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変換効率と評価指標|ペロブスカイト太陽電池 技術解説

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TECHNOLOGY EXPLAINER

変換効率と評価指標
― 「何%」の前に、どう測ったかを読む

ペロブスカイト太陽電池の効率は、測り方によって数字が変わります。 電圧を上げながら測るか下げながら測るかで値がずれ(ヒステリシス)、ゆっくり応答するセルでは、 研究室ごとのばらつきがシリコンの対照セルの約10倍になった比較試験もあります。 この記事では、PCE・Voc・Jsc・FF・EQE・MPPT、安定化出力、認証測定を、素材技術者の目線で整理します。

構成:IECの規格(IEC webstoreの公開要約)、査読論文、認定校正機関(Fraunhofer ISE、産総研、JET)の公式ページを一次情報として使用/最終更新 2026年9月

暗い背景の中、無地の黒い板にあけた四角い開口を通して、下の小さな暗色の板に均一な光が当たっている概念イメージ
概念図(AI生成イメージ)。「決められた面積に、決められた光を当てて測る」という効率測定の考え方を雰囲気として表現したものです。実在の測定装置・マスク・セルを示すものではありません。
この記事の構成
  1. 変換効率とは何か(3行でつかむ)
  2. 電流-電圧曲線の読み方 ― Voc・Jsc・FF・PCE
  3. 本稿の計算:3つの数字を掛けると効率になる
  4. EQE(外部量子効率)― 波長ごとの成績表
  5. ヒステリシス ― 走査の向きで効率が変わる
  6. 素材技術者の視点①:ヒステリシスは「材料の応答の遅さ」の表れ
  7. 安定化出力とMPPT ― 止まったときの値を測る
  8. 研究室ごとに数字が違う ― 比較試験の結果
  9. 認証測定 ― 誰が、何に基づいて測るのか
  10. 素材技術者の視点②:面積の測り方1つで効率が変わる
  11. 規格の現在地
  12. 課題と、本稿で確認できなかったこと
  13. 用語集/参考資料/出典対応表
本記事の表記ルール

事実=公表資料・査読論文・規格の公開要約に記載のある内容(出典リンクあり)
本稿の計算=明示した前提をもとに本記事が算出した値
未確定/将来=計画・目標・見通しであり、実績が確認できていない事項
このほか、構造の整理や材料・評価上の読み取りは「解説」として区別しています。 規格の本文は有料のため、本記事ではIEC webstoreに公開されている名称と範囲の記載にとどめています。

1. 変換効率とは何か(3行でつかむ)

  • 定義:変換効率(PCE)は、デバイスが出せる最大の電力を、入ってくる光の電力で割った比です。Dunbarらの論文は、効率を「デバイスの最大出力を入力パワーで割った比」と書いています事実
  • 条件をそろえる:太陽電池の性能は放射照度・温度・スペクトル・入射角で変わるため、標準試験条件(STC)——デバイス温度25 ℃、AM1.5Gと呼ばれる基準スペクトル、全放射照度1,000 W/m²——で報告する慣行があります事実
  • ペロブスカイト特有の難しさ:IECの技術報告書(IEC TR 63228:2019)は、ペロブスカイトなどの新しい太陽電池が、シリコンを前提につくられたIEC 60904シリーズでは正確に測りにくい理由として、性能の時間変化、特異な分光感度、小さな面積、外部刺激への過渡応答、光の干渉、照度に対する電流の非線形性などを挙げています事実
この記事でいちばん大事な一行

ペロブスカイトの効率を読むときは、数字より先に「セルかモジュールか」「面積」「認証の有無」「走査か安定化出力か」を確認してください。 CSIRO・NRELという2つの認定機関と8つの研究室で同じセルを測り比べた研究では、応答の遅いペロブスカイトセルの効率のばらつきが、 シリコンの対照セルの約10倍になり、その最大の原因は装置ではなく測定方法の選び方だったと報告されています事実。

2. 電流-電圧曲線の読み方 ― Voc・Jsc・FF・PCE

太陽電池の性能を表す中心の指標は、光を当てたときの電流-電圧(I-V)曲線です。 Dunbarらは、この曲線が電極間の電位差(電圧)の関数として、流れる電流と、それによって取り出せる電力を表すものだと説明しています事実。 面積で割った電流密度(J)で描いたものをJ-V曲線と呼びます。

