🌐 This site is also available in English Visit English Site →
🌐 English

アマゾン ウェブ サービス(AWS) 企業解説

← 量子コンピューターの解説一覧へ戻る

COMPANY PROFILE / 量子コンピュータ

アマゾン ウェブ サービス(AWS)
― 他社の量子コンピュータを「クラウドで貸し出す」会社が、自分でも誤り訂正向けの超伝導チップを研究している

AWSは、IonQ・Rigetti・IQM・AQT・QuEraといった他社の量子コンピュータを、クラウドサービスAmazon Braketから使えるようにしています。それと並行して、カリフォルニア工科大学(Caltech)の隣にあるAWS Center for Quantum Computingで、自社の超伝導チップOcelot(オセロット)を研究しています。Ocelotは「誤り訂正を最初から組み込む」ことを狙った試作品で、実用の量子コンピュータではありません。Amazonの年次報告書(Form 10-K)には量子コンピューティングの記載が見つからず、量子の売上・投資額は非公表です。本稿は、量子に関わる部分だけを、公式資料で確認できた範囲で整理します。

構成:Amazon.com, Inc.のForm 10-K(2025年12月期、2026年2月提出)・10-Q・AWSの公式ブログ/What’s New/製品ページ・Nature論文を一次情報として使用/確認日 2026年10月16日/最終更新 2026年10月16日

この記事でわかること
  1. 30秒でわかるAWSと、量子コンピュータでの立ち位置
  2. ロゴと社名の表記について
  3. 量子コンピュータの世界で、この会社はどこにいるか
  4. 会社の規模(量子に関わる部分に絞る)
  5. 量子コンピュータにかけているリソース
  6. これまでの取り組み
  7. 今後の計画
  8. この会社は量子コンピュータで何を目指しているか
  9. 量子コンピュータ分野の提携マッピング
  10. 提供している技術・製品・サービス
  11. この企業が抱えるリスク
  12. 用語集/出典/主張と出典の対応表

1. 30秒でわかるAWSと、量子コンピュータでの立ち位置

正式名称Amazon Web Services(AWS)Amazon.com, Inc. の事業セグメント。独立した上場会社ではない
本社・上場Amazon.com, Inc.
米国ワシントン州シアトル
NASDAQ: AMZN(Amazonとして上場)
量子での類型周辺・ソフト(主)
超伝導(従)
他社機をクラウドで提供しつつ、自社でも超伝導を研究
クラウドサービスAmazon Braket2019年12月に発表、2020年に提供開始
自社の研究拠点AWS Center for
Quantum Computing
Caltechの隣(カリフォルニア州パサデナ)
自社チップOcelot(試作品)2025年2月に発表。Natureに論文
量子の売上・投資額非公表10-Kに量子の記載が見つからない
最新の動きQuEraの耐障害機を
2028年にBraketへ(目標)
2026年6月15日に発表。会社の目標
まず押さえるべき1点

AWSの量子での立場は2つあります。①クラウドの窓口:研究者が、方式の違う他社の量子コンピュータを同じ道具で試せるようにする。②自社チップの研究:誤り訂正を最初から組み込んだ超伝導チップを、基礎研究から作っている。この2つは別のものです。Braketで使える量子コンピュータは、すべて他社が作った装置で、AWSの自社チップ(Ocelot)はBraketでは提供されていません(確認した公式資料に提供の記載なし) 事実。

本稿で「量子ビット数」を書くときは、物理量子ビット(実際のチップ上の量子ビット)か論理量子ビット(誤り訂正でまとめて作る丈夫な量子ビット)かを必ず分けます。

先に覚えておく言葉を4つだけ

量子ビット:量子コンピュータの情報の最小単位。QPUは量子ビットを並べた量子チップのことです。

誤り訂正:壊れやすい量子ビットの間違いを見つけて直す仕組み。多くの量子ビットを使うので「余計な量子ビットがどれだけ要るか」が大きな課題です。

cat qubit(猫量子ビット):「シュレーディンガーの猫」にちなんで名づけられた、光(マイクロ波)の振動を使った量子ビット。2種類ある誤りのうち一方を、仕組みとして起きにくくする性質があります。

クラウド:インターネット越しに、自分のパソコンではなく事業者の計算機を借りて使うこと。量子コンピュータの装置は大がかりなので、クラウド経由で使うのが一般的です。

2. ロゴと社名の表記について

表記の注意:Amazon Web Services(AWS)は、Amazon.com, Inc.の事業部門で、上場しているのはAmazon.com, Inc.です。本稿の財務数値はAmazon.com, Inc.のForm 10-Kに載るAWSセグメントの数字です。Amazon Braketは量子コンピュータを使うクラウドサービス、AWS Center for Quantum Computingは自社の量子ハードウェア研究組織で、名前が似ていますが役割は別です。

