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パスカル(Pasqal) 企業解説

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COMPANY PROFILE / 量子コンピュータ

パスカル(Pasqal)
― 原子を光で並べる量子コンピュータを、欧州の計算センターに納め、2026年8月にNasdaqへ上場したフランスの会社

Pasqalは、レーザー光で1個ずつ捕まえて並べた原子を、量子コンピュータの部品(量子ビット)として使うフランスの会社です。2019年に、2022年のノーベル物理学賞のAlain Aspect氏らの研究をもとに設立されました。会社は今日は「アナログ」方式(原子の並べ方で問題を表し、原子どうしの自然な力に計算させる方式)を主力とし、同じ装置を将来は「デジタル」方式(命令を1つずつ重ねる方式)の誤り訂正へ進める、と説明しています。2026年8月27日に特別買収目的会社(SPAC)Bleichroeder Acquisition Corp. IIとの合併を完了し、8月28日からNasdaq(PSQL)で取引が始まりました。売上は2025年に約1,650万€で、まだ小さく、損失は拡大しています。本稿では、上場の経緯(SECの提出書類)、装置の納入実績、売上と資金、将来のロードマップを、会社の提出書類と発表の範囲で整理します。「量子優位」などは会社の主張として扱います。確認日は2026年10月16日です。

構成:Pasqal Holding SAが米国SECに提出した目論見書(Form F-4に基づく424B3、2026年8月5日)、シェル会社報告書(Form 20-F、2026年9月2日)、Form 6-K(半期決算)、会社の発表を一次情報として使用/確認日 2026年10月16日

この記事でわかること
  1. 30秒でわかるPasqalと、量子コンピュータでの立ち位置
  2. ロゴと社名の表記について
  3. 量子コンピュータの世界で、この会社はどこにいるか
  4. 会社の規模
  5. 量子コンピュータにかけているリソース
  6. これまでの取り組み
  7. 今後の計画
  8. この会社は量子コンピュータで何を目指しているか
  9. 量子コンピュータ分野の提携マッピング
  10. 提供している技術・製品・サービス
  11. この企業が抱えるリスク
  12. 用語集/出典/主張と出典の対応表

1. 30秒でわかるパスカル(Pasqal)と、量子コンピュータでの立ち位置

正式名称Pasqal Holding SA2019年設立(Institut d’Optique発)。共同創業者にAlain Aspect教授ほか
本社フランス・パレゾー
(Palaiseau)
SEC提出書類の所在地。欧州・米国・カナダ・サウジアラビア・韓国に拠点
上場Nasdaq: PSQL
(2026年8月28日〜)
SPAC(Bleichroeder Acquisition Corp. II)との合併を2026年8月27日に完了
この分野での区分イオン・中性原子(主)従たる類型はなし。区分は本稿による
量子ビットの作り方光のピンセットで並べた
中性原子
光チップの実験ではルビジウム原子(会社の発表)。主力はアナログ方式で、デジタル方式も目指す
主力装置Orion系
140〜200量子ビット
物理量子ビット。消費電力は約4kW(会社の説明)。7台を設置、3台を製造中
2025年の売上約1,650万€2024年は約350万€(16,468千€と3,508千€)。2025年の純損失は9,240万€
将来の目標2029年に論理量子ビット
200個超
会社の計画。実験段階の結果はまだ小規模(本文参照)
まず押さえるべき1点

Pasqalは、量子コンピュータを「今すぐ使える形」で売ろうとしている会社です。今日の主力はアナログ方式で、原子の並べ方で解きたい問題(最適化や物質のシミュレーションなど)を表し、原子どうしの自然な力に計算させます。ゲートを1つずつ重ねる「デジタル方式」と、間違いを直す「誤り訂正」は将来の目標という位置づけです 事実。売上はまだ小さく(2026年上半期は約490万€)、顧客は欧州の公的な計算センター(フランスのGENCI/CEA、ドイツのユーリッヒ研究センター、イタリアのCINECA)やサウジアラムコなどです。会社は2026年に「実用的な量子優位を今日提供できる」と述べていますが、本稿はこれを会社の主張として扱い、独立した検証は確認できませんでした。

2. ロゴと社名の表記について

表記の注意:社名はPasqal(フランス語読みでパスカル)。法人としては、合併後の上場会社がPasqal Holding SAで、事業会社のPasqal SASはその子会社です。名前の由来は17世紀のフランスの科学者ブレーズ・パスカルです。Orionは装置の名前、Pulserはソフトウェアの名前で、いずれも社名ではありません。