J-V曲線の読み方(模式図) 横軸=電圧、縦軸=電流密度(光電流を正に取った表示)。曲線の形は模式 電圧 V 電流密度 J Jsc Voc 最大出力点 青い長方形の面積 = 最大出力 Pmax 4つの指標 Jsc:電圧0のときの電流密度 Voc:電流0のときの電圧 FF:青い長方形の面積 ÷   (Jsc × Voc の長方形) PCE = Voc × Jsc × FF ÷ 入射光 入射光はSTCで1,000 W/m² (=100 mW/cm²) FFは曲線の「角ばり具合」 ※ STC(25 ℃・AM1.5G・1,000 W/m²)は Dunbar ら[参考資料5]の記載によります。指標の定義は一般的なもので、本記事による整理です。 ※ 曲線・長方形の形は模式で、実際のデバイスの測定値ではありません。
図1 概念図(ベクター作図)。標準試験条件はDunbarら[参考資料5]の記載によります。曲線の形は模式的なもので、特定のデバイスの測定値ではありません。4つの指標の説明は、太陽電池の一般的な定義を本記事が整理したものです。
指標意味材料側で主に効くところ(本記事による整理)
Jsc(短絡電流密度)電圧をかけない状態で取り出せる電流。どれだけ光を吸収し、電荷を集められたかバンドギャップと光吸収、膜厚、反射・寄生吸収
Voc(開放電圧)電流を取り出さないときの電圧バンドギャップと、欠陥や界面での非発光再結合による損失
FF(フィルファクター)最大出力が、Jsc×Vocの長方形のどれだけを占めるか直列抵抗(電極・輸送層・界面)とシャント(短絡経路)
PCE(変換効率)最大出力 ÷ 入射光の電力上の3つの積

この表は太陽電池の一般的な定義と関係を本記事が整理した解説です。バンドギャップと組成は本シリーズ「バンドギャップと組成設計」編、界面での損失は「パッシベーション」編で扱います。

理論的な上限について、ShockleyとQueisserは1961年、放射再結合だけが起こる理想的なpn接合について「詳細平衡の限界効率」を計算し、 太陽と電池をそれぞれ6000 Kと300 Kの黒体とみなす仮定で、バンドギャップ1.1 eVのとき最大約30%になると示しました事実。 この考え方は、バンドギャップの異なる材料の効率の上限を考える出発点になっています(本記事による解説)。

3. 本稿の計算:3つの数字を掛けると効率になる

2026年にNatureに掲載された論文(配位子の立体電子的な設計による界面損失の低減)は、面積0.074 cm²のp-i-n構造のセルについて、 Voc 1.218 V、Jsc 26.13 mA/cm²、FF 86.69%を報告し、同じ条件のセルのPCEとして27.58%を挙げています事実。

本稿の計算:PCE = Voc × Jsc × FF ÷ 入射光

前提:入射光はSTCの1,000 W/m²(=100 mW/cm²)本稿の計算

  • 1.218 V × 26.13 mA/cm² × 0.8669 = 27.59 mW/cm²
  • 27.59 mW/cm² ÷ 100 mW/cm² = 約27.6%

論文が示すPCE(27.58%)と、丸めの範囲で一致します。 前提と限界:この値は論文内の測定(逆方向走査)にもとづくもので、同論文が第三者認証で得た値(第5章)とは別の数字です。

4. EQE(外部量子効率)― 波長ごとの成績表

外部量子効率(EQE)は、ある波長の光子が1個入ったときに、何個の電子を外部回路に取り出せたかの割合です。 波長ごとにEQEを測り、基準スペクトルの光子数と掛け合わせて積分すると、そのスペクトルでのJscを見積もれます(本記事による解説)。

  • Jscの検算として使われる:2026年のNature論文は、EQEから積分した電流がJ-V測定と一致した(差は3.2%未満)と記しています事実
  • 規格:JETは、太陽電池デバイスの分光感度特性の測定をIEC 60904-8に準拠して、ベアセル・ラミネートセル・モジュールに対応するとしています事実
  • 最初の報告から使われている:2009年、小島らがCH3NH3PbI3とCH3NH3PbBr3をTiO2の増感剤として使った最初の報告では、PbI3系のセルが3.8%、PbBr3系のセルがVoc 0.96 V、外部量子変換効率65%を示しています事実

5. ヒステリシス ― 走査の向きで効率が変わる

2014年、オックスフォード大学のSnaithらは、ペロブスカイト太陽電池の電流-電圧曲線に「異常なヒステリシス」があることを指摘しました。 電圧を上げながら測るか(順方向)、下げながら測るか(逆方向)で曲線が一致しない現象です。 同論文は、ヒステリシスを強めたり弱めたりする要因の例を示し、動作条件での「安定化出力」を示すことが有用で、走査から求めた効率と並べて示すべきだと提案しています事実。