公式サイト:https://aws.amazon.com/braket/

3. 量子コンピュータの世界で、この会社はどこにいるか

量子コンピュータに関わる会社は、「量子ビットをどう作っているか(方式)」で、大きく4つに分けると整理しやすくなります。本稿の整理です 本稿の計算。

方式(類型)何を量子ビットにしているか(やさしい説明)
超伝導極低温(絶対零度に近い温度)で電気抵抗がなくなる金属で小さな電気回路を作り、その回路の2つの状態を0と1にあてる方式。半導体の製造に近い方法で作れる反面、極低温の冷却装置と大量の配線が必要。
イオン・中性原子真空の中で、電気を帯びた原子(イオン)や電気的に中性の原子を電磁場やレーザー光(光ピンセット)で捕まえて並べ、原子の内部状態を0と1にあてる方式。原子はどれも同じなので質のそろった量子ビットになりやすいが、操作の速度や規模の拡大が課題。
光・シリコンほか光の粒(光子)の性質や、シリコンの中の電子のスピン(小さな磁石の向き)などを0と1にあてる方式。既存の半導体工場やシリコンフォトニクス(光回路)の技術を使える可能性がある一方、実証はまだ途上の部分が多い。
周辺・ソフト量子ビットを作るのではなく、量子コンピュータを使う・動かす・つなぐ側を担う会社。クラウド、ソフトウェア、制御用の古典コンピュータ、量子通信などが入る。
量子コンピュータに関わる企業の4つの類型 同じ「量子の会社」でも、量子ビットの作り方(方式)で、強みと課題が違う 超伝導 イオン・中性原子 光・シリコンほか 周辺・ソフト 回路で量子ビットを作る 原子やイオンを並べる 光やシリコンで作る クラウド・ソフト・通信 IBM/Google Rigetti/IQM Quantinuum/IonQ QuEra/Pasqal PsiQuantum/Xanadu Diraq/Microsoft NVIDIA/AWS 富士通/東芝 製造技術と研究の蓄積 高い精度と操作性 光の技術と量産の可能性 使いやすさと連携 冷却と配線の難しさ 拡大と速度の課題 方式の実証が途上 自社のデバイスが主力ではない AWSは主に右端の「周辺・ソフト」、従として左端の「超伝導」にいます 他社の量子コンピュータをクラウドで提供しつつ、自社でも超伝導チップ(Ocelot)を研究
図1 量子コンピュータに関わる企業の4類型と、AWSの位置づけ。区分は本稿によるもので、企業名は本シリーズで扱う企業から例示しています 本稿の計算。AWSのBraketが他社機を提供し、自社チップOcelotが超伝導方式であることは、AWSの公式資料と論文の記載に基づきます(出典5・6・9)。

4. 会社の規模(量子に関わる部分に絞る)

AWSの全社規模は非常に大きいので、規模だけを簡潔に押さえます。数字はAmazon.com, Inc.の2025年12月期(2025年1月1日〜12月31日)のForm 10-Kによります 事実。

指標(単位:百万米ドル)2023年2024年2025年
Amazon全社の売上高574,785637,959716,924
AWSセグメントの売上高90,757107,556128,725
AWSセグメントの営業利益24,63139,83445,606
項目内容
従業員(Amazon全社、2025年12月31日)約1,576,000人(パート・アルバイトを含む)。AWSセグメントだけの人数は10-Kに記載なし
本社米国ワシントン州シアトル(410 Terry Avenue North)
上場市場NASDAQ Global Select Market(銘柄コードAMZN)
AWSの売上が全社に占める割合(2025年)約18.0%(128,725 ÷ 716,924)本稿の計算
ここで注意

上の数字はAWS全体のもので、量子コンピューティングの事業規模ではありません。Amazonは量子に関する売上・研究開発費・設備投資・専任人員のいずれも公表していません 未確定/将来。2025年12月期の10-Kと直近の10-Q(2026年6月30日終了)には、「quantum」「Braket」の語が見つかりませんでした。AWSのコストの多くは「Technology and infrastructure(技術とインフラ)」という費目にまとめて計上され、量子分は切り出されていません。