公式サイト:https://www.pasqal.com/

3. 量子コンピュータの世界で、この会社はどこにいるか

まず、量子ビットと方式の話です。量子ビットは量子コンピュータの最小の部品で、普通のビットと違い、0と1の「重ね合わせ」の状態をとれます。何で作るかが「方式」で、Pasqalは電気を帯びていない原子(中性原子)を使います。

量子コンピュータに関わる企業の4つの類型 同じ「量子の会社」でも、量子ビットの作り方(方式)で、強みと課題が違う 超伝導 イオン・中性原子 光・シリコンほか 周辺・ソフト 回路で量子ビットを作る 原子やイオンを並べる 光やシリコンで作る クラウド・ソフト・通信 IBM/Google Rigetti/IQM Quantinuum/IonQ QuEra/Pasqal PsiQuantum/Xanadu Diraq/Microsoft NVIDIA/AWS 富士通/東芝 製造技術と研究の蓄積 高い精度と操作性 光の技術と量産の可能性 使いやすさと連携 冷却と配線の難しさ 拡大と速度の課題 方式の実証が途上 自社のデバイスが主力ではない Pasqalは「イオン・中性原子」類型の会社(本稿の整理) 光のピンセットで並べた原子を量子ビットにし、アナログ方式を主力に提供する(会社の説明)
図1 量子コンピュータに関わる企業の4類型と、Pasqalの位置づけ。区分は本稿によるもので、企業名は本シリーズで扱う企業から例示しています 本稿の計算。同社が中性原子を量子ビットとして使い、アナログ方式の装置を納入していることは、目論見書(Form 424B3)の記載に基づきます。

Pasqalの装置は、同じ原子の配列を2つのやり方で使えるのが特徴です。次の図解は、その違いを簡単にしたものです。

同じ装置の2つの使い方:アナログとデジタル Pasqalの目論見書の説明を、本稿が簡略化して図にしたもの アナログ方式(今日の主力) デジタル方式(将来の目標) 1 原子の並べ方で、解きたい問題を表す 2 原子どうしの自然な力(相互作用)に  計算させる 3 原子の並びを読み出して答えにする 向く用途:最適化、物質のシミュレーション 1 「ゲート」という命令を1つずつ重ねる 2 間違いを見つけて直す(誤り訂正)  ことを繰り返す 3 論理量子ビットで長い計算を行う 目標:耐故障の量子コンピュータ 会社は「同じ物理の装置で、アナログ今日、デジタルは将来」と説明している 右(点線)は目標であり、アナログと同じ水準で動いているという意味ではない
図解 アナログ方式とデジタル方式。会社の目論見書の説明を本稿が簡略化したものです 本稿の計算。デジタル方式(ゲート)による誤り訂正は、2026年の実験で「論理量子ビットの基本部品を動かした」段階とされ、実用規模には達していません。

4. 会社の規模

Pasqalは2026年8月に上場したばかりで、年次報告書(Form 20-F)はまだ出ていません。2025年までの数字は目論見書、2026年上半期の数字はForm 6-Kに添付された経営陣による財務分析(MD&A)の記載です。単位は百万€(千€の値を丸めて表示)です 事実。

指標(百万€)2024年2025年2026年上半期
売上高3.516.54.9(前年同期は4.3)
 うち QPU(装置)の販売07.50
 うち QPU関連サービス2.16.53.9
 うち クライオスタット販売1.42.60.9
営業損失(46.8)(50.5)(59.2)(株式報酬等37.5を含む)
純損失(48.5)(92.4)(53.2)
現金・同等物―73.8(12月末)110.8(6月末)→ 約312.9(2026年8月27日)

2025年の売上は表では16,468千€、本文では「16.4百万€」と記載されています。2025年の純損失9,240万€には、償還債券(ORA債)の公正価値の変動による約3,490万€の損失が含まれます。

その他の規模内容出典
従業員約300人(博士号保持者70人超)。パレゾー本社に14の専用実験室とQPU用の10室出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/2119292/000121390026085694/ea0282861-11.htm
特許約92の特許ファミリー(発行済みと出願中の合計)出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/2119292/000121390026085694/ea0282861-11.htm
受注残など「予約・採択済みの事業」7,040万€(2026年6月30日)。助成金・税額控除・複数年の顧客契約を含み、売上ではない出典4 https://www.pasqal.com/newsroom/pasqal-reports-first-half-2026-financial-results/
発行済み株式2026年8月27日時点で212,293,691株出典2 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/2119292/000121390026096761/ea0303765-20f_pasqal.htm
ここで注意

