COMPANY PROFILE / 量子コンピュータ
リゲッティ・コンピューティング
― 超伝導チップを自社工場で作り、小さなチップを並べて大きくする「チップレット」方式で量子コンピュータを売る上場企業
Rigetti Computing(リゲッティ・コンピューティング)は、超伝導回路で量子ビット(量子コンピュータの計算の最小単位)を作る米国の上場企業(Nasdaq: RGTI)です。 最大の特徴は、9量子ビットの小さなチップ(チップレット)を複数つなぎ合わせて1つの量子プロセッサにする方式で、 2026年4月には12個のチップレットでできた108量子ビットのシステム(Cepheus-1-108Q)を一般提供したと発表しました。 量子チップは自社の製造工場(Fab-1)で作り、量子コンピュータそのものも、クラウドと現地設置の両方で提供しています。 一方で、2025年12月期の売上は約709万US$、純損失は約2億1,621万US$と、事業の規模はまだ小さく、売上の48.0%は米国政府関連です。 2026年9月には、米国商務省と最大US$1億のCHIPS法に基づく研究開発の助成を最終合意しました(その見返りに商務省へ株式を発行)。 本稿はこうした事実を、10-K・10-Q・8-Kなどの提出書類の範囲で整理します。
- 30秒でわかるRigettiと、量子コンピュータでの立ち位置
- ロゴと社名の表記について
- 量子コンピュータの世界で、この会社はどこにいるか
- 会社の規模
- 量子コンピュータにかけているリソース
- これまでの取り組み
- 今後の計画(すべて計画です)
- この会社は量子コンピュータで何を目指しているか
- 量子コンピュータ分野の提携マッピング
- 提供している技術・製品・サービス
- この企業が抱えるリスク
- 用語集/出典/主張と出典の対応表
1. 30秒でわかるRigettiと、量子コンピュータでの立ち位置
Nasdaq: RGTI製造工場Fab-1はカリフォルニア州フリーモント
物理108量子ビット9量子ビットのチップレット12個。2026年4月7日に一般提供と発表
(108量子ビット機)会社の社内試験の値。2026年4月発表。システムにより異なる(第5章の表)
Rigettiは、量子コンピュータの会社の中でも、「小さなチップをつなげて大きくする」ことを事業の柱にしている会社です。 大きな1枚のチップを作ると不良が増えて歩留まり(良品の割合)が下がるため、9量子ビットの良品を選んで並べる、という考え方です 事実。 ただし、会社の規模は小さく、売上は数百万US$の水準で、損失はそれを大きく上回ります。 「量子優位性」や「誤り耐性のある大規模機」について、会社自身が10-Kで「大規模誤り耐性の段階の始まりは約10年先」と書いており、 達成の時期は会社の見通しです 未確定/将来。本稿はこの区別を最後まで保ちます。
量子ビット:量子コンピュータの計算の最小単位。0と1を同時に含む状態を取れますが、壊れやすく、少しの熱や電気ノイズで間違えます。
ゲートの精度(フィデリティ):量子ビットへの操作が正しく行われる確率です。「2量子ビットゲートの精度99%」は「100回に1回は間違える」という意味で、誤り率は1%(=100%−99%)です。測り方(社内試験か第三者か、中央値か最良か)で値が変わります。
チップレット:小さなチップを複数つなげて、1つの大きなチップとして働かせる方式(本稿では9量子ビットの小チップ)。普通のコンピュータのチップでも使われる考え方です。
量子優位性:量子コンピュータが、ある計算で、いま知られている古典コンピュータの最良の方法より優れた結果を出すこと。「できた」という発表のあとに、古典側が反論する応酬が繰り返されてきました。Rigettiはまだこの主張をしていません。
2. ロゴと社名の表記について

表記の注意:会社名はRigetti Computing, Inc.(略して Rigetti)。日本語では「リゲッティ」が通用しますが、本稿は英字のまま表記します。 10-Kでは、量子チップの製造工場をFab-1、クラウドサービスをRigetti Quantum Cloud Services(QCS)と呼んでいます。
混同しやすいもの:Novera(ノヴェラ)は9量子ビットの量子プロセッサ(QPU)の製品名、Cepheus(ケフェウス)は複数のチップレットをつないだシステムの製品名、Ankaa(アンカー)は1枚のチップの世代名です。 ロゴはRigettiの公式サイトに掲載されているものです。