5. 量子コンピュータにかけているリソース

人・金・出資と買収・大学や公的機関との連携の4点について、一次情報で確認できたかどうかを表にしました。「記載なし」「非公表」も確認の成果です。

リソースの種類一次情報で確認できた内容区分
人研究拠点AWS Center for Quantum Computing(Caltechの隣、2019年12月に設立を発表)。人員数は非公表。AWSの量子ハードウェア責任者は Oskar Painter 氏(AWS director of Quantum Hardware)、Braketの責任者は Eric Kessler 氏(General Manager of Amazon Braket)と公式資料に記載事実/人数は非公表
金量子向けの研究開発費・設備投資は非公表(10-Kに記載なし)非公表
外部への出資・買収・合弁・売却確認した公式資料の範囲では、量子企業への出資・買収・合弁・売却は確認できなかった。QuEraの発表は「AWSとの長年の協力関係」に触れるが、出資の記載ではない確認できず
大学・研究機関・公的資金との連携Caltechの隣に拠点を置く(Nature論文の謝辞にもCaltechの研究者が登場)。研究者向けのAWS Cloud Credits for Research(Braketの利用クレジット)。JPMorganChaseとの共同研究。政府の補助金や公的資金の記載は確認できなかった事実/公的資金は確認できず

主要なデバイス・製品の状況

AWSが自社で作った量子チップはOcelot(試作品)だけです。Braketで使える装置は他社製で、数字は各社の装置の公称値ではなく、AWSの公式ページに書かれている範囲です。方式の違う装置の数字を並べて優劣をつけることはしません(確認日 2026年10月16日)。

デバイス方式量子ビット数(物理/AWS公式で確認できた範囲)代表的な誤り率段階・日付出典
Ocelot(AWS自社)超伝導(cat qubit)14の部品=データ用cat qubit 5個+安定化用バッファ回路5個+誤り検出用の量子ビット4個。論理量子ビット数は「論理メモリ」1つ(誤り訂正の実験、下記)Nature論文:1サイクルあたりの論理誤り 最小1.65(3)%(距離5の繰り返し符号)、1.75(2)%(距離3)。位相反転の訂正のみを行う「メモリ」の値試作品(2025年2月発表)。Braketでの提供の記載なし出典5・6
IBEX Q1(AQT)イオントラップ(全結合)12AWSの該当ページに記載なしBraketで提供(2025年11月20日)出典11
Cepheus-1-108Q(Rigetti)超伝導(9量子ビットのチップ12個を接続)108AWSの該当ページに記載なしBraketで提供(2026年4月7日)出典10
Aquila(QuEra)中性原子(アナログ方式)256AWSの該当ページに記載なしBraketで提供(2022年に共同で開始)出典14
Forte-1/Forte-Enterprise-1(IonQ)、Garnet/Emerald(IQM)、Ankaa-3(Rigetti)イオン/超伝導/超伝導確認できなかった(本稿が読んだAWSのページに数の記載なし)確認できなかったBraketの対応装置一覧に掲載出典8
Libra(QuEraの耐障害機)中性原子数百の論理量子ビット(目標)。約100万回の量子演算(Megaquop)論理誤り率は本稿が読んだAWSのページに記載なし計画(2028年までにBraketへ。会社の目標)出典14

Ocelotの「論理誤り率」は、実用の計算の誤り率ではありません。Ocelotの論文は、5個のcat qubitを並べた繰り返し符号で、「データを保存しているだけの論理メモリ」を作り、1サイクル(約2.8マイクロ秒)あたりの論理誤りを測ったものです。繰り返し符号は2種類ある誤りのうち一方(位相反転)だけを訂正する符号で、もう一方(ビット反転)はcat qubit自身が抑えます。論文自身も、この符号には「厳密な意味でのしきい値(符号を大きくするほど誤りが減る境目)」はないと明記しています 事実。

6. これまでの取り組み

時期できごと意味
2019年12月2日Amazon Braket(プレビュー)と AWS Center for Quantum Computing(Caltechの隣)の設立を発表「他社機を借りる窓口」と「自社の基礎研究」を最初から並行して始めた
2020年Braketの提供開始(AWSの公式ブログに「2020年に開始」と記載)クラウドから量子コンピュータを使う入り口ができる
2022年QuEraと共同で、256量子ビットのアナログ型中性原子の装置Aquilaを提供方式の違う装置をBraketに載せる流れ
2025年2月自社の量子チップOcelotを発表。Nature論文は2025年2月26日に公開。AWSは「誤り訂正のコストを最大90%減らせる可能性」と試算(AWS自身の見積もり)誤り訂正を最初から組み込んだ設計。ただし試作品
2025年11月CUDA-QをBraketのノートブックで標準利用可能に(11月10日)。AQTのIBEX Q1を追加(11月20日)NVIDIAのソフトと、新しいイオントラップ機を追加
2025年12月10日BraketがQiskit 2.0に対応量子プログラミングの代表的なソフトとの接続を強化
2026年4月7日RigettiのCepheus-1-108Q(108量子ビット)をBraketに追加Braketで使える初の100量子ビット超の超伝導機
2026年6月15日QuEraとの協力を拡大し、耐障害機Libraを2028年までにBraketへ提供する目標を発表量子コンピュータを「計算の標準メニューの1つ」にする方針を明言
2026年8月5日JPMorganChaseとの共同研究の成果(金融の最適化問題)を公開研究成果の数値は両社自身のもの(独立検証は確認できず)