2026年上半期の売上増(14%)は、案件の売上計上のタイミング(ユーリッヒ研究センターのQPUのアップグレード)によるもので、会社も「売上は期ごとに変動しうる」と書いています。サウジアラムコの装置は2026年に稼働を始めましたが、関連する売上は今後のサービス提供に応じて計上される見込みです 事実。また、「予約・採択済みの事業」は助成金や税額控除を含むため、売上の見通しではありません。

5. 量子コンピュータにかけているリソース

4点(人・金・外部への出資や買収・大学や公的機関との連携)について、確認できたかを表にします。

リソースの種類内容区分
人約300人、博士号保持者70人超。2025年の人件費は約3,870万€(2024年は約2,790万€)。研究開発の人員が多数事実
金:資金調達創業以来の調達総額は3億US$超(目論見書)。2025年4〜12月に償還債券(ORA債)6,830万€(年利12%)、2025年12月〜2026年2月にSeries C株で約1.01億€(1株139.54€)、2026年3月に転換社債3.125億US$(払込額2.5億US$)。SPACからの信託口座の残りは約2,769万US$(償還が約2.66億US$あったため)事実
金:現金2026年6月末に1.108億€、合併後の8月27日に約3.129億€(半期決算)。会社の合併完了の発表は「約3.6億US$の現金が利用可能」と記載(通貨・日時・定義が異なる)事実
金:公的資金・公的融資政府の助成金収入は2025年に約720万€(2024年は約1,080万€)。ケベック州投資公社の融資(最大1,500万カナダドル)、米国イリノイ州の金融公社の融資(最大1,500万US$、年3.55%)、Bpifranceの融資事実
外部への出資・買収・合弁Qu&Co Solutions(2021年に買収、2025年6月にオランダ法人を閉鎖して整理)、MyCryoFirm(2022年に買収。クライオスタット)、Aeponyx Enterprises(カナダ、2024年に買収。光集積回路)。株主はQuantonation(11.5%)、Bpifrance関連(11.4%)、Runa Capital(8.9%)、EIC Fund(6.8%)、Temasek関連(5.6%)など(2026年9月1日時点、20-Fの表)事実
大学・研究機関・公的機関との連携Institut d’Optique、フランスのGENCI/CEA、ユーリッヒ研究センター、CINECAへの装置納入、EUのQ-PLANET(総額5,000万€、28機関、Pasqalが調整役)、フランス国防調達庁(DGA)の防衛プログラム(第1段階を完了後、2026年9月に参加を終了)事実

主要な装置・実験の状況を、会社の資料で確認できた範囲で整理します(確認日 2026年10月16日)。数値は会社の公称または会社の発表で、方式や条件が異なるため、他社と並べて優劣をつけません。

装置・実験規模・内容(方式:中性原子、主にアナログ)段階日付出典
Orion物理量子ビット140〜200個、消費電力約4kW(会社の説明。同じ目論見書は古典のスーパーコンピュータを1,400kW超と比較)。7台を設置、4台を第三者へ納入(GENCI/CEA、ユーリッヒ、サウジアラビア、CINECA)提供開始・納入2026年8月(目論見書)出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/2119292/000121390026085694/ea0282861-11.htm
サウジアラビアの装置200量子ビットを制御できる2次元の配列。サウジアラムコのダーラン・データセンターに設置設置・稼働2025年11月24日(発表)出典6・4 https://www.pasqal.com/newsroom/aramco-and-pasqal-make-history-with-saudi-arabia-first-quantum-computer/ https://www.pasqal.com/newsroom/pasqal-reports-first-half-2026-financial-results/
イタリア向けの装置140量子ビット。レオナルド・スーパーコンピュータとの接続を想定。CINECAでの本稼働は2026年内の予定納入・調整中2026年出典4・1 https://www.pasqal.com/newsroom/pasqal-reports-first-half-2026-financial-results/ https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/2119292/000121390026085694/ea0282861-11.htm
324量子ビットのQPUアナログ方式での物質科学の応用向けに開発。最初の実証を実施(会社の説明)開発・実証2026年8月(目論見書)出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/2119292/000121390026085694/ea0282861-11.htm
1,024原子の配列欠陥のない1,024個の原子の配列を作成(従来は506個)。原子の保持時間を約40倍に延長(冷却系を再設計)実験(会社の発表)2026年上半期出典4 https://www.pasqal.com/newsroom/pasqal-reports-first-half-2026-financial-results/
論理量子ビットの基本部品フランス政府のPROQCIMAのもとで「論理量子ビットの基本部品を構築・運用する初期の能力」を審査の場で実演。論理と物理で比べた微分方程式の機械学習の実験(会社は、全アプリケーションでの初の比較と説明)実験(小規模)2026年初め〜5月出典1・4 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/2119292/000121390026085694/ea0282861-11.htm https://www.pasqal.com/newsroom/pasqal-reports-first-half-2026-financial-results/
光集積回路(PIC)で原子を捕獲1個の光チップから、4つの光ピンセットで4個のルビジウム原子を保持。保持時間は約27.5秒で、従来の光学系と同程度(会社の発表)。光学部の大きさを最大50分の1に実験(会社の発表)2026年(半期決算)出典4 https://www.pasqal.com/newsroom/pasqal-reports-first-half-2026-financial-results/
Vela/Centaurus/LyraVela:200量子ビット超(2027年)、Centaurus:早期の耐故障(2028年)、Lyra:実用的な耐故障(2029年)の予定計画 未確定/将来2026年8月(目論見書)出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/2119292/000121390026085694/ea0282861-11.htm