公式サイト:https://www.rigetti.com/3. 量子コンピュータの世界で、この会社はどこにいるか
量子コンピュータに関わる会社は、どうやって量子ビットを作るかで4つに分けると整理しやすくなります。 超伝導は「電気回路を極低温に冷やして量子ビットにする」方式、イオン・中性原子は「原子そのものを並べて量子ビットにする」方式、 光・シリコンほかは「光の粒やシリコンの中の電子のスピンを使う」方式、周辺・ソフトは「量子ビットは作らず、使いやすくする」会社です。
金属の中には、極端に冷やすと電気抵抗がゼロになる「超伝導」という状態になるものがあります。 Rigettiは、そうした金属で作った小さな電気回路(トランズモン型と呼ばれる型)をシリコンのチップの上に作り、 市販の希釈冷凍機で約0.02ケルビン(約−273.13℃)まで冷やして、マイクロ波の電気信号で操作します 事実。 10-Kは、超伝導の量子ビットはシリコンの半導体と共通点が多く、半導体工場の技術や人材を活かしやすいこと、 ゲートの動作が速い(10-Kは50〜70ナノ秒と記載)ことを利点に挙げています(会社の見解)。 難点は、冷却装置の大きさと、チップにつなぐ配線の数、量子ビットの数が増えると精度を保ちにくいことです。本シリーズの技術解説『超伝導量子ビット』『極低温と制御』でも扱います。
4. 会社の規模
Rigettiは従業員が約160人の小さな会社です。10-K・10-Q・決算発表の数字を表で示します 事実。
| 指標(千US$) | 2023年12月期 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 12,008 | 10,790 | 7,088 |
| 研究開発費 | 52,768 | 49,750 | 61,345 |
| 設備投資(有形固定資産の取得) | 9,059 | 11,098 | 18,676 |
| 純損失(注:ワラントの公正価値の変動を含む) | 75,107 | 200,988 | 216,210 |
| 従業員(2026年3月1日) | 164人(うち常勤162人)。米国が中心で、英国・オーストラリア・カナダにも拠点 | ||
| 現金・現金同等物と売却可能投資の合計(2026年6月30日) | 5億4,130万US$(会社の発表。2026年6月30日。有利子負債なしと会社は説明) | ||
上の純損失には、ワラント(新株を買う権利)の公正価値の変動による損失(2025年は1億5,060万US$の損失、会計上の評価損益で現金の支出ではない)が含まれます。 営業活動そのものの赤字とは別物なので、純損失だけで事業の赤字幅を読まないでください。 2026年6月30日終了の3か月間では、売上は513.8万US$(前年同期180.1万US$)、営業損失は2,810万US$、GAAPの純損失は5,260万US$と、会社は発表しています。 2025年12月期の売上の48.0%は米国政府関連(2024年は54.2%)で、売上の大半が開発契約です(10-K)。 また、10-Kは「過去に公表したマイルストーンを達成できなかった」「技術ロードマップを変更したことがある」と書いています。
5. 量子コンピュータにかけているリソース
Rigettiは量子専業なので、会社全体の数字がそのまま量子の数字です。4点を、確認できたかどうかで整理します。
| リソースの種類 | 確認できた内容(確認日 2026年10月16日) | 区分 |
|---|---|---|
| 人 | 従業員は164人(2026年3月1日。研究者・チップ/ハードウェア技術者・ソフト開発者が中心)。特許は121件取得・160件出願中(2025年12月31日)。2026年8月には最高執行責任者(COO)と最高技術責任者(CTO)を新たに任命 | 事実 |
| 金(支出) | 研究開発費は2025年に6,135万US$、設備投資は1,868万US$。10-Kは、研究開発費は今後も増える見込みで、製造工場の更新や新しい工場への投資に多額の現金が必要になる可能性があると書いている | 事実 |
| 金(調達) | 2025年上半期に、市場での株式売却(ATM)で純額3億4,670万US$、Quanta Computerへの第三者割当で3,500万US$(3,020,412株、1株約11.59US$)を調達。2026年6月末に現金等5億4,130万US$(会社の発表) | 事実 |