7. 今後の計画

QuEraのLibra2028年までに
Braketへ(目標)
約100万回の量子演算・数百の論理量子ビット。初期は限定容量
自社チップOcelot次の段階は
公式資料に記載なし
「まだ何段階ものスケールアップが必要」とAWSは説明
Braketの装置追加随時2025〜2026年に3社の装置を追加(実績)
具体的な事業規模の計画確認できなかった売上・投資の計画は見つからず
確認できなかったこと

次はいずれも、確認した公式資料に記載がありません 未確定/将来。

Ocelotの次世代チップの時期・量子ビット数/OcelotをBraketで提供する計画/量子関連の売上・投資額・人員/LibraをBraketで提供するときの価格や利用条件。Libraの「2028年」「数百の論理量子ビット」「約100万回の量子演算」はAWSとQuEraの目標であり、実現済みの性能ではありません。

8. この会社は量子コンピュータで何を目指しているか

会社が直接述べている部分と、本稿が読み取った推測を分けて書きます。

読み取れること根拠となる一次情報区分
量子プロセッサを、将来はCPU・GPUと並ぶAWSの計算メニューの1つにしたいAWSのブログが「量子プロセッサがAWSの計算の品ぞろえに自然に加わる姿を思い描く」と明言(出典14)事実
方式を1つに絞らない同ブログが「量子コンピュータは勝者総取りの技術ではない」とし、イオン・超伝導・Rydberg原子の長所短所の違いを説明(出典14)事実
自社の超伝導(Ocelot)と、他社の中性原子は補い合うと位置づけている同ブログが「Ocelotはリュードベリ原子と深く補完的」と記述(出典14)事実
当面の収益の中心は、自社チップではなくBraketの利用自社チップの提供計画の記載はなく、Braketは他社機の提供。ただし量子の売上は非公表のため検証できない(出典1・3・5)推測
早期の顧客は、金融・化学などの共同研究型AWSが「すぐ使える道はなく、早期の利用者はハードとソフトの専門家と一緒に作り込む必要がある」と説明し、JPMorganChaseとの共同研究を公開(出典14・15)事実(顧客像の解釈は推測)
自社チップは「差別化の種」として長期で育てるPainter氏が「基礎研究に投資し続ける」と述べ、AWSが「Ocelotは試作品」と明記(出典5)推測
推測の根拠を1つだけ詳しく:「貸す」と「作る」を同時にやる理由

AWSは、他社機を借りる窓口(Braket)を2019年から運営しながら、自社チップの研究拠点も同じ年に作りました。この進め方を、AWS自身は別の事業の歩みになぞらえています。AWSはOcelotの取り組みを、自社CPU「Graviton」が、長年のx86サーバーの運用経験を土台に育った歩みになぞらえて説明しています 事実。

ここから、窓口で顧客と需要を知りながら、自社チップで将来の中身を握る道を残していると読むのが自然だと本稿は考えます 推測。ただし、自社チップがBraketの提供装置に加わるかどうかは、公式資料に記載がなく、現時点では分かりません 未確定/将来。

9. 量子コンピュータ分野の提携マッピング

AWSを中心とした量子コンピュータの提携関係 AWSの公式資料と相手企業の発表に記載がある関係のみ。確認日 2026年10月16日 共同開発・共同研究 Braketでの提供・ソフトの連携 AWS Braket+自社研究 Caltech(隣接) 自社研究拠点の立地 QuEra Computing Aquila(2022)・Libra(目標) JPMorganChase 金融の最適化の共同研究 IonQ・AQT イオントラップ機をBraketで提供 IQM・Rigetti 超伝導機をBraketで提供 NVIDIA(CUDA-Q) Braketのノートブックに統合
図2 AWSを中心とした量子コンピュータ分野の提携関係。出典:AWSの公式ブログ・What’s New・製品ページ、QuEraの発表(出典3・8・10・11・12・14・15・16)。QuEraとはAquila(2022年)に加え、耐障害機Libra(2028年までの目標)を計画しています。IonQ・AQT・IQM・Rigettiはいずれも「Braketで利用できる」関係で、AWSがこれらの会社に出資しているという記載は確認できませんでした。報道のみの関係は含めていません。