走査の向きで曲線がずれる ― ヒステリシスと安定化出力 V J 逆方向(Voc→0 V) 順方向(0 V→Voc) 曲線の形は模式 2026年 Nature 論文の認証値(面積0.074 cm²) 逆方向走査 27.41% 安定化出力 26.85% 順方向走査 26.35% 同じセルでも、測り方で約1ポイントの差 棒は0%を左端とせず、差が見えるよう拡大して作図 ※ 認証値は中国計量科学研究院(NIM)の光起電計測ラボによる第三者認証として論文[参考資料7]に記載された値です。左の曲線は模式です。 ※ 棒の長さは値の差を強調するための作図で、効率に比例していません。
図2 概念図(ベクター作図)。右の3つの値は2026年のNature論文[参考資料7]が報告した第三者認証の値です。左の曲線は模式で、この論文の実測曲線ではありません。棒の長さは差を見やすくするための作図で、値に比例していません。

上の論文は、最良のセルを認定を受けた光起電計測ラボ(中国計量科学研究院 NIM)に送り、第三者認証で逆方向走査27.41%、安定化出力26.85%を得たとし、要旨には順方向走査26.35%も記しています事実。

本稿の計算:認証値から見たヒステリシスの大きさ

前提:ここでは「(逆方向の効率 − 順方向の効率)÷ 逆方向の効率」で比べる本稿の計算

  • 差:27.41 − 26.35 = 1.06ポイント
  • 比:1.06 ÷ 27.41 = 約3.9%
  • 安定化出力と逆方向走査の差:27.41 − 26.85 = 0.56ポイント

前提と限界:同論文は、社内測定のセルについて「ヒステリシス指数2.1%」と書いていますが、その定義は本稿では確認していません。 ヒステリシス指数の定義は論文ごとに異なることがあり、ここで出した3.9%は同論文の2.1%と比べる値ではありません。

6. 素材技術者の視点①:ヒステリシスは「材料の応答の遅さ」の表れ

素材技術者の読みどころ:ナノ秒から数時間まで、応答の時間が広すぎる

Dunbarらは、ペロブスカイト太陽電池の測定が難しい理由を、電圧の変化や試験条件(とくに周囲の条件からSTCへの移行)に対する複雑で動的な応答にあるとし、 主要な動的過程の時間の幅が、ナノ秒から秒、分、さらには時間にまで及ぶと書いています。 さらに、応答は膜のモルフォロジーやデバイス構造にも強く依存すると指摘しています事実。

比較のために、同論文は他の太陽電池についても整理しています事実。

  • 色素増感太陽電池:ミリ秒〜秒の応答のため、5秒以上(走査速度150 mV/s未満)の掃引が必要なことがある
  • CIGS・CdTe・アモルファスシリコン:速い走査で測れるが、長い準安定挙動があるため、測定前に光照射の前処理(プレコンディショニング)が必要
  • 高効率の結晶シリコン:容量が大きいため、100 ms以上の掃引が必要になることがある

つまり、ペロブスカイトの「測りにくさ」は、測定装置の問題ではなく材料の中で何かがゆっくり動いていることの表れです。 その「何か」の有力な候補がイオンの移動で、組成・粒界・界面の設計でヒステリシスの大きさが変わるということは、 ヒステリシスは材料開発の診断指標にもなるということです(本記事による解説)。 イオン移動と劣化の関係は、本シリーズ「イオン移動と劣化」編で詳しく扱います。

7. 安定化出力とMPPT ― 止まったときの値を測る

走査の向きで値が変わるなら、どう測ればよいのか。Dunbarらは、ペロブスカイトの効率測定に使われてきた方法を4つに整理しています事実。

効率の4つの測り方(Dunbar らの整理) 通常のI-V走査 MPPT 定電圧での安定化 ダイナミックI-V 一定の速さで電圧を掃引 速さ・向き・履歴で値が動く 負荷を少しずつ変えて 最大出力点を追い続ける 電圧を固定し、電流が 落ち着くまで測る 各電圧で電流が落ち着く まで待ち、曲線全体を得る ※ 4分類は Dunbar ら[参考資料5]によります。線は時間変化の模式で、実測値ではありません。 ※ NREL が用いる「Asymptotic Pmax」は、ダイナミックI-Vに当たる方法として同論文で紹介されています。 ※ 右の3つは、落ち着くまでの時間を測定側が決める「動的」な方法です。
図3 概念図(ベクター作図)。4つの方法の分類と説明はDunbarら[参考資料5]によります。線は各方法の考え方を示す模式で、実測データではありません。
  • MPPT(最大出力点追従):「摂動と観測」の方式などで負荷抵抗を更新し続け、安定した最大出力点を探す。同論文は、実際の発電システムのMPPTが天候の変化に追従するためのものであるのに対し、効率測定でのMPPTは変化しない条件のもとでゆっくり確立する定常の最大出力点を見つけるためのものだと注記しています事実
  • 定電圧での安定化電流(SCFV):ある電圧で電流が落ち着くまで測り続ける。電圧を最大出力点に正しく選べば定常の効率になる事実
  • ダイナミックI-V:通常の階段状の走査と同じだが、各電圧で電流が落ち着くまで保持する。最も信頼できる方法と考えられるとし、CSIROの実装では、直近4分間の電流変化率が毎分0.2%未満になるまで待ち、逆方向と順方向の1往復に3時間以上かかったと記しています事実