| 外部への出資・買収・合弁 | Rigettiが他社へ出資・買収した記載は10-K・10-Qに確認できず。逆に外部から出資を受けた例:(1) Quanta Computer(台湾)、(2) 米国商務省(2026年9月、助成の見返りにRigettiの株式7,739,938株を取得)。英国には「数年かけて最大US$1億を投資する計画」と会社が説明(計画) | 事実/未確定/将来(英国投資) |
| 公的資金・政府との関係 | (1) 米国商務省のCHIPS法による最大US$1億(2026年9月4日にOther Transaction Agreementで最終合意)、(2) DARPA・米エネルギー省(Fermilab・SQMS)・米空軍研究所(AFRL)との契約、(3) 英国のInnovate UKの助成、(4) インドのC-DAC(電子情報技術省の研究機関)から108量子ビット機の受注(US$840万)。DARPAのQBIでは、2025年4月のStage Aの企業一覧に掲載。ただし2025年11月のStage B(11社)には載っておらず、2026年10月8日時点の参加者一覧にも掲載なし | 事実 |
| 大学・研究機関との連携 | モンタナ州立大学(Noveraを納入)、エディンバラ大学・インペリアル・カレッジ・ロンドン(Innovate UKの共同研究に参加)、英国国立量子コンピューティングセンター(NQCC、36量子ビット機を設置)、ピッツバーグ・スーパーコンピューティングセンター(9量子ビットNoveraを納入する計画) | 事実 |
| 製造・施設 | 本社はカリフォルニア州バークレー、製造工場Fab-1はフリーモント(約53,800平方フィート)。会社は2017年に「量子プロセッサ専用の製造工場を初めて作った」と説明し、「今後少なくとも3年分のチップを供給できるウェハー能力がある」と書いている | 事実(会社の説明) |
主要なデバイスの状況(確認日 2026年10月16日・すべてRigettiの10-K・10-Q・8-K)
量子ビットの数はすべて「物理量子ビット」です(Rigettiは論理量子ビットのデバイスを提供していません)。ゲート精度は会社の社内試験による中央値で、測定法・条件を含めて他の方式・他社の数値と並べて優劣を比べることはできません。
| デバイス | 方式 | 量子ビット数 | 代表的な精度・性能(会社公表・社内試験) | 段階 | 日付・出典 |
|---|---|---|---|---|---|
| Novera QPU | 超伝導 | 物理9(さらに単独動作の試験用5量子ビットのチップ) | 2量子ビットゲート精度は中央値99.7%(2026年1月の発表)、99.8%(2026年8月の発表)。2025年に2台、合計約570万US$の注文を受領 | 販売中(現地設置) | 2023年12月発売。10-K |
| Ankaa-3 | 超伝導(1枚のチップ) | 物理84 | 2量子ビットゲート精度は中央値99.0%(2024年に誤り率を半減) | クラウドで提供 | 2024年第4四半期。10-K |
| Cepheus-1-36Q | 超伝導(チップレット4個) | 物理36 | 2量子ビットゲート精度は中央値99.6%(2026年1月。Ankaa-3から誤り率を半減)、ゲート時間の中央値76ナノ秒 | クラウドで提供 | 2025年第2四半期発表。10-K |
| Cepheus-1-108Q | 超伝導(チップレット12個) | 物理108 | 2量子ビットゲート精度は中央値約99.1%、1量子ビットゲート約99.9%、ゲート速度約60ナノ秒(2026年8月の発表)。2026年1月時点は99.0% | 一般提供(クラウド・Amazon Braket・Azure Quantumなど) | 2026年4月7日。10-Q、決算発表 |
| 108量子ビット機(インド向け) | 超伝導 | 物理108 | C-DAC(バンガロール)への現地設置。受注額US$840万 | 納入準備(2026年後半の設置予定) | 2026年1月の発表。10-Q |
| 高精度ゲートの試作 | 超伝導(試作基板) | — | 2量子ビットゲート精度は最大99.9%(ゲート時間28ナノ秒)。「断熱CZ」という独自方式。製品の数字ではなく試作の値 | 開発(試作) | 10-K |
| 約1,000量子ビット機 | 超伝導 | 約1,000(計画) | 約99.9%の2量子ビットゲート精度、50ナノ秒未満のゲート速度を、約3年の時間軸で目指すと会社が説明 | 計画 | 2026年8月6日の決算発表 |