10. 提供している技術・製品・サービス

AWSが量子コンピュータで担う「クラウドの窓口」と「自社の基礎研究」の概念図(AI生成による概念図。実際の設備や製品を写したものではありません)。
図3 概念画像(ImageGen生成)。AWSが量子コンピュータで担う「クラウドの窓口」と「自社の基礎研究」の概念図(AI生成による概念図。実際の設備や製品を写したものではありません)。 実際の製品・施設・寸法・測定結果ではありません。拡大模型と実物スケールの場面は区別してください。

AWSの量子の提供物は、Braket(他社機を使う窓口)とOcelot(自社の研究)の2本立てです。まず最初の図解でBraketの仕組みを、次の図解でOcelotの構造を見ます。

Amazon Braketの仕組み:1つの窓口から、方式の違う装置を使う AWSの公式ページの説明を、本稿が簡略化した図(装置は各社のもの) 利用者 研究者・開発者 Qiskit・PennyLane CUDA-Qなどで記述 Amazon Braket 共通のSDKで 装置・シミュレータを選ぶ (AWSのクラウド) 超伝導 IQM・Rigetti イオントラップ IonQ・AQT 中性原子(アナログ) QuEra ・同じプログラムの書き方で、方式の違う装置を試し比べられる ・実機の代わりに、模擬するシミュレータも選べる ・装置の持ち主・運用は各社(AWSの自社チップは含まれない)
図解 Amazon Braketの仕組みの概念図。Braketが対応する装置の一覧は、AWSの開発者ガイド(出典8)に基づきます(確認日 2026年10月16日)。ここで挙げた会社は代表例で、全装置の名前は表に載せています。方式の違う装置は性能の測り方が異なるため、本稿は優劣をつけません。
Ocelot(試作チップ)の構成と、2種類の誤りへの対処 AWSの公式の説明とNature論文の内容を、本稿が簡略化した模式図(実際の配置ではない) データを保つ量子ビット(cat qubit)5個 誤り検出用の量子ビット 4個 安定化用バッファ回路 5個 量子ビットの誤りには2種類あります ・ビット反転(0と1が入れ替わる):cat qubitの性質が、起きにくくなるよう抑える ・位相反転(重ね合わせの符号がずれる):5個を並べた繰り返し符号と検出用の量子ビットで見つけて直す → 全部を符号で直す方式より、必要な量子ビットが少なくて済む、というのがAWSの狙い
図解 Ocelotの構成の模式図。14の部品(データ用cat qubit 5個、安定化用バッファ回路5個、誤り検出用の量子ビット4個)という構成はAWSの公式説明(出典5)、「ビット反転はcat qubitが抑え、位相反転を繰り返し符号で訂正する」という仕組みはNature論文(出典6)に基づきます。「誤り訂正のコストを最大90%減らせる」はAWS自身の試算で、実際の大規模機で確かめられた値ではありません 未確定/将来。
素材技術者の視点:Ocelotの「タンタルの薄膜」と、2枚重ねのシリコンチップ

AWSの説明では、Ocelotは面積およそ1 cm²のシリコンのマイクロチップ2枚を上下に貼り合わせて電気的につないだ構造です。それぞれのチップの表面には、量子回路を作る超伝導材料の薄い層が載っています 事実。

cat qubitの心臓部は「共振器(決まった周波数で振動する小さな回路)」で、その共振器にはタンタルの薄膜が使われ、AWSの材料科学者が「シリコンの上でタンタルを加工する独自の方法」を開発して性能を上げたと説明されています 事実。材料の面から言えば、量子ビットが情報を保てる時間(寿命)は、薄膜の中や表面の損失(欠陥・酸化物など)に左右されます。Nature論文には、データを保持する共振器の平均の寿命が、エネルギー緩和でおよそ60マイクロ秒超、位相の保持でおよそ80マイクロ秒超と記載されています 事実。

また、チップは「マイクロエレクトロニクス産業の工程を借りて、量産に向く形で作れる」とされています。ただし、量産できたという記載はなく、現時点では研究用の試作チップです。薄膜の作り方や基板の損失の詳しい話は、本シリーズの技術解説『超伝導量子ビット』『量子コンピュータの材料と製造』で扱っています。