ゲートの忠実度(フィデリティ)や量子ビットのコヒーレンス時間の数値は、本稿が確認した提出書類・発表には記載が見当たらなかったため、表に載せていません。段階の「計画」は実現が確定したことを意味しません。

6. これまでの取り組み

時期できごと意味
2019年フランスで設立。Georges-Olivier Reymond、Christophe Jurczak、Alain Aspect、Antoine Browaeys、Thierry Lahayeの5人が共同創業中性原子の研究者が創業者
2021〜2022年Qu&Co Solutionsを買収(2021年)、MyCryoFirmを買収(2022年)。Series A(2021年)、Series B(2022年)ソフトと冷却技術を取り込んだ
2023年1月サウジアラムコのベンチャー部門Wa’ed Venturesが出資のちのサウジ展開の布石と会社が説明
2024年1,000個超の原子の配列(6月)。Aeponyx(カナダ)を買収(光集積回路)。サウジアラムコとの契約量産・小型化に向けた光部品の取り込み
2025年カナダ・シェルブルックに第2の工場を開設。4月にLoïc Henrietが会長に就任、10月29日にWasiq Bokhariが経営トップ(Managing Director)に就任。ORA債(4〜12月)、Series C(12月〜)。Qu&Coの整理(6月)経営体制と資金の組み替え
2025年11月サウジアラムコのダーラン・データセンターに200量子ビットの装置を設置(11月24日)中東初の産業向け量子コンピュータと会社は説明
2026年2月〜3月SPACとの合併契約に署名(2月28日)。転換社債の契約(3月4日)上場への道筋
2026年5月〜7月XPRIZE Quantum Applicationsの最終選考に進出(5月)。論理量子ビットと物理量子ビットを比べた実験(5月)。光集積回路のパッケージ拠点をケベックに開設(7月2日)応用・部品の両面の発表
2026年8月SPACの株主が合併を承認(25日)、合併完了(27日)、Nasdaqで取引開始(28日)。信託口座から約2.66億US$が償還された上場会社になった
2026年9月〜10月シェル会社報告書(20-F、9月2日)、半期決算(9月24日)、フランス防衛プログラムPROQCIMAへの参加終了(9月28日)、EUのQ-PLANETの調整役として発表(10月6日)防衛から民生・欧州の産業政策へ重心が動いた

7. 今後の計画

まず、会社が目論見書で示した「装置の世代」の計画を図解にします。すべて会社の計画で、達成の事実ではありません。

Pasqalの装置の世代(会社の計画) 目論見書(2026年8月)の記載。点線は計画で、実現が確定したことを意味しない Orion 現在(納入済み) 物理140〜200個 アナログが主力 Vela 2027年(予定) 物理200個超 速度・精度を改善 Centaurus 2028年(予定) 早期の耐故障 物理1万個を目指す Lyra 2029年(予定) 実用的な耐故障 論理200個超を目指す 世代ごとに、量子ビット数だけでなく繰り返し速度・精度・並列ゲート数を伸ばす計画 「物理1万個」は2028年、「論理200個超」は2029年の目標(目論見書)。物理と論理は別の数え方
図解 Pasqalの装置の世代。出典:目論見書(Form 424B3)の記載を本稿が整理したもので、年や数はすべて会社の計画・目標です 未確定/将来。現在のOrionは納入済みですが、論理量子ビットの数やフィデリティは本稿が確認した資料に記載がありません。
Vela2027年・物理200個超目論見書の記載。会社の計画
10,000物理量子ビット2028年を目指す目論見書の記載。現在の実証は1,024原子(保持した原子の数)
論理量子ビット2029年に200個超会社の目標。2026年の実験は基本部品の段階
QPUの製造能力年13台まで人員・準備・部品の調達が整った場合の拡大見込み
量子優位性の実証2026年第1四半期末を目標公式ロードマップのページ(日付なし)。実現の独立検証は確認できず
フランスの民生向け公的支援耐故障の研究開発計画を提出するよう要請2026年9月28日の発表。内容・金額は未定
サウジアラビア合弁会社の覚書などEleven Venturesと合弁会社の設立の覚書、KACSTと共同研究(半期決算)
EUの量子法提案段階目論見書は「まだ施行されていない」と記載