同論文は、開放状態で光を当ててから素早く走査する方法(OC soak)について、ヒステリシスが小さく見えても定常状態を反映しているとは言えず、電流を過大に見積もった例を示し、 文献でこれが「TEBBing(バイアスによる一時的な増強)」と呼ばれていることを紹介しています事実。 ヒステリシスがない=正しい値、ではないということです(本記事による解説)。

8. 研究室ごとに数字が違う ― 比較試験の結果

Dunbarらの比較試験(2016年4〜10月)では、PV性能測定の認定を受けた2機関(CSIRO、NREL)と8つの研究室が、同じ3種類のセル(応答の遅いペロブスカイトセルA、応答の速いペロブスカイトセルB、シリコンの対照セルC)を測りました事実。

セル同じ機関での繰り返し測定のばらつき(1σ)認定を受けていない研究室間のばらつき(1σ)
C:シリコン(対照)1%未満3.7%(順方向)・3.8%(逆方向)
B:応答の速いペロブスカイト3.2〜3.3%4.5〜4.9%
A:応答の遅いペロブスカイト6.4%(順方向)・1.3%(逆方向)34.8%・37.0%

すべて事実(Dunbar ほか 2017[参考資料5])。セルBの繰り返し測定のばらつきは、日単位の劣化によるものと考察されています。

同論文は、応答の遅いペロブスカイトセルでは、研究室間のばらつきが対照のシリコンセルの約10倍にもなりうるとし、 最大の原因は測定装置よりも測定方法の選択だったと結論しています。 そのうえで、セルの安定化と劣化のふるまいに応じて適切な方法を選ぶための推奨を示しています事実。

9. 認証測定 ― 誰が、何に基づいて測るのか

Dunbarらは、画期的な性能を独立に確かめるような最高精度が必要な場面では、国際規格(IEC 60904-1とASTM E948)に基づく技術能力について外部から認定を受けた試験機関に頼るのが慣行だと説明しています事実。

機関公式ページの記載
Fraunhofer ISE CalLab(ドイツ)CalLab PV Cellsは設立時から物理工学研究所(PTB)と緊密に協力し、2008年から校正機関として認定。CalLab PV Modulesは2015年3月24日、ドイツ認定機関(DAkkS)によりDIN EN ISO/IEC 17025:2005に基づく校正能力を確認された。国際的な機関間比較に定期的に参加。2026年6月時点で、認定試験による世界記録の認証は計152回
産業技術総合研究所(日本)太陽電池の性能測定の基準となる一次基準太陽電池セルの校正サービスを実施
電気安全環境研究所 JET(日本)IEC規格に基づき、ペロブスカイトを含む各種太陽電池デバイスの電気出力測定サービスを提供。一次基準太陽電池セルを用いてIEC 60904-2に準拠した二次基準セル・モジュールの校正を行う。分光感度測定はIEC 60904-8に準拠
CSIRO(豪)・NREL(米)Dunbarらの比較試験で「PV性能測定の認定を受けた機関」として参加
中国計量科学研究院 NIM(中国)2026年のNature論文が「認定を受けた光起電計測ラボ」として第三者認証を依頼

すべて事実(Fraunhofer ISE[参考資料8]、産総研[参考資料9]、JET[参考資料10]、Dunbar ら[参考資料5]、2026年Nature論文[参考資料7])。

「世界記録」「認証効率」の読み方

効率の最高記録は、NRELの「Best Research-Cell Efficiency Chart」や「Solar cell efficiency tables」で整理されています。後者の最新版(Version 68、Green ほか、Joule誌 10巻 102494、2026年)について、欧州委員会共同研究センター(JRC)の文献登録は「太陽電池セルとモジュールの、独立に確認された最高効率を広く一覧にした統合表」と説明しています事実。 経済産業省の「次世代型太陽電池戦略」(2024年11月)は、NRELのチャートを出典に、ペロブスカイトのセル発電効率が2024年11月現在で26.7%まで向上したと書いています事実。