11. この企業が抱えるリスク

リスク内容区分
量子の事業規模が外から検証できない売上・投資額・人員が非公表で、10-Kにも記載が見つからない。進捗はAWSの公式ブログやWhat’s Newでしか追えない事実
Braketは他社の装置に依存するBraketで使える装置はすべて他社製。各社の装置の追加・更新・提供地域は各社の事情に左右される(AQTは欧州のストックホルム、Rigettiは米国西部など、地域が装置ごとに異なる)事実
Ocelotは試作品で、できたのは「論理メモリ」まで論文の成果は、位相反転だけを訂正する繰り返し符号による論理メモリ。計算に必要な論理ゲートの実証ではない。論文自身が「厳密なしきい値はない」と述べている事実
AWSの試算(最大90%減)は実証前の見積もり「一般的な手法の10分の1の資源で済む可能性」はAWSの試算。大規模な機で確かめられてはいない未確定/将来
QuEraのLibra(2028年)はAWSとQuEraの目標数百の論理量子ビット・約100万回の量子演算は目標であり、初期の装置は「限定容量」と明記されている。QuEraの技術的な成否に左右される未確定/将来
共同研究の成果は両社自身の数字JPMorganChaseとの研究で示された「約80%縮小」「約89%の成功率」は、両社の研究者が自ら示した数字で、独立の検証は確認できなかった事実

12. 用語集

量子ビット(qubit)
量子コンピュータの情報の最小単位。0と1の重ね合わせという状態を取れる。
物理量子ビット/論理量子ビット
物理量子ビットは実際のチップ上の量子ビット。論理量子ビットは、多数の物理量子ビットを誤り訂正でまとめて作る、丈夫な「仮想の」量子ビット。
cat qubit(猫量子ビット)
共振器の2つの光(マイクロ波)の状態の重ね合わせを量子ビットにしたもの。ビット反転が起きにくい設計にできる。
繰り返し符号
同じ情報を複数に分けて保存し、多数決のように間違いを直す、最も単純な誤り訂正の符号。
ビット反転/位相反転
量子ビットの2種類の誤り。0と1が入れ替わるのがビット反転、重ね合わせの符号がずれるのが位相反転。
QPU
Quantum Processing Unit。量子ビットを並べた量子チップ。
Amazon Braket
AWSの、量子コンピュータやシミュレータをクラウドから使うサービス。
アナログ型(Analog Hamiltonian Simulation)
量子ゲートを組み合わせず、装置を決まった物理モデルに従って動かして、その結果を読む方式。
Megaquop
約100万回(mega)の量子演算(quantum operations)の規模のこと。
Form 10-K/10-Q
米国上場企業がSECに出す年次報告書/四半期報告書。