会社はこれらを「目標」「計画」「見込み」として述べており、達成の事実ではありません 未確定/将来。ロードマップのページは「2026年第1四半期末までに量子優位性を実証する」という目標を掲げていました。2026年9月の半期決算の発表は「有意義な応用で量子優位性を今日提供できる」と述べますが、その根拠となる条件や古典コンピュータとの比較は発表文に書かれておらず、本稿では確認できませんでした。

確認できなかったこと

次はいずれも会社の提出書類・発表で確認できませんでした 未確定/将来。ゲート・フィデリティ(1量子ビット・2量子ビット)とコヒーレンス時間の数値/Velaの受注・納入先/論理量子ビットの実験の誤り率の数値/量子優位性の主張に対する古典側の反論の有無(本稿は調べていない)/フランスの新しい公的支援の金額。「世界第2位の規模の量子コンピュータ群」(会社の説明)といった言葉は会社の主張で、第三者による比較は確認していません。

8. この会社は量子コンピュータで何を目指しているか

ここは会社が直接には述べていない部分を含みます。一次情報から読み取れる範囲の推測として、根拠とともに書きます。

読み取れること根拠となる一次情報区分
当面の収益の中心は、アナログ方式の装置の納入とサービスで、デジタル(耐故障)は後から目論見書が「近い将来はアナログで先行」と記載し、売上は装置の販売(2025年)とQPU関連サービス(2026年上半期)。デジタルは2028〜2029年の計画推測
欧州の公的な計算センターへの納入で実績を作り、中東・アジアへ販路を広げるGENCI/CEA、ユーリッヒ、CINECAへの納入、サウジアラムコの装置、Eleven VenturesやKACSTとの覚書、韓国・米国・カナダの拠点推測
量産と小型化のボトルネックを、光集積回路(PIC)で解こうとしているAeponyxを買収し、PICから4個の原子を約27.5秒保持。光学部の大きさを最大50分の1にできると説明。Q-PLANETで1013nmのチップ上レーザーを担当推測
公的資金の中心を、防衛(PROQCIMA)から民生・欧州の産業政策へ移した2026年9月28日の発表で、PROQCIMAへの参加終了と「商業応用に焦点」を述べ、民生の耐故障の研究開発計画の提出を求められたと記載。10月6日にQ-PLANETの調整役事実(理由の解釈は推測)
SPAC上場で得た現金は、公開株主の大規模な償還のため限られた約2.66億US$が償還され、信託口座に残ったのは約2,769万US$。転換社債(払込額2.5億US$)などと合わせて、会社は約3.6億US$が利用可能と発表事実
推測の根拠を1つだけ詳しく

半期決算の発表は、光集積回路(PIC)のレーザーで4個のルビジウム原子を4つの光ピンセットで約27.5秒保持したと述べます。会社は、この数字は従来の光学部品を使う装置と同程度で、光学部の大きさを最大50分の1にできると説明しています 事実。中性原子の装置は、原子の数を増やすほど、レーザーを狙った位置に届ける光学部品が大きく・複雑になります。ここから本稿は、「Pasqalは、光学系をチップにまとめることで、量子ビットを1万個規模に増やす際の部品の大きさと組み立ての手間を減らすことを、量産の鍵と見ている」と読みます。ただし、実験で保持したのは4個で、1,000個単位の配列をPICで動かした記載はありません。これは会社の説明を前提にした読みで、実際の量産への効果は今後の実証で確かめられる点です 未確定/将来。

9. 量子コンピュータ分野の提携マッピング

Pasqalを中心とした提携関係 提出書類・会社の発表に記載のある関係のみ(確認日 2026年10月16日)。報道ベースの関係は含まない Pasqal 中性原子 IBM Qiskit連携・IBM Quantum Network NVIDIA CUDA-Qと接続 Microsoft/Google Cloud クラウド経由で利用可能に Crédit Agricole CIB 金融での応用の提携 Q-PLANET(28機関) EUの試作ライン・調整役 GENCI/CEA・Jülich・CINECA 欧州の計算センターへ装置を納入 Saudi Aramco 200量子ビットの装置を設置 Aeponyx(カナダ) 2024年に買収(光集積回路) Quantonation/Bpifrance 主要株主(各約11%) Bleichroeder Acq. II SPAC。2026年8月に合併完了 共同開発・連携 装置の納入先 出資・買収・合併
図2 出典:目論見書、20-F、半期決算、会社の発表。IBMとはQiskitを使った連携とIBM Quantum Networkへの参加、NVIDIAとはCUDA-Qとの統合、MicrosoftとGoogle Cloudとはクラウド経由の提供です。サウジアラムコの装置は2025年11月に設置され、2026年に稼働しました。フランス国防調達庁のPROQCIMA(防衛プログラム)への参加は2026年9月に終了しており、図には含めていません。点線は出資・買収・合併で、株主比率は2026年9月1日時点のForm 20-Fの表です。