6. これまでの取り組み
Rigettiの歩みは、「クラウドで使えるようにする」「自社工場で作る」「チップレットで大きくする」「精度を上げる」の4本で見ると分かりやすくなります。
| 時期 | できごと | 意味 |
|---|---|---|
| 2013年・2017年 | 2013年に創業。2017年に量子プロセッサ専用の製造工場(Fab-1)を作り、クラウドでの提供も始めた(会社の説明) | 設計・製造・クラウドの一体運営の出発点 |
| 2021年 | 国立研究所や量子コンピュータセンター向けに、本格的なシステムの販売を始めた(10-K) | クラウドだけでなく「現地設置」の事業へ |
| 2022年3月2日 | 特別買収目的会社(SPAC)Supernova Partners Acquisition Company IIとの合併を完了し、上場 | 以後、Nasdaqに上場して資金を調達 |
| 2023年12月 | 9量子ビットのQPU「Novera」を発売 | 量子ビットの数は小さいが、大学・研究所が現地に置ける製品 |
| 2024年第4四半期 | 84量子ビットのAnkaa-3を公開。2量子ビットゲートの精度は中央値99.0%(誤り率を半減) | 1枚のチップで作る方式の到達点 |
| 2025年2月27日 | 台湾のQuanta Computerと協力契約。両社が5年間で少なくともUS$2.5億ずつ量子分野に投資することに合意し、4月にQuantaがUS$3,500万分の株式を取得 | 制御装置・希釈冷凍機・配線などの部品をQuantaが開発する分担 |
| 2025年4月 | DARPAの量子ベンチマーク計画(QBI)のStage A企業に選ばれる(DARPAが2025年4月3日に発表)。同月、英国Innovate UKの「量子ミッション」の勝者にも選ばれる | QBIは誤り耐性量子コンピュータが2033年までに可能かを検証する公的プログラム |
| 2025年第2四半期 | 36量子ビットのCepheus-1-36Qを公開(9量子ビットのチップレット4個) | チップレット方式の最初の製品 |
| 2025年11月6日 | DARPAがQBIのStage Bとして11社を発表。Rigettiは含まれていない | DARPAはQBIを「優劣を決める競争ではない」と説明。その後の扱いは一次資料で確認できなかった |
| 2026年1月9日 | ロードマップを見直し、108量子ビット機の一般提供の時期を2026年3月末ごろに延期。同時に、9量子ビット機99.7%、36量子ビット機99.6%、108量子ビット機99.0%の精度を発表 | 会社は10-Kで、過去にもマイルストーンを守れなかった、ロードマップを変更したと書いている |
| 2026年1月 | インドのC-DACから108量子ビット機を受注(US$840万) | 現地設置の大型受注。納入は2026年後半の予定 |
| 2026年4月7日 | Cepheus-1-108Qの一般提供を発表。精度は中央値99.1%、ゲート速度約60ナノ秒 | 自社最大。クラウド、Amazon Braket、後にAzure Quantumでも利用可能 |
| 2026年5月20日・21日 | 米国商務省とCHIPS法による最大US$1億の助成の意向書(LOI)を締結・発表 | 見返りに商務省へ株式を発行する内容 |
| 2026年8月 | COOと最高技術責任者(CTO)を新たに任命。2026年第2四半期の決算を発表 | 経営体制の強化(決算では売上513.8万US$) |
| 2026年9月4日・8日 | 商務省とOther Transaction Agreementで最大US$1億の助成を最終合意(9月4日)。9月8日に商務省へ7,739,938株(1株12.92US$)を発行 | 助成は3回に分けて支払われ、マイルストーンの未達成時は返還を求められる可能性がある |
大きなケーキを1つの型で焼くと、どこか1か所が焦げただけで全体が失敗します。小さなカップケーキを焼いて並べれば、良いものだけを選べます。 Rigettiの10-Kも、1,000量子ビットの大きな1枚のチップを作るより、100量子ビットのチップを10枚作って組み合わせるほうが、歩留まりが上がり、予測しやすいと説明しています(会社の見解)。 チップどうしをつなぐには、シリコンを貫く超伝導の配線(貫通ビア)、チップを重ねて接合する技術、チップ間で高精度なゲートを行う結合の技術が必要で、10-Kはこれらを「Fab-1の技術」としています。 ただしチップの数が増えるほど、つなぎ目での誤りと、冷凍機内の配線の数が課題になります。