13. 出典

  1. Amazon.com, Inc. Form 10-K for the fiscal year ended December 31, 2025(米国SEC提出、2026年2月6日)。全社・AWSセグメントの売上高と営業利益、従業員数、本社。「quantum」「Braket」の語は見つからなかった。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1018724/000101872426000004/amzn-20251231.htm
  2. Amazon.com, Inc. Form 10-Q for the quarterly period ended June 30, 2026(米国SEC提出、2026年7月31日)。直近の四半期報告書にも量子コンピューティングの記載は見つからなかった。 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1018724/000101872426000026/amzn-20260630.htm
  3. AWS Amazon Braket – Get Started with Quantum Computing(AWSニュースブログ、2019年12月2日)。Braket と AWS Center for Quantum Computing の発表。 https://aws.amazon.com/blogs/aws/amazon-braket-get-started-with-quantum-computing/
  4. AWS Introducing Amazon Braket, a service for exploring and evaluating quantum computing(What’s New、2019年12月2日)。プレビューとして提供開始。 https://aws.amazon.com/about-aws/whats-new/2019/12/introducing-amazon-braket/
  5. Amazon Amazon’s new Ocelot chip brings us closer to building a practical quantum computer(Amazon公式ニュース、2025年2月)。Ocelot の概要・構成・AWSの試算・「試作品」との位置づけ。 https://www.aboutamazon.com/news/aws/quantum-computing-aws-ocelot-chip
  6. Putterman ほか(AWS Center for Quantum Computing) Hardware-efficient quantum error correction via concatenated bosonic qubits, Nature 638, 927–934(2025年2月26日公開)。DOI 10.1038/s41586-025-08642-7。 https://www.nature.com/articles/s41586-025-08642-7
  7. AWS Amazon Braket(製品ページ)。提供される方式(超伝導・イオン・中性原子)と研究者向けクレジット。確認日 2026年10月16日。 https://aws.amazon.com/braket/
  8. AWS Amazon Braket supported regions and devices(開発者ガイド)。利用できる量子コンピュータの一覧。確認日 2026年10月16日。 https://docs.aws.amazon.com/braket/latest/developerguide/braket-devices.html
  9. AWS Amazon Braket Quantum Computers(製品ページ)。各社の量子コンピュータの方式の説明。確認日 2026年10月16日。 https://aws.amazon.com/braket/quantum-computers/
  10. AWS Amazon Braket adds support for Rigetti’s 108-qubit Cepheus QPU(What’s New、2026年4月7日)。 https://aws.amazon.com/about-aws/whats-new/2026/04/amazon-braket-rigetti-cepheus
  11. AWS Amazon Braket adds a new quantum processor from Alpine Quantum Technologies(What’s New、2025年11月20日)。IBEX Q1(12量子ビット、イオントラップ)。 https://aws.amazon.com/about-aws/whats-new/2025/11/amazon-braket-alpine-quantum-technologies/
  12. AWS Amazon Braket notebook instances now support CUDA-Q natively(What’s New、2025年11月10日)。 https://aws.amazon.com/about-aws/whats-new/2025/11/amazon-braket-notebook-instances-cuda-q-natively
  13. AWS Amazon Braket now supports Qiskit 2.0(What’s New、2025年12月10日)。 https://aws.amazon.com/about-aws/whats-new/2025/12/amazon-braket-qiskit-2-0
  14. AWS Quantum Technologies Blog AWS Deepens Strategic Collaboration with QuEra to Bring Fault-Tolerant Quantum Computing to Amazon Braket(Eric Kessler、2026年6月15日)。 https://aws.amazon.com/blogs/quantum-computing/aws-deepens-strategic-collaboration-with-quera-to-bring-fault-tolerant-quantum-computing-to-amazon-braket/
  15. AWS Quantum Technologies Blog AWS and JPMorganChase collaborate to advance quantum computing R&D(2026年8月5日)。 https://aws.amazon.com/blogs/quantum-computing/aws-and-jpmorganchase-collaborate-to-advance-quantum-computing-rd/
  16. QuEra Computing QuEra Expands $230 Million Financing Round(プレスリリース、2025年9月9日)。AWSとの長年の協力関係への言及。 https://www.quera.com/press-releases/quera-expands-230-million-financing-round-advancing-quantum-accelerated-supercomputing
  17. NVIDIA NVIDIA CUDA-Q(開発者向け公式ページ)。CUDA-Q が Braket などのクラウドで使えるという記載。確認日 2026年10月16日。 https://developer.nvidia.com/cuda-q

