi 3.0:105量子ビット、1量子ビット 99.90%・2量子ビット 99.62%・読み出し 99.18%、83量子ビット・32サイクルの RCS、Frontier で約6.4×10⁹年(研究グループの見積り) | 出典8 https://arxiv.org/abs/2412.11924 | 事実 |
| Aaronson と Arkhipov の、ボソンサンプリングの古典効率的サンプリングが階層の崩壊を意味するという理論的根拠 | 出典9 https://arxiv.org/abs/1011.3245 | 事実 |
| Zhong らの GBS:50圧縮光・100モード・最大76クリック・状態空間10³⁰・10¹⁴倍の見積り | 出典10 https://doi.org/10.1126/science.abe8770 | 事実 |
| Madsen らの Borealis:216の圧縮モード、最大219光子、厳密な古典の方法で1サンプル9,000年超・装置36マイクロ秒(企業の主張)。優位性の定義。以前の光量子の実験がスプーフィングに弱かったこと | 出典11 https://www.nature.com/articles/s41586-022-04725-x | 事実 |
| Oh らの古典アルゴリズム:損失が大きいほど計算が軽くなるテンソルネットワーク、最大規模の GBS 実験の再現、実験が根拠とした指標で古典が理想の分布に近いという証拠 | 出典12 https://doi.org/10.1038/s41567-024-02535-8 | 事実 |
| Kim らの IBM 127量子ビット実験の位置づけ(有用性の証拠)、厳密に検証できる回路での確認、証明された高速化をもつ問題は目指さないこと | 出典13 https://doi.org/10.1038/s41586-023-06096-3 | 事実 |
| IBM 実験への古典側の再現:Tindall らのテンソルネットワーク、Begušić らの疎なパウリ力学、Kechedzhi らの有効な回路の体積の枠組み | 出典14 https://doi.org/10.1103/PRXQuantum.5.010308 出典15 https://doi.org/10.1126/sciadv.adk4321 出典16 https://doi.org/10.1016/j.future.2023.12.002 | 事実 |
| Quantum Echoes(Nature 2025):2次の OTOC の測定、約13,000倍の見積り、検証可能性の説明、9つの古典手法・約10人年の検討、分子への応用が「まだ古典を超えていない」こと(Google の記載。企業の主張) | 出典17 https://www.nature.com/articles/s41586-025-09526-6 出典18 https://research.google/blog/a-verifiable-quantum-advantage/ | 事実 |
| Bermejo らの2026年4月のプレプリント(信念伝播つきテンソルネットワークの検討)と、Kshetrimayum らの2026年3月のテンソルネットワークの観点からの総説 | 出典19 https://arxiv.org/abs/2604.15427 出典20 https://arxiv.org/abs/2603.18825 | 事実 |
| D-Wave の主張(King ら 2025)と、Tindall ら(Science 2026)・Mauron と Carleo(プレプリント)による古典側の結果 | 出典21 https://doi.org/10.1126/science.ado6285 出典22 https://arxiv.org/abs/2503.05693 出典23 https://arxiv.org/abs/2503.08247 | 事実 |
| Quantinuum の認証乱数:56量子ビットの H2-1、古典の検証 1.1×10¹⁸ 演算/秒、71,313ビット(制限された攻撃者・追加の仮定のもと) | 出典24 https://www.nature.com/articles/s41586-025-08737-1 | 事実 |
| 操作的な量子優位性の定義の提案(Lanes ら 2025、査読前) | 出典25 https://arxiv.org/abs/2506.20658 | 事実 |
| 量子優位性トラッカーの開始と、2026年2月時点の IBM の説明(優位性にはまだ達していない、BlueQubit の例) | 出典26 https://www.ibm.com/quantum/blog/quantum-advantage-tracker | 事実 |
| DARPA QBI の実用規模の定義、ステージ A・B・C の参加企業数(2026年10月8日時点)、2033年の見積り | 出典27 https://www.darpa.mil/research/programs/quantum-benchmarking-initiative | 事実 |
| 量子ボリュームの提案 | 出典28 https://doi.org/10.1103/PhysRevA.100.032328 | 事実 |
| ISO/IEC 4879:2024 の番号・題名・2024年5月発行。ISO/IEC JTC 3/JSC 3A の WG 2(ベンチマーク)。IEEE P7131 ワーキンググループの技術的範囲 | 出典29 https://www.iso.org/standard/80432.html 出典30 https://www.iso.org/committee/12010875.html 出典31 https://sagroups.ieee.org/7131/ | 事実 |
| 2⁵³ と 2¹⁰⁰ の値、14量子ビットの XEB の数値例(0.989、0.197、0.049、0.0017、−0.0005、10³〜10⁷ サンプルの推移、(3÷0.002)²=225万)、1万年=約8.8×10⁷時間、0.38%の誤りで約182ゲート | 本稿の計算(Python。乱数の種7の14量子ビットの1状態。説明用で、実機のデータではない) | 本稿の計算 |
| Willow・Zuchongzhi 3.0・Quantum Echoes(第三者)の古典側の再評価、Willow の見積りの前提、ISO/IEC 4879 での優位性の定義の有無、IEEE P7131 の公開状況 | 本稿の調査範囲でアクセスできた一次情報では確認できなかったため記載していない | 解説 |
| 「6つの問い」「主張は点であって面ではない」「ノイズで状態が単純になる」「損失が大きいほど古典で近似しやすい」「優位性と有用性は別」「材料・欠陥の改善が優位性を主張できる課題の広さに直結する」という読み取り | 公表内容にもとづく本記事の整理・解説。各機関が表明した見解ではない | 解説 |
| 図5・図8が実データでなく説明のための作図であること。図2・図3・図4・図6・図7・図9が概念図であること。図1・図10がImageGen生成の概念画像であること | 本記事による注記 | 解説 |
最終更新:2026年10月16日/出典は一次情報(査読論文、arXiv の論文、Google・IBM の公式ブログ、DARPA・ISO・IEEE の公式ページ)に限定しています。数値例は本稿の計算で、実機の結果ではありません。Willow の見積りの前提、Willow・Zuchongzhi 3.0・Quantum Echoes への第三者の古典側の再評価、ISO/IEC 4879 での優位性の定義、IEEE P7131 の公開状況については、確認できなかったため記載していません。図はすべて説明用の概念図または本稿の計算を含む作図で、図1と図10はImageGen生成の概念画像です。