10. 提供している技術・製品・サービス

層主な製品提出書類・公式資料の記述
量子ビット光のピンセットで並べた中性原子レーザーで冷やして捕まえた原子を格子状に並べ、別のレーザーで状態を操作し、蛍光で読み出す。量子ビットを「作る」必要がなく、自然の均一さを使えると説明。量子ビット自体に極低温の冷却は不要(会社の説明)
装置Orion(140〜200量子ビット)客先に設置する形(オンプレミス)。データセンターに置ける。アナログとデジタルの両方のモードを同じ装置で動かす設計
ソフトPulser、Pulser Studio、ハイブリッド用ライブラリアナログ方式の計画を作るためのツール。IBMのQiskit、NVIDIAのCUDA-Qとの連携
クラウドPasqal Cloud、Microsoft Azure Quantum、Google Cloud Marketplaceアナログ方式のQPUにクラウド経由で接続。従量課金型で利用できる
その他クライオスタット(極低温用の装置)売上区分に「クライオスタット販売」があり、2025年は約260万€。MyCryoFirm(2022年に買収)由来。量子ビットには極低温を使わないと説明しつつ、装置内でのこの機器の役割は資料に詳しい記載なし
素材技術者の視点:光学部品をチップにまとめるという発想

原子は「同じ」、効くのは光と真空:中性原子の装置では、量子ビットの材料は自然の原子です。会社は「量子ビットを製造する必要がない」と述べます 事実。性能は、原子を保つ真空の質と、狙った原子に正確に光を当てる光学系で決まります。

光集積回路(PIC):会社は、PICが高速の変調器、低雑音のレーザー、増幅器、フィルターなどを提供でき、数万量子ビットへの拡大に適合すると説明します 事実。EUのQ-PLANETでは、4つの波長(461nm、698nm、795nm、1013nm)のレーザー、原子チップ、原子時計用の微細加工の蒸気セルなどを開発し、Pasqalは1013nmのチップ上レーザーを担当します 事実。シリコンやフォトニクスの製造プロセスを、原子の制御用の光源や部品に応用する方向です。

確認できなかった点:PICの具体的な材料や製造プロセス(例:窒化シリコン、シリコン、薄膜ニオブ酸リチウムなど)は、本稿が確認した資料に記載が見当たりませんでした 未確定/将来。本シリーズの技術解説「シリコンフォトニクス」「窒化シリコン導波路」「薄膜ニオブ酸リチウム」「半導体レーザー」は、こうした部品の背景を扱います。

11. この企業が抱えるリスク

リスク内容区分
売上が小さく、損失が大きい2025年の売上は約1,650万€に対し純損失は9,240万€、2026年上半期は売上約490万€に対し純損失5,320万€事実
負債・希薄化の負担転換社債3.125億US$(払込額2.5億US$)は金融負債として公正価値で測定される。転換社債の転換(約2,604万株相当)と投資家向けワラントの行使(約3,255万株相当)で、株式が増える可能性事実
会社の方針に対する政府の関与Bpifranceが株主で、事業会社の戦略委員会でも賛成票が必要な事項(知的財産のフランス国外への移転、重要資産の域外売却、幹部の任命など)がある。意思決定に制約が生じる可能性を会社が記載事実
公的プログラムの変更フランスの防衛プログラム(PROQCIMA)への参加を第1段階の後に終了。民生の公的支援は今後の設計で、内容・金額は未定未確定/将来
買収に伴うカナダ政府への約束Aeponyxの買収に関連し、雇用、技術の共同利用の制限などの約束・遵守義務を負い、事業の柔軟性を制限する可能性があると会社が記載事実
「量子優位」の主張の検証会社は「今日の応用で量子優位を提供できる」と述べるが、条件・比較は発表文に十分示されていない。独立した検証は確認できない未確定/将来
製造能力の制約年13台への拡大は「人員・準備・部品の調達が整った場合」の見込み未確定/将来
規制の変化現在、QPUは軍民両用品目に分類されず輸出管理の対象外だが、法令の変更で変わりうる。EUの量子法は提案段階事実
競合の存在Atom Computing、QuEra Computing、Infleqtionなどの中性原子、超伝導・イオン・光の各方式も論理量子ビットを目指す。会社の「世界第2位の規模の装置群」は会社の主張で、他社との優劣はここでは判断しない事実