本稿の作業環境からは、NRELのチャートと最新の効率表(Version 68)の本文にアクセスできなかったため、2026年9月時点の公式な最高記録は記載していません。 2026年には、単接合セルで27%を超える第三者認証値を報告する査読論文が複数あります(第5章のNature論文の27.41%〈逆方向走査〉、Nature Communications論文の定常効率27.12%など)事実。 ただし、これらが効率表に記録として掲載されているかどうかは確認できていません未確定/将来。

10. 素材技術者の視点②:面積の測り方1つで効率が変わる

暗い背景の中、無地のつや消しの黒い板にあけた小さな四角い開口の縁を、斜めからの光が照らしている拡大の概念イメージ
図4 概念図(AI生成イメージ)。光を当てる面積を決める「開口マスク」の縁を雰囲気として表現したものです。実在のマスク・装置・寸法を示すものではありません。
素材技術者の読みどころ:0.074 cm²のセルでは、縁の20 µmが効率の3%に効く

効率は「面積あたり」の値なので、面積の誤差はそのまま効率の誤差になります。 2026年のNature Communications論文は、黒い金属の開口マスクでデバイスの面積を定義し、 認証試験の際には認証機関が有効面積を測り直したと記しています事実。 IEC 60904-1:2020も、情報提供の附属書として面積測定や容量をもつデバイス、照度の空間的な不均一の影響を加えたとされています事実。

本稿の計算:面積0.074 cm²のセルを正方形とみなすと、一辺は約2.72 mm。マスクの開口が四辺ともに設計より20 µmずつ広かったとすると、面積は(2.72+0.04)² ÷ 2.72² で約3.0%大きくなります。 同じずれでも、開口面積655.2 cm²(一辺約256 mm)のモジュールでは約0.03%にとどまります本稿の計算。

前提と限界:面積の定義(マスクで決めるか、電極で決めるか)や光の回り込みの扱いは測定条件によって異なり、この計算は面積の誤差が効率に与える影響の桁を示すためのものです。

小さいセルほど、マスクの寸法精度・縁の形状・反射の少なさといった「治具の材料と加工精度」が効率の数字に直接入ってきます。 逆に、モジュールでは面積の誤差の影響は小さくなる代わりに、第2章の直列抵抗やシャントの影響が大きくなります(本記事による解説)。 同じ2026年の論文は、セルで認証27.12%(定常効率)、開口面積655.2 cm²のモジュールで認証22.25%を報告しています事実。 面積と効率の関係は、本シリーズ「ロールツーロールと大面積化」編で扱いました。

開口の縁のずれが、面積(=効率)に与える誤差(本稿の計算) 正方形の開口の四辺が、それぞれ外側に同じだけずれたと仮定 0.074 cm² のセル(一辺 約2.72 mm) 10 µm 約1.5% 20 µm 約3.0% 50 µm 約7.5% 655.2 cm² のモジュール(一辺 約256 mm) 20 µm 約0.03% ※ 面積 0.074 cm² は2026年の Nature 論文[参考資料7]、655.2 cm² は Nature Communications 論文[参考資料6]の記載です。 ※ 誤差の値は本記事が正方形と仮定して算出したもので、公表値ではありません。棒の長さは誤差に比例させています。 ※ 実際の面積の定義(マスクか電極か)や光の回り込みの扱いは、測定条件によって異なります。
図5 本稿の計算を含む作図(ベクター作図)。セルとモジュールの面積は2026年の論文[参考資料6・7]の記載によります。誤差の値は本記事が正方形の開口を仮定して算出したもので、公表値ではありません。

11. 規格の現在地

規格名称(IEC webstoreの記載)範囲の要約
IEC 60904-1:2020Measurement of photovoltaic current-voltage characteristics自然光または擬似太陽光のもとでのPVデバイスのI-V曲線の測定手順。単セル・セルの部分組立品・モジュールに適用。第3版で面積測定、容量をもつデバイス、暗I-V、照度の空間的不均一の附属書を追加
IEC 60904-3:2019Measurement principles for terrestrial PV solar devices with reference spectral irradiance dataPVデバイスの性能を共通の基準スペクトルに関係づけるための測定原理。基準スペクトルは、IEC 60904-9によるソーラシミュレータの分類に使われる
IEC 60904-9:2020Classification of solar simulator characteristicsソーラシミュレータをA+・A・B・Cに分類。基準は分光分布の一致度、試験面の照度不均一、照度の時間的不安定性。A+は第3版で新設
IEC TR 63228:2019Measurement protocols for photovoltaic devices based on organic, dye-sensitized or perovskite materials有機薄膜・色素増感・ペロブスカイトの性能評価の現状の見方をまとめた技術報告書。IEC 60904シリーズはシリコンを前提に開発されたため、これらのデバイスには測定上の課題があるとする