7. 今後の計画(すべて計画です)
以下はすべてRigettiの提出書類・決算発表に書かれた計画・見通しです。確認日(2026年10月16日)時点で達成されたものではありません 未確定/将来。
2量子ビットゲート精度約99.9%
ゲート速度50ナノ秒未満会社が「経路」として示した目標。達成時期の保証ではない
Rigettiは提出書類・発表の中で、超伝導方式のゲート速度を他方式と比べる表現を使っています。 10-Kでは「トラップドイオンや中性原子の約1,000倍速い」、2026年8月の決算発表では「トラップドイオンの約10,000倍、中性原子の約100倍」と書かれており、 文書によって倍率が異なります。これらは会社の主張で、比較の前提(ゲート時間のどの値を比べるか)も示されていません。 本稿は方式どうしの優劣をつけない方針のため、これらの倍率は採用しません。
「量子優位性」についても、Rigetti自身はまだ達成を主張していません。10-Kは優位性を「古典コンピュータでは物理的に解けない実用問題を解けること」と定義し、 そのために必要な性能条件も、会社が考えるものとして示しているだけです 未確定/将来。優位性の読み方は本シリーズの技術解説『量子優位性の読み方』も参照してください。
8. この会社は量子コンピュータで何を目指しているか
ここは会社が直接には述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに書きます。
| 読み取れること | 根拠となる一次情報 | 区分 |
|---|---|---|
| 売上の柱を開発契約から、量子コンピュータの販売・クラウドへ移したい | 10-Kは「現在の売上の大半は開発契約。長期のモデルはQPU販売とクラウド(QCaaS・QCS)の継続収入に重くなる」と記載。2026年上半期の増収は9量子ビットNoveraの販売が主因(10-Q) | 事実(会社の見通し)/移行の読みは推測 |
| 量子ビットの数を増やす道(チップレット)と、精度を上げる道(単一チップの改善)を分けて進める | 10-Kは「チップレット方式なら、精度の向上を、規模の拡大とは別に単一のコアチップで進め、後から統合できる」と記載 | 事実(会社の方針) |
| 米国の国内製造・政府支援を軸にする方向 | 商務省の助成は、米国での所有・製造の要件、外国との事業・投資・提携の制限、セキュリティ要件を含み、見返りに株式を発行する。10-Kで米国政府関連が売上の48.0% | 推測 |
| HPC(スーパーコンピュータ)との組み合わせを販売の足がかりにする | 2026年8月の発表で、HPEとピッツバーグ・スーパーコンピューティングセンターとの協力(9量子ビットのNovera納入)を「需要の広がり」と説明 | 推測 |
| 精度(コヒーレンス時間)の改善が当面の最優先課題 | 2026年8月の発表は、コヒーレンス時間を「忠実度をさらに上げる鍵」として挙げ、チップ設計・製造・材料・工程の改善に取り組んでいると書いた | 事実(会社の説明) |
2026年1月、Rigettiは108量子ビット機の一般提供を延期し、同時に「9量子ビット機99.7%、36量子ビット機99.6%、108量子ビット機99.0%」という精度の表を示しました。 4月の一般提供時の108量子ビット機は99.1%で、量子ビットの数が増えるほど精度が下がる傾向が会社自身の数字で読み取れます 事実。 これは超伝導方式に限らず一般に起きやすい傾向で、量子ビットを増やしても精度を保つことが、チップレット方式の課題であることを示しています。 会社が2026年8月に「コヒーレンス時間の改善」を最優先として挙げたのは、この課題への対応と読むのが自然だと本稿は考えます 未確定/将来。
9. 量子コンピュータ分野の提携マッピング
10. 提供している技術・製品・サービス
Rigettiの商品は、「量子プロセッサ(QPU)の販売」「量子コンピュータ全体(システム)の販売」「クラウドでの利用」「チップの受託製造(ファウンドリ)」「開発契約」の5つに分けると整理できます。
| 層 | 内容(確認日 2026年10月16日) | 状況 |
|---|---|---|
| QPUの販売 | Novera(9量子ビットのチップ+単独動作の試験用5量子ビットのチップ)。顧客が自分の冷凍機・制御装置につなぐ形。2025年に2台・約570万US$の注文を受けた | 販売中 |