12. 用語集

量子ビット
量子コンピュータの最小の部品。0と1の「重ね合わせ」をとれる。
中性原子
電気を帯びていない原子。レーザー光で捕まえて並べ、量子ビットとして使う。
光ピンセット
細く絞ったレーザー光で、原子を1個ずつ捕まえて動かす仕組み。
アナログ量子計算
原子の並べ方で問題を表し、原子どうしの自然な相互作用に計算させる方式。ゲートを重ねない。
デジタル(ゲート方式)
「ゲート」という命令を重ねて計算する方式。誤り訂正と組み合わせやすい。
論理量子ビット
複数の物理量子ビットを組み合わせ、間違いに強くした量子ビット。
耐故障(FTQC)
計算中の間違いを自動で直しながら動く量子コンピュータ。
QPU
量子処理装置。量子コンピュータの計算の中核となる装置。
光集積回路(PIC)
光を扱う部品を1つのチップの上にまとめたもの。
SPAC
特別買収目的会社。先に上場し、その後に事業会社と合併して、事業会社が上場する形をとる。
Form 20-F/6-K
米国に上場する外国企業が出す年次報告書(20-F)と随時報告(6-K)。
ORA債
株式に償還される債券。Pasqalは2025年に発行し、のちにSeries BまたはSeries C株に転換された。
計算センターに設置された中性原子の量子コンピュータの概念図(AI生成による概念図。実際の設備や製品を写したものではありません)。
図3 概念画像(ImageGen生成)。計算センターに設置された中性原子の量子コンピュータの概念図(AI生成による概念図。実際の設備や製品を写したものではありません)。 実際の製品・施設・寸法・測定結果ではありません。拡大模型と実物スケールの場面は区別してください。

13. 出典

  1. Pasqal Holding SA(米国SEC) Proxy statement/prospectus(Form 424B3、2026年8月5日)。会社情報、技術、製品、顧客、規制、財務(MD&A)、リスク、装置の世代の計画。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/2119292/000121390026085694/ea0282861-11.htm
  2. Pasqal Holding SA(米国SEC) Shell Company Report on Form 20-F(2026年9月2日提出、事象日2026年8月27日)。合併の完了、償還額、転換社債、株主構成。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/2119292/000121390026096761/ea0303765-20f_pasqal.htm
  3. Pasqal 「Pasqal and Bleichroeder Acquisition Corp. II Complete Business Combination」(2026年8月27日)。 https://www.pasqal.com/newsroom/pasqal-and-bleichroeder-acquisition-corp-ii-complete-business-combination/
  4. Pasqal 「Pasqal Reports First Half 2026 Financial Results」(2026年9月24日)。半期の売上・現金・技術のハイライト。 https://www.pasqal.com/newsroom/pasqal-reports-first-half-2026-financial-results/
  5. Pasqal Holding SA(米国SEC) Form 6-K Exhibit 99.2、MD&A(2026年6月30日の半期、2026年9月24日提出)。売上の内訳、純損失、現金。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/2119292/000121390026102831/ea030634601ex99-2.htm
  6. Pasqal 「Aramco and Pasqal make history with Saudi Arabia’s first quantum computer」(2025年11月24日)。 https://www.pasqal.com/newsroom/aramco-and-pasqal-make-history-with-saudi-arabia-first-quantum-computer/
  7. Pasqal 公式サイト「Our Roadmap」(確認日2026年10月16日)。ロードマップの目標。 https://www.pasqal.com/technology/roadmap/
  8. Pasqal 「Pasqal Announces an Evolution of Its Collaboration Framework with the French Public Authorities」(2026年9月28日)。PROQCIMAへの参加終了。 https://www.pasqal.com/newsroom/pasqal-announces-an-evolution-of-its-collaboration-framework-with-the-frenchpublic-authorities/
  9. Pasqal 「Pasqal Reaffirms its Commitment to the EU’s Quantum Ambitions as It Leads Q-PLANET…」(2026年10月6日)。 https://www.pasqal.com/newsroom/pasqal-reaffirms-its-commitment-to-the-eus-quantum-ambitions-as-it-leads-q-planet-for-neutral-atom-technologies/
  10. 米国SEC EDGARのPasqal Holding SAの提出書類一覧(確認日2026年10月16日)。 https://www.sec.gov/cgi-bin/browse-edgar?action=getcompany&CIK=0002119292&type=&dateb=&owner=include&count=40