すべて事実(IEC webstoreの各規格ページ[参考資料11〜14])。規格の本文は有料のため、本記事では公開されている名称と範囲の要約の範囲にとどめています。ペロブスカイト専用の技術仕様(IEC TS 63624など)の公開情報は、本稿では確認できませんでした。

12. 課題と、本稿で確認できなかったこと

(1) 「効率」と「使える電力量」は別

IEC TR 63228の範囲の記載は、測定上の課題によって実験室での出力が、実際の用途で観察される出力と大きく異なりうるとしています事実。 STCでの効率は比較のための物差しであり、屋外での発電量は温度・照度・スペクトル・劣化で変わります。本シリーズ「屋外試験と耐久性評価」編で扱います。

(2) 最新の公式記録

第9章のとおり、NRELのチャートと最新の効率表の本文を本稿では確認できていません。 「世界記録」とうたう企業発表や報道を読むときは、認証機関名・面積・面積の定義・測定方法(走査か安定化出力か)が併記されているかを確認してください(本記事による解説)。

(3) ヒステリシス指数の定義

論文によってヒステリシス指数の定義が異なる場合があり、本稿では統一的な定義を示す一次情報を確認していません。

この記事のまとめ
  • 効率はSTC(25 ℃・AM1.5G・1,000 W/m²)で比べます事実
  • PCE = Voc × Jsc × FF ÷ 入射光。1.218 V × 26.13 mA/cm² × 86.69% で約27.6%になります本稿の計算
  • 同じセルでも、逆方向走査27.41%・安定化出力26.85%・順方向走査26.35%と、測り方で約1ポイント違います事実
  • 応答の遅いセルでは、研究室間のばらつきがシリコンの約10倍。主因は測定方法の選択です事実
  • 信頼できるのは、ISO/IEC 17025などで認定された機関の測定。Fraunhofer ISE、産総研、JET、NREL、CSIROなどがあります事実
  • 0.074 cm²のセルでは、マスクの縁が20 µmずれるだけで面積が約3%変わります本稿の計算

13. 用語集

PCE(変換効率)
最大出力 ÷ 入射光の電力。STCでの値で比べる。
Jsc(短絡電流密度)
電圧0で流れる、面積あたりの電流。
Voc(開放電圧)
電流0のときの電圧。
FF(フィルファクター)
最大出力 ÷(Jsc × Voc)。曲線の角ばり具合。
STC(標準試験条件)
デバイス温度25 ℃、AM1.5Gスペクトル、1,000 W/m²。
AM1.5G
地上の太陽光を模した基準スペクトル。IEC 60904-3に定められる。
EQE(外部量子効率)
入った光子1個あたり、外部に取り出せた電子の数の割合(波長ごと)。
ヒステリシス
電圧の走査の向きや速さでJ-V曲線がずれる現象。
安定化出力
最大出力点付近で、出力が落ち着いたときの値。
MPPT
最大出力点追従。負荷を調整して最大出力点を追い続ける方法。
ISO/IEC 17025
試験所・校正機関の能力に関する国際規格。認定の根拠になる。
一次基準太陽電池セル
放射照度の測定の基準になる、校正された太陽電池セル。

14. 参考資料(一次情報)