14. 主張と出典の対応表

本文の主張区分出典
Amazon全社・AWSセグメントの売上高と営業利益(2023〜2025年)、従業員約1,576,000人、本社、上場市場事実出典1 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1018724/000101872426000004/amzn-20251231.htm
AWSの売上が全社の約18.0%(128,725÷716,924)本稿の計算本稿の計算(出典1の数字から算出)
10-K・10-Qに「quantum」「Braket」の語が見つからなかったこと事実本稿の本文検索の結果 / 出典1・2 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1018724/000101872426000004/amzn-20251231.htm https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1018724/000101872426000026/amzn-20260630.htm
量子に関する売上・研究開発費・設備投資・専任人員が非公表であること未確定/将来いずれも非公表。本稿では推計もしない
Braketの発表(2019年12月2日、プレビュー)とAWS Center for Quantum Computing(Caltechの隣)の設立発表事実出典3・4 https://aws.amazon.com/blogs/aws/amazon-braket-get-started-with-quantum-computing/ https://aws.amazon.com/about-aws/whats-new/2019/12/introducing-amazon-braket/
Braketが2020年に開始されたこと、Aquilaを2022年にQuEraと共同で提供したこと事実出典14 https://aws.amazon.com/blogs/quantum-computing/aws-deepens-strategic-collaboration-with-quera-to-bring-fault-tolerant-quantum-computing-to-amazon-braket/
Ocelotの発表、14の部品(cat qubit 5・バッファ5・検出用4)、シリコンチップ2枚、タンタル薄膜、「試作品」の位置づけ事実出典5 https://www.aboutamazon.com/news/aws/quantum-computing-aws-ocelot-chip
Ocelotの「誤り訂正のコストを最大90%減らせる」というAWSの試算(実証前の見積もり)未確定/将来AWSの見積もり / 出典5 https://www.aboutamazon.com/news/aws/quantum-computing-aws-ocelot-chip
Nature論文:距離5の繰り返し符号、1サイクルあたりの論理誤り1.65(3)%・1.75(2)%、位相反転のみ訂正、厳密なしきい値はない、共振器の寿命の値事実出典6 https://www.nature.com/articles/s41586-025-08642-7
Braketが提供する方式(超伝導・イオン・中性原子)と研究者向けクレジット事実出典7 https://aws.amazon.com/braket/
Braketの対応装置の一覧(AQT・IonQ・IQM・QuEra・Rigetti)とリージョン事実出典8・9 https://docs.aws.amazon.com/braket/latest/developerguide/braket-devices.html https://aws.amazon.com/braket/quantum-computers/
Cepheus-1-108Q(108量子ビット、2026年4月7日)/AQT IBEX Q1(12量子ビット、2025年11月20日)事実出典10・11 https://aws.amazon.com/about-aws/whats-new/2026/04/amazon-braket-rigetti-cepheus https://aws.amazon.com/about-aws/whats-new/2025/11/amazon-braket-alpine-quantum-technologies/
BraketのCUDA-Q対応(2025年11月10日)とQiskit 2.0対応(2025年12月10日)、NVIDIAのCUDA-Q公式ページの記載事実出典12・13・17 https://aws.amazon.com/about-aws/whats-new/2025/11/amazon-braket-notebook-instances-cuda-q-natively https://aws.amazon.com/about-aws/whats-new/2025/12/amazon-braket-qiskit-2-0 https://developer.nvidia.com/cuda-q
QuEraとの協力拡大とLibra(2028年までの目標、数百の論理量子ビット、約100万回の量子演算、初期は限定容量)未確定/将来AWSとQuEraの目標 / 出典14 https://aws.amazon.com/blogs/quantum-computing/aws-deepens-strategic-collaboration-with-quera-to-bring-fault-tolerant-quantum-computing-to-amazon-braket/
JPMorganChaseとの共同研究(2026年8月5日)と、「約80%縮小」「約89%」という数字事実両社自身の数字 / 出典15 https://aws.amazon.com/blogs/quantum-computing/aws-and-jpmorganchase-collaborate-to-advance-quantum-computing-rd/
QuEraの発表にAWSとの協力関係への言及があること(出資の記載ではない)事実出典16 https://www.quera.com/press-releases/quera-expands-230-million-financing-round-advancing-quantum-accelerated-supercomputing
量子の会社を4類型に分ける整理本稿の計算本稿による整理。企業名は本シリーズで扱う企業から例示
量子企業への出資・買収・合弁・売却、公的資金が確認できなかったこと未確定/将来確認した公式資料に記載なし。本稿では存在しないとも断定しない
Ocelotの次世代・Braketでの提供計画、量子の事業計画未確定/将来確認できなかった。本稿では推計しない
「当面の収益の中心は自社チップではなくBraketの利用」という読み推測本稿の解釈 / 出典1・3・5 https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1018724/000101872426000004/amzn-20251231.htm https://aws.amazon.com/blogs/aws/amazon-braket-get-started-with-quantum-computing/ https://www.aboutamazon.com/news/aws/quantum-computing-aws-ocelot-chip
「早期の顧客は金融・化学などの共同研究型」という顧客像の読み推測本稿の解釈 / 出典14・15 https://aws.amazon.com/blogs/quantum-computing/aws-deepens-strategic-collaboration-with-quera-to-bring-fault-tolerant-quantum-computing-to-amazon-braket/ https://aws.amazon.com/blogs/quantum-computing/aws-and-jpmorganchase-collaborate-to-advance-quantum-computing-rd/
「自社チップは差別化の種として長期で育てる」という読み推測本稿の解釈 / 出典5 https://www.aboutamazon.com/news/aws/quantum-computing-aws-ocelot-chip
「窓口で需要を知りながら自社チップで将来の中身を握る道を残している」という読み推測本稿の解釈 / 出典3・5 https://aws.amazon.com/blogs/aws/amazon-braket-get-started-with-quantum-computing/ https://www.aboutamazon.com/news/aws/quantum-computing-aws-ocelot-chip

最終更新:2026年10月16日/Troy Technical
本稿の数値はすべて、Amazon.com, Inc.が米国証券取引委員会(SEC)に提出した法定開示書類と、AWSの公式資料・査読論文に基づきます。調査会社の推計値・報道ベースの数値は使用していません。「推測」と記した箇所は、一次情報から本稿が読み取った解釈であり、会社の公表内容ではありません。装置の数字は各社の公称値またはAWSの記載で、方式の違う装置の優劣を示すものではありません。確認日は2026年10月16日です。

図版更新:2026年10月17日。本文・出典整理表のベクター作図という表記は、保存した元SVGの由来を示します。現在の主図の形式と読み方は各図下の説明を参照してください。ImageGen画像は実測や実在製品の写真ではなく、元SVG・数値・出典は展開して確認できます。