14. 主張と出典の対応表

本文の主張区分出典
2019年設立、共同創業者、従業員約300人、特許約92、拠点事実出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/2119292/000121390026085694/ea0282861-11.htm
合併の完了(2026年8月27日)、Nasdaq(PSQL)での取引開始(8月28日)、本社所在地事実出典2・3 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/2119292/000121390026096761/ea0303765-20f_pasqal.htm https://www.pasqal.com/newsroom/pasqal-and-bleichroeder-acquisition-corp-ii-complete-business-combination/
償還額約2.66億US$、信託口座の残り約2,769万US$、転換社債3.125億US$(払込額2.5億US$)、発行済み株式212,293,691株事実出典2 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/2119292/000121390026096761/ea0303765-20f_pasqal.htm
株主構成(Quantonation 11.5%、Bpifrance関連11.4%、Runa Capital 8.9%、EIC Fund 6.8%、Temasek関連5.6%)事実出典2 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/2119292/000121390026096761/ea0303765-20f_pasqal.htm
売上(2024年3.5百万€、2025年16.5百万€)、内訳、純損失、人件費、政府助成金収入、ORA債、Series C事実出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/2119292/000121390026085694/ea0282861-11.htm
2026年上半期の売上4.9百万€、内訳、純損失53.2百万€、現金110.8百万€、1,024原子、PICでの原子保持、7,040万€の「予約・採択済みの事業」事実出典4・5 https://www.pasqal.com/newsroom/pasqal-reports-first-half-2026-financial-results/ https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/2119292/000121390026102831/ea030634601ex99-2.htm
Orion(140〜200量子ビット、約4kW)、設置7台・納入4台、324量子ビットのQPU、Vela・Centaurus・Lyraの計画、年13台の製造能力未確定/将来出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/2119292/000121390026085694/ea0282861-11.htm
サウジアラムコの装置(200量子ビット)、Wa’ed Venturesの出資(2023年1月)事実出典6 https://www.pasqal.com/newsroom/aramco-and-pasqal-make-history-with-saudi-arabia-first-quantum-computer/
ロードマップ(量子優位性の実証目標、論理200個超)未確定/将来出典7 https://www.pasqal.com/technology/roadmap/
PROQCIMAへの参加終了、民生の耐故障研究開発計画の提出の要請事実出典8 https://www.pasqal.com/newsroom/pasqal-announces-an-evolution-of-its-collaboration-framework-with-the-frenchpublic-authorities/
Q-PLANET(5,000万€、28機関・11か国、1013nmのチップ上レーザー)事実出典9 https://www.pasqal.com/newsroom/pasqal-reaffirms-its-commitment-to-the-eus-quantum-ambitions-as-it-leads-q-planet-for-neutral-atom-technologies/
2026年の「量子優位性を今日提供できる」との主張未確定/将来出典4 https://www.pasqal.com/newsroom/pasqal-reports-first-half-2026-financial-results/
4類型の区分(イオン・中性原子)本稿の計算本稿による整理。企業名は本シリーズの企業から例示
ゲート・フィデリティ、コヒーレンス時間、Velaの受注、古典側の反論の有無、フランスの新しい公的支援の金額未確定/将来確認できず。本稿では推計もしない 出典1・4の記載の範囲 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/2119292/000121390026085694/ea0282861-11.htm https://www.pasqal.com/newsroom/pasqal-reports-first-half-2026-financial-results/
アナログ中心で収益化、中東・アジアへ販路拡大、PICで量産の壁を解く、防衛から民生へという読み推測目論見書・半期決算・9月28日の発表からの本稿の解釈
EDGARの提出書類一覧(20-F、F-4、6-Kなど)事実出典10 https://www.sec.gov/cgi-bin/browse-edgar?action=getcompany&CIK=0002119292&type=&dateb=&owner=include&count=40

最終更新:2026年10月16日/Troy Technical
本稿の数値は、Pasqal Holding SAが米国証券取引委員会(SEC)に提出した書類(Form 424B3、20-F、6-K)と会社の発表に基づきます。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。装置の性能値は会社の公称または会社の発表で、方式・測定条件が異なる他社の値と並べて優劣をつけていません。株価・評価額には触れていません。

図版更新:2026年10月17日。本文・出典整理表のベクター作図という表記は、保存した元SVGの由来を示します。現在の主図の形式と読み方は各図下の説明を参照してください。ImageGen画像は実測や実在製品の写真ではなく、元SVG・数値・出典は展開して確認できます。