  1. Snaith HJ ほか「Anomalous Hysteresis in Perovskite Solar Cells」The Journal of Physical Chemistry Letters 5, 1511–1515 (2014) https://doi.org/10.1021/jz500113x
  2. Shockley W, Queisser HJ「Detailed Balance Limit of Efficiency of p-n Junction Solar Cells」Journal of Applied Physics 32, 510–519 (1961) https://doi.org/10.1063/1.1736034
  3. Kojima A, Teshima K, Shirai Y, Miyasaka T「Organometal Halide Perovskites as Visible-Light Sensitizers for Photovoltaic Cells」Journal of the American Chemical Society 131, 6050–6051 (2009) https://doi.org/10.1021/ja809598r
  4. 次世代型太陽電池の導入拡大及び産業競争力強化に向けた官民協議会(経済産業省)「次世代型太陽電池戦略」令和6年11月(PDF) https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/perovskite_solar_cell/pdf/20241128_1.pdf
  5. Dunbar RB ほか(CSIRO、NREL ほか)「How reliable are efficiency measurements of perovskite solar cells? The first inter-comparison, between two accredited and eight non-accredited laboratories」Journal of Materials Chemistry A 5, 22542–22558 (2017)(オープンアクセス版) https://eprints.qut.edu.au/112795/9/c7ta05609e.pdf
  6. Yang R, Ding J, Hou T ほか「Soft supermolecule stabilized buried interface for high-performance inverted perovskite solar cells and modules」Nature Communications 17, 8560 (2026)(PMC全文) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC13482877/
  7. Yang T, Zhao E, Wu N ほか「Stereoelectronic manipulation of ligands for perovskite solar cells」Nature 654, 660–667 (2026)(PMC全文) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC13275290/
  8. Fraunhofer ISE「CalLab PV Cells / CalLab PV Modules」公式ページ https://www.ise.fraunhofer.de/en/rd-infrastructure/accredited-labs/callab.html
  9. 産業技術総合研究所「提供サービス:AIST太陽光発電技術開発」 https://unit.aist.go.jp/rpd-envene/PV/ja/service/index.html
  10. 電気安全環境研究所(JET)「太陽電池デバイスの電気出力測定サービス(PV試験)」 https://www.jet.or.jp/renewable/photovoltaic/pv/
  11. IEC「IEC 60904-1:2020 Photovoltaic devices - Part 1: Measurement of photovoltaic current-voltage characteristics」IEC webstore https://webstore.iec.ch/en/publication/32004
  12. IEC「IEC 60904-3:2019 Photovoltaic devices - Part 3」IEC webstore https://webstore.iec.ch/en/publication/61084
  13. IEC「IEC 60904-9:2020 Photovoltaic devices - Part 9: Classification of solar simulator characteristics」IEC webstore https://webstore.iec.ch/en/publication/28973
  14. IEC「IEC TR 63228:2019 Measurement protocols for photovoltaic devices based on organic, dye-sensitized or perovskite materials」IEC webstore https://webstore.iec.ch/en/publication/64040
  15. 欧州委員会 共同研究センター(JRC)「Solar cell efficiency tables: Version 68」(Green MA, Dunlop ED, Yoshita M ほか、Cell Press、2026年7月31日)文献登録ページ https://publications.jrc.ec.europa.eu/repository/handle/JRC146451

15. 主張と出典の対応表(監査)