| システムの販売(現地設置) | Cepheusシリーズ(36量子ビット・108量子ビット)。制御電子回路を含む。インドC-DAC向けの108量子ビット機を受注。国立研究所・量子コンピュータセンター向けに2021年から販売 | 販売中・納入準備 |
| クラウド | Rigetti Quantum Cloud Services(QCS)と、Amazon Braket・Microsoft Azure Quantum・qBraidなどを通じた提供。Ankaa-3、Cepheus-1-36Q、Cepheus-1-108Qが利用可能 | 提供 |
| チップの受託製造 | Rigetti Foundry Services。Fab-1で超伝導の量子チップを作り、大学・防衛研究所・国立研究所に提供 | 提供(金額は非公表) |
| 開発契約・専門サービス | DARPA・DOE・AFRL・Innovate UKなどの開発契約。アルゴリズム開発・性能評価・ソフト開発の有料サービス | 売上の大半(10-K) |
Rigettiの量子ビットは、シリコンのチップ上に超伝導体の薄膜で回路を描いて作られます 事実。10-Kは、チップレット方式を支える技術として、 チップどうしを超伝導の状態で接合する技術(チップの3次元集積)、 シリコンを貫く超伝導の配線(貫通ビア)、 別々のチップにある量子ビット間で高精度のゲートを行うためのチップ間結合の3つを挙げています。 これらは普通の半導体工場の先端パッケージ技術(チップを積む・貫通ビアでつなぐ)に近い発想で、会社は「Fab-1で設計・製造・試験を速く回せることが強み」と説明しています。
量子ビットの精度を決める要因として、2026年8月の発表はコヒーレンス時間(量子ビットが量子の状態を保てる時間)を挙げ、チップ設計、製造、材料、工程の改善に取り組んでいると書いています。 超伝導の量子ビットでは、薄膜の質や界面の汚れが、状態を保てる時間に直接響きます(一般的な説明)。 ただし、Rigettiの量子ビットに使う具体的な超伝導材料や基板の種類は、確認した提出書類・発表には書かれておらず、本稿は特定しません 未確定/将来。 商務省の助成が掲げる3つの課題のうち「高接続チップのための製造能力の開発」と「冷凍能力を桁違いに拡大する新しい冷凍機の構造」は、まさに薄膜・接合・冷却の技術課題です。
11. この企業が抱えるリスク
ここに書くのは、提出書類に基づく事実と、本稿の読みです。特定の会社を評価したり、投資の判断材料を示したりするものではありません。
| リスク | 内容 | 区分 |
|---|---|---|
| ロードマップの遅れ・変更 | 10-Kは「過去に公表したマイルストーンを達成できなかった」「ロードマップを変更したことがある」と明記。2026年1月には108量子ビット機の一般提供を延期し、4月に提供開始した。約1,000量子ビット・99.9%の目標は会社の見通し | 事実(過去の経緯)/目標は未確定/将来 |
| 事業規模と資金 | 売上は2025年に708.8万US$(前年比減)、純損失は2億1,621万US$(評価損益を含む)。会社は2026年6月末に現金等5億4,130万US$、有利子負債なしと説明するが、10-Kは今後も損失が続く見込みで、資金調達が必要になる可能性があると書いている | 事実 |
| 顧客の偏り | 2025年の売上の48.0%(前年54.2%)は米国政府関連。10-Kは、米国の国家量子イニシアティブ法の失効と再承認の遅れが売上に影響したと記載 | 事実 |
| 精度と規模の両立 | 会社自身の数字で、量子ビット数が多いほど2量子ビットゲート精度は低い(9量子ビット99.8%、36量子ビット99.6%、108量子ビット約99.1%)。会社が量子優位性に必要とする条件(1,000量子ビット超・99.9%超)とは開きがある | 事実(現状)/達成は未確定/将来 |
| 政府の助成の条件 | 商務省の助成は、マイルストーン未達成時の支払い停止、支払済み額の返還請求、米国での所有・製造の要件、外国との事業・投資・提携の制限、政府のライセンス権(マーチイン権を含む)などを含む。商務省へ株式を発行した分は既存株主の持ち分の希薄化にあたる | 事実(契約条件) |
| 財務報告の内部統制 | 10-Kは、過去に内部統制の重要な不備を認識し、過去の財務諸表の訂正に至ったことがあると記載 | 事実(過去の経緯) |