本文の主張根拠区分
ペロブスカイト太陽電池のI-V曲線に異常なヒステリシスがあり、要因の例を示したこと。動作条件での安定化出力を走査の効率と並べて示すことを提案したこと。著者の所属がオックスフォード大学であること出典1 https://doi.org/10.1021/jz500113x事実
放射再結合のみの理想pn接合の詳細平衡限界。太陽6000 K・電池300 Kの黒体とする仮定で、1.1 eVで最大約30%出典2 https://doi.org/10.1063/1.1736034事実
CH3NH3PbI3とCH3NH3PbBr3をTiO2の増感剤とし、PbI3系で3.8%、PbBr3系でVoc 0.96 V・外部量子変換効率65%出典3 https://doi.org/10.1021/ja809598r事実
NRELのチャートを出典に、ペロブスカイトのセル発電効率が2024年11月現在26.7%まで向上したとの記載出典4 https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/perovskite_solar_cell/pdf/20241128_1.pdf事実
効率の定義(最大出力÷入力パワー)。STC(25 ℃・AM1.5G・1,000 W/m²)。I-V曲線の説明。最高精度が必要な場合はIEC 60904-1とASTM E948に基づく認定機関に頼ること。応答の時間がナノ秒〜時間に及び、モルフォロジーと構造に依存すること。色素増感・CIGS・CdTe・a-Si・結晶シリコンとの比較。4つの測定方法(通常走査・MPPT・SCFV・ダイナミックI-V)と説明、効率測定のMPPTの目的の注記、ダイナミックI-Vが最も信頼できるとされCSIROで0.2%/分・4分・3時間超、NRELのAsymptotic Pmax。OC soakとTEBBing。比較試験の参加機関・期間・3種のセル、各ばらつきの値、約10倍、最大原因が方法の選択であること、推奨を示したこと出典5 https://eprints.qut.edu.au/112795/9/c7ta05609e.pdf事実
黒い金属の開口マスクで面積を定義し、認証時に認証機関が有効面積を測り直したこと。セルの認証定常効率27.12%、開口面積655.2 cm²のモジュールの認証22.25%出典6 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC13482877/事実
0.074 cm²のp-i-nセル、Voc 1.218 V・Jsc 26.13 mA/cm²・FF 86.69%、PCE 27.58%。社内測定のヒステリシス指数2.1%。NIMの光起電計測ラボによる第三者認証で逆方向27.41%・安定化出力26.85%、要旨に順方向26.35%。EQE積分電流とJ-Vの差3.2%未満出典7 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC13275290/事実
CalLab PV CellsがPTBと協力し2008年から校正機関として認定、CalLab PV Modulesが2015年3月24日にDAkkSからDIN EN ISO/IEC 17025:2005の校正能力を確認、国際比較への参加、2026年6月時点で世界記録認証152回出典8 https://www.ise.fraunhofer.de/en/rd-infrastructure/accredited-labs/callab.html事実
産総研が一次基準太陽電池セルの校正サービスを実施していること出典9 https://unit.aist.go.jp/rpd-envene/PV/ja/service/index.html事実
JETがIEC規格に基づきペロブスカイトを含む各種デバイスの電気出力測定を提供、一次基準セルでIEC 60904-2に準拠した校正、分光感度測定はIEC 60904-8準拠出典10 https://www.jet.or.jp/renewable/photovoltaic/pv/事実
IEC 60904-1:2020の範囲と第3版での附属書追加出典11 https://webstore.iec.ch/en/publication/32004事実
IEC 60904-3:2019の範囲(基準スペクトル、60904-9の分類に使われること)出典12 https://webstore.iec.ch/en/publication/61084事実
IEC 60904-9:2020でソーラシミュレータをA+・A・B・Cに分類、3つの基準、A+の新設出典13 https://webstore.iec.ch/en/publication/28973事実
IEC TR 63228:2019がOPV・DSC・PSCの性能評価の見方をまとめ、IEC 60904がシリコン前提で開発されたため課題(時間変化、分光感度、小面積と温度測定、過渡応答、光干渉、照度に対する非線形性)があり、実験室の出力が実用時と大きく異なりうるとすること出典14 https://webstore.iec.ch/en/publication/64040事実
Solar cell efficiency tables(Version 68)の書誌(Green・Dunlop・Yoshitaほか、Cell Press、2026年7月31日)と、独立に確認された最高効率の統合表であるという説明。掲載誌がJoule 10巻102494であること(Crossrefの書誌で確認)出典15 https://publications.jrc.ec.europa.eu/repository/handle/JRC146451事実
1.218×26.13×0.8669=27.59 mW/cm²で約27.6%。27.41−26.35=1.06ポイント、1.06÷27.41=約3.9%、27.41−26.85=0.56ポイント。0.074 cm²正方形の一辺約2.72 mm、四辺10・20・50 µm拡大で面積約1.5%・約3.0%・約7.5%増、655.2 cm²では20 µmで約0.03%本稿の計算。入射光100 mW/cm²、ヒステリシスの比の定義、正方形とみなすことは本稿の前提本稿の計算
2026年に報告された27%超の認証値が効率表に記録として掲載されているかどうか本稿の作業環境からNRELのチャートと効率表Version 68の本文にアクセスできず、確認できていない(解説)未確定/将来
2026年9月時点の公式な最高記録、IEC TS 63624などペロブスカイト専用技術仕様の公開情報、ヒステリシス指数の統一的定義、EQEの一般的な説明と材料側で効く要素の表確認できなかったため記載していない、または一般的な定義を本記事が整理した解説解説
ヒステリシスを材料の応答の遅さの表れ・診断指標とする読み取り。ヒステリシスがない=正しい値ではないという整理。小さいセルほど治具の材料と加工精度が効くという読み取り。記録の読み方の注意公表内容にもとづく本記事の整理・解説。各機関・著者が表明した見解ではない解説
図1・図2・図3・図5が実際の測定データではなく説明のための作図であること。ヒーロー画像と図4がAI生成イメージであること本記事による注記(解説)解説

最終更新:2026年9月25日/出典は一次情報(査読論文、IEC webstoreの規格ページ、認定校正機関の公式ページ、経済産業省の戦略文書、JRCの文献登録)に限定しています。 規格の本文は有料のため、名称と範囲の公開要約の範囲にとどめています。 NRELのチャートと最新の効率表(Version 68)の本文は本稿の作業環境からアクセスできず、2026年9月時点の公式な最高記録は記載していません。 本記事で紹介した効率は、面積・認証の有無・測定方法が異なり、互いに直接比較できるものではありません。 図はすべて説明用の概念図です。図1・図2・図3・図5はベクター作図、ヒーロー画像と図4はAI生成イメージであり、いずれも実際の測定装置・測定データを示すものではありません。