| 方式・競合の動き | 他の方式(イオン・中性原子・光など)の会社や、大手のIBM・Googleも誤り訂正の実験を進めている。本稿は方式どうし・会社どうしの優劣をつけない | 推測 |
| 外部の検証 | DARPAのQBIでは、2025年4月にStage Aの企業に挙げられたが、2025年11月のStage B(11社)には含まれず、2026年10月8日時点の参加者一覧にも載っていない。DARPAはQBIを優劣を決める競争ではないと説明しており、掲載の有無で技術の優劣は判断できない。Rigetti側の10-K・10-Qにこの点の記載は確認できなかった | 事実 |
12. 用語集
- 量子ビット(qubit)
- 量子コンピュータの計算の最小単位。0と1の重ね合わせの状態を取れるが、壊れやすい。
- 物理量子ビット/論理量子ビット
- 装置上に実際にある量子ビットが物理、誤り訂正のために多数の物理量子ビットを束ねて作る間違えにくい仮想の量子ビットが論理。
- 超伝導量子ビット
- 極低温で電気抵抗がゼロになる金属の回路を量子ビットにする方式。IBMやGoogleも採用。
- チップレット
- 小さなチップを複数つなげて1つの大きなチップとして働かせる方式。Rigettiでは9量子ビットの小チップを使う。
- ゲート精度(フィデリティ)
- 量子ビットへの操作が正しく行われる確率。「99%」は100回に1回間違える。中央値か最良か、社内試験か第三者かで値が変わる。
- QPU
- 量子処理装置(Quantum Processing Unit)。量子ビットを載せたチップ、またはそれを含む装置。
- コヒーレンス時間
- 量子ビットが量子の状態を保てる時間。長いほど精度を上げやすい。
- 誤り訂正/誤り耐性
- 多数の量子ビットで誤りを検出して直す仕組み。誤り耐性のある計算機は、この仕組みで長い計算を行える。
- 量子優位性
- 量子コンピュータが、ある計算で古典コンピュータの最良の方法より優れた結果を出すこと。Rigettiは達成を主張していない。
- 希釈冷凍機
- 絶対零度に近い温度(Rigettiの場合は約0.02K)まで冷やす装置。量子チップを入れる。
- CHIPS法
- 米国の半導体製造・研究への助成を定めた法律(CHIPS and Science Act)。Rigettiの助成はこれに基づく。
- Other Transaction Agreement
- 米国政府が通常の調達規則とは別の形で結ぶ契約。Rigettiと商務省の助成はこの形。
- DARPA QBI
- 米国防高等研究計画局の量子ベンチマーク計画。有用な誤り耐性量子コンピュータが2033年までに作れるかを段階的に検証する。
- Form 10-K/10-Q/8-K
- 米国上場企業がSECに提出する、年次報告書/四半期報告書/重要事項の臨時報告書。
13. 出典
- Rigetti Computing Form 10-K for the fiscal year ended December 31, 2025(米国SEC提出、2026年3月4日)。事業内容、デバイス、財務、従業員、特許、リスク要因。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1838359/000110465926023454/rgti-20251231x10k.htm
- Rigetti Computing Form 10-Q for the quarter ended June 30, 2026(2026年8月6日提出)。Cepheus-1-108Q、C-DAC、Quanta、商務省の記載、2026年第2四半期の財務。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1838359/000110465926091993/rgti-20260630x10q.htm
- Rigetti Computing Form 8-K(2026年9月8日提出)。商務省とのOther Transaction Agreement(2026年9月4日)と株式発行(2026年9月8日)。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1838359/000110465926105662/tm2624940d1_8k.htm
- Rigetti Computing Form 8-K(2026年5月21日提出)。商務省との意向書(LOI、2026年5月20日)。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1838359/000110465926064861/tm2615300d1_8k.htm
- Rigetti Computing Form 8-K(2026年4月7日提出)。Cepheus-1-108Qの一般提供と性能。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1838359/000110465926040377/tm2611278d1_8k.htm
- Rigetti Computing Form 8-K(2026年1月9日提出)。ロードマップの見直しと108量子ビット機の一般提供時期の変更、精度の発表。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1838359/000110465926002328/tm262713d1_8k.htm
- Rigetti Computing Form 8-K(2026年1月20日提出)。インドC-DACからの108量子ビット機の受注(US$840万)。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1838359/000110465926004828/tm263499d1_8k.htm
- Rigetti Computing Rigetti Computing Reports Second Quarter 2026 Financial Results(Form 8-Kの別添Exhibit 99.1、2026年8月6日)。第2四半期の財務、ロードマップ、HPE・PSCの協力、英国投資。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1838359/000110465926091979/rgti-20260806xex99d1.htm
- Rigetti Computing Form 8-K(2026年8月20日提出)。COOとCTOの任命。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1838359/000110465926098877/tm2623611d1_8k.htm
- 米国SEC EDGAR XBRL company facts API(CIK 0001838359)。売上高・研究開発費・純損失・設備投資の年次推移。 https://data.sec.gov/api/xbrl/companyfacts/CIK0001838359.json
- DARPA DARPA eyes companies targeting industrially useful quantum computers(2025年4月3日。QBI Stage Aの企業一覧)。 https://www.darpa.mil/news/2025/companies-targeting-quantum-computers
- DARPA Stage B selection(2025年11月6日時点の11社)。 https://www.darpa.mil/research/programs/quantum-benchmarking-initiative/stage-b-selection
- DARPA Quantum Benchmarking Initiative(QBI)公式ページ。参加企業の一覧(2026年10月8日時点)。 https://www.darpa.mil/research/programs/quantum-benchmarking-initiative
- Rigetti Computing Rigetti 公式サイト(ロゴの取得元)。 https://www.rigetti.com/
14. 主張と出典の対応表
最終更新:2026年10月16日/Troy Technical
本稿の数値は、Rigetti Computingが米国証券取引委員会(SEC)に提出した法定開示書類(10-K・10-Q・8-K)、同社の決算発表、DARPAの公式ページに基づきます。ゲート精度・ロードマップ・性能の比較は会社の社内試験・主張・計画であり、第三者による最終確認ではありません。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。確認日は2026年10月16日です。
